請負・派遣労働者に対する能力開発型人材管理
大原社会問題研究所雑誌というのがありまして、その2月号に、木村琢磨さんという方の「電機産業における派遣・請負労働者の活用と課題」が掲載されています。
http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/oz/567/567-04.pdf
これを読むと、最近私が考えていたような、非正規労働者の定着化、能力開発を中心に据えた政策が提起されていて、大変共感するところがありました。
以下、かなり引用が続きますが、ご容赦願います。
「製品需要の変動の増大と不確実化,コスト削減圧力の増大に対応して,人件費の変動費化と固定的人件費の抑制を行うため,外部人材の活用が進められてきた。しかし,請負労働者の定着率の低さゆえに,製品の質の低下,仕事の連携やチームワークの阻害といった,職場のパフォーマンスを損ないかねない問題が生じている。定着率の低さは,人員入れ替えコストの増加,技能形成の不足をもたらし,作業効率を低下させる。」
「外部人材の定着化を促進するための人材マネジメントの体制を整備した請負・派遣会社を活用することが必要である。外部人材に長期勤続のインセンティブを与えるためには,勤続に伴って報酬水準が上がる仕組みを請負・派遣会社が有していることが必要である。外部人材に対する内発的な動機づけのためには,報酬は金銭のみならず仕事内容も含んで考える必要がある。」
「勤続に伴う能力の向上に応じて,より高いレベルの仕事に配置し,そうした能力及び職務レベルの上昇に応じて昇給する仕組みを請負・派遣労働者に適用している請負・派遣会社を活用することが考えられる。給与の構造としては,仕事内容に応じた職務給に,習熟に応じた職能給が上乗せされる形となるであろう。能力は,個人差こそあれ勤続と本人の努力に応じて向上するものであるから,職能給による昇給の仕組みは,勤続への動機づけとなりやすいと考えられる。」
「若年層を中心とする外部人材を,キャリアパスの見えない仕事に配置したまま長期定着させることは,彼らにキャリアパスを用意し,以上のような「能力開発型」の処遇を適用することよりも困難なのではないだろうか。外部人材の定着を望むならば,能力の向上に応じて仕事のレベルが向上していくという道筋を設定することが必要である」
「しかし問題となるのは,ユーザー企業におけるコスト抑制の圧力によって価格競争が激化する中,請負会社や派遣会社が能力開発型の人材管理を適用することが実現可能かどうかである。外部人材に能力に応じた昇給を適用するならば,請負労働者の初任賃金を引き下げない限り,請負料金・派遣料金の増額を行う必要がある。請負料金・派遣料金の増額は,請負業務・派遣業務の付加価値の増大を伴わなければ,ユーザーにとっては単なる外注コストの増加になってしまう。・・・つまり,処遇向上のためには,仕事レベルの上昇を伴う配置転換が重要となる。」
なんとよく似たことを考えているのだろうと、最初は思ったのですが、よく考えてみれば、この木村琢磨さんは、最近の電機連合や東大社研の請負労働者の調査研究の中心的存在として、この分野を引っ張ってこられている方で、私の頭の中にある非正規労働者のイメージも大部分、彼の調査研究がネタになって形作られているところが多いわけで、なんのことはない、同じネタでものを考えているから同じような結論になるのでしょう。
だいぶ前にNHKで「フリーター漂流」という番組が放映され、こういう労働者に対する社会的関心も少しは高まってきていますが、単なる正義感ではなく、企業にとってもフィージブルな形で、社会的により望ましいあり方を模索する試みは必ずしもそう多くはありません。木村さんの議論はもとより企業の人的資源管理の観点からなされているわけですが、これをマクロな労働政策の立場からどう受け止めて、どのように政策展開していくかが問われるところです(だから雇用均等児童家庭局じゃなくって、職業能力開発局がメインになった方が、企業も変に反発しなくっていいと思うんだが)。
ついでに、せっかくですから、こういう製造業の請負労働者の現実の働きぶりをくっきりと浮かび上がらせている一つの裁判例を紹介しておきます。
http://www10.ocn.ne.jp/~karoushi/hanketsu/index.html
これはアテスト(ニコン熊谷製作所)事件です。請負会社から送り込まれた23歳の若者が過労自殺した事案ですが、読みどころはこの上段さんの正社員並みの働きぶりです。クリーンルームで、IC回路パターンの露光・転写装置の検査業務に、昼夜交替のシフト勤務で従事し、2回も台湾に出張して、納入検査をしたりしている。「使い捨てられもせず」「燃え尽きもせず」なんて生やさしいものではない。「フリーター」という言葉は、こういう現実を見えなくしてしまう効果を持っているのではないでしょうか。
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