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2019年7月18日 (木)

『2019年版 日本の労働経済事情』

Keidanren 例によって、讃井暢子さんより『2019年版 日本の労働経済事情』をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

http://www.keidanren-jigyoservice.or.jp/public/book/index.php?mode=show&seq=549&fl=

本書は、人事・労務部門の初任担当者に向けて、わが国の労働市場の動向、
働き方改革関連法(時間外労働の上限規制や同一労働同一賃金等)や
2019年6月5日に公布された改正女性活躍推進法等をはじめとする重要な労働法制、
そして人事・労務管理に関する基本事項等について、図表を用いてわかりやすく解説しています。
実務担当者はもとより、新任の管理職やマネージャーにも幅広くご活用いただけます。

○○おもな内容○○
Ⅰ 労働市場の動向・雇用情勢・賃金と労働時間
 失業率・求人倍率、雇用形態別労働者、労働時間と労働生産性 等
Ⅱ 労働法制
 働き方改革関連法の全体像、労働基準法(時間外労働の上限規制、年5日の年休取得義務化 等)、
 労働契約法/パートタイム・有期雇用労働法/労働者派遣法(同一労働同一賃金 等)、
 労働安全衛生法、労働施策総合推進法(パワーハラスメント防止対策)、女性活躍推進法 等
Ⅲ 人事・労務管理
 人事・労務管理における重要テーマ(ダイバーシティ・インクルージョン、仕事と介護の両立支援 等)、
 人材育成、人事評価 等
Ⅳ 労使関係
 日本の労使関係の変遷、春季労使交渉 等
Ⅴ 労働・社会保険
 医療保険制度、介護保険制度、年金制度の体系、雇用保険制度 等
Ⅵ 国際労働関係
 グローバル化の進展、ILO(国際労働機関) 等

 

 

 

悪質クレームを許さない by UAゼンセン

UAゼンセン(正式名称は全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟)が「悪質クレームを許さない」という動画をホームページ上にアップしています。短いですが、最近話題のカスタマー・ハラスメントの問題を大変見事に表現していて、多くの人にみてもらいたい作品になっているので、こちらにリンクを張っておきます。

https://uazensen.jp/claim_cm/

 

2019年7月17日 (水)

岩崎仁弥他『リスク回避型就業規則・諸規程作成マニュアル』『社内諸規程作成・見直しマニュアル』

51fsyfgorll__sx351_bo1204203200_ 特定社会保険労務士の岩崎仁弥さんより、『リスク回避型就業規則・諸規程作成マニュアル』(7訂版)と『社内諸規程作成・見直しマニュアル』(3訂版)をお送りいただきました。どちらも1000ページ近い大冊です。

https://www.amazon.co.jp/7%E8%A8%82%E7%89%88-%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%AF%E5%9B%9E%E9%81%BF%E5%9E%8B%E5%B0%B1%E6%A5%AD%E8%A6%8F%E5%89%87%E3%83%BB%E8%AB%B8%E8%A6%8F%E7%A8%8B%E4%BD%9C%E6%88%90%E3%83%9E%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%83%AB-%E5%B2%A9%EF%A8%91-%E4%BB%81%E5%BC%A5/dp/4539726811

★あらゆる時代の流れを網羅した就業規則のスタンダード!
★働き方改革法施行を受け、全面改訂!
採用、異動、服務規律、労働時間、休暇、賃金、休職及び復職、
解雇、退職、安全衛生、災害補償といった労働関係の中で考えられるステージごとに、
複雑な法令体系を解きほぐしながら、就業規則の規程例とその作成のポイント、
個別規程例、労使協定・書式例を豊富に提示。

https://www.amazon.co.jp/3%E8%A8%82%E7%89%88-%E7%A4%BE%E5%86%85%E8%AB%B8%E8%A6%8F%E7%A8%8B%E4%BD%9C%E6%88%90%E3%83%BB%E8%A6%8B%E7%9B%B4%E3%81%97%E3%83%9E%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%83%AB-%E5%B2%A9%EF%A8%91-%E4%BB%81%E5%BC%A5/dp/4539726633/ref=pd_lpo_sbs_14_t_0?_encoding=UTF8&psc=1&refRID=P88Q3M0HGENYDQSWX6N7

◎時代の流れに対応した、社内規程のスタンダード!
◎「働き方改革法」を踏まえた堂々の3訂版! CD-ROM付き。

企業にとって必須というべき21のモデル規程と、
その策定や見直しをするうえで必要となる視点やポイントを、
根拠となる法律や指針等を示しながら解説する。

3訂版では、「働き方改革法」の成立等を受け、内容を見直しているほか、
“規程そのものの作り方"の解説もさらに充実したものとなり、
見栄えよく・誤解のない規程を作成するためのノウハウが詰まったものとなっている。

51qwbvni66l__sx354_bo1204203200_

 

2019年7月16日 (火)

『POSSE』 vol.42

9784906708802_600 『POSSE』 vol.42をお送りいただきました。ありがとうございます。今号の特集は「ストライキが変える私たちの働き方」です。

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784906708802

日本では久しく忘れ去られていたストライキという闘い方が、にわかに注目を集めている。
図書館司書、私学教員、保育士、自動販機ベンダー……さまざまな業種の労働者たちが、自らの労働条件を改善するために、ストライキを武器に闘いはじめた。
そして彼ら彼女らのストライキは、SNSやメディアを通じて社会的な注目と支持を集めている。
なぜ、いま、ストライキが支持されるのか。現代のストライキは、過去のストライキと何がどう異なるのか。21世紀におけるストライキの意義を改めて問う。

と言うことで、練馬区立図書館非常勤司書をはじめ、例のキリンビバレッジなど自動販売機関係のユニオン、正則学園など私立学校関係のユニオンなどの事例が紹介された上で、浅見和彦さんと今野晴貴さんがやや理論的な考察をしています。

◆特集「ストライキが変える私たちの働き方」
練馬区立図書館・非常勤司書のストライキ闘争に迫る――彼女たちのパワーの源泉はどこにあるのか? 三澤昌樹(練馬区立図書館専門員労働組合特別執行委員)

自販機産業ユニオンの挑戦――順法闘争とストライキで業界改善へ 本誌編集部

学校×ストライキ――教育現場を取り戻すための闘い 本誌編集部

全労働者を結集するストライキを――ストライキは「伝染」する 須田光照(全国一般東京東部労働組合書記長)

サービス業時代の「新型ストライキ」とは――社会連帯型ストライキが生み出す共感と交渉力 浅見和彦(専修大学教授)

今日のストライキ その特徴とは何か? 今野晴貴(NPO 法人POSSE 代表)

実を言うと、ストライキなど労働争議に関わるテーマは、もう何十年にもわたって労働法や労働問題の議論のホットな舞台からは消えています。教科書には昔からのことが書かれていますが、また昔の労働争議の歴史研究みたいなのは細々とありますが、あるいは中国や韓国など外国の労働争議も話題になったりしますが、この現代日本でストライキがホットなテーマとして取り上げられるということ自体、長らく絶えて久しかったのです。

今回のPOSSEの特集が、それを変えるものであるのかどうか、改めて図書館の奥にほこりをかぶったかつての労働争議論を紐解いてみることも必要かも知れません。

 

 

『はじめよう!SOGIハラのない学校・職場づくり』

457293 大月書店編集部の岩下結さんより『はじめよう!SOGIハラのない学校・職場づくり 性の多様性に関するいじめ・ハラスメントをなくすために』(大月書店)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

http://www.otsukishoten.co.jp/book/b457293.html

「ホモネタ」やアウティング(暴露)、男女別制服の強要など、性的指向や性自認(SOGI)にかかわるハラスメントは深刻な人権侵害となります。
基本的なとらえ方から、事例も多数紹介した初の入門書。

そもそもSOGIって何?LGBTとどう違うの?という基本からわかりやすく説明しています。冒頭には「マンガで考える「これってSOGIハラ?」」もあり、まずは若者たちを主たる対象においていることが窺われます。

はじめに
マンガで考える「これってSOGIハラ?」

パート1 基礎から知る「SOGIハラってなに?」
 1「SOGI」ってなんだろう
 2 SOGIの視点で多様な性をとらえる
 3「SOGIハラ」をどう防ぐか

パート2 学校で起こるSOGIハラと支援のありかた――そのとき、あなたにできること
 はじめに
 1 あなたにできること(1)──想像する
 2 あなたにできること(2)──聴く
 3 あなたにできること(3)──変えていく
 おわりに

パート3 これってSOGIハラ?事例集
 はじめに
 1 差別的な言動や嘲笑、差別的な呼称
 2 いじめ・暴力・無視
 3 望まない性での生活の強要
 4 不当な入学拒否や転校強制、異動や解雇
 5 だれかのSOGIについて許可なく公表すること(アウティング)
 6 その他

パート4 SOGIハラのない学校・職場づくりに必要なこと

巻末資料

パート3の不当な入学拒否云々の中にこんな事例が:

トランスジェンダーの私は、通名と、性別を記載しない履歴書で就職活動を行い、首尾よく内定が決まりました。きっと会社の方も理解があるのではないかと思い、内定後の面談で、実は戸籍上の性別が女性であるということをカミングアウトしたのですが、そのとたんに「今回の話はなかったことに」と言われ、内定を撤回されてしまいました。とても落ち込みましたが、小さい会社でしたし、訴えたりはせず、あきらめて次を探すことにしました。

こういうふうに表に出ない事例が結構多いのでしょう。

 

 

 

中国における権威主義の影と国家-労働関係@BJIR

Bjir 英国労使関係雑誌(British Journal of Industrial Relations )の2019年6月号にJude Howell と Tim Pringleの「Shades of Authoritarianism and State–Labour Relations in China」(中国における権威主義の影と国家-労働関係)という大変興味深い論文が載っています。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/bjir.12436

 Attempts to analyse authoritarianism in China tend towards a static focus on the state that is homogeneous across time. We argue for a more nuanced approach that captures the dynamism and contours of state–civil society relations, and state–labour relations, in particular, in authoritarian states. Taking state–labour relations as a bellweather, we conceptualize ‘shades of authoritarianism’ as a framework for better understanding the complexities and evolution of state–society relations in authoritarian states. We illustrate this through the case of China, distinguishing different shades of authoritarianism in the Hu-Wen era (2002–2012) and in the current regime of Xi Jinping

中国における権威主義を分析する試みは時を通じて同質的な国家に静態的な焦点を当てる傾向がある。我々は権威主義国家における国家と市民社会の関係、とりわけ国家と労働の関係の動態と輪郭をつかむよりニュアンスに富んだアプローチを唱える。主導部として国家と労働の関係をとりあげると、我々は権威主義国家における国家と社会の関係の複雑さと展開をよりよく理解するための枠組みとして「権威主義の影」を概念化する。我々はこれを中国のケースを通じて明らかにし、胡錦濤-温家宝時代(2001-2012)と現在の習近平体制における異なった権威主義の影を区別する。

本論文では、胡・温時代の「開かれた権威主義」(open authoritarianism)と習時代の「封じ込め型権威主義」(encapsulating authoritarianism)を、さまざまな観点から比較検討し、その違いを浮き彫りにしています。労働問題に関心のある方々だけにとどまらない興味深さを示しているように思われます。

 

 

 

2019年7月15日 (月)

日雇派遣問題への新たな視角

大内伸哉さんがブログ「アモリスタ・ウモリスタ」で「日雇派遣規制の見直し」について論じています。

http://lavoroeamore.cocolog-nifty.com/amoristaumorista/2019/07/post-570a80.html

 ・・・・いったん作ったものでも,おかしいものであれば,迅速に廃棄することが必要です。「直接雇用のみなし」にはいろいろな考え方の違いがあり意見が分かれるのはわかりますが,「日雇派遣」は論理的におかしい規制というべきなので,この時期の見直しは遅すぎたほどです。

現行日雇派遣法制が矛盾に満ちており、見直すべきであるという点については全く同感であり、今までもその旨のことは何回か書いてきています。

https://www.jpc-net.jp/paper/zokunihonjinji/20160315zokunihonjinji.pdf (日雇派遣規制の矛盾(『生産性新聞』2016年3月15日号))

ただ、一方世界的な新たな就業形態の進展とそれに対する法的対応の状況を踏まえて考えると、日雇派遣問題を日本の派遣法規制という枠内だけで考えること自体があまりにも狭隘に過ぎるという感もあります。もちろん、日雇派遣を目の敵にする人々が、ややもすると派遣という働き方を目の敵にする古びた発想でもって論ずる傾向があったために、日雇派遣規制も派遣規制のまことにできの悪い出来損ないみたいな形になってしまってしまっているわけですが、そこに現れていた問題とは、実は近年世界共通に表れてきつつあるオンコールワーク、オンデマンドワークといった問題であったように思われるのです。

この件については、一昨年にWEB労政時報に小文を書いていますので、この問題をまじめに考えようという方のためにお蔵出しをしておきたいと思います。

https://www.rosei.jp/readers-taiken/article.php?entry_no=75705 (日雇派遣の歴史的位置)

 今から10年前の時期に、日本の労働市場法政策において注目され話題となった就業形態に「日雇派遣」があります。それまでの構造改革への熱狂が一段落し、格差問題が大きな問題になっていった時期に、派遣労働者の中でもとりわけ日雇派遣で働く人たちにテレビや新聞が着目し、ネットカフェに寝泊まりしている姿など彼らの窮状を集中的に報道したことが、社会に対し非常に大きな影響を与えました。グッドウィルやフルキャストといった日雇派遣会社の名前を思い出す方もいるでしょう。
 
 最初は規制緩和の方向で始められた労政審の審議も風向きが変わり、2007年12月の中間報告では日雇派遣の一部規制強化が打ち出されました。そこでは、日雇派遣は契約期間が短く、仕事があるかどうかが前日までわからない、当日キャンセルがあるといったことや、給与からの不透明な天引きや移動時間中の賃金不払い、安全衛生措置や教育が講じられず労災が起きやすい、労働条件の明示がされていないといった問題点が指摘されていました。そこでこの時点で省令改正がされ、日雇でも派遣先責任者の選任義務や派遣先管理台帳の作成記帳義務を課し、派遣元事業主が定期的に日雇派遣労働者の就業場所を巡回し就業の状況を確認することを義務づける等しました。
 
 日雇派遣形態そのものの規制については、2008年7月の「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会報告書」で、危険度が高く、安全性が確保できない業務、雇用管理責任が担い得ない業務を禁止し、専門業務など短期の雇用であっても労働者に特段の不利益が生じないような業務のみ認める方向が打ち出され、同年9月の労政審建議では「日々又は30日以内の期間を定めて雇用する労働者について、原則、労働者派遣を行ってはならない」とした上で、「日雇派遣が常態であり、かつ、労働者の保護に問題ない業務等について、政令によりポジティブリスト化して認めることが適当」としました。これを受けて同年11月に労働者派遣法改正案が国会に提出されましたが、折からのリーマンショックで、多くの派遣労働者が派遣会社の寮を追い出されて住むところを失うという状況があらわになり、同年末から2009年始にかけていわゆる「年越し派遣村」が設立され、派遣制度に対する風当たりはさらに強くなりました。
 2009年の総選挙で民主党政権が誕生すると、あらためて労働者派遣法の審議が始められ、2010年4月により規制を強化した改正案が国会に提出されましたが、日雇派遣については自公政権時の法案と変わっていませんでした。しかし、政治状況から同法案が塩漬けになり、2012年3月に野党の自公両党と合意して登録型派遣の原則禁止の削除など修正可決した際、禁止の例外としてさらに「雇用の機会の確保が特に困難であると認められる労働者の雇用の継続等を図るために必要であると認められる場合その他の場合で政令で定める場合」を加え、具体的には60歳以上の高齢者、昼間学生、労働者自身かその配偶者が年収500万円以上の者を適用除外としました。この規定は2015年9月に労働者派遣法が全面的に改正されたときにも触れられず、現在も適用されています。
 一方この間、日雇派遣の原則禁止を見越して多くの業者は日雇派遣から日々紹介への業態転換を図り、現在では実質的に同様の業務が日々紹介として行われています。有料職業紹介事業には手数料規制など派遣事業にはない規制があるとはいえ、対象者に制限がないのでやりやすいことは確かでしょう。とりわけ、日雇で働くために年収500万円以上要件をクリアしているかどうかを証明させる面倒くささを考えれば業者が日々紹介に流れていったことはよく理解できます。しかし、形態が日雇派遣から日々紹介に変わっても、指摘されていた「契約期間が短く、仕事があるかどうかが前日までわからない、当日キャンセルがある」といった問題点に変わりはありません。これは、たまたま日雇派遣という形で現れた問題を、もっぱら労働者派遣という側面に注目して派遣法の法的手段を使って対応しようとしたことの結果と言えます。
 
 実をいえば、こういった問題点は近年、イギリスを始めとして世界的に拡大しているオンコール労働、とりわけ「ゼロ時間契約」と呼ばれる新たな就業形態の問題点を、やや先取り的に現していたものということができます。これは、あらかじめ労働時間を定めることなく、呼び出しがあれば行って働くという契約ですが、一定時間の就労を保障するわけではなく、呼び出しがなければいつまでも待ち続けなければならず、まさにその不安定さが問題となりました。特にイギリスの労働組合TUCはゼロ時間契約の廃止を訴え、野党労働党の公約にも盛り込まれました。
 欧米のゼロ時間契約を見てから、あらためて日本の日雇派遣や日々紹介を見てみると、就労時間以外の待機時間に当たる部分を、日本では派遣会社や紹介会社の「登録」という曖昧な状態におくことによって、同じような効果をもたらしていることがわかります。どちらも、情報通信技術の発達のおかげで、いつどこにいても携帯電話による呼び出しが可能になったことを利用した新たな就業形態であり、その歴史的位置はほぼ同じようなものではないかと思われます。経済のデジタル化に伴う新たな就業形態が話題となる今日、日雇派遣・日々紹介についても新たな視点からの議論が求められるのではないでしょうか。

そして、実はこの問題が近年EUでも大きな議論となり、今年5月には新たな指令「透明で予見可能な労働条件指令」として成立に至っているのです。

この指令については、指令案の段階で『季刊労働法』2018年春号(260号)で「EUの透明で予見可能な労働条件指令案」としてかなり詳しく紹介していますが、改めてきちんと(日本へのインプリケーションにも含めて)論じなおす必要があるのかもしれません。

ポピュリスト右翼の敗北は必ずしも社会民主主義左翼の勝利にあらず

Sheribermanfinal 例によってソーシャル・ヨーロッパから、最近のデンマークの選挙結果を素材にしたシェリ・バーマンさんのエッセイ「ポピュリスト右翼の敗北は必ずしも社会民主主義左翼の勝利にあらず」(A defeat for the populist right isn’t always a win for the social-democratic left)を。

https://www.socialeurope.eu/populist-right-social-democratic

 The populist right and the social-democratic left may contest for the support of the popular classes but, Sheri Berman argues, it’s not a simple zero-sum game.

ポピュリスト右翼と社会民主主義左翼は大衆階級の支持を求めて争っているが、それは単なるゼロサムゲームではない。

最後の2パラグラフを紹介しておきましょう。

 Parties succeed when the issues on which they have an advantage are at the forefront of debate: populists do well when attention is focused on immigration, green parties do well when attention is focused on the environment and social-democratic parties do well when attention is focused on economic issues and, in particular, on the downsides of capitalism and unregulated markets—assuming they have something distinctive and attractive to offer on the economic front. (This has not been the case for many social-democratic parties for too long but many authors at Social Europe are trying to rectify that.)

政党は彼らが優位を持つ問題が議論の正面にあるときに成功する。ポピュリスト政党は移民問題に焦点が当たっているときにうまくいく。みどりの党は環境問題に焦点が当たってるときにうまくいく。社会民主主義政党は経済問題、とりわけ資本主義と規制されない市場のマイナス面に焦点が当たっているときに、なにがしか特色があり魅力的だとすればみなされてうまくいく。(多くの社会民主主義政党にとってあまりにも長い間そうではなかったが、ソーシャル・ヨーロッパの多くの筆者たちはそれを直そうとしている)

What the Danish elections should remind us is that politics is largely a struggle over agenda-setting. Defeating populism requires removing the issues on which populism thrives from the forefront of debate. But for the social-democratic left to succeed, it must do more than neutralise the fears populists exploit. It must also focus attention on the myriad economic problems facing our societies—and convince voters it has the best solutions to them.

デンマークの選挙が我々に思い出させるべきことは、政治とは何よりもアジェンダセッティングをめぐる闘争であるということだ。ポピュリズムを打倒するのに必要なのは、ポピュリズムがそれを取り上げることによってポピュリズムが力強く成長してきた論点を議論の正面にあって繁栄してきた問題を議論の正面から取り除くことだ。しかし社会民主主義左翼が成功するためには、ポピュリストがうまく活用してきた恐怖を中和化させるよりももっとしなければならないことがある。我々の社会が直面している無数の経済的問題に焦点を当て、その最善の解決策があると有権者を説得することだ。

 

2019年7月13日 (土)

小熊英二『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学』

9784065154298_obi_w 小熊英二さんより『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学』(講談社現代新書)をお送りいただきました。新書でありながら600ページという常識外れの分厚さにまず目を剥きましたが、中身を読み始めて、これはいったい何という本だ!と叫んでしまいました。どういうことか?というと、私の様々な議論や本と、ほぼ重なるような内容の本になっていたからです。

http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000321617

正直言って、この著者名とこのタイトルから想像される中身とは相当に異なっています。もし本書が学術出版であれば、内容を正確に伝えるタイトルをつけるとしたら、『詳説 日本型雇用システムの形成史』となるはずです。そう、私がいくつかの本で、序説であったり傍論であったりしながら割と簡略に叙述してきた事柄を、(ページ数が増えることを全く顧慮することなく)元の研究成果をかなり詳細かつ緻密に追いかけながら、あれこれの論ずるべきことをほぼ取り落しなくややゆったりとした筆致で描き出しているのです。

「日本社会のしくみ」は、現代では、大きな閉塞感を生んでいる。女性や外国人に対する閉鎖性、「地方」や非正規雇用との格差などばかりではない。転職のしにくさ、高度人材獲得の困難、長時間労働のわりに生産性が低いこと、ワークライフバランスの悪さなど、多くの問題が指摘されている。
しかし、それに対する改革がなんども叫ばれているのに、なかなか変わっていかない。それはなぜなのか。そもそもこういう「社会のしくみ」は、どんな経緯でできあがってきたのか。この問題を探究することは、日本経済がピークだった時代から約30年が過ぎたいま、あらためて重要なことだろう。(中略)
本書が検証しているのは、雇用、教育、社会保障、政治、アイデンティティ、ライフスタイルまでを規定している「社会のしくみ」である。雇用慣行に記述の重点が置かれているが、それそのものが検証の対象ではない。そうではなく、日本社会の暗黙のルールとなっている「慣習の束」の解明こそが、本書の主題なのだ。 ――「序章」より

本書がそういう内容のものになった事情は、あとがきに書かれています。もともとは、日本の戦後史を総合的に、つまり政治、経済、外交、教育、文化、思想などを連関させ、同時代の世界の動向と比較しながら歴史を描くという構想だったようです。

ところが、研究を進めていくうえで、「カイシャ」と「ムラ」を基本単位とするようなあり方を解明しなければならないと考え、

・・・「日本社会の仕組み」としか表現のしようのないもの、つまり雇用や教育や福祉政党や地域社会、さらには「生き方」まで規定している「慣習の束」が、どんな歴史的経緯を経て成立したのかを書きたい

と変わったようです。それであれば、それは本書の副題「雇用・教育・福祉の歴史社会学」にぴったりと符合します。しかし、本書の内容はそういうものにもなっていません。なぜなら、小熊さんによれば

・・・ところが、雇用慣行について調べているうちにこれが全体を規定していることが、次第に見えてきた

からです。そこで、

・・・最初に書いた草稿はすべて破棄し、雇用慣行の歴史に比重を置いて、全体を書き直すことになった。

「比重を置いて」、というよりも、これはもはや、日本型雇用システムの形成史に関する、現在の時点の知見の相当部分を包括的に取り入れたほとんど唯一の解説書になっています。小熊さん自身はそういうつもりはなかったようですが、社会政策とか労働研究といった分野の研究者が、細かなモノグラフは書くけれどもこういう骨太の本を書かないものだから、これから長い間、日本型雇用システムの関する定番の本になってしまう可能性が高いように思われます。

目次は以下の通りですが、まさに『詳説 日本型雇用システムの形成史』であることがお判りでしょう。

 第1章 日本社会の「3つの生き方」
第2章 日本の働き方、世界の働き方
第3章 歴史のはたらき
第4章 「日本型雇用」の起源
第5章 慣行の形成
第6章 民主化と「社員の平等」
第7章 高度成長と「学歴」
第8章 「一億総中流」から「新たな二重構造」へ
終章 「社会のしくみ」と「正義」のありか

ちなみに、このうち第2章と第3章は、欧米社会の雇用システムについて120ページ以上を費やして論じています。下手をするとそれだけで新書一冊になるような分量です。ここは、私も最近JIL雑誌に書いた「横断的論考」でごく簡単に考察したところですが、そのトピックをここまでねちっこく追及する小熊さんの執念深さには脱帽します。

日本型雇用システムを下手に論じる人の陥りがちな落とし穴は、ややもするとある政治勢力や社会勢力に一方の在り方を重ね焼きして非難の対象とし、それに反する歴史的事実は無視するという傾向ですが、小熊さんは極めて丁寧に様々な勢力の動きをフォローしており、歴史叙述としては(当たり前と言えば当たり前ですが)安心できます。

逆に言うと、その叙述の大部分は、私にとっては既視感のあるところが大きいのですが、最後のところで、私の変に世に普及してしまった図式に対する異論が提示されています。

・・・日本の雇用慣行を語る際には「ジョブ型」「メンバーシップ型」あるいは「初めに職務ありき」「初めに人ありき」といった類型がよくつかわれてきた。これは日本の慣行を理解する際に便利な図式化ではあるが、主として企業の労務担当者の視点からの類型であって、一面的なものと言える。

企業の労務担当者から見れば、アメリカもドイツも、どちらも「ジョブ型」「初めに職務ありき」の社会のように見える。企業を横断した職務市場や技能資格があるため、どちらも経営の裁量だけでは賃金や人事配置を決められないからだ。

しかし労働者の視点から見れば、話は違う。専門職団体が認可した専門学位や技能資格があれば、どの企業でも同じ賃金になる社会のほうが、よほど「初めに人ありき」で「メンバーシップ型」だと映るだろう。

というわけで、小熊さんは2類型ではなく「企業のメンバーシップ」「職種のメンバーシップ」「制度化された自由労働市場」の3類型を唱えます。日本は「企業のメンバーシップ」が支配的な社会であり、ドイツは「職種のメンバーシップ」、アメリカは「制度化された自由労働市場」が支配的な社会だというのです。

実は、それには私はほぼ全面的に賛成です。ただ、話は日独米の3社会だけでは終わらないでしょう。他の労働社会もそれぞれに特殊性があり、それぞれに類型化していくと類型はどんどん増えてしまいます。

これは、本書でも引用されている拙論「横断的論考」で、イギリスやフランス、さらにはオランダやスウェーデン等も含めてあれこれ(ごく簡略に)考察したところですが、限られた紙幅の中で分かりやすく説明するという状況下であれば、最初の2類型がある意味一番間違いのない類型化なんじゃないかと考えているところです。

もちろん、私にも600ページを超える新書を書かせてくれる奇特な編集者がいれば、もう少し詳しく突っ込んでみてもいいんですけど。

(参考)

https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2018/04/pdf/002-010.pdf (この国の労働市場-横断的論考(『日本労働研究雑誌』2018年4月号))

Ⅰ ジョブ型社会の多様性
日本の雇用システムをメンバーシップ型とか 「就社」型と定式化し,欧米諸国のジョブ型ない し「就職」型と対比させる考え方は,ごく一部の 人々を除き,多くの研究者や実務家によって共有 されているものであろう。 ところが,日本以外の諸国を全て「ジョブ型」 に束ねてしまうと,その間のさまざまな違いが見 えにくくなってしまう。常識的に考えても,流動 的で勤続年数が極めて短いアメリカと,勤続年数 が日本とあまり変わらぬドイツなど大陸欧州諸国 はかなり違うはずだ。そこで,世界の雇用システ ムを大きく二つに分けて,日本に近い側とそうで ない側に分類するという試みが何回か行われてき た。ところが,そうした議論を見ていくと,まっ たく矛盾する正反対の考え方が存在することがわ かってくる。 ・・・

Ⅱ 欧米諸国の人事管理

Ⅲ 雇用システム形成史からの考察

(余計なお世話)

一点だけ余計なお世話ですが間違いを指摘しておきます。407ページに、1951年に労働省婦人年局が「男女同一労働同一賃金」という書籍(正確にはパンフレット)を出したとありますが、役所の名前は婦人年局です。労働組合の場合は青年婦人部ですが。

 

ポピュリスト時代の公共議論

Lukashochscheidt1250x250 例によって、ソーシャル・ヨーロッパからドイツ労働総同盟のホッホシャイト氏による「ポピュリスト時代の公共議論」を紹介。内容はアイデンティティポリティクスに傾斜する進歩派を批判し、経済的不平等に目を向けろという話で、ああ、またかというものかもしれませんが、ここまで欧州社会民主勢力が弱体化していく中で、長らくその支持勢力であった労働組合サイドの「なんとかしろよ」感がにじみ出ています。

https://www.socialeurope.eu/populist-age-union-perspective

 Public discourse in the populist age—a trade-union perspective by Lukas Hochscheidt

・・・・・To respond to the double attack from populists and a new generation of liberals, trade unions have to build their strategy on a different line of political conflict—a cleavage over inequalities. As Thomas Piketty, Branko Milanovic and many others have shown, social inequalities are structural and will continue to grow. The line of conflict opposing ‘haves and have-nots’ has a great advantage compared with the ‘progressives versus populists’ cleavage: instead of reducing politics to the pros and cons of liberal democracy, it enables a debate on how exactly democracy should work. Hence, it gives intermediary institutions, as vectors of collective interests, a raison d’être in the 21st century.

・・・・・ポピュリストと新世代リベラルからの二重攻撃に対処するために、労働組合はその戦略を政治的紛争の違うライン-不平等をめぐる断絶-に立脚させるべきだ。トマ・ピケティ、ブランコ・ミラノビッチらが示すように、社会的不平等は構造的で拡大傾向にある。「持てる者と持たざる者」を対立させる紛争ラインは「進歩派対ポピュリスト」の断絶と比べて大きな利点がある。というのも、政治をリベラル民主主義への賛成と反対に切り縮めるのではなく、民主主義がいかに実際に機能すべきかという議論を可能にするからだ。それゆえ、それは中間的機構に集団的利益のベクトルとして21世紀の存在意義を与える。

First, the material cleavage is socially inclusive: it addresses issues which concern society as a whole, such as inequalities of wealth and income. Therefore, it is the best remedy against what Mark Lilla calls ‘identity politics’—atomised societies shaped by small lobby groups which focus on minority interests alone. Representing working people on what unites them rather than what makes them different from one another, trade unions contribute to social integration and cohesion.

第1に、物質的断絶は社会包摂的で、富や所得の不平等といった社会全体にかかわる問題に取り組む。それゆえ、それはマーク・リラが「アイデンティティ・ポリティクス」と呼ぶもの、マイノリティの利益のみに焦点を向ける小さなロビー集団によって作られる原子化した社会に対する最善の処方箋となる。

Secondly, the material line of conflict is genuinely democratic: it highlights the fact that in a democracy the markets are subordinated to political decision-making. If there is a majority in favor of social progress—for instance, more worker participation at company level—the ‘invisible hand’ of the market cannot and will not stop a democratic majority. The inequalities cleavage also urges us to question the political influence of global business networks and to make them accountable for the downsides of globalisation.

第2に、紛争の物質的ラインは純粋に民主的であり、民主的社会においては市場は政治的意思決定に従属するという事実を明らかにする。もし社会の多数派が社会進歩-例えば、企業レベルにおける労働者参加の拡大-を望むなら、市場の「見えざる手」は民主的な多数派を止めることはできない。不平等の断絶もまた、我々にグローバルなビジネスネットワークの政治的影響力に疑問符を呈し、グローバル化の影の面に対して責任を追及させる。

Finally, the socio-economic cleavage is participatory and sustainable: by foregrounding class interests and structural disparities between labour and capital, it stresses the importance of intermediary institutions—simply because they are indispensable for the representation of aggregated collective interests. Therefore, it makes citizens engage with politics in a sustainable manner and enables comprehensive feedback, (re-)connecting decision makers and citizens.

最後に、社会経済的断絶は参加的であり、持続可能である。階級的利益と資本と労働の構造的不均衡を前景化することによって、それは中間的機構の重要性を強調する。集計された集団的利益を代表する上で不可欠だという単純な理由からだ。それゆえ、それは市民が持続可能なやり方で政治に関わり、包括的なフィードバックを可能にし、意思決定者と市民を(再)結合する。

The 21st century is about to establish new rules for the functioning of politics and the economy. Under the growing influence of populism, the construction of the public space is subject to change—and so are intermediary institutions. Stressing the inequalities cleavage, to repoliticise the institutional arena, is only one important step among many others.

21世紀は政治と経済が機能する新たなルールを樹立しようとしている。増大するポピュリズムの影響力の下で、公共圏の構築は変化に左右され、それは中間的機構である。不平等の断絶を強調し、機構のアリーナを再政治化する事は、他の何よりも重要な唯一のステップである。

 

2019年7月 9日 (火)

ジョブ型正社員再び@WEB労政時報

WEB労政時報に「ジョブ型正社員再び」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers-taiken/article.php?entry_no=76340

 去る6月6日に内閣府の規制改革推進会議が「規制改革推進に関する第5次答申~平成から令和へ~多様化が切り拓く未来~」を公表し、これを受けて6月21日に規制改革実施計画が閣議決定されました。今回の項目には、兼業・副業を促進するために労働時間通算規定を見直すことや日雇派遣の年収要件の見直しなど、労働法的に議論のネタの多い項目もあるのですが、今回はジョブ型正社員の雇用ルールの明確化について取り上げます。
 このジョブ型正社員、具体的には勤務地限定や職務限定などの限定正社員とも呼ばれますが、2013年ごろに当時の規制改革会議から雇用ルールの整備が求められ、厚生労働省が多様な正社員という名称で有識者懇談会を開き、同懇談会の報告書に基づいて、パンフレットや事例集を作成配布するなど、その円滑な導入・促進を図っています。ただ、2013年の規制改革会議答申では「労働条件の明示等、雇用管理上の留意点について取りまとめ、周知を図る」ことを求めていたのに対し、今回は労働基準法の改正という立法対応を求めている点が一歩踏み出しています。・・・・

2019年7月 8日 (月)

道幸哲也『ワークルールの論点』

458010 道幸哲也さんより新著『ワークルールの論点 職場・仕事・私をめぐって』(旬報社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.junposha.com/book/b458010.html

 
働き方を変えるためにワークルールを!現在の長時間の働き方、不平等な労働条件をどう変えていくのか。リアルな問題点を検討する。

 第1章 法的な発想と身近な世界
第2章 労働者でなければ私はなに
第3章 労働条件はどう決まっているか
第4章 よくわからない就業規則法制
第5章 採用時の駆け引き
第6章 業務命令権は絶対か
第7章 人間関係の難しさ―パワハラの法律問題
第8章 最後の切り札は懲戒権
第9章 仮眠も働時間
第10章 ケガや病気は自分のせい
第11章 解雇の作法
第12章 多様な辞めさせ方―退職・有期雇用の法理
第13章 どうしたら権利を実現できるか
第14章 やっぱり集団法

タイトルは「ワークルール・・・」ですが、中身はむしろ「ちゃんとした大人」向けに労働法の論点を取り上げて論じている本です。

最後の章では、働き方改革が国、企業、個人に着目して労働者集団や労使関係の影が薄いことに疑義を呈し、その集団法的な課題をいくつか提起しています。

 

『ITエンジニアの働き方改革 情報サービス産業白書2019』

1119101023520x 情報サービス産業協会から 『ITエンジニアの働き方改革 情報サービス産業白書2019』(インプレス)をお送りいただきました。今年は働き方改革特集なので私にもお送りいただいたようです。

https://book.impress.co.jp/books/1119101023

1987年に刊行が始まった「情報サービス産業白書」は、企業情報システムの開発を請け負う情報サービス産業に、最新のテーマに基づいた提言を行ってきました。「情報サービス産業白書 2019」では、情報サービス業界における「働き方改革」にフォーカスし、その働き方の実態と働き方改革への取り組みを紹介します。
かつて「3K」や「7K」などといわれ、「ブラック」な職種の代名詞だったITエンジニアですが、いち早く職場環境の改革に取り組んできたのがITエンジニアを多数抱える情報サービス企業です。情報サービス企業の業界団体である情報サービス産業協会(JISA)では「JISA働き方改革宣言」を掲げ、業界を上げて働き方改革を推進しています。
「JISA働き方改革宣言」は、「時短」や「効率化」の先にある、「ワクワク」の追求を究極の目標としたユニークなものです。本書には、JISAが会員企業に勤めるITエンジニア4,000人以上を対象に行った、「ITエンジニアのワクワクする働き方に関する調査」の全容を掲載しています。ITエンジニアはどのような時にワクワクを感じるのか、ワクワクを感じているITエンジニアのポジションや属性、仕事の内容は、など、「ワクワク」と働く環境の因果関係を明らかにするために行った調査です。長年、IT人材の働き方を研究してきた同志社大学大学院の中田喜文教授が調査結果を詳細分析し、「ワクワク」の正体を数値から解き明かします。どのような働き方改革を実践すれば、従業員満足度の高い職場環境を実現できるのか、そのヒントが得られます。

その中田さんによる「ワクワク」の分析によると、最も影響する要因は経営理念、次に能力発揮とプロジェクトの新規性、そして製品のコンテント及びその作成に用いる技術の新規性とのことです。

興味深いの残業時間の効果で、繁忙期の残業のみがワクワク度を下げる効果を持ち、通常期の残業は統計学的には効果は検出できなかったとしています。そして、残業時間が長くなってもそのマイナス効果は増大しないことや、その効果が比較的小さいことも興味深いとしています。

 

2019年7月 7日 (日)

ワーク・ワーク・ワークじゃなくってジョブ・ジョブ・ジョブ

なんだかいきなり、私が「ワーク・ワーク・ワーク」(働け、働け、働け)を叫んでいるかのようなツイートがあってびっくりしましたが、

https://twitter.com/yamachan_run/status/1147441464621727744

いま読んでいる専門書に「ワーク、ワーク、ワーク」というワードが出てきて大草原不可避。(「講座 労働法の再生 6巻 濱口桂一郎 論文)」) 

Dyh7rtu0ae8v4p

何が大草原なのかというと、こういうツイッタラが「ワーク・ワーク・ワーク」と叫んでいたからのようなんですが、

https://twitter.com/HaradaTosu (ワーク・ワーク・ワーク)

 ワーク・ライフ・バランス? 若いうちは ワーク・ワーク・ワークでいいんです

まあ、よくあるネタのためのアカウントなんでしょうが。

でもね、上の論文は確かに私が書いたものですが、その中のコック報告書のタイトルの『仕事、仕事、仕事』は、原題は「ワーク、ワーク、ワーク」じゃないんですよ。

注の10が次のページに送られているため、上の写真には出てきませんが、この報告書タイトルの原題はこうです。

*10"Jobs, Jobs, Jobs: Creating more employment in Europe" Report of the Employment Taskforce chaired by Wim Kok(EC、2003年)。

要するに、雇用機会の創出が大事だという意味で、ジョブ、ジョブ、ジョブと叫んでいるんであってね。

つうか、yamachanもそこんとこ分かったうえでわざといじっているんでしょうけど。

07464 ちなみに、この『講座・労働法の再生 第6巻労働法のフロンティア』は、意欲的な論文が多数載っています。まだ読んでない方はぜひ。

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/7464.html

第1部 労働法の改革論議
第1章 労働法改革の理論と政策…………水町勇一郎
第2章 雇用社会の変化と労働法学の課題…………大内伸哉
第3章 労働法改革論の国際的展開…………濱口桂一郎
第2部 雇用政策と労働法
第4章 これからの雇用政策と労働法学の課題…………島田陽一
第5章 若年期・高年期における就労・生活と法政策…………小西康之
第6章 障害者雇用政策の理論的課題…………中川 純
第7章 外国人労働者…………早川智津子
第3部 非正規雇用と労働法
第8章 外部市場・非正規雇用と労働法制…………大木正俊
第9章 労働者派遣…………本庄淳志
第10章 有期雇用…………篠原信貴
第11章 パートタイム労働法…………阿部未央
第4部 労働法における学際的研究
第12章 企業法と労働法学…………土田道夫
第13章 ジェンダーと労働法…………黒岩容子
第14章 社会保障法学と労働法学…………菊池馨実
第15章 国際労働関係法の課題…………米津孝司

 

 

 

 

 

2019年7月 4日 (木)

労働時間通算規定を適用した送検事例

兼業・副業の関係で、労働時間通算規定のあり方が論点になっていますが、(ピョンヤンじゃない方の)業界紙の『労働新聞』7月8日号に、その労働時間通算規定を適用した恐らく全国初めての送検事例が報じられています。

・・・三重・伊賀労働基準監督署は、違法な時間外労働をさせたとして、中西総合運輸(株)とウエストウインド(株)および両者の代表取締役を務める男性らを労働基準法第32条違反の疑いで伊賀地検に書類送検した。同代表取締役は労働者1人を中西総合運輸で働かせた後、ウエストウインドで働かせた。・・・

・・・同一人物が代表取締役であり、時間外労働の認識もあったと見ている。同労基署は「労働時間の通算規定を適用した送検は恐らく全国初」としている。・・・

この事案、法形式の上では異なる事業主の間での通算なんですが、両者は同一人物が代表取締役を務めており、いわば事実上は同一会社の異なる事業所の通算みたいなものなんですね。

ただ、複数の会社を1人が経営しているなんてことは別に違法でもないし、世の中に結構あったりするので、法人格否認とかいうような話でどうにかする話でもないわけです。

今進められているような、異なる事業主の通算は止めようということになった場合、こういう脱法行為みたいなのが出てくる可能性というのはあるわけで、そこをどう手当てしておくかというのはかなり重要な論点になりそうです。

あるいは、元は同じ業務を細かく切り分けで別の会社に委託して、それぞれで同じ労働者を雇って使うなんてケースもあり得るでしょう。

実は以前、東大の労働判例研究会で評釈した労災保険の通算が問題になったケースですが、議論しておく必要はありそうに思われます。

http://hamachan.on.coocan.jp/rohan151113.html国・淀川労基署長(大代興業ほか1社)事件(大阪地判平成26年9月24日)

 本件におけるA興業とB社はいずれもD事業団からC複合施設の中のプール設備という同一場所において設備管理業務と清掃業務という切り分けられてはいるが密接に関連した業務を請け負っている企業である。判決文からは両者に資本的人的関係があるとは言えないが、労災補償責任や安全衛生責任においてはそれらは関係がない。
 業務としてどの程度包括的に捉えることができるかで見ると、A興業のプール設備管理業務は、地下の機械室でプールと浴室の水温を確認して必要があれば追い炊きをする、玄関まわりで自転車を外に出す、カラーコーンを並べる、煙草の吸い殻入れを定位置に置く、女子浴室の塩素濃度を確認する、地下駐車場のシャッターを開ける、ブロワー、ジャグジーのスイッチを入れる、プールや浴室の塩素濃度等を確認記録する、照明を消し、機械警備を設定し、シャッターを閉め、玄関の自動ドアのスイッチを締め、施錠する、日によっては水を追加したり、電灯の交換、1月に1度程度採温室修理やプール消火栓さび取り等であり、B社の業務はプールサイドの掃除に加え、浴室と男性更衣室の清掃である。広い意味でのプール設備管理業務を切り分けて別の会社に委託することはもちろん可能であり問題はないが、それによって使用者責任が恣意的に切り分けられてしまう危険性も考慮する必要があるのではないか。
 上記1で一般論としては否定的に論じた労働時間の通算についても、空間的に同一場所において行われる類似した業務を別々の企業に請け負わせることによって通算を回避することがあり得るとすれば、むしろ通算を肯定的に解すべきではないかとも考えられる。
 本件ではA興業の業務だけで業務起因性が肯定されるほどの過重労働となっていたので、争点は主として給付基礎日額の算定にとどまったが、仮に上記さまざまな業務を細かく切り分け、別々の企業に行わせていたら、単体としては業務起因性が肯定され得ないような短時間の労働が同一場所で連続的に行われるような状況もありうるのであり、かかる状況に対しても「何ら関係のない複数の事業場において業務に従事し、何ら関係のない複数の事業主からそれぞれ賃金の支払いを受ける場合」とみなすような解釈でいいのかも考えるべきであろう。
4 現行法規を前提とする限り、本件において本判決の結論を否定することは困難であるが、従来から重層請負が通常であった建設業に限らず、近年広い業種においてアウトソーシングが盛んに行われている現在、少なくとも上記労災補償法制や安全衛生法制と類似した状況下にある者については、何らかの対応が必要であると思われる。会社をばらばらにして別々に委託すれば、まとめて行わせていれば発生したであろう使用者責任を回避しうるというようなモラルハザードは望ましいものとは言えない。

 

 

 

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