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2006年1月13日 (金)

年次有給休暇の法構造

本日、『水野勝先生古希記念論集 労働保護法の再生』(信山社)をいただきました。

21編の力作が並び、いずれも気楽に読めるようなものではないので、これからじっくりと勉強していきたいと思います。

その中で、労働法政策という観点から興味深く、私の関心事項と重なる論文として、畠中信夫先生の「『過労死』防止という観点から見た年次有給休暇制度に関する一考察」があります。労働基準法の多くの規定がわが国社会に根付いていった中で、この60年間どうしても成長しきれなかったものが年次有給休暇制度であるとし、その実態を概観した上で、その原因が、年休というものは労働者側からアクションを起こさなければ使用者に付与義務が発生しないという解釈にあると述べています。

これは最高裁の白石営林署事件で定式化された考え方ですが、畠中先生は「一見美しいが、しかし、何かおかしいのではなかろうか」と述べ、これでは使用者の付与義務が宙に浮いてしまい、年休制度がいつまでも日本社会に根を下ろすことがなかったのは、この点にこそ原因があったのではないかと指摘されます。

そして、欧米諸国の年休取得方法を概観し、いずれも従業員の希望をもとに年休計画を定めるものであることを確認した上で、実は日本の法制も、かつてはそうなっていたのだということを示されます。

1954年に廃止されるまでの労働基準法施行規則第25条は、「使用者は、法第39条の規定による年次有給休暇について、継続1年間の期間満了後直ちに労働者が請求すべき時季を聴かなければならない・・・」と規定していました。すなわち、年休付与義務を負った使用者は、労働者の意向を聞いて、年休付与計画をまとめ上げ、これにより計画的に年休を付与していくというのが、労基法施行当初に描かれていた姿であったというわけです。

このことの傍証として、労基法制定過程において、当初の請求権規定から付与義務規定に改められていること、想定問答集に「年次有給休暇を与えなかった使用者に対しては違反が成立する」とあり、労働者からのアクションがなくとも、能動的な付与義務の違反を考えていたこと、施行通達にも使用者に積極的に与える義務があることを強調していること、を挙げています。

ところが、この施行規則第25条は、1954年に削除されてしまいます。このときのいきさつは、畠中論文ではあまり詳しく述べられていませんが、実はこの時期、労働基準法の労働時間規定は、使用者側からの規制緩和要求の猛烈な圧力の下にあり、小規模企業は適用除外にしろとか、法定労働時間は10時間にしろとか、休日は月1回にしろとか、そういう圧力の中で、とにかく法律本体の規定は守り抜くという政策で、なんとか省令改正だけで乗り切ったというのが実情でした。

そういういきさつもあって、このときの省令改正は政策的にその方が適切であるからそうなったとは必ずしもいいがたいものがあります。この25条の削除はその典型例と言えるでしょう。畠中先生は、「この規定の削除は、単なる規則改正にとどまるものではなく、日本の年休制度のその後の発展の息の根を止め、結果として、日本の労働者の多くがゆとりのない、時には『過労死』にすら脅えざるを得ないような生活を余儀なくされるようになったという意味で、かえすがえすも悔やまれるところである」と評されています。

とはいえ、削除されてから半世紀が経過し、最高裁で判例法理が確立している以上、いまさら一片の省令でやれる話でもないだろうとして、基準法本体にかつての規則25条と同じ条文を設け、さらに退職時に未消化年休に相当する金銭の支払いを義務づけることを提案しておられます。この点については、私は畠中先生に賛成です。

ちなみに、この1954年省令改正では、外にも、36協定の3ヶ月制限(16条)、就業規則の届出に労働協約を添付することなど、法令に根拠がないからという理由で削除されている規定が結構あります。法律そのものは変わらなかったとしても、こういう一見技術的に見える規定が失われることによって、年休ほどではないにしても、日本の時間外労働の在り方や、就業規則の在り方に、見えない形で深刻な影響を及ぼしているのかも知れません。

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