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2019年10月13日 (日)

日本労働法学会第136回大会@立命館大学

さて、昨日予定されていた諸学会は超大型台風で中止延期を余儀なくされたようですが、来週の土日に予定されている日本労働法学会第136回大会は、(多分)予定通り立命館大学衣笠キャンパスで開催される予定です。

https://www.rougaku.jp/contents-taikai/136taikai.html

<1日目・土曜日>
受付開始 11:15〜
個別報告 12:00〜13:00
第一会場 *明学館MG202(2階)
テーマ「ドイツ法における管理職労働者に関する解雇規制」
報告者:稲谷 信行(京都大学)
司 会:村中 孝史(京都大学)
第二会場 *明学館MG301(3階)
テーマ「家事使用人の労働条件保護はどのようになされるべきか
――台湾における家事労働者への労働法適用をめぐる議論の検討をとおして」
報告者:根岸 忠(高知県立大学)
司 会:浜村 彰(法政大学)

第三会場 *明学館MG401(4階)
テーマ「イギリス最低賃金法の研究――全国一律額方式の実現とその後」
報告者:藤井 直子(大妻女子大学)
司 会:浅倉 むつ子(早稲田大学名誉教授)

ワークショップ 第1部13:20~15:20 第1部15:40~17:40
第一会場 *明学館MG202(2階)
テーマ「労働法学は労働法の歴史から何を学ぶか?」
司 会:石田 眞(早稲田大学名誉教授)
報告者:濱口 桂一郎(労働政策研究・研修機構),石井 保雄(独協大学)

テーマ「割増賃金をめぐる最近の法律問題――最近の最高裁判決を素材に」
司 会:浜村 彰(法政大学)
報告者:渡辺 輝人(弁護士)
コメンテーター:小鍛冶 広道(弁護士)
第二会場 *明学館MG301(3階)
テーマ「労働契約法20条に関する最高裁二判決の検討」
司 会:細川 良(青山学院大学)
報告者:沼田 雅之(法政大学),井川 志郎(山口大学)
テーマ「顧客等によるハラスメントと法的課題」
司 会:古川 景一(弁護士), 川口 美貴(関西大学)
報告者:松井 健(UAゼンセン政策労働条件局長), 大塚 達生(弁護士)
第三会場 *明学館MG401(4階)
テーマ「ギグエコノミー下の就労者に対する法的保護について」
司 会:水口 洋介(弁護士)
報告者:菅 俊治(弁護士),川上 資人(弁護士)
コメンテーター:本久洋一(國學院大學)
テーマ「働き方の多様化と労働法・経済法の役割」
司 会:荒木 尚志(東京大学)
報告者:桑村 裕美子(東北大学),多田 敏明(弁護士)
第四会場 *明学館MG402(4階)(13:20~15:20)
テーマ「解雇規制の在り方を考える
――解雇無効ルールと金銭解決ルールの比較――」
司 会:土田 道夫(同志社大学)
報告者:大内 伸哉(神戸大学)
コメンテーター:小西 康之(明治大学),徳住 堅治(弁護士), 山口 浩一郎(上智大学名誉教授)
懇親会 18:00~20:00

(以上、敬称略)
<2日目・日曜日>
受付開始 8:45〜
大シンポジウム報告 9:30~12:00
統一テーマ:「労働契約における規範形成のあり方と展望」
報告:
1.野田進(九州大学名誉教授)
「本シンポジウムの趣旨」
2. 大澤 彩(法政大学)
「契約内容規制と契約当事者間の交渉力不均衡――民法・消費者法と労働法――」
3. 皆川 宏之(千葉大学)
「ドイツ法における普通取引約款規制と労働契約」
4. 龔 敏(久留米大学)
「イギリスにおける労働契約の内容規制」
開催校挨拶・総会(学会奨励賞審査結果報告) 12:00~12:20
休憩・昼食 12:20~13:00
総会(学会奨励賞審査結果報告以外の議題) 13:00~13:30
特別講演 13:35~14:25
毛塚勝利会員「戦後労働法学の批判と継承——日本労働法学の自画像をどう描くか」
大シンポジウム報告・討論 14:30~18:30
報告:
5. 本庄 淳志(静岡大学)
「労契法7条による契約上の規範形成と制約のあり方」
6. 高橋 賢司(立正大学)
「労働契約上の合意と一方的決定に対する制約法理」

415835 初日のワークショップはいろいろと面白そうなテーマがあって、私も自分が報告者でなければほかの会場にを聞きに行きたいようなのもあるんですが、一応、第1会場の第1部で、「労働法学は労働法の歴史から何を学ぶか?」というなんだかやたらにでかいテーマで報告しなければいけないので、もしそういうテーマに関心があるような奇特な方がおられれば、聞きにきていただければ幸いです。

427925 報告者のうち、私は昨年『日本の労働法政策』を、石井さんは『わが国労働法学の史的展開』を上梓し、そして司会の石田さんは自ら1章執筆されている『戦後労働立法史』が古稀記念論集として刊行されていまして、これらの本を読まれた方々にとっては、その歴史観の絡み合いが見どころかもしれません。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/12/post-df2d.html (石井保雄『わが国労働法学の史的展開』 )

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/12/post-c238.html(島田陽一・菊池馨実・竹内(奥野)寿編著『戦後労働立法史』)

 

霞が関のワークライフバランス

超大型台風が刻一刻と迫る中で、永田町と霞が関の間でこういう一幕があったようですが、

https://www.sankei.com/politics/news/191012/plt1910120002-n1.html (森裕子議員、質問通告遅れる? 省庁深夜残業か 本人は否定)

事実関係はこの記事以上のことはわかりませんが、一般論として言えば、いままで彼らにもワークライフバランスがあるなどと考えられもしなかったさまざまな職業の人々が、実は自分たちも守るべき生活というものがあるのだ、滅私奉公が当たり前ではないのだと声を上げ始めたということ自体は、世の中が少しずつでも良い方向に向かい始めたしるしとして評価してしかるべきだと思います。少なくとも、「保育所落ちた、日本死ね」を評価する側の人であるならば。

 

 

2019年10月10日 (木)

第106回労働政策フォーラム「女性のキャリア形成を考える」

来る11月5日、TKPガーデンシティPREMIUM神保町で第106回労働政策フォーラム「女性のキャリア形成を考える-就業形態・継続就業をめぐる課題と展望─」を開催します。基調講演は、このたび労働関係図書優秀賞を受賞された脇坂明さん、研究報告は最近『貧困専業主婦』を刊行した(今朝の朝日新聞にもでかでかと載っていましたね)周燕飛さんです。

事例報告は3社、というか2社1団体を予定しているんですが、現時点では三州製菓さんと他2社を予定となっています。

パネルディスカッションは不肖私がコーディネータをやりますが、さてどういう方向に転がっていきますか。

Women

2019年10月 9日 (水)

経営法曹会議編『続 解雇・退職の判例と実務』

08271809_5d64f34c73b7f 本日、経営法曹会議の創立50周年記念パーティがあり、そこで経営法曹会議編『続 解雇・退職の判例と実務』(第一法規)をいただきました。

https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/103694.html

解雇、雇止めなど、弁護士の関心が高い実務上の重要論点を収録。テーマごとに、近年の実務動向や重要判例を解説する。経営法曹会議の全国の会員が執筆を担当。

内容は以下の通りですが、冒頭のまえがきを大阪の松下守男さんが書かれていて、これがなかなか壮大な構図を掲げています。

・・・それは、半世紀以上にわたって使ってきた日本独特の雇用システム(20世紀型雇用システム)が新たなものに変わっていくための試行錯誤の日々であったということができます。

この20年のうちに、なじみの雇用システムが、いまだその姿は見えてこないものの、ヴァージョン・アップしようとしているのではないでしょうか。現在の「働き方改革」も大きくはこのような流れの中に位置づけて考えるのが適当であると思われます。・・・

 

解雇権濫用法理……………………………………勝井 良光

採用内定・試用期間………………………………西脇 明典

有期労働契約における雇止め……………………杉原 知佳

退職の意思表示……………………………………三上 安雄

退職勧奨,希望退職………………………………小鍛冶 広道

定年,定年後再雇用………………………………岡崎 教行

無断欠勤・行方不明………………………………木村 恵子

問題社員への対応…………………………………山田 洋嗣

能力不足・勤務成績不良…………………………平越 格

メンタルヘルス不調………………………………増田 陳彦

労働能力低下,アスペルガー症候群,障害……爲近 幸恵

休職…………………………………………………川端 小織

労災,打切補償……………………………………山中 健児

懲戒処分の手続の相当性…………………………永原 豪

私行上の非行と懲戒処分…………………………今津 幸子

セクハラ,パワハラ,マタハラ…………………竹林 竜太郎

企業組織変動………………………………………田中 勇気

労働契約承継………………………………………高仲 幸雄

グループ企業間の出向・転籍……………………野口 大

整理解雇……………………………………………冨岡 俊介

 

 

2019年10月 8日 (火)

小田勇樹『国家公務員の中途採用』

71zrirsqful 小田勇樹さんより『国家公務員の中途採用 日英韓の人的資源管理システム』(慶應義塾大学出版会)をお送りいただきました。

http://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766426328/

 独自に収集した海外の職歴データを基に、キャリアパスの実態や組織業績への影響を分析。民間任用者の有効活用策を国際比較から探り、「働き方改革」時代の公務員の人材登用に示唆を与える。

内部育成か、中途採用か――。

日本を含め、各国で導入が進んでいる民間出身者の中途採用。
では、彼らはどのような仕事を、どのポストで行っているのだろうか。組織の業績を高めているのだろうか。
職務基準による採用・育成の問題点を指摘し、「成功する民間登用」へのカギを探る。

先日本ブログで紹介した小熊英二さんの『日本社会のしくみ』は概ね現段階の日本型雇用システム論のもっとも良い概説書になっていますが、その中で(本人もいうように)他の論者があまり言及しない公的部門の人事管理をかなり詳しく取り上げ、その影響を論じている点が一つの特色でした。

その公的部門の人事管理に焦点を絞って、キャリアシステムとポジションシステムというモデルを使って分析しているのが本書です。キャリアシステムとは、キャリア早期に採用した職員を内部育成し、上級職の職位を内部昇進者で閉鎖的に充足する公務員制度であり、ポジションシステムとは、組織に空位が生じると組織内外での公募を通じて任用を行い、上級職の職位に対して外部からの中途採用もあり得る公務員制度です。

というとわかるように、これは雇用システム論でいうメンバーシップ型とジョブ型に対応した概念ですね。

本書はこの枠組みを用いて、建前上はポジションシステムである韓国とイギリスの実態を調べ、韓国が現実には開放型職位のほとんどを政府内出身者を充て手織り、キャリアシステムと変わらない運用実態であることを示します。

我々のような労働問題に関心を持つ立場からすると、近年日本でも拡大しつつあるとされる国家公務員の中途採用を含む働き方改革をめぐって論じられている第9章が興味深い部分です。

第9章 日本の国家公務員制度の変化と働き方改革の動向
 1 日本の国家公務員制度に対する分析視角
 2 中途採用経路の増加
 (1) 人事院規則1-24に基づく中途採用
 (2) 任期付職員法に基づく中途採用
 (3) 任期付研究員法による採用
 (4) 経験者採用試験
 (5) 官民人事交流
 (6) イギリスにおける中途採用との比較
 3 昇進管理の変化
 4 給与システムの変化
 5 職務区分のあり方
 6 近年の公務員制度改革の影響
 7 日本型雇用と働き方改革
 8 働き方改革の方向性
 9 霞が関における働き方改革
 10 働き方改革と最大動員システムの行く末

このうち、とりわけ「9 霞が関における働き方改革」は、ここだけでも是非立ち読みする値打ちがあります。

近年の公務員制度に関する諸改革は、外観上さまざまな試みがなされているようにも捉えられるが、その基盤には日本型雇用システムの働き方が根幹の大前提として存在しており、枝葉の部分に手が加えられてきた。・・・・

・・・また、取組み事項の中の「機動的人員配置による業務負荷集中の回避」は注目に値する。柔軟な人員配置による生産性の向上は、職務の定めがない日本型雇用システムの特色を活かしたもんである。余裕のある職員を負担の大きな業務の応援に充てることで、組織全体の業務負担の平準化がなされており、最大動員システムの特徴が存分に発揮されている。日本型雇用システムを脱却する働き方改革の一環でありながら、日本型雇用システムを基盤とした取組みであるといえる。本取組みの成果は短期的視点から見れば大変評価すべきものである。ただし、長期的視点から見た場合、このような形で執務形態の日本型雇用システムへの最適化が強化され、最大動員による生産性が極限まで高められると、システムからの脱却がさらに困難となることは間違いない。・・・・

・・・日本型雇用システムの延長線上の改革という特徴がより顕著に表れている事例としては、総務省行政管理局によるオフィス改革が挙げられる。・・・・本事例はフリーアドレスの実現により、職場のフロアー全体を大部屋化しており、究極の大部屋主義ともいえる環境を構築している。・・・・大部屋主義化による業務の効率化は、日本型雇用システムの「あいまいな職務区分」をベースとした最大動員システムの進化形である。

このパラドックスはなかなかしんどいものがありますね。

 

 

 

 

 

2019年10月 7日 (月)

鶴光太郞編著『雇用システムの再構築に向けて』

08128 鶴光太郞編著『雇用システムの再構築に向けて』(日本評論社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8128.html

日本の雇用システムの根幹にある無限定正社員システム。その歴史、人事管理、賃金、労働時間はどうなっているか。打破する方策は?

131039145988913400963_20191007114901 さて、このタイトルを見て、なんだかどこかで見たようなタイトルだなあ、と思ったのですが、何のことはない、私の10年前の新書のサブタイトルでしたな。

さて、「再構築」されるべき「雇用システム」とは、いうまでもなく雇用契約の無限定性で特徴付けられる日本型雇用システムです。

RIETIのホームページに、鶴さんの紹介文が載っていますが、これが本書のメッセージを余すところなく伝えています。

https://www.rieti.go.jp/jp/publications/archives/070.html

大企業を中心に働き方改革の「うねり」は更に勢いを増しながら広がっている一方で、企業間で働き方改革の取り組みに差もでてきています。その背景の一つには、これまでの日本的といわれてきた雇用・人事システムに対しての捉え方、課題、必要な改革についての大局的な視点が欠けていることが挙げられます。こうした認識の下で、本書では、日本の雇用システム全体をどのように再構築するべきかを鳥瞰しつつ、雇用システムの歴史的側面、人事管理システム、賃金システム、労働時間システム、教育システムについて、分析・提言を行っています。

今までの鶴さん編著のシリーズと同様、RIETIの労働市場制度改革プロジェクトの成果ですが、その完結編に当たるということです。

中身は以下の通りですが、

はじめに  鶴 光太郎

第1章 日本の雇用システムの再構築---総論  鶴 光太郎

第2章 日本の雇用システムの歴史的変遷---内部労働市場の形成と拡大と縮小   林真幸・森本真世

第3章 「新時代の日本的経営」の何が新しかったのか?---人事方針(HR Policy)変化の分析---  梅崎修・八代充史

第4章 転勤・異動・定年後雇用の実態  鶴 光太郎・久米功一 ・安井健悟 ・佐野晋平

第5章 ダイバーシティ経営と人事マネジメントの課題---人事制度改革と働き方の柔軟化  佐藤博樹

第6章 賃金プロファイルのフラット化と若年労働者の早期離職  村田啓子・堀雅博

第7章 雇用形態間の賃金格差 安井健悟 ・佐野晋平・久米功一・鶴 光太郎

第8章 日本型『同一労働同一賃金』改革とは何か?---その特徴と課題  水町勇一郎

第9章 労働者の健康向上に必要な政策・施策のあり方:労働経済学研究を踏まえた論考  黒田祥子・山本勲

第10章 労働時間法制改革の到達点と今後の課題  島田陽一

第11章 ”大学での専門分野と仕事との関連度”が職業的アウトカムに及ぼす効果---男女差に注目して---  本田由紀

第12章 寺院・地蔵・神社の社会・経済的帰結---ソーシャル・キャピタルを通じた所得・幸福度・健康への影響 伊藤高弘・大竹文雄・窪田康平

鶴さんの総論を初めとして、おおむね必要な各分野にわたって的確な各論が配置されているのですが、正直最後の第12章はなんだかよくわかりませんでした。いや、中身はなかなか面白いのですが、それが「雇用システムの再構築」とどう結びつくのかがよくわからなかったということです。

ついでながら、このプロジェクト自体には私は全く関わってはおりませんが、一度話を聞きたいというご依頼があり、虎ノ門の大同生命ビルに行ってお話しをさせていただいたことはあります。

 

 

 

2019年10月 3日 (木)

水町勇一郎『詳解 労働法』

457194 とてつもなく分厚いのが送られてきました。水町勇一郎さんの超絶テキスト『詳解 労働法』(東大出版会)です。

http://www.utp.or.jp/book/b457194.html

働き方のルールを定めた労働法制のすべてが分かる概説書.歴史的な経緯・成り立ちや理論的な考え方・筋道に根差して労働法の全体像を分かりやすく解き明かし,実務の世界で起こるさまざまな問題も解決に導く.「働き方改革」がはじまる時代に不可欠な知識を網羅した,働く人すべてに必携の決定版.

どれくらい分厚いかというと、物理的には拙著『日本の労働法政策』とほぼ同じくらいなんですが、

Image0_20191003090301

ページ数が、拙著が1074ページに対して、水町本は1429ページと、4割くらい多い。

いやいやそんなことよりも、中身も凄い。

目次は下にコピペしておきますが、これは世間の普通の労働法テキストとそれほど変わりません。

でもね、冒頭の第1章労働法の歴史の、第1節労働法生成の前史の最初のところが、こういう文章で始まるんですぜ。

・・・労働を統一した概念で捉えこれに国家が社会的な保護を与えるという近代的な意味での「労働法」は、産業革命後の資本主義経済の発展の中で生まれる。しかし、それ以前の社会においても、働くことに対して国家が規制を課すことがなかったわけではない。古代ローマにおける雇傭契約が奴隷の賃貸借に由来することと同様に、日本の古代から近世にかけての労働法は、人身売買または長期の人身拘束に対する規律を中心とするものであった。また、その下で、主人ト使用人(従者)との間の身分的または契約的な関係が形成され、法的な権利や義務が観念されることもあった。・・・・

そして、歴史叙述は「律令制下の労働関係」から始まり、そこで真っ先に参照されているのが、瀧川政次郎の『日本労働法制史研究』なんですな。これ、拙著の労働契約法政策の冒頭の所で参照している文献ですが、水町さん、そこまで目配りしてんだ、と。

そういうやや趣味的なトリビアは別としても、たとえば第10章非正規労働者の、パート、有期、派遣と来て、最後の第6節に「個人業務請負業者等をめぐる法的対応」という2ページばかりの節に、労働者性をめぐる諸問題を詰め込むだけでなく、JILPTの先日の雇用類似の働き方の者の数の推計値まで注で引用しているくらい、目配りが効いています。

第1編 総 論
第1章 労働法の歴史
 労働法生成の前史/戦前の労働関係と労働法/戦後の労働法制の確立と展開
第2章 「労働者」
 総説――「労働者」概念の意義と種類/労働基準法上の「労働者」/労働組合法上の「労働者」/労働契約(法)上の「労働者」
第3章 「使用者」
 総説――「使用者」概念の意義と種類/労働契約上の使用者/労働基準法上の使用者/労働組合法上の使用者――概要
第4章 強行法規
 労働関係を規律する法源(総論)/憲法,条約と労働法/労働法規の規制枠組
第5章 労働協約
 労働協約の意義と法的性質/労働協約の効力発生要件/労働協約の効力/労働協約の拡張適用(一般的拘束力)/労働協約の終了
第6章 就業規則
 就業規則の意義/就業規則の手続き――労基法上の作成・変更手続/就業規則の効力
第7章 労働契約
 労働契約の意義/労働契約の基本原則/労働契約の成立要件/労働契約の解釈枠組み/労働契約上の権利義務

第2編 個別的労働関係法
第8章 労働者の人権保障
 労働者の人権保障の経緯と背景/労働憲章/人格権の保護/内部告発の保護
第9章 雇用差別の禁止
 雇用差別禁止法制の状況/均等待遇原則(労基法3条)/男女賃金差別の禁止(労基法4条)/賃金以外の男女差別の禁止(男女平均取扱法理と男女雇用機会均等法など)/女性活躍推進法
第10章 非正規労働者
 日本における非正規労働者の状況/正規・非正規労働者間の待遇格差に関する学説・裁判例の展開/パートタイム労働者をめぐる立法――パートタイム・有期雇用労働法など/期間の定めのある労働契約をめぐる立法/労働者派遣をめぐる立法――職業安定法44条,労働者派遣法など/個人業務請負業者等をめぐる法的対応
第11章 労働関係の成立
 採用の自由/労働契約の成立と労働条件の明示/労働契約の締結過程――採用内定・採用内々定/試用期間
第12章 教育訓練
 教育訓練の概要と背景/教育訓練を命じる権利/教育訓練を受ける権利
第13章 昇進・昇格・降格
 人事考課(査定)/昇進・昇格・昇級/降格
第14章 配転・出向・転籍
 配転/出向・転籍
第15章 休職
 意義/法的規則
第16章 企業組織の変動
 合併/事業譲渡/会社分割/会社の解散
第17章 懲戒
 服務規律と「企業秩序」論/懲戒の意義と根拠/懲戒権の法的規制の枠組み/懲戒の種類/懲戒の事由
第18章 賃金
 賃金の形態と法制度/賃金請求権/賃金の法規制
第19章 労働時間
 労働時間規制の意義と展開/労働時間制度の基本的枠組み/労働時間制度の特則――労働時間の柔軟化
第20章 年次有給休暇
 年次有給休暇制度の意義と展開/年次有給休暇の権利の構造/年休権の発生/年休の時期の特定/年休の使途/年休取得に対する不利益取扱いと年休取得の妨害/年休権の消滅
第21章 労働安全衛生
 労働安全衛生法制の経緯と展開/労働安全衛生法の基本枠組み・性格/安全衛生管理体制/危険・健康障害の防止措置/機械・有害物等に関する規制/労働者の就業にあたっての措置/健康の保持増進のための措置/規制の実施方法
第22章 労働災害の補償
 労災補償制度の経緯と展開/労災保険制度――労災保険法による給付/労働災害と損害賠償――労災民訴/労災上積み補償制度
第23章 年少者の保護
 年少者保護の経緯/労働契約の締結に関する規制/賃金・労働時間に関する規制/安全衛生に関する規制/帰郷旅費
第24章 女性の保護(母性保護)
 女性保護政策の経緯と目的/危険有害業務・坑内業務の就業制限/産前産後の保護/育児時間/生理日の休暇
第25章 育児・介護等の支援
 育児介護休業法の意義と展開/育児を行う労働者の支援/介護を行う労働者の支援/育児・介護支援措置を理由とする不利益取扱いの禁止/育児・介護に関するハラスメントの防止措置義務/育児・介護支援措置に関する紛争解決制度/次世代育成支援――次世代育成支援対策推進法
第26章 外国人雇用
 外国人労働者の受入れ政策/外国人労働者への労働法等の適用
第27章 障害者雇用
 障害者雇用政策の経緯と展開/障害者雇用促進法の目的と枠組み/障害者雇用の促進/障害者差別の禁止
第28章 知的財産・知的情報の保護
 職務発明等と労働者の権利/労働者の秘密保持義務と競業避止義務
第29章 労働関係の終了
 解雇/辞職と合意解約/当事者の消滅/労働契約終了後の権利義務
第30章 高齢者・若者雇用
 高齢者雇用/若者雇用

第3編 集団的労働関係法
第31章 労働組合
 労働組合法制の経緯と枠組み/労働組合の類型と実態/労働組合の意義と要件/組合自治と法的規制/組合への加入・脱退・組織強制/労働組合の統制権/労働組合の組織の変動
第32章 団体交渉
 団体交渉の意義と機能/団体交渉の主体――「当事者」と「担当者」/団体交渉義務/団体交渉拒否の救済
第33章 団体行動
 団体行動の法的保護の枠組み/団体行動の正当性/正当性のない団体行動と法的責任/争議行為と賃金/使用者の争議対抗行為
第34章 不当労働行為
 不当労働行為制度の沿革と目的/不当労働行為の成立要件/不当労働行為の救済

第4編 労働市場法
第35章 雇用仲介事業規制
 雇用仲介事業規制の趣旨と経緯/職業紹介事業の規制/労働者の募集の規制/労働者供給事業の規制
第36章 雇用保険制度
 制度の背景と展開/制度の基本的枠組み/失業等給付/雇用保険二事業
第37章 職業能力開発・求職者支援
 背景と経緯/職業能力開発――職業能力開発促進法/求職者支援制度――求職者支援法
第38章 特定分野の雇用促進政策
 高年齢者の雇用促進――高年齢者雇用安定法/障害者の雇用促進――障害者雇用促進法/特定地域の雇用開発促進――地域雇用開発促進法/生活困窮者の自立支援――生活困窮者自立支援法/若者の雇用促進――若者雇用促進法

第5編 国際的労働関係法
第39章 適用法規と裁判管轄
 適用法規の決定/国際裁判管轄
第40章 国際労働基準
 国連条約/ILO条約

第6編 労働紛争解決法
第41章 行政による紛争解決
 企業内での紛争解決の意義と限界/行政による紛争解決制度の概要と経緯/都道府県労働局長による個別労働紛争の解決促進/労働委員会による紛争解決
第42章 裁判所による紛争解決
 裁判所による紛争解決制度の概要と経緯/労働審判/民事通常訴訟/保全訴訟/少額訴訟/民事調停

 

 

 

 

2019年10月 2日 (水)

有償ボランティアの労働者性@WEB労政時報

WEB労政時報に「有償ボランティアの労働者性」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers-taiken/article.php?entry_no=76800

  去る9月27日に労政審雇用対策基本問題部会が開催され、いよいよ70歳までの就業機会確保対策の議論が始まりました。これは既に6月21日に閣議決定された成長戦略実行計画にかなり詳しいところまで明記されている政策ですが、そこに示されている70歳までの雇用就業メニューには、これまでの高齢者雇用就業政策の枠をはみ出すものも含まれています。
(a)定年廃止
(b)70歳までの定年延長
(c)継続雇用制度導入(現行65歳までの制度と同様、子会社・関連会社での継続雇用を含む)
(d)他の企業(子会社・関連会社以外の企業)への再就職の実現
(e)個人とのフリーランス契約への資金提供
(f)個人の起業支援
(g)個人の社会貢献活動参加への資金提供
 (a)から(c)まではこれまでの高年齢者雇用確保措置(高年齢者雇用安定法9条)、(d)は再就職援助措置(同法15条)で、ここまでは雇用労働です。(e)は近年話題の雇用類似の働き方で、(f)はより独立性の高い自営業でしょうが、いずれも市場交換原理に基づく非雇用労働です。ここまでは就業機会の確保という言葉が当てはまります。
ところがこのリストには、その先の(g)に「社会貢献活動」という言葉が出てくるのです。いわゆるボランティアです。ボランティアまでが就業機会の確保に含まれるというのは、いささか違和感のある言葉遣いです。・・・・・

 

小野寺忠昭・小畑精武・平山昇『時代へのカウンターと陽気な夢』

N190930_2 一昨日、JILPT主催の労働政策フォーラム「労働時間・働き方の日独比較」が開催され、私も総括討論のパネリストとしてちょびっと登場したのですが、

https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20190930/index.html

その様子はアドバンスニュースで報じられていますが、

https://www.advance-news.co.jp/news/2019/09/post-2907.html

・・・パネルディカッションでは、佐藤教授をコーディネーターに、日独両国で注目されている「モバイル勤務」で意見交換。濱口桂一郎同機構研究所長が「日本では仕事と生活の境界が曖昧になり、長時間労働の歯止めが掛からなくなる可能性がある」と指摘。これに対して、デュベル氏は「健康管理上から労働時間の限度を決める必要はある」と述べたが、この日の主要テーマだった「日独比較」は時間切れに終わった。

Isbn9784784513659 実はこの場で、情況出版の服部さんから本を頂きました。それが小野寺忠昭・小畑精武・平山昇『時代へのカウンターと陽気な夢 労働運動の昨日、今日、明日 』(社会評論社)なんですが、

http://www.shahyo.com/mokuroku/gendai_shahyo/labor/ISBN978-4-7845-1365-9.php

23人の執筆陣が自らの運動体験を省みて、明日に向かって<陽気な夢>の弾丸を撃つ!自主生産と地域ユニオンによるコミュニティ型労働組合の形成へ。

正直、かつては若かった老人たちが昔の活躍ぶりを語り合っている感があって、副題に引っかけていうと、「昨日」の話が「今日」や「明日」につながっていないような感がありました。

いや、服部さんが言うように、「僕のような労働運動史好きからすると、これほど貴重な本は最近だと珍し」いのかもしれませんし、「かつての総評運動についてその担い手たちがどうかんがえているのか・・・是非ご見解をお聞かせ願いたい」という要望にもお応えしたいのですが、でも正直そこで語られる運動の周辺的過ぎて、あまりコメントが浮かんでこないんです。たとえば、東京総行動が重要な役割を担ってきたという文章がありますが、正直労働関係者の中でもほとんど知られていないのではないかと思います。

というだけでは何なので、本書の中のコラムで、ブログ・シジフォスの水谷研次さんが「減部に負けない『労働情報』」という小文を書かれていて、之がなかなか面白かったです。

 

 

 

AOTSシンポジウム「イギリス・フランスの労働契約と紛争解決制度」

海外産業人材育成協会(AOTS)が国際シンポジウムを開催するということなので、こちらでも紹介しておきます。

https://www.aots.jp/news/notice/2019-09-11/

イギリス・フランスの労働契約と紛争解決制度-日本との比較-

日本の雇用流動性は諸外国と比べ低いと指摘されており、それが企業の生産性や、非正規社員の正規雇用への転換に影響を及ぼしているともいわれています。雇用の流動性を高めるため正規雇用社員の雇用保護規制を諸外国並みに緩めるべきという意見と、日本の雇用慣行ではそれはなじまないという意見があり、議論になっています。
本シンポジウムでは、高い雇用の流動性が維持され、雇用・解雇法制が整備されている先進諸外国(イギリス・フランス)における労働契約の特徴と労働契約を変更・終了する場合の制度、及び解雇時の紛争解決方法を紹介します。イギリス・フランス・日本のそれぞれの労働慣行と労働法制の違いとその背景にある考え方を確認し、日本にこれらの国の制度を導入するべきか、導入する場合の問題点などを検討します。
皆様のご参加を心からお待ち申し上げます。

基調講演はイギリスとフランスの労働法教授、解説はイギリスが小宮文人さん、フランスが細川良さん、そしてモデレータが石田眞さんとのことです。

Aots

 

2019年10月 1日 (火)

黒岩容子『EU性差別禁止法理の展開』

08124 黒岩容子さんより『EU性差別禁止法理の展開 形式的平等から実質的平等へ、さらに次のステージへ 』(日本評論社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8124.html

1970年代半ば以降、様々な新法理を生成し展開させてきたEU性差別禁止法を検討し、現代社会での差別に対抗しうる法理を探る。 

EU労働法の中でも、男女平等法制は割と多くの方々が研究対象として取り上げてきた領域ですが、それにしてもそれだけで一冊の研究書をまとめ上げるのは大きな仕事です。

ちなみに拙著『EUの労働法政策』では、第4章の労働人権法政策に約90ページを充てていますが、その中には性別以外の差別禁止法性の解説も含まれているので、詳しさの程度は全然違います。

第1部 形式的平等アプローチの展開
 第1章 EU性差別禁止立法の歴史
 第2章 形式的平等アプローチの展開とその限界
第2部 実質的平等アプローチの導入および展開
 第3章 間接性差別禁止法理の生成および展開
     ――性差別として禁止する類型(性差別概念)の拡大1
 第4章 妊娠・出産に関する性差別禁止法理の生成および展開
     ――性差別として禁止する類型(性差別概念)の拡大2
 第5章 ハラスメントに関する性差別禁止法理の生成
     ――性差別として禁止する類型(性差別概念)の拡大3
 第6章 ポジティブ・アクションに関する法理の生成および展開
     ――一方の性に対する優遇による性平等の積極的な実現とその限界
第3部 近年の立法・判例動向と理論研究の進展
    ――次のステージへの課題と挑戦
 第7章 近年の立法・判例動向をめぐって
 第8章 次のステージへの挑戦:理論研究の進展

21世紀に入ってからのEU司法裁判所の判決の動向についてもかなり批判的な分析が加えられており、この分野に関心のある方々にとっては必読書でしょう。

そのうえで、ややトリビアなことですが、いささか気になったのは、黒岩さんが割と繰り返し、リスボン条約によって基本権憲章に法的拘束力が付与された、これは大したことなんだ、と述べていることで、それはいささかミスリーディングなのではないか、と。

もちろん黒岩さんもちゃんと、それが制約付きだということは断っているんですが(p203)、ただ日本語で「法的拘束力」というと、あたかも裁判所が法的根拠として正面から堂々と使えるものであるかのように思われてしまいかねないので、そこは(気持ちはわかるものの)ちょっと言いすぎだと思います。

 

呉学殊『企業組織再編の実像』

Restructuring JILPTの研究員呉学殊さんの『企業組織再編の実像 労使関係の最前線』がようやく刊行されました。

https://www.jil.go.jp/publication/sosho/restructuring/index.html

企業の労使からの生の声に基づき再編の実像を明らかにした事例調査・研究の決定版!本論の7事例と補論の5事例から企業組織再編の望ましいあり方を示す。

1か月ほど前に本ブログでも紹介した呉さん自身による「リサーチ・アイ」というエッセイが、本書の内容を適切に紹介しているので、再度リンクしておきます。

https://www.jil.go.jp/researcheye/bn/033_190903.html

・・・今回、企業組織再編7事例の中で、分割が6事例、合併1事例(分割と併行)、譲渡1事例であった。正直、再編の実像は調査をしてみないとわからないとの思いである。事例ごとに再編の環境やプロセス、また、労使関係においてそれぞれ特徴があった。例えば、再編の主要背景・形態についてみてみると、次のように6つのタイプに分けられる。

第1に、分割部門の業績悪化により、分割会社がそれを抱えることが難しく、他社同事業部門との合併を通じて、分割部門の維持・発展を図るタイプである(「分割部門業績悪化・他社同業部門との統合再編」)。一番典型的にはG事例である。2003年、電機大手2社が半導体部門を分割して新設会社に統合したのである。また、2010年、同新設会社の他社半導体子会社との合併も同じ背景といえる。

第2に、分割部門がより成長していくために、他社との統合を通じて規模の経済性を高める分割・統合である(「分割部門専業化・他社同業部門との統合再編」)。典型的なのはD事例である。世界の強豪と伍していくためには、2つの会社が火力発電部門を持ち続けるよりは、それを分割して新設会社に統合したほうがよいと判断した結果である。C事例のA事業、C事業の分割もこのタイプに当たるが、いずれも政府関連機関からの支援を得て、更なる成長を目指すために分割したのである。

第3に、分割部門の収益性が高いが、選択と集中の経営戦略を進めていくために、同部門の分割益を活用するために行う分割である(「分割益活用・選択事業集中戦略再編」)。F事例とC事例のB事業がこれに当たる。分割売却益は、前者の場合、経営の負担となってきた有利子負債の返済とともに集中事業への更なる投資に有効に活用された。

第4に、分割部門と他の異種部門子会社との統合を通じて、統合のシナジー効果を図るための分割である(「分割部門と異種部門子会社との統合シナジー効果再編」)。A事例がこれに当たる。A事例では、営業部門を分割して、エンジニアリングや保守サービスの子会社との統合により、顧客へのソリューション・サービスを効果・効率的に行うために再編が行われた。

第5に、分割部門と同種部門子会社との統合を通じて、統合のシナジー効果を図るための分割である(「分割部門と同種部門子会社との統合シナジー効果再編」)。E事例がこれに当たる。E事例では、4つの製造部門(工場)を分割し製造専門子会社に統合させて、高い品質・高い生産性を実現しようしたのである。

第6に、不採算部門を切り離して同業他社に譲渡するタイプ(「不採算部門切り離し同業他社への譲渡再編」)であるが、これにはB事例が当たる。半導体後工程を担当するJI社は、経営が厳しくいくつかの工場を閉鎖する等の対策を講じても改善せず、S工場を同業他社のB社に譲渡した。

こうした企業組織再編は、企業グループ内での再編とグループ外のものに分かれる。再編元も先も特定の企業グループ(親会社が子会社株の100%保有)に属しているのは、A事例、B事例とE事例である。再編先の資本金50%以上を持ち、再編元が再編先企業の主導権を持ち、当該企業の連結会計対象としているのはD事例である。分割会社が、分割当初、分割統合会社株の50%以上を保有していたが、その持ち分が低下して連結会計対象外となっているのがG事例である。その他の事例は、再編当初より再編先企業の株を50%未満保有するかまったく保有しない形であり、企業グループ外の再編に当たる。

各事例に特徴があるのは再編の背景・形態だけではなく、労使関係もしかりである。具体的な内容は研究双書をご覧頂きたい。

で、そのときにも触れたのですが、最近はせっかく労使関係について調査しても、「協力先から公にしないでほしいとの要請があり」報告書に載せられないというケースが増えているようです。ただでさえ先細り傾向の労使関係研究なのに、いちばんおいしいところが世に出せない状況というのはなかなか辛いものがありますね。

さて、中身は是非本書自体をじっくりとお読みいただくこととして、ここでは呉さんの肉声が垣間見えている「あとがき・感謝の言葉」から、日本社会への叱咤の言葉を。

・・・私が韓国から日本に留学したのが1991年。この職場(労働政策研究・研修機構、旧日本労働研究機構)に就職したのが1997年である。その間、日本社会は大きく変わってきたが、どちらかといえば悪い方向にである。企業の国際競争力もそう言える。来日の前は「ジャパンアズナンバーワン」と言われるほど、日本企業の競争力が世界的に最高であった。しかし、今はそうはいえない状況である。なぜそうなのだろうか。その1つは対応力の弱さ・遅さではないかと思われる。過去の成功体験にとらわれて、前向きの発想をしその達成に向けた戦略を打ち立てることを怠ったまま、競争力にマイナスに働く事態が進み、早めの対応ができなくなったのではないか。企業組織再編でもそういう側面があったと見られる。

特定の事業や企業全体が競争力が失われるまでに手を打たない。手を打つときには、競争力を取り戻すことが難しい。そのために後ろ向きな企業組織再編が多かったのではないかと思われる。企業も労働者も多くの痛みを受けてしまう結果へとつながるのである。・・・

 

 

 

2019年9月30日 (月)

野田進『規範の逆転』

08122 野田進さんより『規範の逆転 フランス労働法改革と日本』(日本評論社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8122.html

公序よりも合意を重視し、従来の規範構造を逆転させたフランスの2016-17年労働法改革。その分析を通して労働法の意義を改めて問う。

2016年のエル・コムリ法、2017年のマクロン・オルドナンスという労働法の抜本改革によって、フランス労働法がどう変わったかを詳しく教えてくれる本です。

私は本書の元になった論文は大体目を通していましたし、実は昨年までJILPTにいた細川良さん(現青山学院大学准教授)がちょうど同じ領域を研究して報告書をまとめていたこともあり、再確認的な読書になりました。

序 章 フランス労働法改革への注目

第1章 改革の始まり ---2016年エル・コームリ法---

第2章 公序の失墜 ---デロゲーションから補足性原理へ---

第3章 団体交渉システムの改革

第4章 集団的成果協定

第5章 社会経済委員会の設置

第6章 労働契約法の改革 ---労働関係の「確実化」---

終 章 規範の逆転の向こうに

あとがき 

本書は基本的にはここ数年のフランス労働法改革を突っ込んで分析した本ですが、いくつかのところで現代日本にも言及しています。

そして、正直言ってその部分にはいささか疑問が感じられました。

野田さんは基本的に、日本でもフランスと同様に、時期的に並行して、規制緩和政策により「公序の失墜」「デロゲーションの進行」が進んだと言われるのですが(特に第Ⅱ章)、いやむしろ、オランド、マクロン両政権の労働法改革が向かおうとしている先の姿がこれまでの日本の労働法システムに近いのではないかと思います。

それこそ、1日8時間、週40時間という法定労働時間が、現実の企業社会ではほとんど「公序」としての存在感を喪失し、企業レベルの、それも大部分は労働組合ですらない過半数代表者との労使協定によって無制限の時間外休日労働が可能であった働き方改革以前の日本を、部門協約が企業協定に優先し、労働契約が企業協定に優先するこれまでのフランスと同列において、近年の規制緩和を嘆くというのは、いささか現実離れしているように思われます。かつての日本こそがとっくに「規範の逆転」が起こっていたのであって、今回の働き方改革によってそれが(フランスでは究極の規制緩和である)マクロンオルドナンスに毛が生えた程度にまで規制強化されたというべきでしょう。

裏返して言うと、日本がその経済力で注目を集めていた30年前ならともかく、いまやだれも日本のことなど関心を持たなくなったこの時代において、なぜかフランス労働法が部門よりも企業へ、個人よりも企業へという、ある意味ジャポニザシオンとでもいうべき事態が進行しつつあることの意味こそを、フランス労働法研究者の皆様には突っ込んで議論していただきたいなと思うのです。

 

2019年9月28日 (土)

労働政策にとって労働生産性とは何か?@『労働調査』2019年9月号

Coverpic_20190928214301 『労働調査』2019年9月号に「労働政策にとって労働生産性とは何か?」を寄稿しました。

https://www.rochokyo.gr.jp/html/2019bn.html#9

9月号の特集が「労働生産性をめぐる諸問題と今後の課題」で、次のようなラインナップの最後に私の文章がくっついています。

労働組合における生産性への取り組みと今後の課題 内田厚(連合・副事務局長)
マクロ経済の生産性向上に資する集団的賃金交渉~「連帯賃金政策」と「ゴールデンウエッジルール」 松井健(UAゼンセン・政策・労働条件局長)
日本における労働生産性向上の必要性と課題 木内康裕(公益財団法人日本生産性本部・生産性総合研究センター・上席研究員)
労働政策にとって労働生産性とは何か? 濱口桂一郎(独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)・労働政策研究所長)

多分、ほかの文章とは一味、というかだいぶ毛色が違っていると思います。

1 労働生産性は「勤勉」の指標?
2 物的労働生産性の公的統計
3 サービス産業の労働生産性とは何か?
4 雇用助成金における生産性要件
5 生産性というマジックワード
 日本再興戦略が打ち上げていた「全国規模でのサービス産業生産性向上運動」が、こういう雇用助成金における生産性要件のようないささか疑問のある形で法令化されてしまう原因は、やはり多くの日本人の脳裏にある生産性概念がかつての物的生産性に引きずられており、それゆえに生産性本部の会長自身がそれを「勤勉」さの指標だと思い込んでいるような状況にありながら、実際に制度化する際に使える生産性の数値が(どれだけ稼いだかという)付加価値生産性以外にはあり得ないからであろう。
 労働生産性という言葉はほとんど万能のマジックワードとして流通しているが、この言葉を語る人々が常に同じ意味でその言葉を使っているのかどうかは必ずしも自明ではない。むしろ、語る人によって異なる意味内容が込められている言葉である可能性が高い。今必要なのは、あまり内容を意識することなく使っている「生産性」という言葉が、正確なところ一体何を意味しているのかを、改めてじっくりと考え直してみることなのではなかろうか。

 

 

2019年9月27日 (金)

なぜ急進右翼はもはや高齢男性だけではないのか?

Carolinelancaster250x250 ソーシャル・ヨーロッパから「Why the radical right is no longer the exclusive domain of older, male voters」(なぜ急進右翼はもはや高齢男性だけではないのか?)と言ういささか刺激的なタイトルのエッセイを。筆者はキャロライン・マリー・ランカスターさん。

https://www.socialeurope.eu/why-the-radical-right-is-no-longer-the-exclusive-domain-of-older-male-voters

Today’s European radical right is rife with contradiction. Once the electoral home of working-class men, disillusioned with the decline of industry and the rapid entry of women into the labour force, the radical right of the mid-2010s has rebranded in the face of a new enemy—Muslim immigration. ・・・・

・・・・No longer can we dismiss the radical right as the party family of angry old men, reacting against a changing society. Now, women and gay men are likely to be found within their ranks, alongside voters who, if not for their immigration attitudes, might be confused for leftists. With support for populists at an all-time high, it is crucial that we understand who exactly these parties attract, and why, if we are to combat their radicalism.

今日の欧州の急進右翼は矛盾に満ちている。かつてその支持基盤は産業の衰退と女性の労働力への急速な進出に幻滅した労働者階級の男性であったが、2010年代半ばの急進右翼は新たな敵-ムスリム移民の面前でブランドを一新している。・・・

もはや我々は急進右翼を変化する社会に反発する怒れる高齢男性の政党類だと切り捨てることはできない。今や女性やゲイ男性が彼らの中に見いだされ、その移民への態度以外では左翼と見間違えるほどである。常に高いポピュリストへの支持とともに、彼らの急進主義と闘うならば、我々はこれら政党がだれを惹き付け、なぜそうなのかを理解することが重要である。

 

 

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