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2020年7月11日 (土)

『働き方改革の世界史』目次(予定)

9月に刊行予定の濱口桂一郎・海老原嗣生『働き方改革の世界史』(仮題)(ちくま新書)の現時点での目次です。

『働き方改革の世界史』(仮題)目次

序 章 日本人が煙たがる「労働運動」というもの

第一章 トレードからジョブへ-集合取引(コレクティブ・バーゲニング)の展開

第1講 出発点は集合取引(コレクティブ・バーゲニング)
シドニー&ベアトリス・ウェッブ、高野岩三郎監訳、『産業民主制論』

第2講 「労働は商品じゃない」の本当の意味
サミュエル・ゴンパーズ、S・ゴンパーズ自伝刊行会訳『サミュエル・ゴンパーズ自伝 七十年の生涯と労働運動(上巻・下巻)』

第3講 ジョブ型労働運動の哲学
セリグ・パールマン、松井七郎訳『労働運動の理論』

復習ノート① トレード型とジョブ型

第二章 パートナーシップ型労使関係という奇跡

第4講 共同決定というもう一つの産業民主主義
フリッツ・ナフタリ編、山田高生訳『経済民主主義――本質・方途・目標』

第5講 労使は経営共同体のパートナーシップ
ギード・フィッシャー、清水敏允訳『労使共同経営』

第6講 カトリックの労働思想
W・E・フォン・ケテラー、櫻井健吾訳・解説『労働者問題とキリスト教』

復習ノート② ドイツ型労働システムの根幹

第三章 パートナーシップなき企業内労使関係の苦悩

第7講 労使パートナーシップへの淡い夢
G・D・H・コール、和田耕作訳『労働者 その新しい地位と役割』

第8講 パートナーシップなきイギリスの職場
アラン・フランダース、岡部実夫・石田磯次共訳『イギリスの団体交渉制――改革への処方箋』

第9講 ジョブ・コントロール型労使関係は崩壊の一途
バリー&アーヴィング・ブルーストーン、岡本豊訳『対決に未来はない 従業員参加の経営革命』

第10講 メンバーシップ型アメリカ企業の雌伏、栄光、そして挫折
サンフォード・ジャコービィ、内田一秀・中本和秀・鈴木良治・平尾武久・森杲訳『会社荘園制』

復習ノート③ ノンユニオンという帰結

第11講 労働者自主管理という理想像の逆説
エドモン・メール、佐藤敬治訳『自主管理への道』

復習ノート④ 自主管理思想の理想郷とは

第四章 片翼だけの労使関係

第12講 従業員組合のアンビバレンツとその帰結
藤林敬三『労使関係と労使協議制』

復習ノート⑤ 戦後日本のパラドックス

第五章 労働思想ってそういうことだったのか対談

あとがきに代えて マルクスが入っていない理由

 

 

『情報労連REPORT』7月号に寄稿

2007_cover 『情報労連REPORT』7月号に「「新型コロナ緊急対策」と今後の労働政策-非常時の対応は平時に労働政策にどう影響するか」を寄稿しました。

http://ictj-report.joho.or.jp/2007/topics01.html

これは総論的に、いろんなことを詰め込んで概観していますので、より詳細はJILPTの緊急コラム等をご覧いただければと思いますが、ざっと一通り見るには手ごろではないかと思います。

雇用調整助成金の拡充

2020年度は働き方改革、賃金消滅時効、ハラスメント規制など数多くの労働政策課題とともに出発するはずでしたが、2020年初めから世界的に急速にまん延しパンデミックとなった新型コロナウイルス感染症への緊急対策が続々と打ち出される中で、労働政策面でも目まぐるしいような制度改正や創設が相次ぎました。その中には、今後の労働政策の行方を示唆するものも少なくありません。

まず、近年「行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型への転換」というキャッチフレーズの下で、ややもすれば否定的な視線を向けられることの多かった雇用調整助成金が一気に雇用政策のスポットライトを浴びました。知事の休業要請を受けた場合には助成率を10割としたり、日額上限を1万5000円に引き上げたりするなどの大幅な拡充に加え、被保険者期間6カ月以上という要件の撤廃や、雇用保険被保険者でない労働者の休業も助成対象とした点が注目されます。

2008年のリーマン・ショック時には、多くの非正規労働者が雇用保険の対象とならないことが批判の的となり、それまでの1年以上の雇用見込みという要件が1カ月以上に緩和されました。しかし、それでもなお雇用保険非加入の非正規労働者は少なくありませんし、加入していても6カ月の被保険者期間を満たさないことも多いのです。緊急事態に対処するための雇用調整助成金が、金の出どころである雇用保険の事情に引きずられることによって、守られるべき非正規労働者の雇用が守られないとすれば、それは是正されるべきでしょう。しかしこれは、緊急事態が過ぎ去った後には元に戻せばいいのかという問いも提起します。

休業に国が直接給付へ

雇用調整助成金を巡っては、その申請手続きが煩雑で受給手続きが遅々として進まないことに批判が集まり、かなり思い切った手続きの簡素化が行われました。これは、リーマン・ショック時に利用された雇用調整助成金において、その後不正受給等の指摘が多くなされ、厳格な運用のために手続きが煩雑になった面もあります。とはいえ、同様の制度を持つ欧州諸国では4月末の時点で独仏とも利用者数が1000万人に達していたことを考えると、やはり仕組みにも問題がありそうです。

これに対し、日本弁護士連合会などから災害時のみなし失業制度の適用が求められましたが、政府はむしろ休業そのものに国が直接給付を行うという法改正を選択しました。これにより、雇用保険の雇用安定事業として休業手当を受け取れていない中小企業労働者に「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金」が支給されるとともに、被保険者でない労働者にも同様の給付金が支給されます。

ここでも非正規労働者へのセーフティーネットの拡大という方向性が示されています。一方、本制度では、そもそも論として労働基準法第26条の休業手当支払い義務との関係が未整理のままで、緊急時の生活保障機能をどこがどれだけ担うべきなのかという本質的な問いが先送りされていると言わざるを得ません。

今回クローズアップされた問題としては、アルバイト学生への休業補償も注目されます。これは労働政策サイドではなく、教育政策サイドで「学びの継続のための『学生支援緊急給付金』」が創設されました。家庭から自立してアルバイト収入により学費等を賄っている学生等で、今回の新型コロナウイルス感染症拡大による影響で当該アルバイト収入が大幅に減少し、大学等での修学の継続が困難になっている者に、日本学生支援機構から10万〜20万円を支給するというものですが、アルバイト学生の社会的位置付けがかつてとは大きく変わってきていることを示しています。

リーマン・ショック後の2010年雇用保険法改正では、適用要件を週20時間以上かつ1カ月以上の雇用見込みと大きく拡大しましたが、昼間学生のアルバイトだけはそこから外したのです。10年前はまだ学生アルバイトを小遣い稼ぎとみる発想が強かったのですが、今やそれは時代遅れになりつつあるのです。

フリーランスへの対応

ここまではまだ、雇用労働者の中の非正規労働者への保障の拡大ですが、新型コロナウイルス緊急対策はさらにそれを超えてフリーランスなど非雇用労働者の保障も政策課題の舞台に引きずり出しました。安倍総理が3月から全国の小中高校を臨時休校としたことに伴い、厚生労働省は急きょ「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」を創設したのですが、子どもを抱えて働いているのはフリーランス就業者も同じなのに、そちらが対象にならないのはおかしいではないかという議論が噴出したのです。

そこから瓢箪から駒のように、新型コロナウイルス対策という名目で、一気にフリーランス就業者のための休業補償として「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応支援金」が創設されることになりました。しかも、1日当たり4100円(定額)という金額が、雇用労働者の1日当たり8330円(上限)と比較して低すぎるのではないかという批判も起こりました(現在はそれぞれ7500円(定額)、1万5000円(上限))。

しかし、これは平時であれば極めて実現困難なものであったはずです。使用者の指揮命令下にあり、勤務時間中は労働義務を負っている雇用労働者向けの制度枠組みを、そうではないフリーランスの自営業者にどこまで応用することができるのかというそもそも論を、緊急対策ということで軽々と乗り越えてしまっているのです。

とはいえ、労働政策からのフリーランス対策はこれだけで、上記休業労働者への直接給付のフリーランス版という話はありませんし、そもそも雇用保険の失業給付の対象にはなりません。それは当たり前だと思うかも知れませんが、実は世界的には今、フリーランスへの失業給付という問題意識が高まりつつあるのです。EUでは2019年11月に、「労働者と自営業者の社会保障アクセス勧告」が成立し、自営業者にも失業給付や労災給付を行う国がかなりの数に上っています。日本でも労災保険には自営業者の特別加入という仕組みがあることを考えれば、理論的にはあり得ない話ではありません。もっとも、フリーランスの場合、そもそも休業と失業の間に明確な区分も付けがたいという問題があります。

税制上の課題

ちなみに、経済産業省所管の持続化給付金は、新型コロナウイルス感染症の影響により売上が前年同月比で50%以上減少している事業者に対し、法人は200万円、個人事業者は100万円給付するものであり、後者はフリーランス就業者に対する一種の休業手当と見ることもできます。ところが、フリーランス就業者は確定申告の際、事業所得ではなく給与所得ないし雑所得として申告することが多く、そのためにこの給付金がもらえないと問題になり、事業収入を給与所得や雑所得に計上しているフリーランスも対象に含めると梶山経産相が記者会見で述べる事態になりました。労働者性に関する判断基準が労働社会政策と租税政策で食い違っていることが、思わぬ形で露呈したと言えます。

この問題は、今回は事業者として持続化給付金の対象になるかという形で表れましたが、裏返して言えば、税務署から見て事業者ではなく労働者と判断されるような就業形態の者が、労働法や社会保障の適用上労働者ではないとされているために、雇用労働者向けのさまざまな保障から排除されていることの問題点でもあるのです。 

なお、今号にはコロナ禍に関する記事がたくさん載っていますが、常見陽平さんが(連載とは別に)「コロナ禍のテレワークの今とこれからー不自由で硬直的にならないために何が必要?」を書いています。

テレワークの功罪についてあれこれ論じる中で、最後のパラグラフで「「ジョブ型」への警戒」を露わにしています。曰く;

テレワークの導入拡大に伴って、経団連や日本経済新聞が「ジョブ型」への移行を盛んにアピールしていますが、労働組合としてはその裏の意図にも気付くべきです。そこにあるのは、仕事のモジュール化と解雇自由の世界観です。要するに、働く人を取り替え可能な部品化する懸念があります。

そもそも、経団連や日本経済新聞の言う「ジョブ型」を素直に信用してはいけません。「ジョブ型」には、働く側にジョブを選択する権利があり、今の日本のように会社が強大な人事権を握って、従業員をどこにでも異動させるようなことはできません。会社が強大な人事権を手放さないままの「ジョブ型」は、労働者の立場をますます弱くする可能性があります。

一方で、「無限定正社員」を中心とした「メンバーシップ型」雇用のままテレワークが導入されると、過度な一体感が重視された結果、労働強化になり得ることに注意が必要です。テレワークが広がる中、「仕事がモジュール化するからジョブ型になる」くらいの論理で働き方が語られることに強い違和感を覚えます。労働者の立場が弱いまま導入される「ジョブ型」に労働組合は警戒するべきです。

さらに仕事のモジュール化について言えば、そこには「一億総フリーランス化」という意図も見え隠れします。政府はこの間、「雇用によらない働き方」を促進してきました。そこにも労働組合は注意を向けるべきでしょう。

自由で柔軟な働き方の象徴として語られてきたフリーランスの働き方が、決してそうではないことが明らかになったのも、今回の教訓の一つだと思います。働く人たちの自由に働きたいというニーズと雇用の安定をどうマッチさせるのか。さらには、キャリア権をどう保障するのか。日本社会として世界にどのような働き方を示せるのかが問われています。テレワークそのものより、それを巡る日本社会の労使関係が問われていると言えるでしょう。 

これは二重三重にねじれているんですが、まず本来の「ジョブ型」は、ある意味で確かにあらかじめ定まった「ジョブ」に人をはめるという意味で「モジュール化」なんですが、その典型は(何回も言っていますが)アメリカ自動車産業のブルーカラー労働者であって、裁量労働制だの成果主義とは正反対なんですね。

ところがなぜか現在の日本で日経新聞の唱道する「ジョブ型」ってのは、そういうジョブ型の諸国のハイエンドの部分だけに着目して、(ある意味では「ジョブディスクリプション」が包括的で幅があるがゆえにそれが可能である)成果主義を取り出して、あたかもそれが「ジョブ型」なるもののすべてであるかのように宣伝する。

ただそれには理解できる面があって、日本はジョブ型諸国に比べるとはるかに広い範囲の労働者層に「査定」をするんですが、その「査定」の中身が、ジョブディスクリプションが不明確かつ不確定なため、能力考課、情意考課にならざるを得ず、それが本来業績査定すべき部分まで「いやあ、あいつは「できる」し、頑張っているし」でやっちゃうので、そこをどうにかしたいという気持ちがあるわけです。それはわかるのですが、言葉の間違った使い方を世に広めるようなやり方はやめてほしいですね。

それとはも一つ別の次元で、これはむしろ世界共通に進んでいる大きな変化として、「ジョブ」を超えた「タスク」レベルへの限りなくミクロなモジュール化という問題があり、今話題のフリーランスはむしろこちらなんですが、そこはこれまでの労働法や社会保障法ではなかなか追いついていかないところなので、世界的に議論が沸騰しかけているのです。

昨日アップした、自営業者の団体交渉権を認めよう、という話もその一環です。

 

2020年7月10日 (金)

生産性の向上には・・・適切な価格設定だ

本日の日経新聞で、「最低賃金 労使に聞く」として、日商の三村会頭と連合の神津会長が見解を述べてます。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61359800Z00C20A7EE8000/

 2020年度の最低賃金を巡る政労使の議論が本格的に始まる。第2次安倍政権のもとでは16年度から年3%ペースで引き上げが続いてきた。その流れが新型コロナウイルス禍で変わりつつある。経営者、労働組合それぞれの代表に考えを聞いた。・・・

もちろん、読まなくたって何を言っているかは全部想定通りですが、三村さんのインタビューの最後のあたりは、最低賃金引上げ反対というそのスタンスにもかかわらず、実は賃金を上げろという議論と同じ構造になっています。

Https___imgixproxyn8sjp_dsxmzo6135981009 --生産性の向上には何が必要ですか

「適切な価格設定だ。中小企業の労働生産性はバブル崩壊後に低下した。大企業に協力し、中小は納品価格を下げた。リーマンショック時も同様だった。景気が回復しても是正されていない。サプライチェーン全体で費用を分担する必要がある。」

このロジックには全面的に賛成です。生産性が低いというのは、要するに買い叩いているからだ、と。

ですが、このロジックは、主語だけを入れ替えれば、まったく同じ構造でこうもいえます。中小企業を労働者という労務提供者に、大企業を労働者が労務を納品する相手方たる経営者に置き換えれば、

--生産性の向上には何が必要ですか

「適切な労務価格設定だ。労働者の労働生産性はバブル崩壊後に低下した。経営者に協力し、労働者は労務の納品価格を下げた。リーマンショック時も同様だった。景気が回復しても是正されていない。労務のサプライチェーン全体で費用を分担する必要がある。」

ほとんどなんの違和感もないですね。

いやもちろん、大企業が中小企業を買い叩いているのに、中小企業がそこで働く労働者の納品価格だけを引き上げたら、

・・・廃業する中小企業が相当出てくる。・・・

と言いたいわけで、そこは筋は通っています。

 

 

 

 

 

 

自営業者の団体交渉権─EUとOECDの試み@JILPTリサーチアイ

JILPTのホームページのコラム「リサーチアイ」に、「自営業者の団体交渉権─EUとOECDの試み」を書きました。

https://www.jil.go.jp/researcheye/bn/040_200710.html

 近年デジタル化の進展の中で、これまでの労働者性判断基準では労働者とは言い難いが、その実態は限りなく雇用労働者に近いいわゆる雇用類似の働き方が増大しつつある。クラウドワークとかプラットフォームワークと言われるそうした働き方の者については、労働者保護法や社会保障法の関係でどのような保護を与えるべきかについて、日本も含めた世界各国で熱心に議論が行われている。ところが、労働法の一つの柱である集団的労使関係システムについては、これをうかつに使うと競争法違反と非難される可能性が常にある。労働者なら団結として保護されるものが、自営業者なら談合として指弾されるという状況下で、この問題にどう取り組むべきかという大問題があるのだ。
 残念ながら日本ではこの問題に対する問題意識が低く、雇用類似の働き方に対する政府の対策としても、独占禁止法の優越的地位の濫用を用いようという動きが優勢である。もちろん、使えるものは使うという発想が悪いわけではないが、自営業者の保護に下手に独占禁止法を使うと、その独占禁止法が同時に自営業者の団結(談合)を厳しく禁止していることとの整合性が取りにくくなる恐れがあろう。国家権力が上から保護するのはいいけれども、自分たちで団結して守るのはけしからんというのでは、健全な社会システムの構築につながるまい。・・・・
 

2020年7月 9日 (木)

『OECD雇用見通し2020』

Oecd2020 『OECD雇用見通し2020』が発表されました。このご時世ですから、当然特集はコロナ危機ですが、

http://oecd.org/employment-outlook

http://www.oecd.org/tokyo/newsroom/urgent-action-needed-to-stop-jobs-crisis-becoming-a-social-crisis-says-oecd-japanese-version.htm

新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、2008年の金融危機より深刻な雇用危機が引き起こされています。
OECD諸国の失業率は、2020年4月に3.0ポイント上昇して過去10年で最高の8.5%に達しましたが、5月には8.4%へとわずかに下落しました。2020年2月の失業率はわずか5.2%でした。OECD諸国全体の失業者数は、5月は5450百万人に達しました。4月から5月にかけて変動が乏しいため、対照的な傾向となっています。一方で、アメリカでは、経済が再開しはじめ、一時解雇された多くの労働者が仕事に復帰した人々もいれば、一時解雇が永続的な解雇になってしまった人々もいます。他方で、多くの国々では失業率が上昇、またはリスクが固定化しています。 

新規の公的支援は規模と範囲の双方で過去最大ですが、特に、雇用主が雇用者の労働時間を短縮し働かなかった時間について資金援助を受けるという雇用保護制度を拡大するという方法が採られています。データが入手可能なOECD諸国では、合計労働時間は、現在の危機の最初の3か月間には2008年の世界金融危機の時最初の3か月よりも10倍も速いスピードで減少しています。 

低所得の人々が最も高いコストを支払わされています。ロックダウンの最中、所得が最も高い労働者は、平均で低所得の労働者より在宅勤務ができる可能性が50%高くなっていました。それと同時に、低所得労働者は高所得労働者より仕事が完全になくなる可能性が2倍高くなっていました。
女性の方が、危機の影響を最も受けている産業部門で不安定な仕事に就いている人の割合が不当に高いため、男性より大きな打撃を受けています。自営業者と臨時雇用またはパートタイム労働者は、特に雇用喪失と所得喪失の危機にさらされています。また、学校または大学を中退した若者も就職が難しく、潜在的所得に長期的な損害を受けるリスクを抱えています。 

さて、ここでもいわれている日本の雇用調整助成金類似の雇用維持スキームについて、各国の動向が書かれているんですが、見ていくと、36頁の「Job retention schemes are cushioning the impact on open unemployment in a number of OECD countries」(雇用維持スキームが多くのOECD諸国の公然たる失業のインパクトのクッションになっている)という項に、図1.8として「Participation in job retention schemes has been massive in some countries」(雇用維持スキームへの参加はいくつかの国で目立つ)が載っているんですが、

Oecd2020job

あれ?肝心の日本がないぞ。

雇用維持といえば日本だと、少なくとも日本の知識人諸氏は思ってきましたが、その日本のデータが載ってません。なんなんでしょ、このジャパン・パッシングは。

いやもちろん、その後ろの方の記述部分には、ドイツ等々と並んで日本のことも書かれているんですがね。

 

 

 

 

 

 

骨太方針の原案

昨日の経済財政諮問会議に、いわゆる骨太方針、経済財政運営と改革の基本方針2020の原案が出されたようです。

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2020/0708/agenda.html

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2020/0708/shiryo_02.pdf

もちろん、いろんなことが書いてありますが、本ブログの関心は働き方にかかわるところです。

17ページの「①働き方改革」のところを見ると、

(3)新しい働き方・暮らし方
① 働き方改革
 働き方改革関連法29の着実な施行に取り組むとともに、感染症への対応として広まったテレワークがもたらした、新たな働き方やワーク・ライフ・バランスの取組の流れを後戻りさせることなく最大限活かし、従業員のやりがいを高めるためのフェーズⅡの働き方改革に向けて取組を加速させる。労働時間の管理方法のルール整備を通じた兼業・副業の促進など複線的な働き方や、育児や介護など一人一人の事情に応じた、多様で柔軟な働き方を労働者が自由に選択できるような環境を整備し、RPAの活用を含む更なる生産性向上に向けた好循環を作り出す。あわせて、不本意非正規雇用の解消を図る。
 テレワークの定着・加速を図るため、新たなKPIを策定するとともに、中小企業への導入に向けて、専家による無料相談対応や全国的な導入支援体制の構築など各種支援策を推進する。さらに、事業場外みなし労働時間制度の適用要件に関する通知内容の明確化や関係ガイドラインの見直しなど、実態を踏まえた就業ルールの整備に取り組む
 テレワークの浸透に伴い、個人の職務の内容や責任の更なる明確化が求められている現下の状況を、業務等の遂行に必要な知識や能力を有するジョブ型正社員の更なる普及・促進に向けた格好の機会と捉え、必要な雇用ルールの明確化や各種支援に取り組む
 こうした中で、労働者が職務の範囲内で裁量的・自律的に業務を遂行でき、企業側においても、こうした働き方に即した、成果型の弾力的な労働時間管理や処遇ができるよう、裁量労働制について、実態を調査した上で、制度の在り方について検討を行う
  政府として一体的にフリーランスの適正な拡大を図るため、保護ルールの整備を行う。 

労働法制にかかわる部分を太字にしましたが、このうち今回のコロナ禍で注目され、(もちろん数年前から政策課題に上がっていたとはいえ)特に今回問題意識が盛り上がってきているのは、テレワークの関係での事業場外勤務ガイドラインの見直しと、フリーランスの保護ルールの整備でしょう。

このうちフリーランスについては、去る7月3日の未来投資会議に出された成長戦略実行計画案でも、かなり詳細な記述がされています。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/dai40/index.html

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/dai40/siryou1-1.pdf

2.フリーランスの環境整備
フリーランスについては、内閣官房において、関係省庁と連携し、本年2月から3月にかけて、一元的に実態を把握するための調査を実施した。その上で、当該調査結果に基づき、全世代型社会保障検討会議において、政策の方向性について検討し、以下の結論を得た。
フリーランスは、多様な働き方の拡大、ギグエコノミーの拡大による高齢者雇用の拡大、健康寿命の延伸、社会保障の支え手・働き手の増加などの観点からも、その適正な拡大が不可欠である。
さらに、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、フリーランスとして働く人に大きな影響が生じており、発注のキャンセル等が発生する中、契約書面が交付されていないため、仕事がキャンセルになったことを証明できない、といった声もある。
こうした状況も踏まえ、政府として一体的に、フリーランスの適正な拡大を図るため、以下の保護ルールの整備を行う。 

と、その後に書かれているのは主として公正取引委員会所管の独占禁止法による優越的地位の濫用を用いた保護なんですが、これは本ブログで何回か書いているように、独占禁止法、あるいは広く競争法は、フリーランスの団結に対して否定的に働く可能性が高く、フリーランス保護をそっちでばかりやるのはかなり問題があります。むしろ、最近はOECDあたりが先頭に立って、自営業者の団体交渉権を認めようというキャンペーンを張り出している状況なので、そういう方面の動きもきちんと追いかけておかないと、あらぬ方向にいきかねません。

それがしばらく続いた後に、やや唐突にこういう一節が出てきます。

(現行法上「雇用」に該当する場合)
フリーランスとして業務を行っていても、(a)実質的に発注事業者の指揮監督下で仕事に従事しているか、(b)報酬の労務対償性があるか、(c)機械、器具の負担関係や報酬の額の観点から見て事業者性がないか、(d)専属性があるか、などを総合的に勘案して、現行法上「雇用」に該当する場合には、契約形態にかかわらず、独占禁止法等に加え、労働関係法令が適用されることを明確化する。 

これは例の1985年の労働基準法研究会の労働者性判断基準ですが、判断要素自体はそういうことなんですが、もう少し現場で使いやすいように操作性の高いものにしていかないと、そもそもそれが「現行法上「雇用」に該当する場合」に該当するかどうかで頭を悩ますことになってしまいます。裁判所に行かないとわからないのでは(弁護士以外には)使い物にならないので、ここは検討が必要なところでしょう。

なおそのさらに後に、先日労政審労災保険部会で審議が始まった労災保険の特別加入のことも書かれています。

 (4)労働者災害補償保険等の更なる活用
フリーランスとして働く人の保護のため、労働者災害補償保険の更なる活用を図るための特別加入制度(※)の対象拡大等について検討する。また、フリーランスとして働く人も加入できる共済制度(小規模企業共済等)の更なる活用促進を図る。
併せて、フリーランスとして働く人のリモートワーク環境の整備を支援する。

 

 

 

2020年7月 7日 (火)

新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の申請書

例の休業手当をもらえない労働者向けの直接給付の申請書等がようやく厚生労働省のHPにアップされました。

https://www.mhlw.go.jp/stf/kyugyoshienkin.html

労働者申請用の書類を見ると、

https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000646843.pdf

労働者記入欄のほかに事業主記入欄というのもあって、

 労働者記入欄■1 の期間の休業に対し、一部でも休業手当を支払っていませんか。または支払う予定はありませんか。

というのに対して「支払っていない」にチェックを入れないといけなんですね。

事業主がこれを書き込んでくれない場合は、

●「事業主の協力を得られない」旨
●その背景となる事情(倒産、事業主と連絡がとれない等)
を記入して提出してください。
※その場合、拠点等の所在地を管轄する労働局より法律に基づき、当該事業所に連絡します。通常の審査よりお時間を要しますのでご了承ください。

とのことです。

 

2020年7月 6日 (月)

『新規開業白書2020年版』

Syuppan200706a-1 日本政策金融公庫から『新規開業白書2020年版』が刊行されました。


https://www.jfc.go.jp/n/findings/toshoj.html



総合研究所では、国民生活金融公庫総合研究所の時代から、新規開業実態調査に長年取り組んでおり、1992年度から『白書』としてその調査結果を毎年公表してきました。今回の白書では、2019年度に実施した調査の結果をもとに、多様化する新規開業者の働き方や意識に焦点を当てています。 



わたくしの「雇用類似の働き方に関する現状と課題」も収録されています。

緊急コラム「第2ステージに入った欧州各国の雇用対策」@天瀬光二

Amase_k_20200706162401 JILPTの新型コロナ緊急コラムの最新作に、天瀬光二さんの「第2ステージに入った欧州各国の雇用対策」がアップされました。イギリス、フランス、ドイツといった欧州主要国における雇用維持スキームの動向を詳しく解説しています。

https://www.jil.go.jp/tokusyu/covid-19/column/017.html

新型コロナウイルス感染拡大により停止されていた経済活動を再開させる動きが各国で活発化している。世界は、緊急事態下の感染拡大阻止を最優先した第1ステージから、コロナの感染リスクと経済活動が共存する第2ステージに入ったように思われる。各国は、第1ステージにおいてとった政策をどのように修正して対応していこうとしているのだろうか。各国における最近の動きを紹介する。・・・・

 

 

2020年7月 5日 (日)

労働基準監督官も命がけ

全労働省労働組合の『季刊労働行政研究』45号が送られてきました。全文がPDFファイルでここにアップされています。

http://www.zenrodo.com/katsudo_event/images/no.45kantoku.pdf

特集は「過重労働の解消に向けた効果的な行政手法と法整備」で、政策的なことも書かれているんですが、やはり興味をそそられたのは、実際に臨検監督している監督官たちがこんな目に遭っているんだよというところです。「過重労働の解消に向けた効果的な行政手法と法整備」という項に出てくるんですが、まあ、事業主にとってあまり歓迎されざるお客様であるためでしょうか、かなり手荒なおもてなしを受けている実態もあるようです。

Zenroudou

・ガラスの灰皿(推定2kg以上)を机上に投げつけられ、椅子を
 頭上まで振り上げられた。
・胸や首などを平手打ちされた。
・水をかけられ、体当たりされた。
・「家を燃やすぞ」と脅された。
・包丁を持ちだされた。
・日本刀を抜かれ、威圧された。
・「海に沈める」と脅された。
・水をかけられた。
・対応中に「ぶっ殺す」と言われた。
・監禁され、「無事に帰れると思うなよ」と脅された。
・「監督署にガソリンをまく」と脅された。
・「夜道に気をつけたほうがいい」と脅された。
・工具を手に追いかけられ、殴られそうになった。
・スマホを没収され半監禁された。
・ストーブで是正勧告書を燃やされ、大きな不安を感じた。
・「探偵を雇って自宅を探してやる」「家族がいるだろう」などと脅
 された。
・ヘルメットの上からハンマーで殴られた。

ここでは複数監督を原則とせよ主張するとともに、抜き打ち監督の是非について両論併記的に書かれていますが、なかなか難しいところですね。

2020年7月 4日 (土)

脇田滋編著『ディスガイズド・エンプロイメント』

Eb5zq2avcaazoki 脇田滋編著『ディスガイズド・エンプロイメント 名ばかり個人事業主』(学習の友社)をお送りいただきました。

「Disguised Employment」とは偽装雇用。実態は雇用労働者なのに個人請負の自営業者であると偽装(disguise)している、というより、させられている人々のことです。

本書は、労働法学者の脇田さんの編著となっていますが、分量的に大部分はそうした個人請負という形で働いている人々の団体の活動家による実態報告集で、最後に脇田さんによる解説がついているという構成です。

ただ、ここに並んでいるさまざまな実態を、ひとしなみに「ディスガイズド・エンプロイメント」といえるかは疑問な面もあります。

おそらくこれらのうち、実態が雇用労働者とほとんど変わらず、まさにディスガイズというべきものとしては、丸八の営業社員や、スーパーホテルの支配人、美容師・理容師といった人々の例でしょう。

他方、すでに中小企業協同組合法による協同組合を作っている日本俳優連合などの場合、労働法上の労働者として認めろというよりは、フリーランスとしての性格を維持しつつ、特殊な雇用類似の働き方として、労働法のある部分を準用するような仕組みを求めているのでしょう。

さらに、最後の楽天ユニオンになると、プラットフォームの職業的ユーザーの保護という、今日世界的に大きな政策課題となっている問題の焦点であり、ディスガイズというよりも新たな次元の保護が必要という話になります。

その中間に、労働組合を作って交渉する権利を確立しようとする人々がいて、冒頭に出てくるウーバーイーツユニオンをはじめとして、団結して自分たちの権利を守るべき集団としての性格を持った人々です。

また、今回のコロナで露呈した問題として税法上の労働者概念(給与所得)と労働法・社会保障法上の労働者概念のずれがありますが(下記エントリ参照)、ヤマハ英語講師ユニオンでもこの問題が取り上げられています。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/05/post-8b6d89.html(税法上の労働者性と事業者性)

今回の本はどちらかというとわりと新たなタイプの個人請負就業を取り上げています。実は現在でも労働基準監督署の窓口にやってくる労働者性事案の大部分は建設業の一人親方とか傭車運転手といった伝統的なタイプであり、今話題の夜の街の濃厚接触系のお店のホステスなんてのも多いんですが、そういう曖昧な働き方が広い分野にどんどん広がってきていることが、本書から窺われます。

本書の記述の中で注意を引いたのが、日本俳優連合の森崎めぐみさんの記述の最後のところで、2019年5月コペンハーゲンで、FIM国際音楽家連盟による初の国際フリーランス会議が催され、そこで「政府と雇用主は、フリーランスの音楽家に競争法(日本の独禁法に当たる)を適用しないことを明白にしなければならない」と声明したという部分です。

つい3日前に、EUの動きとしてこういうのを紹介したのですが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/07/post-f154a7.html(EUは自営業者の団体交渉を容認するのか?)

EUでは、こういうフリーランスの団体による運動があって、遂に今回欧州委員会競争総局が動き出したのでしょうね。

2020年7月 3日 (金)

森戸英幸/小西康之『労働法トークライブ』

L24338 森戸英幸/小西康之『労働法トークライブ』(有斐閣)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641243385

日本の雇用社会,日本の労働法は,この先どうなっていくのでしょうか? 10のトピック・ケースについて,著者ふたりが真剣に(ときに面白く?)トークを繰り広げながら考えます。学生の皆さんも社会人の皆さんも,参加して一緒に考えてみませんか。

例によって森戸テイスト満載の表紙に、生のトークライブっぽい雰囲気の前説と、おちゃらけてる感が噴出してますが、中身は意外にまとも、というか(時々怒られることを気にしているらしい)菅野先生の本流から踏み外さないオーソドックスな労働法の議論が展開されています。セトリは次の通りですが、

01 採用の自由──あなたが欲しい
02 労働者性──基準はアンビバレント
03 性差別──just the way y’all are
04 障害者雇用──誰も皆ハンデを抱えている
05 高齢者雇用──私がジジババになっても
06 ハラスメント──「嫌なものは嫌!」と
07 過労死──はたらきつかれたね
08 解雇──リストラは突然に
09 正規・非正規の格差──このやるせないモヤモヤを
10 副業・兼業──もしもバイトができたなら 

この点、菅野理論をどんどん踏み出して/踏み越えて/踏み外して「思えば遠くへきたもんだ♫」という感の漂う大内さんとか水町さんとは対照的です。

さて、各章末にはSpecial Guestというコーナーがあるのですが、第1章の採用の自由では、いかにも日本的大企業の人事の人のいいそうなことを喋っているし、第2章の労働者性に至っては「元アイドルBさん」という人が出てきて、これって作っているんじゃないかと思ってしまいましたが、そのあとは福島大学の長谷川珠子さんとか清家前塾長とか、今津弁護士とか出てきて、あ!これ実在だったんだ!と。

でもね、「元アイドルBさん」という字面を見たら、思わず例の元アイドル(グループB)事件を思い出してしまいましたがな。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/04/2877-864d.html(元アイドルほか(グループB)事件(東京地判平成28年7月7日))

・・・まあ、この事件自体、小学5年生の女の子にアイドルとして集団による歌唱・ダンスを中心としたライブ活動のほか、○○券を購入したファンとの交流活動(お散歩、コスプレ、プリクラ、ビンタ等)をやらせるといういささかいかがわしげな商売なんですが、それはともかく、労判の席上で渡辺章先生から思いがけない指摘を受けました。

・・・・ふむ、小学校5年生の女の子がアイドルグループとして歌ったり踊ったりすること自体が13歳未満の児童に認められる「映画の製作又は演劇の事業」には当てはまらず、労働基準法の事業分類ではそれと同類ではあるけれども、13歳未満の児童の労働が許されないその他の「興行の事業」なんじゃないか、という指摘です。・・・

・・・こういうアイドルの肉体そのものへの接近接触それ自体を営利の資源とするビジネスモデルというのは、いうまでもなく秋元康氏が作り上げたものですが、やはりその根底にいかがわしさが否定できないように思います。

ということで、あとはPOSSEのアイドル部長坂倉さんにバトンを渡した方がいいようです。

このケース、報告はしたものの、さすがにジュリストには載せなかったのですが、この渡辺先生の指摘はどこかで書いておいた方が良かったかなと思ったりもします。

 

 

と、芸能ネタで受けてみたんですが、これで良かったでしょうか?→三宅亜紗美@有斐閣さま

 

 

 


2020年7月 1日 (水)

EUは自営業者の団体交渉を容認するのか?

久しぶりに、EU労働法にかかわるすごく大事なトピックです。正確に言うと、EU労働法そのものというよりはEU競争法の適用、より正確に言うと適用除外にかかわる問題です。

いうまでもなく、労働者は団結権、団体交渉権を有し、労働組合はカルテルではないし、労働協約は不当な価格協定ではありませんが、それは労働者だと認められる限りであって、もし自営業者であればその団結は不当な談合とみなされます。

ところが、近年の情報通信技術の発達の中で、契約上は自営業者だがその実質は労働者のような就業者が増えているという話は繰り返されていますが、これが競争法当局に飛び火して、昨日(6月30日)、欧州委員会の競争当局が、そこんところを見直すプロセスを開始するというプレスリリースを出しました。

https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_20_1237(Competition: The European Commission launches a process to address the issue of collective bargaining for the self-employed)

競争:欧州委員会は自営業者の団体交渉問題を扱うプロセスを開始する

 The European Commission is launching today a process to ensure that the EU competition rules do not stand in the way of collective bargaining for those who need it. The initiative seeks to ensure that working conditions can be improved through collective agreements not only for employees, but also for those self-employed who need protection.

欧州委員会は今日、団体交渉を必要とする人々にEU競争法が立ちふさがることのないように確保するプロセスを開始する。このイニシアティブは労働協約を通じた労働条件の改善が、被用者だけではなく、保護を必要とする自営業者にも確保されることを追求する。

というわけで、近年日本でも雇用類似の働き方という名称で議論されるようになってきた問題の、集団的労使関係システムというもう一つの問題領域が、EUでは正面から政策課題に上ってきたようです。

この問題、日本では周知のように、労基法上の労働者性よりも労組法上の労働者性の方が広いんだという、労働組合法解釈の問題として、一定の(あくまで一定のですが)解決が図られていますが、EU労組法というものを持たない(正確に言えば禁じられている)EUでは、これを競争法の解釈問題として解決を図らなければいけないのですね。

この問題をEU司法裁判所の判決を契機に論じた小論として、今から5年前に『労基旬報』に寄稿したものがあります。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/06/post-b4a9.html(EU法における労組法上の労働者性)

 日本では過去数年間、労組法上の労働者性の議論が沸騰し、2011年の最高裁判決で一応の決着がついた後もなお議論が続いています。しかし、そこで議論の素材となっているのはほとんどもっぱら不当労働行為事件であり、団体交渉の要求を正当な理由なく拒否する事業主に対して、団体交渉に応じよと命令することが出来るか否かというレベルの話に過ぎません。しかし、団体交渉拒否の不当労働行為制度を有している国は先進国でも少なく、そういう問題設定は多くの先進諸国では共有されているわけではありません。
 これに対し、契約上は自営業者である人々が労働組合を結成して団体交渉を要求したり、労働協約を締結したり、労働争議を実施することは、日本では独占禁止法に当たる競争法の領域ではまさに違法性が問われる問題であり、労組法上の労働者性が議論されるとしたら、それこそが議論の焦点になるべき問題です。日本ではあまり議論にならないこの問題について、EU法の領域では昨年12月に、興味深いEU司法裁判所の判決が出されています。
 オランダの情報メディア労連(FNV)は、雇用労働者だけでなくいわゆるフリーランスの独立サービス提供者も加盟しており、雇用労働者の賃金だけではなくフリーランサーの報酬(フィー)も労働協約で決めていました。これは、オランダ法の下では全く合法的です。というのは、オランダの労働協約法第1条は、
1 「労働協約」とは一又はそれ以上の使用者若しくは法人格を有する一又はそれ以上の使用者団体と、法人格を有する一又はそれ以上の労働者団体によって、主としてまたはもっぱら雇用契約において尊重されるべき雇用の条件を規定する協約を意味する。
2 労働協約は、特定役務の遂行の契約又は専門職業サービスの契約にも関わることが出来る。この場合、労働協約、使用者及び労働者に係る本法の規定は準用する。
と規定しています。雇用労働者でなくても団体交渉して労働協約で報酬を決めることができるのです。ところが一方、オランダにも競争法があり、その第6条第1項は、
 オランダ市場における競争の防止、制限又は歪みを目的とし又は結果とするような企業間の協定、企業の団体の決定及び企業間の共同行為は、禁止される。
とする一方、第16条は
 第6条第1項は、(a)労働協約法第1条1項の労働協約には適用しない。
とも規定しています。これだけを頭に置いてください。
 さて、FNVとオランダ音楽家ユニオンはオランダオーケストラ協会との間で労働協約を締結しましたが、それは雇われ楽団員だけでなく自営音楽家の最低報酬も決めていました。そこで登場したのがオランダ競争当局で、自営業者の労働協約は適用除外にならないという見解を示したのです。これを受けてオーケストラ協会は従前の協約を終了させ、自営業者については新たな協約の締結を拒否しました。カルテルだと摘発されてはたまりませんからね。これに怒ったFNVは裁判所に訴え、これがEU司法裁判所に持ち込まれたのです。というのも、オランダであれどこの国であれ、競争法はEU運営条約第101条第1項に明記されたEUの大原則で、競争制限的行為が合法か違法かはすべて最終的にはEUレベルで判断されることになっているからです。
 この事件(C-413/13)の判決は2014年12月4日に下されました。判決はまず、労働者の雇用・労働条件を改善するための労働協約がその性質上条約第101条第1項の適用対象とならないことを確認した上で、しかしながら、たとえ雇用労働者と全く同じ労務(本件でいえば楽器の演奏)を提供しているのであっても、サービス提供者は原則として同条同項にいうところの「企業」にあたると判示しました。労働者を代表する団体がその会員である自営業者のためにその名で交渉しているとしても、それは労働組合としての行為ではなく、企業の団体としての行為に当たるというのです。従って、本件労働協約は条約第101条第1項の適用を除外することは出来ない、というのが結論です。
 ただし、とここでEU司法裁は例外的な状況を示します。もしその自営業者が実際には偽装自営業者であるなら、話は別だと。そして、国内法で「自営業者」と分類されている者であっても、その者の独立性が名目的で、雇用関係を隠して偽装しているのであれば、EU法の適用において労働者と分類することを妨げるものではないと述べます。税制や行政上のために国内法で自営業者とされていても、その者が時間や空間、仕事内容の選択の自由において使用者の指揮命令下にあり、企業活動の不可欠な一部を為しているのであれば、EU法上の労働者としての地位に変わりはないのです。というわけで、EU司法裁はこの「自営音楽家」の労働者性を確認せよと、オランダの裁判所に事案を返しました。
 EU司法裁は条約や指令の解釈を明らかにするところであって、事実審ではないので、かれらオランダの自営音楽家たちの労働者性自体は本判決ではそれ以上議論されていません。しかし、オランダの労働協約法が「準用」されていた自営業者が、それだけでは、つまり偽装自営業者でない限りは、競争法の対象となることから逃れることが出来ないことを明らかにしたという意味で、本判決はかなり重要な意味を有するように思われます。
 日本では現在までのところ、労組法上の労働者性が問題となるのはもっぱら不当労働行為に関わる事案ばかりですが、日本ももちろん独占禁止法という立派な競争法を持ち、公正取引委員会という立派な競争当局を有しているのですから、いずれこうした問題が持ち上がってくることは避けられないのではないでしょうか。そのためにも、今のうちからこうした労働法と競争法の交錯に関わる領域をきちんと検討しておく必要があるように思われます。 

 

 

 

 

リサーチアイ「フルタイム労働を襲ったコロナショック」

Takami_t_20200701163801 引き続き、JILPTの高見具広さんがコロナにかかわってリサーチアイ「フルタイム労働を襲ったコロナショック─時短、在宅勤務と格差」をアップしています。これは先月JILPTが発表した個人調査の結果をもとに、労働時間への影響と在宅勤務における格差が拡大再生産されている姿を浮き彫りにしています。

https://www.jil.go.jp/researcheye/bn/039_200701.html

これはもうぜひリンク先の分析をじっくりと読んでその分析の切れ味を味わってほしいところですが、最後の方の一節だけ、引用しておきますと:

・・・・整理した表1をみると、高所得層ほど、在宅勤務への早期移行がなされ[注13]、労働時間変動が少なく、収入を維持していることがうかがえる。高所得層ほど、働く場所を柔軟に移行できたこともあって、働く時間の変動を最小限に抑え、収入低下も防いだという構図が見えてくる[注14]。逆に、低所得層ほど、コロナ禍の影響を強く受け、労働条件が変動(労働時間減少、収入低下)したと言うことができる。
もともとの所得階層が高いほど労働条件を維持することができ、所得階層が低いほど維持できない。極端に言うと、働く時間・場所の変動を媒介として「格差が再生産された」局面だったようにも読める。

おわりに

暴風が吹き荒れる中、それに対処する資源には厳然たる階層格差があり、それが格差増幅にも直につながりうるという、危機の時代がもつ恐ろしさを見せつける調査データである。労働政策のみならず、広く社会政策のあり方を考える際に顧みなければならない事実を提示している。 

 

緊急コラム「正規・非正規雇用とコロナショック」@高橋康二

Takahashi_k2020_20200701162401 JILPTのコロナ緊急コラム、続々とアップされています。昨日の中井雅之さんに続いて、今日は高橋康二さんがやはり労働力調査のデータを使って、正規、非正規という雇用形態別にどのようなインパクトを与えたのかを分析しています。

https://www.jil.go.jp/tokusyu/covid-19/column/016.html

最後近くのまとめのパラグラフだけ引用しますが、この記述のもとになる分析を、ぜひリンク先に跳んでみてください。

・・・・まとめると、次のようになる。第1に、非正規雇用について言うならば、コロナ禍の比較的早い時期に労働時間調整、人数調整がなされ、5月調査の時点では調整が一巡していたと見ることもできる。第2に、他方で、正規雇用については、5月調査においてようやく前年同月差の就業者数の減少が確認されたが、実数ベースでの減少幅は(4~5月にかけて)29万人と比較的小さく、大半の正規雇用者の雇用は守られていると言える。第3に、しかし、完全失業率の動向やその内訳の変化から推論するに、コロナショックの正規雇用への影響が少し遅れてやってきている可能性はある。第4に、それに加えて、5月調査の時点ではすでに緊急事態宣言が全国から解除されていたことを踏まえるならば、この時期における正規雇用者数の減少には、企業が雇用負担に持ちこたえられなくなったという側面だけでなく、業界・企業が「アフターコロナ」ないし「ポストコロナ」的な経営・営業体制に移行する中で生じているという側面もなくはないだろう。 

 

«緊急コラム「新型コロナの影響を受けて増加した休業者のその後」@中井雅之