イギリス労使協議規則で初の中央仲裁委決定
昨年、労働契約法制研究会の報告が出されてから、労使委員会の問題が大きく議論されるようになっています。現在のところ、表立って論じられているのは、労使委員会そのものの問題が中心ですが、報告書をよく読めば労働条件の不利益変更にせよ解雇にせよこれは過半数組合とセットで論じられており、「労働者代表としての過半数組合」をどう考えるべきかという労基法と労組法にまたがる大きな問題がここにはあります。
この問題については、私も著書『労働法政策』や、いくつかの文章で若干の見解を述べたりしていますが、つきつめると、労働組合員でない被用者の利益を労働組合が代表するという事態をどこまでどういう形で認めうるのか、という点になるのでしょう。アメリカの場合は、排他的交渉代表制というある意味で特殊な制度を持ち込むことで解決を図っているわけです。これに対し、多くのヨーロッパ諸国は企業外的存在である労働組合と企業内的存在である被用者代表制を並立させることで(実態は組合が牛耳っている場合が多いようですが)この問題を回避しているといえます。この点で、イギリスは今までヨーロッパ型の一般的被用者代表制を持たなかったのですが、EUの2002年一般労使協議指令の採択を受けて、昨年5月から情報協議規則が施行され、やや複雑な仕組みが作られました。これは、被用者の申し出と交渉による設置を原則としつつ、既に存在する協約が要件を満たす場合には、それを認証する投票を行うという仕組みです。これがその規則です。
http://www.opsi.gov.uk/si/si2004/20043426.htm
ちなみに、イギリス通産省雇用関係局のこの規則に関するホームページには、本規則に関するいろいろな情報が載っています。
http://www.dti.gov.uk/er/consultation/proposal.htm
で、ようやく本題に入りますが、本規則施行後初めての事案がこれです。
これはモーレイ市議会(カウンシル)が、既存の組合との間で結んでいる協約とか組合規約とか協議規程が、本規則で言う既存の協約に当たるかが争われたものです。原告のスチュワートさんというのは、この組合員じゃないんですね。で、これでは、承認労働組合の組合員でない者との協議のメカニズムはないじゃないかと異議を申し立てたわけです。
組合との協約では組合との協議しか規定していなくて、非組合員のことは書いていません。カウンシルはニュースレター等で一般職員にも情報を流していたようですが、彼は「俺は協議を受けてねえぞ!このやり方は非組合員を無視してるじゃねえか」と感じたわけですね。
それに対してカウンシル曰く、いやあ被用者関与は大事です、ですから組合と協約を結んだわけで。組合と非組合一般職員を一緒にすると、団体交渉の仕組みに問題が起こってしまいますよ。既存の協約は組合員だけでなく全被用者をカバーしているんです。組合は過半数を組織していますからね。
ふむふむ、法制度はかなり違いますが、なかなか本質的に共通の問題が提起されてきているじゃありませんか。
これに対して、中央仲裁委員会は、当該協約、規約及び規程の文言から、これらが全被用者を対象とするものであると認定しています。そこで組合員と非組合員が特に区別されていないのだから、あんたもカバーされているんだ、と。
次に、労働組合代表が署名したことが被用者による承認と見なしうるか。被用者の過半数が労働組合員なんだから、あんたが組合に入ろうが入るまいが、組合が全被用者を代表してることにかわりねえんだ。
もっとも、こういうふうにスチュワートさんの一番言いたかったことを退けた上で、この協約は中味がなっとらん、情報・協議規則を満たしておらんぞと言って、交渉をやり直せと、スチュワートさん勝訴みたいな結論になっているんですが、争点そのもので見ればこれはカウンシル側の勝ちと見るべきなんでしょうね。
ま、これが直ちに日本の法制にどう参考になるかならないかは、皆様がじっくりとお考えになることでございますが、大変興味深い決定であることは間違いないですね。
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