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2006年8月 9日 (水)

妥協の哲学と美学

 旧労働省の役人はときどき自嘲気味に「足して二で割る労働省」なんてなことを申しておりましたが、足して二で割れば妥協が成り立つのであれば、こんな簡単なことはないわけで、技能も熟練もありはしない。本当はそんな単純なものではないのですよ、ということです。

 大体、何事でも、対立する両者間には複数の論点があるものです。この論点ではこう、その論点ではそうという風に、いくつもの妥協案を組み合わせることになるわけですが、さて、そこで単純にこっちでなんぼ、そっちでなんぼと単純な算術で計算すればいいというものではありません。実は、世の中では論点ごとに各プレイヤーの主観的重み付けが異なることが多いのです。使用者側にとってはこの論点が重要で、その論点はそれほどではないが、労働側にとってはその論点の方が大事で、この論点はそれほどでもないという風な、主観のずれが常に発生します。そこをうまくイクスプロイットするのが妥協屋の腕の見せ所ということになります。

 Aが主観的により重要と考える論点ではAにやや有利な妥協案とし、Bが主観的により重要と考える論点ではBにやや有利な妥協案として、両者を結合すると、客観的にはA,Bいずれにとっても五分五分の妥協案でありながら、主観的にはA,Bいずれも自分の方にやや有利な妥協案であると認識するという事態が発生しうるのですね。これはとりわけ、後ろに応援団というか「やれやれ、いてまえ」と叫んでいる連中を控えた交渉においては極めて重要なことです。こういう妥協案をうまく調合するのが、妥協の哲学であり、美学である、と、私は教えられてきたと思っています。

 で、話が飛ぶように見えるかも知れませんが、最近麻生外相が提案した靖国神社を非宗教法人にして国立追悼施設とする案ですが、このブログで前に書いたように、この問題の経緯からしても適切な提案だと思いますが、それだけでなく上の妥協の哲学から見ても実にうまくできているんですね。

http://www.asahi.com/politics/update/0805/006.html

 日本は民主主義国家です。靖国社設置法(?)を審議立法する国会は国権の最高機関であり、主権の存する国民の意思にのみ基づいて、その慰霊対象を決定するのであって、ここのところがきちんと守られていることがもっとも重要なことです。国民の意思が結果的に中国が騒いでいたことと一定程度対応することがあったとしても、それは結果論に過ぎず、民主的立法過程が重要です。一方、中国はパワーを信奉する一党独裁国家ですから、民主的立法過程などはあまり関心がなく、そのいうところのA級戦犯が排除されるかどうかが主たる関心事です。つまり各論点に対する日中両国の主観的重み付けが異なることから、いずれの側も自分の主張が通ったと認識し、説明することが可能なような構成になっているんですね。ここが麻生提案の絶妙なところです。

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この論理は同時に、交換経済の美学でも
ありますね

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