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2006年5月29日 (月)

投資ファンド等により買収された企業の労使関係

5月26日付で、厚生労働省に設置された投資ファンド等により買収された企業の労使関係に関する研究会」の報告書が公表されました。

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/05/s0526-2.html

これはいささか経緯があります。ある個別案件が出発点になって始められたものなのです。2004年3月、東京急行電鉄は子会社である東急観光の株式の85%を、本社を英国領ケイマン諸島に置く投資ファンドであるJPE.Ltd、AF2.Ltdに譲渡し、同社はアクティブ・インベストメント・パートナーズ(AIP)にファンドの運用運営を委託しました。AIPは東急観光に取締役5名を派遣し、東急労組の主張によれば、一時金の支給等についての不誠実交渉、社員会(第2組合)の支援、社員会の会員にのみ年間一時金を支給、といった不当労働行為を行っていました。

東急労組は、従業員の労働条件を実質的に決定しているのはAIP社であるとして、AIP社に団交を申し込みましたが、同社が拒否したため、都労委に対し、AIP社の団交拒否が不当労働行為に当たるとして救済を申し立てました。一方、東京地裁に対しても、団結権侵害(脱退工作)について損害賠償請求訴訟を提起するとともに、団体交渉を求める地位保全の仮処分命令を申し立てました。この問題は国会でも、自民党及び民主党議員によって取り上げられました。これまで、このような事案で訴えるのは共産党系や社会党左派系と相場が決まっており、主流の政治家が取り上げるのは珍しいと言えます。いわば、投資ファンドという形でアングロサクソン型の資本主義が登場し、これまで労使協調型の労使関係の中にあった企業までがその影響を被るようになったことが、背景にあるといえましょう。

こういった状況を受けて、厚生労働省は2005年5月、「投資ファンド等により買収された企業の労使関係に関する研究会」(学識者8名、座長:西村健一郎)を設置し、検討を行うこととしました。開催要綱によれば、「近年多く見られるようになった投資ファンド等による企業買収の状況を見ると、短期間で企業価値を高めて収益を上げることを目的とし、被買収企業の労働条件の決定についても純粋持株会社とは異なり積極的に関与しているように見えるケースも見受けられるようになっている。このように、当初持株会社の姿として想定されたものとは異なる企業行動をとる会社が出てきたことに伴って、従来からの集団的労使関係が変化していくことも考えられる。そこで、①投資ファンド等による被買収企業の労働条件決定への関与等労使関係の実態、②投資ファンド等の団体交渉当事者としての使用者性の判断の在り方について検討を行う」ということです。

報告書は予想されたとおり、投資ファンドの使用者性については、「投資ファンド等が被買収企業の労働条件を実質的に決定しているといえるか否かに着目して判断することが適当」と述べ、「親子会社間の親会社や純粋持株会社に係るこれまでの「使用者性」に関する考え方が基本的に該当する」としつつ、「どのような場合に投資ファンド等に使用者性が認められるかを一律に決定することは困難」と、新たな基準の設定は避けています。

この点、連合は研究会のヒアリングにおいて、「投資ファンド等が被買収企業の株式を一定程度保有しており、かつ、被買収企業に取締役等を派遣するなどして、質的・人的の両面から影響力を及ぼしている場合には、朝日放送事件の考え方を満たさずとも使用者性が認められるべきである」と主張していましたが、受け入れられなかったことになります。

その上で、企業買収の際に良好な労使関係を構築するための留意点として、投資ファンドが被買収企業の労働条件に介入し、「基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位」に立つことになれば、「使用者」としての責任を負うことになることを指摘し、被買収企業における誠実な団体交渉及び労働協約の効力を強調し、投資ファンド等による買収後の経営方針等について、被買収企業の労働者や労働組合に対して被買収企業から説明することが望ましく、また買収後も投資ファンド等が日常的に被買収企業の労働組合と意思疎通を図ることが有用だと示唆しています。

時あたかも、村上ファンドが阪神株を買い占めて、先行きがどうなるか注目を集めているときだけに、今後の労使関係を考える上でも参考になるものです。

なお、この研究会で発表されたアメリカにおける労使関係法上の「使用者」概念と投資ファンドでの実態については、JILPTのHPに報告書が掲載されています。

http://www.jil.go.jp/institute/discussion/2006/06-01.htm

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