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2019年11月18日 (月)

経団連は厚生年金保険の適用拡大に賛成

去る11月13日付で、経団連が「経済成長・財政・社会保障の一体改革による安心の確保に向けて~経済構造改革に関する提言~」というのを公表しています。

http://www.keidanren.or.jp/policy/2019/098_honbun.pdf

例によってSociety5.0から始まって(個人的にはこの言葉あんまり好きじゃなくて、Industry4.0第四次産業革命という言い方の方がぴったりするんですが、それはともかく)、わりと総花的にあれこれ書かれていて、その中には、こんなちょっと「?」がつくような一節もあったりしますが(なんでジョブ型にしたらエンゲージメントが高まるのかよくわからない。別の軸の話でしょう)、

また、企業が生産性を向上させ、持続的に活力を生み出していくためには、働き手のエンゲージメント25を高める必要がある。そのために、個々人が能力を一層発揮しながら働けるよう、雇用システムの変革が重要となる。今後、企業においては、従来のメンバーシップ型雇用26に加えて、ジョブ型雇用27のさらなる活用に向けた検討が求められる。政府においては、個々人の能力の発揮や希望の一致につながる形で、柔軟な働き方の拡大や人材移動の円滑化を推進すべきである。 ・・・

ここではそっちじゃなく、社会保障の話から:

①年金制度改革
現在でも、多様な人材がそれぞれの選択に基づく様々な働き方を行っているが、今後ともこの傾向は続くことに加え、高齢者の就労期間の延長も進んでいる。こうした中、公的年金制度として、年金財政への影響を中立的にすることを前提に、まずは受給開始年齢の選択67をより弾力化していく必要がある。あわせて、高齢者に限らず、働き方や家族のあり方が大きく変化し、働きたい人が就労調整を行うことを意識しないで働くことができる環境を整える必要性が高まっていることから、企業規模要件の見直しをはじめ、被用者保険の適用拡大を進めるべきである68。その際、中小企業の生産性向上に関する支援策を講じることが求められる。
なお、在職老齢年金制度69の廃止によって、高齢者の就業促進を図るという意見がある。しかし、その単純な廃止は、過去の提言で述べてきたとおり、平均的な現役世代に比べ恵まれた年金受給者の給付を増やすことを意味し、真に必要な人への給付の重点化には相反する。65 歳以上において本制度を廃止した場合、これまでのところ、就業抑制効果は限定的といわれており、また、将来世代の年金給付水準(所得代替率70)が低下することに留意する必要がある。 ・・・

おっと、経団連は明確にパートタイム労働者への適用拡大(中小企業への拡大)を掲げてますね。パート・アルバイト多用型ビジネスモデルをいつまでも擁護しきれないという判断でしょうか。

また、在労の見直しにも大変否定的な態度であることがわかります。

2019年11月15日 (金)

副業・兼業で議論されている問題点@『月刊人事労務実務のQ&A』2019年12月号

1281691969_o 『月刊人事労務実務のQ&A』2019年12月号に「副業・兼業で議論されている問題点」を寄稿しました。

政府の「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日「働き方改革実現会議」決定)で盛り込まれた副業・兼業の促進問題。厚生労働省はモデル就業規則にあった「許可制」の規定を「届出制」に改定するなど新たな動きもみられました。また、副業を許可制から届け出制にして認める企業の動きも見え始めました。その一方で、副業・兼業がもたらす長時間労働やそれに伴う健康管理の確保などの懸念が議論される中、この8月8日には、厚生労働省の「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」が検討結果の報告書を公表しました。ただし、この報告書は、健康確保措置に関しては、労働者の自主申告を前提に労働時間を通算して把握し、措置を講ずることや自主申告を前提にしても通算せずに措置を講ずることなど複数の選択肢を提示するという複雑な内容となっています。そのため既に副業・兼業を認める決定をした企業や検討中の企業には戸惑いが生まれています。こうした副業・兼業をめぐる様々な問題について、労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎労働政策研究所長に解説してもらいます。

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 ここ2年余りにわたって、政府は副業・兼業の推進に大変前のめりの姿勢を示し、労働社会保険制度やとりわけ労働時間規制のあり方の見直しを進めています。今回は、この動きがどうして始まったのか、制度の見直しの方向性はどうなのか、そしてそもそもこの問題をどう考えるべきなのか、といった諸点について、包括的に概観したいと思います。・・・・・

 

『POSSE』vol.43

9784906708819_600 『POSSE』vol.43をお送りいただきました。今号の第1特集は「拡大する中高年の貧困問題」、第2特集は「外国人労働者とともに」です。後者には、台湾で外国人労働者のために活動している青年ユニオンの人も登場していて、興味深いのですが、ここでは特集以外の記事で、『日本社会のしくみ』の小熊英二さんとジョブ型論者の木下武男さんの対談を紹介しておきましょう。

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784906708819

「日本型雇用崩壊」の内実から格差社会への処方箋を問い直す――ジョブ型労働運動はどんな労働者層を救うのか?
木下武男(労働社会学者)×小熊英二(慶應義塾大学教授)

ただこの対談、途中で今野晴貴さんが見かねて介入しているんですが,確かにいささか噛み合っていないところがあります。職種別労働運動を掲げる木下さんに対して、小熊さんは、欧米みたいに職種別にしたって、格差はなくならないんじゃないか、はじかれる人は変わらないんじゃないか,と問いかけています。それはまったくそうなんですが、問題点が少しずれている感はありますね。

◆第一特集「拡大する中高年の貧困問題」
子どもの貧困からワーキングプアへ――貧困を拡大再生産するシステムのループから脱出するために
渡辺寛人(本誌編集長)

女性の視点から考える中年フリーター問題――保育労働市場の改善と地域拠点としての保育所の必要性
小林美希(ジャーナリスト)

「男性世帯主依存モデル」の歪みの総決算としての中高年女性の貧困
竹信三恵子(ジャーナリスト)

仙台発の「大人食堂」――ワーキングプアの集まる場の創出
森進生(仙台けやきユニオン代表)

賃金低下がもたらす中高年世代の困難と社会的危機――ワーキングプア論をアップデートして新たな運動の構築を
後藤道夫(都留文科大学名誉教授)

◆第二特集「外国人労働者とともに」
私から見た、ふるさと日本のいま
ナディ

「失踪」した外国人労働者はどこにいったのか?――外国人が「逃走」ではなく「闘争」できるために
巣内尚子(ジャーナリスト)

外国人技能実習生を守るための新たな試み――SNSを駆使した「相談室」の取り組みと支援の輪
榑松佐一(愛知県労働組合総連合(愛労連)前議長)

台湾における若者の労働運動と外国人労働者の組織化――台湾青年ユニオン95と桃園市家事労働者労働組合
周于萱(台湾青年ユニオン95)×黃姿華(桃園市家事労働者労働組合)

グローバリゼーションと低賃金移民労働者――21世紀における人の移動が抱えるジレンマ
伊豫谷登士翁(一橋大学名誉教授)

◆単発
書評 斎藤幸平 編
『資本主義の終わりか、人間の終焉か? 未来への大分岐』
本誌編集部

とあるIT企業の面接へ行ったらラブホに連れ込まれそうになった話
笹川めめみ(コミックエッセイスト)

「日本型雇用崩壊」の内実から格差社会への処方箋を問い直す――ジョブ型労働運動はどんな労働者層を救うのか?
木下武男(労働社会学者)×小熊英二(慶應義塾大学教授)

プラットフォーム型労働に対する法的保護のあり方をめぐって――ウーバーイーツユニオンの結成を支えた弁護士に聞く
川上資人(弁護士(早稲田リーガルコモンズ法律事務所))

「スト破り」に負けずに闘おう!――佐野SAの闘争から考えるストライキ権の行使
本誌編集部

地域社会に根ざした労働運動とは――富山県農業協同組合労働組合と地域の連携
篠島良幸(富山県農業協同組合労働組合書記長)

育児のモヤモヤから労働と社会をとらえ直す
常見陽平(千葉商科大学国際教養学部専任講師)

沖縄におけるブラックバイト――解決事案を通して考える深刻な実態
ブラックバイトユニオン

◆連載
My POSSE ノート page7

貧困研究の視点から社会を探る 第2回
女性の貧困と性搾取
岩田正美(日本女子大学名誉教授)×仁藤夢乃(女子高生サポートセンターColabo代表)

[新連載]現代韓国フェミニズム 第1回
#MeToo ムーブメント前夜・ミソジニーへの抵抗
古橋綾(東京外国語大学非常勤講師)

[新連載]映画のなかに社会を読み解く 第1回
天気の子
西口想(文筆家・労働団体職員)×河野真太郎(専修大学教授)

社会を変えるのは私たち 第4回
大学を、社会を、変えるために何ができるのか?――学生アクティビスト座談会(上)
大澤祥子(一般社団法人ちゃぶ台返し女子アクション共同代表理事)

知られざる労働事件ファイル No.16
川崎の自動車製造下請2社でフィリピン人労働者を組織化
ジェローム・ロスマン(東ゼン労組) 

この最後のロスマンさんは、アメリカではSEIUのオルグをしていたんですが、日本に来て英会話教室の講師をした後東ゼン労組のオルグとして活躍しているそうです。オルグの血が騒いだんですね。

この東ゼン労組、聴いたことがあると思った方、そう、JIL雑誌9月号を紹介したときに、奥貫妃文さんが委員長をしている全国一般東京ゼネラルユニオンのことに触れましたが、その東ゼン労組ですね。

ロスマンさんは川崎の大手自動車メーカーA者の下請二社でフィリピン人労働者を組織し、労使交渉によっていろいろと勝ち取ってきています。しかし彼の目標は高く、

・・・私の戦略は、この二つの支部でストライキを行うことで、B社に対する交渉力を高めるというものです。川崎地域で自動車部品の梱包業務をしている労働者全員が労働組合に加入して大きなストライキを行えば、B社からの請負料金を高くすることができるはずです。・・・・

と、述べています。

2019年11月14日 (木)

研究者の「働き方改革」と自由な研究時間確保の両立についての日本学術会議幹事会声明

Scj 11月7日付で「研究者の「働き方改革」と自由な研究時間確保の両立についての日本学術会議幹事会声明」が出されています。

http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-kanji-3.pdf

これ、本ブログでも8月にNHKニュースウェブと白井邦彦さんの論文をネタにちょっと考えてみたことですが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/08/post-32b896.html (大学教授の労働時間概念)

・・・白井さんはかなり幅広く労働法の文献を読まれた上で(参考文献にはジンツハイマーまで出てきます)、大学教員に今回の働き方改革関連法で義務づけられた「労働時間の状況の把握」をそのまま適用するのは無理があると主張しています。

今回は日本学術会議という学者先生の本丸が乗り出してきています。

一般労働者向けの働き方改革を下手に我々研究者に適用されたりしたら、自由な研究時間確保ができなくなる!という危機感に溢れています。

ここでは、その本論部分を要約せずにそのまま引用しておきます。

・・・学術研究は、いうまでもなく研究者の自由な意思に基づく活動であって、組織的な指揮命令によって遂行される業務とは性格を異にしている。研究者の自由な学術研究活動が阻害されるようなことがあっては学術研究の停滞を招くのみならず、誰もが生きがいを持ってその有する能力を最大限に発揮できる社会を創るという「働き方改革」の趣旨にも反することとなる。
 研究者には、既に裁量労働制の活用が進められている。その趣旨は、研究状況に応じて労働時間を研究者自身が自由に設計することにある。研究時間は、週や月単位で一律に管理されるべきものではなく、学術研究の性格や進捗状況に応じて研究者自身によって自由に設定されるべきである。しかし、労働行政による裁量労働制の運用が必ずしも学術研究活動の実態に即していないという指摘が多くの大学等の関係者からなされている。
 学術研究活動の自由は最大限尊重されなければならず、勤務時間管理についても学術研究の特性に配慮した取り扱いが望まれる。学術研究の拠点である大学には、自由な学術研究を支えるために大学の自治が認められている。むろん、大学には自治に伴う責任があり、制度を適切に運用しなければならないことは言うまでもないが、自由な学術研究活動として行われる活動に割り当てられる時間を労働時間に入れるかどうかの判断は、大学や研究者の判断を尊重するべきである。大学の自治を尊重し、学術研究の当事者の納得性を基本とした制度の運用が望ましい。
 今般の法改正で導入された高度プロフェッショナル制度については、厚生労働省の通達で大学の学術研究が対象業務から外されている。大学の研究者は最も高度なプロフェッショナルということができるが、現行の高度プロフェッショナル制度についてはその是非を含め様々な議論がある。今後の検討においては、裁量労働制との関係を含め、大学の研究者の自由な学術研究活動に資する方向での検討を求めるものである。
 学術研究を活性化し研究環境のダイバーシティーを確保するためには、女性、外国人、障がい者が活躍することのできる研究環境を整えることが必要である。我が国の研究者が欧米の研究者に比べて長時間労働である傾向も指摘されるところであるが、「働き方改革」の観点からも、短い労働時間で高い研究力を獲得する仕組みを大学等の研究機関が組織として整えていかなければならない。・・・

裁量労働制については、実は今の大学教授たちの大部分は本当は適用できないのが実情でもあり、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/06/post-cce81a.html (研究時間が3割の大学教授は専門業務型裁量労働制が適用できない件について)

本気で見直そうとすれば、結構大変な話でもあります。

日本学術会議としては、せっかく昨年の改正で作られた高度プロフェッショナル制度が、企業部門では不人気のようなので、それなら自分らのために使えるようにしてくれというのが本音の要求のようです。

客観的な事情を考えれば気持ちはよくわかるところではありますが、猛然と高プロに反対していた方々はどうされるのか、いささか興味深いところではあります。

 

 

 

2019年11月13日 (水)

「働かないおじさん」視線 おびえる記者が専門家に聞く@朝日新聞デジタル

As20191112004348_comm 朝日新聞デジタルに、浜田陽太郎記者による私へのインタビュー記事が掲載されています。曰く:「働かないおじさん」視線 おびえる記者が専門家に聞く・・・・ときたもんだ。

https://www.asahi.com/articles/ASMBV3V8KMBVULFA002.html

昨日の「動けぬ「会社の妖精さん」」という記事の延長線上なので、リンク先のてっぺんには中年の妖精さん?らしき変なのが宙を舞っていますな。

「働かないおじさん」として若者から冷たい視線を感じてしまう53歳の記者が、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)研究所長の濱口桂一郎さんに聞きました。 

――私は昔のような体力はありませんが、健康である限り働き続けたい。でも、それがかなうような社会になるんでしょうか。

 「まず聞きたいのですが、あなたはいま、給料に見合うような仕事をしていますか」

――(しばし沈黙)。この質問に胸を張って答えられないところが……。

「そうでしょうね。年功で賃金が上がっていく日本の制度だと、中高年になれば貢献よりも報酬が高すぎる状況が生まれやすい」

「でも、勘違いしないでください。私は『若者に比べて、日本の中高年サラリーマンは既得権にしがみつき、いい目を見ているからけしからん』と言っているわけではありません。世代間の対立や分断をあおる言説は非生産的です」・・・・・

 

2019年11月12日 (火)

動けぬ「会社の妖精さん」@朝日新聞

今朝の朝日新聞の3面に、「老後レス時代」という連載記事の「動けぬ「会社の妖精さん」」というタイトルの記事の中で、ちょびっとだけコメントしています。

ちなみに、会社の妖精さんというのは、「メーカーに勤める50代後半で、働いていないように見える男性たち」のことだそうです。

 

2019年11月11日 (月)

野川忍・水町勇一郎編『実践・新しい雇用社会と法』

L24319 野川忍・水町勇一郎編『実践・新しい雇用社会と法』(有斐閣)を、執筆者の一人である長谷川珠子さんよりお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641243194?top_bookshelfspine

働き方改革関連法により,長時間労働の是正や多様な働き方実現のための新たな施策等が導入される。本書では,実務に精通した研究者が,契約締結から終了にいたるプロセスの中で実際に問題となりうるケースを用いて,労働法実務の今後を描き出す。

というわけで、以下のような内容と執筆陣です。

第1章 労働契約の成立と若者・高齢者雇用(小西康之・山下 昇)
第2章 パート・有期雇用(野川 忍・水町勇一郎・北岡大介)
第3章 派遣労働(橋本陽子)
第4章 雇用平等・障害者差別の禁止(長谷川珠子)
第5章 人事制度(土田道夫)
第6章 労働関係の変動,企業における人格的利益,ハラスメント(水町勇一郎・大橋 將)
第7章 労働時間(山本圭子)
第8章 労働者の傷病,労働災害・メンタルヘルス(北岡大介・鎌田耕一)
第9章 労働契約の終了・退職金・年金(原 昌登・渡邊絹子・北岡大介)
第10章 国際化への対応(早川智津子)
第11章 今後の労使関係(野川 忍)
鼎談:雇用社会における労使関係の将来展望(菅野和夫・逢見直人・荻野勝彦)  

この目次を見たら、なんと言っても最後の鼎談に興味をそそられるでしょう。我らが労務屋こと荻野勝彦さんが、各方面にわたってやや慎重な言い回しながら持論をぶちかましています。

荻野 日本の正社員は、組織中枢から末端に至るまで、企業業績にコミットしているという意識を持っています。・・・そのためには、勤務地変更、職種変更、時間外・休日労働にも無限定で応じるわけです。・・・欧米でそうした無限定な働き方をしている人は、恐らくトップ10%程度のエリートだけで、そういう人は高い賃金と賞与を受け取る。残りの9割は決められた仕事を決められた通りにやって決められた賃金を受け取る。職務記述書と職務給の世界で働いていて、企業業績にコミットしているとは思っていない。・・・同一労働同一賃金も基本的にはこの90%の世界の話でしょう。

日本が特徴的なのは、正社員がすべてそうかは別としても、正社員が6割以上いるところで、欧米との違いは量的な違いに過ぎません。1割と9割だと比べようと思わないけれども、6割と4割だと比べたくなるというのは、気持ちとしてわからないではありませんが、やはり無理があるというか、筋が悪いと思います。そもそものスタート地点が悪いので、議論が先に行くほどまずくなる。それが派遣の話ではないかと思っています。・・・・

同一労働同一賃金という看板で進められた政策にはこのように辛口ですが、今後の方向としてはこういうみんながエリート目指して頑張る在り方に疑問を呈しています。

荻野 企業文化、風土については、頑張れば報われる、努力すれば成功するという意識が強すぎるのではないかと感じます。・・・あまりに一般的な価値観として徹底されすぎてしまうと、報われないのは頑張らないから、失敗するのは努力不足ということになってしまう。それがパワハラとか、長時間労働につながっているという面はあるのではないか。・・・

この点、私が結構以前から繰り返し言っていることなんですが、ある面で階級格差を導入せよみたいな面があって、なかなか受け入れられがたいようです。

Hyoshi17 もう7年も前に、『POSSE』17号で今野晴貴さんとの対談で、こう語ったことがあります。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-40cf.html

濱口:これはおそらく労働にかかわるいろんな人たちにとって、ややタブーに触れる議論になるんですが、ここに触れないと絶対にブラック企業の問題が解決しないと思っていることがあります。それは、エリート論をエリート論としてきちんと立てろということなんです。つまり、日本では、本当は一部のエリートだけに適用されるべき、エリートだけに正当性のあるロジックを、本来はそこには含まれない、広範な労働者全員に及ぼしています。・・・・ 

あと、この鼎談で連合会長代理の逢見さんがこうはっきりと従業員代表制の立法化に積極的な発言をされているのも、重要なポイントですね。

逢見 ・・・・非正規雇用の処遇改善についても、労使が議論もせず裁判所に丸ごと判断を任せるということではないと思います。むしろ労使で検討して解を求めていかなければいけない問題です。・・・そうすると組合のないところで過半数代表者をどういうふうに選んでいくかということの手続きが必要になります。ゆくゆくは従業員代表法制という方向に行くことになると思います。過半数代表として労働組合が機能していれば、そこは労働組合がやるし、なければそれに代わるものとして従業員代表を選んでいくというそういう枠組みで立法化するということは必要なことではないかと思っています。

 

 

 

 

 

 

2019年11月10日 (日)

労働者と自営業者の社会保護アクセス勧告

Eueu 先週金曜日(11月8日)に、EUの新たな「労働者と自営業者の社会保護アクセス勧告」が正式に成立しました。

https://ec.europa.eu/social/main.jsp?langId=en&catId=89&newsId=9478&furtherNews=yes

https://data.consilium.europa.eu/doc/document/ST-12753-2019-INIT/en/pdf

これは、今年6月に成立した透明で予見可能な労働条件指令と並んで、EUの新たな就業形態への対応を示す法政策の一つです。

その内容については、労使団体への協議の段階で『季刊労働法』260号に載せた「EUの透明で予見可能な労働条件指令案」にちょっと書きましたが、改めて今回成立した勧告の文言を見ていきますと、

3. This Recommendation applies to:
3.1. workers and the self-employed, including people transitioning from one status to the other or having both statuses, as well as people whose work is interrupted due to the occurrence of one of the risks covered by social protection;
3.2. the following branches of social protection, insofar as they are provided in the Member States:
(a) unemployment benefits;
(b) sickness and healthcare benefits;
(c) maternity and equivalent paternity benefits;
(d) invalidity benefits;
(e) old-age benefits and survivors’ benefits;
(f) benefits in respect of accidents at work and occupational diseases.
4. This Recommendation does not apply to the provision of access to social assistance and minimum income schemes.

この勧告は、労働者にも自営業者にも、というだけではなく、その間を行き来する人にも、労働者と自営業者の両方の地位を有する人にも適用されます。

具体的に加盟国がこれらすべての就業者に社会保護へのアクセスを提供するように求められる制度は、(a)から(f)まで6種類並んでいますが、(b)と(d)(e)は日本でも国民健康保険、国民年金として皆保険、皆年金となっていますが、それ以外は労働者向けの制度だけですね。

(a)失業保険、(c)出産給付、(f)労災保険を自営業者にも適用するという議論は、まだまだ日本では大きくなっていません。

もっとも、自営業者もすべて強制適用しろと言っているわけではなく、

(a) all workers, regardless of the type of employment relationship, on a mandatory basis;
(b) the self-employed, at least on a voluntary basis and where appropriate on a mandatory basis.  

労働者である限りは雇用形態にかかわらずすべて強制適用せよという一方、自営業者は少なくとも任意加入制で、できれば強制加入で、とお手柔らかになっています。

 

2019年11月 9日 (土)

『「尊厳ある社会」に向けた法の貢献』

482286 島田陽一・三成美保・米津孝司・菅野淑子 編著『「尊厳ある社会」に向けた法の貢献 社会法とジェンダー法の協働』(旬報社)をお送りいただきました。浅倉むつ子先生古稀記念論集ということで、全30人による力のこもった論集です。

http://www.junposha.com/book/b482286.html

第Ⅰ部 差別・平等と法
第Ⅱ部 雇用社会と法
第Ⅲ部 ジェンダーと法
第Ⅳ部 ハラスメントと法

全30論文のうち、私の『働く女子の運命』と問題意識が大変近かったのは、島田陽一さんの「「同一労働同一賃金原則」と「生活賃金原則」に関する覚書」です。そこで引用されている様々な文書は、私もこの問題を考える中で渉猟したものでした。

「同一労働同一賃金原則」と「生活賃金原則」に関する覚書…………島田陽一
 はじめに
一 「同一労働同一賃金」論の登場とその具体的内容
二 「男女同一労働同一賃金」論と「生活賃金」原則
 むすびに代えて

あと、読みながらものすごく考えさせられたのは、笹沼朋子さんの「業務上の自殺、あるいは精神病者の自己決定について――業務上の自殺を考察する」です。

業務上の自殺、あるいは精神病者の自己決定について――業務上の自殺を考察する…………笹沼朋子
一 問題の所在――自殺の意思
二 判例(「意思」の客観的評価)
三 精神病者の声――躁うつ病を例にして 

これは、これだけではよくわからないかもしれないですね。笹沼さんが言いたいのは、自殺を労災認定するために精神障害に陥っていたと言うことは、自殺に追い込まれた、追い込まれて自殺という決断をした本人の立場からして却っておかしいのではないかという疑問です。加害者に対する怒りに満ちた遺書を、精神障害のため書かれた無意味な文書にしてしまっていいのか、というまことに実存的な疑問なのですが、それをうかつに正面から受け止めてしまうと、意図した自殺は労災にあらずという労災保険の大原則に抵触してしまうという矛盾。自分をいじめた人間に対する復讐としての自殺を、その意図通りに受け取ってしまうと労災にならなくなり、労災認定するためには頭がおかしくなっていたからだよ、遺書は気違いのたわごとなんだよと言わなくてはならないという、この矛盾に、笹沼さんは敢然と立ち向かっていきます。

 

 

 

海老原嗣生『年金不安の正体』

9784480072658 昨日の朝、日暮里駅前で権丈善一さんとばったり出会いました。いやいやばったりじゃないです。二人ともその日、全国中小企業団体連合会(全中連)での講演を、会長の峰崎直樹さんから依頼されていたのですから。この名前記憶にありますか?5日のエントリ(ラッサールの呪縛@佐藤優)で、佐藤優さんと連合の神津会長の対談を紹介した時に出てきた方です。

佐藤 峰崎さんは一橋大学出身ですよね。社会主義協会でも将来を嘱望されて、いずれは大学で教鞭を執り、理論的主柱になってほしいと思われていた。ところが現場に行きたいと労働組合の職員になる。そこで現実を見て、やはりソ連の体制はおかしいと思って、ケインジアンに転向したそうです。 

なんでこういう話になったかというと、昨夜家に帰ると、雇用のカリスマこと海老原嗣生さんから『年金不安の正体』(ちくま新書)が届いていたからです。実はこの本、権丈節の海老原ヴァージョンという趣の本なんですね。

https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480072658/

いわゆる「老後資金2000万円問題」や「マクロ経済スライド」とは何か。消費税と年金の関係は。賦課方式と積立方式はどこがどう違うのか。一部で期待されるベーシック・インカムの現実度は……。国民の不平不満につけこみ、世代間の違いを不公平だと騒ぎ立て、少子高齢化で年金制度が崩壊するなどと危機感を煽る。それらのほとんどは誤解や無理解から起こっているのだが、なかには明らかなフェイクも含まれている。不安を利益に変える政治家や評論家、メディアのウソを暴き、問題の本質を明らかにしよう。  

権丈節と海老原ヴァージョンは、問題意識において全く共通していますが、あえて言えば揶揄攻撃する相手にややずれがあるといえます。権丈さんはやっぱり学者なので、経済学者でございという看板を掲げながら嘘や大げさで危機を煽り立てた学者たちに主として照準を合わせます。「焼け太り」ならぬ「負け太り」という皮肉なフレーズもありましたっけ。

それに対して、海老原ヴァージョンの方は、もちろん学者も標的に挙げられていますが、一番叩かれているのは無責任な政治家たち、とりわけ旧民主党系の政治家たちです。その舌鋒の鋭さは例えばこんな感じです。第4章「ウソや大げさで危機を煽った戦犯たち」から。

「とにかくデタラメ」の一語に尽きる。2009年に政権の座に上り詰めた旧民主党が、年金制度に対して示した方針が、だ。そのあまりの酷さについて振り返ることにしておく。・・・

・・・2017年9月の解散総選挙では、当初よりマニフェストに疑問を抱いていた前原氏が敵役に転落し、遅きに失した感はあるが非を認めた野田氏と岡田氏は無所属で不遇をかこつこととなった。対照的に、終始一貫いい加減なことを言い放ち、その発言を訂正も謝罪もしなかった枝野氏が、民進党などと合流した希望の党の”排除の論理”を覆したヒーローとしてもてはやされた。・・・かつての政治的不見識・不誠実など忘れてしまう人の好さに呆れかえるばかりだ。

気になるのは、自他ともに認める「ミスター年金」長妻昭氏の言動だ。・・・・彼は、年金の制度や理論に関して全く言及したことがないだけだ。ミスター年金と言われながら、その実やっていたのは年金記録の消失いわゆる「消えた年金問題」に対して追及をしていただけなのだ。この問題も決して捨て置くべき話ではないが、年金財政にとって九牛の一毛ほどの微額にとどまる。そこに食らいついただけで、制度や理論には何の言及もせず、政権奪取後は論功行賞で厚労大臣の座を射止める。

こんな政治がまかり通るはずなどない。その後に民主党は衰亡の道を歩んだのも当然の結果だろう。

ここまで舌鋒鋭く旧民主党の政治家を糾弾する姿を見ると、別段そんな政党を弁護する義理などありませんが、いやいや旧民主党にもちゃんと物の分かった政治家はいたんですよと一言申し上げたくもなります。ただ、残念なことに、この党においては、一番上で出てきた峰崎さんをはじめとするそういうものの分かった方ほどさっさと政治家を引退されてしまい、どうにもこうにも始末に負えないタイプの空疎なポピュリスト的傾向の方ほど政界に居残って、後継政党の年金政策を歪め続けているんですね。

そういう人々はたぶん間違っても、権丈さんや海老原さんを呼んで一から年金制度を勉強しなおし、かつての過ちを悔い改めるなどということはしないのでしょう。

というわけで、本書はいつもの海老原さんの本とは一風違っていますが、権丈さんの本でもなかなか難しくてとっつきにくいというような方々には、とてもいい入門書になっていると思います。

ただ、やや細かいことですが、事実関係で一点だけ指摘しておきたいことが。

76ページに、「1986年までは30人未満の中小企業は厚生年金加入義務はなかった」と書かれていますが、いやいや1985年改正は、それまで適用対象外だった5人未満事業所を対象に入れたんです。30人規模で線引きしたら、それ以下は労働者数の約3分の1ですからね。基礎年金の導入など大改正のついでにやれるほどの生やさしいものではないでしょう。

なお玄人向けに正確に言えば、この改正は厚生年金保険法第6条第1項の各号列記の本文には5人以上の要件を残しながら、第2項の「法人」に当たれば5人未満でも適用になるという、いささか技巧的なやり方をしています。そのため現在でも厚生年金の適用事業所は説明のつきにくいねじれが存在しており、今回も懇談会での検討課題に挙がっていたはずです。

 

 

 

2019年11月 8日 (金)

金融プラスフォーラム第9回研究報告会

A1bb866bb34624b950ed8f7935caf7cc_f461ec5 金融プラスフォーラムという団体に呼ばれて、その第9回研究報告会でお話しをすることになりました。

https://financeplusforum.amebaownd.com/posts/7242523

 金融プラス・フォーラム「第9回研究報告会ご案内(最終案内)」を送付させていただきました。今回は労働問題の第一人者である濱口桂一郎先生(労働政策研究・研修機構研究所長)をお招きし、「人生100年時代の雇用と労働」と題して報告して頂きます。報告内容については下記の通りですが、先生の経歴や著書にみられますように労働法から労働政策、ジェンダーから高齢者問題、その他時論的話題を含めて極めて幅広く、「国際比較の観点と歴史的パースペクティブ」からのリアリティある報告になると思われます。当フォーラムでは一部有志による団塊ジュニア世代に焦点をあてた新研究を今夏に立ち上げたところですが、「メンバーシップ型とジョッブ型」の提唱者として知られる先生から次の雇用システムについても示唆に富む話をお聞かせいただくことができるのではないかと考えています。「新産業革命の進展や少子高齢化などにより経済社会は大きな転換期を迎えている」(会則第3条)との認識のもと、これまで最先端の先生方を講師としてお招きしご意見を伺ってきましたが、今回は「雇用と労働」に焦点をあてました。質疑応答や懇親会の場を借りて活発な議論を期待したいところです。・・・・

 

 

2019年11月 6日 (水)

『社会のためのデモクラシー』

9784779150715 網谷龍介さんより、網谷さんも2章執筆されている『かわさき市民アカデミー双書 6 社会のためのデモクラシー ヨーロッパの社会民主主義と福祉国家』(彩流社)をお送りいただきました。小川有美さんが総論を書き、宮本太郎さんがスウェーデン、水島治郎さんがオランダ、網谷龍介さんがドイツという、鉄壁の布陣です。

http://www.sairyusha.co.jp/bd/isbn978-4-7791-5071-5.html

ただ、もとは2014年にかわさき市民アカデミーで開講された「社会民主主義と福祉国家-ヨーロッパと日本から」の講義録であるということもあり、この激変の5年間の後の視点から見ると、いささか古くなってしまっている面もあります。特に、ドイツではこの間、AfD(ドイツのための同盟)が急速に勢力を伸ばし、社会民主党は縮む一方ということもあり、オランダ編で水島さんが強調している新右翼ポピュリズムとどこが共通でどこが違うのかといった話を聞きたかった感が残るのはやむを得ません。

ほんとに、ヨーロッパの社会民主主義政党は、20年前の元気良さがどこに行ってしまったのかと思うくらい、ほぼどこでも元気がありませんね。コービンのイギリス労働党も支持率は低迷気味のようだし。

とはいえ、意外にも現在でも欧州各国で社会民主党は結構与党に参加しているんですよ。欧州社会党のサイトによると、ポルトガル、フィンランド、デンマーク、スウェーデン、スペイン、マルタ、スロバキア、ルーマニアで首相を出しています。

https://www.pes.eu/en/about-us/leadership/

また、つい先月の10月24日にも「デジタル経済における労働者の権利」(Workers’ rights in the digital economy)という社民党雇用社会相宣言を出しています。少なくとも、極東のどこかの国の労働組合の支持を受けているはずの政党よりはずっとこういう問題に敏感なようです。

https://www.pes.eu/export/sites/default/.galleries/Documents-gallery/PES-Statement-digital-EPSCO-241019.pdf_2063069299.pdf

・・・We are all getting used to ordering services on a phone app or goods via the internet. But let’s be clear: a teenager delivering meals on a bike is not an entrepreneur, neither is a mother of four children, driving people through the city after her day-job in order to make ends meet. We need to ensure that those people are neither treated as start-ups in the making nor as second-class workers, but with the respect and rights they deserve.
It is obvious that the labour market of the 21st century can’t be the resurrection of the labour market of the 19th, with a digital lumpenproletariat working paid per task, without social protection and without knowing if they will get enough work to make a living.・・・・

我々はみんなスマホアプリでサービスを、インターネットで商品を注文するのに慣れてきている。しかしはっきりさせよう。バイクで食べ物を配達する十代の若者は企業家じゃないし、4人の子供を抱えて生計を立てるために昼間の仕事の後で市内で客を乗せて運転するお母さんも企業家なんかじゃない。我々はこれらの人々を創立途中の新規企業とも二流の労働者とも扱うのではなく、それにふさわしい尊敬と権利を持って扱う必要がある。

21世紀の労働市場は、タスクごとに賃金が払われるデジタル・ルンペンプロレタリアートが、社会保護もなく生計を立てるために十分な仕事を得られるかどうかもわからないような、19世紀の労働市場の再臨であってはならない。・・・・

 

ふむ、デジタル・ルンペンプロレタリアートか、いい言葉見つけたな。

 

 

2019年11月 5日 (火)

ラッサールの呪縛@佐藤優

1910290555_1714x476 デイリー新潮で、連合の神津会長と佐藤優さんの対談が載っています。

https://www.dailyshincho.jp/article/2019/10290555/?all=1

冒頭のあたりも、社会主義協会の先輩の峰崎直樹さんと意気投合したとか、神津さんの教養学科アジア科時代の卒論が宮崎滔天だったとか、関係者には面白いややトリビアな話が詰まっていますが、その辺はリンク先をそれぞれにじっくり読んでいただくこととして、今日的関心からするとやはり最後のあたりの消費税をめぐる論議が重要です。

佐藤 それでは、連合は消費増税なのか国債の発行なのか、どちらなんでしょう?

神津 私は国債だけを選択肢にすることはできないと思っています。これだけの借金の積み上がりを見ると、返済不能ということも大いにありうる。財政破綻で真っ先に悪影響を被るのは、私たち労働者であり、制度なら社会保障と教育です。労働組合の立場からすると、破綻の可能性を織り込んだ選択は取るべきじゃない。

佐藤 よくわかります。

神津 かたや消費税ですが、政策要請で「消費増税は予定通りやってください。ただし軽減税率はダメです」と要請しました。ところが消費増税賛成とだけ世の中にメッセージが伝わってしまい、連合に批判が寄せられました。消費税でなくてもいいんです。負担の構造がきちんと担保されるのなら別の税目で構わない。ブログなどでもそう発信したんですが、所得税の累進性はこれでいいのか、法人税も国際競争のために低くしているがこれが妥当なのか、あるいは金融取引の税でもこの税率でいいのか、などいろいろな議論が必要です。

佐藤 今は税率を低くして金融取引を奨励し、それでGDPをかさ上げしようとしていますからね。

神津 社会保障や教育を、どう財政的に担保していくのか。そのトータルの姿が与党も野党も描けていない。

佐藤 理念としては、高福祉高負担か、低福祉低負担の二つがある。でも中途半端にやっていると中負担低福祉みたいなことになってしまう。

神津 それが実際の姿じゃないですか。

佐藤 行政への不信がある限りは、将来への不安から、手元に少しでも可処分所得を残しておきたいというのが国民心理ですからね。増税反対は致し方ないところがある。

神津 それで悪循環に陥るんです

ここまでは、しかし、よく言われていることです。この後に、佐藤優さんが持ち出しているこれが、とかく古典的な左翼の人々が陥りがちな傾向をよく示しています。

 佐藤 消費税については、すぐ機械的に、高所得者より低所得者の税負担率が大きくなり、逆進性が強いと言う人がいますね。その起源は19世紀にプロイセンの社会主義者ラッサールが書いた『間接税と労働者階級』だと思うんです。でもあの時代の間接税は、再分配が想定されていない。集めたお金は軍事や治安に使う時代でした。だから当時の感覚で消費税を考えてはダメで、増税分が所得の低い層にどう再分配されるかを見ないといけない

Lassalle なるほど、古典的な左翼の人々がやたらに消費税を目の敵にしたがる根源には、ラッサールがあったとは!

 

 

 

 

 

2019年11月 4日 (月)

菊池桃子さんについてのエントリ

菊池桃子さんが新原浩朗氏と結婚したというニュースが流れてきたので、

https://www.nikkansports.com/entertainment/news/201911040000441.html

 女優菊池桃子(51)が4日、ブログを更新し、交際していた一般男性との結婚を発表した。
関係者によると、お相手は経済産業省経済産業政策局長の新原浩朗氏(にいはら・ひろあき=60)。「働き方改革」や「幼児教育無償化」などに取り組み、近い将来の事務次官候補と言われるエリート官僚だ。交際期間中から2人の子どもの後押しもあり、離婚から約7年半を経て、再婚を決意した。・・・・・

本ブログでかつて菊池桃子さんを取り上げたエントリを再掲しておきましょう。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/10/post-b5ce.html (あまりにもアカデミックすぎた菊池桃子さん)

Lif1510290029p1マスコミは、内田樹氏みたいな学生を呪うしかできないようなのを偉い「学者」扱いする一方で、菊池桃子さんみたいな雇用問題に見識を持つ人はいつまで経っても「タレント」扱いしたがるという抜きがたい偏見がありますね。

確かに出発点は「パンツの穴」だったかも知れないけれど、戸板女子短大客員教授でキャリア権推進ネットワーク理事の彼女をタレント枠に入れるのは、内田樹氏を学者枠に入れるのと同じくらい違和感があります。

まあ、それはともかく、産経新聞にこんな記事が:

http://www.sankei.com/life/news/151029/lif1510290029-n1.html(菊池桃子氏が名前に「ダメ出し」 1億総活躍国民会議初会合 「ソーシャル・インクルージョンと言い換えては?」 記者団とのやり取り詳報)


「はい。1億総活躍のその定義につきましては、ちょっとなかなかご理解いただいていない部分があると思いますので、私の方からは、1つの見方として、言い方として『ソーシャル・インクルージョン』という言葉を使うのはどうでしょうかと申し上げました。ご存じのとおり、ソーシャル・インクルージョンというのは、社会の中から排除する者をつくらない、全ての人々に活躍の機会があるという言葉でございまして、反対の言葉は、対義語は「ソーシャル・エクスクルージョン」になります」

「今、排除されているであろうと思われる方々を全て見渡して救っていくことを、あらゆる視点から、今日各大臣がご参加いただきましたので、考えていただきたいと、そのように申し上げました」

彼女の過ちは、マスコミや政治家のレベルを高く見積もりすぎているという点であって、おそらくこの「ダメだし」記事を書いた記者も含めて、ソーシャル・インクルージョンといってもあまり理解していないようです。もちろん、社会政策学会とかそういう所に行けば、当たり前に通用しますが、どこでも通用するわけではない。

あまりにもアカデミックすぎる言葉遣いをすると、それについて行けない人々にちゃんと理解されないというリスクを負います。皮肉なことですが。

ちなみに、お相手の新原氏については、官邸時代の彼が牛耳ったあれやこれやに関するエントリは山のようにありますが、直接言及しているわけではないので、特に挙げることは控えておきます。

 

 

 

 

2019年11月 2日 (土)

入試英語の社会的存在感

大学入試などという問題が政局を揺るがすほどの問題になる国といえば、入試をめぐるスキャンダルでぱく・くね大統領が失脚し、むん・じぇいん大統領も揺らいでいるお隣の韓国が筆頭ですが、この日本もここ数日の動きを見ていると、大学入試というものの社会的存在感が異様に大きな国の一つなんだなあ、と改めて感じます。

興味深いのは、これからのグローバルなビジネスでは英語の能力、それも読む、書くだけではなく、聞く、話す能力が必要だというのであれば、まさにそういう能力が要求されるスタートラインの選抜において、そういう能力を示させるような試験結果を要求すればいいはずであって、そういう能力が必要だと考える企業や組織がその選抜に何とか試験で何点以上を要件とするとかすれば、そういう仕事をしたいと考える人はみんな目の色を変えてやるでしょう。

そういう風になっていないから、少なくとも大学受験生の大部分がそういう必要性をひしひしと感じていない状況下でみんなに課す共通試験でもってやろうとするから、話が果てしなくねじれていくのではないかと感じます。

根っこは、職業能力との関係を切り離された一般的選抜のための一般能力試験(「できる子」「一生懸命頑張る子」を適切に選抜するための試験)として英語なるものが長年位置づけられてきたことにあり、そういう国民的常識を前提とすれば、こういう反発が澎湃とわいてくることは不思議ではないな、と。

ある種のジョブを遂行する上で必要不可欠なスキルレベルを測定する話と、集団のメンバーとして一生懸命物事に取り組む「意欲」「能力」を測定する話との間で英語がもみくちゃになっているという姿でしょうか。

でも、つまるところ、英語の試験て仕事の能力を測る技能検定以上でも以下でもないはずなんですが。

«岩出誠『労働法実務大系〔第2版〕』