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2006年2月13日 (月)

EUの貧困・社会的排除対策の方向

9日のエントリーの詳報ということで、この「労働市場から最も遠い人々の積極的な統合」で提起されている政策の方向性をメモしておきます。

これは、ここのところ各新聞や雑誌などで思い出したように取り上げられている格差問題、貧困問題に対して、だから生活保護やいろんなセーフティネットを拡充しなくちゃという第一次的反応のその1歩先にある、そうやってカネばっかりやってたら働かない怠け者になるからしっかり働かせろという第2次的反応の議論の、そのまたもう一歩先でやらなければいけない第3次的レベルの議論を今から考えておく上で大変有効なものです。

この文書の第1部では、まず各加盟国レベルにおける様々な措置が、続いてEUレベルにおける措置が概観された上で、次のような基本的な認識が示されています。すなわち、雇用が多くの人々にとって社会的排除に対する主要な防護である以上、労働市場への統合が枢要な目的であり、長期的に「それ自体としてペイする」(pay for itself)唯一の措置であると述べています。

給付については、たとえば、資産調査付きの給付は労働供給に悪影響を与えますし、在職給付はこの危険は少ないですが、低賃金雇用機会に依存することになります。

労働市場から排除されている最も脆弱な人々をいかに労働市場に統合していくかというのが最大の課題であることはいうまでもありません。その際、民間企業における職業訓練や通常の労働と同様の活性化措置が最も見込みのあるアプローチであり、若年者や社会経験の少ないものほどこれが役に立つという評価がされています。そして、こういった活性化措置は短期的な雇用への効果だけで判断されるべきではなく、社会的孤立化から脱し、自尊心や仕事や社会に対するより積極的な態度を回復するのにも役立つのだと指摘しています。ここのところはまさにワークフェア政策です。

しかし、単純なワークフェアの唱道にとどまっていないのは、これとともに、仕事に就けるようになる前提条件として、十分な社会的サービスへのアクセスにも注意が払われるべきだと述べているところです。

要約すれば、①雇用機会や職業訓練を通じた労働市場とのリンク、②尊厳ある生活を送るのに十分な水準の所得補助、③社会の主流に入っていく上での障壁を取り除くためのサービスへのアクセス(具体的にはカウンセリング、保健医療、保育、教育上の不利益を補うための生涯学習、情報通信技術の訓練、心理社会的リハビリテーションなど)の3要素を結合した包括的な政策ミックスが求められると主張しているのです。この文書では、これを積極的な統合(active inclusion)と呼んでいます。貧困と社会的排除をなくすには、これら全てが互いに結合することが必要だというわけです。

社会の主流に入っていくための社会的サービスという視点は、日本では残念ながら現在のところまだあまりきちんと確立されているとは言い難いところがあります。というか、今までは、福祉事務所の仕事は自立できるような人は最初から福祉に入れないことでしたし、最近になってようやく自立支援というタイトルのもと就労支援の試みが始められましたが、ここのところのノウハウというのは実のところ職安にもなければ福祉事務所にもないというのが実情でしょう。

一昨年12月に、厚生労働省の社会保障審議会生活保護制度の在り方に関する専門委員会の報告書が出され、「利用しやすく自立しやすい制度へ」の見直しが打ち出されましたが、今までの資産活用要件などの見直しが中心で、ではこれから何をやっていくのかというところはまだこれからの議論という感じがします。

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/12/s1215-8a.html

この問題は失業給付や最低賃金制度といった問題とも絡んできますから、労働関係の方々の積極的な発言も期待したいところです。

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