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2006年2月20日 (月)

EU委員がドイツに最低賃金導入を勧告

ここ数年来EUを騒がしてきたサービス指令案と国内労使関係制度との関係については、スウェーデンのラヴァル事件を例にとって若干お話ししてきましたけれども、もっとでかい話につながってきているようです。

17日のドイツ紙Die Weltによると、欧州委員会のフェアホイゲン副委員長(ドイツ人)は、同紙に対して、ドイツは最低賃金制度を導入することを勧告したと伝えています。

http://www.welt.de/data/2006/02/17/846998.html

意外に思われるかも知れませんが、ドイツには法定の最低賃金制度というのは存在しません。苧谷秀信『ドイツの労働』(日本労働研究機構)によると、「ドイツでは、労働組合と使用者団体との自主交渉を中心とする労使自治の考えが根強く、日本の最低賃金制度のような行政機関による監督を予定し、かつ、罰則で担保するような制度は(一部を除いて)存在しない。第1章で前述した労働協約法による一般的拘束力宣言がなされれば、未組織労働者にも労働協約賃金が適用されるが、この違反については行政機関の監督や罰則の規定の適用はなく、労働者が従業員代表委員会への苦情申し立てや労働裁判所に民事裁判を提起することで是正される。」ということです。

サービス指令案に対して労働者側が労働条件低下をおそれるのは、最低賃金制度がないからだろう、それならきちんと作ればよいではないか、という論理です。イギリスはちゃんと最低賃金制度があるが、失業を増やすどころかかえって雇用が増加している、と。欧州議会のドイツ人議員も似たようなことを言っているようですし、ミュンテフェリンク労働相も最低賃金制の導入に前向きなようです。

しかし、これは考えてみれば大変皮肉な話です。国家による権力的規制ではなく、労使による自主的規制というよりソフトなシステムを選択してきた社会が、市場原理の強化によってかえって国家権力の強化を余儀なくされているわけですから。一般的拘束力制度すらなく、全てを労使の自主性に委ねてきたスウェーデンがラヴァル事件で苦悩しているのと、似たような話といえましょう。

この辺の、市場原理の強化が却って国家規制を強化し、結果的に中間集団レベルの自成的秩序の力を弱めてしまうというパラドックスに対して、日本の関係者ももっときちんと向かい合う必要があるように思います。日本の場合も、特にかつて竹中現総務相が中心的に執筆した『日本経済再生への戦略』の中で、日本型雇用・賃金システムは護送船団でモラル・ハザードだ、自己責任と自助努力にせよ、それでこぼれ落ちたら国のセーフティネットだという乱暴な議論を展開し、世の中そういう方向に向かっているように見えますが、そうやって自成的な秩序形成を破壊していけば、今のところはまだ脳天気な規制緩和論が元気なようですが、必ず規制強化の揺り戻しがきますし、その時にはゆっくりと自発的な形でなどというとこでは収まらず、より直裁的に国のセーフティネットを強化せよという方向に走ることになり、結果的により柔軟性に欠け硬直的な国家規制が肥大化していくことになりかねません。

まあ、日本の話はここでは余計ですが、そういうパラドックスをくっきりと浮かび上がらせたという点に、今回のサービス指令案の最大の功績があるように思われます。そして、EUの場合、ヒト、モノ、カネの自由移動が至高の原理原則である以上、サービス指令案の原則を否定せず、かつ国家規制に過度に頼らない労使の自主的秩序形成を維持するためには、やはりEUレベルの労使交渉システムという方向を目指す以外にはないのではないかという気がします。私の希望的観測を込めてではありますが、そういう方向への動きを見つめていきたいと考えています。

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