中間技能人材@日本商工会議所

現在急ピッチで進められている外国人労働者の新たな導入政策については、先月、『労基旬報』の3月25日号に「外国人労働政策の転換?」を書いたところですが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/03/2018325-937f.html

そのとき、「実はこの動きの背景にあるのは、昨年2017年11月16日に日本商工会議所・東京商工会議所が公表した「今後の外国人材の受入れの在り方に関する意見~「開かれた日本」の実現に向けた新たな受入れの構築を」という意見書です」と述べ、やや推測も交えて「その焦点は、「技能」という在留資格の拡大にあるようです」と述べていたところですが、本日に恩商工会議所が公表したあらたな意見書では、「中間技能人材」という名称を用いて、その意図するところをはっきりと打ち出してきています。

https://www.jcci.or.jp/recommend/2018/0426110527.html

1.外国人材の受け入れに対する商工会議所の考え方
・一定の専門性・技能を有する外国人材を「中間技能人材(仮称)」と定義し、新たな在留資格を創設した上で、受け入れを積極的に進めていくべき
・「中間技能人材」の創設にあたっては、原則、人手不足の業種・分野であることを受け入れの基本的な条件とし、期間は他の在留資格と同様に5年を上限に更新可とすべき
2.「中間技能人材」の受け入れ業種・分野を判断する際の考え方
・「中間技能人材」の受け入れ業種・分野を判断する際には、①業種・分野ごとの人手不足の状況に基づき、受け入れの可否および総量を検討する、②業種・分野ごとの人手不足を測る指標には有効求人倍率や失業率等を用いる、③有効求人倍率が1倍を超える期間が続いているなど、人手不足が一過性ではなく一定期間続いており、かつ、将来的に改善する見込みが希薄であること、の3点を基本的な考え方とすべき
・加えて、①アニメ、ファッション、食、デザイン、美容等に代表されるクールジャパン関連や、②宿泊・観光等わが国でのインバウンド対応が期待される業種・分野、③インフラ関連や高品質かつきめ細かいサービスなどさらなる国際展開が期待される業種・分野など、わが国経済の持続的な成長・発展およびグローバル化への寄与が期待される業種・分野については、人手不足の状況とは別に戦略的な観点から、受け入れの可否および総量を検討していくことが望ましい
3.「中間技能人材」に求められる一定の専門性・技能の程度および日本語能力
・一定の専門性・技能については、受け入れる業種・分野ごとに政府がそれぞれ設定すべき
・「中間技能人材」は、政府が設定した業種・分野ごとに求められる専門性・技能を有し、かつ専門性・技能を裏付ける要件として、(1)母国における5年程度の実務経験および高卒以上の学歴を有している者、(2)技能実習修了者、(3)わが国の国家資格等取得者のいずれかに該当する者とすべき
4.外国人材受け入れに係る在留管理のあり方
・外国人材の居住地、所属企業、在留資格、移転先(引っ越し、転職等)など、詳細を把握できる情報を一元化して、在留および雇用管理のさらなる徹底を図るべき
・外国人材を送り出す国とわが国との二国間協定(MOU)を交わすこと
・外国人材の積極的な受け入れに際して管理・支援機関を設置する場合には、わが国の公的機関がその任を担うことが望ましい
5.政府において構築すべき外国人材および企業に対する支援体制
・政府は、外国人材の積極的な受け入れに際して支援策の一層の周知とさらなる拡充を図ること
6.「中間技能人材」以外の外国人材の受け入れ
・わが国の大学等を卒業した外国人留学生が引き続き日本で就労できるよう、卒業生に特化した在留資格を創設すること

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高等教育における人材育成の費用負担@『JIL雑誌』5月号

694_05『JIL雑誌』5月号の特集は「高等教育における人材育成の費用負担」です。今現在ホットな話題であるとともに、日本型雇用システムの中ではなかなか理解を得にくく、進みにくい話でもあるという意味で、本ブログの読者にとっても興味深いはずです。

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2018/05/index.html

特集:高等教育における人材育成の費用負担─どのように次世代を育てるのか

提言 多面的な検討が求められる 市川昭午(国立大学財務・経営センター名誉教授)

解題 高等教育における人材育成の費用負担─どのように次世代を育てるのか 編集委員会

論文 高等教育費負担の国際比較と日本の課題 小林雅之(東京大学教授)

奨学金制度の歴史的変遷からみた給付型奨学金制度の制度的意義 白川優治(千葉大学准教授)

学歴収益率についての研究の現状と課題 北條雅一(駒沢大学教授)

高等教育無償化政策と大学再編の可能性 山本清(東京大学客員教授)

国立大学法人の運営財源と人材育成・養成 水田健輔(大正大学教授)

紹介 大学夜間学部という選択肢─学生生活とキャリア形成の機会 大島真夫(東京理科大学講師)

最初の小林さんの論文は矢野眞和さんの論をもとに、スウェーデンのような公的負担による福祉国家主義、日本のような親負担による家族主義、、アメリカのような本人負担による個人主義という枠組みをもとに、それが本人負担にシフトする傾向にあると指摘しつつ、公的負担の拡充の課題を論じています。この問題が難しいのは、日本型雇用システムによる年功賃金が親負担主義を支えてきたという面だけではなく、日本型雇用システムによるジョブ意識の希薄化が公的負担の前提となる教育の公共性、信頼性を高めないという面があり、おのずから動くことが期待しがたいということでしょう。

白川さんの論文は、奨学金制度の変遷の歴史を詳しく解説しており、大変役に立ちます。

面白かったのは、論文ではなく紹介という位置づけで載っている「大学夜間学部という選択肢─学生生活とキャリア形成の機会」で、矢野眞和さんの言う18歳主義の対極にある大学夜間部の現状を紹介しています。昼間フルタイムで働くことが「超長期のインターンシップ」だという言葉には、思わず意表を突かれた気がします。

・・・夜間学部学生のフルタイム就業は、単にお金を稼ぐということ以上に、インターンシップの目指す目的をも同時に満たしているのではないかということである。フルタイムで働くとはどういうことか、仕事に対して自分は適性があるのか、といったことは、わざわざインターンシップに行って学ばずとも、フルタイム就業している夜間学部学生はすでに百も承知というわけである。フルタイム就業が超長期のインターンシップのような役割を担っているといってよいだろう。

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労働政策フォーラム 改正労働契約法と処遇改善@『ビジネス・レーバー・トレンド』2018年5月号

201805『ビジネス・レーバー・トレンド』2018年5月号が刊行されました。特集は「改正労働契約法と企業の対応」です。その目玉は、去る3月15日に開催した労働政策フォーラム「改正労働契約法と処遇改善」です。

http://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2018/05/index.html

基調講演 菅野和夫 JILPT 理事長
調査報告 荻野 登 JILPT労働政策研究所 副所長
事例報告①  忠津剛光 J.フロントリテイリング株式会社 執行役
事例報告②  井上宏人 株式会社千葉興業銀行 人事部人事企画担当部長代理
事例報告③  山本 覚 株式会社竹内製作所 総務部人事課課長
事例報告④  松本憲太郎 株式会社クレディセゾン 戦略人事部長
パネルディスカッション コーディネーター 濱口桂一郎 JILPT労働政策研究所 所長

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野川忍『労働法』

07712 野川忍さんより『労働法』(日本評論社)をお送りいただきました。1100ページを超える分厚いテキストブックです。

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/7712.html

いやとにかく、労働法教科書の「枕」化現象は怒涛の如く押し寄せていますが、かつて商事法務から教科書を出した時には、まあそれなりに中くらいの分厚さだった野川テキストも、今回は堂々1000ページ越えグループに入ってきました。

と、外形的な形状ばかりあげつらっているようですが、内容的にもいくつか特色があります。わかりやすいのは、第6章として「国際的観点から見た労働法制の展開」があり、EU労働法までかなり詳しく紹介したり、使用各国の労働法と称して、米独仏英の労働法制を概観したりしている点ですが、これは前の商事法務時代の延長線上とも言えます。

もう少し中身に立ち入った特色は、これは中の記述をある程度じっくり読むと感じられるのですが、いわゆる教科書的な記述というよりは、ある論点について論文でも書いているかのようにやや身を入れて突っ込んで論じているところがいくつもあるのですね。就業規則法理とか解雇法理とか、野川さんがこだわりのある論点では特にその傾向が強いようです。

はしがき
凡例

第1部 総論

第1章 労働法の意義と特質
第2章 労働法の生成
第3章 労働法に関する憲法の規制
第4章 労働法の多角化と判例法理
第5章 労働法制におけるコントロールツール
第6章 国際的観点から見た労働法制の展開

第2部 個別的労働関係法

1 総説
第7章 個別的労働関係法の体系と対象
第8章 個別的労働関係法の特質・効力・適用範囲
第9章 労働者と使用者
第10章 就業規則

2 労働契約法
第11章 労働契約法総論
第12章 労働契約の成立・展開
第13章 労働契約の終了
第14章 非典型雇用
第15章 企業変動と労働法制

3 労働者保護法
第16章 労働憲章と労働者の人権
第17章 男女雇用平等法制
第18章 育児・介護と次世代育成の支援
第19章 賃金の法規制
第20章 労働時間の法的意義と基本構造
第21章 年次有給休暇
第22章 安全衛生と労災補償

第3部 日本の雇用政策

第23章 雇用政策の法的構造
第24章 特別な対象者に対する雇用促進政策

第4部 集団的労使関係法

第25章 労働組合
第26章 団体交渉と労使協議制
第27章 労働協約の法的構造
第28章 団体行動の法理
第29章 不当労働行為救済制度

第5部 労働紛争解決システム

第30章 労働委員会による労使紛争解決システム
第31章 多様な労働紛争解決システムの諸相

事項索引
判例等索引

 

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日本版O-NETの源流@WEB労政時報

WEB労政時報に「日本版O-NETの源流」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers-taiken/hr/article.php?entry_no=751

先日ようやく国会に提出に至った働き方改革関連法案の元になったのは、昨年3月の「働き方改革実行計画」ですが、同計画には法案に持ち込まれた労働時間の上限規制や同一労働同一賃金、既に検討が開始されている雇用類似の働き方や兼業・副業といった、誰もが注目する論点のほかに、おそらく少数の関係者しか関心を持たないであろうけれども、日本のこれからの労働市場のあり方という観点からは潜在的にかなりの重要性を秘めている項目がさりげなく入っています。その一つが「転職・再就職の拡大に向けた職業能力・職場情報の見える化」という項です。

 AI等の成長分野も含めた様々な仕事の内容、求められる知識・能力・技術、平均年収といった職業情報のあり方について、関係省庁や民間が連携して調査・検討を行い、資格情報等も含めて総合的に提供するサイト(日本版O-NET)を創設する。・・・

 この前半の「日本版O-NET」とは何でしょうか。このネーミングの元は、アメリカ労働省が開発した職業情報サイトO*NET(Occupational Information Network)です。しかし、実は日本にもごく最近まで、民主党政権の看板政策である「事業仕分け」によって廃止されるまで、似たようなものがあったのです。労働政策研究・研修機構(JILPT)が運営していたキャリア・マトリックスというデータベースです。今回は、その歴史を振り返るとともに、こうした外部労働市場指向型の政策に対する否定的な感覚の原因も探ってみたいと思います。・・・・・

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民進党から国民党へ?

https://mainichi.jp/articles/20180424/k00/00m/010/167000c希望と民進 新党名に「国民党」案 協議会で検討)

希望の党と民進党の執行部は23日、両党が結成する新党の名称を「国民党」とする検討に入った。新党の綱領案には「穏健保守からリベラルまでを包摂する国民が主役の中道改革政党を創る」との基本理念を盛り込む。

なんでもいいけど、いやしくも民進党と名乗っている政党が国民党になることに忸怩たる思いというのはない・・・のでせうね。

Zhangまあ、国民党と言って蒋介石を思い出す方が古いのかもしれないけれど・・・。

(追記)

と思ったら、なんと「国民民主党」だそうで・・・・。

https://mainichi.jp/articles/20180424/k00/00e/010/275000c

希望の党の玉木雄一郎、民進党の大塚耕平両代表は24日、国会内で会談し、両党が結成する新党の名称を「国民民主党」(略称・国民)とすることを決めた。両代表が会談後に記者会見を開き、発表した。

いやいやそれはかえってまずいのでは。まさかドイツ語にしたら「Nationaldemokratische Partei」なんてことにならないでせうね。

 

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『大原社会問題研究所雑誌』5月号

『大原社会問題研究所雑誌』5月号は「経営者団体と労使関係」が特集です。まだ大原社研のサイトに出ていないのですが、大変面白かったので紹介しておきます。

最初の菊池信輝さんの「安倍政権の社会・労働政策と経営者団体」は、この間の経緯を丁寧に観察して、型にはまった念仏的評論とは違い、現政権と経営者団体のまことに微妙な関係を活写しています。

・・・第二に、現在の政権と経営者団体の意向にはズレがあり、それが今後の日本を占う上で重要だと言うことである。

これまで述べてきた安倍政権と経営者団体の協調と対抗のうち、経営者団体側の論理は理解しやすい。新自由主義的規制緩和を労働時間でも解雇規制でも外国人労働者雇用でも進めてもらいたいのだが、圧倒的な勢力を誇る政権の意向を忖度して強く出ることができない。・・・

逆に言えば、いびつな形とはいえ、現在現れている政財間関係は、戦後から1960年代にかけ、労使間の調整のために国家が経営者団体の意向を離れて福祉国家建設に邁進した、あの時代の欧米先進諸国のそれに近いのかもしれない。・・・

逆に言うと、だからこそ、官邸主導に弱まりが見えてくると、すかさず自民党の中から、働き方改革なんかやられたら中小企業がつぶれてしまうという声が吹き出してくるのでしょう。

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『POSSE』vol.38

Hyoshi38『POSSE』vol.38をお送りいただきました。ありがとうございます。特集は「環境問題と社会運動」です。

http://www.npoposse.jp/magazine/no38.html

◆特集「環境問題と社会運動」

15分でわかる環境問題と社会運動

世界と日本の石炭火力反対運動
――運動世界の運動から学ぶほんとうの若者目線

伊与田昌慶(NPO法人気候ネットワーク研究員)

ダイベストメント運動で気候変動問題に取り組む国際環境NGO“350Japan”
――草の根ムーブメントの構築を目指して

清水イアン(350Japanフィールドオーガナイザー)

日本のインフラ輸出がもたらす環境破壊と人権侵害
――気候正義 Climate Justice を求めて

深草亜悠美(FoE Japan気候変動・エネルギー担当)

書評 吉田文和著『スマートフォンの環境経済学』
スマートフォンで学ぶ物質代謝とその攪乱

本誌編集部

グローバルIT企業に挑む
――クリーンなスマホ生産の新たなリーダーを生み出す国際的な運動展開

石川せり(グリーンピースエネルギー担当)×城野千里(グリーンピース広報担当)

秩父・武甲山
――産業によって破壊される文化・信仰

笹久保伸(音楽家・秩父前衛派)

米軍基地と沖縄の環境問題
桜井国俊(沖縄大学名誉教授)

書評 ナオミ・クライン著『これがすべてを変える 上・下』
いま最もラディカルな社会運動論

本誌編集部

ただ、ここではそれ以外の記事を紹介しておきます。

Dbeqmjjv4aijbrxなかなか面白かったのは、例の「All for all」で政治的には失敗した井手英策さんがシェアリングエコノミーについて語っているインタビュー記事でした。

シェアリング・エコノミーと普遍主義
――新しい生き方を支える新しい財政を

井手英策(財政社会学者)

ここで井手さんは、シェアリングエコノミーについて、今現在のマスコミや評論家たちとはいささか違ったとらえ方をします。

・・・僕は、シェアリング・エコノミーをこう見てます。人口が減少し、暮らしの水準が傾向として低下する中で、顕示的消費は縮小する。一方、生存・生活を支える共通ニードは、痛みや喜びをシェアする形で財政の再編に向かう。個別ニードは、市場で満たすと同時に、場合によっては材の共有化さえも伴いながら、互酬的な関係が補っていく。・・・

・・・社会の構成員の生存・生活に不可欠と考えられる者が共有化されていく側面に着目する。だから、世に言うシェアリング・エコノミーよりも、僕の場合は概念が広いです。それが社会の中で非常に重要なウェートを占めるようになっていくだろうと考えています。

これは、sharing economyという言葉を(あえて世間の流行とは切り離して)文字通りにとったときに出てくる解釈という感じがしますが、それ故に、井手さんにとってシェアリングエコノミーは経済成長の源泉になるどころか、むしろGDPを減らすものなのですね。

実は、欧米のシェアリングエコノミーの議論の中にも、協同組合型社会を展望するような議論もあったりするのですが、少なくとも今はやりの議論とは全くベクトルが逆であることは確かなようです。

Dbeqmjiv0aa4vl5もう一つ、読み物として面白いのは外国人労働問題の弁護士として有名な指宿昭一さんのインタビュー。

最も立場が弱い人のために闘う
――外国人労働者問題に取り組む「弁護士資格を持った活動家」

指宿昭一(弁護士)

指宿さんはもともと統一労評という労働組合の活動家だったのが、労働者側にたった弁護士になろうと思い、17回にわたって司法試験を受けてついに弁護士になった方です。自ら「弁護士資格を持った活動家」と称し、特に外国人労働者の問題をここまで進めてきたのは指宿さんの努力があってこそなのでしょう。

・・・「なぜ外国人問題に取り組むんですか」という質問を時々受けるのですが、労働法が最も守らなくてはいけない最も弱い立場の人がそこに居るからです。この人たちを守れなかったら、他の日本の労働者も守れない、という一番過酷なところに係っている問題が多いのです。・・・

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バラモン左翼@トマ・ピケティ

Images 21世紀の資本で日本でも売れっ子になったトマ・ピケティのひと月ほど前の論文のタイトルが「Brahmin Left vs Merchant Right」。「バラモン左翼対商人右翼」ということですが、この「バラモン左翼」というセリフがとても気に入りました。

http://piketty.pse.ens.fr/files/Piketty2018.pdf

Brahmin Left vs Merchant Right:  Rising Inequality & the Changing Structure of Political Conflict (Evidence from France, Britain and the US, 1948-2017)

冒頭の要約によると:

Using post-electoral surveys from France, Britain and the US, this paper documents a striking long-run evolution in the structure of political cleavages. In the 1950s-1960s, the vote for left-wing (socialist-labour-democratic) parties was associated with lower education and lower income voters. It has gradually become associated with higher education voters, giving rise to a “multiple-elite” party system in the 2000s-2010s: high-education elites now vote for the “left”, while highincome/high-wealth elites still vote for the “right” (though less and less so). I argue that this can contribute to explain rising inequality and the lack of democratic response to it, as well as the rise of “populism”. I also discuss the origins of this evolution (rise of globalization/migration cleavage, and/or educational expansion per se) as well as future prospects: “multiple-elite” stabilization; complete realignment of the party system along a “globalists” (high-education, high-income) vs “nativists” (loweducation, low-income) cleavage; return to class-based redistributive conflict (either from an internationalist or nativist perspective). Two main lessons emerge. First, with multi-dimensional inequality, multiple political equilibria and bifurcations can occur. Next, without a strong egalitarian-internationalist platform, it is difficult to unite loweducation, low-income voters from all origins within the same party. 

フランス、イギリス、アメリカの戦後選挙調査を用いて、本稿は政治的分断の驚くべき長期的展開を示す。1950-60年代には、左翼(社会党、労働党、民主党)に投票するのは低学歴で低所得の有権者だった。次第に投票するのは高学歴になっていき、2000~2010年の「多元的エリート」政党システムのもととなった。高学歴エリートはいまや「左翼」に投票する。一方、高収入で裕福なエリートは依然として「右翼」に投票する。言いたいのは、これが格差拡大とそれに対する民主的反応の欠如、そして「ポピュリズム」の興隆に貢献しているということだ。私はまたこの展開の源泉とともに将来予測も論じる。「多元的エリート」の安定化、(高学歴、高所得の)「グローバリスト」対(低学歴、低所得の)「ネイティビスト」に沿った政党政治の再編成、階級に立脚した再分配をめぐる紛争への回帰だ。・・・

ここには「バラモン左翼」というキャッチーな言葉は出てきません。本文を読んでいくと、こういう注釈的一節にありました。

I.e. the “left” has become the party of the intellectual elite (Brahmin left), while the “right” can be viewed as the party of the business elite (Merchant right).1

「左翼」はインテリのエリート(バラモン左翼)の党になってしまったが、「右翼」はビジネスエリート(商人右翼)の党とみなされている。

なるほど、高学歴高所得のインテリ左翼を皮肉って「バラモン左翼」と呼んでいるわけですね。

これにご丁寧に注釈がついていて、

1 In India’s traditional caste system, upper castes were divided into Brahmins (priests, intellectuals) and Kshatryas/Vaishyas (warriors, merchants, tradesmen). To some extent the modern political conflict seems to follow this division.

インドの伝統的なカースト制度では、上級カーストはバラモン(僧侶、知識人)とクシャトリア、ヴァイシャ(軍人,商人)に分けられる。現代の政治的紛争もなにがしかこの分断に沿っているようである。

ふむ。思いついた言葉がすべてで、それがそのままタイトルになったという感じですが、確かに「インテリ左翼」とかいうだけでは伝わらないある種の身分感覚まで醸し出しているあたりが、見事な言葉だなあ、と感じました。

言うまでもなく、いっている中身は、本ブログで(ソーシャル・ヨーロッパ・ジャーナルなんかをひきながら)よく取り上げているテーマではあります。

つか、この論文に気がついたのは、ソーシャル・ヨーロッパ・ジャーナルにダニ・ロドリクの「何が左翼を止めてきたのか?」(What’s Been Stopping The Left?)で言及されていたからなんですが。

https://www.socialeurope.eu/whats-been-stopping-the-left

(追記)

まじめな話の後ろに恐縮ですが、この言葉に脳髄が反応したのはおそらく、 幼い頃にテレビで見た「妖術師バラモン」のかすかな記憶があったからかもしれません。

Img_2


 

 

 

 

 

 

 

 

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哲学の職業的レリバンス再々サルベージ

こういうツイートを見かけて、

https://twitter.com/hee_verm/status/987495361177571328

B__sb4a_400x400 哲学科のオリエンで教員が「この学科に来たら就職できません」みたいな発話がいまだに出るの信じがたいけど、この手の紋切り型の口上には「就職できない(≒市場価値をもたない)ことにこそ真の価値がある」みたいなルサンチマンが透けて見えるし、その浅薄さと狭量さの方に失望すべきだと思う。

今からもう12年も前に本ブログで書いた一連のエントリを思い出しました。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_c7cd.html (哲学・文学の職業レリバンス)

一方で、冷徹に労働市場論的に考察すれば、この世界は、哲学や文学の教師というごく限られた良好な雇用機会を、かなり多くの卒業生が奪い合う世界です。アカデミズム以外に大して良好な雇用機会がない以上、労働需要と労働供給は本来的に不均衡たらざるをえません。ということは、上のコメントでも書いたように、その良好な雇用機会を得られない哲学や文学の専攻者というのは、運のいい同輩に良好な雇用機会を提供するために自らの資源や機会費用を提供している被搾取者ということになります。それは、一つの共同体の中の資源配分の仕組みとしては十分あり得る話ですし、周りからとやかく言う話ではありませんが、かといって、「いやあ、あなたがたにも職業レリバンスがあるんですよ」などと御為ごかしをいってて済む話でもない。
職業人として生きていくつもりがあるのなら、そのために役立つであろう職業レリバンスのある学問を勉強しなさい、哲学やりたいなんて人生捨てる気?というのが、本田先生が言うべき台詞だったはずではないでしょうか。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_bf04.html (職業レリバンス再論)

哲学者や文学者を社会的に養うためのシステムとしての大衆化された大学文学部システムというものの存在意義は認めますよ、と。これからは大学院がそうなりそうですね。しかし、経済学者や経営学者を社会的に養うために、膨大な数の大学生に(一見職業レリバンスがあるようなふりをして実は)職業レリバンスのない教育を与えるというのは、正当化することはできないんじゃないか、ということなんですけどね。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_722a.html (なおも職業レリバンス)

歴史的にいえば、かつて女子の大学進学率が急激に上昇したときに、その進学先は文学部系に集中したわけですが、おそらくその背景にあったのは、法学部だの経済学部だのといったぎすぎすしたとこにいって妙に勉強でもされたら縁談に差し支えるから、おしとやかに文学でも勉強しとけという意識だったと思われます。就職においてつぶしがきかない学部を選択することが、ずっと仕事をするつもりなんてないというシグナルとなり、そのことが(当時の意識を前提とすると)縁談においてプラスの効果を有すると考えられていたのでしょう。
一定の社会状況の中では、職業レリバンスの欠如それ自体が(永久就職への)職業レリバンスになるという皮肉ですが、それをもう一度裏返せば、あえて法学部や経済学部を選んだ女子学生には、職業人生において有用な(はずの)勉強をすることで、そのような思考を持った人間であることを示すというシグナリング効果があったはずだと思います。で、そういう立場からすると、「なによ、自分で文学部なんかいっといて、いまさら間接差別だなんて馬鹿じゃないの」といいたくもなる。それが、学部なんて関係ない、官能で決めるんだなんていわれた日には・・・。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/05/post_8cb0.html (大学教育の職業レリバンス)

前者の典型は哲学でしょう。大学文学部哲学科というのはなぜ存在するかといえば、世の中に哲学者という存在を生かしておくためであって、哲学の先生に給料を払って研究していただくために、授業料その他の直接コストやほかに使えたであろう貴重な青春の時間を費やした機会費用を哲学科の学生ないしその親に負担させているわけです。その学生たちをみんな哲学者にできるほど世の中は余裕はありませんから、その中のごく一部だけを職業哲学者として選抜し、ネズミ講の幹部に引き上げる。それ以外の学生たちは、貴重なコストを負担して貰えればそれでいいので、あとは適当に世の中で生きていってね、ということになります。ただ、細かくいうと、この仕組み自体が階層化されていて、東大とか京大みたいなところは職業哲学者になる比率が極めて高く、その意味で受ける教育の職業レリバンスが高い。そういう大学を卒業した研究者の卵は、地方国立大学や中堅以下の私立大学に就職して、哲学者として社会的に生かして貰えるようになる。ということは、そういう下流大学で哲学なんぞを勉強している学生というのは、職業レリバンスなんぞ全くないことに貴重なコストや機会費用を費やしているということになります。
これは一見残酷なシステムに見えますが、ほかにどういうやりようがありうるのか、と考えれば、ある意味でやむを得ないシステムだろうなあ、と思うわけです。上で引いた広田先生の文章に見られる、自分の教え子(東大を出て下流大学に就職した研究者)に対する過剰なまでの同情と、その彼らに教えられている研究者なんぞになりえようはずのない学生に対する見事なまでの同情の欠如は、この辺の感覚を非常に良く浮かび上がらせているように思います。
・・・いずれにせよ、このスタイルのメリットは、上で見たような可哀想な下流大学の哲学科の学生のような、ただ研究者になる人間に搾取されるためにのみ存在する被搾取階級を前提としなくてもいいという点です。東大教育学部の学生は、教育学者になるために勉強する。そして地方大学や中堅以下の私大に就職する。そこで彼らに教えられる学生は、大学以外の学校の先生になる。どちらも職業レリバンスがいっぱい。実に美しい。

 

 

 

 

 

 

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東京オリンピックに向けた受動喫煙対策@『労基旬報』4/25号

『労基旬報』4/25号に「東京オリンピックに向けた受動喫煙対策」を寄稿しました。

 去る3月9日、ようやく健康増進法の改正案が国会に提出されました。東京オリンピックに向けた受動喫煙対策は与党内の反対意見が強くほぼ1年近くストップがかかっていた形ですが、なんとか法案を出すところまではたどり着いたようです。とはいえ、その内容は当初の厳格な規制案とは別物のような生ぬるいものになっていたようです。
 そもそも受動喫煙対策については、2014年の労働安全衛生法改正による職場の受動喫煙対策が、2011年に国会に法案を提出したときには例外は認めつつも原則禁煙としていたのに、国会で特に与党サイドからの反対が強く、解散で廃案になった後に2014年に再度国会に提出した法案では全面的に努力義務化せざるを得なかったという過去の苦い経験があります。・・・・・

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雇用類似の働き方と競争法政策@『先見労務管理』4/25号

Senken『先見労務管理』4/25号に「雇用類似の働き方と競争法政策」を寄稿しました。

 去る2月15日、公正取引委員会の競争政策研究センターは『人材と競争政策に関する検討会報告書』を公表しました。タイトルからすると、人材、つまり労働者と独占禁止法などの競争法政策との関係を一般的に論じたもののように見えますが、実はその内容は少なくとも部分的には、近年急速に注目を集めつつある雇用類似の働き方をする人々に対する法的保護として、競争法の諸手段を使えないかという問題意識に基づくものになっています。 ・・・・・

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白河桃子『御社の働き方改革、ここが間違ってます!』

9784569831527白河桃子『御社の働き方改革、ここが間違ってます!』をPHPの編集者の方からいただきました。昨年7月に出た本ですが、いろんな意味で、きちんと読まれるべき本だと思います。

https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-83152-7

昨今「働き方改革」という言葉が叫ばれている。しかし、それによって悲鳴を上げている現場は少なくない。“残業削減しろ、予算達成しろ、あとはよろしく”といった「現場へムチャぶり」の「見せかけの働き方改革」では、社員は疲弊し、生産性は落ち、人が辞めていく。

 政府の働き方改革実現会議で有識者議員を務めた著者は、真の働き方改革とは言わば「会社の魅力化プロジェクト」と説く。それは経営改革であり、「昭和の活躍モデル」からの脱却なのだ。

地に足のつかない威勢のよい議論と現場の苦悩とが切り離されたままの状態が健全なはずはありません。

そう、たとえば、紙面では威勢のよい新聞社。

・・・先日、全国の新聞社の経営トップが出席する会議で、「働き方改革」について講演をさせていただいた。その後の経営担当者会議にも出席したのだが、皆さんの表情がとても暗い。新聞社と言えば、長時間労働が当たり前という業界。そこに、法的上限規制が入ると言うことで拭いようのない「やらされ感」が漂っていた。しかし、何か改革をしないわけにはいかない。「実労働時間が把握できない」ということや、慢性的な長時間労働による新聞社自体の「人材不足」、新聞配達員の不足など、経営者は様々な経営課題を抱えていた。・・・・

いやまあ、当然そうだろうなと思いますが、その辺の経営組織体たる新聞社の悩みが、その商品たる新聞紙上には全然出てこず、完全に正義の味方が悪を討つかの如き商品化された売りもの言説ばかりが垂れ流されるという事態一つとっても、なかなか問題の本質を論ずるのは難しいということなのでしょう。

新聞社自身が取り上げられないことに、本書は果敢にアタックしていきます。

・・・テレビや新聞といったメディア業界は、やりがいはあるが、マッチョで長時間労働が当たり前となっている職場の代表例だ。メディア業界で働く、女性記者たちの本音の座談会をお届けする。

好きな仕事に就いているのに、なぜ彼女たちは苦しいのか?そこには女性が活躍できない理由がたくさん潜んでいる。・・・

ということで、彼女たちの語る言葉は、紙面では長時間労働を偉そうに叱りつけるマスメディアの姿を浮き彫りにしてきます。

白河 メディアでの仕事は基本的に長時間労働ですよね。

山口 新聞は「24時間労働」がデフォルトです。

小関 テレビも、報道、バラエティ、ドラマ、どの部門も24時間労働です。

佐藤 24時間働けない人は「使えない人」認定されます。「B級労働者」扱い。

山口 ずっと「休みは悪」であるかのように教わってきました。

小関 私たち自身が「24時間がんばるマン」でオジサンに同化してやってきちゃったんですよね。

・・・

白河 今後メディアは、働き方改革や女性活躍に向けて変わっていくでしょうか。

小関 完全に義務化しない限り、メディアが一番変わらないかもしれない。

佐藤 「メディアは例外」と思っているんです。「テレビや新聞だから、しょうがないじゃん」って。

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阿部正浩・山本勲編『多様化する日本人の働き方』

24940阿部正浩・山本勲編『多様化する日本人の働き方――非正規・女性・高齢者の活躍の場を探』(慶應義塾大学出版会)をいただきました。

http://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766424942/

もう一つの「働き方改革」に注目せよ!

長時間労働是正や賃上げなど、正社員の働き方の再検討が進んでいる。
だが、非正規雇用者、女性、高齢者が働く場を効率化することで、就業率をさらに高め、
少子高齢化に十分対応可能な労働環境を整備できる。
わが国の将来に向けて、その方策を考察・提言する。
▼“働き方改革”の推進は、正社員の境遇改善だけでとどめてはいけない。非正規雇用者、女性、高齢者の働き方をさらに効率化することで、少子高齢化した労働市場にも対応できる!
▼ ダイバーシティ経営を推進するシステム構築を提言!

非正規雇用から正規雇用への転換、非正規雇用者へのセーフティ・ネットの整備、「時間の貧困」を考慮に入れた対策、育児休業期間や育児支援の再考による、女性がより働きやすい場の提供、定年退職や失業が高齢者の健康にどう影響するかなどを考察することで、就業機会をさらに開拓し、少子高齢化に十分対応できる労働環境の整備が可能となる。将来に向けて、より幅広い働き方を選択できるシステム構築の方向性を提言する。

目次は以下の通りですが、

序 章 日本の労働市場はどう変わってきたか(阿部正浩)

  第Ⅰ部 非正規雇用の労働力と貧困

第1章 非正規雇用から正規雇用への転換と技術革新(小林徹・山本勲・佐藤一磨)
第2章 非正規雇用者へのセーフティ・ネットと流動性(戸田淳仁)
第3章 所得と時間の貧困からみる正規・非正規の格差(石井加代子・浦川邦夫)
 
  第Ⅱ部 女性労働力と出産・育児

第4章 結婚・出産後の継続就業
――家計パネル調査による分析(樋口美雄・坂本和靖・萩原里紗)
第5章 育児休業期間からみる女性の労働供給(深堀遼太郎)
第6章 企業における女性活躍の推進(山本勲)
第7章 地域の育児支援政策の就業・出産への効果(伊藤大貴・山本勲)
 
  第Ⅲ部 高齢者の労働力と定年・引退

第8章 中高年の就業意欲と引退へのインセンティブ(戸田淳仁)
第9章 中高年期の就業における家族要因
――配偶者の就業と家族介護が及ぼす影響(酒井正・深堀遼太郎)
第10章 定年退職は健康にどのような影響を及ぼすのか(佐藤一磨)
第11章 高齢者の失業が健康に及ぼす影響(山本勲・佐藤一磨・小林徹)

実は本書は、「樋口先生が慶應義塾大学を定年退職される機会に、樋口先生の労働経済学研究の発展とパネルデータの構築・普及に関する長年の貢献に対して捧げるもの」として、「樋口先生から薫陶を賜った研究者」たちがまとめた本ということで、世代的にも1991年生まれの方まで幅広く寄稿していますね。

最近の第4次産業革命をめぐるあれこれの議論でも注目されるのはやはり第1章でしょう。

抽象業務、ルーチン業務、マニュアル業務がどうなっていくか、それが就業形態とどう関わっているか、そしてそれと日本の教育訓練システムとの関係など、興味深い指摘がされています。

・・・まず、「抽象業務」を担う人材の育成が重要といえる。技術者育成も多く含むが、製造業関連の職業訓練が充実している中、ホワイトカラーの「抽象業務」の人材育成について現状は、企業内で独自に育てる傾向がある。大学、大学院においてマーケティングや経営戦略論など、「抽象業務」に関する教育を受けた者でも、企業に入ればそれまで学んだ知識を白紙に戻し、企業独自の知識を覚えていくという傾向が強いであろう。荒木・安田(2006)は大学での専門分野と関連した仕事を望んでいる学生ほど就職内定を得にくくなっているという分析結果が示され、特に文系学生でその傾向が強いことがわかる。

また、企業内での人材育成は正規雇用者に限定される傾向があり、非正規雇用者は企業で活用できる「抽象業務」に関する技能を蓄積できない。企業内ですぐに活用できるホワイトカラー「抽象業務」人材の育成が、企業外でも果たされることが望まれる。企業外教育で得た技能が、企業でより重視されるような、産学連携が求められるのではないだろうか。また、職業訓練においてホワイトカラー「抽象業務」の現場を再現して学ぶなど、現場に密接に結びつけた訓練プログラムが求められよう。企業外からの「抽象業務」人材の育成は、非正規の正規転換を促進させるだけでなく、需要変化に沿った労働力の再配置にも貢献することが考えられる。・・・

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樋口美雄・石井加代子・佐藤一磨『格差社会と労働市場』

25070樋口美雄・石井加代子・佐藤一磨『格差社会と労働市場 貧困の固定化をどう回避するか』(慶應義塾大学出版会)をいただきました。

http://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766425079/

日本の格差拡大現象をダイナミックに分析!

「一億総中流」時代が去り、日本でも所得、資産はもとより就業機会、教育から時間貧困、健康に至るまで、格差が拡がっている。
新たなパネルデータを使ってこの主因を解明し、不平等の拡大と固定化をストップさせるための方策を「雇用モデルの変容」「最低賃金や能力開発支援等の積極的雇用政策」「教育の機会均等」「税や社会保険・社会保障給付」などの労働経済学の視点から分析する本格的研究。
▼所得格差、資産格差のみならず、就業格差、、教育格差、健康(病気になったとき病院へいけるかどうか)に至るまで、持てる者と持たざる者、勝ち組と負け組みの格差はますます大きくなる一方である。このギクシャクした社会になった主因はどこにあるかを、新たなパネルデータを使って解明する。
▼不平等のさらなる拡大と固定化をストップさせるための方策を考察し、各章末に分析の結果得られた見解を「結論」として示す。

家計の所得の変動、労働市場の変容、就業形態と家族形態との関係、非正規労働者の賃金引き上げ、マクロの景気変動が家計に与えるショック、医療サービスへの接近可能度合い、「時間貧困」が家庭内に与える影響、格差が将来の教育にどう作用するか、格差と健康との関係など、労働経済学からの多面的なアプローチによって今日のわが国の現状をつぶさに解説。

目次は以下の通りですが、

第1章 日本の所得格差は拡大したのか
――固定化が進んでいるのか

第2章 労働市場はどう変わったか
――各国における雇用・就業率・失業率・生産性・賃金格差の変化とわが国の特徴

第3章 非正規労働者の増加は所得格差を拡大させたのか

第4章 非正規労働者の賃金引き上げに何が有効か
――最低賃金、同一労働・同一賃金、無期転換、能力開発支援
 
第5章 リーマン・ショックは所得格差にどのような影響を与えたか
――景気変動と有配偶世帯の所得格差

第6章 所得格差は医療サービスのアクセスビリティに影響しているか
 
第7章 時間貧困・経済貧困は生活の質と健康にどう影響しているか
 
第8章 教育は所得階層の固定化をもたらしているか
――求められる教育の機会均等諸施策

各章の最後の結論をその見出しを(若干書き換えも含め)並べる形で示せば。

1日本の所得格差と貧困は拡大してきた。

2日本の賃金は低下し、中間賃金層は減少してきた。

3世帯単位で見た場合、女性就業者の増加は所得格差を縮小させる。

ということになりますが、とりわけ重要なのは第4章の結論でしょう。

非正規労働者の賃金引き上げに何が有効か?

結論部分だけ引くと、

・・・この時期の最低賃金の引き上げは、非正規の低賃金労働者の賃金を引き上げ、賃金格差縮小に貢献したこと、また、これによる雇用削減は20歳以上の人に限定すれば観察されなかったことが確認できた。

また興味深いのは第8章の結論部分で、親の学歴と子供の学歴が強く相関し、世代間で格差が継承されているというのはよく言われていることですが、では家庭の経済状況による教育格差を解消するために何が有効な手段なのか、についてこう述べています。

・・・なかでも、日本学生支援機構による「予約採用型奨学金」という進学先が未定の状態で高校生のうちに申し込むことができる新しい制度に着目して、その効果について分析した。その結果、「予約採用型奨学金」は、低所得層の大学進学率を向上させる効果があることが確認できた。さらに、奨学金を得て大学進学をしたことで、大学進学を断念した場合よりも高い所得を得ていることも明らかになった。・・・

ここはもう少し突っ込んで知りたいところです。

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