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2005年12月26日 (月)

解雇と有期契約について

平家さんという方が開いておられる「労働・社会問題」というブログで、雇用保護に関する興味深いご提案がありました。

http://takamasa.at.webry.info/200512/article_20.html

一応、労働法の片隅に棲息する身として、若干のコメントをしました。そのコメントの部分を以下に転載しておきます。

平家さんのご提案について、まじめに考えてみましたが、現在の労働法理論を前提とする限り、事態に変化はないように思われます。
ご提案は、無期契約でありながら、1年ごとに解雇する権利を行使できる特別の契約類型ということになろうかと思われますが、そもそも無期契約というのは、解雇できない契約ではなく、いつでも解雇できる契約であるという民法の大原則は、現在においてもなお否定されているわけではありません。
「解雇権濫用法理」は実態的には限りなく「正当事由がなければ解雇できない」法理に接近しているとは言え、「権利の濫用」とは権利の存在を前提とするものであり、要は、1年経過しようがしまいが、使用者は労働者をいつでも解雇する権利を持っているのです。そして、「濫用」という以上、これは法理論的には例外的状況であって、厳然と存在する権利を行使したんだけれどもやっぱりいろいろ考えると都合が悪いから、「濫用」という葵の御紋を出して無効にするという論理構成ですから、平家さんご提案の特別の契約においても、やはりその1年ごとの解雇権を行使したことも、この濫用法理の射程に入ってしまいます。
では、これをちょっといじって、1年ごとに行使できる解雇権は濫用という司法判断をすることができない特別の契約とするというのはどうでしょうか。これは、三権分立の建前からすると不可能でしょう。
全く考え方の方向を変えて、そもそも一般的に正当な事由なく解雇することはできないと禁止規定をおいた上で、この規定を一定の場合に除外する特別の契約類型を創設するというのは可能なように思われます。しかし、これは土俵そのものを(実態はともかく法理論上は)大転換するものですから、そう容易ではないでしょう。

ではおまえはどう考えるのか?というご質問が出ようかと思います。
ここで全面展開はできないのですが、ごく簡単に言えば、有期であろうが無期であろうが、全て勤続年数に比例した補償金を払って金銭解決をするというのが、もっとも簡便な解決策であろうと考えています。もちろんその額は、金払ってクビ切った方が得だと思わせるような水準ではいけませんが。

これに対し、「hamachanさんのコメントに対するお返事 」という文章がアップされ、

http://takamasa.at.webry.info/200512/article_25.html

これに対しさらに私のコメントを以下の通り書きました。

前に書いたことの繰り返しになりますが、現行法に基づく無期契約も、「解雇できる」契約なのです。いつでも解雇できる契約なのです。それが公序良俗に反しないのですから、平家さんのお考えの契約類型ももちろん有効です。それは、12ヶ月たつまで解雇できる権利を自ら制約したという点で、有期契約に似た面を持つ無期契約ということになります。
その12ヶ月目に行使した解雇権の濫用かどうかの判断において、おっしゃるように「予め合意が存在している場合と合意がない場合では、判断を変えるべき」という考え方に立って判断される可能性もあるだろうと思います。それは、現在の無期契約だって、別に一律の判断でやっているわけではなく、個別の事情をにらんで濫用かどうかを判断しているわけですから。
ただ、いずれにしても、契約として無期契約である、すなわち12ヶ月目に自動的に切れるわけではなく、使用者側からの解雇の意思表示が必要であるという点において、最終的にはその有効無効が裁判官の判断に委ねられるわけです。
使用者が有期契約を選好する最大の理由は、この点が攻守ところを変えること、すなわち解雇の意思表示を要することなく雇用関係が終了するところにあるわけですから、法制度を変えない限り、使用者が有期雇用にしておきたいというインセンティブをなくす効果は少ないように思われます。

この問題の混乱の原因は、本来例外的な伝家の宝刀であるはずの権利濫用法理を、ごく一般的な事態に適用される原則的な法理として活用してきてしまったという、法律論としての転倒にあります。
解雇が一般的に可能であるということを前提として、権利濫用法理で制約する方が、正当な理由なき解雇を一般的に禁止して、正当な理由ある場合にのみこれを解除するよりも、企業にとって自由度が高いように見えますが、逆に後者の方が、解雇権が行使できる範囲が明確になって、予測可能性が高まるという(企業側にとっての)メリットがあるのです。
しかし、そこは朝三暮四というか、なかなか納得しにくいのでしょうね。

なお、この平家さんのブログは、労働・社会政策の広範な分野にわたって、大変興味深い指摘が多く、私がいつも真っ先に見ているブログの一つです。

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