請負労務が必ずしも悪いわけじゃない
請負労務の問題については、自分なりにも、また某研究会でもいろいろと勉強してきたこともあり、最近の朝日新聞の記事をきっかけとしたブログ界の時ならぬ萌え萌えぶりには、いやあ話題になるのはいいことじゃと思いながら、一方でちょっと気になることもあります。
話が妙にリーガリスティック(法制主義的)になりすぎると、またぞろ例によって、「下らん時代遅れの法規制なんぞをいつまでも後生大事に祭り上げているからこういうおかしな事態になるんじゃわい。職安法なんて莫迦な法律は廃止して、誰でも自由に請負だろうが派遣だろうが好きにやれるようにすればええやんけ」という規制緩和論につながりかねないな、と、私は危惧しているんですがね。
法律に違反しているからけしからんばい、という議論は、そういう法律をやめればよかでっしょ、という議論と、レベルとしては同水準なんですね(神が定めたもうた神聖にして犯すべからざる法でない限り)。
あるブログで、早速そういう議論が展開されていました。
http://d.hatena.ne.jp/dennouprion/20060801
これは、その部分のみを取り出して議論すればそういう展開も可能なんですね。ただ、今公共政策としてこの問題を取り上げる意義は、もう少し社会全体を見渡して考える必要もあるのです。
労働経済白書でも分析されているように、90年代以来の製造業における請負労務の問題は、それが本来であれば職場の教育訓練を受けつつ技能を高めながら職業キャリアを積んでいくべき若年労働力を、技能の蓄積のないまま低賃金労働力として使い捨てにしてしまう構造になっている点にあるわけで、そのことが長期的な社会的コストを極めて大きなものにしていく危険性が高いから心配しているわけです。
企業にとっての労務コストの低減の要請を、社会的コストを極小化するようなやり方でどう工夫していくべきか、というのが社会工学的な問題設定であって、そういう意味からすると、以前にも書いたように、社会的排除を伴わないデッドエンド型ノンキャリア就業を割り当てるとしたら、年金を受給している高齢者の小遣い稼ぎ就労というのが一番問題が少ないのではないか、と思うわけです。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/03/post_ec1b.html
この点を若干敷衍しておきます。実をいうと、そういう高齢者をペリフェラルな就労にあてがうメカニズムというのは存在しています。しかも請負という法形式を用いて、面倒な雇用関係の責任を負わなくて済むように仕組んであります。シルバー人材センターという組織で、もともと大河内一男先生のアイディアから東京都が事業化し、国レベルに拡大したものですが、事業開始の当初から、これは請負といってるけどインチキじゃないか、実は労務供給事業じゃないかという批判はあったんですね。あったんですけど、あんまり誰も相手にしないというか、余計なこと言わんといてくれ、誰も損しとらんやないかという感じであったのですね。
近年、シルバー人材センターの請負労務で工場で労災に遭うというような事件もいくつか起こり、法制上派遣もできるという風になったりもしたんですが、いずれにしても、そういう実質論が大事なんであって、過度なリーガリズムは必ずしも有用とは限らないという面にも注意を払っておく必要があろうと思います。
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