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2005年11月

2005年11月30日 (水)

ドイツのハルツ法は年齢差別!?

まずはじめに確認しておくが、ドイツはまだEU一般均等指令に基づき年齢差別を禁止する国内法を制定していない。これは指令自体が認めていることで、2006年12月3日が最終施行期限であって、ドイツ政府は既にこの旨を欧州委員会に通知している。

ところが、去る2005年11月22日、欧州司法裁判所はドイツのいわゆるハルツ法が同指令に反するという判決を下した。Werner Mangold v Rudiger Helm 事件(C-144/04)である。

http://curia.eu.int/jurisp/cgi-bin/form.pl?lang=en&Submit=Submit&docj=docj&numaff=&datefs=&datefe=&nomusuel=&domaine=&mots=age+discrimination&resmax=100

ここで問題になったのは2002年のハルツ委員会報告に基づいて制定された労働市場現代化法、通称ハルツ法の中の、有期雇用契約を理由の制限なく締結できる最低年齢を58歳から52歳に引き下げるという条項である。

ドイツでは、原則として有期雇用の締結には合理的な理由が必要であるが、高齢者雇用の促進という政策目的からこれを一定の年齢層について緩和したわけである。

2003年1月から施行されたこの法律に基づき、56歳のマンゴルトさんは8ヶ月の有期契約で雇われたのだが、これがEUの有期労働指令及び一般雇用均等指令に反すると訴えた。ミュンヘン労働裁判所はEU指令の解釈なので直接欧州司法裁判所に付託したという経緯である。

前者の有期労働指令については、別に違反しないよと片付けている。

問題は後者の一般雇用均等指令の未施行の年齢差別規定だ。

本指令第6条は、「適法な雇用政策、労働市場及び職業訓練の目的を含む適法な目的により、客観的かつ合理的に正当化され、かつその目的を達成する手段が適切かつ不可欠である場合には、年齢に基づく待遇の相違は差別を構成しない」と規定している。この後に例示列挙としていろんな適用除外が並んでいるので、まあ何でも許されるのかなという印象を与えてしまうのだが、欧州司法裁判所はこの柱書きの限定を厳格に解釈し、ハルツ法はダメだというのだ。

なぜかというと、52歳に達した全ての労働者について無差別に、契約締結まで失業していたかとか失業期間がどれくらいかといったことに無関係に、有期契約を認めているからだ。

労働市場や個人の状況を考慮することなく、年齢のみを唯一の基準にして有期雇用を認めるのは、第6条が認める客観的な目的の範囲を超えるというというのである。

本指令がまだ施行期限に至っていないこと、ハルツ法が2006年12月31日(施行期限の1ヶ月弱後)までの時限法だからといっても、やっぱりダメだというから厳しい。加盟国は指令採択後はその施行期限前といえども、指令に反するような立法をすることを差し控えなければならないというのだ。しかも今回は本来の施行期限を特例で延ばしたものだからと、特に厳しい。うーん、そうかなあ。

これに加えて(というか、上の理屈だけでは弱いと思ったのか)欧州司法裁判所がいうには、年齢に基づく差別禁止の原則はEU法の一般原則と見なされなければならない。この一般原則の遵守義務は、施行期限の到来が条件とはならない。で、この一般原則が十全に効力を有するように確保するのは国内裁判所の責任だと、EU法に反する国内法は退けてしまえと、こういう結論になる。

法律の施行前に判決が出てしまったぜよ。今の時点でこういう判決が出るとは正直予想していなかったなあ。欧州司法裁判所が偉いというのはわかっていたつもりだが、ここまで偉いとは知らなかった(皮肉でなく)。国内法の施行前に話をルクセンブルクに持ち出したミュンヘン労働裁に乾杯。

内容的にも、年齢差別禁止の例外規定にかなりの枠をはめたものといえるだろう。雇用政策といえどもきちんと合理性と相当性を判断すると宣言したわけで、国内法の合指令性をめぐって怒濤のような訴訟が吹き出してくる可能性も考えられる。

2005年11月28日 (月)

労働時間の通算

イギリスのストロー外相が、欧州議会で興味深い演説をしている。

http://www.fco.gov.uk/servlet/Front?pagename=OpenMarket/Xcelerate/ShowPage&c=Page&cid=1007029391647&a=KArticle&aid=1131975367895

最後に近いあたりで、EU労働時間指令の話を持ち出し、これは安全衛生だろう、イギリスは安全衛生については立派なもんだぜと自慢しておいて、宿敵フランスの攻撃にかかる。曰く、

いくつかの欧州のパートナーは、正当にも-と私は信じるが-、労働時間が労働者ごとにではなく、契約ごとに適用されている国があると懸念を表明している。これは、複数の職を持つ労働者が48時間以上、全く規制もされず、保護もされないで働くことができるということを意味する。これは安全衛生あるいは雇用慣行の観点からは意味をなさない。

これら諸国のいくつかは、労働時間指令に対して公然と厳格なアプローチを主張している国でもあるのだ。話が自国の規制になったら、ごまかしってわけだ。

これはこの欧州議会に関わる問題だ。我々は、全ての労働市場に適合した指令の実施方法を見いだす必要がある。全ての労働者がまっとうな雇用上の権利を享受し、誰も「グレイ・エコノミー」に押し込まれることのないようにしなければいけない・・・。

話の文脈はもちろん、イギリスに認められた48時間労働のオプトアウトを維持すべきということなのだが、偉そうにイギリスの長時間労働を批判するフランスの偽善ぶりを暴露するのに、複数雇用契約の場合の労働時間通算の問題を持ち出しているところが面白い。

なんてったって、EU労働時間指令は安全衛生法規なのだ。こっちで8時間、あっちで8時間、それで問題ありませんってのは、筋が通らないでしょうってのは、動機の不純さは括弧に入れても正論といわざるを得ない。

と、これだけで話は終わらない。なんてったって、こなた極東の長時間労働国では、いままで複数就業者の労働時間を通算するというふうにしていたのを、外そうという話になってきているのだ。9月に発表された労働契約法制研究会報告では、兼業制限を原則無効とする関係で、この通算を外そうと提言しており、不思議なことに、この報告の基調に批判的な人までがこの点だけは妙に評価していたりする。

だいたい契約法で安全衛生に関わる労働時間を下手にいじること自体に問題があるわけだが、それ以上に、個人の自由とか自己決定とかいう大義名分がつくとお犬様のお通りになってしまう風潮に問題があるんじゃなかろうか。

日本より遙かに個人主義的なはずの極西の長時間労働国の外相の皮肉たっぷりの言葉に、いろいろと考えるところがあった。

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