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2006年3月13日 (月)

水子供養 又は 日本のフリーターはなんと健気なことか

以前(1月6日のエントリー)、産業別最賃から職業別設定賃金へという動きについて書きましたが、あれは一体どうなったんだろう、男女均等法と能開法はちゃんと法案となって国会に提出されたけれども、最賃法はいつ出てくるんだろうかとお思いの方もいらっしゃるかも知れません。

実は、かわいそうにこの子は生まれてくることもできず、ひっそりと堕ろされてしまっていたのです。なむあみだぶつ、なむあみだぶつ、親の因果が子に報い、労使の意見をまとめきれずに、労働基準局はあっさりと法案になる前に水に流してしまったのですね、本日のエントリーは、それゆえ「水子供養」でございます。黙祷。

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/01/s0119-6.html

「現段階では、部会としての合意を得ることができなかった」ってね、それは産別最賃のあり方についてはそうかも知れないけれども、地域最賃の方はどうなるんですか。公益委員試案では、「社会保障政策との整合性を考慮した政策を展開する必要がある」というすごく重要なことが指摘されていたはずです。具体的には、最賃法の改正事項として決定基準の見直しが挙げられ、「労働者の生計費については、生活保護との整合性も考慮する必要があることを明確にする」と書かれてありました。

このもとになった最低賃金制度のあり方に関する研究会報告書では、「生活保護が健康で文化的な最低限度の生活を保障するものであるという趣旨から考えると、最低賃金の水準が生活保護の水準より低い場合には、最低生計費の保障という観点から問題であるとともに、就労に対するインセンティブが働かず、モラルハザードの観点からも問題である」と指摘され、「単身者について、少なくとも実質的にみて生活保護の水準を下回らないようにすることが必要である」とはっきり明記していました。

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/03/s0331-7.html

世界的にメイク・ワーク・ペイが政策の根幹になりつつある今日この頃ですが、日本の最低賃金と生活保護というのは、どの年齢層、どの家族構成でも、生活保護の方が得であるという大変香ばしい仕組みになっているようです。わかりやすいものとして、最近出た『平等主義が福祉を救う』という本の中の「最低生活保障と労働市場」(後藤道夫)という論文によると、例えば住宅扶助について東京、横浜、川崎の単身者特別基準を用いると、20歳単身者に対する生活保護は13万8千円強、それに対して東京都や神奈川県の最低賃金でフルタイム就労すると、月収は13万円強で、約8千円の差が出るようです。

一般に、年齢が高くなり家族が増えれば、生活保護の方が最低賃金より高くなるという印象は多くの方々がお持ちだと思いますが、日本の現状はそんな生やさしいものではありません。高校を卒業して就職できないというときに、フリーターで最賃ぎりぎりの給料を稼ぐよりも、生活保護で何もしないでいた方がお得であるという、大変すばらしい福祉国家になっていたんですね。

もちろん、中高年になって女房子どもがいるようになっても、生活保護の方がお得です。子ども2人の4人家族でだいたい年収500万くらいにはなるようですから、森永卓郎先生の「年収300万円時代」には、みんな仕事なんか止めて生活保護を貰いに行くのが合理的な行動ということになりましょう。

この研究会には座長の樋口美雄先生をはじめ、立派な労働経済学者も参加していますし、立派な労働法学者も参加していますので、こういうある意味でまともな判断が出されているのだと思いますが、世の中のケーザイ学者とかホー学者は必ずしもそうではないようで、とにかく最低賃金なんてものがあるから市場が歪むんだからそんなものはなくしてしまえという初等経済学教科書みたいなことしか言わない奴とか、生活保護の水準は(中流の暮らしよりも)こんなに低いからもっと手厚くしなくちゃいけないとしかいわない社会保障学者とか、世の中はもう少しいろんな制度があるんだよということがわかっていないアホバカマヌケ連中がいっぱいいるんで困っちゃいます。

(注)もちろん、一定の条件下では上記ケーザイ学者の見解は適切です。すなわち、この世に生活保護などというものは存在せず、いかなる低い賃金であってもそれを受諾しない限り、労働者は餓死する以外になく、そのことに政府は何ら責任を持たないという条件です。これを実現するためには、上記ケーザイ学者は自ら責任を持って憲法第25条の削除を主張すべきでしょう。そんなホーリツとかケンポーとかむつかしいことはボクわかんないとかいうのなら、余計なことは言わないのが身のためです。

しかし、まあ、そんな馬鹿な連中の話より何より、ここまでメイク・ワーク・ノット・ペイに徹したすばらしい制度のある中で、あえて最低賃金に近い賃金水準で日夜労働に従事している世界に冠たる日本のパート、フリーターの皆さんの健気さには素直に頭が下がります。これが本日の結論かな?

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コメント

申し上げるまでもないですが、生活保護は養ってくれる人も財産も貯金もない方しか受給できません。
フリーターをするかどうかの選択が可能であるような書き方をなさると、誤解を生んでしまいます。

実はそこのところが大きな問題なのです。法律上は、そう、あくまでも法律上はですが、今平家さんが言われたような条件が明記されているわけではないのです。問題の生活保護法第4条第1項ですが、「保護は、生活に困窮する者が、その利用しうる資産、能力その他あらゆる者を、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」とあります。この条文を、今平家さんが言われたような趣旨だと「解釈」して、通常の労働可能な男性についてはよほどのことがなければ適用しないという「運用」をしてきたわけですが、それではもはやもたなくなり、ここ数年受給者数が激増し、そして厚生労働省も2004年に社会保障審議会に専門委員会を設けて検討を行い、「利用しやすく自立しやすい制度へ」という政策転換を行ったわけです。「利用しやすく」ということについては「稼働能力があることのみを以て保護の要件に欠けると判断するものではない」とはっきり言っています。今までの隔離政策による量的制限政策ではなく、むしろ労働政策と連携する方向に向かおうとするものだと理解しています。
しかし、そもそも日本の生活保護がヨーロッパ諸国に比べてかくも補足率が低かったのは、上記厚生行政の姿勢というよりも、国民の側の方が、そこまで落ちぶれたくはないという誇りを持って歯を食いしばって働いてきたからではないかと思っています。ぎりぎりいえば、法律上明確に受給できないと規定されているわけでもないたかが「運用」だけでイギリスで2割にも上る受給率を1%以下に抑えられるわけではないでしょう(実際日本でも、地域によっては生活保護の受給率が極めて高い地域もあるわけで、これはいわば当該地域の社会意識によるものだと思われます)。
私がフリーターに言及したのは、そういう意味合いです。法律上はまさに「選択が可能」ですし、歯を食いしばってがんばるのがばからしくなって、みんな一斉に福祉事務所にどっとやってきたら、どうするつもりですか?という問いかけのつもりです。

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