労働条件決定システムの再構築
労働政策研究・研修機構(JILPT)から、『社会経済構造の変化を踏まえた労働条件決定システムの再構築』と題するかなり大部の中間報告が出されました。
http://www.jil.go.jp/institute/reports/2006/056.htm
これは標題のようなプロジェクト研究の中間報告で、最終報告は1年後に出されるようですが、この中間報告も英米独仏の事例を検討しつつ、労働組合・労使協議のありかたを考え、さらに法哲学、政治哲学、労働史、法と経済学といった領域をふまえて、新たな労働法モデルを提起しようという壮大な意図が窺えるものになっています。
第5章の「課題の整理と見直しの方向性」というところでは、まず「労働条件決定システムにおいて労働組合への期待は依然として大きく、労働組合がその勢力を回復・拡大し、労働者の労働条件の向上に力を発揮することが望まれる」と、労働組合への期待を一応表明しながらも、「労使関係法を見直して労働組合の強化を図るという考え方」は「社会的コンセンサスは得難い」とし、「労働条件決定システムの全体を見直すに当たっては、労働組合についての理想論ではなく、労働組合の実態を直視すべきである。つまり、労働条件決定システムを労使双方にとって最適な形で運用していくための前提条件として労働組合の勢力回復に期待しつつ、これと並んで、労働組合がない場合にも実質的に労働組合がある場合と同程度の効果が期待できるような新たな労働者の発言システムについて、真正面から考える時期に来ていると言わざるを得ない」と述べています。
そして、近時の労働立法においては「一定の形で労働者の意見を反映させた上で、事業場の事情、労働者の実態に合わせた規制を行う立法」が増えつつあるが、「これは、同時に、労働組合組織率の低下・労働組合員数の減少を受けて、新たな労働者の意見を反映するシステムを構想する上で大きな示唆を与えるもの」だとしています。
しかし、そこのところで、「新たな発言システムといった場合、いきなり、大陸ヨーロッパに見られるような従業員代表制を我が国に導入することは困難である」と述べ、「我が国においては、むしろ、既に事業場に設けることが可能な労使委員会の延長上の制度として、新たな発言システムを構想することが現実的であると考える」とか、「、労働者の過半数代表制についても、(特に「過半数代表者」の場合に問題が指摘されているが、)労働組合が不在である事業場の多さを考えると、労働者の意見を反映するシステムの一つの形態として重要であることを指摘しておく」と、述べています。
このあたりは、まさに現在労働政策審議会で議論の焦点になっているところでもあり、ちょっと生臭いところもありますが、一つの考え方として重要でしょう。ただ、そこで引用されている「ヨーロッパ諸国の従業員代表制は、背後に存在する産業別労働組合のバックアップを受けることによって初めて十分な労働者代表機能を果たしうると考えられているが、日本ではそうした条件は存在しない。」(西谷敏『規制が支える自己決定』)という指摘を根拠に、上記のような理屈につなげていくことについては、ちょっと?という感じもしないではありません。
一方で、「労働者の意見を反映するシステムを構想する上で、参考となるものとして、EUの情報提供と労使協議に関する一般的枠組みに関する指令がある」などという記述もあり、EU型の労働者代表制についてどういう認識なのかが今ひとつよくわかりかねるところもあります。
この問題は、私にとっても、EU代表部勤務時代以来のテーマでもあり、EUでも独仏といった大国だけでなく、スウェーデンなど小国のシステムにも興味深いものがあるだけに、自分なりにも勉強していきたいと思っているところです。
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