『労働六法2019』

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旬報社より『労働六法2019』をお送りいただきました。毎年ありがとうございます。
労働法に関係する法律だけでなく重要な告示や通達も網羅。また、労働法に関係する憲法や民法なども掲載。国際労働法も掲載し、重要判例も紹介し、労働法の実務に最適。毎年刊行し、その時々の法改正等にも対応。
労働時間法制の見直しや同一労働同一賃金などを規定する「働き方改革関連法」、外国人材の拡大をめざす「入国管理法」の改正に対応。働き方改革関連法の施行にあたっての簡単な解説を掲載!!
重要判例に「ハマキョウレックス事件」を追加収録。
という趣旨は変わりませんが、今年の版は苦労したようです。というのは、もう働き方改革のいくつかの施行が目の前(1週間後の4月1日)に迫っているのに、まだ高度プロフェッショナル制度の省令や指針がでておらず、本書ではやむを得ず労政審で了承された案をのっけているからです。p90以下参照。
また、やはり4月1日施行の入管法改正(特定技能関係)も、省令が間に合わなかった跡が残っています。まあ、本来は先月出版するはずのものをぎりぎりまで遅らせて、もう待ちきれないと年度内刊行に踏み切ったということなんでしょうが。

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大内伸哉『非正社員改革』

大内伸哉さんより新著『非正社員改革―同一労働同一賃金によって格差はなくならない』(中央経済社)をおおくりいただきました。旺盛な筆力に衰えはないようです。


正社員と非正(非正規)社員の格差が社会問題化するなか打ち出された同一労働同一賃金の原則は、何が問題か。非正社員をめぐる紆余曲折を正しく理解し、格差対策を考える。
例によっていつもの大内節全開ですが、過去の『解雇改革』『労働時間制度改革』がどちらかというと立法の不活動を打破するために「さあ、これをやれ!!」と鼓吹する感じの本であったのに対して、本書は「はしがき」の言葉を借りれば、「立法の過活動を抑えるために、なぜ立法介入が必要なのかを問い直すという、逆方向の検討をしようと」しています。
ただ、私の見るところ、その議論は必ずしも整合的ではなくなっているのではないかとも思われます。
まず今回の働き方改革の「同一労働同一賃金」なるものへの批判については、実は似たような感想を抱いている人は多いのではないかと思いますが、まあ、あんまりはっきり言う人がいないので、こうなっている面もあるのでしょう。ただまあ、これは政治的な絡みもあったりして、みんないささか歯に衣着せてしまうので、大内節が目立ったりするわけです。
それに対して、とりわけ2012年改正による無期転換ルールに対して、「採用の自由」を旗印に掲げての批判は、正直いささかずれている感があります。そもそも反復更新された有期契約労働者の雇止めの場面で、全くの新規採用でどんな奴かわからない者を前提にした採用の自由の議論を持ってくることには違和感があります。それこそ、その場面は実態として解雇の場面と類似しているという日欧共通の社会認識があるからこそ、雇止めを濫用と考える思考が生まれてくるのであって、そこを、EUでは入口規制があるから出口規制が正当化されるが、日本は入口規制がないのだから出口を規制するのはおかしいというのは、やや逆転していると思います(というか、EUの入口規制は事実上空洞化しているわけですし)。
ただ、雇止め規制に危惧が持たれるのはそれなりの理由があって、それはむしろ正社員の解雇規制(というのは実はミスリーディングで、解雇がしにくくなっているという社会的事態)が、無期転換に反射して、永遠に切れなくなってしまうんではないかという危惧なのですが、それは本来解雇規制の問題として論じるべきことなんですね。
という風に、読むと山のように感想が湧いてきます。物事を表層的にではなく考えるためには、時々こういう本を読むことが必要です。

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佐藤厚「スキル形成の独英米日比較」@『生涯学習とキャリアデザイン』Vol.16-1

一昨日(3月20日)、JILPT主催でロナルド・ドーア先生追悼記念シンポジウム「産業社会の座標軸-ロナルド・ドーアの遺産」を開催し、予想を上回る多くの方々が詰めかけました。
で、そのパネルディスカッションでフロアからコメントされた法政大学キャリアデザイン学部の佐藤厚さん(JILPTのOBでもあります)から、「これ読んで」と渡されたのが、標記論文でした。探すと既にネット上にPDFファイルで全文が読めるようになっています。
この論文、比較雇用システム論を徒弟制の歴史から分析したもので、上記シンポジウムが捧げられたドーアをはじめ、ストリーク、ホールとソスキス、マースデン等々を吟味した上で、各国の徒弟制の歴史を振り返って各国の雇用システムがなぜこのようになったのかを論じています。
大変面白く、読みながらわくわくするような論文なので、是非リンク先を読んでみて下さい。
ちなみに、注の1)に、「本ノートの構成に際しては、濱口(2018)から多くの示唆を得ている」とありまして、これはJIL雑誌に書いた「この国の労働市場」という特集の「横断的論考」という文章のことです。
こういう形で、わたくしの問題意識が反響してより深みのある論文が書かれていくのはありがたいことです。

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学校事務のおばちゃんと労働基準法

昨日のエントリ(地方公務員と労働基準法(『労基旬報』2019年3月25日号))に、焦げすーもさんからツイッターでコメントが:
地方公務員と労働基準法@『労基旬報』3月25日号
→学校事務のおばちゃんであるオカンから、36協定の適用について質問を何度も受けているが、明確に答えづらいのよね。。
なかなかニッチなところを狙ってきますな。
えーと、学校事務のおばちゃんというのは、事業で言うと第12号「教育、研究又は調査の事業」なので、官公署とともに労働基準監督官が臨検監督できない領域です。
ところが、教員ではないので、給特法の適用は受けません。なので、
①第36条はフルに適用される。ゆえに36協定を締結しなければ残業させられない
②第33条第3項は適用されない。ゆえに以下同文。
③第37条はフルに適用される。ゆえに残業させたら残業代を払わなければならない
ということになります。
そう、労働時間法制自体は他の労働者(官公署及び教員以外の地方公務員)と基本的に同じなのですが、ただ一つ違っているのは、これらの違反を摘発すべきは人事委員会または地方公共団体の長であるという点だけなのです。

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地方公務員と労働基準法@『労基旬報』3月25日号

『労基旬報』3月25日号に「地方公務員と労働基準法」を寄稿しました。
 前回の「公立学校教師の労働時間規制」では、給特法という特別法が教師という職種に着目したものではなく、あくまでも地方公務員という身分に基づくものであり、民間労働者である私立学校や国立学校の教師には一切適用されないものであることを解説しました。そしてそこで「ここも誤解している人がいますが、労働基準法は地方公務員にも原則的に適用されます」と述べたのですが、ここはもう少し親切に詳しく解説しておかなければならなかったところかも知れません。そこで、今回はやや基礎知識になりますが、地方公務員への労働基準法の適用について解説しておきたいと思います。
 そもそも、1947年に労働基準法が制定されたとき以来、同法第112条は「この法律及びこの法律に基いて発する命令は、国、都道府県、市町村その他これに準ずべきものについても適用あるものとする」と明記しています。反対解釈される恐れがあるので念のために設けられた規定です。現在は別表第1に移されてしまいましたが、かつては第8条に適用事業の範囲という規定があり、そこには「教育、研究又は調査の事業」(第12条)、「病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業」(第13号)に加え、第16号として「前各号に該当しない官公署」まであったのです。公立学校や公立病院はもとより、都道府県庁や市町村役場まで、何の疑問もなく労働基準法の適用対象でした。制定時の寺本広作課長は、「蓋し働く者の基本的権利としての労働条件は官吏たると非官吏たるとに関係なく同一に保障さるべきものであって、官吏関係に特別な権力服従関係はこの法律で保障される権利の上に附加されるべきものとされたのである」と述べています。
 これを前提にわざわざ設けられたのが法第33条第3項です。災害等臨時の必要がある場合は36協定がなくても時間外・休日労働をさせることができるというだけでは足りないと考えられたからこそ、「公務のために臨時の必要がある場合」には「第八条第十六号の事業に従事する官吏公吏その他の公務員」に時間外・休日労働をさせることができることとしていたのです。また、労働基準法施行規則には次のような、公務員のみが対象となるような特別規定がわざわざ設けられていました。
第二十九条 使用者は、警察官吏、消防官吏、又は常備消防職員については、一日について十時間、一週間について六十時間まで労働させ、又は四週間を平均して一日の労働時間が十時間、一週間の労働時間が六十時間を超えない定をした場合には、法第三十二条の労働時間にかかわらず、その定によつて労働させることができる。
第三十三条 警察官吏、消防官吏、常備消防職員、監獄官吏及び矯正院教官については、法第三十四条第三項の規定は、これを適用しない。
 こうした規定を見てもし今の我々が違和感を感じるとすれば、それはその後の法改正によって違和感を感じるようにされてしまったからなのです。そして、公務員の任用は労働契約に非ずという、実定法上にその根拠を持たない概念法学の影響で、いつしか公務員には労働法が適用されないのが当たり前という間違った考え方が浸透してしまったからなのです。ちなみに労働法学者の中にも、労働基準法が地方公務員に原則適用されるという事実に直面して「公務員の任用関係は労働契約関係と異なるという議論も、これでは説得力を失いかねない」などとひっくり返った感想を漏らす向きもありますが*1、そもそも「働く者の基本的権利としての労働条件は官吏たると非官吏たるとに関係なく同一に保障さるべきもの」というのが労働基準法の出発点であったことをわきまえない議論と言うべきでしょう。
 その経緯をざっと見ておきましょう。早くも占領期のうちに、公務員の集団的労使関係法制の改正のあおりを食らう形で労働基準法制まで全面的ないし部分的な適用除外とされてしまいました。1948年7月、マッカーサー書簡を受けて制定された政令第201号は公務員の団体交渉権及びスト権を否定しましたが、その中で労働基準法第2条の「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきもの」との規定が、マッカーサー書簡の趣旨に反するとして適用されないこととされました。これはまだ集団的労使関係法制に関わる限りの適用除外でしたが、同年11月の改正国家公務員法により、労働組合法と労働関係調整法にとどまらず、労働基準法と船員法についてもこれらに基づいて発せられる命令も含めて、一般職に属する職員には適用しないとされました(原始附則第16条)。そして「一般職に属する職員に関しては、別に法律が制定実施されるまでの間、国家公務員法の精神にてい触せず、且つ、同法に基く法律又は人事院規則で定められた事項に矛盾しない範囲内において、労働基準法及び船員法並びにこれらに基づく命令の規定を準用する」(改正附則第3条第1項本文)とされ、準用される事項は人事院規則で定める(同条第2項)とされましたが、そのような人事院規則は制定されていません。また、「労働基準監督機関の職権に関する規定は、一般職に属する職員の勤務条件に関しては、準用しない」(同条第1項但書)と、労働基準監督システムについては適用排除を明確にしました。この改正はどこまで正当性があったか疑わしいものです。否定された団体交渉権やスト権と全く関わらないような最低労働条件を設定する部分まで適用除外する根拠はなかったはずです。時の勢いとしか説明のしようがありません。
 これに対して、1950年12月に成立した地方公務員法では、少し冷静になって規定の仕分けがされています。労働組合法と労働関係調整法は全面適用除外であるのに対し、労働基準法については原則として適用されることとされたのです。ただし、地方公務員の種類によって適用される範囲が異なります。地方公営企業職員と単純労務者は全面適用です。教育・研究・調査以外の現業職員については、労使対等決定の原則(第2条)及び就業規則の規定(第89-93条)を除きすべて適用されます。公立病院などは、労使関係法制上は地公労法が適用されず非現業扱いですが、労働条件法制上は現業として労働基準法がほぼフルに適用され、労働基準監督機関の監督下におかれるということになります。近年、医師の長時間労働が問題となる中で、公立病院への臨検監督により違反が続々と指摘されているのはこのおかげです。
 ところがこれに対して、狭義の非現業職員(労働基準法旧第8条第16号の「前各号に該当しない官公署」)及び教育・研究・調査に従事する職員については、上の二つに加えて、労働基準監督機関の職権を人事委員会又はその委員(人事委員会のない地方公共団体では地方公共団体の長)が行うという規定(地方公務員法第58条第3項)が加わり、労働基準法の労災補償の審査に関する規定及び司法警察権限の規定が適用除外となっているのです。人事委員会がない場合には、自分で自分を監督するという、労働基準監督システムとしてはいかにも奇妙な制度です。このため、教師の長時間労働がこれほど世間の話題になりながらも、公立学校への臨検勧告が行われることはないのです。
 しかし、にもかかわらず、労働基準法が原則適用されているという事実には何の変わりもありません。上で労働基準法施行規則旧第29条、第33条を引用しましたが、これらは1950年の地方公務員法成立後もずっと労基則上に存在し続けてきました。第29条が削除されたのは労働時間短縮という法政策の一環として1981年の省令により1983年度から行われたものであり、第33条の方は対象を増やしながらなお現在まで厳然と存在し続けています。
第三十三条 法第三十四条第三項の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 警察官、消防吏員、常勤の消防団員、准救急隊員及び児童自立支援施設に勤務する職員で児童と起居をともにする者
 団結権すら禁止されている警察官や消防士にも、労働基準法はちゃんと適用されていることを示す規定です。 

*1小嶌典明・豊本治「地方公務員への労働基準法の適用」『阪大法学』63巻3-4号。

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高齢者雇用をめぐる課題と展望@『生産性新聞』3月15日号

『生産性新聞』3月15日号に「高齢者雇用をめぐる課題と展望」を寄稿しました。
少子高齢化が進み、労働力不足が深刻化する中で、60歳以降の高齢者の雇用確保や就業機会の拡大が社会的な問題となっている。 高齢者雇用をめぐる最近の展開を見ると、「働き方改革実行計画」に基づき、2018年3月に年齢にかかわりない多様な選考・採用機会の拡大に向けて、転職者の受入れ促進のための指針が策定され、同年6月には、人生100年時代構想会議が「人づくり革命基本構想」を策定し、65歳以上への継続雇用を唱道した。そして、同年10月には、「未来投資会議」が70歳までの就業機会確保を唱道し、2019年夏までに方針を決定し、法案を提出というスケジュールになっている。・・・・

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フランスにおける若者の就職とキャリア@五十畑浩平

シノドスに、五十畑浩平さんが「フランスにおける若者の就職とキャリア」を書かれていますが、フランス、というかドイツみたいなデュアルシステムのない欧米型労働社会では若者がどういう目に遭うのかを、わかりやすく説明しています。

https://synodos.jp/economy/22490

フランスの場合、あるいはフランス以外の欧米諸国で一般的であるが、日本のように職務経験のない新卒者を採用し人材を育成する慣行はなく、あくまで個人の保有する資格や職務経験によって採用される。

こうした即戦力重視の採用では、したがって、働いたことのない若者は、必然的に一番不利になるため、希望の職が見つからなかったり、安定したポストが見つけられなかったりする・・・

というのは、拙著や海老原さんの本で繰り返し説いていることですし、

・・・では、職務経験のまったくない一般的な若者はどのように就職をするのであろうか。フランスでは、職務経験の乏しい、あるいはまったくない若者は、有期雇用や派遣などの非正規雇用を経験し、職務経験を積んだうえで、日本の正社員に相当する無期限雇用にたどり着くのが一般的である。・・・

というのも口が酸っぱくなるほど言っていることですが、それが学歴別に大きな格差があるというのは、この五十畑さんの文章が一番明確に示していることでしょう。

・・・この状況を学歴別にみてみよう。修士修了レベル(グランドゼコール卒も含む)の場合、4人に3人以上の76%の若者がすぐに就職しており、遅れて就職した10%の若者とあわせ、9割近い86%が卒業3年後の時点で職に就くことができている。この状況は学歴の水準が低くなるにつれてさがっていく。大卒レベルとなると77%となり、高卒レベルであれば67%にまでさがる。中卒程度である無資格の若者にいたっては、卒業3年後に就職できている割合は、37%にまで落ち込んでいる。

すごく露骨に言えば、未経験でもすぐに採用してくれる高学歴者と、(非正規で)経験を積んでもなかなか採用してくれない低学歴者の間の落差が、日本では想像がつかないくらい大きいのがフランスであると。

・・・実際、中卒程度の無資格者は工員に、高卒者は従業員に、大卒者は中間職に、修士修了者は管理職に就く割合がもっとも高くなっている。このように、最初から学歴によって就く役職のすみわけがしっかりとできており、キャリア形成の「スタートライン」が学歴によって変わっているのが特徴と言える。あくまで「スタートライン」は一緒でその後の昇進スピードや昇進の幅に学歴によって差を持たせる日本に対し、学歴によって入職時「スタートライン」そのものが変わるフランスは、ある意味、日本よりも学歴主義であると言える。

そして、これも拙著や海老原さんの本では結構繰り返し説いている割に、あまり皆さんの胸にすとんと落ちていなさそうなのが、修士卒という高学歴者は採用当初から管理職という職種で採用されているのであり、学士卒という中学歴者は採用当初から中くらいのポストで採用され、高卒という低学歴者は(何とか潜り込めても)採用当初からずっとヒラ従業員であり、中卒という最低学歴者は(なんとかたどりついても)ずっと末端の労務者であるという、学歴が即職種であり、即会社内の地位であり、即社会階級であるという露骨な構造です。

逆に言えば、戦後日本はそういう(戦前の日本には同じように明確に存在した)学歴即職種、即社内地位、即階級という社会のあらゆる場面を貫く階級構造を(少なくとも)目に見えなものにしたという点で世界的には極めて異例の存在であったということなわけです。

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労働者性の問題、団体交渉権の問題

例のコンビニエンスストア店長の労働者性の問題について、中央労働委員会が労働者性を否定する決定を下したという件ですが、

https://www.mhlw.go.jp/churoi/houdou/futou/dl/shiryou-31-0315-2.pdf (ファミリーマート事件)

https://www.mhlw.go.jp/churoi/houdou/futou/dl/shiryou-31-0315-1.pdf (セブンイレブン事件)

まあ、労働者性ありやナシやという法学的な議論を厳密にやれば、こういう結論になる可能性が高いということは想定されていたところです。

一方で、労働者であるかどうかは別として、集団的な形で交渉して物事を決めるという枠組みが不適切なものかそれともむしろ適切なものかという点からすると、コンビニオーナーたちの団体交渉適格性はかなり高いように思われますが、残念ながらそれにふさわしい法的枠組みはないということなのでしょう。

いや実は、一見これにふさわしいように見える法制度はあるのです。経済産業省が所管する中小企業等協同組合法では、事業協同組合等に団体交渉権を認めています。

http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=324AC0000000181#65

第九条の二 事業協同組合及び事業協同小組合は、次の事業の全部又は一部を行うことができる。
六 組合員の経済的地位の改善のためにする団体協約の締結
12 事業協同組合又は事業協同小組合の組合員と取引関係がある事業者(小規模の事業者を除く。)は、その取引条件について事業協同組合又は事業協同小組合の代表者(これらの組合が会員となつている協同組合連合会の代表者を含む。)が政令の定めるところにより団体協約を締結するため交渉をしたい旨を申し出たときは、誠意をもつてその交渉に応ずるものとする。
13 第一項第六号の団体協約は、あらかじめ総会の承認を得て、同号の団体協約であることを明記した書面をもつてすることによつて、その効力を生ずる。
14 第一項第六号の団体協約は、直接に組合員に対してその効力を生ずる。
15 組合員の締結する契約であつて、その内容が第一項第六号の団体協約に定める基準に違反するものについては、その基準に違反する契約の部分は、その基準によつて契約したものとみなす。

(あつせん又は調停)
第九条の二の二 前条第十二項の交渉の当事者の双方又は一方は、当該交渉ができないとき又は団体協約の内容につき協議が調わないときは、行政庁に対し、そのあつせん又は調停を申請することができる。
2 行政庁は、前項の申請があつた場合において経済取引の公正を確保するため必要があると認めるときは、すみやかにあつせん又は調停を行うものとする。
3 行政庁は、前項の規定により調停を行う場合においては、調停案を作成してこれを関係当事者に示しその受諾を勧告するとともに、その調停案を理由を付して公表することができる。
4 行政庁は、前二項のあつせん又は調停については、中小企業政策審議会又は都道府県中小企業調停審議会に諮問しなければならない。

ただ、労働組合法上、労働組合というのは全く自由に結成することができ、許可だの認可だのは一切必要はなく、勝手に労働組合を作って団体交渉を要求すれば、彼らが労働組合法上の労働者である限り、相手方はそれに応じなければいけませんが、この中小企業協同組合法では、この団体交渉権その他を得るためには、行政庁の設立の認可を受けなければなりません。

(設立の認可)
第二十七条の二 発起人は、創立総会終了後遅滞なく、定款並びに事業計画、役員の氏名及び住所その他必要な事項を記載した書面を、主務省令で定めるところにより、行政庁に提出して、設立の認可を受けなければならない。

労働者性の議論をぎりぎりやっていくという方向も重要ですが、労働者であるか否かを超えて、社会的にある種の集団的«労使»関係の枠組みで物事を解決していくような枠組みをいかに広く作っていくかという観点も同時に必要になっていくように思われます。

11021851_5bdc1e379a12a (参考)

『日本の労働法政策』

第3部 労働条件法政策
第7章 非雇用労働の法政策
第2節 その他の非雇用労働者への法政策

3 協同組合の団体協約締結権*21

 労働組合法上の「労働者」は「賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」とされており、労働基準法上の「使用される者で、賃金を支払われる者」よりもやや広くなっている。実際に、プロ野球選手や建設業の一人親方の労働組合も存在する。
 しかし、それだけではなく、法制的には明らかな自営業者に対しても、日本の法制は既に集団的労使関係システムに類似した法制度を用意している。すなわち、各種協同組合法は組合員の経済的地位の改善のためにする団体協約の締結を各種組合の事業として挙げ、しかもこれに相手方の交渉応諾義務や団体協約の規範的効力、行政庁による介入規定などが付随している。
 このうち、特に労働者との連続性の強い商工業の自営業者を対象とした中小企業等協同組合法についてみると、1949年7月の制定時に既に事業協同組合の事業として「組合員の経済的地位の改善のためにする団体協約の締結」(第70条第1項第5号)を挙げ、この「団体協約は、あらかじめ総会の承認を得て、同項同号の団体協約であることを明記した書面をもつてすることによつて、その効力を生」じ(同条第4項)、「直接に組合員に対して効力を生ずる」(同条第5項)とともに、「組合員の締結する契約でその内容が第一項第五号の団体協約に定める規準に違反するものについては、その規準に違反する契約の部分は、その規準によつて契約したものとみなす」(同条第6項)とその規範的効力まで規定した。これらは協同組合連合会の締結する団体協約についても同様である。
 これら規定は1955年改正で第9条の2に移されたが、その後1957年改正で団体交渉権の規定が設けられた。すなわち、「事業協同組合又は事業協同小組合の組合員と取引関係がある事業者(小規模の事業者を除く)は、その取引条件について事業協同組合又は事業協同小組合の代表者(これらの組合が会員となつている協同組合連合会の代表者を含む)が政令の定めるところにより団体協約を締結するため交渉をしたい旨を申し出たときは、誠意をもつてその交渉に応ずるものとする」(第9条の2第5項、現第12項)とされており、この「誠意をもつて」とは、下記商工組合について「正当な理由がない限り、その交渉に応じなければならない」と規定しているのと同趣旨と解されている。
 さらに同改正によって斡旋・調停の規定も設けられた。すなわち、「交渉の当事者の双方又は一方は、当該交渉ができないとき又は団体協約の内容につき協議が整わないときは、行政庁に対し、そのあつせん又は調停を申請することができ」(第9条の2の2第1項)、「行政庁は、前項の申請があつた場合において経済取引の公正を確保するため必要があると認めるときは、速やかにあつせん又は調整を行」い(同条第2項)、その際「調停案を作成してこれを関係当事者に示しその受諾を勧告するとともに、その調停案を理由を附して公表することができる」(同条第3項)。
 なお、これら改正と同時に中小企業団体の組織に関する法律が制定され、商工組合及び商工組合連合会に組合協約締結権が認められ(第17条第4項)、商工組合の組合員と取引関係にある事業者等は「正当な理由がない限りその交渉に応じなければならない」(第29条第1項)。もっとも組合協約は「主務大臣の認可を受けなければその効力を生じ」ず(第28条第1項)、また主務大臣は商工組合又はその交渉の相手方に対し、組合協約の締結に関し必要な勧告をすることができる」(第30条)と、行政介入が強化されている。商工組合等に関しては、1999年に中小企業の事業活動の活性化等のための中小企業関係法律の一部を改正する法律によって組合協約関係の規定がばっさりと削られ、上記事業協同組合の規定を準用する(第17条第7項)という形になった。
 なおこの外に、自営業者の団体による団体協約の締結を規定している法律としては、1947年の農業協同組合法(組合員の経済的地位の改善のためにする団体協約の締結、規範的効力あり)、1948年の水産業協同組合法(同前)、1954年の酪農及び肉用牛生産の振興に関する法律(規範的効力の規定なし)、同年の輸出水産業の振興に関する法律(規範的効力あり)、1957年の内航海運組合法(認可制、規範的効力あり)、1978年の森林組合法(規範的効力あり)がある。
 ちなみに、こういった自営業者よりも実態としては労働者に近いはずの家内労働者については、家内労働法において特に団体協約締結権の規定は置かれていない。なまじ、労働法制の枠組みの中におかれると、かえって柔軟な対応は困難になるように見える。もっとも、かつての社会党の法案には家内労働者組合と委託者との団体協約の規範的効力や、斡旋、調停、委託者の不当行為に対する命令といった規定が盛り込まれていた。

(参考)

https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2017/0809/007-009.pdf (基調報告 日本的柔軟性からデジタル柔軟性へ(『ビジネス・レーバー・トレンド』2017年8・9月号))

集団的“労使”関係の再認識

 最後に、一つ指摘しておきたいのは、集団的労使関係 の意義を、再認識する必要があるのではないかという ことです。自営業(雇用類似の働き方)は、法的には 厳密な意味で労使関係はないわけです。しかし、エン プロイヤーではなくても、使う側、ユーザーというの はあるわけですし、エンプロイーではなくても、労務 を提供する人、ワーカーはいるわけです。事実上、労 使関係に近い社会関係が存在するはずです。

 そうすると、こうした人々にどういうルールを設定 するか。そして、そのルールをどのように実施していくかについて、これを労使関係といっていいのか、わ かりませんが、集団的な労使関係を活用できるかどう かが、今後の課題になるのではないでしょうか。集団 的といっても大きく2種類あり、一つは、労働組合タ イプの結社型の集団性、もう一つは労使協議会タイプ の機関的な集団性。これを組み合わせながら、解決の 方向性を考えていく必要があるのではないかと考えて おります。

 日本には労働組合法があり、そこで労働組合は労働 協約を締結することができますが、実はそれだけでは なく、六法全書の経済法のところに中小企業協同組合 があり、それを見ると、多くの方はご存じないかもし れませんが、協同組合も自分たちのメンバーのために 交渉をし、団体協約を締結する権利があると書かれて います。

 いわゆる独禁法などの競争法との関係をどう整理す るか。労働者の外縁にあるような人々を集団的な枠組 みでどのように対応していくかを考える上で、拠り所 になる法制度があるのかもしれない。若干トリビアル な知識を提供させていただいて、私の基調報告にした いと思います。

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セバスチャン・ルシュヴァリエ『日本資本主義の大転換』(再掲)

20190315flier2x 昨日、JILPTとフランス国立社会科学高等研究院/日仏財団の共催で、「働き方改革・生産性向上・well-being at work─日仏比較・労使の視点から」を開催しました。

https://www.jil.go.jp/event/sympo/20190315/index.html

Sebastien わたくしは後半のパネルディカッションのモデレーターと称して、単に「はい、次」と言っていただけですが、パネル冒頭で一番中心的なテーマを話していただき、また最後の締めの言葉も語っていただいた、日仏財団理事長でもあるルシュヴァリエさんについては、実は以前本ブログでその著書を紹介していたことがあります。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/03/post-cfa8.html

0610870セバスチャン・ルシュヴァリエ著・新川敏光監訳『日本資本主義の大転換』(岩波書店)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/06/2/0610870.html

かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称賛され,世界各国の注目を集めた日本経済の凋落はなぜ生じたのか.1980年代以降の日本経済の歩みを新たな枠組みで分析.「改革の遅れが原因」とする通俗的な見方を排して,一連の改革の失敗や問題点を指摘しながら,日本経済が現在どのような道を歩んでいるのかを明らかにする.フランス人研究者による新しい日本経済論!

フランス人による日本経済分析というと、今から30年~20年前に流行したレギュラシオン学派が思い出されますが、その頃のポストフォーディズムの熱狂の憑き物が落ち、失われた20年が過ぎた今、改めてこの30年間の日本の来し方を冷静に考える上で、こういう欧風制度学派のまなざしは役に立ちます。

まえがき

序章 なぜフランス人経済学者は日本の資本主義に興味をもったのか,そしてそれが日本にとってなぜ重要なのか

第1章 資本主義の多様性と資本主義の未来への日本からの教訓

第2章 J企業モデルの終焉?

第3章 日本の資本主義は今なお調整的なのか

第4章 現代日本の社会的和解の特質

第5章 新自由主義世界の教育システムとは

第6章 シリコンバレー・モデルが日本にとって唯一の道か

第7章 日本資本主義はグローバリゼーションに順応すべきか

終章 資本主義と新自由主義――日本からの教訓

監訳者あとがき

雇用システムに関わる論点としては、とりわけ第4章の最後のところで、平等社会から非平等社会への移行の本質として、「労働市場の再断片化」という概念を提案しています。

・・・労働市場の断片化が構造的にもたらされたにせよ、歴史的に見れば、それは戦後の亀裂に沿って強化されてきたといえる。今日議論されている日本の不平等は、1990年代に生み出されたものではなく、むしろずっと古く、終戦直後に形成された雇用制度、そしてそれに伴う不平等に関するもう一つの論争にまでさかのぼる。問題は、日本の賃金労働関係は、雇用保障創出のために断片化を必要とするのか、あるいは一時的に特定の種類の労働者を不安定な状況にさらすとしても、本質的には包摂的な制度であるのかと言うことである。本書の考えでは、断片化は、戦後の社会的和解にとって不可欠なものであった。したがって、日本の雇用システムは、三種の神器(・・・・)よりも、安定と不安定の均衡による労働市場の異なる断片の接合として定義される。このような均衡と妥協こそ、直接あるいは間接に新自由主義的な政策によって挑戦を受けているのである。危機ではなく、これらの政策こそが亀裂の真の源泉である。

ということで、昨日のパネルでルシュヴァリエさんという方に興味を持たれた方は、ぜひこの本を読んでみてください。

なお、彼の奥さんは、本ブログでも何冊かその著書を紹介してきた笠木映里さんです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/10/post-3226.html (笠木映里『社会保障と私保険』)

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「労働法の人的適用対象の法政策」@『季刊労働法』264号

264_hp『季刊労働法』264号がとどきました。

https://www.roudou-kk.co.jp/books/quarterly/6701/

◎特集 動き出す「働き方改革」
鼎談・働き方改革関連法と人事管理 中央大学教授(司会) 佐藤博樹  中央大学客員教授 荻野勝彦 東京大学教授 水町勇一郎
雇用形態による労働条件格差是正法の展開と課題 千葉大学教授 皆川宏之
わが国における労働時間規制の適用除外制度―高度プロフェッショナル制度の創設に関連して― 税理士・博士(法学) 幡野利通
36協定の上限規制をめぐる法解釈・実務対応上の課題 社会保険労務士 北岡大介
テレワーク再考―雇用型テレワークの実態と課題の理解に向けて 労働政策研究・研修機構主任研究員 池添弘邦
韓国版働き方改革の行方 韓国外国語大学・ロースクール教授/東京大学法学政治学研究科・客員研究員 李ジョン

第2特集 「2018年問題」を振り返る
非正規労働者の雇用終了法理と2018年問題 駒澤大学教授 篠原信貴
2018年問題を考える~労働者側弁護士の立場から~ 弁護士 嶋﨑 量
有期雇用契約と派遣の2018年問題について 弁護士 木下潮音

■論説■
割増賃金請求訴訟における労使協定を用いた実労働時間数の推定方法に関する一考察 弁護士 渡邊 岳
「仕事の世界における暴力とハラスメント」に関する国際労働機関(ILO)での議論 ILO駐日事務所 田口晶子   ILO駐日事務所 木下徹郎

■アジアの労働法と労働問題 第36回■
金属労協のアジアでの活動 全日本金属産業労働組合協議会(金属労協/JCM)事務局長 浅沼弘一

■労働法の立法学 第53回■
労働法の人的適用対象の法政策 労働政策研究・研修機構労働政策研究所長 濱口桂一郎

■判例研究■
グループ会社におけるセクハラ事案の申出を受けた親会社の対応義務 イビデン事件・最判平成30・2・15労判1181号5頁 岡山大学准教授 土岐将仁

労働契約法7条における周知の意義 河口湖チーズケーキガーデン事件・甲府地判平成28・11・29 LEX/DB 25545729 弁護士 倉茂尚寛

■キャリア法学への誘い 第16回■
就労請求権とキャリア権 法政大学名誉教授 諏訪康雄

■重要労働判例解説■
雇止めと無期転換ルールの潜脱意図の有無 高知県立大学後援会事件・高松高判平成30年10月31日LEX/DB 25561627 日本大学教授 新谷眞人
船舶借入人の事業譲渡と雇入契約の承継 新協和海運事件・東京高判平成30年4月25日D1-Law28262570 日本大学准教授 南 健悟

わたくしの「労働法の人的適用対象の法政策」 は、遙か昔に遡ってこの問題を論じております。

はじめに
1 民法
2 商法
3 工場法
4 労働者災害扶助法・労働者災害扶助責任保険法
5 退職積立金及退職手当法
6 商店法
7 労働組合法案
(1) 法案の文言等
(2) 帝国議会の質疑
(3) 学者の意見
8 賃金統制立法におけるブルーカラーとホワイトカラー
(1) 賃金統制令
(2) 会社経理統制令
9 「従業者」概念の拡大
10 労働組合法
11 労働基準法
12 労働者災害補償保険法
(1) 制度の谷間
(2) 一人親方の擬制適用と特別加入
13 家内労働法
(1) 西陣に関する労基局判定
(2) 家内労働法をめぐる議論
14 労働者性に関する行政研究会報告
(1) 労働基準法研究会報告
(2) 労使関係法研究会報告
15 雇用類似就業者の法政策
(1) 個人請負型就業者研究会
(2) 経済産業省の動き
(3) 公正取引委員会の動き
(4) 雇用類似の働き方検討会

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給特法制定時の中基審建議及び覚書

先月、『労基旬報』に「公立学校教師の労働時間規制」を寄稿したのですが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/02/2019225-de99.html

その後、興味を持って給特法が1971年に制定されたときの解説書をぱらぱらと読んでいくと、

https://www.amazon.co.jp/%E6%95%99%E8%82%B2%E8%81%B7%E5%93%A1%E3%81%AE%E7%B5%A6%E4%B8%8E%E7%89%B9%E5%88%A5%E6%8E%AA%E7%BD%AE%E6%B3%95%E8%A7%A3%E8%AA%AC-1971%E5%B9%B4-%E6%95%99%E5%93%A1%E7%B5%A6%E4%B8%8E%E7%A0%94%E7%A9%B6%E4%BC%9A/dp/B000J9JRF6(文部省初等中等教育局内教員給与研究会編『教育職員の給与特別措置法解説』第一法規

法案を国会に提出する前に、当時の労働省の中央労働基準審議会に報告し、1971年2月13日に同審議会から次のような建議が出されていたんですね。

1 労働基準法が他の法律によって安易にその適用が除外されるようなことは適当でないので、そのような場合においては、労働大臣は、本審議会の意向を聞くよう努められたい。

2 文部大臣が人事院と協議して超過勤務を命じうる場合を定めるときは、命じうる職務の内容及びその限度について関係労働者の意向が反映されるよう適切な措置がとられるよう努められたい。

この建議はあくまでも労働大臣に宛てたもので、文部大臣宛ではないのですが、これを受けてその二日後、次のような覚書が結ばれていたようです。

覚書

昭和46年2月15日

文部省初等中等教育局長

労働省労働基準局長

「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(案)」について

第65国会に提案される「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(案)」に関し、文部省と労働省は下記の通り諒解し、文部省はその趣旨の実現に努めるものとする。

1.文部省は、教育職員の勤務ができるだけ、正規の勤務時間内に行われるよう配慮すること。

2.文部大臣が人事院と協議して時間外勤務を命じうる場合を定めるときは、命じうる職務については、やむを得ないものに限ること。

なお、この場合において、関係教育職員の意向を反映すること等により勤務の実情について十分配慮すること。

60年近く昔の証文ですが、給特法がほぼそのまま生きている以上、これも一応生きているはずでしょうね。

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道幸哲也『労働組合法の応用と課題』

07989道幸哲也『労働組合法の応用と課題 労働関係の個別化と労働組合の新たな役割』(日本評論社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/7989.html

一見個別的であっても、実際には集団的な側面を備えている紛争は少なくない。著者渾身の、生きる労組法体系を具体的に展開する。

ここ数年来雑誌等に書かれてきた今までの集団法と個別法の区別を踏み越えて新たな次元を切り開こうとする論文が並んでいます。

第1章 個別労働紛争は個別的か――集団性の端緒
 1 労働組合法にみる集団性の内実
 2 個別紛争処理の集団(法)的視点
 3 紛争処理における集団(法)的性質

第2章 集団法からみた就業規則法理
 1 集団法的視点から見た就業規則法理の問題点
 2 組合法からみた就業規則

第3章 労働法における集団的な視角
 1 労働契約法理の見直し
 2 就業規則法理の見直し
 3 個別代理を超えた組合の役割

第4章 協約自治と就業規則の不利益変更の合理性
     ――リオン事件を素材として
 1 事実関係と判旨
 2 検討

第5章 協約上の人事協議条項をめぐる法理
     ――個別人事に対する組合の関与
 1 人事協議・同意条項の実態
 2 平成以降の裁判例の傾向
 3 組合員の意向と組合の協議義務

第6章 権利実現への組合のサポート
 1 意見表明や同僚への働きかけをめぐる紛争
 2 個別紛争と組合の役割

第7章 合同労組の提起する法的課題
 1 労働組合かどうか
 2 組合活動の評価
 3 団交

第8章 非正規差別と労使関係法
 1 従業員代表制構想
 2 組合法上の解釈問題

第9章 非正規労働者の組織化と法
 1 労働契約関係での試み
 2 集団法での試み

このテーマ、私にとっては今から10年前の『新しい労働社会』の第4章で、盲蛇に怖じずよろしく無手勝流で論じてみたものととても重なっています。

現代日本で集団労使関係法の最大の論者である道幸さんが、それを忘れてしまったような個別労働法のトピックに、集団というなたを振り下ろしている感があります。

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商店の閉店時刻限定に関する建議書(昭和6年)

昭和13年制定の商店法に向けて、昭和6年4月に行われた標記建議書の文章が、90年近く後の今日にもそのまま使えてしまうのが恐ろしい・・・。

商店の閉店時刻に関し之が限定の法規なき為、徒に深夜店舗を開きて営業を為し、之が為に従業者の健康を害し、又教育修養に関する余暇を奪ひ、一面営業上に於ても営業時間の長き割合に其の能率上がらざるのみならず、徒に照明等の費用を費消するの実情なり。依て適当に営業時間の合理化を図り、此等の弊害を防ぐの必要あり。而して此の閉店時刻の限定は、購買者側に対し多少の不便あるが如きも、閉店後に於ける営業を絶対に禁止するものに非ず。且、業種、時期に依り或は地域に依り閉店の時刻を異にするを必要とする場合には、之を斟酌して適当に之を案配することとせば大なる不便を来すことなかるべし。是、本案を提出する所以なり。

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ハラスメント紛争の調停に参考人制度@WEB労政時報

WEB労政時報に「ハラスメント紛争の調停に参考人制度」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers-taiken/hr/article.php?entry_no=840

今期の通常国会に提出される予定となっている法案に、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案」がありますが、101~300人規模の中堅企業にも行動計画策定と情報公表を義務づける女性活躍推進法の改正がさほど興味を惹かないものであるのに対して、職場のいじめ・嫌がらせ、いわゆるパワーハラスメントに対する事業主の措置義務等を定める労働施策総合推進法の改正は大きな注目を集めています。この問題は、法律上は「職場における労働者の就業環境を害する言動に起因する問題」という表現になりました。・・・

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商店法(昭和13年法律第28号)

今から80年前、戦争直前のころのこの法律のほうが、24時間営業やめろは無責任だとかブランド力がどうのこう言うおっさんよりもよっぽどまともに見える今日この頃であった。

商店法(昭和13年法律第28号)
第一条 本法ハ市及主務大臣ノ指定スル町村(町村ニ準ズベキモノヲ含ム)ニ於テ物品販売業又ハ理容業ヲ営ム店舗ニ之ヲ適用ス
2 前項ノ物品販売業及理容業ノ範囲ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第二条 店主ハ本法ニ定ムル閉店時刻以後顧客ニ対シ前条ノ営業ヲ為スコトヲ得ズ但シ閉店時刻前ヨリ引続キ店舗ニ在ル顧客ニ対シテハ此ノ限ニ在ラズ
2 店主ハ閉店時刻以後ト雖モ負傷、疾病、災害其ノ他緊急ノ事由ヲ提示セル顧客ニ対シ其ノ必要ニ応ズル物品ヲ販売スルコトヲ得
第三条 閉店時刻ハ午後十時トス
2 行政官庁ハ命令ノ定ムル所ニ依リ地域ヲ限リ前項ノ時刻ヲ午後十一時迄繰延ブルコトヲ得
第四条 業務ノ繁忙ナル時期ニ付行政官庁必要アリト認ムルトキハ期間又ハ地域ヲ限リ一年ヲ通ジ六十日以内前二条ノ規定ヲ適用セズ又ハ前条ノ時刻ヲ繰延ブルコトヲ得
2 前項ノ外行政官庁臨時必要アリト認ムルトキハ期間又ハ地域ヲ限リ前二条ノ規定ヲ適用セズ又ハ前条ノ時刻ヲ繰延ブルコトヲ得
第五条 店主ハ使用人ニ毎月少クトモ一回ノ休日ヲ与フベシ
第六条 左ニ掲グル店舗ニシテ行政官庁ノ許可ヲ受ケタルモノニ付テハ第二条及第三条ノ規定ハ之ヲ適用セズ
 一 興行場、観覧場、遊技場其ノ他之ニ類スル場所ニ於ケル店舗
 二 展覧会場、共進会場、博覧会場其ノ他之ニ類スル場所ニ於ケル店舗
 三 停車場又ハ船舶発着所ニ於ケル店舗
 四 其ノ他主務大臣ノ指定スル場所ニ於ケル店舗
2 前項第二号ノ店舗ニシテ行政官庁ノ許可ヲ受ケタルモノニ付テハ前条ノ規定ハ之ヲ適用セズ
第七条 常時五十人以上ノ使用人ヲ使用スル店舗ニ在リテハ店主ハ十六歳未満ノ者及女子ヲシテ一日ニ付十一時間ヲ超エテ就業セシムルコトヲ得ズ
2 前項ノ店舗ニ在リテハ店主ハ十六歳未満ノ者又ハ女子ノ就業時間ガ六時間ヲ超ユルトキハ少クトモ三十分、十時間ヲ超ユルトキハ少クトモ一時間ノ休憩時間ヲ就業時間中ニ於テ之ニ与フベシ
3 業務ノ繁忙ナル時期ニ於テハ店主ハ行政官庁ノ許可ヲ受ケ一年ヲ通ジ六十日以内第一項ノ就業時間ヲ延長スルコトヲ得
4 前項ノ外臨時必要アル場合ニ於テハ店主ハ行政官庁ノ許可ヲ受ケ第一項ノ就業時間ヲ延長スルコトヲ得
第八条 前条第一項ノ店舗ニ在リテハ店主ハ十六歳未満ノ者及女子ニ毎月少クトモ二回ノ休日ヲ与フベシ
2 業務ノ繁忙ナル時期其ノ他臨時必要アル場合ニ於テ店主行政官庁ノ許可ヲ受ケタルトキハ前項ノ休日ヲ一回ト為スコトヲ得
第九条 行政官庁ハ命令ノ定ムル所ニ依リ店舗又ハ其ノ附属建設物ニ於ケル使用人ノ危害ノ防止又ハ衛生ニ関シ必要ナル事項ヲ店主ニ命ズルコトヲ得
第十条 天災事変ノ為又ハ事変ノ虞アル為必要アル場合ニ於テハ主務大臣ハ期間又ハ地域ヲ限リ本法ノ全部又ハ一部ヲ適用セザルコトヲ得
第十一条 行政官庁監督上必要アリト認ムルトキハ当該官吏ヲシテ店舗又ハ其ノ附属建設物ニ臨検セシムルコトヲ得但シ使用人以外ノ者ノ居室ハ此ノ限ニ在ラズ
2 当該官吏前項ノ規定ニ依リ臨検スル場合ハ其ノ証票ヲ携帯スベシ
第十二条 店主ハ店舗ノ管理ニ付一切ノ権限ヲ有スル店舗管理人ヲ選任スルコトヲ得
2 店主本法施行地内ニ居住セザルトキハ店舗管理人ヲ選任スルコトヲ要ス
3 店舗管理人ノ選任ハ行政官庁ノ認可ヲ受クルニ非ザレバ其ノ効力ヲ生ゼズ但シ法令ノ規定ニ依リ法人ヲ代表スル者及支配人ノ中ヨリ選任スル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
第十三条 前条ノ店舗管理人ハ本法及本法ニ基キテ発スルム命令ノ適用ニ付テハ店主ニ代ルモノトス
2 店主営業ニ関シ成年者ト同一ノ能力ヲ有セザル未成年者若ハ禁治産者ナル場合又ハ法人ナル場合ニ於テ店舗管理人ナキトキハ其ノ法定代理人又ハ法令ノ規定ニ依リ法人ヲ代表スル者ニ付亦前項ニ同ジ
第十四条 店主又ハ前条ノ規定ニ依リ店主ニ代ル者第二条第一項、第五条、第七条第一項第二項又ハ第八条第一項ノ規定ニ違反シタルトキハ五百円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス
第十五条 正当ノ理由ナクシテ当該官吏ノ臨検ヲ拒ミ、妨ゲ若ハ忌避シ又ハ其ノ尋問ニ対シ答弁ヲ為サズ若ハ虚偽ノ陳述ヲ為シタル者ハ三百円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス
第十六条 店主又ハ第十三条ノ規定ニ依リ店主ニ代ル者ハ其ノ代理人、戸主、家族、同居者、雇人其ノ他ノ従業者ガ其ノ業務ニ関シ本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ違反シタルトキハ自己ノ指揮ニ出デザルノ故ヲ以テ其ノ処罰ヲ免ルルコトヲ得ズ
第十七条 本法及本法ニ基キテ発スル命令ハ営利ヲ目的トセザル物品販売又ハ理容ノ事業ヲ為ス店舗ニ之ヲ準用ス但シ国、道府県、市町村其ノ他之ニ準ズベキモノニ付テハ店舗管理人ニ関スル規定及規則ハ此ノ限ニ在ラズ
第十八条 本法ハ汽車、汽船其ノ他ノ交通機関内ニ於ケル店舗及露店ニ之ヲ適用セズ
2 行政官庁ハ物品販売業ヲ営ム露店ニ付終業スベキ時刻ヲ定ムルコトヲ得
  附 則
本法施行ノ期日ハ各規定ニ付勅令ヲ以テ之ヲ定ム

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