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2006年6月

2006年6月30日 (金)

まだ半年ありますので

厚生労働事務次官の記者会見

http://www.mhlw.go.jp/kaiken/jikan/2006/06/k0629.html

(記者) 労働契約法の労政審が、先日、労使双方から物言いがついて、一時中断というか、先の見通しが見えない状態になっているんですが、今後のスケジュールというか、来年に向けてのスケジュールの見直しみたいなお考えというのはありますでしょうか。

(次官)  労働契約法制、それから労働時間法制について、平行して労働政策審議会の労働条件分科会で議論を進めてもらってきたところでありますけれども、議論を始めたときに、7月には議論の中間的なとりまとめを行おうということでスタートしたんですが、その後の分科会での議論の中で、労使それぞれ、どうも審議会の議論が十分でない、十分深まっていないし、なかなか納得できるものになっていないということで、27日の分科会で、労使双方から、これまでの議論について不十分だと、それからそういった状況の中で、7月にとりまとめるということについては同意しかねるというお話があったわけです。我々としては、担当部局もそれなりに資料を用意し、分科会の運営に努めてきたのだろうと思いますけれども、労使それぞれがそういうご意見であるということであるので、これから先、分科会をどう進めるかということについては、公益委員の方々も労使各側と調整して今後の分科会をどう進めていくものかということでやっていこうと言われているわけなので、分科会の公益委員、とりわけ分科会長とよく相談し、労使の意向も伺いつつ、今後の分科会をどういった進め方にしていくのか、あるいはどういったペースでやっていくのかということを相談していこうということだろうと思います。
 いずれにしても、我々としては、働き方が非常に多様化し、個別化している。それから、労働組合の組織に属していない労働者の割合も非常に高まっているという中で、労働契約法制、それから労働時間法制の整備というのは急務だと思っていますので、当初から目指しております来年の通常国会に関連の法案が出せるように、労使、それから公益委員の方々の協力を得ながら進めていくようにしたいと思っているということで、まだ半年ありますので、労使それぞれが納得していただけるような形できちんと議論が出来るような状況に早く戻すということが、当面は一番重要だろうと思っています。

そう、まだ半年ありますので。

しかも、来年の通常国会を逃すと、しばらくは厚生関係のでかい法案が毎年目白押しで、なかなか分け入るのは難しいということもありますし。その辺は労使とも分かっているわけで。

いずれにせよ、7月の中間とりまとめが流れたので、再開は9月以降ということになりますね。厚生労働省の人事異動を挟んで、人心を一新して一気に取りまとめに向かうというスケジュールになりそうです。

まあ、実のところ、労働契約法については言うほど対立点があるわけではなく、労働条件の不利益変更という大きな柱はほぼ意見が収斂してきているんですから、解雇の金銭解決について納得のいく道が開かれれば、そう揉めることもないのではないかとは思うのですけどね。現在の案は却って意味不明になってしまっていて、労使双方から疑心暗鬼を招く結果になっているように思われます。

ドロールEU最低賃金を提唱

かつて80年代後半から90年代前半まで、10年にわたり欧州委員会をリードしたドロール元欧州委員長が、去る28日の欧州社会党会議で、EU共通最低賃金を導入すべきだと演説したようです。

http://www.eupolitix.com/EN/News/200606/e7cc25de-781c-4f57-a330-eaac65b18b54.htm

各国の発展段階に応じて定めると言ってるので、まあ地域別最賃みたいな感じですかね。問題意識は移民の問題にあるようです。

現在の所、欧州委員会の公式のアジェンダにそういうのは載っていませんし、そもそも賃金はEU社会政策から除くという条約の規定がある以上、その改正が先行しなければなりませんが、サービス指令案やラヴァル社事件などで、改めて最低賃金問題が各国レベルで議論になりつつある時期だけに、この提唱がこれからどういう風に動いていくか、目が離せません。

2006年6月29日 (木)

規制改革・民間開放推進会議

いや、別に福井日銀総裁の話に引っかけて宮内オリックス社長がどうのこうのという、一部マスコミの騒ぎに関わろうなどという気はないんですがね。

この数年来、国の機関の情報公開も大変進んできて、たとえば労働政策審議会にどういう資料が出されて、労使がどういう意見を言ったかなんてことは、逐一国民に公開されるようになっているわけです。役人の本音からいえば、物事をまとめようとしているときに、そのプロセスを全部公開してしまったら、後ろから弾が飛んできて、まとまるものもまとまらない、といった不満はあるわけですが、そういう役人のエゴはけしからんものなのですから、本音はしぶしぶ表面はにこにこと公開しているわけです。

ところが、この規制改革・民間開放推進会議サマは、6月15日の中間答申素案審議、29日の案文審議の資料も議事録も公開してないんですね。確かに、運営規則には、「 率直な意見交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあると認められる場合」「 不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれがあると認められる場合」「 その他中立な審議に著しい支障を及ぼすおそれがある等相当の理由があると認められる場合」には議事録や資料を非公開にできると書いてありますが、各役所が勝手にそう言うことをやり出しても当然のことだと認めるつもりなんですかね。少なくとも、この会議が審議している内容は、国民各層に大変大きな影響を与えるものですが、それ故にこそ、その審議プロセスをきちんと公開する必要があるんではないでしょうかね。

http://www.kisei-kaikaku.go.jp/minutes/meeting/2006/3/interview_0615_01.pdf

いや、別に、15日の会議終了後の記者会見で、中味と関係のない村上ファンドがどうしたこうしたという質問ばかりしていたアホな新聞記者を擁護しようなんて気は全くないのですよ。そう言うことを聞きたければ、オリックスにでも突撃すればいいのでね。でもですね、「誠に申し訳ございませんけれども、今、審議の内容を全て申し上げるということは、今後の折衝の過程で非常に不都合が起こる可能性がございますので、本日の中間答申の素案、それから議事の詳細な内容につきましての公表は我々の答申が出た後にさせていただくということで、御了解いただきたいと思います」としゃあしゃあと言われれば、そう言う馬鹿なことでも聞くしかなくなるのは、やむを得ないとは申しませんが、気持ちは分からないわけではないわけでして。

白書が多すぎる!?

白書が多すぎる!?

http://d.hatena.ne.jp/nami-a/20060629/p1

いや、確かに。

でもですね、特にどれとは申しませんが、かつてはこれを読まなければ日本経済を語れないとまでいわれたかの「経済白書」の後継者である某白書など、ここ5年間毎年「改革なくして成長なし」と、現政権の政策をひたすら弁証するだけの御用白書に成り下がって居るではありませんか。

いや、そりゃ役人が書いて閣議で承認するものが御用でないはずがないではないかといわれればその通りですが、それにしては、わたくしのかつての同僚たちが書いて居るから申すのではございませんが、旧労働白書を受け継ぐ「労働経済白書」なぞ、しっかり分析すべき所を分析しようとしていて、立派なものではございませんか?こういうのは安易に整理統合しないでいただきたいな、と思うわけでございますよ。

パート法改正始動

先週22日のエントリーで川崎厚労相の発言を紹介し、去る26日のエントリーで指針の法律化かな?と予想したパート法改正ですが、本日の日経新聞へのリークでは、厚生年金や健康保険への加入が目玉になるようです。

http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20060629AT3S2801C28062006.html

「正社員並みの長時間労働や責任を課している場合は、賃金などで同等の待遇を求める方針」というのもありますが、これはまさに指針の法制化ですね。

しかし、社会的な影響という点で大きいのは厚生年金と健康保険でしょうね。記事も「パートタイム労働法など関連法を改正する」と書いています。関連法の方が大きな改正になりそうです。しかしながら、あくまでもパート労働者の均等処遇というコンテクストで作業を進めるつもりのようです。このあたりは、記事の文章がやや微妙なのですが、「厚労省は今秋から労使代表で組織する労働政策審議会(厚労相の諮問機関)などで協議。来年の通常国会に関連法の改正案を提出したい考えだ」と書いてあります。「など」は社会保障審議会なんでしょうが、あくまで主導権は労働政策審議会がとるのだと読めます。

実はこの問題、2004年年金改正に向けた動きの中で、年金局主導でパートの厚生年金加入拡大をもくろんだことがあるのですが、経済界の反対が猛烈で、あえなく潰された経緯があります。今回は、雇用均等児童家庭局短時間在宅就労課が主導権をとって作業を進めるということになるのでしょう。年金改正の本丸(給付水準の制限)に比べればパートタイマー如きはレジヂュアルなイッシューであった年金局に比べれば、頑張りは期待できそうです。

<追加>

その後さる筋から頂いた情報によると、この日経新聞の記事、厚生年金や健康保険の適用拡大を労政審に協議して云々という下りは、日経さんお得意の飛ばし記事だった可能性が高いようです。まあ、旧労働省パート担当ごときに社会保険制度の根幹をいじらせるはずはないでしょうし、たった2年前の年金改正時の、流通外食産業の猛烈な抵抗にひどい目に遭っている厚生省サイドが動く気になるわけもないのでしょうね。

<さらに追加>

ということで、朝日にはちゃんとした記事になって出ています。年金の話は出てきません。

http://www.asahi.com/business/update/0630/136.html

一昨年の指針を法制化すると言っても、具体的に何をどうするかはかなり慎重に検討する必要があるでしょう。指針で「処遇の決定の方法を合わせる」と言っている均等処遇タイプを、この記事では「同じ賃金表や査定方法を使う」と言っていますが、もっとわかりやすく言うと、パートだからと言って時給いくらという風に決めるのではなく、正社員と同じような職能資格制に載せて、職能給にしていくというイメージですね。指針で均衡配慮タイプと言っているものについても「能力や経験に応じて評価する」と、かなり職能給的なイメージです。

わたしは個人的には、賃金の均等や均衡を強調するよりも、その後の「能力開発など「機会の均等」についても、盛り込むことを検討している」という点の方がより重要な課題ではなかろうかと考えています。特に、非正規労働者といったときに、いわゆる主婦パートタイマーよりも、若年・中年のフリーター層が大きな問題になってきているわけですから。

2006年6月28日 (水)

労政審中断!?

今日の各紙によると、昨日の労働政策審議会労働条件分科会は、労使双方が素案に反発して審議が中断、次回日程も決められなかったとのことです。

各紙のサイトに記事が掲載されていないので、紙の方から引用すると、毎日新聞が一番詳しく、「審議会で、使用者側委員は「割増賃金や休日確保などが突然出てきた。使用者側委員は拙速な論議に一致して反対する」と表明。労働側委員も「解雇の金銭解決など我々が反対してきたことが反映されていない」と述べた」と書いています。

また、読売新聞では、残業割増の引き上げについて「使用者側が「必要のない残業がかえって増える」、例の自律的労働時間制度なるものについて「労働者側が「長時間労働を助長する」と反発したと書いています。

せっかく、労働契約法制については素案にかなりの改善も見られ、労使の歩み寄りも可能かな?という感じになってきていたのですが、やはり労働時間法制の扱い方の不手際が労使双方の不信感を強めているように思われます。

ここは、労働契約法制はなんといっても必要なのですから、労働時間法制の方を一時冷却できないのかなあ、と思うのですが、それこそ宮内さん率いる規制改革会議からの宿題でエグゼンプションをやらないと首が飛ぶ厚生労働省幹部としては、そういうわけにもいかないのでしょう。何が何でもエグゼンプションをやるために、残業割増の引き上げなどという大変筋の悪い案を無理に持ち出して、労働側のご機嫌を取ろうとしたのが、逆に使用者側の逆鱗に触れてしまったというところでしょうか。

私の意見は、このブログで何回も書いていることですが、一定水準以上のホワイトカラーに対して、労基法第37条の適用除外、つまり残業手当は払わなくてもいい、しかし、物理的な労働時間規制は外さない、一定時間以上の残業は制限する、というお金のエグゼンプションこそが、使用者側が本音で求めていること(労務コストの削減)にもちゃんと対応するし、過労死や過労自殺という長時間労働の弊害に対しても対応しうるベストの選択だと思うのですが、厚生労働省はあくまで労働時間規制の適用除外に固執し、それと一般労働者の残業代の引き上げというまさに労務コスト増大でしかないものの組み合わせという、いささか統合失調的な政策を追求してきたあげく、こういう事態になってしまったわけです。

しかし、せっかくここまできた労働契約法制を野垂れ死にさせないためにも、ここは労働時間法制を思い切って組み替えて、なんとか来年の通常国会に持っていけるようにしてほしいものですね。事務局が動かないのであれば、労使が自主的に妥協案を模索するということがあってもいいのではないでしょうか。労働側にとっては、ここで労働契約法制を水子にしてしまうと次はいつ機会が巡ってくるか分かりませんし、心ある使用者側にとっても、ここで労働契約法をきちんと作っておいた方がメリットがあるはずだと思うのですが。

<追加>

労働弁護団の水口洋介さんのブログに、昨日の審議会のことが書かれています。

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2006/06/post_6fdc.html

これによると、使用者側が7月の取りまとめに強く反対し、「労働契約法は使用者に新たな規制をかけるもので中小企業の理解を得られない」とか、「有期雇用契約の期間の定めのない労働契約への優先的採用機会の付与でさえ、新たな規制ということで反対」しているんだそうです。これはやや話をぶちこわしにする言い方ですねえ。まあ、恐らく、このままでは素案で中間報告にされてしまうという危惧から、敢えてぶちこわしにかかったのでしょうが。

正直言うと、労働側の感覚はだいたい分かっているつもりなのですが、使用者側がどの辺を落としどころに考えているのか、今ひとつ見えにくい感じがします。みんなが労務屋さんみたいな感覚であるなら話は早いのでしょうが。

2006年6月27日 (火)

二極化とセックス格差

東大社研のディスカッションペーパーシリーズに、玄田有史先生と学習院大学大学院の川上さんという方の「就業二極化と性行動-出生減少のミクロ的背景」という論文が載っていました。

http://jww.iss.u-tokyo.ac.jp/publishments/dp/dpj/pdf/j-147.pdf

難しい数理的なところは飛ばして(理解できないので)結論だけ言うと、既婚者は労働時間が長いほど性頻度が低くなる。それに対して単身者は労働時間の多寡は性頻度に影響を与えない。じゃあ何が影響するかというと、世帯収入なんですね、これが。年収350万未満の者より、年収350万以上1000万未満の者の方が、性頻度が高い。

低収入の非正規社員の増加は、彼らの性行動自体を抑制していたんですね。

20年前よりいわゆるできちゃった婚が倍増していることからも、できちゃう可能性を高めるために、「若年単身者の就業機会を拡大することこそ根本的な少子化対策である」という政策提言が引き出されます。また、「仕事にかなりのストレスをおぼえたり、職場の雰囲気が良くないと感じている就業者ほど性行動に消極的」という結果もあり、職場環境の質的改善が性頻度の向上に重要であるようです。

<追加>

これって、いわゆる「萌え」現象の経済的下部構造を示しているようにも思えますね。ビンボなフリーターやニート層ほどヤれないので「萌え」てるという、身も蓋もない現実を。これって性淘汰っていうんでしょうか。

新卒一括採用システムの見直し

昨日の経済財政諮問会議に提出された経済財政運営と構造改革基本方針2006(案)を見ていくと、結構興味深い記述があります。

http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2006/0626/item3.pdf

この第4章 安全と安心の確保と柔軟で多様な社会の実現の、2の「再チャレンジ支援」(出たあ!)に、先週紹介した以外の労働立法が示唆されています。曰く、

「新卒者以外に広く門戸を拡げる複線型採用の導入や採用年齢の引上げについての法的整備等の取組・・・等により、新卒一括採用システムの見直しを進める」

採用年齢の引き上げについての法的整備・・・。現在、雇用対策法に募集・採用について、「その年齢に関わりなく均等な機会を与える」努力義務が規定されています。これは中高年齢者を念頭に置いて規定されたものですが、若年者についても若干のモディファイで活用できる規定ですね。しかし、新卒採用に対しても年齢制限の緩和を適用するとなると、これは第一次大戦後に大企業分野で確立し、その後次第に中小企業にも広がっていった長期雇用システムの根幹を揺るがす話にもなりうるわけで、この動向は目を見開いて注目していく必要がありますね。

実はこれは再チャレンジの中間報告でもさりげなく触れられていたんですね。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/saityarenzi/honbun.pdf

公務員の中途採用に目がいって、こちらには気がつきませんでした。いやいや、来年はほんとに労働立法の当たり年になりそうです。

正規雇用者の増加?

内閣府の今週の指標が「5期ぶりに増加した正規雇用者」というタイトルで労働市場の改善をアピールしています。確かに増えています。

http://www5.cao.go.jp/keizai3/shihyo/2006/0626/731.html

ただ、細かく見ると、いくつか気になる点もあります。図3の従業員規模別で見ると、今回大きく増えたのは30人未満の零細企業なんですね。もちろん零細企業でも正規雇用者が増えるのはめでたいことですが。

また図4の年齢階層別を見ると、今回増えているのは55歳以上の高齢者が大部分なんですね。上と併せて考えると、早期退職して零細企業に正社員として再就職した高齢者が増えたということのようです。この時期は、ちょうど改正高年齢者雇用安定法が施行される直前の時期で、継続雇用義務がかかってくる前に高齢者を社外に出してしまおうというドライブのかかっていた時期ですので、どこまで趨勢として言える話なのか、かなり疑問もあります。まあ、内閣府のエコノミストに、法制が労働市場に及ぼす影響まで把握しておけというのは無理かも知れませんが。

なにより、最後の図5を見ると、正規がほんのちょっぴりだけ増えただけで、非正規の増加傾向に大して変わりはなく、正規雇用比率は依然として低下を続けているわけですから、これをもって景気回復万歳、フリーターもニートも解決だあ!てなわけにはいかないんでないかい、という感じですが。

2006年6月26日 (月)

国民生活白書

先週20日、内閣府が国民生活白書を発表しました。「多様な可能性に挑める社会に向けて」というタイトルで、若年層の適職探し、女性のライフサイクルと就業、高齢者の人生の再設計という3つの章からなっています。

http://www5.cao.go.jp/seikatsu/whitepaper/h18/10_pdf/01_honpen/index.html

で、その若者のところなんですが、新卒にこだわる企業の採用慣行に問題があるとまず言っておいて、ところが「中途採用市場は専門的能力重視」であり、「職業能力の多くは就業経験を通じて獲得され」「職務経験を通じた専門的能力が付きやすい正社員」に比べて「専門的能力が付きにくいパート・アルバイト」は不利であるという、ここでも何回か言ってきた認識を示します。

じゃあ、どうするべきだというのか、労働市場を完全に欧米型に作り替えてしまえ、と、本当は言いたいのかも知れませんが、さすがに白書でそんな非現実的なこともいえないからというわけか、こんな台詞で逃げてるんですね。

「このように、パート・アルバイトではいわゆる専門性の高い能力を習得することは困難ではあるものの、一つの職場である程度粘り強く働くことによって基本的なコミュニケーション能力やビジネス・マナーを身に付けることは可能であり、そうした経験や能力は企業からも評価され得るものである。
先に、パート・アルバイトが専門的能力を身に付けることは困難な面が多い点について述べた。しかしながら、パート・アルバイトでも専門性を含む多様な能力を身に付けることが可能な場合もある。また中途採用の場合に必ず高度な専門能力が必要なわけでもない。
実際の採用の現場は多種多様であり、求められる能力の水準も異なる。パート・アルバイトの経験しかなくとも、コミュニケーション能力や基本的なマナーなどの能力を積極的にアピールし、そうして就いた職で更に専門的能力の涵養に努めるといった段階的な適職探しも考えられるのではないだろうか。」

おいおい、フリーターは専門能力では勝てないから、「人間力で勝負」ですか。違うだろうが、という感じですが。

パート労働法の改正作業

先週、川崎厚生労働大臣の発言を紹介しましたが、考えてみると、厚労省が正式にパート労働法の改正を表明したのはこれが初めてですね。

来年の通常国会に、労働契約法、労働基準法(さらに労働者派遣法、雇用保険法など)と一緒に提案するというスケジュールまで明らかにしているわけですが、そうすると、通常の法制化作業でいえば、そろそろ最終段階に入る時間帯なわけですから、これは2002年のパート研報告とそれに基づく2003年の指針(大臣告示)を法律化するという程度のことを考えているのでしょうね。

まあ、形式的にいうと、去る男女雇用機会均等法改正の際の国会附帯決議に「パートタイム労働者が意欲を持ってその有する能力を十分発揮できるようにするため、正社員との均衡処遇に関する法制化を進めること」というのがはいっていますので、

http://www.jtuc-rengo.or.jp/roudou/koyou/part/news/pdf/20060614_futai.pdf

これを受けた形で労働政策審議会で検討を開始し、指針の内容での法制化が相当という建議につなげるというシナリオでしょうか。

労働法の改正が特定の年に集中するようになったおかげで、来年は有期労働(労働契約法)、パート労働、派遣労働という3種の非典型労働が同じ国会の会期で審議されることになるようですが、今のところ、法案はバラバラに出されるようですね。無知な新聞記者が労働契約法制の話で「派遣やパート」とか書いて笑われていましたが、考えてみると、世間一般の感覚ではそれらがバラバラである方がおかしいのかも知れません。役人的に言えば、所管の局が違うということになるのですが、この辺はもう少し素人的感覚に近づいた方がいいのかも知れません。

2006年6月22日 (木)

来年は労働立法の当たり年

川崎厚生労働大臣の記者会見、

http://www.mhlw.go.jp/kaiken/daijin/2006/06/k0620.html

(大臣) 「また、来年はパート労働法等の問題を含めて労働法制関係も、必ずしも少子化とは言いませんけれども、働き方という意味では、法律を出させていただくことになるだろうと思っております。」

(記者)「労働関係の法律ですが、今、審議会でやっている労働契約法制や新しいやり方を事実的な時間制をやっていますけれども、あれを念頭に置いていらっしゃいますか。」

(大臣)「いや、今年国会に出そうとした、来年出すかはまだ決まっていませんけれども、最低賃金の問題もあります。それから、先ほど申し上げたパート労働の問題もあります。かなりの法律になるのではなかろうかと思っています。それは、大体お分かりいただいているのだと思いますけれども、一昨年来から、年金問題、介護、それから障害者自立支援法、それから医療制度改革という形で、厚生関係の法案の大型のものが続きました。現実問題、この審議に衆議院、参議院を通じるとやはり2ヶ月くらいの日程を要するものですから、予算が3月で上がって、それから2ヶ月要すると、今回もそうでしたけれども、事実上、4月、5月はそれにとられる。もう一つ大型法案ということをぶつけると、今回、社会保険庁問題が入らなくなったくらいですから、そういう意味では、厚生関係の法律がここ2、3年多くて、なかなか労働関係が国会で十分時間をお取りいただいてご審議いただくことが出来なかったという中で、3つの改革、年金、医療、介護が進んできましたので、来年は、労働関係の整理に厚生労働省としても力を入れたい。いろいろな課題があることは事実でございますので。」

厚生労働省になってから、2001年、2002年は厚生関係中心、2003年に労基法、派遣法、雇保法と労働関係法案ををまとめてぶつけ、2004年、2005年、2006年とまた厚生関係中心の年が続き、ようやく来年2007年が2回目の労働関係の当たり年になるようです。労働契約法、労働基準法に、パート労働法、そして(勝手に水子供養まで出してしまった)最低賃金法(ごめんなさい、まだ胎内で生きているようです)も 出す予定のようですね。

大臣は言及しておられませんが、職安サイドでは派遣法、職安法も再度の見直しを進めていますし、それから実は労働行政の立場からすると財源として大変大きな話である雇用保険3事業の「廃止を含む」見直しを含めた雇用保険法の改正というのもありますし。

2006年6月21日 (水)

エイジフリー研究会報告書

昨日、社会経済生産性本部より『エイジフリー社会の実現を目指して-年齢に中立な経済・社会の構築を-』が発表されました。

http://www.jpc-sed.or.jp/contents/whatsnew-20060620-1.html

慶応大学の清家篤先生を座長に、雇用・労働分野、社会保障・税制分野、社会・文化といった領域まで含めて、エイジフリー社会を検討したものです。

わたしは委員ではないのですが、一度呼ばれてお話ししたものが第1部第4章「EUにおける年齢差別是正への取り組み」として収録されています。内容は、一般雇用均等指令の策定経緯や施行状況を中心に、高齢者雇用問題を総括的に概観したものです。

労働・社会保障系の論文以外に、社会学系の論文も入っていて、実は昨日届いたのを読みながら、一番面白かったのはそっちの方でした。瀬地山角さんの「東アジアの家族と高齢社会」は、血縁原理と年齢原理で東アジア諸社会を分析し、血縁原理で見ると、日本 vs. 中国・台湾・朝鮮半島、になるが、年齢原理で見ると、日本・朝鮮半島 vs. 中国・台湾、になり、年齢階梯がはっきりすることで位階構造のはっきりした組織を作りやすい日本・朝鮮半島に対して、ボスと直接の関係で結ばれ、横の関係を重視しようとするのが中国文化圏だとか、中国系社会では中高年女性が就労を忌避するとか、いろいろと面白い情報が書いてあって、思わずフムフム。

おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きますが、息子はどこで何をしてるんですか?と、台湾の留学生は聞くらしい。中国なら孝行息子が出てきて助けるはずなのに、どうして日本では鶴だの犬だの関係のない動物が出てくるんでしょう?なるほど、こういうところに文化の違いが出るわけね。

2006年6月20日 (火)

コーポレートガバナンス

今日は、あるところから日経新聞の経済教室(伊丹敬之さん)を読んだかというメールを頂き、お返事をして戻ると労務屋さんのブログでも取り上げていて、ほお、この問題、結構注目されているんだ、と思いました。

http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20060620

わたしは、EU労働法をフォローしている関係で、欧州会社法が採択される前後には、結構この関係の紹介記事を書いています。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/kaishahou1.html

http://homepage3.nifty.com/hamachan/kaishahou2.html

http://homepage3.nifty.com/hamachan/jichiken2.html

http://www.rengo-soken.or.jp/dio/no160/kikou.htm

http://homepage3.nifty.com/hamachan/keieiminshu2.html

また、コーポレートガバナンスの問題についても、自分なりに考えをまとめてみたこともあります。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/corpgov.html

これをさらに大きな歴史的パースペクティブの中で位置づけてみたのが、拙著『労働法政策』の第1章の19頁から21頁、23頁のあたりです。

また同書492頁では、終戦直後の経済同友会の『企業民主化試案』を紹介していますが、これは企業を株主の所有物ではなく、経営、資本、労働の3者によって構成される協同体と考える思想を打ち出したものです。

<追加>

と思ったら、日本経団連が今日「我が国におけるコーポレート・ガバナンス制度のあり方について」という意見書を発表しているではないですか。しかも、「『真の株主』を把握できる仕組みの導入」とか、「長期保有株主への恩典」とか、労務屋さんの書かれていたことと見事に照応しています。

http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2006/040.html

そういった点については同感ですが、むしろ大変気になったのは、かつて旧日経連時代に発表されたコーポレートガバナンスに関する文書と対照的に、「労働」という文字がきれいになくなっていることです。ふうむ、そうですか、今の日本経団連にとっては、労働者はコアであろうがノンコアであろうが、もはやステークホルダーではないんですか、そうですか、と、おもわずつぶやいてみたくなる今日この頃ではありますね。

東欧諸国は同性愛が嫌い?

久しぶりにEUの話題。

先週15日に、欧州議会が人種差別や同性愛排除に対する決議を採択しました。

http://www.europarl.europa.eu/news/expert/infopress_page/019-8898-165-06-24-902-20060608IPR08828-14-06-2006-2006-false/default_en.htm

この中で、ポーランド家族同盟の指導者が、GLBTの人々に対する暴力を扇動したとして非難されています。GLBTというのは、「Gay, Lesbian, Bisexual and Transgender」の略で、同性愛、両性愛、性転換などをまとめていう言葉のようですが、いわゆる性的志向による差別ということですね。

人種差別は、極右勢力でない限り、正面から正当化しようというのはいないでしょうが、性的志向については、特に東欧圏でいろいろ摩擦があるようです。最近も、文部大臣が、学校が同性愛グループと接触を持つべきだとした欧州評議会のパンフレットを配布した教員グループのリーダーを解雇したという記事がありましたし、ラトビアは、一般均等指令を国内法化しなければならないのですが、そのうち性的志向による差別は国内法化を拒否しているのだそうです。

この指令が2000年に採択されたとき、わたしも、これはカルチャー摩擦を引き起こさないのかな、と懸念する気持ちがあったのですが(日本でこの指令を紹介するときも、性的志向の話はほとんどしませんでしたが)、指令採択後に加盟した東欧諸国にとっては、そのまま呑み込みにくいところがあるようです。

上記欧州議会の決議採択の際、欧州社民党を代表してシュルツ議員が「不寛容が20世紀の破滅をもたらした」と演説したところ、ポーランド出身のロシュコウスキ議員は「我が千年の歴史を通じて、我が国は欧州で最も寛容な国であった」と反論したとか。ポーランド人がドイツ人にそう言いたくなる気持ちはよく分かる。

2006年6月19日 (月)

連合がパート賃金格差で裁判闘争?

気がつかなかったのですが、先週土曜日の毎日新聞に、連合が正社員とパートの賃金格差是正のために裁判闘争を検討すると、高木会長が語ったという記事が載っていたようです。

http://www.mainichi-msn.co.jp/keizai/wadai/news/20060617dde041020034000c.html

使用者が偽装解散して全員解雇したとかいうように、裁判闘争が有効な場面というのはもちろんあると思いますが、よりによってパートの賃金格差を連合が裁判に訴えるというのは、なんだか妙な感じですね。多くの場合、その差別している正社員の方が連合所属の組合員で、差別されているパートの方は非組合員であるわけでしょうから、その裁判の結果、差別是正のために正社員の労働条件を引き下げるという話になったとき、プリンシパルたる組合員の利益に反する行動をしたということにならないのかしら。

いや、敢えてそこまで踏み込むというのであれば、それは偉大な行動ではありますが。

ものづくり白書

2005年版ものづくり白書というのが発表されています。経済産業省の

http://www.meti.go.jp/report/data/g51115aj.html

に全文が載っていますが、このうち第1部第2章のポイントが厚生労働省のHPに載っています。

http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/06/h0609-3.html

ここでの指摘が、このブログで何回か書いてきたこととと対応しています。すなわち、「製造業で働くパート、契約社員・嘱託等の非正社員には、正社員と比べ能力開発機会に格差が見られる。また、派遣労働者・請負労働者といった外部労働者には、若年者が多く従事しているが、その多くは単純な繰り返し作業に就く等、能力蓄積やキャリア形成上の懸念がある」という問題意識から、「ものづくり企業においても、非正社員・外部労働者を正社員に登用する仕組みづくりや全ての労働者を対象として、キャリア形成を促進する取組を進めていくことが望まれる」とともに、「非正社員・外部労働者を含めて、労働者が適切に能力開発や技能蓄積を行えるよう、労働市場を有効に機能させるための経済社会基盤の整備を進めていくことが必要」だと述べています。

これを具体的にどういう形で政策化していくかが厚生労働省に問われるわけです。これからいよいよ本格化する来年度予算要求を刮目して注視していきましょう。

年金の世代間格差論議の虚妄

全労済協会というところが出している「LRL」という雑誌に、権丈善一さんの「公的年金における世代間格差をどう考えるか-世代間格差論議の学説史的考察」という痛快極まりない文章が載っています。

http://news.fbc.keio.ac.jp/~kenjoh/work/LRL.pdf

「公的年金の世代間格差論議というものはヨーロッパでは流行らないようで、世代間格差議が騒々しいのは、まずは日本、そしてアメリカであるかの印象を多くの社会保障研究者は共有しているようである。そして日本の年金論議をヨーロッパ人の目からながめると、なんとも奇妙にみえるらしい。」

まったくそう。ヨーロッパの年金改革論議を脇から見ていただけでも、このことは痛感しました。

「どうして、日本の年金論議は、こうもおかしくなってしまったのか。この問いに対して、アメリカでは決して主流ではない学説が実に狭いチャネルを通って日本に輸入されたのであるが、この学説を輸入した日本の論者が、たまたま旺盛な活動家であったために、日本は公的年金の世代間格差論議が活発な、世界でも珍しい国になってしまったのではないかという作業仮説をわたくしは立てている。この仮説のキーワードは、<日本経済新聞社><阪大財政学グループ><一橋年金研究グループ>である。」

このあといろんな個人名が出てきて、「あの頃の彼らの文章は、古くから人が住んでいた大陸を新大陸と呼びあった、旧大陸の人たちの無知と傲慢を思わず連想させる」とまで罵倒しています。まったくそうだ。

「日本の公的年金論議が他国と比べて奇妙かつ自虐的な形になってしまったのは、日本経済新聞社、阪大財政学グループ、一橋年金研究グループの精力的かつ秀でた活躍」のおかげだったんですね。そういう方々が「いまは政策形成の中枢にあり」、「個人の負担と給付を一元管理する社会保障個人会計」を導入して、「公的年金の世代間格差論よりもはるかに大きく多くの楔を、この国の人びとの間に打ち込み、互いに反目するすさんだ社会を、彼らはどうしても作」ろうとしているようです。

2006年6月16日 (金)

全労連の反応

昨日のエントリーで紹介した労政審への「素案」について、今のところ連合は正式のコメントは出していないようですが、全労連が極めて批判的なコメントを出しています。

http://www.zenroren.gr.jp/jp/opinion/2006/danwa20060614.html

就業規則の変更と過半数組合や特別多数組合、過半数代表のところで、「少数労働組合の団体交渉権を封殺する制度であり断じて認めるわけにはいかない」とか言っているのは、少数組合の多い全労連としては確かにそうでしょうねえ、という感じですが、自律的労働時間制度のところでは若干誤解があるように思います。

「不当な不払い残業を合法化」というのは、まあ残業手当の支払い義務自体が法律の規定を根拠にしているんですから、法律を変えてしまえば不当でなくなるわけで、その意味では仰るとおりともいえますが、「過労死やメンタルヘルスなどの健康被害が生じた場合の使用者責任を免除してしまう同制度」というのは誤解だと思います。過労死や過労自殺の場合の使用者責任は、適用される労働時間制度とはリンクしていません。物理的な労働時間が常軌を逸したものであって、それと当該過労死との間に相当因果関係が認められれば、現在既に裁量労働制でも過労死になりますし、おそらく管理監督者でもなるはずです。問題があるとすれば、実労働時間の立証でしょうが、会社側が「自律的にやらせていたから把握していないよ」といって、家族側が日記かなんかで綿密に立証したら、当然そっちが証拠として採用されるでしょうし。

実を言うと、こういう全労連のような誤解を経営側もしているんじゃなかろうか、というのが最大の心配なのです。裁量だろうが、自律だろうが、過労死したら責任が発生するんですよ。その辺、分かっているのかな。

日本人の働き方とセーフティネット

JILPTの研究報告書ですが、「日本人の働き方とセーフティネットに関する研究」というのが出ています。

http://www.jil.go.jp/institute/chosa/2006/documents/06-014.pdf

中味は、日本人の働き方から、若者の能力開発から、私的・公的セーフティネット、そしてインターネット調査法と、なんだかあんまりまとまりがないような気もしますが、このうち佐野さんが担当された若者の能力開発のところが、わたし的には大変興味深いものでした。

ここでは、若年正社員だけでなく、若年非正社員の中にも、技能向上への意欲が高い者や技能向上に取り組む者があり、かつその機会に恵まれている若年非正社員も少なくないという結果が示されています。もちろん、平均的に見れば正社員と非正社員とでは能力開発意欲や機会に格差があるのですが、充実度はそれぞれの中で多様だというのが一番のポイントでしょう。

非正社員であっても、能力開発機会が充実していれば、仕事に満足し、仕事や生活の見通しが明るく、正社員であっても能力開発機会が乏しければ仕事に不満で将来の見通しも暗い、と。

従って、若者を正社員にするというのも大事だけれども、正社員か非正社員かに関わらず、能力開発施策が彼らの職業人生全体にとって大事なんだ、と指摘しています。まさに時宜に適した、いい内容の研究だと思います。

慶祝 改正男女雇用機会均等法成立

昨日、男女雇用機会均等法の改正案が成立しました。まずはおめでとうございます。

一昨日の衆議院厚生労働委員会では、野党が提出した修正案(12日のエントリーで紹介)を賛成少数で否決したあと、政府案を全会一致で可決したようです。まあ、野党のアリバイ作りのための修正案だったわけですが。

その代わり、附帯決議が色々とくっついています。

http://www.jtuc-rengo.or.jp/roudou/koyou/part/news/pdf/20060614_futai.pdf

間接差別の話が3項目にわたって縷々書いてあります。曰く、「間接差別は厚生労働省で規定する以外にも存在しうるものであること、及び規定する以外のものでも、司法判断で間接差別法理により違法と判断される可能性があることを広く周知し、・・・法律施行後の5年後の見直しを待たずに、機動的に対象事項の追加、見直しを図ること」とか、「雇用均等室においては、省令で規定する以外の間接差別の相談や訴えにも対応するように努め」云々。

12日のエントリーにも書いたように、新第7条には間接差別などという概念は出てきません。そこに規定されているのは、差別の外枠としての「差別となるおそれがある措置」であって、それを限定するために厚生労働省令で定めるものとしているんですね。

そもそも、改正前の現行男女雇用機会均等法は、別に直接差別に限るとか、間接差別は除くとかという制限はしていないのですから、今だって司法判断により間接差別法理で違法と判断される可能性はあるわけです、どんなものにも。

この辺の論理構造が国会議員の先生方には必ずしも明らかではなかったようで、なんだか論理的につじつまの合わない附帯決議になってしまったようですが、まあ、どのみち附帯決議というのはぎりぎりいえば立法府の言いっぱなしですから、大したことではないとも言えますが。

あと、ほかの法律に対する注文がついています。一つは「労働時間法制の見直しに際しても、男女労働者双方の仕事と生活の調和の実現に留意すること」。もう一つは「パートタイム労働者が意欲をもってその有する能力を十分発揮できるようにするため、正社員との均衡処遇に関する法制化を進めること」。こういう形で附帯決議に盛り込まれたということは、政府の側としても実行するつもりのようですね。

2006年6月15日 (木)

わりといい素案(労働契約法)

いろいろとリークされていた「素案」ですが、厚生労働省のHPに掲載されています。

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/06/dl/s0613-5a2.pdf

労働時間制度については今日は取り上げません。言うことは決まっているし。

新聞等ではあんまり注目されていない労働契約法制に関わるところが、結構細かい修正が入っていて、興味深いです。

一番大きく変わっているのが、就業規則変更に関連して、労働組合や労働者代表に関わるところです。ここは、昨年の契約法制研究会報告では労使委員会を活用するという形で書かれて色々と批判を浴びていたところですが、なかなか工夫の跡が見えます。

基本的には、就業規則の不利益変更について、過半数組合が合意している場合には個別労働者との間に合意があるものと推定することとし、ただしこの場合は労働者が当該変更が不合理であることを反証した場合にはひっくり返る。それに対して、事業場の3分の2を組織する特別多数労働組合が合意した場合には、「上記4の手続を経た過半数組合との間の合意と同様の効果を与えることとすることについて慎重に検討する」というもってまわった表現になっていますが、ざっくり言うと、個別労働者が反証してもひっくり返りうる推定ではなくて、頭っからそれでいくんだよということにしちゃうということでしょうか。だとすると、これはなかなか大胆な提言ですが、3分の2がいいかどうかは別にして、一定の合理性のある話ではあります。

で、問題は過半数組合がない場合、この点について、この素案は労使委員会とかいう前のいわゆる過半数代表のあり方に遡って検討を加えています。この点は大変好感が持てます。ま、各法令に規定されている過半数代表を全部いじるというまでのつもりはないのでしょうが、少なくとも労基法の規定する過半数代表について、民主的な選出手続によらなければならないことと、多様な労働者の利益を公正に代表することを要件とし、そうやって選出された「事業場のすべての労働者を適正に代表する者(複数)」について、上記の過半数組合との合意に準ずる法的効果を与えることを検討するという書き方になっていて、現在の過半数代表のいい加減さをそのままにして労使委員会を論じていた研究会報告よりはいいものになっていると言っていいのではなかろうか、と私は評価したいと思います。

3年前の基準法改正時からの持ち越し案件である解雇の金銭解決については、依然としてもわもわした書き方で、あんまり具体的なイメージにならないのですが、一点、これも研究会報告よりもいいものになっていると評価したい点として、有期労働契約における更新拒絶についても対象とすべきか、という一文が入っている点です。これは、研究会報告では、無効との取扱いの確立を先行させる必要があるとして却下されていた論点なのですが、本日のOECD雇用戦略に関するエントリーでも述べたように、実は有期労働にこそ一般的な金銭解決スキームが役立つのですね。この点は大変貴重な論点なので、今後の審議で消し去ることなく、最終報告まで持って行ってほしいと思います。

で、日経新聞とかがヘンな飛ばし記事を書いていた有期労働契約に関するところですが、4月の「検討の視点」で提示されていた一定期間又は一定回数更新された場合の扱いについて、具体的な案の形になっています。すなわち、例えば1年を超えて、あるいは3回程度を超えて更新されている場合、「労働者の請求があった場合、使用者は期間の定めのない契約の優先的な応募機会の付与を行わなければならない」というものです。あくまで応募機会の付与であって、自動的に無期契約になるとかそういう話ではありません。「検討の視点」では若干誤解を招く書き方になっていたのですが、これであれば制度として実現可能なものになっているように思われます。また、個別契約により決定されている労働条件についてのいわゆる変更解約告知に対する異議をとどめた承諾に対して解雇できないという規定の「解雇」に有期労働契約の更新拒絶を含めるという案も提示しています。

この他、個別には色々とまだ論点はありますが、総じて、思ったよりも(という言い方は失礼ですが)まともな、というかわりといい素案になっている印象です。いや労働契約法制に関する部分についてですが。

OECDの新雇用戦略

本日と明日の2日間、カナダのトロントでOECDの雇用政策に関する大臣レベル会議が開かれることになっています。

http://www.oecd.org/document/19/0,2340,en_21571361_36276310_36276371_1_1_1_1,00.html

OECDは1990年代初めからEUやILOに先駆けて雇用戦略を進めてきましたが、最近2年間かけてその見直しを行っていました。今回の会議に提出される報告「仕事と収入を増やす」は、その見直しを踏まえて、新たなOCED雇用戦略の枠組みを提示しています。

http://www.oecd.org/dataoecd/47/53/36889821.pdf

A,B,C,Dの4つの柱からなっていて、柱Aは適切なマクロ経済政策。柱Bは失業給付や福祉給付が労働力参加を阻害しないようにというワークフェア的な話。柱Cは柔軟化というか規制緩和の話。柱Dは技能と能力開発の話です。

このうち、柱Cの雇用保護法制のところがやっぱり気になるのでちょっと見てみると、雇用保護法制が過度に厳格な国ではこう改正しろ、と。差別的な不公正解雇は制裁するが、経済的理由による解雇への制約はゆるめろ。

次の有期雇用と派遣労働のところでは、労働市場の二重性を悪化させないように、常用雇用とのバランスのとれた取扱いが必要だ、一つのオプションとしては解雇保護の権利を勤続年数に応じて増やすとか。

この点は、日本にとっても重要な示唆だと思います。日本では、解雇保護が解雇権濫用法理で行われているため、オール・オア・ナッシングで、そのため有期雇用の場合、解雇権濫用法理の類推適用とかいう曲がりくねった論理でオールの権利を得るか、やっぱりだめよでナッシングになるかしかないという大きな欠点があります。

解雇保護を原則的に金銭補償で行うこととすれば、常用雇用であれ、有期雇用であれ、それまでの勤続年数に応じた補償金が払われるという形で一種の均等待遇が実現するわけで、現在進められている労働契約法制の議論でも、そういう観点がもう少しあってもいいのではないかと思われるのですが。

2006年6月13日 (火)

素案のリーク

今日は日経新聞に労政審労働条件分科会に今日の夕方提示される素案がリークされていますが、

http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20060613AT3S1202912062006.html

ちょっと意味不明というか、恐らく記者の法律知識のレベルが低いから、言われたとおりに再現できてないんでしょうが、こんな風に書いてあります。

「残業が月40時間を超す従業員の休日を1日増やしたり、契約期間が一定以上経過した派遣社員・パートの正社員への登用を企業に義務付けるのが柱。少子化の背景にあるとされる長時間労働や低賃金で不安定な雇用を解消するには、雇用規制の強化が必要と判断した」。

多分、厚生労働省労働基準局の担当者は、「契約期間が一定以上経過した有期契約労働者」の「期間の定めなき労働者への転換」と言ったはずです。まあ、それ自体が大変な議論を呼ぶものであるのは確かですが、4月の「検討の視点」で既に提起されている話です。しかし、間違っても、「契約期間が一定以上経過した派遣社員」を「正社員に転換」とは言ってないはず。もしそんなことを言えば、労働者派遣法の根本構造を大転換するという話になりますし、そもそも労働基準局の所管ではない。

それに、確かにある時期まで、パートという言葉が有期労働も含めた非正規労働一般をさす用語として用いられる傾向にあったことは確かですが、短時間正社員が政策課題になってきている時代に、いつまでも有期労働の言い換えとしてのパートという言葉を用い続けることは如何なものかとも思います。

ま、しかし、だいたい素案の内容は予想がつきます。研究会報告に対して労働側が猛烈に反発してきたので、ここまで労働側に飴をつけたよ、というシグナルでしょう。逆にここまで書かれると、経営側は当然猛反発するでしょうが、少子化を錦の御旗に掲げて突破するというのが、事務局の発想なのでしょう。再チャレンジ法案に載せるという報道も一時ありましたが、政治的タクティクスとしては大いにあり得る話です。

労働側としては、どういう反応を示すべきか悩ましいところです。ここまで自分たちに近寄ってきた案を、そうむげに蹴飛ばすわけにもいかないでしょう。

EU男女均等統合指令成立

EUの男女均等関係の指令は、同一賃金指令、均等待遇指令、職域社会保障の均等待遇指令、挙証責任の転換指令にこれらの改正指令が存在し、全体像はわかりにくくなっています。それらを統合し、一本化する新たな指令案が去る6月1日の欧州議会で採択され、成立することになりました。

http://register.consilium.europa.eu/pdf/en/06/st10/st10187.en06.pdf

内容的には今までの各指令をまとめたものですので、新たな事項が付け加えられているわけではありませんが、タイミング的に少々残念だったのは、私も執筆に協力している『労働六法』(旬報社)に掲載しているEU指令について、2006年度版に載せられなかったことです(6月15日発行)。まあ、もし労働時間指令が改正されれば、それと一緒に2007年度版に載ることになるでしょう。

2006年6月12日 (月)

教員に時間外手当導入

残業手当の話といえば、こんなのもありました。

http://www.asahi.com/edu/news/TKY200606100371.html

「文部科学省は、公立学校の教員給与制度を、全面的に見直す方針を固めた。時間外手当の導入や、年功主義をやめて能力・業績を本格的に給与に反映させることなどを検討する。政府の歳出削減に対応すると同時に、教員評価制度と組み合わせメリハリのある処遇で教員の意欲を引き出すのがねらい」だそうな。

いやあ、素晴らしいですな、民間企業では能力主義にするから時間外手当を払わないようにしようという話になってるんですが、学校では能力主義にするから今まで払ってなかった残業代を払おうというんですから。

男女均等法改正案に対する4野党修正案

現在衆議院で審議中の男女雇用機会均等法改正案に対する4野党の修正案が連合のHPに載っています。

http://www.jtuc-rengo.or.jp/roudou/seido/byoudou/data/20060609_minkin.pdf

法律の題名を「男女雇用平等法」にするとか、基本的理念に仕事と生活の調和を入れるとかといったことは別にして、興味深かったのがいわゆる間接差別のところです。いわゆる間接差別といったのは、政府の改正案では「間接差別」なんていう言葉は出てきていないからです。以前3月8日のエントリーで書いたように、これは差別以外に、一定の「差別のおそれ」も禁止するという規定としか読めません。

ところが、野党の修正案は、単純に政府案の「措置として厚生労働省令で定める」という部分を削除しただけです。しかしそうすると日本語として大変おかしなことになるのですよ。だってね、「措置の要件を満たす男性及び女性の比率その他の事情を勘案して実質的に性別を理由とする差別となるおそれがあるものについては」云々となっちゃってるんですよ。改正案では「・・・勘案して・・・おそれがある措置として厚生労働省令で定める」んだからいいんです。勘案するのはもちろん厚生労働省ということになります。ところが「・・・勘案して・・・おそれがある」ってどういうことでしょう。勘案するのは誰?

そもそも、改正案は差別の内枠としての間接差別を規定しているんじゃなくて、差別の外枠としての「おそれがあるもの」を規定しているんですから、限定もなしに禁止しちゃっていいのか、という大問題が実はあるのですね。これを間接差別だと思いこんでこういう修正をしちゃうと、法律論的にはトンデモな規定になってしまっているわけです。まあ、修正案が通るはずがないからいいのだといえばそれまでですが。

残業割増の引き上げ

あす、労働政策審議会労働条件分科会に素案が提示されることになっていますが、その内容の一部(労働時間関係)が新聞にリークされています。

http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060610i104.htm

月35時間を超える残業に対しては40%の割増率とし、また一定以上の残業に休日付与を義務づけるということのようです。4月に提示された「検討の視点」に数字を入れただけですが、この40%という数字、大企業にとっては残業をなくすには到底足りない程度のものでしょうが、中小零細企業にとっては企業の存立に関わるような厳しいもののように思われます。大企業の残業がかなりの程度内因性であるのに対し、中小企業の残業が発注元からの無理難題に起因する外因性のものであることを考えると、こういう一律の割増引き上げ方式はいかがなものかという感が拭えません。

おそらく、こっちで労働側に相当の飴を舐めさせてあげるから、例の「自律的」と称するエグゼンプションも呑んでくれという意図なんでしょうが、筋が違うような。

そもそも過労死対策だ、少子化対策だというのなら、残業時間そのものをどう規制するのかという話にいくべきでしょう。物理的な時間だけでいえば、実は大企業の方が長くて、中小企業の方が短いのです。本来もっと削減しなければいけない大企業にはあんまり痛くなくて、自力ではいかんともしがたい中小企業にしわ寄せするような政策が適切なのかどうか、もう一度考え直す必要があるのではないかと思うのですが、まあ多分この形で明日提示されるんでしょうね。

2006年6月 9日 (金)

ドビルパン、今度は高齢者雇用

若者向けの試用雇用契約で大失敗してしまったドビルパン首相ですが、なんのなんのくたばってなんぞおりません、今度は高齢者向けの有期雇用契約というのを出してきました。

http://www.iht.com/articles/2006/06/06/news/france.php

フランスは有期契約の締結が制限されているのですが、57歳以上の高齢者についてはそれを可能にするということのようです。それと、65歳までは早期引退を強制するのは違法にするということ。また、年金受給者の就労促進のために、年金と賃金と両方得てもいいこととし、60歳以降も就労する者には年金のボーナスをつけるというのもあるらしい。

若者対策で失敗した分を高齢者対策で取り戻そうということですか。労使双方とも歓迎しているということですから、2度目の失敗ということにはならないでしょうが。

ところで、EU雇用戦略は、2010年までに高齢者(55-64歳)の就業率を50%にまで引き上げるという数値目標を掲げているのですが、フランスは現在38%とかなり劣等生で、気合いを入れて行かないとちょっと目標達成は無理でしょう。かつてフランスを始めヨーロッパ諸国が早期引退促進政策をとったのは若者の雇用対策のためだったわけですが、今年の騒ぎを見ても分かるように若者の失業問題は依然として続いていて、要するにかつて働いて税金や社会保険料を払っていた高齢者が引退して養われる側に移っただけだというのが、現在のヨーロッパのエリートたちの痛切な反省であるわけです。

とはいえ、一旦早く引退しても年金が貰えるという甘い汁を吸ってしまった国民が、そう簡単に働くようになるものかどうか、特にわざわざ有期雇用になってまで働こうとするものかどうか。様子を見ていく必要がありますね。

それと、ちょっと気になるのは、11月30日のエントリーで紹介したマンゴルト判決との関係です。ドイツのハルツ法で導入された52歳以上なら自由に有期契約を結べるよというのを、欧州司法裁判所は年齢差別だといって無効にしてしまいました。同じ理屈からいったら、今回のドビルパンのもアウトじゃないのかなという気がするのですが、どうなんですかね。当然その辺は検討しているはずだと思うんですが。

2006年6月 7日 (水)

これからの雇用戦略

JILPTが『これからの雇用戦略』と題する報告書を取りまとめました。

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2006/documents/063.pdf

私もこれのもとになる研究会に出ていたのですが、一時はどうなることかと思った内容も、最終的には結構有意義なものになっています。

2月10日のエントリーで書いたように、私は非正規労働者のキャリア権という視点を強調しておいたのですが、その点は大変改善されています。

全体として、EUの雇用戦略に大きくインスパイアーされて、全員参加社会、就業の質、キャリア権という三題噺に仕立てており、雇用問題に関心のある方々にとっては有用な枠組みを提示していると思います。

ロワイヤル女史、35時間制を攻撃

一昨日のFTによると、フランス社会党の次期大統領選挙有力候補者であるセゴレーヌ・ロワイヤル女史が、先輩のジョスパン首相が導入した35時間制を「労働法規制を緩和し、労働時間を弾力化した」といって批判しているようです。

http://news.ft.com/cms/s/f61aa28a-f4be-11da-86f6-0000779e2340.html

それは確かにそうなんですが、どちらかというと、規制強化だというリベラル派の批判に対して、いやいや実は結構弾力化しているんですよ、という反論としていわれていたんですが、ロワイヤルさん、それを正面から叩いたようです。管理職は休みやすくなったかも知れないが、一番弱い立場の労働者の権利を崩したんだ、と。

と同時に、別記事ですが、彼女は凄いことも言っています。

http://news.ft.com/cms/s/0473ea2e-f430-11da-9dab-0000779e2340.html

不良少年どもを軍隊に叩き込んで鍛えろ、てなことを口走ったようですな、この4児の母は。亭主のオランド党首がさすがにそれには賛成できないと言ったようですが。まあ、与党側の最有力候補者サルコジさんへの対抗意識があるのでしょうが、ルモンド紙の世論調査では69%がこの「法と秩序」路線を支持していると言うことですし。フランスでも時代はソーシャルなウヨクに向かっているのかも知れませんね。

2006年6月 2日 (金)

労働時間指令、またも合意に達せず

昨日行われた雇用社会相理事会の結果、労働時間指令改正案は結局合意に達しなかったようです。

http://www.consilium.europa.eu/ueDocs/cms_Data/docs/pressData/en/lsa/89830.pdf

議論の最後に、議長国は、加盟国における労働市場の状況の相違と新たな規定の性格を考えると、現段階で全般的な合意に達するのは可能ではないと結論した、と簡単に書いてあります。

依然として、個別オプトアウト規定をどうするかと、労働時間計算を契約ごとか個人ごとかが焦点になっています。

議長国が提示した指令改正案の修正案自体は公開されていませんが、なぜかそれの付属文書とおぼしき議長国からの質問事項なるものが公開されています。

http://register.consilium.europa.eu/pdf/en/06/st09/st09842.en06.pdf

まず第1に、使用者と労働者がオプトアウト合意を締結する前に、彼らは最大12ヶ月の変形時間制では必要な弾力性が保証されないかどうかを検討しなければならず、とあって、この検討は指令の他の適用除外をも考慮に入れるべきか?と問いかけています。

第2に、オプトアウト合意はちゃんとした根拠がなくちゃいけない(well-founded)とあって、オプトアウトの利用又は継続利用にさらに追加的な付随措置が必要と考えるか?、指令の文言上、合理的な理由とともに、オプトアウトの利用を正当化する労働者個人に関する他の理由を明記すべきか、あるいはそのような理由の例示的なリストを前文に書き込むか?と聞いています。

結局合意はできなかったわけですが、オプトアウトを残すにしてもその利用をできるだけ制限しようという努力が試みられたんだということが分かります。

2006年6月 1日 (木)

労働時間指令改正案本日いよいよ合意か?

一昨日のエントリーで、本日予定されている雇用社会相理事会のアジェンダに労働時間指令改正の政治的合意なるものが乗っかってるのを紹介しておきましたが、やっぱりなんだか事態は動いているようです。

欧州労連(ETUC)のHPに、「雇用理事会は労働時間指令を崩すな」という声明が載っています。

http://www.etuc.org/a/2431

確かに本日の理事会で政治的合意に達するみたいです。しかも、ETUCによると、オーストリア議長国が示している妥協案は、長時間の不規則労働への最低限の安全弁を崩し、安全衛生と福祉を犠牲にするものだと非難しています。具体的にどこがそうなのかを教えてほしいのですが、残念ながらここには書いてありません。

ここに併せて23日付でオーストリアのバルテンシュタイン労社相宛のETUCの書簡が載っていますが、

http://www.etuc.org/IMG/pdf/Letter_to_Bartenstein_230506.pdf

ここでも、個別オプトアウトを止めさせろとか、長時間労働が生産性を高めて競争力に役立つなんて認めるなとか、あまり具体的に何がどうなろうとしているのかよく分からない書き方になっています。

ま、しかし、ETUCが怒っているんですから、個別オプトアウトがかなり無傷で残る内容になっているんでしょうね。やっぱり、待機時間問題が、フランスを初め大陸諸国の足もとを揺るがしていて、イギリスに嫌がらせしている余裕がなくなってきたということなんでしょうか。

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