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2020年8月11日 (火)

自営業者の社会的保護@『Work & Life 世界の労働』2020年第4号

Worklife 日本ILO協議会の刊行する『Work & Life 世界の労働』2020年第4号に、「自営業者の社会的保護」を寄稿しました。

https://iloj.org/book.html

近年、個人請負やフリーランスといわれる労働者に類似した自営業者が注目を集めている。厚生労働省は、2017年10月から「雇用類似の働き方に関する検討会」を開催し、2018年3月に報告書をまとめた。この報告書は2018年4月に労働政策審議会労働政策基本部会に報告され、同年9月に部会報告「進化する時代の中で、進化する働き方のために」がまとめられ、翌10月に「雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会」が設置され、検討が進んでいる。一方、2020年始めから世界的に急速に蔓延しパンデミックとなった新型コロナウイルス感染症への緊急対策が続々と打ち出される中で、雇用労働者と比べた自営業者への様々な保障の手薄さがクローズアップされ、急遽子どもの通う学校の休校に伴う「小学校休業等対応支援金」が自営業者向けに設けられたが、その1日当たり4100円という額が雇用労働者の1日当たり8330円(上限)と比較して低すぎるではないかという批判(現在はそれぞれ7500円、15000円となっている。)がされたことも記憶に新しい。

 今日この問題がホットなテーマとなっているのは、いうまでもなく第4次産業革命ともいわれる急激な情報通信技術の発展により、これまで雇用契約の下で遂行されてきたさまざまな業務が、プラットフォーム経済、ギグ経済、クラウド労働等々の名称の下、法形式としては個人請負等の自営業として行われる傾向が世界的に高まってきたからである。産業革命以来の200年間、先進諸国は中長期的に継続する雇用契約を前提として、労働者保護法制や社会保障制度を構築してきた。これが逆転し、雇用契約が収縮していくとすれば、自営業として働く人々をどのように保護すべきなのか?というのが、今日世界共通に問われている問題である。・・・

 さて、今号の目次は次の通りですが、

■新型コロナが浮き彫りにした課題
●自営業者の社会的保護 濱口桂一郎
●フランスのテレワーク  〜週 2 日のテレワークが労働生産性を高める〜 村田弘美
●新型コロナウイルスと仕事の世界 ILO グローバルサミット ILO 駐日事務所
■海外労働事情
●ウクライナの労働事情〜海外出稼ぎ労働の現状と背景〜 星野裕一
●大使館勤務を通して感じたインドの労働事情についての考察 浦誠治
■新旧・ILO 駐日代表あいさつ
●新代表 高﨑真一
●退任 田口晶子
■ ILO の動き
●ILO COOP 100 ILO 創設期における協同組合に関する構想 和氣未奈
●I2020 年の児童労働反対世界デー:新型コロナウイルス流行の中で  今はより一層子どもたちを児童労働から守ろうと呼びかけ ILO 駐日事務所
■コラム  矢野弘典
■編集後記 亀岡秀人 

リクルートワークス研究所の村田さんが、フランスのテレワーク事情について書いているのが、現下の話題に即して興味深いところです。

・・・また欧州では、ドイツ、英国などが自宅で働くことを権利として保障した「在宅勤務権」について検討を始めている。本レポートでは、いち早くテレワークの権利を認めたフランスのテレワーク導入への取組みと、労働生産性との関係、日本への示唆について述べる。・・・

 

 

 

2020年8月10日 (月)

香港に栄光あれ(願榮光歸香港)

Chou_20200810232501 香港の民主活動家周庭さんらが逮捕されたという報道を見つつ、

https://mainichi.jp/articles/20200810/k00/00m/030/275000c周庭氏を逮捕 民主活動家、「雨傘運動」リーダー 国安法違反容疑で香港警察

複数の香港メディアによると、香港警察は10日、著名な民主活動家、周庭(英語名アグネス・チョウ)氏(23)を香港国家安全維持法(国安法)違反容疑で逮捕した。警察は同日、民主派の香港紙「蘋果日報」などを発行するメディアグループの創業者、黎智英(れいちえい)氏(71)や同紙幹部ら7人も国安法違反などの疑いで逮捕しており、民主派への取り締まりを本格化している。・・・

9784784513680_20200810232501 本ブログでこの本を紹介したのはほんの半年ちょっと前であったことが嘘のようです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/11/post-6c78f7.html周保松・倉田徹・石井知章『香港雨傘運動と市民的不服従』

・・・それにしても、本書は何というタイミングで出版されたのでしょうか。本書はタイトル通り、5年前に香港で起こった雨傘運動について論じた本です。

その主要部分は、香港の政治思想学者であり、雨傘運動にも参加した周保松さんが昨年明治大学で行った講演録です。

おそらく本書の出版企画が始まったころは、香港が今のような状況になるなんて関係者のだれも予想すらしていなかったでしょう。

これこそ人智を超えた天のめぐり合わせというものかもしれません。・・・

その「今のような状況」が、武漢発のコロナウイルスを奇貨として、一気に現下のような状況に急転直下一変してしまうのですから、一寸先は闇というものです。

このエントリに張り付けたこの歌も、いまや香港では口にすることも禁じられた禁断の歌となってしまったようです。

 

 

 

 

 

 

 

2020年8月 9日 (日)

コダックの倒産は何の教訓か?

Bed83_1238_518370fcdb0d69b870df834ff055c ちょっと前の記事ですが、経産省の中野剛志さんが、倒産したコダックと発展している富士フイルムを取り上げて、「だからジョブ型はだめなんだ、メンバーシップ型がいいんだ」という議論を展開しています。

https://news.livedoor.com/article/detail/18460029/

まあ、いつもの中野流の議論ではあるんですが、取り上げられている会社の名前が名前だけに、一言コメントしておく必要を感じました。

・・・・さて、わが国の企業は、従来、職務権限があいまいであるがゆえに、能力の低いメンバーが温存されがちだという批判がされてきた。確かに、わが国の企業は、オーディナリー・ケイパビリティ(効率性)の点では、職務権限が明確な欧米の企業に劣るのかもしれない。しかし、ダイナミック・ケイパビリティの観点からは、職務権限があいまいな「柔軟な組織」の方が、逆に有利なのである。
言い換えれば、これまでわが国の企業の弱点と見られてきた組織構造が、不確実性がニュー・ノーマルとなった世界においては、むしろ長所に転ずる可能性があるということである。・・・・ 

この記事を読めば、おそらく100人中100人までもが、コダックという会社はいかにも典型的なジョブ型の会社で、それゆえにあかんようになったという印象を持つでしょう。実際、中野さん自身もそういう先入観でもってこの記事を書いている可能性があります。

ところが、労働研究の世界でコダックと言えば、滔滔たるジョブ・コントーロール型労使関係に一人背を向けて、1920年代の福祉資本主義(ウェルフェア・キャピタリズム)の精神を断固として守り続けた会社なのです。

51w7pkhg2l かの有名なサンフォード・ジャコビーの『会社荘園制』が、アメリカの中の異端中の異端企業として取り上げたコダックこそが、「経営者という"領主"が会社という”領地”に社員を囲い込んで、安定雇用と内部昇進を保障し、手厚い給与と福利厚生を与え、会社自体を協同体にしてしまう」会社荘園制の典型例なのです。

そのコダックがあっさりとつぶれてしまったゆえんは何なのか?こそが、来月早々にも本屋さんに並ぶ予定の、濱口桂一郎・海老原嗣生『働き方改革の世界史』の第10講「メンバーシップ型アメリカ企業の雌伏、栄光、挫折」のテーマです。

第10講 メンバーシップ型アメリカ企業の雌伏、栄光、挫折 
サンフォード・ジャコービィ、内田一秀・中本和秀・鈴木良治・平尾武久・森杲訳『会社荘園制』
【受講準備】外界と隔絶された共同体
【本講】非主流派、少数企業の物語/福祉資本主義の崩壊からアメリカ型内部労働市場システムへ/日本型雇用に酷似/現場管理者の権力を削ぐ/コダックの協和主義/雇用と所得、どちらが重要か/コダックと富士フイルム

今の日本の知的状況というのは、まずきちんと物事をよく調べてじっくり考えようというよりは、まず初めに結論ありき、「ジョブ型が絶対に正しい」にしろ、「メンバーシップ型が絶対に正しい」にしろ、とにかく初めに価値観に基づく結論ありきで、それに合わせて事実を叙述したがるという浅薄な知的風潮が瀰漫していますが、そういう真の意味での知性とは正反対の風潮に疑問を感じられる方こそ、ぜひ今回の新著を読んでいただければと思います。

メリーゴーラウンドのように読者の認識と価値感を右に左に引きずり回し、安易な「これが正しい労使関係だ」に安住させないことを目指していますが、それを不快と感じる怠惰な精神の持ち主であるか、むしろ快感と感じてのめりこんでこられるか、読者自身も試される一冊です。

 

 

 

2020年8月 8日 (土)

だったら立憲国民党でいかが

なんてったって、憲政の神様こと犬養毅の政党ですよ。

20180129194308

2020年8月 6日 (木)

争議行為を伴う争議、遂に50件を切る

本日、令和元年(2019 年)労働争議統計調査の概況が発表されました(なぜかページには平成14年とありますが)。

https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/14-r01-08.pdf

毎年じわじわと減り続けてきた争議行為を伴う争議件数、前年の58件からついに50件台を割り込んで、49件になってしまいました。

一応、総争議件数は268件(これも激減してる)となっていますが、その差の「争議行為を伴わない争議」ってのは、要するに口先だけの争議であって、この調査では「争議行為を伴わないが解決のため労働委員会等第三者が関与したもの」と定義していますが、ストライキなどのなにがしか使用者側をチクリとでも刺すような真似は全くなく、労働委員会に駆け込んでいるだけの争議とも言えないような争議です。

つまりまともな争議は今や全国で年間50件もない社会になってしまったわけです、日本は。

なぜこんなふうになってしまったのでしょうか。

という疑問から、来月刊行予定の濱口・海老原『働き方改革の世界史』は始まります。

働き方改革の世界史【目次】
 
序章 日本人が煙たがる「労働運動」というもの 
 
対岸の火事としての労働争議/日本の労働組合はガラパゴス的な形態をしている/協調的だが暴れ出すと手に負えない日本型の労働組合/社内調整のための仕組み/英米と欧州大陸国で異なる進化/片翼だけの労使関係の問題
 
第一章 トレードからジョブへ 
 
第1講 出発点は集合取引(コレクティブ・バーゲニング) 
シドニー&ベアトリス・ウェッブ、高野岩三郎監訳『産業民主制論』
【受講準備】会社を超えた広い連帯
【本講】労働思想の必読古典/失われた失業保険機能/集合取引とは、労働力を高く売ること/日本は生活給、イギリスは標準賃銀率/雇用の継続と日本型デフレ
 
第2講 「労働は商品じゃない」の本当の意味 
サミュエル・ゴンパーズ、S・ゴンパーズ自伝刊行会訳『サミュエル・ゴンパーズ自伝 七十年の生涯と労働運動(上巻・下巻)』
【受講準備】アメリカ労働総同盟の初代議長
【本講】アメリカ労働思想の古典と現代日本/労働組合主義から社会主義への反論/ネガティブな立法闘争/労働の大憲章/国防会議諮問委員会とILO
 
第3講 ジョブ型労働運動の哲学 
セリグ・パールマン、松井七郎訳『労働運動の理論』
【受講準備】ジョブ、ポスト、トレード
【本講】階級意識と仕事意識/ジョブ・コントロールの労働運動/先任権ルールと残業の考え方/現場労働者が作り上げ、決めていく/戦後日本との対比復習ノート1 トレード型とジョブ型 
 
第二章 パートナーシップ型労使関係という奇跡 
 
第4講 共同決定というもう一つの産業民主主義 
フリッツ・ナフタリ編、山田高生訳『経済民主主義 ― 本質・方途・目標』
【受講準備】労使関係のパラダイム・チェンジ
【本講】現代ドイツの労働システムの始祖/ナフタリって何者?/経済民主主義の源流/労働関係の民主化/教育制度の民主化
 
第5講 労使は経営共同体のパートナーシップ 
ギード・フィッシャー、清水敏允訳『労使共同経営』
【受講準備】労使双方の努力で構築
【本講】いわゆるライン型資本主義/経営パートナーシャフト―生活の安定/公正賃金/共同体のメンバーとしての従業員/組織原則の違い/フィッシャー経営学とカトリシズム
 
第6講 カトリックの労働思想 
W・E・フォン・ケテラー、桜井健吾訳・解説『労働者問題とキリスト教』
【受講準備】社会問題に切り込んだ聖職者
【本講】キリスト教と労働問題/カール・マルクスの商売敵/新たなギルドの模索 /職人組合と生産協同組合/カトリシズムというモノサシ
 
復習ノート2 ドイツ型労働システムの根幹 
 
第三章 パートナーシップなき企業内労使関係の苦悩 
 
第7講 労使パートナーシップへの淡い夢 
G・D・H・コール、和田耕作訳『労働者 ― その新しい地位と役割』
【受講準備】イギリスの消耗
【本講】今こそ読み返すべき還暦本/企業内部での経営参加を志向/日本型新卒一括採用が理想/完全雇用が必須な理由/ドイツや日本で実現した理想
 
第8講 パートナーシップなきイギリスの職場 
アラン・フランダース、岡部実夫・石田磯次共訳『イギリスの団体交渉制 ― 改革への処方箋』
【受講準備】労使関係は人間の権利と尊厳の問題
【本講】イギリス労使関係が大転換するきっかけ/事業所レベル交渉の弊害/従業員を相手にせよ/集団から個人へ
 
第9講 ジョブ・コントロール型労使関係は崩壊の一途 
バリー&アーヴィング・ブルーストーン、岡本豊訳『対決に未来はない ― 従業員参加の経営革命』
【受講準備】精勤・勤勉な労働の回復
【本講】アメリカ労働運動の中枢からアメリカ的労使関係を批判/監督はごみを拾うな/製品の品質に関心を持つな/日本のやり方に学べ/純粋メンバーシップ型宣言/挑戦は法的に頓挫
 
第10講 メンバーシップ型アメリカ企業の雌伏、栄光、挫折 
サンフォード・ジャコービィ、内田一秀・中本和秀・鈴木良治・平尾武久・森杲訳『会社荘園制』
【受講準備】外界と隔絶された共同体
【本講】非主流派、少数企業の物語/福祉資本主義の崩壊からアメリカ型内部労働市場システムへ/日本型雇用に酷似/現場管理者の権力を削ぐ/コダックの協和主義/雇用と所得、どちらが重要か/コダックと富士フイルム
 
復習ノート3 ノンユニオンという帰結 
 
第11講 労働者自主管理という理想像の逆説 
エドモン・メール、佐藤敬治訳『自主管理への道』
【受講準備】仏の労使の距離感
【本講】労働運動の思想的分裂/労働者自主管理と企業内労使関係/労働者を責任ある俳優に/あべこべの世界
 
復習ノート4 自主管理思想の理想郷とは 
 
第四章 片翼だけの労使関係 
 
第12講 従業員組合のアンビバレンツとその帰結 
藤林敬三『労使関係と労使協議制』
【受講準備】争議の現場をよく知る研究者
【本講】労使関係は二元的である/日本と欧米、最大の違い/上部団体の存在意義/第二組合がなぜ生まれるのか/組合が左傾化する背景/不可避の雰囲気闘争/妥協機関としての労働委員会/身内の争いは激しさを増す/組合を去勢する労使協議制/藤林の予言通りになった日本の労働社会
 
復習ノート5 戦後日本のパラドックス 
 
第五章 労働思想ってそういうことだったのか対談 
 
コレクティブ・バーゲニングの真相/アメリカはなぜジョブ・コントロールを確立できたか?/立法重視で行くべきか、現場を重視すべきか?/ドイツ型パートナーシャフトは奇跡の産物/労使共同経営って、いったい何をするの?/欧米に見られる日本型雇用への憧憬/日本社会に労働者代表制は取り入れられるか?
 
あとがきに代えて マルクスが入っていない理由 

 

 

ジョブ型にすれば解決するのか?@『Works』161号

1281693164_o リクルートワークス研究所の『Works』161号は「オンライン元年」が特集です。墨痕淋漓の表紙ですが、記事にもいちいち筆文字が出てきます。

https://www.works-i.com/works/item/w_161.pdf

で、その特集に私も顔を出しています。「視点2:ジョブ型にすれば解決するのか」というところです。

 在宅勤務において適切に勤怠管理ができない、成果を評価することができないのは、日本企業がメンバーシップ型だからだ。今こそ、ジョブ型に移行すべきだ。昨今このような言説を、メディアを中心に見かけることがある。これに対し、メンバーシップ型、ジョブ型という雇用の分類を提示した本人、労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎氏は違和感を隠さない。「個人の仕事の進捗が見えない、チーム連携がしにくい、評価がしにくいなど、今企業で生じている課題は、確かに個人別に仕事が切り分けられておらず、課やチームに仕事が割り振られていることが背景となっているものが多いのは事実でしょう。しかし、それらの課題が、すべてメンバーシップ型であるために生じる課題でありジョブ型にすればすべて解決される、というように短絡的に考えるべきではありません」と、濱口氏は話す。メンバーシップ型・ジョブ型という言葉を作ったときに、「どちらが一方的にいいもの・悪いものという価値判断的な意味を込めたことはない」(濱口氏)というのだ。・・・・

ちなみに、私の前に登場している視点1の守島基博さんも「「欧米企業はジョブ型だからうまくいく」わけではない」と釘を刺しています。

 

 

2020年8月 5日 (水)

ドイツはジョブ型かメンバーシップ型か?(再掲)

「ある外資系人事マン」さんが、「なんで「ジョブ型」がこうねじれるんだろう?」のコメントとして、昨日の日経の記事を引用していただいていますが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/06/post-a51574.html#comment-118210946

念のためですが、ここへきてようやく日経新聞のジョブ型に関する記事が真っ当な内容に変わってきたようで、一読者としてホッとしています。例えば、今日の朝刊掲載のドイツIT企業の「ジョブ型」取材記事ですが、事実にもとづきよく書けています。ただ、しいて難を言えば、記事内の「解雇云々」の描写は、『日本及びドイツ企業=長期雇用(解雇なし)、米国企業=短期雇用(解雇多し)』という、同記者のバーチャル脳内妄想(ステレオタイプ)が反映されているようで大変残念です。今後はこういう細かい所も、安易な通年や思い込みに頼らず、正確なデータと事実を踏まえた記事を書いていただきたいものです。

せっかくドイツの話を持ち出していただいたので、もう4年近く前のエントリではありますが、「ドイツはジョブ型かメンバーシップ型か?」というのをお蔵出しておきたいと思います。たぶんいまでもそっくりそのまま世間の啓蒙に使えそうな気がします。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/post-f672.html(ドイツはジョブ型かメンバーシップ型か?)

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こういう言い方をこの私がすると、「お前が言うか、お前が」という非難の声がどっと襲いかかってくるような気がしないでもないですが、でもやはり、こう言わなければなりません。

ジョブ型とか、メンバーシップ型とか、頭の整理のための概念なのだから、あんまりそれにとらわれてはいけませんよ、と。

いやもちろん、ごちゃごちゃした現実をわかりやすく認識するためには大変役に立ちます。

でも、ある国の社会のありようを100%どちらかに区別しきらなければいけないと思い込んでしまうと、かえってものごとの姿をゆがめてしまうことにもなりかねません。

どういうことかというと、大杉謙一さんのこんなツイートが目に入ってきたからなんですが。

https://twitter.com/osugi1967/status/803107321643548672


先日、ドイツ人を呼んでシンポをやったのですが、どうやら経営層の人材はジョブ型で、ブルーカラー層はメンバーシップ型ではないかという感触を持ちました。

https://twitter.com/osugi1967/status/803111417092018176


ありがとうございます。「ブルーカラーがメンバーシップ型」というのは、私の憶測が入っているのでこれから知己を頼って検証したいと思います。

https://twitter.com/osugi1967/status/803111838682464256


(続き) ドイツ以外のヨーロッパでは、ジョブ型ゆえに若者の失業率が高いことは有名で、ドイツは職業教育が充実しているのでこの問題が生じにくいのですが、「型」はともかく、ブルーカラーの転職率は低いようです。

https://twitter.com/osugi1967/status/803112429487935488


私は、日本の大学の多くを職業教育型に転換していくことには反対ではないのですが、実は肝心の学生がそれを望んでいないようにも感じています。なぜ人は功成り名を遂げると教育(大学)改革の話をしたがるのか(溜息)

えーと、どこから解きほぐしたら良いのかよくわからないのですが、まず「ジョブ型」という概念のもとである、契約で職務が限定されており、賃金はその職務について決まっているという点では、ドイツは間違いなく「ジョブ型」です。

特にブルーカラー労働者の場合、企業を超えた産業別労働協約で賃金が決定されており、それが各企業に原則としてそのまま適用されるという点では、他のヨーロッパ諸国に比べてもより「ジョブ型」でしょう。

しかし一方で、とかく日本では「メンバーシップ型」の徴表ととらえられがちな企業がそう簡単に解雇できないとか、仕事がなくなっても雇用を維持しようとするという面では、これまたおそらくヨーロッパ諸国の中でもかなりそういう傾向があるのも確かです。そもそも、日本の雇用調整助成金のもとは、ドイツの操業短縮手当であって、景気変動には雇用維持で対応という面では相当に「メンバーシップ型」の面があります。

とはいえ、では日本みたいにどんな仕事にでも平気で変えるかというと、「この仕事」というジョブ意識は極めて強くて、企業が勝手に職務を変更できるなどということはありません。そこは強固に「ジョブ型」です。

さらに、集団的労使関係を見ても、産業別労働組合が産業別労働協約を結び、産業別の労働条件を決定しているという点では、これまた他のヨーロッパ諸国に比べても極めて典型的な「ジョブ型」である一方で、事業ごとに事業所委員会という労使協議システムを確立し、ある意味ではまさに日本の企業別組合がやっているような企業の中の労働関係の様々な調整を綿密にやっているという面は、これまた他のヨーロッパ諸国に比べても「メンバーシップ型」的な側面が強いという言い方もできます。そして、会社の監査役会に従業員代表がポストを占めるというかたちで、少なくとも法律上は日本よりもずっとメンバーシップ型になっていると言えないこともありません。

何が言いたいかというと、ある国の労働社会のありようというのはなかなかに複雑なもので、「ジョブ型」「メンバーシップ型」というようなある側面を切り取った切り口「だけ」で綺麗に説明し尽くせるというようなものではないということです。

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実を言うと、このあたりの消息を歴史的に解き明かしているのが、来月早々にも本屋さんに並ぶはずの、濱口・海老原『働き方改革の世界史』(ちくま新書)です。

 

 

 

 

 

 

石井知章 on 中国の非正規労働者

現代ビジネスに石井知章さんが「コロナショックで「中国の非正規労働者」が直面している深刻な現実」を寄稿されています。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/74531

Img_92192422c828d8ad4bf8ba03e33938a12829 これと同じように、中華全国総工会(中国官製労働組合のナショナルセンター)を中心に、これまで感染拡大予防という「人民戦争」へ広範な労働者が動員されてきた中国でも、とくに広東省を中心に展開してきた底辺労働者による「下から」の労働運動・労使紛争は、いったんは中断を余儀なくされていった。

だが、生産・操業の再開にともない、仕事に戻らないと食べていけない農民工をはじめとする非正規労働者の多くが職場に復帰したことで、労使関係は再度、対立的構図を深めつつある。ここでは中国のコロナ禍における、最近の雇用・労働問題、労使関係の変化について概観する。・・・

石井さんは本ブログでも何回となく取り上げてきましたが、現代中国の労働問題、労使関係を追及している稀有な研究者です。この文章も、あまりマスコミが伝えない中国の中の動きを伝えてくれます。最後のページの「ポスト・コロナ時代の労使関係のポイント」というところを引用しておきます。

これまで見たように、中国におけるコロナ感染症拡大予防に際して、中華全国総工会は労働者個人の権益擁護・拡大といった、平常時における本来の労働組合としての活動(権利)よりも、むしろ全国規模での生産システムを早期に回復すべく、あらゆる分野での労働者を組織的に動員していた。

ここで中国の官製労働組合は、国家的生産秩序の再建を「上から」推し進めるという、いわば非常事態におけるもう一つの使命(義務)を果たしていったことになる。

だが、その背後では、かねてから「下から」の自立的労働運動を展開していた農民工らを中心とする労働NGOを、事実上、全面的に弾圧し、その活動を完全に中断させるという結果を導いていたといえる。

とはいえ、労働NGOが主な活動拠点にしていた広東省以外での、南部主要都市の大企業を含む事業所における「散発的」労使紛争・抗議活動の新たな発生は、「下から」の労働運動の復活の兆しになっていることを示唆している。

したがって、この点での今後の動向が、ポスト・コロナ時代の新たな労使関係の構築にとって、きわめて重要なポイントになることは明らかである。

ちなみに、本ブログで石井さんの研究について触れた過去のエントリをいくつか紹介しておきましょう。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/11/post-71c7.html(石井知章『中国革命論のパラダイム転換』)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/post-e435.html(『文化大革命の遺制と闘う』)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/10/post-1c55.html(石井知章編『現代中国のリベラリズム思潮』)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/01/post-8769.html(『中国リベラリズムの政治空間』)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/05/post-755a.html(石井・緒形・鈴木編『現代中国と市民社会』)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/09/post-ce30.html(『文化大革命』)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/12/post-6997.html(石井知章編著『日中の非正規労働をめぐる現在』)

これは、私も一章書いています。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/11/post-6c78f7.html(周保松・倉田徹・石井知章『香港雨傘運動と市民的不服従』)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/01/post-97baf9.html(石井知章・及川淳子編『六四と一九八九』または「進歩的」「左派」の「歴史修正主義」)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020年8月 4日 (火)

指揮命令のラッファーカーブ

雇用じゃなく請負化しやすいのは、かたや専門技術的な仕事で、いちいち指揮命令しない/できないタイプの仕事。マクロタスクをまとめて請け負うから、請負が不自然じゃなくなる。高度プロフェッショナルなフリーランスというイメージ。

もう一つ請負化しやすいのは、その正反対の単純労働、いちいち指揮命令しない/する必要のないタイプの仕事。ミクロタスクをその都度請け負うから、請負が不自然じゃなくなる。自転車漕いでいろんなものを運んでる人々とか。

ということで、いままで雇用という形式が一般的であったのは、その中間、つまりいくつもの関連するタスクをまとめて「ジョブ」にディスクライブしてその遂行を指揮命令するというタイプの仕事が多かったから。それが典型的な労働者像。

グラフの真ん中で指揮命令の度合が高まり、左右の両端で指揮命令の度合が薄れていく。ラッファーカーブみたいなものかな。

20世紀に確立したジョブ型社会が崩れつつあるかも知れない、というのは、その真ん中の山が崩れて、左右に広がっていくという話なんだが、そのジョブ型が確立しなかった日本では、上下いずれの方向でも、それが崩れてタスク型に行くという話が「さあ、これからジョブ型だ」みたいなおかしな方向にばかりずれまくる。

 

2020年8月 3日 (月)

『HRmics』36号

Nicchimo 海老原さんちのニッチモの『HRmics』36号が届きました。今回は「奇跡か?迷走か? コロナ対策の盲点」だそうで、いやあ海老原さんなんにでも手を伸ばしますね。正直、私はコロナに対する雇用対策や社会政策の是非や評価ならともかく、医学的観点も踏まえたコロナ対策それ自体なんか怖くてあれこれ言えません。ネット上にはいろんな人がいますがね。

http://www.nitchmo.biz/hrmics_36/_SWF_Window.html

というわけで、ここでは特集には触れずに、私の連載について。え?連載は『働き方改革の世界史』(ちくま新書)にまとめて来月出るんじゃないの?と思った方。はい、そうなんですが、今号から「帰ってきた原典回帰 日本的労使関係のユニークさと混迷に迫る」と題して、またぞろやらかしております。

これまでは英米独仏といった先進諸国の労働関係名著が中心でしたが、今回からはもっぱら日本の本を取り上げていきます。その意味では、連載第14回であるとともに、新装開店第1回でもあります。前回までの連載をもとに、海老原さんの責任編集でちくま新書から『働き方改革の世界史』を9月に刊行しますが、これからの連載記事を将来的にその日本編にしていこうという腹積もりもあります。厳密にいうと、連載第11回で藤林敬三『労使関係と労使協議制』をフライング的に取り上げてしまったので、今回は日本の労働関係名著第2回目ということになりますが、まあその辺は大目に見てください。・・・

ということで、経済同友会企業民主化研究会編『企業民主化試案-修正資本主義の構想』(1947年、同友社)を取り上げております。話は終戦直後の「三等重役」から始まります。

そして・・・・・

最後の編集後記で爆弾が破裂しています。なぜかそこだけ赤字で、

・・・そして、次号でHRmicsは最終号となります。長らくお世話になりました。

え?というわけで、颯爽と始まった「帰ってきた原典回帰」は、とりあえず2回で中断です。

 

 

 

 

藤本茂・沼田雅之・山本圭子・細川良編著『ファーストステップ労働法』

81lp0u8axal 藤本茂・沼田雅之・山本圭子・細川良編著『ファーストステップ労働法』(エイデル研究所)をお送りいただきました。

https://www.eidell.co.jp/books/?p=10885

このたび、数多くある労働法テキストに新しく、「ファーストステップ労働法」が加わることとなりました。タイトルには、入門書でありながらも、次のステップとしてのより深い学習につなげるという意味が込められています。法学部はもとより、他学部の学生にも向けた“わかりやすいコンパクトなテキスト”を意識しており、併せて、授業で使う専門書を目指してもいます。
コンパクトなことと専門書を両立させることは、求められる情報量の差からして難題ですが、本書はそれをウェブの活用によって乗り越えようと試みました。QRコードによって情報量を確保でき、さらにスマホでも簡単に使えることから、これを授業で活かしてみようと思い至ったのです。
本書の特徴の一端は、第4部に外国人や障害者なども含めて、多様な就業形態に対応しようと試みたところにも現れています。皆さんのご意見を受け容れながら大きく育ってほしいと願っています。

入門レベルの労働法教科書ですが、特色は本文中にやたらにQRコードがあることです。たとえば、冒頭の「第1章 労働法とは」には、早速「蟹工船」と「女工哀史」というQRコードが並んでおり、スマホをかざすと何が出てくるかと思うと、これらの本の表紙が出てきました。表紙だけで、中身は当然ながら出てきません。

 

 

2020年8月 2日 (日)

雇用調整給付金成立の裏面史

11021851_5bdc1e379a12a_20200802104301 今回のコロナ禍で再三注目されている雇用調整助成金は1974年末の雇用保険法への改正で雇用調整給付金として創設されたことは周知のとおりですが、拙著『日本の労働法政策』では、その経緯をこう簡単に述べています(p231)。

 雇用保険法案は翌1974年1月に国会に提出されたが、社会党、共産党、公明党は反対し、参議院で審議未了廃案となった。総評が給付の切下げであるとして強く反対していたことが反映している。ところが、ここに石油危機の影響で雇用失業状勢が厳しさを増し、一時休業や一部には大量解雇まで現れるようになって、雇用調整に対する助成措置に対する早期実施の声が高まってきた。同盟はもとから雇用保険法案に賛成であったが、中立労連が賛成に回り、総評加盟の民間労組からも積極的態度を示すものが続出した。こうして、雇用保険法案は、いわば雇用維持のための助成措置を規定する法案としての期待を背負って再度国会に提出され、1974年12月に成立に至った。

この「中立労連が賛成に回り」というたった10文字の裏側で、当時の労働組合リーダーたちがどういう動きをしていたかを、当時まだ若かった小林良暢さんが昨日電子媒体で発行された『現代の理論』で、こう綴っています。

http://gendainoriron.jp/vol.23/feature/kobayashi.php

Kobayashi_s このモデルが登場したのは1973年の石油危機の後、75年の雇用調整給付金による一時帰休である。たまたま私は大学院を終えて、電機労連に産業政策をつくるために入職してから5年目に、この緊急事態に遭遇、74年の秋口から合理化対策を担当した。・・・・

電機労連がこの給付金を積極活用したのには、いまひとつ裏の事情がある。この雇用保険法改正に、ゼンセン同盟が繊維不況対策として熱心に取組んできたが、当時の社会党が「解雇をし易くする」と反対して、法案の成立が危うくなった。これから先は、山田精吾さんが連合事務局長を辞めて連合総研に理事長に就任してきて、そこで主幹研究員をしていた私は一緒に仕事をすることになり、そこで山田さんから聞いた話である。

この法律をなんとしてでも成立させるために、山田さんが考えた一策は、電機労連を味方につけることだ。そこで、ゼンセン同盟の宇佐美会長、山田書記長が、電機の竪山委員長、藁科書記長を新橋の料理屋松玄に接待して、同じ民間だから分かってくれるだろうと法案成立に協力を頼んだ。竪山さんが「分かった」と言ってくれ、電機が社会党にねじ込んで、中立労連も法案賛成へ転換させて法案を成立させた。ところが、75年の法の施行時には、繊維産業は慢性不況で工場は閉鎖されてしまい、この新制度を使うことができず、帰休で給付金をがっぽり受給したのは電機産業だった。

この75年には、全国でも6万事業所で一時帰休を実施、不況でも雇用を維持する日本モデルが完成したのである。また、この両産別の4人が、後の民間先行の労働戦線統一を導くことになる。

ふむ、宇佐美、山田、竪山、藁科という、連合創設期のビッグネームが登場してきます。もう一つ、総評民間部門でもたとえば鉄鋼労連の宮田義二さんなどがこの給付金の成立に向けて社会党にねじを巻いたことも大きく効いているはずで、その意味では、雇用調整給付金をめぐる動きがその後の民間先行の労働戦線統一の大きな土台になったと言えるのでしょう。

 

大澤真理『企業中心社会を超えて』再刊

521338 大澤真理さんの『企業中心社会を超えて 現代日本を〈ジェンダー〉で読む』が、岩波現代文庫に収録されるんですね。本書は1993年に刊行されたほぼ一世代前の本ですが、働く女子の運命を最も的確に論じた名著として、長く読み継がれるに値する本です。文庫収録を機に、また多くの方に読まれることを願っています。

https://www.iwanami.co.jp/book/b521338.html

つうか、拙著『働く女子の運命』は、腰巻にでかでかと上野千鶴子さんの顔が載っているため、上野さんの本じゃないかという誤解すら一部に持たれたようですが、これは文春編集部の鳥嶋ななみさんが上野さんの弟子だったという縁であって、内容的にはあの縦横無尽の上野理論とはほとんど関係はなく、むしろ社会政策の観点から女性労働の問題を追及してきた大澤さんの議論に大きくインスパイアされています。

拙著でも本書をいくつか引用していますが、それよりもむしろ全体の認識枠組みとして、大澤さんの議論が基礎になっていることは、拙著をじっくり読まれた方はよくお分かりのことと思います。

長らく絶版状態で、図書館で読むしかなかった本書が文庫という形で手に取りやすくなるのは喜ばしいことです。

拙著で本書を引用していた部分を、ここで引用しておきましょう(p131)。

知的熟練論と女子の運命
 知的熟練論の皮肉は分かったけれども、それが肝心の女子の運命にどういう関係があるのだ?とさっきからうずうずしているそこのあなた。それを見事に説明しているのが、1993年に出た大沢真理氏の『企業中心社会を超えて』(時事通信社)です。彼女は小池氏の知的熟練論を、女性の立場から次のように批判していきます。本書全体のテーマである女子の運命にとって、本章のトピックである賃金制度が持つ意味をクリアに抉り出した一文です。
 ・・・性別賃金格差の問題はここからほとんど自明のことになってしまう。女の賃金が低いのは、彼女たちに「知的熟練」がないからなのだ。・・・
 当然に生じるのは、ではなぜ中小企業労働者には、そして女性では大企業労働者であっても、「知的熟練」がないのか、という疑問であろう。・・・
 ・・・技能が高まるから賃金があがるのではなく、査定=人事考課による個人差はあれ、ともかくも年齢につれて賃金をあげてやらなければならないからこそ、その賃金にみあう技能をつけさせようとするのだ。ただし、その労働者が男であるという条件つきで。・・・“妻子を養う”男の生活費にみあう賃金に、女をあずからせるということ自体が論外なのである。
 この賃金体系を前提とするかぎり、女性正社員の勤続へのインセンティブをくじき、「若年で退社」させることは、企業にとってほとんど至上命題となる。急な年齢別賃金上昇カーブをもつ大企業ほどそうなるだろう。彼女たちを単純反復作業に釘づけするのはその手段の一つと考えられる。・・・
 前章最後で見た結婚退職制や女子若年定年制の背後にあるロジックを、見事に摘出しています。

読めばわかるように、大澤さんがここで女性を題材に述べていることを裏返しにすると、『日本の雇用と中高年』で中高年男性について述べたこと(昨今のいわゆる「働かないおじさん」)になるということもお判りでしょう。そう、この27年前の本は、広範な分野における私の議論をインスパイアした原典ともいうべき本なのです。

 

 

 

 

 

2020年8月 1日 (土)

『都市問題』8月号に寄稿

Toshimondai 公益財団法人後藤・安田記念東京都市研究所が発行する『都市問題』8月号に寄稿しました。

https://www.timr.or.jp/cgi-bin/toshi_db.cgi?mode=saisin

特集1 フリーランスという働き方
 フリーランスという働き方の現状と課題  濱口桂一郎
 リーマン危機、コロナ危機とフリーランス  ――フリーランスの安全網の課題  水町勇一郎
 コロナ禍により曝かれた「偽装雇用」の実態  嶋崎 量
 セーフティネットを「新しい当たり前」に  ――フリーランスの窮状にみる構造的課題  北 健一
 プラットフォームビジネスとフリーランス  山崎 憲
 芸術文化から見たコロナ禍とフリーランスの課題  藤井慎太郎

私の小論は、総論的に概観しています。

 近年、フリーランスという働き方が注目を集めるようになった。厚生労働省は、2017年10月から「雇用類似の働き方に関する検討会」を開催し、2018年3月に報告書をまとめた。この報告書は2018年4月に労働政策審議会労働政策基本部会に報告され、同年9月に部会報告「進化する時代の中で、進化する働き方のために」がまとめられ、翌10月に「雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会」が設置され、検討が進んでいる。一方、2020年初めから世界的に急速に蔓延しパンデミックとなった新型コロナウイルス感染症への緊急対策が続々と打ち出される中で、雇用労働者と比べたフリーランスへの様々な保障の手薄さがクローズアップされ、急遽子どもの通う学校の休校に伴う「小学校休業等対応支援金」がフリーランス向けに設けられたが、その1日当たり4100円という額が雇用労働者の1日当たり8330円(上限)と比較して低すぎるではないかという批判(現在はそれぞれ7500円、15000円となっている。)がされたことも記憶に新しい。
 今日この問題がホットなテーマとなっているのは、いうまでもなく第4次産業革命ともいわれる急激な情報通信技術の発展により、これまで雇用契約の下で遂行されてきた様々な業務が、プラットフォーム経済、ギグ経済、クラウド労働等々の名称の下、法形式としては個人請負等の自営業として行われる傾向が世界的に高まってきたからである。産業革命以来の200年間、先進諸国は中長期的に継続する雇用契約を前提として、労働者保護法制や社会保障制度を構築してきた。これが逆転し、雇用契約が収縮していくとすれば、自営業として働く人々をどのように保護すべきなのか?というのが、今日世界共通に問われている問題である。
1 フリーランスという働き方の歴史的概観
2 フリーランスという働き方の実態
3 論点整理検討会の議論
4 フリーランス就業者政策の展望

 

 

 

 

ノワールはブラックなんだけど・・・

いまだに延々と、ブラック企業という言葉は黒人差別だからやめろみたいな議論が続いているようですが、そういうつまらないのに加わる気は全くないのですが、さすがにこれには飲んでたコーヒー吹きました。

https://twitter.com/akihamanaka/status/1267825728776663040

おー。
「ブラック企業」私も普通に使ってた。
もちろん人種差別の意図なんててない言葉とは思うけど、欧米圏へ翻訳されたら、そういう文脈が乗ってしまうかもしれないのか。興味深い

ノワールとか、肌の色を暗示しなさそうな語に言い換えたら……ノワール企業。フロント企業のことみたいだ(笑)

いやいや、ノワールって、フランス語で「黒」って意味ですよ。黒人のことも「ノワール」っていいますよ。「肌の色を暗示」どころか明示してますけど。その肌の色を指す言葉が、ロマン・ノワールでは犯罪小説という意味になるんですけど。

言葉狩りをするんなら、まず真っ先に新聞紙上で「ノワール小説の名手」なんていう人種差別満載(!)の宣伝文句を糾弾したらいかがでしょうかね。

てか、日本人の「欧米」にはアメリカ以外の国は全く存在していないんですかね。

ちなみに、スペイン語では人種も小説も全部ネグロ、ネグラです。特殊アメリカ英語で「ニグロ」が禁句になっているからといって、ラテン語に由来するこの言葉を言い換えろなんて話は聞いたことがありません。

(追記)

でも、特殊アメリカ英語「だけ」を崇拝するインチキ知識人様の追及を逃れるため「だけ」であれば、言葉の意味は全く一ミリも変わらないけれども、「ノワール企業」と言い換えてみるのもいいかもしれませんね。あるいは「社ノワール」とか。

 

«テレワークは今後も定着していくか?生産性の高いテレワーク実現に向けた方策提言@井上裕介