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2006年3月15日 (水)

国家公務員の留学費用の償還に関する法律案

一昨日、標記法律案が閣議決定され、国会に提出されました。

http://www.soumu.go.jp/menu_04/pdf/164_060313_01_03.pdf

労働基準法の適用が除外されている本来的国家公務員についてはここでは特に評論しません。それはそちらの政策判断ですから。

しかし、第8条で、国有林野事業を行う国の経営する企業に勤務する職員についても平然とそのまま適用しているのはいかなる根拠によるものなのでしょうか。彼らには、集団的労使関係法の上では、スト権が禁止されるという制限が課されていますが、団体交渉権はフルにありますし、そもそも個別的労使関係法の上では一般の民間労働者と同様、労働基準法がフルに適用されるはずです。

また、第9条で、特定独立行政法人と日本郵政公社に対して「留学費用に相当する費用の全部又は一部を償還させるために必要な措置をとらなければならない」と義務づけているのもいかなる根拠によるものなのでしょうか。彼らも国有林野労働者と同様、集団的労使関係法の上では、スト権が禁止されるという制限が課されていますが、団体交渉権はフルにありますし、そもそも個別的労使関係法の上では一般の民間労働者と同様、労働基準法がフルに適用されるはずです。

ということは、労働基準法第16条の賠償予定の禁止も適用される存在であり、これが留学費用の償還規定との関係でどうなるかは、近年の多くの裁判例と同様、最終的には裁判所の判断に服さなければならないはずです。もし、この法律で義務づけている措置が労働基準法違反だとなったらどうするのでしょうか。逆に、同じ法律レベルで規定しているんだから違反になるはずがないというのであれば、同じ労働基準法が適用されるにも関わらず、特定企業の労働者のみを狙い撃ちにして法律で留学費用の償還を規定することは立法として適切なのでしょうか。

私は、一般的には、留学費用の償還を求める就業規則を適法と認める近年のいくつかの裁判例の方向に反対ではありません。しかし、それらはあくまで個別事案ごとに判断されるものであり、およそいかなる留学費用の償還規定をも合法化するものではありません。いや、もちろん立法によってそういう規定を設けるべきという議論はあり得ます。実際、昨年の労働契約法制研究会報告書では、「業務とは明確に区別された留学・研修費用にかかる金銭消費貸借契約は、労働基準法第16条の禁止する違約金の定めに当たらないことを明確化す」べきと述べています。

おそらく、人事院や総務省は、この報告で返還を免除する勤務期間を5年としているので、この法案でも5年を持ち出してきたのかも知れませんが、重要なことが忘れられています。この報告では「業務とは明確に区別されたとの要件は必要である」と明記しているのです。この法案ではそういう要件はかかっていません。というより、民間企業ならともかく、国民の税金で「業務とは明確に区別された」留学をやらせていいのかという問題が惹起するのではないでしょうか。建前からいって、公務員の「留学」というのは、「業務と明確に区別された」ものであり得ないようにも思われます。まあ、その辺は公務員所管官庁がお考えになるべきことではありますが。

いずれにせよ、この法律は本来公務員所管官庁がすべきことを超えて規定を設けているのではないかと感を禁じ得ません。

まことに奇妙なのは、地方公務員については、「留学費用に相当する費用の全部又は一部を償還させることができる」と任意規定にしていることです。いや、それもまた公務員政策の問題ですから何も言いません。旧総務庁と旧自治省で温度差があるんですねえとも言わない。おそらく、旧自治省の人は法律をよくわかっていて、地方公務員には労働基準法が(フルにではないですが)部分的に適用され、第16条は適用があるということをふまえてこういう規定にしたのでしょうか。

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コメント

もしこのエントリの内容が本当に問題だと思われているのであれば、国有林野や特定独立行政法人を問題にする前に、第5条の「特別職国家公務員等」により重大な問題があるように思われます。

そもそもこの問題は、国家公務員の退職管理の一元性の問題とも密接に絡んでくる問題だと思われます。官民の境界線をどう見るかという問題と申しましょうか。

理屈からいけばその通りだろうと思います。ただ、ここで言う「特別職国家公務員等」の「等」にあたる政府関係法人に採用されるための離職というのは、一般の雇用契約法制でいえば、在籍出向に相当するものと見なされているので、こういう(法理論的には変な)扱いにせざるを得ないのでしょう。これは留学費用だけの問題ではなく、公務員法制全般にわたる問題です。
逆に、その「等」に雇用されている間に自分で勝手に離職してしまった場合には、留学費用を返せとは言えないわけで、そこは公務員ではないという建前が優先するわけですね。
これを解きほぐすのは大変ですし、今のところ、その元気もありません。ただ、今後公務員法制が大きく変わっていくことになると、こういう根源的なところに遡って議論する必要が出てくるのでしょうね。

この問題は、究極的には「公務員」の範囲をどこまでとるかという問題と、公務員にまつわる労働三権の制限の射程の問題だと思われますが、これはたぶん直観的には解けない問題のような気がします。

留学だけの問題なら、人事院の「和洋会」政策を変えれば本来何とかなると思うのですが…(研究休職の制度改正と留学制度の奨学金化)

公務員問題はねじれにねじれていますので、意識的に正面からは触らないようにしているのですが(だから、こういうつんつんとはじっこを突っつくようなエントリーになる)。
本気で労働基本権問題を論じるとなると、そもそも「公務」とはなんぞやというあたりから始めなければならず、なかなか大変です。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120219-00000036-mailo-l04


公立志津川病院:修学資金貸し付け創設 4人対象、勤務条件に /宮城


賠償予定(の禁止)にひっかからないといいですね

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» [政治][行政改革]労働基本権 [常夏島日記]
ちょっと昔の記事。読売新聞からの[http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060320it05.htm:title=記事]。 連合は従来、人事や給与などに能力主義を導入する公務員制度改革を進める前提として、公務員への労働基本権付与が不可欠と主張し、検討の場の設置を求めていた。政府側は20日、公務員制度改革の早期実現を目指す意向を示し、新協議機関の設置を提案した。協議後、連合の古賀事務局長は「一定の評価が出来る」と記者団に述べた。ただ、労働基本権を公務員に付... [続きを読む]

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