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2006年4月17日 (月)

職業レリバンス再論

平家さんのブログでのやり取りに始まる11日のエントリーの続きです。

平家さんから再コメントを頂きました。

http://takamasa.at.webry.info/200604/article_11.html

この中で、平家さんは「大学の先生方が学生を教えるとき、常に職業的レリバンスを意識する必要はないと思っています。勿論、医学、薬学、工学など職業に直結した教育というものは存在します。そこでは既にそういうものが意識されている、というよりは意識しなくても当然のごとくそういう教育がなされているのです。法学部の一部もそういう傾向を持っているようです。問題は、むしろ、柳井教授が指摘されているように経済、経営、商などの学部や人文科学系の学部にあるのです」と言われ、「特に人文科学系の学問(大学の歴史をたどればこれが本家本元に近いでしょう。)は、学者、ないしそれに近い知的な職業につくケースを除けば、それほど職業に直結していません。ですから、そういう学問を教えるときに職業的レリバンスを意識しても、やれることには限界があります」と述べておられます。

この点については、私は冒頭の理科系応用科学分野及び最後の(哲学や文学などの)人文系学問に関する限り、同じ意見なのです。後者については、まさにそういうことを言いたいたかったのですけどね。それが、採用の際の「官能」として役立つかとか、就職後の一般的な能力として役立つかどうかと言うことは、(それ自体としては重要な意義を有しているかも知れないけれども)少なくとも大学で教えられる中味の職業レリバンスとは関係のない話であると言うことも、また同意できる点でありましょう。

しかしながら、実は大学教育の職業レリバンスなるものが問題になるとすれば、それはその真ん中に書かれている「経済、経営、商などの学部」についての問題であるはずなんですね。この点について、上記平家さんのブログに、次のようなコメントを書き込みました。

きちんとした議論は改めてやりますが、要するに、問題は狭い意味での「人文系」学部にはないのです。なぜなら、ごく一部の研究者になろうとする人にとってはまさに職業レリバンスがある内容だし、そうでない多くの学生にとっては(はっきり言って)カルチャーセンターなんですから。
ところが、「経済、経営、商などの学部」は、本来単なる教養としてお勉強するものではないでしょう(まあ、中には「教養としての経済学」を勉強したくってきている人がいるかも知れないが、それはここでは対象外。)文学部なんてつぶしのきかない所じゃなく、ちゃんと世間で役に立つ学問を勉強しろといわれてそういうところにきた人が問題なんです。

現在の大学の「職業レリバンス」の問題ってのは、だいたいそこに集約されるわけで、そこに、実は本来問題などないはずの哲学や文学やってる人間の(研究職への就職以外の)職業レリバンスなどというおかしな問題提起に変な対応を(本田先生が)されたところから、多分話が狂ってきたんでしょうね。
実は、今燃え上がっている就職サイトの問題も、根っこは同じでしょう。職業レリバンスのある教育をきちんとしていて、世の中もそれを採用の基準にしているのであれば、その教育水準を足きりに使うのは当然の話。

もちっと刺激的な言い方をしますとね。哲学や文学なら、そういう学問が世の中に存在し続けることが大事だから、大学にそれを研究する職業をこしらえ、その養成用にしてははるかに多くの学生を集めて結果的に彼らを搾取するというのは、社会システムとしては一定の合理性があります。
しかし、哲学や文学というところを経済学とか経営学と置き換えて同じロジックが社会的に正当化できるかというと、私は大変疑問です。そこんところです。

哲学者や文学者を社会的に養うためのシステムとしての大衆化された大学文学部システムというものの存在意義は認めますよ、と。これからは大学院がそうなりそうですね。しかし、経済学者や経営学者を社会的に養うために、膨大な数の大学生に(一見職業レリバンスがあるようなふりをして実は)職業レリバンスのない教育を与えるというのは、正当化することはできないんじゃないか、ということなんですけどね。

なんちゅことをいうんや、わしらのやっとることが職業レリバンスがないやて、こんなに役にたっとるやないか、という風に反論がくることを、実は大いに期待したいのです。それが出発点のはず。

で、職業レリバンスのある教育をしているということになれば、それがどういうレベルのものであるかによって、採用側からスクリーニングされるのは当然のことでしょう。しっかりとした職業教育を施していると認められている学校と、いいかげんな職業教育しかしていない学校とで、差をつけないとしたら、その方がおかしい。

足切りがけしからん等という議論が出てくるということ自体が、職業レリバンスのないことをやってますという証拠みたいなものでしょう。いや、そもそも上記厳密な意味の人文系学問をやって普通に就職したいなんて場合、例えば勉強した哲学自体が仕事に役立つなんて誰も思わないんだから、もっぱら「官能」によるスクリーニングになったって、それは初めから当然のことなわけです。

経済学や経営学部も所詮職業レリバンスなんぞないんやから、「官能」でええやないか、と言うのなら、それはそれで一つの立場です。しかし、それなら初めからそういって学生を入れろよな、ということ。

(法学部については、一面で上記経済学部等と同じ面を持つと同時に、他面で(一部ですが)むしろ理科系応用科学系と似た側面もあり、ロースクールはどうなんだ、などという話もあるので、ここではパスしておきます)

<追記>

http://d.hatena.ne.jp/shinichiroinaba/20060417

「念のために申しておきますとね、法律学や会計学と違って、政治学や経済学は実は(それほど)実学ではないですよ。「経済学を使う」機会って、政策担当者以外にはあんまりないですから。世の中を見る眼鏡としては、普通の人にとっても役に立つかもしれませんが、道具として「使う」ことは余りないかと……。」

おそらく、そうでしょうね。ほんとに役立つのは霞ヶ関かシンクタンクに就職した場合くらいか。しかし、世間の人々はそう思っていないですから。(「文学部に行きたいやて?あほか、そんなわけのわからんもんにカネ出せると思うか。将来どないするつもりや?人生捨てる気か?なに?そやったら経済学部行きたい?おお、それならええで、ちゃあんと世間で生きていけるように、よう勉強してこい。」・・・)

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コメント

こんにちは。日ごろより大いに勉強させていただいております。
今日のこのエントリを読んで、かつて大学受験のときに母と交わした会話を思い出しました。
私「文学部を受ける」
母「小説家になるのかい」
私「あと、政治学科も受ける」
母「政治家になるのかい」
私「…………」
向学心に燃えていた(笑)当時、なんつー俗っぽいことを言うんだ、と反発心を覚えたものですが、案外それは高卒就職した母にとって当たり前のギモンだったのかなー、と今では思います。。。

いずみんさん、それはお母様が正しかったのですよ、人的資本理論からすると。

もとより、人間は人的資本であるだけではありません。そういう経済理論を「俗っぽい」と見下して、イデアの世界に生きるプラトニックな人生観もありえます。というか、そういうのがなかったら、人間世界にあんまり希望はないかも知れません。

ただ、問題はそれが経済学自身に跳ね返ってくることで、

いずみん「経済学部を受ける」
母「ケーザイ学者になるのかい」

とは普通ならないで、

いずみん「経済学部を受ける」
母「ビジネスウーマンを目指すのね」

となるのが普通でしょう。(ホント?)

それが、実学じゃないとか、「世の中を見る眼鏡」とかいわれたのでは、娘の学費を出す立場からすると、詐欺か?と言いたくなるかも知れません。

(追記)
ホントのところを言うと、経済学は役に立たないわけではありません(と思います、素人なりに)。人的資本理論なんかも、会社の人事担当者にとっては、私は必須の知識だと思います。

参考までに:
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532131618/qid=1145845019/sr=8-1/ref=sr_8_xs_ap_i1_xgl/503-0048332-7207103

なんと2年半ぶりに、このエントリーにぶくまの形でコメントをいただきました。

http://b.hatena.ne.jp/entry/http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_bf04.html">http://b.hatena.ne.jp/entry/http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_bf04.html

>僭越ながらいささかのレリバンスの実現を志して、幾許かは可能にした経営学系の教員もそこここにいるのではないか、と

いや、まさに、そういうご意見を期待しておりましたのですよ。稲葉先生のように「実学ではないですよ」などと人ごとみたいにのたまわれるのではなく。

昨日は変な名前を入れてしまい申し訳ありませんでした。「匿名」だけでは誰だか分からなすぎるので名前を変えました。

元の記事は5年以上前、最新のコメントも3年前という記事に今さらコメントするのもなんですが、興味深い議論がされているので一言申し上げたい。
興味深い議論だと思いますが、一つ、大事なことが見落とされていると思います。それは、「日本の小学校・中学校・高等学校では、経済についての教育がほとんど行われていない」という事実です。一応、高校には政治経済という科目がありますが、選択しない人も多いですし、仮に選択しても経済に関してははっきり言って内容がきわめて貧弱です。さらに輪をかけて、経済学部を卒業して教師になる人が少ないため、経済学をまともに学んだことがない教員養成系教育学部や文学部の卒業生が政治経済を教えていることが少なくありません。

実際、日本の大学の経済学部では、高校で政治経済を履修しているかどうかに関わらず、全くゼロから経済学を教えています。

つまり、日本の現在の学校教育では、高校卒業までに経済について学ぶ機会がきわめて貧弱なのです。ですから、大学で経済学部(や経営・商学部)に進学しないと、経済についてほとんど何も知らないまま社会に出て行くということになりかねません。

「職業とのレリバンス」という言葉の正確な意味からは外れるかもしれませんが、上に述べた意味で、間違いなく経済学部は職業生活に役に立つ学部です。

http://www.l.u-tokyo.ac.jp/chutetsu/bgairon.pdf

文学部の出口戦略
(天下の東大ですが・・・)

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「再びhamachanさんのコメントにおこたえして」に、hamachanさんからTBをいただきました。 http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_bf04.html [続きを読む]

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