フォト
2024年10月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    
無料ブログはココログ

« 欧州労連は中東欧労働者の味方! | トップページ | 今後の労働法政策について »

2006年2月15日 (水)

パートタイム労働者の賃金について

平家さんのブログ、「労働・社会問題」でパートタイム労働者の賃金の在り方が議論になっています。

http://takamasa.at.webry.info/200601/article_25.html

が出発点で、その後いろいろな方々からのコメントに応じて話が発展し、5回目が

http://takamasa.at.webry.info/200602/article_10.html

です。ここで、「男女同一労働同一賃金の原則」という言葉が出てきたので、以下のようなコメントを書き込みました。

平家さんのご説明でだいたい間違いはないのですが、もう少し厳密に言いますと、日本の実定法上「同一労働同一賃金」を定めた規定は(若干の留保を伴って)存在しません。労働基準法第4条をごらん頂ければわかるように、ここに定められているのは男女同一賃金であって、同一労働又は同一価値労働に対する同一賃金ではないからです。
この規定ぶりには理由があります。実は審議会に出された原案では「同一価値労働同一賃金」になっていたのです。ところが、労働側からそれでは生活給の思想と矛盾するというクレームが付き、女性であることを理由とする差別だけを禁止しようと言うことになりました。

ところが、その後50年代、60年代にかけて、経営側や政府から職務給制度への移行が慫慂され、同一労働同一賃金原則が叫ばれる時代が続きます。間違えないでください。経営側や政府がそういっていたんです。そして、1967年にはILOの男女同一価値労働同一賃金を批准しちゃっているんです。その時に労働省の官房長は、年功制から同一賃金制へと変えていくんだと答弁しているんですね。
考えようによっては、これは解釈による立法改正を行ったのだと見られないこともありません。批准したILO条約の国内における効力をどう考えるかにもよりますが、少なくとも当時の政策当事者は日本的雇用システムを否定的に考え、それを欧米型に変えていくべきだと考えていたのでしょう。

ところが、これが1970年代に大きくひっくり返るのです。日本的雇用システムを維持し、より強化する方向に政策の舵が切られ、同一労働同一賃金なんて、そんな古くさいアホな話は誰からも相手にされなくなってしまいます。ちょうどこの頃国連から男女平等の動きが及んできましたが、みんな男性正社員と同様のキャリアパスに乗って年功賃金制を享受できるようにすべきだという発想で、同一労働同一賃金を基盤にして男女平等を論ずるという欧米で一般的な問題意識はほとんど見られませんでした。まあ、これが時代精神というものなのでしょう。

で、パートの問題となるわけです。

男女平等と同じ路線で行くのなら、パートにも年功制を、とか、短時間正社員を作ろうとか、そういう基幹化モデル路線ということになります。しかし、これで救われる人はそんなに多くない。

では、再び同一労働同一賃金原則のお出ましか?これは賃金制度を根本的に作り替えるという話ですから、口で言うほど簡単なものではありません。本気でやるのなら、相当数の中高年正社員の賃金を引き下げなくちゃいけないでしょう。リップサービスはあっても、現実にはまず不可能。

その後、ここにコメントされているrascalさんの主たる問題意識が若者の問題にあることから、次の6回目の

http://takamasa.at.webry.info/200602/article_11.html

では、次のようなコメントを書き込みました。

rascalさんの言われる「若年者の就業機会の問題を経路とした問題提起」の観点からは、賃金のみに着目して同一価値労働同一賃金原則の泥沼にはまってしまうよりも、能力開発機会や能力評価システムの問題として設定した方がフルートフルなのではないかというのが、現時点での私の考え方です。
もちろん、現実のフリーターの働き方は千差万別で一概には言えませんが、かなりの程度職場の基幹的な作業に従事するようになっているとすれば、それをきちんとキャリアとして認め、次のステップにつながっていくような仕組みを作ることが重要なのではないかということです。

そもそも、日本の企業内教育訓練システムは、OJTで様々な仕事を経験させ、そうやって幅広い技能形成をさせる仕組みですが、それを社内的にキャリアと認める仕組みがあるからうまく回っているわけです。西欧的な資格社会では、何年この仕事をしたというだけでは資格にならないのですが(最近少しそういう動きが出てきていますが)、日本ではそれを内部労働市場で認めて、その積み重ねを熟練形成と認めて年功制のもと賃金にも反映させてきています。
ところが、フリーターはそのメカニズムから排除されているために、実質的には職場の正社員と同じような仕事を積み重ねていってもそれがキャリアにならない。そこのところに、何らかの公的な関与の余地があるんではなかろうか、少なくとも賃金制度そのものを抜本的な改めましょうなどと言う世界同時革命待望論ではなく、漸進的な改革の余地があるように思われるのです。
上記ブログで「フリーターにもキャリア権を」というようなことを述べたのも、そんなイメージからです。

この問題はいろいろな問題が絡み合っていますので、さらに議論が深められていくことが大事だと思います。

« 欧州労連は中東欧労働者の味方! | トップページ | 今後の労働法政策について »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: パートタイム労働者の賃金について:

» [経済・社会]「パートタイム労働者の賃金」(労働、社会問題)へのコメント [ラスカルの備忘録]
(追記)思いの外、議論が拡張しつつあるので整理します。 「大橋勇雄・中村二朗『労働市場の経済学』有斐閣」(もじれの日々):話の発端となった書籍の本田由紀先生による紹介。 「パートタイム労働者の賃金 その1」(労働、社会問題):平家さんによる最初のエントリー。その後、シーラカンスさん、労務屋さん、fhvbwxさんが議論に参加。 「パートタイム労働者の賃金 その4」(労働、社会問題):rascal参加。その後、hamachan先生が議論に参加。 「パートタイム労働者の賃金 その6」(労働、社会問題):r... [続きを読む]

« 欧州労連は中東欧労働者の味方! | トップページ | 今後の労働法政策について »