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2006年2月 2日 (木)

モルガン・スタンレー証券事件判決について

最近、労働時間制度関係の話題が続きましたが、このホワイトカラーエグゼンプションに絡んで、昨年10月に興味深い判決が東京地裁から出されていることをご存じでしょうか。

http://courtdomino2.courts.go.jp/kshanrei.nsf/webview/F484129D552CB38A492570A7002F557A/?OpenDocument

これは最高裁のホームページの裁判例集に既に載っていますが、その中の労働事件裁判例集ではなくて、下級裁主要判決情報というコーナーの方に掲載されています。

これは基本給月額183万円という、すっごい高給取りの「プロフェッショナル社員」だった原告が、早朝ミーティングに参加した時間分の時間外手当を払えと訴えた裁判です。この人、実は別件でクビになり、そっちでも訴訟を起こしているのですが、たまたまその訴訟で、原告が自分は裁量労働制だと言ったら、被告会社がそうじゃないと言ったので、おおそうかい、それなら残業手当を払って貰おうじゃないかということになったといういきさつのようで、あんまり筋のいい事件でもないのですが、とにかく管理監督者でもなければ裁量制も適用されていないという状況下で、時間外も何も莫大な基本給に全部入れ込んで払っていたというこの事件をどう裁いたか。

たぶん、原告は弁護士と相談して、この問題には小里機材事件最高裁判決というのがあって、時間外手当を基本給に含めて払うという合意は、両者がきちんと区分されていなくちゃいけないんだというのを知って、それじゃあ貰えるじゃないかということになったんでしょうね。

東京地裁の難波孝一裁判官は、この原告の反論に対して、まず小里機材事件は時間外手当を基本給に含めるという合意がなかった事件なのだが、まあそこはおいて、拘束力があるという前提で考えてみても、本件はその射程に入らないんだと、次のような理屈を述べています。以下引用。

『労基法37条1項の制度趣旨は,同法が規定する法定労働時間制及び週休制の原則の維持を図るとともに,過重な労働に対する労働者への補償を行おうとするものである。確かに小里機材事件の労働者のように,所定労働時間が決められ,労働時間の対価として給与が定められているような事案においては,所定時間を超えて労働した部分については,使用者はこれをきちんと支払う義務がある。なぜならば,基本給のうち,所定時間労働の対価と所定時間外労働の対価との区別がないとすれば,実際には所定時間外労働をしたにもかかわらず,その対価が支払われないおそれがあり(基本給で支払っているとして),サービス残業を助長し,労基法37条の制度趣旨を没却することに繋がるからである。
 そこで,問題は,本件のような場合にも,労基法37条1項の制度趣旨を没却する可能性があるかという点である。これを本件についてみるに,前記(2)(3)で認定した事実・判断及び弁論の全趣旨によれば,①原告の給与は,労働時間数によって決まっているのではなく,会社にどのような営業利益をもたらし,どのような役割を果たしたのかによって決められていること,②被告は原告の労働時間を管理しておらず,原告の仕事の性質上,原告は自分の判断で営業活動や行動計画を決め,被告はこれを許容していたこと,このため,そもそも原告がどの位時間外労働をしたか,それともしなかったかを把握することが困難なシステムとなっていること,③原告は被告から受領する年次総額報酬以外に超過勤務手当の名目で金員が支給されるものとは考えていなかったこと,④原告は被告から高額の報酬を受けており,基本給だけでも平成14年以降は月額183万3333円を超える額であり,本件において1日70分間の超過勤務手当を基本給の中に含めて支払う合意をしたからといって労働者の保護に欠ける点はないことが認められ,これらの事実に照らすと,被告から原告へ支給される毎月の基本給の中に所定時間労働の対価と所定時間外労働の対価とが区別がされることなく入っていても,労基法37条の制度趣旨に反することにはならないというべきである。
 以上によれば,被告が原告の支給する毎月の基本給の中に所定時間外労働に対する対価が含まれている旨の合意は,有効であると解するのが相当であり,当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。よって,原告の上記主張は理由がない。』

結論としては大変納得できる判決ではあるのですが、理屈として小里機材事件判決と矛盾がないのか、大変難しいところでしょう。なんだか、欧州司法裁判所お得意の司法による立法の先取りをやってるように見えないこともありません。

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コメント

 こんにちは。別件の解雇事件については,連合北海道の機関誌に短評を載せていただいており(別掲),興味深く観察しているところです。賃金事件にもなっていたとは知りませんでした。参考になります。

コメント有り難うございます。
そう、その解雇事件のおまけみたいな形で出てきたものだと思うんですが、論点としてはとても興味深いものを提示していると思われます。

このような大岡裁量が行われてしまうから、ホワイトカラーエグゼンプションの議論が前に進まないのでは無いでしょうか。法は悪法も法として誰の前にも同じ扱いをして、問題が出たら改善していくという形で進めていかないと、(この場合はあの高給取りがおれと同じサラリーマンで括られるんだということ)運用だけで逃げるにはあまりにもひどい話だと思いました。裁量を挟んでも良いのは人権にからむものだけでしょう。

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