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2006年3月 9日 (木)

能開法改正案について

昨日に続き、中味の重くない方の職業能力開発促進法の改正案を見ていきます。

http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/164.html

「中味が重くない」というのは、政策的に重要性がどうとかいうこととはちょっと違って、法律としての重さですね。要するに、その政策内容を実現するためには、法律を改正しなければならない必然性があるかどうかという問題で、昨日見た均等法は、使用者に対して特定の行為を禁止するというのが主たる内容ですから、これはもうどうひっくり返っても、法律をいじらなくちゃいけないわけですが、能開法はそういう意味で言えば、別に法律をいじくらなくたってやれることばかり書いてあるわけで、法制局的に言えば、厳密な意味における法律事項はあるのだろうかということになります。

実をいうと、今回の改正案のうち、厳密な意味での法律事項というのは、委託募集の特例くらいでしょう。これは職業安定法によって、「労働者を雇用しようとする者が、その被用者以外の者をして報酬を与えて労働者の募集に従事させようとするときは、厚生労働大臣の許可を受けなければならない」(36条)と原則禁止されているのを、承認中小事業主団体の構成員である中小事業主(認定事業主に限る)が、当該承認中小事業主団体をして認定実習併用職業訓練を担当する者の募集を行わせようとする場合において、当該承認中小事業主団体が当該募集に従事しようとするときには、適用しないという規定ですから、その政策的重要性のなさはともかく、立派な法律事項になるわけです。

しかし、できれば、もう少しまともな法律事項で、法律案を作ってもらいたかった感はなきにしもあらずではありますね。おそらく、当初は、最低賃金法の特例といった政策内容と合致した法律事項を考えていたのではないかと想像されますが、それが途中でうまくいかなくなり、結果的にこういう形に落ち着いたのではないかと想像されます。

ま、それはともかく、政策内容としては、前にこのブログでも取り上げた「実践型人材養成システム」を法律上に明記するというのが最大の目玉ということになります。今回の法律案ではこれを「実習併用職業訓練」と呼んでいます。法律上に定義規定がありまして、「事業主が、その雇用する労働者の業務の遂行の過程内において行う職業訓練と次のいずれかの職業訓練又は教育訓練とを効果的に組み合わせることにより実施するものであって、これにより習得された技能及びこれに関する知識についての評価を行うもの」をいいます。組み合わせの前の方は要するにオンザジョブトレーニング(OJT)であり、後ろの方は各号列記されていて、公共職業訓練、認定職業訓練、その他適切な教育訓練と、まあ何でも入るような書き方になっています。

この実習併用職業訓練自体は、別に今でも誰でもやろうと思えばできるわけで、せっかく法律を作るんだから促進するには何かメリットを作らなくちゃいけません。そこで、まず、事業主の行う実習併用職業訓練が、青少年の実践的な職業能力の開発向上に効果的であるぞよというお墨付き(認定)を貰えるよ、しかもこの認定を受けると、労働者の募集広告でその旨を表示できるんだよ、さらに加えて上記委託募集の特例まであるんだよ、と規定してくれているわけですが、どこまで有り難いのかよくわかりません。

使用者側からすれば、労務コストがどうなるのかが関心事でしょうが、このもとになった「日本型デュアルシステムの今後の在り方についての研究会報告」では「現時点で最低賃金の適用を除外するのは適当でない」と否定してしまっています。その代わりに、「企業にとっては、教育訓練機関で行われる座学に要する授業料等の経費は訓練生が負担することから、OFF-JTに要する経費の負担を求められる「企業主導型」と比べて相当の負担の軽減となる」という説明がされています。

ここのところは、実はよく考えると、本当にそうなるのか検討を要するところでしょう。法律上はそんなことはどこにも規定していないのです。むしろ、新第10条の2は第3章第1節「事業主等の行う職業能力開発促進の措置」に置かれているのですから、企業外で行われる教育訓練の部分も使用者の教育訓練権限に基づくOFF-JTに該当するのではないかという解釈の方が適切な気がします。OFF-JTはどこにやって貰ってもいいわけですからね。そうすると、その企業外教育訓練を受けている時間も労働時間に当たるし、その間の賃金支払義務も発生するようにも思われます。

それが、認定を受けたらそうじゃなくなるんだよ、その教育訓練は労働時間じゃないし賃金もいらないよ、というのは法律構成として十分ありうるところだと思いますが、この法案はそういう風にはなっていないんですね。認定を受けようが受けまいが、実習併用職業訓練という一個の契約類型に変わりはないという前提で書かれているのでしょう(そうじゃないと明記していないのですから、そう理解するしかありません)。そうすると、どうも、認定を受けずに使用者が勝手にこれが実習併用職業訓練だぜいとやっているものであっても、上記デュアルシステム研報告のいう授業料は訓練生負担だということを当然の前提と考えているということになります。

これは、労働契約法理論の観点からどこまできちんと突っ込んで検討されているのか、ちょっと疑問です。古い通達ですが、「労働者が使用者の実施する教育に参加することについては、就業規則上の制裁等の不利益取扱いによる出席の強制がなく自由参加のものであれば、時間外労働にならない」(昭和26.1.20基収2875号)というのがあります。

この仕組みは、そもそもOJTと企業外訓練を組み合わせる有期雇用契約を締結するというものなのですから、自由参加じゃないんでしょう。も少し整理が必要な感じがしますね。

そもそもから言えば、これも前に書きましたが、初期教育訓練コストを誰がどのように負担すべきかという労働経済問題に対して、どういう法制的回答をするかというのが問題の本質であったはずです。長期雇用慣行が一般的であり、それを前提として人事管理をすることができるのであれば、教育訓練期間中の訓練コストや生産性の低い労務提供に対して相対的に高い賃金を支払うことは確かにその時点では企業側の持ち出しになりますが、訓練終了後の生産性の高い労務提供と相対的に低い賃金水準の差によって埋め合わされることになります。

ところが、労働力が流動化してきて、訓練終了後も長期継続雇用されることへの期待が必ずしも持てなくなってくると、このような長期的取引は成り立たなくなり、別途のコスト負担方式を考える必要が出てくるわけです。そのための一手段として考えられたのが今回の実践型人材養成システムだったのではないでしょうか。だとすれば、そこのところはきちんと法制的な整理をつけておかなければならなかったはずです。

なぜここにこだわるかというと、賃金コストの面ではまさに使用者のコスト負担を軽減するという政策目的を実現する必要がありますが、逆に例えばこの企業外の教育訓練受講中に事故に遭ったという場合に、これが労働災害になるかどうかとか、その怪我で休業中に解雇することが労基法19条の解雇制限に引っかかるかとか、そういう面も考えなくちゃいけないわけです。

もっというと、必ずしも今回のような企業外の教育訓練と組み合わせる場合だけでなく、一般的に初期教育訓練期間中の労務コストの取扱い方如何について、旧民法の習業契約まで視野に入れて労働契約法制として総合的に再検討する必要があるはずなんですが、今回の改正案も含めて極めてパッチワーク的なアプローチしかされていないというところに、実は最大の問題点があるようにも思われるのです。

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コメント

はじめまして
社労士の勉強中です。
「この制度は企業にとってどのようなメリットがあるのか?」と考えて調べていたところ、
とても参考になりましたので、引用させていただきました。

トップページをリンクさせていただいてよろしいでしょうか?
今後ともよろしくお願いいたします。

リンクはご自由にどうぞ。
こちらこそ宜しくお願いします。

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