鎌田耕一・諏訪康雄編著『労働者派遣法』

Rdshahakenho 鎌田耕一・諏訪康雄編著、山川隆一・橋本陽子・竹内(奥野)寿著『労働者派遣法』(三省堂)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.sanseido-publ.co.jp/publ/roppou/rodo_shakai/rdshahakenho/

厚労省研究会委員として立法に携わった著者陣が、労働者派遣法制を解説。業規制から、当事者間の私法的な関係に至るまで、政省令や指針、判例・学説などを豊富に示しながら論考。平成27年改正完全対応版。

著者名を見ればわかるように、まさに最近の派遣法改正に直接に携わってきた方々による派遣法の解説書です。

労働者派遣法と言えば、本書はしがきにあるように、「あたかも、増改築を繰り返して道案内がなければどこにも行けない温泉旅館の建物にも似ている」と言われるくらい、複雑怪奇で素人にはわけわかめな法律でした/です。

その原因の一つは、本書ではそこまではっきりと書いていませんが、立法当時の政策思想がその後の時代の変化でどんどんずれていったにもかかわらず、いったんできた制度を取り替えることなくその上に別の思想による制度を建て増ししてきたからで、まさしく水木しげる亭ならぬ妖怪屋敷の様相を呈していたわけです。

2015年改正はそのわけわかめのかなりの部分を整理したとはいえ、未だに魑魅魍魎の生き残りみたいなのがあちこちにいっぱいふわふわと浮かんでいるので、全体を論理整合的に説明しきろうとする本書を素直に読んでいっても、今ひとつわかりにくいところは残るのは、実はやむを得ない面もあります。

とはいえ、そんな労働者派遣法を実務面もふまえつつ学術的な面の双方にきめ細かくここまで分かり易く解説した本も、この著者たちならではでしょう。

序編 労働者派遣法の道しるべ―構造・機能・歴史(諏訪)

第1編 労働者派遣法の歴史(諏訪)

第2編 法の目的と労働者派遣の概念(鎌田)

第3編 労働者派遣事業の許可(橋本)

第4編 労働者派遣事業の規制(竹内)

第5編 派遣元・派遣先間の法律関係(橋本)

第6編 派遣元・派遣労働者間の法律関係(鎌田)

第7編 派遣労働者・派遣先間の法律関係(山川)

第8編 労働基準法等の適用の特例(橋本)

第9編 紹介予定派遣(竹内)

第10編 労働者派遣法の実効性確保(山川)

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祖父母たちのオフィスラブ伝説 by 西口想

51li6rvwhil_sx346_bo1204203200_ 西口想さんが、「マネたま」というネット上のメディアに「祖父母たちのオフィスラブ伝説」というエッセイを書かれていて、これがなかなか面白いです。拙著『働く女子の運命』もちょいと引かれているのですが、田辺聖子の長編小説『甘い関係』を素材に、今の若者たちの祖父母の時代、つまり高度成長期のころの職場における男女のありようをあれこれ考察しています。

https://www.manetama.jp/report/office-love-2/

今回は「甘い関係」を読みながら、東京オリンピック(1964年)が終わり、大阪万博(1970年)の準備を進めていた頃、日本の高度経済成長期のオフィスラブ模様を見てみたい。・・・

50年前のオフィスラブを知るために、ヒロインの一人、松尾美紀に注目したい。小説のなかで彼女の職種は「BG」と呼ばれている。「OL」という言葉が生まれる以前、女性の一般事務職は「ビジネス・ガール」の頭文字をとってそう呼ばれていた。

ほらほら出ました、BG、ビジネス・ガール。拙著でかなり詳しく解説したので、この言葉がOLに取り替えられた経緯はご存じでしょう。

美紀が連載時の1967年に29歳であったとすれば、彼女は1938年生まれ。いま生きていれば78歳くらいだ。美紀が働いていた当時の企業社会では、男女の人事コースは公然と区別された。男性事務職員は幹部社員に出世するのが前提で、女性事務員=BGは結婚退職を前提に採用された時代だ。

濱口桂一郎『働く女子の運命』(文春新書、2015年)によれば、当時の日本企業では、女性事務員の採用時に「結婚したときは自発的に退職する」旨の念書をとったり、あるいは結婚しなくても、女性のみを30歳・35歳定年とする就業規則が普通に見られた。企業側も「結婚前の娘さんを預かる」という意識だったのだ。

そうして「働くこと」の入口でジェンダーの枷を嵌められるBGにとって、生存・結婚戦略の一つとして、職場内恋愛(オフィスラブ)による結婚相手探しが入ってくるのは必然だった。会社内の女性のほとんどが高卒や短大卒の20代前半の未婚女子。そのなかで、美紀は破格のキャラクターを与えられている。

そうそう、この辺の感覚も、拙著で何回も引用した上坂冬子さんが当時山のように出していたBG本の中で繰り返し描いていたものですね。

56年ぶりのオリンピックがもうすぐ東京にやってくる。今、学校を出て就職する人たちの祖父母の世代が、ちょうど美紀たちの世代だ。「甘い関係」という小説を媒介にして、あなたの祖父母に、若かりし頃のオフィスライフについて聞いてみるのも楽しいと思う。きっと、想像を超える豊かで生き生きとした物語が、あなただけに語られるはずだ。

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小谷敏編『二十一世紀の若者論』

28299072_1小谷敏編『二十一世紀の若者論 ― あいまいな不安を生きる』(世界思想社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.sekaishisosha.co.jp/cgi-bin/search.cgi?mode=display&code=1693

イデオロギー対立と経済発展が終焉した二十一世紀。若者たちはどう語られてきたのか。
大人たちの偏見にさらされ、生きづらさを抱えて浮遊する若者たちの姿を、
言説の分析を通して浮かび上がらせる。メタ社会学的冒険の書。

はじめに(小谷敏)
第Ⅰ部 「失われた一〇年」か、「失われざる一〇年」か
第1章 宮台真司という現象(新井克弥)
第2章 この〈世界〉の中で〈他者〉に出会うことの困難(鈴木智之)
第Ⅱ部 若者の生きづらさについて
第3章 「自立しない若者たち」という語り(小川豊武)
第4章 「昭和」対「平成」の世代間戦争(鈴木洋仁)
第5章 働く若者はどう語られてきたか(杉田真衣)
第6章 スクールカーストと能力主義(鈴木弘輝)
第Ⅲ部 若者文化の絶望と希望
第7章 オタクたちの変貌(辻泉)
第8章 ヤンキーとは何者か?(小谷敏・内藤理恵子)
第9章 若者文化の絶望と希望(小谷敏)

うーん、そうですね、まさに「言説の分析」が中心の「メタ社会学的」な本なので、興味ある人にとってはとても面白いでしょうけど、現実をどう分析するのかに関心のある人にとっては隔靴掻痒の感があるかもしれません。

第1章の「宮台真司という現象」から古市憲寿氏を取り上げた第9章の「若者文化の絶望と希望-消費される『若手社会学者』」まで、いろんな人を取り上げていますが、あえていうと、狭義の社会学ムラの中に視線が集まっている感があり、この20年間にワカモノ論としてマスコミでもてはやされたりしてきたものの一部にとどまっている感もあります。まあ、これは私がもっぱら労働論の視点から見ているからかもしれませんけど。

本書で言うと、第5章の「働く若者はどう語られてきたか」(杉田真衣)が若者と労働について取り上げていて、いくつか興味深い叙述がありました。とりわけ、「<学校から仕事へ>の移行という枠組みの問い直し」の必要を説いているところは、私も同感です。

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『労働六法2017』

149792 『労働六法2017』(旬報社)をお送りいただきました。

http://www.junposha.com/catalog/product_info.php/products_id/1157?osCsid=mnjhuji55ebblvp570nehs65g3

この版は、先月出たばかりの「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」まで収録されています。

もっとも、昨年末に働き方改革実現会議に提出された例の同一労働同一賃金のガイドライン「案」は載っていません。そこは編集者なりの判断があったのでしょう。

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外国人材の活用について

昨日、官邸で働き方改革実現会議が開かれ、例の長時間労働の上限について労使間で合意したのしないのという報道があるようですが、それよりも注目すべきは、厳密には「働き方改革」じゃないのではないかという気がするんですがなぜか入っている「外国人の活用」について、議論されたらしいことです。

新たなトピックを打ち出すときにはいつも斬り込み役的な役目を果たしている高橋進さんが提出した資料を見ると、

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai8/siryou3.pdf

「今後とも構造的に人手不足が見込まれる分野(建設、製造、農業、医療・介護、家事支援、IT 等)では、場当たり的でない、新たな枠組みの下での外国人活用を視野に入れるべき」と述べた上で、こういう構想を提示しています。

・新たな枠組みとして、一般労働者(非高度・非専門人材)を含め、以下のような雇用許可制度を導入してはどうか。
 労働市場テスト(国内求人努力)を行い、労働者を確保できない企業に対して外国人雇用を許可。
 政府は外国政府との間に二国間協定を締結し、割り当て数、対象業種等を決定、ビザを発給する。滞在期間は、例えば3年とし、一定の条件下で再入国可能。
 入国後、就業教育を経て企業に配置。転職には一定の制限。
 一般労働者から、高度・専門人材、熟練労働者への転換、それによる長期滞在、永住を可能とする。

これは韓国型の雇用許可制ですね。

これに対しては、水町さんが

外国人材の受入れ・活用については、韓国など諸外国でとられているような方法も視野に入れつつ、中長期的な視点から、日本の労働市場の健全な発展(日本人の技能形成・雇用確保等)と外国人材の積極的な活用との両立を可能とする制度のあり方を検討することが必要ではないか。

樋口さんが

未熟練の外国人労働者の受け入れについては、一時的なニーズの問題だけで即断すべきではない。日本人の雇用への影響や社会的コストも十分勘案すべき。韓国では二国間協定に基づく外国人労働者のコントロール制度を入れている。自分もヒアリングしたが、いろいろと問題を感じている。現在の技能実習制度に問題があることは十分承知しているが、さりとて直ちにこれがベストという具体案を持ち合わせていない。

と、そう簡単にこうと言えない悩ましさを示しています。

私は立ち入りませんが、最近(拙著のオビの文句を書いていただいた)上野千鶴子さんの移民問題に関するエッセイが炎上したとかしないとかという話もあり、この問題はポリティカリーにセンシティブなんですね。

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右翼こそが女性の自由と解放を体現?

水島治郎さんの本で繰り返し論じられていることではありますが、こういうシンボリックなかたちで演じられてしまうと、改めて、近代ヨーロッパが作り上げた価値観を体現しているのは右翼政党なのか!?という何とも言えない奇妙な気分になります。

http://www.cnn.co.jp/world/35096984.html (仏FNのルペン氏、レバノンでベール着用拒否 会談中止に)

Marinelepenfile ベイルート(CNN) 仏大統領選の有力候補とされる極右政党、国民戦線(FN)のルペン党首は21日、訪問先のレバノンでイスラム教の女性が頭を覆うスカーフの着用を拒否し、予定されていた大ムフティ(イスラム法最高権威者)との会談を中止した。・・・

FNのフィリポ副党首は直後にツイッターでこの件に言及し、「フランスと世界の女性たちに向けた自由と解放のメッセージだ」と称賛した。

ルペン氏はかねてイスラム教のベールに反対の立場を示し、公共の場では宗教的シンボルを全て禁止するとの公約を掲げてきた。

文化相対主義の名の下に非西洋社会の価値観を尊重するあまり、実は自分たちが依って立っているはずの近代西洋的価値観を却っておとしめてしまっているかのように振る舞ってしまいがちな(今日風の文化的)左翼のジレンマに対し、正々堂々とまさにその近代的価値観を振りかざしてみせることでその排外主義的思想と行動を正当化してしまえる立ち位置を得てしまっている右翼勢力、というよく考えてみれば実に不思議な、しかしそれこそが現代社会というものを表してしまっているのだなあ、というその姿。

まあ、これが一番よく現れているのはやはりヨーロッパであって、アメリカやとりわけ日本は大部文脈が違うのですが。

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石田眞・浅倉むつ子・上西充子『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』

14993石田眞・浅倉むつ子・上西充子『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.junposha.com/catalog/product_info.php/products_id/1155?osCsid=p50gu6tn6k1s5sqc1c0p5dm092

タイトル通りの本です。法政キャリアデザインの上西さんが原案執筆、それを早稲田労働法のお二人がチェックして作られた、薄いけれども大変親身に作られた本です。

上西さんによる前書きに本書の趣旨が詳しく述べられているのでそのままコピペしておきます。

 この本は、大学生が働くうえで直面する可能性があるトラブルを「アルバイト」「インターンシップ」「就職活動」「内定と内定後」「労働契約と入社後」に分けて、Q&A形式で解説したものです。さらに相談の仕方や相談機関に関する情報も掲載しています。

■さまざまな労働トラブル
 若手社員が長時間労働やパワハラによって、うつ病や過労死に追い込まれる問題が社会的に注目を集めています。しかし労働トラブルは、入社後に初めて直面する問題ではありません。
 アルバイトでも、無理やりシフトを入れられる、時間外にタダ働きさせられる、ノルマを与えられ達成できないと自費での購入を迫られる、辞めたいのに辞めさせてもらえない、などの問題が表面化しています。そのような問題は一部のアルバイトだけに見られるわけではなく、厚生労働省の調査によれば、アルバイトに従事した大学生らの6割が何らかのトラブルを経験したことがあるという結果が出ています。しかしながら、多くの学生は労働契約を結ぶという認識も薄いまま、アルバイトを始めているのが現状です。
 就職活動の前に参加の割合が高まっているインターンシップでは、実務に携わることもありえますが、労働者としての位置づけにはないことが多く、安価な労働力として都合よく使われてしまうリスクもあります。
 就職活動においては、内定を出す条件として他社の選考の辞退を求められるといった問題が注目を集めています。内定後に泊まり込みの研修への参加を求められる、入社前に資格取得を求められるなど、卒業論文や卒業研究に支障となる事態も生じています。
 入社後には、聞いていた労働条件と違う条件を押し付けられる、長時間の残業を求められるのに一定時間分しか残業代は申告できない、といった問題が起こりえます。

■労働トラブルに備える
 このようにさまざまな労働トラブルのリスクが潜んでいるにもかかわらず、大学の学生支援や就職支援、キャリア教育はその現状に十分に対応できていないのが実情です。
 私たち3名の執筆者はいずれも大学の教員です。学生の皆さんが理不尽な要求を押し付けられて苦しんだりすることがないようにと、本書を執筆しました。本書では大学入学から卒業・入社後までに直面する可能性がある労働トラブルについて、順を追ってわかりやすく解説しています。Q&Aは若者の労働問題を追ってきた上西充子が原案を作成し、労働法を専門とする石田眞と浅倉むつ子が手を加えました。コラムは分担して執筆しました。
 学生の皆さんには、アルバイトを始める前や就職活動を始める前から本書を手にとっていただきたいと願っています。トラブルを予防するためには、またトラブルに直面したときに適切に対処できるためには、一定のワークルール知識を身に付けておくことが重要です。さらに、大学生の保護者の方々や、大学の教職員の皆様、企業の人事・労務担当の皆様にも、本書をお読みいただき、適切な対策を考えていただければ幸いです。

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「日本死ね」の一源泉

去る2月9日にこういう判決があったようです。

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/519/086519_hanrei.pdf

(神戸地方裁判所平成29年2月9日)

第2 事案の概要
本件は,被告が平成18年4月1日に開園した本件保育園の近隣に居住する原告が,本件保育園の園児が園庭で遊ぶ際に発する声等の騒音が受忍限度を超えており,日常生活に支障を来し,精神的被害を被っていると主張し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,一部請求として,慰謝料100万円及びこれに対する不法行為以降の日である平成23年7月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合の遅延損害金の支払を求めるとともに,人格権に基づき,本件保育園の敷地北側境界線(以下「本件境界線」という。)上において本件保育園からの騒音が50dB(LA5)以下となるような防音設備の設置を求める事案である。

日本死ねという言葉が飛び出してくるほど保育所が少ない理由の一つとして、近隣住民が反対するからだというのはよくいわれていますが、その近隣住民が保育所のガキどもがうるさいといって裁判に訴えた事案のようです。

結論をいうと原告の請求を棄却しているんですが、でも保育所のガキどもがやかましいという気持ちは分かるよといってもいます。とりわけ、

・・・さらに,本件保育園は,神戸市における保育需要に対する不足を補うために被告が神戸市から要請を受けて設置・運営したという経緯からすれば,本件保育園は,神戸市における児童福祉施策の向上に寄与してきたという点で公益性・公共性が認められるものの,本件保育園に通う園児を持たない原告を含む近隣住民にとってみれば,直接その恩恵を享受しているものではなく,本件保育園の開設によって原告が得る利益とこれによって生じる騒音被害との間には相関関係を見出しがたく,損害賠償請求ないし防音設備の設置請求の局面で本件保育園が一般的に有する公益性・公共性を殊更重視して,受忍限度の程度を緩やかに設定することはできないというべきである。

と、保育所なんか作られても一文の得にもならない人間は、保育所にガキを預けないと日本が死んでしまうような人のために、他人のガキの騒音を我慢する理由はない、とまで同情しています。

まあ結論は、何デシベルがどうとかこうとかいろいろと言った上で、

・・・以上の事情を考慮すると,原告が本件保育園からの騒音により精神的・心理的不快を被っていることはうかがえるものの,原告宅で測定される本件保育園の園庭で遊戯する園児の声等の騒音レベルが,未だ社会生活上受忍すべき限度を超えているものとは認められず,不法行為を基礎づける程度の違法があるということはできない。

といって棄却しているんですが、判決をざっと読んだ素直な感想はむしろ、そうか保育所の公益性はその程度のものか、というものでした。

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公益通報者保護法の改正へ@『労基旬報』2017年2月25日号

『労基旬報』2017年2月25日号に「公益通報者保護法の改正へ」を寄稿しました。

 去る2016年12月に、消費者庁に設置された「公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会」が最終報告書をまとめました。公益通報とはいわゆる「内部告発」のことです。2000年代始め頃、雪印や日本ハムなどで食品偽装事件が相次ぎ、また三菱自動車のリコール隠しなど消費者の信頼を裏切る企業不祥事が続発したことから、これらの犯罪行為や法令違反行為を知った内部労働者による公益通報を保護するために、2004年に公益通報者保護法が成立したのです。
 同法で「公益通報」とは、労働者が、不正の目的でなく、その労務提供先(派遣先も含む)またはその役員や従業員等について、法令違反行為が生じ、またはまさに生じようとしている旨を、一定の相手に通報することと定義されています。通報先として挙げられているのは、その労務提供先、処分勧告権限を有する行政機関、そして「その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者」です。この最後のものには報道機関も含まれます。労働者がこの法律でいう公益通報をした場合、解雇の無効(3条)、労働者派遣契約の解除の無効(4条)、不利益取扱いの禁止(5条)といった保護がかかります。興味深いのは、直接雇用労働者の解雇と派遣労働者の派遣解約解除とを同列に並べて無効と規定している点です。労働行政ではなく消費者行政の観点から法的介入をしようとしている立法のスタンスがうかがわれます。
 これらの保護の対象となる公益通報は、公益通報先ごとに要件が少しずつ異なっています。事業者内部への通報の場合、不正の目的でなく、法令違反が生じ、またはまさに生じようとしていると思ったということだけで保護されますが、行政機関への通報の場合、不正の目的でなく、法令違反が生じ、またはまさに生じようとしていると信じたことに相当の理由がなければなりません。事業者外部への通報の場合、これに加えて、事業者内部に公益通報しても調査が開始されない場合など5要件のどれか一つを満たすことが必要になります。公益通報の対象となるのは、個人の生命または身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他国民の生命、身体、財産その他の利益に保護に関わる法律に規定する犯罪行為です。別表には刑法から始まって食品衛生法、証券取引法等々の法律が掲げられていますが、政令にはさらに労働基準法等の労働法令も並んでいます。
 公益通報者保護法の成立後10年以上がたちましたが、最近も東洋ゴム工業の免震ゴム不正問題、東芝の粉飾決算、三菱自動車の燃費不正など企業不祥事は後を絶っていません。そうした中で、この法律の実効性をもっと高めるべきではないかという議論が盛り上がってきたのです。そこで2015年6月に消費者庁は「公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会」(学識者14人、座長:宇賀克也)を設置したことから始まりました。2016年3月に取りまとめられた第1次報告書は、かなり広範な領域にわたって、論点を洗い出しました。これを受けて同年4月からワーキング・グループが開催され、11月にワーキング・グループ報告書を取りまとめ、この両者を合わせて12月に最終報告書が取りまとめられたわけです。以下、報告書で提起されている法改正の方向性を概観しておきましょう。
 不利益取扱いを民事上違法とする効果の要件のうち、まず通報者の範囲について、現行法は保護される通報者を在職中の労働者に限定していますが、実際に法令違反行為を知って通報しようとするのは在職中の者に限らないことから、既に退職した労働者は「含めることが適当」と、会社役員等は「加える方向で検討する必要がある」と、取引先事業者は「加えることについて今後さらに検討する必要がある」と、微妙な差異をつけながら拡大の方向を示しています。なお、それ以外の者も含めて「何人も」と規定することも「今後さらに検討する必要がある」と述べています。
 次に通報対象事実の範囲について、現行法では「個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他国民の生命、身体、財産その他の利益に保護に関わる法律に規定する犯罪行為」ですが、刑事罰の対象となっていない行為についても対象に含めるべきではないかという議論が提起され、報告書では「当該事実に公益性や明確性があるかを踏まえた上で、今後さらに検討する必要」としています。一方特定の目的の法律という限定を外すことについては、税法や国家公務員法等への違反であってもこれを「追加するなど、通報対象事実の範囲を拡げる方向で検討する必要がある」としています。切迫性、つまり「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている」ことの要件の削除も論点に上がりましたが、「逐条解説等で具体的に示すことによって対応することが適当」とされました。
 通報先には労務提供先、行政機関、その他の3種があり、それぞれに要件が異なりますが、その見直しも焦点となりました。行政機関への通報には、現行法では一律に真実相当性、つまり「法令違反が生じ又はまさに生じようとしていると信じるに足りる相当の理由がある」ことが求められていますが、これを「緩和する方向で検討する必要がある」としています。一方その他通報先については、「真実相当性を緩和することについては、慎重に検討する必要がある」と否定的です。またその他通報先にのみ求められている特定事由該当性については「緩和する方向で検討する必要がある」としています。
 もちろんこれがこのまま立法化されるとは限らず、今後具体的な立法化に向けた作業が始まるわけですが、企業と労働者の関係に対して大きな影響を与えるものになる可能性があります。企業の人事担当者はこの報告書にぜひ一度目を通しておいたほうが良いと思います。

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桑村裕美子『労働者保護法の基礎と構造』

L14490 桑村裕美子さんから『労働者保護法の基礎と構造-- 法規制の柔軟化を契機とした日独仏比較法研究』(有斐閣)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641144903

本書、タイトルがだいぶ変わっているのですが、学士助手であった桑村さんの助手論文「労働条件決定における国家と労使の役割」(『法学協会雑誌』に2008年に連載されたもの)の改稿決定版です。

この間、ドイツでもフランスでも、そして言うまでもなく日本でもめまぐるしいほどの労働法改正が続けざまに行われ、元論文は原形をとどめないまでに改稿されています。

近年では,あらゆる労働関係に一律に適用される強行規定ではなく労使合意による例外設定(逸脱)が可能な法規定が増えている。本書はそうした規制手法の有用性と限界を検討し,国家・集団・個人が労働者保護の実現においてどのように関わるのが適切かを論じることで,労働者保護法のあるべき姿を模索する。

第1編 問題の所在
 第1章 労働法の特徴と問題点
 第2章 国家規制と労使合意の関係
 第3章 学説の議論
 第4章 法規制からの逸脱と労働者の同意
 第5章 本書の検討内容
第2編 ドイツ
 序 章 ドイツ労働法の沿革と本編の構成
 第1章 伝統的労働協約制度と国家規制
 第2章 労働組合をめぐる変容と労働法体系への影響
 第3章 事業所委員会制度と国家規制
 第4章 ドイツ法の分析
第3編 フランス
 序 章 フランス労働法の沿革と本編の構成
 第1章 団体交渉・労働協約制度の概要
 第2章 法規制の柔軟化と労働協約
 第3章 法規制の柔軟化に付随する改革
 第4章 フランス労働法の変容と評価
 第5章 法規制の柔軟化と個別契約
 第6章 フランス法の分析
第4編 総 括
 第1章 ドイツ・フランスの比較
 第2章 日本法の分析
 第3章 結論と展望

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部活は保育?

プレジデントオンラインに「「土日の部活は常識」陰の推進者はあの人」という松尾英明さんの記事が載っていますが、

http://president.jp/articles/-/21376

ほぼ休みなし状態――。中学・高校生の土日祝日の「部活動」のことです。週末の部活は日本ではほぼ常識的な“風景”です。しかし、これは世界のスタンダードからすると間違いなく「異常」な状況に違いない。親として部活動をどう見るかをさまざまな立場の視点から一緒に考えていきましょう。・・・

推進者の「あの人」というのは、実は生徒の親たちだというのがこの記事の主張です。

子供が行きたくて行っていて、その間は、親も自由な時間ができる。スポーツクラブだったら1回何千円、月に数万円かかるところが、何と「無料」&「時間無制限」。反対する理由は何もありません。

もし「土日の部活をなくす」と言ったら、親御さんから大反対運動が起きても不思議ではないでしょう。子供の側はといえば、部活を楽しみながらも内心はたまに休みたいと思っているので、きっと反対運動までは起きません。その点で、一部の熱心な親御さんは、土日部活動の陰の推進者といえるかもしれません。

私も実のところはそうだろうと思っていますが、だとするとこれはそう簡単に止めることもできにくいということでもあります。

手間のかかる思春期の子供たちの世話を低コストで学校教師に丸投げできるというのは、部活が一種の「保育」機能を果たしてしまっているということなのですから。

部活に預けることができなくなると、その親たちからすれば「日本死ね」と言いたくなるということでもあるわけです。

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手紙は覚えている

近所の名画座でやっていたので、昨年の映画『手紙は覚えている』を見てきました。

http://remember.asmik-ace.co.jp/

最愛の妻ルースが死んだ。だが、90歳のゼヴはそれすら覚えていられない程、もの忘れがひどくなった。ある日彼は友人のマックスから1通の手紙を託される。「覚えているか?ルース亡きあと誓ったことを。君が忘れても大丈夫なように、全てを手紙に書いた。その約束を果たしてほしい―」2人はアウシュヴィッツ収容所の生存者で、70年前に大切な家族をナチスの兵士に殺されていた。そしてその兵士は身分を偽り、今も生きているという。犯人の名は“ルディ・コランダー”。容疑者は4名まで絞り込まれていた。体が不自由なマックスに代わり、ゼヴはたった1人での復讐を決意し、託された手紙と、かすかな記憶だけを頼りに旅立つ。だが、彼を待ち受けていたのは人生を覆すほどの衝撃の真実だった―

映画自体ははらはらどきどきの極上のサスペンスとこの上なくえぐい結末ですが、ネット上に既に結末のネタバレは溢れているので、それを前提にしての映画それ自体からはかなりかけ離れた感想を。

自分はナチスに家族を殺されたユダヤ人だという思い込み(というか正確には「思い込まされ」)に似た虚偽意識の構築というのは、戦後世界におけるアイデンティティ維持のための不可避の便法として、実はかなり広範に見られたことだったんではないか、とふと思ってしまった。

実は枢軸国側であったヴィシー政権下のフランス人としての記憶を押し隠すかたちでの自由フランスの抵抗の「歴史」にしても、大日本帝国臣民としての記憶を否定するかたちでの独立韓国の「歴史」にしても、エスニックなアイデンティティ故にそのわかりやすい例だけど、さらにいえば戦後ドイツ人や戦後日本人の自己認識にもそれと似た機制が働いているのではないだろうか・・・、てなことをぼんやり感じながら帰途につきました。

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諏訪康雄『雇用政策とキャリア権』

279904労働法学で一番世の中に影響を及ぼしたのは誰か?といえば、総合点ではもちろん現在第11版まできている菅野和夫『労働法』ということになるでしょうが、ある一つの概念、コンセプトが世の中に及ぼした影響という角度から見れば、本書の著者諏訪康雄さんの「キャリア権」という概念に匹敵する程の影響力を持ったものはないのではないかと思われます。

なにしろ、この概念をもとに「NPO法人キャリア権推進ネットワーク」というのが設立され、活発な活動が行われています。あの菊池桃子さんが理事ということでマスコミにも注目されましたが、なんにせよ、ある一人の学者が考案したある一つの概念がもとになって、こういう一つの運動が推進されるに至っているというのは、なかなか他では見られない現象ということができるでしょう。

http://www.career-ken.org/soshiki.html

ところが、その肝心の論文、有名な「キャリア権の構想をめぐる一試論」は、20年近く前にJIL雑誌に載って以来、今日まで本にまとめられることはありませんでした。その他の諏訪さんの諸論文も、今回の本でようやく一冊にまとめて読むことができるようになったのです。

http://www.koubundou.co.jp/book/b279904.html

職業上のキャリアの生涯にわたる形成と展開を基礎づける法概念=キャリア権。この提唱者である著者が、20世紀末から21世紀初頭にかけて、雇用環境が激変する過渡期のなか、人々のキャリアをめぐる主題に沿って労働法政策的な視点から考察を試みた画期的な論文集です。

第1部 これからの雇用政策―理論と枠組み
 第1章 雇用政策はどこに力を注ぐべきか
 第2章 労働市場法の理念と体系
 第3章 能力開発法政策の課題
 第4章 雇用政策をめぐる断章
 第5章 労働市場と法―新しい流れ
 第6章 雇用戦略と自助・共助・公助
 第7章 労働をめぐる「法と経済学」
第2部 キャリア権の提唱
 第8章 キャリア権の構想をめぐる一試論
 第9章 キャリア権とは何か
 第10章 キャリア権をどう育てていくか
 第11章 職業能力開発をめぐる法的課題
第3部 キャリア権の展開(Ⅰ)―社会人のキャリア形成支援
 第12章 エンプロイアビリティは何を意味するのか
 第13章 キャリアデザインとは何か
 第14章 中高年のキャリア展開
  第15章 内職と在宅就労
 第16章 テレワークの導入をめぐる政策課題
 第17章 テレワークという働き方がもたらすもの
 第18章 日本企業とテレワーク
第4部 キャリア権の展開(Ⅱ)―若者のキャリア形成支援
 第19章 グローバル化時代の若年雇用の方向
 第20章 キャリア考現学
 第21章 社会人基礎力とは何か
 第22章 大学におけるキャリアカウンセリング 
 第23章 アルバイトとキャリア教育

発表時に熱心に読まれたであろう論文と共に、意外なメディアに発表された今日的に見ても興味深い論文も入っていて、興味深いのですが、その中でも最後の「アルバイトとキャリア教育」は、2006年に『青森雇用・社会問題研究所ニュースレター』15号に掲載されたもので、その後ブラックバイトとかインターンシップとかいろいろ議論が沸騰したあとに読むと、また一段と味わい深いものがあったりします。今は熊本にいる紺屋博昭さんがまだ弘前におられた頃、「女学生らを研究員に仕立て研究に当たらせ」(紺屋さん自身の台詞)ていた頃のニュースレターですね。

4623040720ちなみに、冒頭で述べた「世の中に及ぼした影響」の中で逸することができないのは、現実の労働政策それ自体への大きな影響です。拙著『労働法政策』の中でも、90年代末から21世紀初頭の職業能力開発政策の動きについてこう述べています(p181)。

・・・90年代末から、職業能力開発政策は「キャリア」という言葉を愛好するようになる。これは、上記職業能力開発推進研究会の座長を務めた諏訪康雄教授が、1999年7月にキャリア権という概念を提示したことが大きく影響していると見られる。・・・

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同一労働同一賃金と集団的労使関係@『労働判例』2月15日号

Roudouhanrei_2017_02_15『労働判例』2月15日号の巻頭エッセイ「遊筆」に「同一労働同一賃金と集団的労使関係」を寄稿しました。

http://www.e-sanro.net/jinji/j_books/j_rodohanrei/d20170215/

・遊筆―労働間題に寄せて
同一労働同一賃金と集団的労使関係 独立行政法人労働政策研究・研修機構統括研究員 濱口桂一郎

なお、本号は「労働契約法20条をめぐる判例と課題~ハマキョウレックス(差戻審)事件・長澤運輸事件判決からみえるもの~」という鼎談が載っています。

鼎談者は、経営法曹からは峰隆之さん、労働弁護士からは水口洋介さん、学者からは山本圭子さんです。これは結構読みでがあります。

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時間外労働の上限規制

本日の働き方改革実現会議に、「時間外労働の上限規制(事務局案)」が提示されました。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai7/siryou2.pdf

ざっくりいうと、労働時間について3つの上限ができるということのようです。

第1は労働基準法本則の1日8時間、週40時間。とはいえこれが空洞していることはご存じの通り。

第2は、現在法的拘束力のない大臣指針で決められている月45時間、1年360時間という「原則」の時間外労働の上限。

第3は、「臨時的な特別の事情ある場合」に認められる1年720時間(月平均60時間)という「例外」の時間外労働の上限。これにおそらく1ヶ月の絶対上限(100時間?)がつけられるか。

この最後のものは、おそらく過労死認定基準や安衛法上の面接指導の要件とリンクしているのでしょう。

これについて、「そんな長時間労働を認めるのか!!?」みたいな批判をする人が多分出てくるでしょうが、現時点では日本国の法令においては、そんな長時間労働の上限すらなくて青天井であるということを踏まえて議論をする必要があるでしょう。

最低賃金が存在しない国で、「そんな低い最低賃金で良いのか!!?」といって潰すみたいな話は避けた方が良いとは思います。

ただ、勘違いしてはいけないのは、この上限設定はあくまでも「命」という意味でのワーク・ライフ・バランスなのであって、だから絶対上限なのであって、女性の活躍とか言う時の「生活」という意味でのワーク・ライフ・バランスではないのであって、そこをごっちゃにした議論はしない方が良いと言うことです。

その点、この資料のはじめの方の「基本的考え方」のところに「女性や高齢者が活躍しやすい社会」とか「ワーク・ライフ・バランスを改善」とか書いてあるのは、いささかミスリーディングだと思います。

過労死しない程度の労働時間を何とか設定しようという話なので、それで女性や高齢者が楽々働けるというわけではないのですから。そこをどうするかは、むしろこれからの問題のはずです。

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