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2022年10月 4日 (火)

EU最低賃金指令本日採択

本日の閣僚理事会で、EUの最低賃金指令が最終的に採択されたようです。

https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2022/10/04/council-adopts-eu-law-on-adequate-minimum-wages/

The Council of the EU today gave its final green light to a directive that will promote the adequacy of statutory minimum wages and thus help to achieve decent working and living conditions for employees in Europe.

数日後にEU官報に掲載されると思われます。私の私訳:

EU最低賃金指令

欧州連合における十分な最低賃金に関する欧州議会と理事会の指令(2022/ )

第1章 総則

第1条 主題
1 欧州連合における労働生活条件、とりわけ上方への社会的収斂に貢献し、賃金の不平等を縮小するため、労働者にとっての最低賃金の十分性を改善する観点で、本指令は次の枠組みを設定する。
(a) まっとうな生活労働条件を達成する目的で法定最低賃金の十分性、
(b) 賃金決定における団体交渉の促進、
(c) 国内法及び/又は労働協約により規定される最低賃金保護の権利へ労働者の有効なアクセスの向上。
2 本指令は労使団体の自治を全面的に尊重するとともに、その団体交渉し労働協約を締結する権利を妨げない。
3 条約第153条第5項に従い、本指令は最低賃金の水準を設定する加盟国の権限、労働協約に規定する最低賃金保護へのアクセスを促進するために法定最低賃金を設ける加盟国の選択を妨げない。
4 本指令の適用は、団体交渉の権利を全面的に遵守するものとする。本指令のいかなる部分も、次のことを義務付けるものと解釈されてはならない。
(a) 賃金決定がもっぱら労働協約を通じて確保されている加盟国に対して、法定最低賃金を導入すること、
(b) いかなる加盟国に対しても、労働協約の一般的拘束力を付与すること。
5 国際労働機構の理事会によって承認された合同海事委員会又は他の機関が定期的に設定する船員最低賃金に関する措置を実施する加盟国の立法には第2章は適用しない。かかる立法は団体交渉の権利及びより高い最低賃金水準を採択する可能性を妨げない。

第2条 適用範囲
 本指令は、欧州連合司法裁判所の判例法を考慮しつつ、各加盟国で効力を有する法律、労働協約又は慣行で定義される雇用契約又は雇用関係を有する欧州連合内の労働者に適用される。

第3条 定義
 本指令においては、次の定義が適用される。
(1) 「最低賃金」とは、公的部門も含めた使用者が、所与の期間中に、遂行された労働に対して、労働者に支払うよう求められる、法律又は労働協約によって決定された最低報酬をいう。
(2) 「法定最低賃金」とは、適用される規定の内容について当局にいかなる裁量の余地もない一般的拘束力を付与された労働協約によって決定された最低賃金を除き、法律又はその他の拘束力ある法的規定によって決定された最低賃金をいう。
(3) 「団体交渉」とは、加盟国の国内法及び慣行に従って、一方において使用者、使用者の集団又は一若しくはそれ以上の使用者団体、他方において一又はそれ以上の労働組合との間で、労働条件及び雇用条件を決定するために発生するすべての交渉をいう。
(4) 「労働協約」とは、一般的拘束力を有するものも含め、国内法及び慣行に従いそれぞれ労働者と使用者のために交渉する能力を有する労使団体によって締結される労働条件及び雇用条件に関する規定に関する書面による合意をいう。
(5) 「団体交渉の適用範囲」とは、次の比率で算定されるところの国レベルの労働者に占める労働協約が適用される者の割合をいう。
(a) 労働協約が適用される労働者の数、
(b) その労働条件が、国内法及び慣行に従い労働協約によって規制される労働者の数。

第4条 賃金決定に関する団体交渉の促進
1 団体交渉の適用範囲を拡大し、賃金決定に関する団体交渉権の行使を容易にする目的で、加盟国は労使団体を関与させつつ、国内法と慣行に従って、次の措置をとるものとする。
(a) とりわけ産業別又は産業横断レベルにおいて、賃金決定に関する団体交渉に関与する労使団体の能力の構築及び強化を促進すること、
(b) 労使団体が賃金決定に関する団体交渉に関してその機能を遂行するために適当な情報にアクセスできるという対等の立場で、両者間における賃金に関する建設的、有意味で情報に基づく交渉を奨励すること、
(c) 適当であれば、賃金決定に関する団体交渉権の行使を保護し、労働者や労働組合代表に対して賃金決定に関する団体交渉に参加し又は参加しようとしたことを理由とするその雇用に関する差別から保護ための措置をとること、
(d) 賃金決定に関する団体交渉を促進する目的で、適当であれば、団体交渉に参加し又は参加しようとする労働組合及び使用者団体に対して、その設立、運営又は管理において互いに又は互いの代理人若しくは構成員によるいかなる干渉行為からも保護する措置をとること。
2 これに加えて加盟国は、団体交渉の適用率が80%未満である場合には、労使団体に協議して又は労使団体との合意により、団体交渉の条件を容易にする枠組みを導入するものとする。これら加盟国はまた、労使団体に協議した後に、労使団体との合意により又は労使団体の共同要請に基づき労使団体間の協定により、団体交渉を促進する行動計画を策定するものとする。この行動計画は、労使団体の自治を最大限に尊重しつつ、団体交渉の適用率を段階的に引き上げる明確な日程表と具体的な措置を規定するものとする。この行動計画は定期的に再検討され、必要があれば労使団体に協議した後に、労使団体との合意により又は労使団体の共同要請に基づき労使団体間の協定により更新するものとする。いかなる場合でも少なくとも5年に1回は再検討するものとする。この行動計画及びそのすべての更新版は公表され、欧州委員会に通知されるものとする。

第2章 法定最低賃金

第5条 十分な法定最低賃金の決定手続き
1 法定最低賃金を有する加盟国は、法定最低賃金の決定及び改定の必要な手続きを設けるものとする。かかる決定及び改定は、まっとうな生活条件を達成し、在職貧困を縮減するとともに、社会的結束と上方への収斂を促進し、男女賃金格差を縮小する目的で、その十分性に貢献するような基準に導かれるものとする。加盟国はこれらの基準を国内法によるか権限ある機関の決定によるか又は三者合意により定めるものとする。この基準は明確なやり方で定められるものとする。加盟国は、各国の社会経済状況を考慮して、第2項にいう要素も含め、これら基準の相対的な重要度について決定することができる。
2 第1項にいう国内基準は、少なくとも以下の要素を含むものとする。
(a) 生計費を考慮に入れて、法定最低賃金の購買力、
(b) 賃金の一般水準及びその分布、
(c) 賃金の成長率、
(d) 長期的な国内生産性水準及びその進展。
3 本条に規定する義務に抵触しない限り、加盟国は追加的に、適当な基準に基づきかつ国内法と慣行に従って、その適用が法定最低賃金の減額につながらない限り、法定最低賃金の自動的な物価スライド制を用いることができる。
4 加盟国は法定最低賃金の十分性の評価を導く指標となる基準値を用いるものとする。このため加盟国は、賃金の総中央値の60%、賃金の総平均値の50%のような国際的に共通して用いられる指標となる基準値や、国内レベルで用いられる指標となる基準値を用いることができる。
5 加盟国は、法定最低賃金の定期的かつ時宜に適した改定を少なくとも2年に1回は実施するものとする。第3項にいう自動的な物価スライド制を用いる場合には少なくとも4年に1回とする。
6 各加盟国は法定最低賃金に関する問題について権限ある機関に助言する一またはそれ以上の諮問機関を指名又は設置し、その機能的な運営を確保するものとする。

害6条 変異及び減額
1 加盟国が特定の労働者集団に対して異なる法定最低賃金率又は法定最低賃金を下回る水準にまで支払われる賃金を減少させる減額を認める場合には、加盟国はこれら変異及び減額が非差別と比例性(合法的な目的の追求を含む)の原則を尊重するよう確保するものとする。
2 本指令のいかなる部分も、加盟国に法定最低賃金の変異や減額を導入する義務を課すものと解釈されてはならない。

第7条 法定最低賃金の決定及び改定における労使団体の関与
 加盟国は、法定最低賃金の決定及び改正において、第5条第6項にいう諮問機関への参加及びとりわけ次の事項を含め、意思決定過程を通じた審議への自発的参加を提供する適時かつ効果的な方法で、労使団体の関与に必要な措置をとるものとする。
(a) 第5条第1項、第2項及び第3項にいう法定最低賃金の水準の決定と、自動物価スライド制がある場合にはその確立と修正のための基準の選択及び適用、
(b) 法定最低賃金の十分性の評価のための第5条第4項にいう指標となる基準値の選択及び適用、
(c) 第5条第5項にいう法定最低賃金の改定、
(d) 第6条にいう法定最低賃金の変異及び減額の確立、
(e) 法定最低賃金の決定に関与する機関及び他の関係当事者に情報を提供するためのデータの収集及び調査と分析の遂行の双方に関する決定。

第8条 法定最低賃金への労働者の効果的なアクセス
 加盟国は、労使団体の関与により、労働者が適切に効果的な法定最低賃金保護(適当であればその強化と執行を含め)にアクセスすることを促進するために、次の措置をとるものとする。
(1) 労働監督機関又は法定最低賃金の施行に責任を有する機関によって行われる効果的、比例的で非差別的な管理及び現地監督の提供、
(2) 法定最低賃金を遵守しない使用者に狙いを定め追及するための訓練と指導によるガイダンスによる施行機関の能力向上。

第3章 通則

第9条 公共調達
 EU公共調達指令(2014/24/EU、2014/25/EU、2014/23/EU)に従い、加盟国は公共調達又は営業権の授与及び遂行において、事業者及びその下請事業者が、賃金に関して適用される義務、EU法、国内法、労働協約又はILOの結社の自由と団結権条約(第87号)及び団結権と団体交渉権条約(第98号)を含む国際的な社会労働法規定によって確立した社会労働法分野における団結権及び賃金決定に関する団体交渉権を遵守するよう確保する適切な措置をとるものとする。

第10条 監視とデータ収集
1 加盟国は、最低賃金保護を監視するために効果的なデータ収集用具を確保する適切な措置をとるものとする。
2 加盟国は次のデータおよび情報を2年ごとに、報告年の10月1日までに、欧州委員会に報告するものとする。
(a) 団体交渉の適用範囲の比率と進展、
(b) 法定最低賃金については、
(i) 法定最低賃金の水準及びその適用される労働者の比率、
(ii) 既存の変異と減額の説明及びその導入の理由とデータが入手可能であれば変異の適用される労働者の比率。
(c) 労働協約によってのみ規定される最低賃金保護については、
(i) 低賃金労働者に適用される労働協約によって設定される最低賃金率又は正確なデータが責任ある国内機関に入手可能でなければその推計、及びそれが適用される労働者の比率又は正確なデータが責任ある国内機関に入手可能でなければその推計、
(ii) 労働協約が適用されない労働者に支払われる賃金水準及びその労働協約が適用される労働者に支払われる賃金水準との関係。
 一般的拘束力宣言を受けたものも含め、産業別、地域別及び他の複数使用者労働協約については、加盟国は第10条第2項第(c)号(i)にいうデータを報告するものとする。
 加盟国は、本項にいう統計及び情報を、できる限り性別、年齢、障害、企業規模及び業種によって区分集計して提供するものとする。
 最初の報告は国内法転換年に先立つ3年間を対象とするものとする。加盟国は国内法転換日以前に入手可能でなかった統計及び情報を除外することができる。
3 欧州委員会は第2項にいう報告及び第4条第2項にいう行動計画において加盟国から送付されたデータと情報を分析するものとする。同委員会はそれを2年ごとに欧州議会と理事会に報告し、同時に加盟国から送付されたデータと情報を公表するものとする。

第11条 最低賃金保護に関する情報
 加盟国は、法定最低賃金保護とともに一般的拘束力を有する労働協約の定める最低賃金に関する情報(救済制度に関する情報を含む)が、必要であれば加盟国が決定する最も関連する言語によって、包括的かつ障害者を含め容易にアクセス可能な仕方で一般に入手可能とするように確保するものとする。

第12条 不利益取扱い又はその帰結に対する救済と保護の権利
1 加盟国は、適用される労働協約で規定される特別の救済及び紛争解決制度に抵触しない限り、雇用契約が終了した者も含む労働者が、法定最低賃金に関する権利又は国内法若しくは労働協約でその権利が規定されている最低賃金保護に関する権利の侵害の場合において、効果的で適時かつ中立的な紛争解決及び救済の権利にアクセスすることを確保するものとする。
2 加盟国は、労働組合員又はその代表者を含む労働者及び労働者代表が、使用者からのいかなる不利益取扱いからも、また使用者に提起した苦情又は国内法若しくは労働協約でその権利が規定されている最低賃金に関する権利の侵害の場合に法令遵守を求める目的で提起したいかなる手続から生じる不利益な帰結からも保護するに必要な措置をとるものとする。

第13条 罰則
 加盟国は、本指令の適用範囲内の権利及び義務が国内法又は労働協約に規定されている場合、当該権利及び義務の侵害に適用される罰則に関する規則を規定するものとする。法定最低賃金のない加盟国においては、これら規則は労働協約の執行に関する規則に規定される補償又は契約上の制裁への言及を含むか又はそれに限定することができる。規定される罰則は効果的で比例的かつ抑止的であるものとする。

第4章 最終規定(略) 

2022年10月 3日 (月)

岸田文雄は池田勇人の夢を見るか または 職務給の見果てぬ夢

本日の読売新聞に、「年功給から「職務給」移行」という記事が出ています。

https://www.yomiuri.co.jp/economy/20221003-OYT1T50001/

 政府が月末に策定する総合経済対策のうち、「新しい資本主義」にかかわる施策の概要がわかった。職務を明確にして専門性や能力を重視する「ジョブ型」雇用の普及に向け、仕事内容で賃金が決まる「職務給」の採用を促す。日本で長年続いてきた年功制の雇用形態からの移行を図る。
 近く開かれる「新しい資本主義実現会議」(議長・岸田首相)で取りまとめる。
 賃金について、日本企業では年功制の「職能給」を採用するケースが多い。中長期的に賃金水準を引き上げるため、働き方や給与形態を見直す姿勢を明確にする。成長分野に人材が移りやすくするため、副業を認める企業名を公表するほか、転職を積極的に受け入れる企業への支援を強化する。
 こうした施策の具体的な進め方について、政府と経済界が来年6月までに指針を策定する。

先週土曜にニューヨーク証券取引所での発言を受けて書いたことが急速に進んでいるようです。

これは、実は同じ広島県出身の宏池会の大先輩の池田勇人元首相時代の国民所得倍増計画で力説されていた話の62年ぶりの復活でもあるのですが、さてどうなりますか。

07101940_559fa1188fd9f ・・・・労務管理制度も年功序列的な制度から職能に応じた労務管理制度へと進化して行くであろう。それは年功序列制度がややもすると若くして能力のある者の不満意識を生み出す面があるとともに、大過なく企業に勤めれば俸給も上昇してゆくことから創意に欠ける労働力を生み出す面があるが、技術革新時代の経済発展を担う基幹的労働力として総合的判断に富む労働力が要求されるようになるからである。企業のこのような労務管理体制の近代化は、学校教育や職業訓練の充実による高質労働力の供給を十分活用しうる条件となろう。労務管理体制の変化は、賃金、雇用の企業別封鎖性をこえて、同一労働同一賃金原則の浸透、労働移動の円滑化をもたらし、労働組合の組織も産業別あるいは地域別のものとなる一つの条件が生まれてくるであろう。

ちなみに、旧日経連もこの当時は同一労働同一賃金原則に基づく職務給を唱道していました。

71iuiopdlel ・・・賃金の本質は労働の対価たるところにあり、同一職務労働であれば、担当者の学歴、年齢等の如何に拘わらず同一の給与額が支払われるべきであり、同一労働、同一賃金の原則によって貫かるべきものである。・・・職務給の本質は、同一価値労働同一賃金原則の近代的賃金原則を企業内における各職種の質的相違に対する経営としての一定の秩序付けに応じて賃金の適正な差異を設定し、全体として均衡のとれた賃金体系を確立するところにある。・・・その職務をどの程度に且つどの位遂行する能力なり、また実際遂行したかという労働能力と労働成果-従業員としての労働力の担い手の内容に対する評価は含まれていない。

 

 

 

2022年10月 2日 (日)

家政婦が家庭の直接雇用となった原因は・・・

一昨日の続きです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2022/09/post-a8cff7.html(再掲:「家事使用人の労働基準法」@『労基旬報』8月25日号)

今回の件のいささか不思議というかおそらく多くの人の腑に落ちにくい点は、同じ家事労働に従事していても、企業に雇われてそこから家庭に派遣されて就業していたら労働基準法が、それ故労災保険法も適用される労働者なのに、家庭に直接雇われていたら労働基準法が、それ故労災保険法も適用除外されてしまうという点ではないでしょうか。

法理論的にはいろいろ議論があるところだと思いますが、実はそもそも家政婦が家庭の直接雇用であるということ自体が、歴史上の偶然がもたらしたものだという面があるのです。

家政婦という職種は、終戦直後に対象職種に追加されて以来ずっと職業安定法に基づく有料職業紹介事業の対象です。職業紹介ということは、民営紹介所は仲介をしているだけであり、雇用主はいうまでもなく紹介先の家庭ということになります。

この法律構成を前提とすると、立法論的には議論はあり得ても、民営紹介所によって紹介された家政婦は労働基準法の適用除外される家庭の直接雇用者だといわざるを得ません。

Fvcq2vsuuaas9a4 しかし、これはもう13年も前に出した『新しい労働社会』の中でやや詳しく論じたように、家政婦は元々戦前は労務供給事業、つまり戦後の労働者供給事業であり、今日の労働者派遣事業でもって運営されていたのです。それが、終戦直後占領軍の厳命で労働者供給事業がほぼ完全に禁止されてしまい、どうにか逃げ道を見つけ出そうとして、無理矢理有料職業紹介事業にしてしまったのです。

臨時日雇い型有料職業紹介事業
 もう一つ、実態として極めて登録型派遣事業に近いのが、家政婦、マネキン、配膳人といった臨時日雇い型の有料職業紹介事業です。これらにおいても、求職者は有料職業紹介所に登録し、臨時日雇い的に求人があるつど就労し、終わるとまた登録状態に戻って、次の紹介を待ちます。ところが、こちらは職業紹介という法的構成を取っているため、就労のつど紹介先が雇い入れてフルに使用者になります。実態が登録型派遣事業と同様であるのに、法的構成は全く逆の方向を向いているのです。これは、占領下の政策に原因があります。
 もともと、これらの職種は戦前は労務供給事業で行われていました。ただし、港湾荷役や建設作業のような労働ボス支配ではなく、同職組合的な性格が強かったと思われます。ところが、これらも職業安定法の労働者供給事業全面禁止のあおりを受けて、弊害はないにもかかわらず禁止されてしまいました。一部には、労務供給業者が労働組合になって供給事業を行うケースもありました(看護婦の労働組合の労働者供給事業など)が、労働組合でなくてもこの事業を認めるために、逆に職業紹介事業という法的仮構をとったのです。
 しかしながら、これも事業の実態に必ずしもそぐわない法的構成を押しつけたという点では、登録型派遣事業と似たところがあります。最近の浜野マネキン紹介所事件(東京地裁2008年9月9日)に見られるように、「紹介所」といいながら、紹介所がマネキンを雇用して店舗に派遣したというケースも見られます。マネキンの紹介もマネキンの派遣も、法律構成上はまったく異なるものでありながら、社会的実態としては何ら変わりがないのです。その社会的実態とは労働者供給事業に他なりません。
 このように、登録型労働者派遣事業、労働組合の労働者供給事業、臨時日雇型有料職業紹介事業を横に並べて考えると、社会的実態として同じ事業に対して異なる法的構成と異なる法規制がなされていることの奇妙さが浮かび上がってきます。そのうち特に重要なのは、事業の運営コストをどうやってまかなうかという点です。臨時日雇い型有料紹介事業では法令で手数料の上限を定めています。労働組合の労働者供給事業は法律上は「無料」とされていますが、組合費を払う組合員のみが供給されるわけですから、実質的には組合費の形で実費を徴収していることになります。これと同じビジネスモデルである登録型派遣事業では、派遣料と派遣労働者の賃金の差額、いわゆる派遣マージンがこれに当たります。正確に言えば、法定社会保険料など労働者供給事業や有料職業紹介事業では供給先や紹介先が負担すべき部分は賃金に属し、それ以外の部分が純粋のマージンというべきでしょう。この結果明らかになるのは、派遣会社は営利企業であるにもかかわらず、臨時日雇い型紹介事業と異なり、その実質的に手数料に相当する部分について何ら規制がないということです。派遣元が使用者であるという法律構成だけでそれを説明しきれるのでしょうか。

念のため、戦前は労務供給事業であったということの証拠を見せておきましょう。1938年の労務供給事業規則の別表ノ1所属労務者名簿の備考欄に、職種の例として、大工、職夫、人夫、沖仲仕、看護婦、家政婦、菓子職といったものが列挙されています。

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つまり、看護婦や家政婦は労務供給事業による供給労働者だったのであり、つまり今日的にいえば人材派遣事業による派遣労働者だったのです。

ところが、GHQの厳命で労働者供給事業は全面禁止され、その後なんとか生き残ろうとする旧業者たちの必死の陳情の結果、ごく少数の職種だけは認められていた有料職業紹介という抜け道を使って、この戦前以来の業態が再生されることになったのです。

とはいえ、やってることは戦前来の労務供給事業そのままでした。それこそ、数年前に放送されていた市原悦子主演の「家政婦は見た」に描かれているように、紹介所といいながら家政婦たちを紹介所に住まわせて、派遣依頼を受けるつど家庭に派遣して、紹介料金を受け取り、その中から手数料をさっ引いて家政婦に給料を払うというビジネスモデルを長年続けてきたのです。

この点は最近批判を受けて変わりましたが、問題はむしろ、元のやり方の方が本来の姿だったんじゃないのか、そしてそれこそ、家政婦の雇用主は家庭なんじゃなくて、世を忍ぶ仮の姿で紹介所ですと言い続けてきているけれども、その実は戦前来の労務供給事業であるとすると、労働基準法の適用除外である家庭の直接雇用なんじゃないのではないか、という問題につながっていくのです。

そして、意外に思われるかもしれませんが、(直接家庭に雇われた)家事使用人を労働基準法の適用除外にしているその当の労働基準法自身が、戦前来の労務供給事業で派出された家政婦は労働基準法の適用対象であると考えていたらしいのです。

これは、上のリンク先の論考の最後のところで述べましたが、

労働基準法とともに施行された労働基準法施行規則第1条には、法第8条の「その他命令で定める事業又は事務所」として、「派出婦会、速記士会、筆耕者会その他派出の事業」というのがありました。

派出婦会から派出された家政婦は労働基準法の対象になるということですが、その派出婦会は、戦前は労務供給事業の許可を得て営業していたものの、戦後は職業安定法による労働者供給事業の禁止で潰れてしまい、ようやく民営職業紹介事業として再生できた結果、直接雇用の家事使用人になってしまい、せっかく労基則で対象になれたはずなのになれなくなってしまった、という悲喜劇が起こってしまったわけですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

2022年9月30日 (金)

再掲:「家事使用人の労働基準法」@『労基旬報』8月25日号

昨日、東京地裁で下された判決が、75年前に作られた労働基準法の意外な空隙を明らかにしました。

https://www.sankei.com/article/20220929-ZLQI2VHQJNJBHEAZ63ZRUUSJWY/

平成27年、業務後に急死した家事代行兼介護ヘルパーの女性=当時(68)=を巡り、労働基準法が適用されない「家事使用人」との理由で労災と認めなかった渋谷労働基準監督署の処分は不当として、夫(75)が国に取り消しを求めた訴訟の判決で、東京地裁は29日、請求を棄却した。

家事使用人は、個人の家庭から指示を受けて家事をする者とされ、労基法上は労働者とみなされない。

片野正樹裁判長は判決理由で、女性が東京都の訪問介護・家事代行サービス会社から利用者の家庭に派遣され、介護や家事に従事したが、家事に関する雇用契約はこの家庭と結んでおり、会社の業務とは認められないと指摘。女性は家事使用人に該当するとした。

訴状などによると、女性は27年5月、「要介護5」の利用者宅に泊まり込んで約1週間ほぼ休みなく働き、勤務を終えた日の夜に入浴施設で急性心筋梗塞を発症して死亡した。夫は労災申請したが認められず、再審査も退けられた。

そう、家事使用人には労働基準法及びその関係法令の適用がないのです。

この件についてはいろいろ述べるべきことはありますが、実は8年前に別の文脈でこの問題について論じたことがありますので、とりあえずそれを再掲しておきます。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2014/08/post-8148.html


『労基旬報』8月25日号に寄稿した「家事使用人の労働基準法」です。


 長らく労働法の関心事項から外れ、ほとんど忘れ去られていたある問題が、昨今いくつかの動きから注目を集め始めています。それは、「家事使用人」への労働基準法適用除外の問題です。

 周知の通り、現行労働基準法第116条第2項は「この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。」と規定しています。これは、制定当時は適用事業の範囲を定める第8条の柱書きの但し書きでした。当時は17号に及ぶ「各号の一に該当する事業又は事務所について適用する」とした上で、従って事業や事務所に該当しない個人家庭は対象外であることを前提としつつ、適用事業であっても家事使用人には適用しないという立法でした。1998年改正で第8条は削除されたので、現在は単純に家事使用人という就労形態に着目した適用除外です。

 この規定の解釈が争われた珍しい事件の判決が昨年ありました。医療法人衣明会事件(東京地判平25.9.11労判1085-60)です。ベビーシッターを家事使用人ではないとしたその判断には法解釈的には大いに疑問がありますが、むしろ家事使用人であれば労働基準法を適用しなくてもよいという67年前の立法政策を今日なお維持し続ける理由があるのか?という法政策的な課題を突きつけていると考えるべきではないかと思われます。

 この問題を今日真剣に考えなければならなくなっている理由の一つが、今年6月に成立した改正出入国管理及び難民認定法において、高度専門職という在留資格を新設し、この高度人材外国人が外国人の家事使用人を帯同することを認めることとしたからです。帯同を認めること自体は出入国管理政策の問題ですが、こうして日本で就労することとなる家事使用人は、労働基準法が適用されないことになってしまいます。労働法の隙間をそのままにして外国人労働者を導入してよいのかという問題です。

 さらに、今年6月に閣議決定された「日本再興戦略改訂2014」においては、「女性の活躍促進、家事支援ニーズへの対応のための外国人家事支援人材の活用」というタイトルの下、「日本人の家事支援を目的とする場合も含め、家事支援サービスを提供する企業に雇用される外国人家事支援人材の入国・在留が可能となるよう、検討を進め、速やかに所用の措置を講ずる」という政策が示されており、家事使用人雇用の拡大が打ち出されているのです。

 一方、2011年のILO第100回総会で、家事労働者のディーセントワークに関する第189号条約が採択されているという状況もあります。全世界的に家事使用人の労働条件をめぐる問題が政策課題として意識されつつあるのです。

 この問題に対する関心は一般にはなお高くありませんが、東海ジェンダー研究所が出している『ジェンダー研究』第16号(2014年2月刊行)に掲載されている坂井博美氏の「労働基準法制定過程にみる戦後初期の『家事使用人』観」という論文は、『日本立法資料全集』(51-54)を利用して、家事使用人の適用除外規定がいかに、そしてなぜ設けられたのかを綿密に検証しています。これを見ると、労務法制審議会では労働側委員だけでなく学識経験者の末弘厳太郞や桂皋も「家事使用人に適用しないこと反対、別の保護規定を設けよ」と主張していますし、国会でも荒畑寒村が「日本の女中というものは、ほとんど自分の時間が無い。朝でも昼でも晩でも、夜中でも、命じられれば仕事をしなければならぬ。・・・これこそ私は本法によって人たるに値する生活を多少ともできるように、保護してやらなければならぬだろうと思うのであります」と質問するなど、問題意識はかなりあったようです。

 同論文で興味深いのは、米軍駐留家庭の日本人メイドをめぐる問題です。占領初期には他の占領軍労働者と同様日本政府が雇用して米軍が使用するという間接雇用でしたが、1951年にメイドは直接雇用となったのです。そうすると突然国家公務員から労働法の適用もない存在になってしまいました。彼女らは全駐労に加入して運動しましたが、適用除外を変えることはできませんでした。

 一方職業安定行政においては、1959年に神田橋女子公共職業安定所が「女中憲章」を作成し、次のような7項目の求人条件のガイドラインを示したそうです。
①労働時間は1日12時間を超えない。
②休日は月2日以上。このほか年間7日以上の有給休暇。・・・
 裏返せば、こうした最低基準すら保障されていないということです。

 一点余計なことを付け加えておきますと、労働基準法とともに施行された労働基準法施行規則第1条には、法第8条の「その他命令で定める事業又は事務所」として、「派出婦会、速記士会、筆耕者会その他派出の事業」というのがありました。派出婦というのは家政婦のことですから、家事使用人に該当します。派出婦会が適用事業であっても、派出婦が家事使用人である限り適用されないことになるので、わざわざ派出婦会を規定していた意味はよく理解できませんが、1998年に法第8条が各号列記でなくなったため、この規定も削除されました。それにしても、労働者派遣法が成立するはるか以前からその成立後もしばらくの間、「派出」という他の労働法令には存在しない用語が生き続けていたのも興味深いところです。この「派出」と職業安定法でいう「労働者供給」との関係はどのように整理されていたのでしょうか。 

 


 

2022年9月29日 (木)

強いストレスを感じる労働者53.3%@『労務事情』2022年10月1日号

B20221001 『労務事情』2022年10月1日号に連載「数字から読む日本の雇用」の第6回として「強いストレスを感じる労働者53.3%」を寄稿しました。

https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/romujijo/b20221001.html

◎数字から読む 日本の雇用 濱口桂一郎
第6回 強いストレスを感じる労働者 53.3%

 

 

2022年9月28日 (水)

『Japan Labor Issues』10月号

Jli10 JILPTの英文誌『Japan Labor Issues』10月号が発行されました。

https://www.jil.go.jp/english/jli/documents/2022/039-00.pdf

Trends News
The Kishida Administration’s Near-term Policy Line Focuses on “Investment in People”: Hammering out Measures to Promote Wage Increases and Require Gender Wage Gap Disclosure

● Research Article
Changes in Work/Life Situations and Psychological Distress during the Prolonged COVID-19 Pandemic in Japan TAKAMI Tomohiro

● Judgments and Orders Commentary
Regional Extension of Collective Agreements under Article 18 of the Labor Union Act The Regional Extension Decision by the Minister of Health, Labour and Welfare on September 22, 2021 YAMAMOTO Yota

● Series: Japan’s Employment System and Public Policy
Why Does the Older Population in Japan Work So Much? MORIYAMA Tomohiko 

高見具広さんのコロナ禍のワークライフバランスと心理的ストレスの論文、森山智彦さんの高齢者に関する論考に加えて、今回の判例紹介は判例じゃなくて、例のUAゼンセンの労働協約の地域的拡張適用を山本陽大さんが取り上げています。

日本でもこういう法律があり、稀にではあるけれども実際に動くことがあるということを世界に発信するのは意味のあることでしょう。

なお、ざっと見たら中労委(CLRC)が一部CRLCになっていますが、もちろん「Central Labor Relations Commission」です。

2022年9月27日 (火)

理性的な左翼と無責任な右翼

例によってソーシャル・ヨーロッパから、最近の欧州の極右の伸張ぶりについてのコメント、題して「Reasonable left, irresponsible right」(理性的な左翼、無責任な右翼)ですが、もちろんこのタイトル自体がある種の皮肉です。

https://socialeurope.eu/reasonable-left-irresponsible-right

Against this backdrop, while the left is trying to develop programmes and instruments to master the crises, to stem the decline in prosperity and the social costs for ordinary people, those on the hard right are betting on things getting even worse, playing up catastrophe. They hope this will benefit them, that they can thereby achieve electoral success—as with the right-wing radicals in Sweden recently or the right-wing bloc in Italy over the weekend.

こうした背景に対して、左翼が危機を収め、繁栄の衰退と普通の人々の社会的コストを止めるためのプログラムと装置の開発を試みる一方、極右の側はものごとをより悪化させる方に賭け、破局を宣伝している。彼らはこれが彼らに利益になり、それゆえ選挙の勝利につながると期待している。実際最近のスウェーデンや今週末のイタリアのように。

It’s no surprise, then, that the far-right contenders paint the ‘elite’ and its networks in dark colours. They rummage through supposedly suppressed news and hidden secrets. They identify, to their satisfaction, how the powerful secure their dominance and say all this is connected. They imagine themselves as if detectives smugly putting pieces of the political puzzle together, in the manner of a latter-day Hercule Poirot.

極右が「エリート」とそのネットワークを黒々と塗りたくるのは驚くことではない。彼らは押さえつけられたニュースやら隠された秘密やらを嗅ぎ廻る。権力者たちがその支配をいかに守っているか、そしてそれらがすべてつながっているかを(自分らの満足するように)明らかにする。彼らは彼ら自身をかつてのエルキュール・ポワロのようなやり方で政治的パズルのピースをしたり顔ではめ込む名探偵であるかの如く想像する。

It is not a completely new phenomenon to offer such a fundamental critique of ‘the system’. What is astonishing is that the far right has hijacked what used to be a prerogative of Marxist intellectuals—and of those activists who imagined a terminal catastrophe would some day issue in a socialist millennium.

こうした「ザ・システム」に対する根本的な批判を提供することは全く新たな現象ではない。驚くべきことは、極右がマルクス主義知識人、そして最終的破局がいつの日か社会主義の千年王国を生み出すと想像する活動家たちの特権であったものをハイジャックしてしまっということだ。

Right-wing propaganda has appropriated elements of left-wing critical thinking—the questioning of the conventional and familiar, of the all-too-obvious, and the healthy suspicion of power. Amazingly, the motifs of the enlightenment have been subverted to serve conspiracy theories and fanaticism, in the cause of authoritarianism and nationalism. 

右翼のプロパガンダは左翼の批判的思考の要素-伝統的で身近なもの、あまりにも当たり前のものに疑問を呈し、権力を健全に疑うことを我が物とした。驚くべきことに、権威主義とナショナリズムのために、啓蒙のモチーフは陰謀論と狂信主義に奉仕するために転覆されてきたのだ。

 

2022年9月26日 (月)

賃金はなぜ上がらないのか-労使関係論的説明

747_10 『日本労働研究雑誌』10月号は「労使関係における集団の意義」が特集です。

https://www.jil.go.jp/institute/zassi/new/index.html

提言 労働組合運動再構築への視座 新川敏光(法政大学教授)

解題 労使関係における集団の意義 編集委員会

論文 日本的雇用慣行における集団─労使関係と賃上げを中心に 呉学殊(JILPT統括研究員)

労働法における集団の意義・再考─労働者代表による労働条件決定をめぐる法的課題 桑村裕美子(東北大学教授)

「男女平等参画」から「クミジョ」へ─労働組合における女性の代表性の現状と課題 本田一成(武庫川女子大学教授)

労使交渉におけるフォーマルとインフォーマル 青木宏之(香川大学教授)

経営側から見た「集団」の意義 田中恒行(社会保険労務士)

社会政策の形成と労働者集団の役割─戦後日本の労働組合による最低賃金制運動を中心に 兵頭淳史(専修大学教授)

「新しい働き方」における集団の意義─韓国20年間の軌跡からの示唆 安周永(龍谷大学教授) 

今回はどれも大変興味深い論考が揃っていますが、まずはJILPTの呉さんのは、今流行りの賃金はなぜ上がらないのかという話題にも言及しています。

・・・以上のように、日本の場合、労働組合が企業と締結した労働協約の拡張的適用がほとんどなく、また、賃上げ要求額を獲得するために労働争議に訴えることもない。その結果、集団力の発揮が限定されて、1990年代初頭バブル崩壊以降賃金が基本的に上がらなくなったと言えよう。しかし、企業の内部留保は積み上げられ、また、株主への配当金。配当率はほぼ一貫して増加している。結局、労働者・労働組合が集団の力を高めて、賃金を上げることができる企業の財務状況であるのにそれが実現されておらず、賃金が上がらなくなっているのである。労働組合が賃上げ要求とその実現に向けた運動を通じて、企業の発展を促す経営資源の役割をどこまで果たしたのか疑問が残らざるを得ない。もちろん、個別企業で労働組合ハ厳しい交渉を行うが、結果として自らの要求を獲得するほどの交渉力を発揮せず、企業の主張に理解を示し、寄り添ったからだと思われる。個別企業レベルで「よかれ」と思って行った労働組合の交渉力の抑制が日本全体の賃金引上げや経済にマイナス効果をもたらす合成の誤謬につながったのではないか。

この「個別企業レベルで「よかれ」と思って行った労働組合の交渉力の抑制が日本全体の賃金引上げや経済にマイナス効果をもたらす合成の誤謬につながった」という認識は、ほぼその通りだと思います。

また、田中さんの「経営側から見た「集団」の意義」では、今後専門能力保持者としてのジョブ型社員が増加してくると、「就労請求権やキャリア権が具体的に発生する可能性が高くなる」という指摘をしています。

 

メンバーシップ型社会は非実学的文科系の恩人

弁護士の堀新さんがまたえらく昔の台詞をほじくり返してきてますが、

https://twitter.com/ShinHori1/status/1573508971973210112

濱口桂一郎氏などが言っていたけど、大学で実用と無関係なことを学んでも一般的に企業に就職できるという状況が長い間存在してきたからこそ、大学の非実学的な学科にも学生が来ていたということは言えると思う。

就職状況が厳しくなれば、就職しやすそうな学科にばかり学生が集中するようになる。

https://twitter.com/ShinHori1/status/1573510795128078336

→変ないいかたになるけど、濱口氏の言い方を借りれば、大学に哲学や古代史の講座が存在できているのは、哲学や古代史の専門家にならず企業に就職する予定の学生も哲学や古代史の授業を受けるから(それでも一般就職できるから)ということになる。

もう16年も前のエントリですが、

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http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_c7cd.html 哲学・文学の職業レリバンス

一方で、冷徹に労働市場論的に考察すれば、この世界は、哲学や文学の教師というごく限られた良好な雇用機会を、かなり多くの卒業生が奪い合う世界です。アカデミズム以外に大して良好な雇用機会がない以上、労働需要と労働供給は本来的に不均衡たらざるをえません。ということは、上のコメントでも書いたように、その良好な雇用機会を得られない哲学や文学の専攻者というのは、運のいい同輩に良好な雇用機会を提供するために自らの資源や機会費用を提供している被搾取者ということになります。それは、一つの共同体の中の資源配分の仕組みとしては十分あり得る話ですし、周りからとやかく言う話ではありませんが、かといって、「いやあ、あなたがたにも職業レリバンスがあるんですよ」などと御為ごかしをいってて済む話でもない。

職業人として生きていくつもりがあるのなら、そのために役立つであろう職業レリバンスのある学問を勉強しなさい、哲学やりたいなんて人生捨てる気?というのが、本田先生が言うべき台詞だったはずではないでしょうか。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_bf04.html 職業レリバンス再論

哲学者や文学者を社会的に養うためのシステムとしての大衆化された大学文学部システムというものの存在意義は認めますよ、と。これからは大学院がそうなりそうですね。しかし、経済学者や経営学者を社会的に養うために、膨大な数の大学生に(一見職業レリバンスがあるようなふりをして実は)職業レリバンスのない教育を与えるというのは、正当化することはできないんじゃないか、ということなんですけどね。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_722a.html なおも職業レリバンス

歴史的にいえば、かつて女子の大学進学率が急激に上昇したときに、その進学先は文学部系に集中したわけですが、おそらくその背景にあったのは、法学部だの経済学部だのといったぎすぎすしたとこにいって妙に勉強でもされたら縁談に差し支えるから、おしとやかに文学でも勉強しとけという意識だったと思われます。就職においてつぶしがきかない学部を選択することが、ずっと仕事をするつもりなんてないというシグナルとなり、そのことが(当時の意識を前提とすると)縁談においてプラスの効果を有すると考えられていたのでしょう。

一定の社会状況の中では、職業レリバンスの欠如それ自体が(永久就職への)職業レリバンスになるという皮肉ですが、それをもう一度裏返せば、あえて法学部や経済学部を選んだ女子学生には、職業人生において有用な(はずの)勉強をすることで、そのような思考を持った人間であることを示すというシグナリング効果があったはずだと思います。で、そういう立場からすると、「なによ、自分で文学部なんかいっといて、いまさら間接差別だなんて馬鹿じゃないの」といいたくもなる。それが、学部なんて関係ない、官能で決めるんだなんていわれた日には・・・。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/05/post_8cb0.html 大学教育の職業レリバンス

前者の典型は哲学でしょう。大学文学部哲学科というのはなぜ存在するかといえば、世の中に哲学者という存在を生かしておくためであって、哲学の先生に給料を払って研究していただくために、授業料その他の直接コストやほかに使えたであろう貴重な青春の時間を費やした機会費用を哲学科の学生ないしその親に負担させているわけです。その学生たちをみんな哲学者にできるほど世の中は余裕はありませんから、その中のごく一部だけを職業哲学者として選抜し、ネズミ講の幹部に引き上げる。それ以外の学生たちは、貴重なコストを負担して貰えればそれでいいので、あとは適当に世の中で生きていってね、ということになります。ただ、細かくいうと、この仕組み自体が階層化されていて、東大とか京大みたいなところは職業哲学者になる比率が極めて高く、その意味で受ける教育の職業レリバンスが高い。そういう大学を卒業した研究者の卵は、地方国立大学や中堅以下の私立大学に就職して、哲学者として社会的に生かして貰えるようになる。ということは、そういう下流大学で哲学なんぞを勉強している学生というのは、職業レリバンスなんぞ全くないことに貴重なコストや機会費用を費やしているということになります。

これは一見残酷なシステムに見えますが、ほかにどういうやりようがありうるのか、と考えれば、ある意味でやむを得ないシステムだろうなあ、と思うわけです。上で引いた広田先生の文章に見られる、自分の教え子(東大を出て下流大学に就職した研究者)に対する過剰なまでの同情と、その彼らに教えられている研究者なんぞになりえようはずのない学生に対する見事なまでの同情の欠如は、この辺の感覚を非常に良く浮かび上がらせているように思います。

・・・いずれにせよ、このスタイルのメリットは、上で見たような可哀想な下流大学の哲学科の学生のような、ただ研究者になる人間に搾取されるためにのみ存在する被搾取階級を前提としなくてもいいという点です。東大教育学部の学生は、教育学者になるために勉強する。そして地方大学や中堅以下の私大に就職する。そこで彼らに教えられる学生は、大学以外の学校の先生になる。どちらも職業レリバンスがいっぱい。実に美しい。

 

 

 

 

年功的な高度プロフェッショナル

東京新聞が「「高度プロフェッショナル制度」が当初の説明とかけ離れた実態に 過労死ライン超えも 安倍元首相の主導で導入」という記事を書いていますが、

https://www.tokyo-np.co.jp/article/204671

専門職の人の労働時間規制を外す高度プロフェッショナル制度が、導入を主導した安倍晋三元首相らの当時の説明と懸け離れた運用になっている。経験が浅く希望もしていない人が高プロを適用された疑念が直近の調査で浮上。当時も今も所管の厚生労働相を務める加藤勝信氏は、当初の説明通りになっていない実態を指摘されても正面から答えず、制度を見直さない姿勢を示した。

希望していないのに適用というのは問題ですが、一方で「経験3年未満」が問題だ云々というのは、日本的な年功感覚とジョブ型社会との違いが浮き彫りになっている感もあります。

本紙は会見で加藤氏に、当初説明通りの運用になっていないことへの見解をただした。加藤氏は「経験3年未満」について、「新卒でも高度な仕事をする人はいる」と強弁。本人が希望していなかった問題には「(適用)期間中でも取りやめることは可能」とかわし、正面から答えなかった。

これは拙著で繰り返し述べてきたことですが、管理職とか専門職とかというのはジョブ型社会ではれっきとした「職種」です。すなわち、はじめから管理職とか専門職として募集し、応募し、面接し、採用し、就職し、就労します。

高度なプロフェッショナルな職種かどうかも、就職から退職まで一貫してそうであるか、それともそうでないか、なのであって、はじめは素人として雑役をやりながらだんだん専門職や管理職に『出世』するなどという発想は、日本的なメンバーシップ型社会特有のものです。

日本でも医療の世界はジョブ型雇用であって、はじめは医療事務をやり、数年後には看護師に配置転換され、さらに偉くなって医師に出世する、などという馬鹿なことはありません。試験を受けて資格を取れば別ですが。

ところが、日本社会の主流はそうじゃないので、「高度」な「プロフェッショナル」と称する制度でありながら、日本型人事管理に合わせて「経験3年未満」じゃなければ高度なプロフェッショナルじゃないということになっているので、こういう(日本社会にどっぷり浸かった人には全く当たり前だけれども、ジョブ型社会から見たら奇怪な)要件がついてきてしまうわけです。

ちなみに、大学教授は専門業務型裁量労働制の適用対象ですが、いうまでもなく経験3年未満じゃダメとはなっていませんね。そう言われたら烈火の如く怒り出す人が居そうですが。

 

2022年9月24日 (土)

岸田首相の「ジョブ型」

000113241 岸田首相がニューヨークの証券取引所で「ジョブ型」と口走ったという新聞報道を見て、官邸ホームページに見に行ったところ、なるほどこのように喋っておりました。

https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2022/0922speech.html

日本の五つの優先課題を紹介する。
 第1に、「人への投資」だ。
 デジタル化・グリーン化は経済を大きく変えた。これから、大きな付加価値を生み出す源泉となるのは、有形資産ではなく無形資産。中でも、人的資本だ。
 だから、人的資本を重視する社会を作り上げていく。
 まずは労働市場の改革。日本の経済界とも協力し、メンバーシップに基づく年功的な職能給の仕組みを、個々の企業の実情に応じて、ジョブ型の職務給中心の日本に合ったシステムに見直す。
 これにより労働移動を円滑化し、高い賃金を払えば、高いスキルの人材が集まり、その結果、労働生産性が上がり、更に高い賃金を払うことができるというサイクルを生み出していく。
 そのために、労働移動を促しながら、就業者のデジタル分野などでのリスキリング支援を大幅に強化する。
 日本の未来は、女性が経済にもたらす活力に懸かっている。「女性活躍」が重要だ。若い世代の意識は明らかに変わってきた。この10年で、35歳未満の女性正社員の割合は、10パーセント、60万人増えた。この世代の人口が120万人減少したにも関わらずだ。
 我々は、女性の活躍を阻む障害を一掃する決意だ。なぜなら、正に女性が日本経済の中核を担う必要があるからだ。
 女性がキャリアと家庭を両立できるようにしなければならない。両方追求できない理由はない。これは、出生率低下を食い止めるためにも効果がある。来年4月にこども家庭庁を立ち上げ、子ども子育て政策を抜本的に強化していく。これは、日本の人口減少の構造的課題の克服を目指した画期的な政策である。
 賃金システムの見直し、人への投資、女性活躍。これら人的資本に係る開示ルールも整備することで、投資家の皆さんにも見える形で取組を進め、また、国際ルールの形成を主導していく。 

ほとんど箇条書きの項目だけの言葉なので、どこまで突っ込んだ話なのかはよく分かりませんが、「メンバーシップに基づく年功的な職能給の仕組みを、個々の企業の実情に応じて、ジョブ型の職務給中心の日本に合ったシステムに見直す」という言葉からすると、入口から出口までの雇用システムの全面的取り換えというよりも、雇用制度は当面メンバーシップ型で新卒採用から定年退職までとしながらも、その中で賃金制度をジョブベースのものにするということを主に考えているようです。ただ、それにより「労働移動を円滑化」することで、中長期的には労総市場自体のジョブ型化も想定しているのかもしれません。

いずれにしても、安倍元首相の「同一労働同一賃金」は、大上段の看板の割に正社員と非正規労働者の賃金制度の(どちら側へのものであれ)接近ということにも結局向かうものではなかったので、そこは職務給に向けて動かしたいということのようです。これは、実は同じ広島県出身の宏池会の大先輩の池田勇人元首相時代の国民所得倍増計画で力説されていた話の62年ぶりの復活でもあるのですが、さてどうなりますか。

 

07101940_559fa1188fd9f ・・・・労務管理制度も年功序列的な制度から職能に応じた労務管理制度へと進化して行くであろう。それは年功序列制度がややもすると若くして能力のある者の不満意識を生み出す面があるとともに、大過なく企業に勤めれば俸給も上昇してゆくことから創意に欠ける労働力を生み出す面があるが、技術革新時代の経済発展を担う基幹的労働力として総合的判断に富む労働力が要求されるようになるからである。企業のこのような労務管理体制の近代化は、学校教育や職業訓練の充実による高質労働力の供給を十分活用しうる条件となろう。労務管理体制の変化は、賃金、雇用の企業別封鎖性をこえて、同一労働同一賃金原則の浸透、労働移動の円滑化をもたらし、労働組合の組織も産業別あるいは地域別のものとなる一つの条件が生まれてくるであろう。

 

 

2022年9月21日 (水)

ベルギーの労働組合の三原色

Se13

これはベルギーの首都ブリュッセルの真ん中にあるモネ劇場の前の広場に、労働組合のデモ隊が集まった写真です。ここのところの急激なエネルギー価格の高騰を受けて、賃上げを抑制する賃金法の撤廃を求めて大集会ということのようですが、ここでは写真を彩っている「色」に注目。

https://socialeurope.eu/belgium-heat-rising-over-cost-of-living

手前の集団は赤い服を着て、赤い旗を振り、赤い風船を浮かべています。中間の集団は青い服を着て、青い旗を振り、青い風船を浮かべています。向こう側の集団は緑色の服を着て、緑色の旗を振り、緑色の風船を浮かべています。ちょうど光の三原色に相当する赤、青、緑は、それどれ、ベルギーの三大労働組合のシンボルカラーです。

赤は社会主義系労働組合(Fédération Générale du Travail de Belgique (FGTB)、Algemeen Belgisch Vakverbond (ABVV))、青は自由主義系労働組合(Centrale générale des syndicats libéraux de Belgique (CGSLB)、Algemene Centrale der Liberale Vakbonden van België (ACLVB))、緑はキリスト教系労働組合(Confédération des syndicats chrétiens (CSC)、Algemeen Christelijk Vakverbond (ACV))ですが、別にイデオロギーや宗教で喧嘩をするわけではなく、労働者の権利利益のために仲良く一緒にデモをしています。

労働組合というのはそういうものなのですよ。

2022年9月20日 (火)

裁量労働制の見直し@『労基旬報』2022年9月25日号

『労基旬報』2022年9月25日号に「裁量労働制の見直し」を寄稿しました。

冒頭の記述は、既に若干古びたところもありますね。

 現在、厚生労働省の労働政策分科会労働条件分科会は山のような課題を積み上げられた状態にあります。官邸から下りてきた案件として2020年8月からデジタルマネーによる賃金支払い(資金移動業者への支払い)の是非が議論され、労働側の強い反発で2021年4月にいったん議論が中断した後、2022年3月から再開されていますが、あまり進展はないようです。そこに、労働基準局がここ数年にわたって研究会等で検討を重ねてきたテーマが続々と提起されてきています。2022年4月には、有期契約労働者の無期転換ルールの見直しといわゆる多様な正社員の雇用ルールに関わる「多様化する労働契約のルールに関する検討会」の報告書と、いわゆる解雇の金銭解決に関わる「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」の報告書が出されていますし、同年7月には「これからの労働時間制度に関する検討会」の報告書が出されています。今のところまずは無期転換ルールから細かい議論を始めているようですが、他の議論がいつから始まるのかはまだよく見えません。
 その中で、もっとも新しいトピックが裁量労働制を中心にした労働時間制度の見直しの議論です。これは曰く因縁がありまして、2018年の働き方改革に係る法改正時に、その中の労働基準法改正案の原案には、長時間労働是正のための時間外上限の設定、高度プロフェッショナル制度の導入に加えて、企画業務型裁量労働制の対象者に提案型営業を加えるという改正も含まれていたのです。その法案提出に先立つ国会審議の中で、当時の安倍首相や加藤厚労相が、裁量労働制で働く人の方が一般労働者よりも労働時間が短いというデータもあると述べたのですが、その根拠となったデータに疑問が呈されたため、国会提出法案から削除されるといういきさつががあったのです。
 そこで、厚生労働省は制度見直しの議論をする前段階として、まずは2018年9月に裁量労働制実態調査に関する専門家検討会(学識者7名、座長:西郷浩)を設置し、どういう調査をするかを一から議論した上で、2019年10月に実査を行い、2021年6月に裁量労働制実態調査結果を公表しました。その後、同年7月からこれからの労働時間制度のあり方に関する検討会(学識者7名、座長:荒木尚志)を設置し、ようやく去る2022年7月に報告書をとりまとめたという経緯になります。
 この報告書は、まず基本的な考え方として、どのような労働時間制度を採用するにしても労働者の健康確保が確実に行われることを土台としていくこと、労使双方の多様なニーズに応じた働き方を実現できるようにすること、労使当事者が十分に協議した上でその企業や職場、職務内容にふさわしい制度を選択、運用できるようにすること、を挙げています。
 そして裁量制以外の各労働時間制度についてはいずれもさらりと触れる程度のコメントをしています。例えば、働き方改革による時間外・休日労働の上限規制やフレックスタイム制は、改正法施行5年後の見直し規定に基づき、施行状況等を十分に把握し、検討すべし程度です。事業場外みなし労働時間制については、コロナ禍でテレワークが注目されたこともあり、「労使双方の多様なニーズに応じた働き方の実現や情報通信技術の進展、コロナ禍によるテレワークの普及といった状況変化等も踏まえこの制度の対象とすべき状況等について改めて検討が求められる」と、やや前向きな姿勢です。この関係で、「心身の休息の確保の観点、また、業務時間外や休暇中でも仕事から離れられず、仕事と私生活の区分が曖昧になることを防ぐ観点から、海外で導入されているいわゆる「つながらない権利」を参考にして検討を深めていく」ことも提示しています。その他、管理監督者、年次有給休暇、勤務間インターバルなどにも少しずつ触れています。
 この検討会のそもそもの目的であった裁量労働制の見直しについては、これに比べるともう少し具体的な制度設計に関わるような記述が盛り込まれてきます。まず対象業務については、その範囲を経済社会や労使のニーズの変化等も踏まえて必要に応じて検討すべきとしています。なお対象労働者の要件については、現行指針で示されている3~5年程度の職務経験をより明確に定めるとしています。
 最重要なのが「労働者が理解・納得した上での制度の適用と裁量の確保」という項目です。まずもって専門型・企画型いずれについても、使用者が労働者に対し制度概要等を確実に説明した上で、制度が適用される本人の同意を得るようにすべきとしています。また、裁量労働制の下で働くことが適切ではないと労働者本人が判断した場合には、制度の適用から外れることができるようにすべきで、このため、本人同意が撤回されれば制度の適用から外れることを明確化すべきとしています。その際、同意をしなかったことや同意の撤回を理由とする不利益取扱いの禁止や、同意撤回後の処遇について労使で取決めをしておくこと、業務量が過大なために裁量が事実上失われるような場合や、業務に没頭して働き過ぎとなり健康影響が懸念されるような場合など一定の基準に該当する場合には、本人による撤回がなくても、裁量労働制の適用を解除する措置を講ずるような制度設計を求めています。この裁量が失われる場合としては、業務量過大の他にも、効率的に仕事を進めて短時間で仕事を終えても使用者から追加業務の処理を命じられる場合(よくある話ですが)も取り上げ、「裁量労働制は,始業・終業時刻その他時間配分の決定を労働者に委ねる制度であることを改めて明確化」すべきと述べています。本来同義反復のような話ですが、上記調査結果からすると、現実には裁量制といいながらそういう時間の裁量がないようなケースが多いからでしょう。
 もう一つの重要な柱が「労働者の健康と処遇の確保」という項目です。特に健康・福祉措置については、一般労働者には時間外・休日労働の上限規制があり、高度プロフェッショナルには選択制の制度が必須となっていますが、裁量制は却って手薄になっているので、メニューの追加や複数の措置の適用を求めています。また、処遇については、「実際の労働時間と異なるみなし労働時間を設定する一方、相応の処遇を確保せずに、残業代の支払いを逃れる目的で裁量労働制を利用することは制度の趣旨に合致しない濫用的な利用」だとした上で、「みなし労働時間は、対象業務の内容と、対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度を考慮して適切な水準となるよう設定する必要があることを明確化」すべきとしています。
 最後に労使コミュニケーションの促進等を通じた適正な制度利用の確保に触れています。そもそも専門型は過半数代表との労使協定で、企画型は労使委員会の決議など、制度設計が整合的でないなど論点はいっぱいあり、ここは本格的に議論を始めると従業員代表制の問題につながるはずですが、そこは今後の課題の最後のところで中期的課題としています。
 この報告書が去る7月27日に労働政策審議会労働条件分科会に報告されたわけです。先述のように、まず無期転換ルール、多様な正社員、そして解雇の金銭解決、その傍らデジタルマネーと、課題が山積みの中で、労働時間制度についての本格的な議論がいつから始まるのかはまだ見通しが立ちませんが、いずれにしろ今後の議論の先行きを考える上で重要な政策文書であることは間違いありません。

 

2022年9月18日 (日)

産業別・産業横断レベル団体交渉が重要な理由

対馬洋平さんがこう呟いているんですが、

https://twitter.com/yohei_tsushima/status/1571322164779044865

欧州議会の最低賃金規制には、部門別・産業横断的なレベルの団体交渉が重要ってさらっと書いてあるけど、それがなぜ大切なのかの説明をもう少ししてくれていたらいいのに😭

具体的には、先日欧州議会で可決されたEUの最低賃金指令案の第4条の規定ですが、

Article 4 Promotion of collective bargaining on wage-setting

1. With the aim of increasing the collective bargaining coverage and of facilitating the exercise of the right to collective bargaining on wage-setting, Member States, with the involvement of the social partners, in accordance with national law and practice, shall:
(a) promote the building and strengthening of the capacity of the social partners to engage in collective bargaining on wage-setting, in particular at sector or cross-industry level;
(b) encourage constructive, meaningful and informed negotiations on wages between the social partners, on an equal footing, where both parties have access to appropriate information in order to carry out their functions in respect of collective bargaining on wage-setting;
(c) take measures, as appropriate, to protect the exercise of the right to collective bargaining on wage-setting and to protect workers and trade union representatives from acts that discriminate against them in respect of their employment on the grounds that they participate or wish to participate in collective bargaining on wage-setting;
(d) for the purpose of promoting collective bargaining on wage-setting, take measures, as appropriate, to protect trade unions and employers' organisations participating or wishing to participate in collective bargaining against any acts of interference by each other or each other’s agents or members in their establishment, functioning or administration.
2. In addition, each Member State in which the collective bargaining coverage rate is less than a threshold of 80 % shall provide for a framework of enabling conditions for collective bargaining, either by law after consulting the social partners or by agreement with them. Such a Member State shall also establish an action plan to promote collective bargaining. The Member State shall establish such an action plan after consulting the social partners or by agreement with the social partners, or, following a joint request by the social partners, as agreed between the social partners. The action plan shall set out a clear timeline and concrete measures to progressively increase the rate of collective bargaining coverage, in full respect for the autonomy of the social partners. The Member State shall review its action plan regularly, and shall update it if needed. Where a Member State updates its action plan, it shall do so after consulting the social partners or by agreement with them, or, following a joint request by the social partners, as agreed between the social partners. In any event, such an action plan shall be reviewed at least every five years. The action plan and any update thereof shall be made public and notified to the Commission.

第4条 賃金決定に関する団体交渉の促進
1 団体交渉の適用範囲を拡大し、賃金決定に関する団体交渉権の行使を容易にする目的で、加盟国は労使団体を関与させつつ、国内法と慣行に従って、次の措置をとるものとする。
(a) とりわけ産業別又は産業横断レベルにおいて、賃金決定に関する団体交渉に関与する労使団体の能力の構築及び強化を促進すること、
(b) 労使団体が賃金決定に関する団体交渉に関してその機能を遂行するために適当な情報にアクセスできるという対等の立場で、両者間における賃金に関する建設的、有意味で情報に基づく交渉を奨励すること、
(c) 適当であれば、賃金決定に関する団体交渉権の行使を保護し、労働者や労働組合代表に対して賃金決定に関する団体交渉に参加し又は参加しようとしたことを理由とするその雇用に関する差別から保護ための措置をとること、
(d) 賃金決定に関する団体交渉を促進する目的で、適当であれば、団体交渉に参加し又は参加しようとする労働組合及び使用者団体に対して、その設立、運営又は管理において互いに又は互いの代理人若しくは構成員によるいかなる干渉行為からも保護する措置をとること。
2 これに加えて加盟国は、団体交渉の適用率が80%未満である場合には、労使団体に協議して又は労使団体との合意により、団体交渉の条件を容易にする枠組みを導入するものとする。これら加盟国はまた、労使団体に協議した後に、労使団体との合意により又は労使団体の共同要請に基づき労使団体間の協定により、団体交渉を促進する行動計画を策定するものとする。この行動計画は、労使団体の自治を最大限に尊重しつつ、団体交渉の適用率を段階的に引き上げる明確な日程表と具体的な措置を規定するものとする。この行動計画は定期的に再検討され、必要があれば労使団体に協議した後に、労使団体との合意により又は労使団体の共同要請に基づき労使団体間の協定により更新するものとする。いかなる場合でも少なくとも5年に1回は再検討するものとする。この行動計画及びそのすべての更新版は公表され、欧州委員会に通知されるものとする。

このなかの「とりわけ産業別又は産業横断レベルにおいて」という台詞について、もっと説明が欲しいということです。

詳しい解説ではありませんが、この指令案の冒頭に40項目に及ぶ前文が延々とついていて、その第16項に、本条に関わる説明が書かれています。

(16) While strong collective bargaining, in particular at sector or cross-industry level, contributes to ensuring adequate minimum wage protection, traditional collective bargaining structures have been eroding during recent decades, due, inter alia, to structural shifts in the economy towards less unionised sectors and to the decline in trade union membership, in particular as a consequence of union-busting practices and the increase of precarious and non-standard forms of work. In addition, sectoral and cross-industry level collective bargaining came under pressure in some Member States in the aftermath of the 2008 financial crisis. However, sectoral and cross-industry level collective bargaining is an essential factor for achieving adequate minimum wage protection and therefore needs to be promoted and strengthened.

(16) とりわけ産業別又は産業横断レベルの強い団体交渉は十分な最低賃金保護を確保することに貢献するが、伝統的な団体交渉構造は、なかんずく組合組織率の低い分野への経済構造のシフトや労働組合組織率の低下、とりわけ組合叩き慣行の帰結や不安定な非正規雇用の増大等により、近年の十数年間崩れてきつつある。加えて、産業別及び産業横断レベルの団体交渉は、2008年の金融危機の後始末の中でいくつかの加盟国においては圧迫を受けてきた。しかしながら、産業別及び産業横断レベルの団体交渉は、十分な最低賃金保護を達成するために不可欠の要素であり、それゆえ促進され強化される必要がある。

ということです。日本と異なりもともと産業別や産業横断レベルの団体交渉が一般的であったヨーロッパでも近年いろいろな理由で衰退傾向にあるので、ここでテコ入れしようという政治的文脈があるということですね。

(追記)

まったくどうでもいいことですが、相撲中継みていて、幕下上位で對馬洋という力士が出てくると、ついその次に四文字目を入れてしまいます。

 

 

 

 

 

2022年9月17日 (土)

幕の内弁当みたいな新書

9_20220917184601 『働き方改革の世界史』(ちくま新書)について、こういう味わいのある評価をしてくださる方がいました。

https://twitter.com/automatico625sr/status/1571069682777718786

読了、なんでこの本を買ったのか覚えていないのだけど、タイトルとは違って、色々な労働思想の本の紹介。各国の労働組合に関しての記述とかあって、興味深かったけれど一読では理解しきれなかったので、また読む予定。

働き方改革の世界史 (ちくま新書) 濱口 桂一郎

https://twitter.com/automatico625sr/status/1571070371201445889

新書にはサクッと読める入門書としての新書と、入門書なのだけどいろいろ入れたいものを少しずつ詰め込んだ幕の内弁当みたいな新書があり、この本は後者だった。

まあ、私の本はどれも、一見ターゲットを絞っているようなタイトルでも「幕の内弁当」ですね。

なお、ブクログでも少し前に、mamoさんという方の本書への書評が載っていました。

https://booklog.jp/users/marimero2/archives/1/4480073310

 タイトルは、「働き方改革の世界史」であるが、内容は、「資本と労働の対立と協調の近代史」、もっといえば「経営と組合の関係の近代史 国際比較」みたいな感じで、タイトルと内容はかなり違うかな?
 本を買うまえに、いわゆる「働き方改革」の本ではないことを確認していたので、とくにそこについては違和感はなかった。
 が、驚いたのは、近代史が歴史的な流れを通じて描かれるわけではなくて、この分野の「古典」の議論を紹介しながら、イギリス、アメリカ、ドイツ、フランス、いわゆる欧米型の制度や現実の歴史が議論される。
 そうした欧米型のもつ問題点を考えたときに、なぜか理想として浮かんでくるのが日本型の雇用制度というのが驚き。
 たしかに、日本型の雇用制度はいわゆる「日本型経営」の重要なパートということで、70~80年代には世界の注目を浴びたのだが、その後の日本経済の凋落にともなって、忘れられていく。
 と言っても、世界的にこれがよいという制度があるわけではなくて、結果的には、新自由主義的な個人と企業との関係というところに帰着しつつあるのかな?
 今となっては、なんだったかわからない日本型の経営というものがあって、バブル崩壊後、それは否定され、欧米的な経営への転換をずっと模索して、一部の会社はなんとかなったのかもしれないが、日本企業の大勢は良くも悪くも日本型雇用のシステムのなかでもがいているのが現状かな。
 歴史とか、国の文化、企業文化のなかでできあがったものは、なかなか変えることは難しいわけで、「過去の栄光」へのノスタルジックな退行になってしまうリスクはありつつも、なんらかの形で「日本型経営」を今のコンテクストのなかで再活用しているのが大事なのかな?と思っている。
 そんな日頃の考えを、労働、雇用関係という視点でもう一度確認できるような本だったな。
 歴史的な記述がもう少し欲しい気はするが、「古典」を通じて、問題にアプローチすることで、理論的に問題を理解できたと思う。
 ちなみに、ここで紹介されている古典は、読んだことのないもの、というか、そんな本があることも知らなかったもの。
結構、なるほど感はあった。

 

 

 

 

 

2022年9月16日 (金)

NHKスペシャル“中流危機”を越えて

001_20220916161501 明日の土曜日と明後日の日曜日の夜、NHKスペシャル“中流危機”を越えてが放送されます。

https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/episode/te/V93X848VQ1/

“中流危機”を越えて 「第1回 企業依存を抜け出せるか」

初回放送日: 2022年9月17日

 

かつて一億層中流と呼ばれた日本で、豊かさを体現した所得中間層がいま、危機に立たされている。世帯所得の中央値は、この25年で約130万円減少。その大きな要因が“企業依存システム”、社員の生涯を企業が丸抱えする雇用慣行の限界だった。技術革新が進む世界の潮流に遅れ、稼げない企業・下がる所得・消費の減少、という悪循環から脱却できずにいる。厳しさを増す中流の実態に迫り、解決策を模索する2回シリーズ。

https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/episode/te/GQM97MXGVW/

“中流危機”を越えて 「第2回 賃金アップの処方せん」

初回放送日: 2022年9月18日

 

賃金アップに繋がる成長産業を生むため、社員の学び直し“リスキリング”に挑む日本企業や、パートタイマーの管理職登用など正社員と非正規雇用の格差縮小に努める小売業大手の最新の動き。ドイツは国を挙げた取り組みで、自動車工場を解雇された労働者がIT企業に転職し、新たな収入を確保。オランダは労働者の半数近くいるパートタイムが、正社員と同等の時間給や手当を手にし、女性の社会進出も進む。賃金アップのカギは!?

リンク先には短い予告動画もあります。

なんでNHKの番組の宣伝をしているのかというと、JILPTがいささか関わっているからです。中身は見てのお楽しみですが、JILPTがNHKと共同調査した結果は、本日アップされていますので、番組を見るついでにちらと目を通していただければ幸いです。

https://www.jil.go.jp/press/documents/20220916.pdf

― 「中流の暮らし」を送るのに必要な年収を 600 万円以上とする割合が高く、過半数(55.7%)は「中流より下の暮らしをしている」と回答。4割弱は「親より経済的に豊かになれない」と考えており、そうした個人は「日本では、努力さえすれば誰でも豊かになれる」という考えに否定的な傾向 ―

(追記)

と思ったら、台風14号のせいで放送延期になったという連絡が・・・・・

 

 

 

 

「コロナ禍のどさくさ」

Jiei_20220916094101 先週から日経新聞のやさしくない「やさしい経済学」で、仲修平さんが「自営業の変化と働き方」を書かれていますが、今朝の回では私の名前も出てきました。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD0166Z0R00C22A8000000/

・・・そのためには、就業形態に関係なく働く人を支援するような仕組みが不可欠でしょう。濱口氏の言葉を借りると、「コロナ禍のどさくさ」による制度の構築ではなく、就業者全体を支える制度の設計です。

 

 

 

育児休業給付の法政策@『季刊労働法』2022年秋号(278号)

278_h1768x1086_20220916085401 『季刊労働法』2022年秋号(278号)に、「労働法の立法学」第65回として「育児休業給付の法政策」を執筆しました。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2022/09/post-3ba57a.html

はじめに
 
 新型コロナウイルス感染症が急速に蔓延し始めたさなかの2020年3月に成立し、翌4月に施行された改正雇用保険法により、育児休業給付は失業等給付から独立し、子を養育するために休業した労働者の生活及び雇用の安定を図るための給付と位置付けられました。そしてこのため、育児休業給付の保険料率(1000分の4)を設定するとともに、経理を明確化し、育児休業給付資金を創設することとされました。
 その後の2年半の間、日本の雇用政策はコロナ禍に振り回されたこともあり、この育児休業給付の問題はあまり注目を集めることはなかったようですが、労働法政策の観点からは興味深い論点がいくつもあります。今回は育児休業給付の展開を中心に置きつつ、それに関連するさまざまな制度の来歴を見ていきたいと思います。なお、本誌2020年秋号(270号)で取り上げた介護休業等に関わる問題は原則として対象外です。
 
1 育児休業と関連制度の展開
 
(1) 育児休業法の制定
(2) 深夜業と時間外労働の免除請求権
(3) 子の看護休暇
(4) 有期雇用者の育児休業請求権
(5) 育児休業期間
(6) パパクォータから父親出産休暇へ
(7) 勤務時間の短縮と所定外労働の免除
(8) その他

2 少子化対策
 
(1) エンゼルプラン
(2) 次世代育成支援対策推進法

3 育児休業給付
 
(1) 育児休業奨励金
(2) 育児休業法制定時の議論
(3) 育児休業給付の創設
(4) 育児休業給付の展開
(5) 育児休業給付の実績
(6) 育児休業給付の独立
(7) 出生時育児休業給付金
(8) 雇用保険制度研究会

4 その他の子育て支援関連制度
 
(1) 健康保険法による出産手当金等
(2) 保育サービス

5 子育て支援に関する改革論
 
(1) 子ども・子育て新システム検討会議
(2) 産前・産後・育児休業給付案とその消滅
(3) 仕事・子育て両立支援事業
(4) 2022年の新たな議論

 2021年11月に官邸に設置された全世代型社会保障構築会議では、再び育児休業給付の位置づけの見直しの議論が提起されています。例えば2022年3月の第2回会合では、「育児休業給付を雇用保険制度の給付としていることを見直し、より個人としての取得の権利を確立し、非正規雇用者を含めて子育て支援を前面に出した制度に見直していくべき」という意見が示されています。同年5月にとりまとめられた「議論の中間整理」では、この考え方は明確には示されていませんが、「子育て・若者世代が子どもを持つことによって収入や生活、キャリア形成に不安を抱くことなく、男女ともに仕事と子育てを両立できる環境を整備するために必要となる更なる対応策について、国民的な議論を進めていくことが望まれる。その際には、就業継続している人だけではなく、一度離職して出産・育児後に再び就労していくケースも含め、検討することが重要である」という一節には、その発想が感じられます。今後どのような方向に進むかはまだ分かりませんが、子ども・子育て新システム構想で一時打ち出された案が再び登場する可能性は高そうです。実際、全世代型社会保障構築本部事務局総括事務局長の山崎史郎氏(前駐リトアニア大使)は、2021年11月に出版した小説『人口戦略法案』(日本経済新聞出版)の中で、育児休業給付等と児童手当を合体させた「子ども保険」の創設を訴えています。
 一方、内閣府の経済財政諮問会議では、2022年4月の第4回会議で有識者議員から「育児休業給付は、支給対象が雇用保険の被保険者に限定されている。必要な者には、制度にかかわりなく、子供の養育のために休業・離職していずれ復職するまでの間、給付が行われるようにすべき」との提起がなされています。同年6月の「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針)では、「こども政策については、こどもの視点に立って、必要な層の理解を得ながら、社会全体での費用負担の在り方を含め幅広く検討を進める」とした上で、わざわざ「安定的な財源の確保にあたっては、企業を含め社会・経済の参加者全員が連帯し、公平な立場で、広く負担していく新たな枠組みについても検討する」と述べており、育児休業給付等をベースにした新たな社会保険制度(=子ども保険)の導入がややぼかした表現ながら暗示されているように見えます。
 こういった動きが今後どのような法政策につながっていくのか興味深いところです。

 

2022年9月14日 (水)

EUの強制労働生産物の流通禁止規則案

本日、欧州委員会は強制労働による生産物がEU市場で流通することを禁止する規則案を提案しました。

https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_22_5415

The Commission has today proposed to prohibit products made with forced labour on the EU market. The proposal covers all products, namely those made in the EU for domestic consumption and exports, and imported goods, without targeting specific companies or industries. This comprehensive approach is important because an estimated 27.6 million people are in forced labour, in many industries and in every continent. The majority of forced labour takes place in the private economy, while some is imposed by States. 

欧州委員会は本日、EU市場における強制労働による生産物の流通を禁止する提案を行った。本提案はすべての生産物、すなわちEUの域内消費用、輸出用、及び輸入品に、特定企業や産業に限ることなく適用される。この包括的アプローチは、多くの産業や大陸において2760万人もの人々が強制労働させられていると推計されるが故に重要である。強制労働の多くは民間経済で生じているが、国家により課せられているものもある。・・・

日本でも人権デューディリジェンスの動きがひっそりと始まったばかりですが、EUではかなり強硬な政策が続々ととられ始めています。

 

 

 

本日、欧州議会が最低賃金指令案を可決

20220909pht40127cl 6月に欧州議会と閣僚理事会の間で合意されていた最低賃金指令案が、本日欧州議会の総会で、賛成505、反対92、棄権44で可決されたようです。

https://www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20220909IPR40138/parliament-adopts-new-rules-on-adequate-minimum-wages-for-all-workers-in-the-eu

Parliament adopts new rules on adequate minimum wages for all workers in the EU
遠からずEU官報に掲載されて、正式に公布されることになると思われます。

 

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