フォト
2023年12月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            
無料ブログはココログ

« 杉本信行元上海総領事死去 | トップページ | 妥協の哲学と美学 »

2006年8月 9日 (水)

労働経済白書

8日、労働経済白書が発表されました。7月18日のエントリーで読売のリーク記事をちょっと引用しましたが、実物を見ると、今時ならぬ流行中の偽装請負の問題から始まって、若年非正規労働者の職業能力や所得格差の問題を中心に分析し、最後の節では日本型雇用システムの展望にも説き及ぶという大変な意欲作です。

http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/06/index.html

 労働経済白書の執筆責任者は政策統括官付きの労働経済調査官なのですが、今年の白書の担当者は石水善夫氏。もちろん旧労働省出身の官庁エコノミストですが、1999年に『現代雇用政策の論理』でデビューし、2002年には『市場中心主義への挑戦』を出した労働問題の論客でもあります。経済産業研究所のコンサルティングフェローもしています。

 『論理』のオビには「日本型雇用慣行は今や世界で通用しないとする規制緩和論と結びつく雇用流動化論は、雇用の現実から遊離した政策論であり、その問題点を歴史的・実証的に究明した問題作」とあります。彼の思想がよく出ているものとして、連合総研での講演の記録を挙げておきます。

http://www.rengo-soken.or.jp/dio/no163/hokoku.htm

 職場内請負の実態や、若年非正規労働者に職業能力開発機会が少なく、キャリア形成から排除されていること、世帯内にとどまり年齢とともに格差が拡大していくため、年金にも加入せず将来の生活保護受給者を拡大し、また家族形成力を低下させて少子化に寄与している、等々といった分析は、既に新聞等でも詳しく紹介されているので、あとは上のリンクから実物を読んでくださいということにしておきます。

 私にとって興味深かったのは、こういう格差論に対しては、往々にして過激なリベラリズムといいますか、みんな正規労働者の既得権が悪いんや、こいつ等全部たたきのめして平べったくしてまえ、みたいな威勢のいい議論が受け狙いで流行りがちになるんですね、そして気がついたらネオリベの別働隊になっていたというのが今までのリベラル坊やの軌跡であるわけですが、そこはきちんと、長期雇用で人材育成を図る日本型雇用システムの長所を維持しながら、能力評価システムを改善していくことによって、勤続の価値が適切に賃金制度に評価されるとともに、中途採用者の賃金も適切に格付けされうるだろうという展望を示しています。このブログでも何回も繰り返して書いてきた論点ですが、職業能力という観点の抜け落ちた議論はアカンのです。本白書の最後のところが実に見事に要約しているので、ちょっと引用しておきます。

「職業能力開発の機会が十分でない非正規雇用については、非正規雇用の労働者が意欲をもって活躍することができ、企業としてもより戦略的に人材を活用していくことができるよう、職業能力開発機会の提供に積極的に取組むことが重要である。その際、企業の中での非正規雇用の人材活用がかなり進展してきていることを踏まえ、長期雇用システムのもとで培われた人材育成機能を、非正規雇用にまで拡張していくことが望まれる。また、派遣労働者や請負労働者が増加しているが、今後、人材確保が難しくなる中で、労働者派遣事業者や請負事業者においては、そこで就労することによる能力向上やその能力の他分野への活用可能性など、労働者にとっての魅力づくりがより一層重要となろう。さらに、このような望ましい方向性を目指していくため、公正な市場の競争条件の整備を通じて、賃金コストの削減のみを目的とするような企業行動を是正していくとともに、職業能力開発に取り組む事業者を積極的に支援していくことも求められよう。」(241頁)

« 杉本信行元上海総領事死去 | トップページ | 妥協の哲学と美学 »

コメント


>長期雇用システムのもとで培われた人材
>育成機能を、非正規雇用にまで拡張して
>いくことが望まれる。

雇用の流動化だけが急激に進むと、長期
雇用者に対して培われてきた教育機能が
移転されずに腐ってしまう、という問題
ですね。結局は移行プロセスの問題とは
言え、大きな問題と思います。

企業内でのみ通用するような能力開発に
関しては、企業は能力開発へのインセン
ティブを今後も失わないでしょう。日本
型雇用慣行に限らない話ですから。

問題は、そうではない能力に関してです。
これは、本来、個々の企業が担う必要の
ないものなのですが、日本型雇用慣行の
中で、今までは企業が主に長期雇用者に
対して行ってきた、という経緯があり、
それが外部(←いろいろな意味で。)に
移転されない内に、雇用の流動化だけが
進展しているというのが困った現状なん
でしょうね。ネオリベ別働隊wが問題に
する正規雇用者への所得移転だけでなく、
こういったことも、ワーキング・プアの
背景になる訳です。

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 労働経済白書:

» [雇用] 労働経済白書−若年者の職業能力開発の必要性 [namiメモ]
EU労働法政策雑記帳で今年の労働経済白書を紹介していますが、執筆者の思想は日本型雇用慣行は今や世界で通用しないとする規制緩和論と結びつく雇用流動化論は、雇用の現実から遊離した政策論であり、その問題点を歴史的・実証的に究明だそうです。 雇用問題なんて需要と供... [続きを読む]

« 杉本信行元上海総領事死去 | トップページ | 妥協の哲学と美学 »