フォト
2020年1月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
無料ブログはココログ

2020年1月17日 (金)

借金肩代わりの就活サービスって・・・・

ちょっと気になる記事がビジネスインサイダーにありました。

https://www.businessinsider.jp/post-205808 (“奨学金を肩代わり”就活サービス「Crono Job」。大学生の2人に1人が「借金」している現状変える)

求職者の奨学金返済を肩代わりする求人プラットフォーム「Crono Job」は、同名の求人サイトの掲載企業に就職が決まると、借り入れ中の奨学金を企業が代わりに返済してくれるサービスだ。貸与型奨学金・民間教育ローンの利用者であれば誰でも登録でき、新卒・中途は問わない。
企業による返済は、入社後に一括で肩代わりするか勤続年数や評価に応じて段階的に行うかが、企業によって決められている。すでにDMM、ドリコム、CAMPFIRE‎など8社が契約しており、約100名の求職者が登録している。

いやちょっと待て、それって、労働契約と金銭消費貸借契約をリンクさせるって事だよね。

まえにも本ブログで紹介したことがありますが、2003年に職業安定法が改正されるまでは、こういう規定が存在していたのです。

(兼業の禁止)
第三十三条の四 料理店業、飲食店業、旅館業、古物商、質屋業、貸金業、両替業その他これらに類する営業を行う者は、職業紹介事業を行うことができない。

なぜこんな規定があったのか。

おらぁ、貸した金、利子付けて返せゃ。返せねえなら体で返してもらおうか・・・。 

という世界があったからですね。そんな野蛮な世界はもうなくなったから(ほんまかいな)という理由でこの規定は17年前に削除されたのですが、ほんまかいな。

今回のビジネスモデルはもちろんこれとは違い、この人材ビジネス自体が金貸しになるわけではありませんが、そのあっせんで当該借金を背負った学生さんを雇う会社は、単に「仕事してくれたから給料払うよ」というだけの立場ではなく、「貸した金返せや」と言える立場になるわけです。DMMとかが。

うん、確かに現行法上どこにも問題はないといえばないのですが、なんだかとても胸騒ぎがするのは心配のしすぎでしょうか。

 

飯塚健二『「職場のやっかいな人間関係」に負けない法』

51klb82a5tl 飯塚健二『「職場のやっかいな人間関係」に負けない法』(三笠書房)をお送りいただきました。

https://www.mikasashobo.co.jp/c/books/?id=100280100

こんなメソッドがあったのか! 
ベルギーで開発された、人の「行動特性」を知る画期的なツール――
「iWAM(アイワム)」をベースに提案する人間関係の戦略
“出しゃばり”人間には → 「お先にどうぞ戦略」
“猪突猛進”人間には → 「目標共有戦略」
“心配性”人間には → 「不安言語化戦略」
“頑固一徹”人間には → 「問答法戦略」
“優柔不断”人間には → 「偉い人がいっている戦略」
“歯に衣着せぬ”人間には → 「ビシッと対処する戦略」

かわす、受け流す、立ち向かう――職場の「あの人」にもう振り回されない法 

まあ、人間関係術ということでしょうか。

 

EU経団連が中国との関係見直しを提言

Unice 欧州委員会が協議を開始したEU最低賃金という案について、欧州労連はもちろん賛成してますが、経営側はどう言っているかなと思って、欧州経団連(ビジネス・ヨーロッパ)のサイトを見に行ったら、そちらへのコメントはまだ出ていませんが、昨日付で「EUは中国との関係を抜本的に見直すべき」という意見書をアップしていました。これがなかなか興味深い。

https://www.businesseurope.eu/publications/eu-should-fundamentally-rebalance-its-relationship-china

意見書本体は160ページに及ぶ大部の冊子ですが、

https://www.businesseurope.eu/sites/buseur/files/media/reports_and_studies/2020-01-16_the_eu_and_china_-_addressing_the_systemic_challenge_-_full_paper.pdf

要するに何を言っているかというと、

Systemic challenge and market-distorting practices must be addressed 

近年の中国の国家主導経済体制に対して、市場を歪めると批判しているんですね。

European business wants to build a stronger and fairer economic relationship, but systemic challenges prevent European companies from untapping this economic potential. The obstacles created by China’s state-led economy lead to market distortions in China, in the EU and in third countries. We call on the EU to reconsider how it engages with China, so that it can seize the opportunities and mitigate the distortions and challenges created by China’s state-led economy. 

近年、香港や台湾など、政治的自由の問題が話題になっていますが、中国の経済体制の問題がEUでここまで深刻になっているというのも、念頭に置いておくべきことなのでしょう。

Unicechina なお、親切なことに中国語のサマリーまで用意してあります。

https://www.businesseurope.eu/sites/buseur/files/media/reports_and_studies/2020-01-16_the_eu_and_china_-_executive_summary_chinese_translation.pdf

 

2020年1月16日 (木)

EUが最低賃金について労使団体に第一次協議

一昨日(1月14日)付けで、欧州委員会が最低賃金に関する労使団体に対する第一次協議を開始したようです。

https://ec.europa.eu/social/BlobServlet?docId=22219&langId=en (First phase consultation of Social Partners under Article 154 TFEU on a possible action addressing the challenges related to fair minimum wages)

これは、なまじEU労働法を知っている人にとっては却って驚くべき話です。なぜなら、EU運営条約は明文の規定で以て賃金をEUの権限から排除しているからです。

とはいえ、これは政治的な案件なのかも知れません。

ブレグジットで、何でも反対するイギリスはもう何も言わなくなるという状況もあるのかも。

もう少し情報を調べてみる必要がありそうです。

 

2020年1月15日 (水)

短時間勤務有期雇用教職員(最年少准教授)の懲戒解雇

例の最年少准教授(短時間勤務有期雇用教職員)に対し、雇用主である国立大学法人東京大学が懲戒解雇の処分を下したようです。

https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/z1304_00124.html

東京大学は、大学院情報学環 大澤昇平特任准教授(以下「大澤特任准教授」という。)について、以下の事実があったことを認定し、1月15日付けで、懲戒解雇の懲戒処分を行った。
<認定する事実>
 大澤特任准教授は、ツイッターの自らのアカウントにおいて、プロフィールに「東大最年少准教授」と記載し、以下の投稿を行った。
(1) 国籍又は民族を理由とする差別的な投稿
(2) 本学大学院情報学環に設置されたアジア情報社会コースが反日勢力に支配されているかのような印象を与え、社会的評価を低下させる投稿
(3) 本学東洋文化研究所が特定の国の支配下にあるかのような印象を与え、社会的評価を低下させる投稿
(4) 元本学特任教員を根拠なく誹謗・中傷する投稿
(5) 本学大学院情報学環に所属する教員の人格権を侵害する投稿
大澤特任准教授の行為は、東京大学短時間勤務有期雇用教職員就業規則第85条第1項第5号に定める「大学法人の名誉又は信用を著しく傷つけた場合」及び同項第8号に定める「その他この規則によって遵守すべき事項に違反し、又は前各号に準ずる不都合な行為があった場合」に該当することから、同規則第86条第6号に定める懲戒解雇の懲戒処分としたものである。 

その東京大学短時間勤務有期雇用教職員就業規則も添付されておりまして、

https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400130020.pdf

(懲戒の事由)
第85条 短時間勤務有期雇用教職員が次の各号の一に該当する場合には、懲戒に処する。
(5) 大学法人の名誉又は信用を著しく傷つけた場合 

(懲戒)
第86条 短時間勤務有期雇用教職員の懲戒は、戒告、減給、出勤停止、停職、諭旨解雇又 は懲戒解雇の区分によるものとする。
(6) 懲戒解雇 予告期間を設けないで即時に解雇する。  

というわけで、事業所内部における法的根拠は上記の通りですが、いうまでもなく大澤氏にはこれを不当解雇として訴える権利があります。

その場合の参照条文は労働契約法のこれですが、

(懲戒)
第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。 

懲戒処分としても解雇としても、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められるかどうかが問題になるわけですが、

実は、大澤氏はテニュアのある常勤准教授ではなく、短時間勤務有期雇用教職員ですので、今回の解雇は労働契約法16条の解雇ではなく、次の17条の方になります。

(契約期間中の解雇等)
第十七条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。 

おそらく圧倒的に多くの方々(労働法関係者を除く)の常識に反すると思われますが、有期契約労働者の期間途中解雇は無期契約労働者の解雇よりも(理屈の上では、上だけでは)難しいのです。後者は客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性があればいいのに、前者は「やむを得ない事由」が必要なんですから。それがそうなっていないのはなぜかというのは、雇用システム論を小一時間ばかり論ずる必要があるので、ここではパスしますが。

もひとつ、労働行政関係者であればここで思いだしておかなければならない規定がありますね。労働基準法20条1項但し書きです。

(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
2 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
3 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。 

今回の懲戒解雇は「「大学法人の名誉又は信用を著しく傷つけた場合」という「労働者の責に帰すべき事由に基いて」「予告期間を設けないで即時に解雇する」ものですから、本条3項により19条第2項が準用されます。

(解雇制限)
第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
2 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。 

つまり、今回の懲戒解雇は、それが即時解雇であるがゆえに労働基準監督署の認定を受ける必要があります。まあ、労働法学者が何人もいる東京大学ですから、そこは抜かりはないでしょうが。

ちなみに、なぜかブログが閉鎖されている労務屋さんが、ツイッターで本件にコメントしていますが、

https://twitter.com/roumuya/status/1217346484024168448

ということで懲戒処分を行うことは正当としても、解雇は重きに失するのではないかというのが私の印象です。あくまで過去の判例などをもとにした検討であり、私の価値観は一切含まれておりませんのでどうかそのようにお願いします。 

わたしは解雇相当と思いましたが、それは当初の民族差別的発言それ自体というよりも、いったん反省したような発言をしながら、その後東大の部局や教員を誹謗中傷するような発言を繰り返したことが悪質と判断されたものと思われます。

名古屋と大阪でもやります

 

Nagoya1

 

Osaka

2020年1月14日 (火)

石井知章・及川淳子編『六四と一九八九』または「進歩的」「左派」の「歴史修正主義」

487699 石井知章・及川淳子編『六四と一九八九 習近平帝国とどう向き合うのか』(白水社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.hakusuisha.co.jp/book/b487699.html

1989年に起きた一連の出来事が、急速に歪められ、忘却されつつある。その中心にあるのが六四・天安門事件である。
従来、「民主化の第三の波」(ハンチントン)や「国家超越的な共同社会」(M・ウォルツァー)への動きと理解されてきた〈一九八九〉は、いつのまにか「新自由主義革命」として矮小化されつつある。「民主化」ではなく「新自由主義」の確立がこの画期を特徴づけるというのだ。
果たしてそうなのだろうか――。本書はこの疑問から出発している。
「新自由主義革命」と事態を捉えた場合、30年後に緊迫化した香港情勢はどう理解すればいいのだろうか。また「紅い帝国」(李偉東)として世界に君臨しつつある習近平体制と民主化という視角なしに果たして対峙できるのか。
本書は、アンドリュー・ネイサン、胡平、王丹、張博樹、李偉東、矢吹晋、石井知章、及川淳子という、これ以上望めない世界的権威が六四と一九八九という歴史的事件に挑んだ。
その中核にあるのは、危機に瀕しているデモクラシーと市民社会の擁護である。過去のものとして暴力的に忘却されつつある両者をいかに恢復するか。その答えが六四・天安門事件にあるのだ。現代のはじまりとしての一九八九へ。 

本書もまた、あまりにも時宜に適したこの時期に世に問われる運命の本ですね。奥付の発行日2020年1月10日というのは、台湾の総統選挙で蔡英文氏が地滑り的勝利を収めた1月11日のその前日です。

本書の中身自体は、昨年6月に明治大学で開かれた国際シンポジウムの報告集ですが、まさに香港と台湾の市民がノーを突きつけている中国共産党の独裁体制を徹底して分析しているこの本ほど、今この時に読まれるべき本はほかにあり得ないという唯一の本といえましょう。

序章 「六四と一九八九」  石井知章
第一章 習近平と天安門の教訓  アンドリュー・J・ネイサン(大熊雄一郎訳)
第二章 「六四」が中国を変え、世界をも変えた  胡平(及川淳子訳)
第三章 天安門事件の歴史的意義  王丹(大熊雄一郎訳)
第四章 三十年後に見る天安門事件  張博樹(大熊雄一郎訳)
第五章 天安門事件が生んだ今日の中国  李偉東(大熊雄一郎訳)
第六章 趙紫陽と天安門事件ーー労働者を巡る民主化の挫折  石井知章
第七章 「一九八九年」の知的系譜ーー中国と東欧を繋ぐ作家たち  及川淳子
第八章 新全体主義と「逆立ち全体主義」との狭間で  矢吹晋
終章 「六四・天安門事件」を読む  及川淳子
あとがき  石井知章 

もちろん、本書の最大の読みどころは、中国から亡命して言論活動を続けている在外中国知識人による諸論考ですが、心中の炎を秘めつつ冷静な筆致を失わないそれらに比べて、序章とあとがきで編者の石井知章さんがほとんど噴出まぎわにまで至っているある種の「進歩的」「左派」に対する憤怒の思いが興味深いです。彼によれば、岩波の『思想』誌などに集うそういう「進歩的」「左派」は、習近平体制に対する「忖度」で、1989年問題に対する「沈黙」を繰り返しているというのです。その文章がどれくらい激情的かというとですね、

・・・だが、これは原因と結果の順番をまったくはき違えた深刻なる思想的倒錯であり、歴史的事実をあからさまにねじ曲げる本末転倒であるといわざるをえない。なぜなら、このポスト1989で創出された政治経済システムにおいて、まっさきに「新自由主義」体制を導入したのは、「社会主義体制」が崩壊した東欧ではなく、むしろ「血の弾圧」によって専制的権力の基礎をより盤石なものとした「現存する社会主義」、すなわち、ほかでもない一党独裁国家そのものとしての中国だったからである。・・・

・・・これらの言説は、汪暉や柄谷行人らによって推し進められた、いわば「日中間共同イデオロギー戦略の創出」とでも呼ぶべき知的作業の一環として理解できる。それは、習近平という「唯一の所有者」(マルクス)の政治的意志を密かに「忖度」しつつ、しかも「脱政治化」することに見事に成功しているという点において極めて象徴的である。これらはいずれも、「事実」を「事実」として認めることのできない、日本の歪んだ「進歩的」知識人たち、そしてシニシズムの言説に依拠してしか社会的には一言も発言できない、中国国内の「新左派」知識人たちの基本的性格をまざまざと示すものである。・・・

あとがきでは、石井さんはこういう「進歩的」「左派」をつかまえて「歴史修正主義」とまで罵倒しています。でも、それはまったく同感です。

 

 

 

 

 

2020年1月11日 (土)

OECDは団体交渉を断固お勧め

Oecdnego なぜかOECD東京センターの日本語ホームページにはまだ載ってないのですが、昨年11月OECDは「Negotiating Our Way Up : Collective Bargaining in a Changing World of Work」という報告書を発表しました。表題は何とも訳しにくいのですが、我々の前途を交渉で高めていこう、みたいな感じでしょうか。副題は文字通りで、変化する労働の世界における団体交渉、ですね。

https://www.oecd-ilibrary.org/docserver/1fd2da34-en.pdf?expires=1578720194&id=id&accname=guest&checksum=AAE2689D9E55FEBDBD5547DC25A2D2B2

OECDといえば、1990年代には新自由主義的な政策を唱道する奴らみたいに思われていましたが、その後21世紀にはどんどんソーシャル志向になっていき、遂に団体交渉をほめたたえる報告書を出すに至りました。

この270ページに及ぶ報告書は、またじっくり読んでいただくとして、ここではエグゼクティブ・サマリーだけちらりと見ておきましょう。

https://www.oecd-ilibrary.org/sites/c0bde291-en/index.html?itemId=/content/component/c0bde291-en

Co-ordination in wage bargaining is a key ingredient for good labour market performance  

Wage co-ordination across sectors and bargaining units is a particularly important dimension of collective bargaining. Bargaining systems characterised by a high degree of wage co-ordination across bargaining units are associated with higher employment and lower unemployment for all workers, compared to fully decentralised systems. This is because co-ordination helps the social partners to account for the business-cycle situation and the macroeconomic effects of wage agreements on competitiveness. ・・・

賃金交渉の調整はよき労働市場パフォーマンスの重要な要素だ

業種や交渉単位を超えた賃金調整は団体交渉のとりわけ重要な次元である。交渉単位を超えた高水準の賃金調整で特徴づけられる交渉システムは完全に分権化されたシステムに比べ、高水準の雇用と低い失業率の傾向がある。これは調整が労使団体に景気循環の状況と賃金協定の競争力に対するマクロ経済的影響を考慮することを助けるからだ。・・・

Collective bargaining systems and workers’ voice arrangements also matter for job quality 

This publication also explores the link between collective bargaining systems, workers’ voice arrangements, and the non-monetary aspects of job quality. In particular, it analyses social partners’ engagement in occupational safety and health, working time, training and re-skilling policies, management practices, and the prevention of workplace intimidation and discrimination. The quality of the working environment is higher on average in countries with well-organised social partners and a large coverage of collective agreements.  ・・・

団体交渉システムと労働者の発言のしくみは仕事の質にも重要だ

本報告書は、団体交渉システム、労働者の発言のしくみと、仕事の質の非貨幣的側面との関係も探求した。とりわけ、労働安全衛生、労働時間、職業訓練政策、経営慣行、職場のいじめや差別の防止への労使団体のかかわりを分析した。労働環境の質は、労使団体がよく組織され、労働協約の適用範囲が広い国々においてより高い。・・・

Collective bargaining and workers’ voice play an important role in preventing inequalities in a changing world of work, but they need to adapt  

As innovation, globalisation and population ageing transform the world of work, collective bargaining, when it is based on mutual trust between social partners, can provide a means to reach balanced and tailored solutions to issues of common concerns. It can ensure that all workers and companies benefit from the current transformations. ・・・・ 

団体交渉と労働者の発言は変化する労働の世界における格差の防止において重要な役割を果たすが適応する必要がある

技術革新、グローバル化、人口の高齢化が労働の世界を変える中で、団体交渉はそれが労使団体の相互信頼に基づくならば共通の関心事項に対するバランスの取れた解決策にたどり着く手段を提供しうる。それはすべての労働者と企業が今日の転換から利益を得ることを確保しうる。・・・

Making the most of collective bargaining and workers’ voice to address old and new labour market challenges  

This publication argues that, despite undeniable difficulties, collective bargaining and workers’ voice remain important and flexible instruments that should be mobilised to help workers and companies face the transition and ensure an inclusive and prosperous future of work. The need for co-ordination and negotiation mechanisms between employers and workers is heightened in the changing world of work. Whether considering key issues such as wage inequality, job quality, workplace adaptation to the use of new technologies, or support for workers displaced by shifts in industries, collective bargaining and workers’ voice can complement public policies to produce tailored and balanced solutions. The alternatives to collective bargaining are often either state regulation or no bargaining at all, since individual bargaining is not always a realistic option as many employees are not in a situation to effectively negotiate their terms of employment with their employer. ・・・ 

古くて新しい労働市場の課題に取り組むために団体交渉と労働者の発言を最大限に活用しよう

本報告書は否定しがたい困難にもかかわらず、団体交渉と労働者の発言が重要で柔軟な手段であり続け、変化に直面する労働者と企業を助け、包摂的で繁栄する労働の未来を確保するために動員されるべきだと主張する。使用者と労働者の間の調整と交渉のメカニズムの必要性は変化する労働の世界の中で高まっている。賃金格差、仕事の質、新技術の活用への職場の対応、産業転換による離職者への援助などの重要問題を考える際に、団体交渉と労働者の発言はバランスの取れた解決を生み出す上で公共政策を補完しうる。団体交渉の代替案はしばしば国家による規制か全く交渉なしになる。というのは、多くの被用者はその雇用条件について使用者と有効に交渉できるような状況にはないので、個別交渉は必ずしも現実的な選択肢ではないからだ。・・・・

 

マクロ世界史の時代区分と日本

Chikuma ちくま新書と言えば、私も『日本の雇用と中高年』を出しているんですが、そこが創業80周年記念ということで『世界哲学史』全8巻を刊行するんだそうです。

http://www.chikumashobo.co.jp/special/world_philosophy/

わたくしは哲学史に口をはさむ気は全くありませんが、そのラインナップを見て思ったことがあります。全8巻は古代2巻、中世3巻、近代2巻、現代1巻という構成ですが、各巻の中に西洋、中洋、東洋、それに日本もまんべんなく配置されています。で、その日本の章なんですが、

古代2巻に日本の章はありません。第3巻の中世Ⅰに「日本密教の世界観」が初めて登場、第4巻の中世Ⅱに「鎌倉時代の仏教」がでてきます。

そして第6巻の近代Ⅰに「江戸時代の「情」の思想」、第7巻の近代Ⅱに「「文明」と近代日本」が載っています。

いや、各巻に載っている世界各地の哲学の中に置けばまさに同時代の日本の哲学なので何の違和感もないのですが、これらだけを取り出して日本の歴史の中に配置したら、

なにぃ、平安時代が中世だって!?

なにぃ、江戸時代が近代だって!?

という違和感を引き出してしまうでしょう。

グローバルな視点から見れば、当然平安時代は中世であり、江戸時代は近代なのに、日本史の感覚ではそれが奇妙に見えてしまうということは、そっちの感覚がゆがんでいるということなのでしょうね。

200803000220 という話は、知っている方は知っている通り、すでに井上章一さんが『日本に古代はあったのか』(角川選書)でるる論じています。

https://www.kadokawa.co.jp/product/200803000220/

たまたま『世界哲学史』という企画があったのでそれをネタにしましたが、これはすべての分野で日本も含めたマクロ世界史を叙述しようとしたら起こることでしょう。同時代の世界史と時代区分がことごとく食い違う日本史学というのは、やはりどこか歪んでいる感じがします。

2020年1月 9日 (木)

梅崎修・池田心豪・藤本真編著『労働・職場調査ガイドブック』

9784502321917_240 梅崎修・池田心豪・藤本真編著『労働・職場調査ガイドブック―多様な手法で探索する働く人たちの世界』(中央経済社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.biz-book.jp/労働・職場調査ガイドブック―多様な手法で探索する働く人たちの世界/isbn/978-4-502-32191-7

質的・数量的分析の手法をコンパクト&わかりやすく解説。手法ごとに執筆者が実際に行った調査の内容や経験談を紹介。情報の集め方や職場見学の留意点など便利な知識が満載。新しい時代の労働・職場調査の教科書。 

編著者の3人もよく存じ上げていますが、中の各章を執筆している方々の多くもいろんなところでお付き合いのある方が多く、日本の労働研究者の中堅から若手の人々が、それぞれに方法論と、それを使った研究を紹介しているという感じの本になっています。

各章の執筆者名はありませんが、大体こういう構成になっています。

序章労働・職場調査のすすめ
[第1部質的情報を使いこなす]
第1章企業の競争力や生産性を解明する:聞き取り調査(職場)
第2章制度の成り立ちを把握する:聞き取り調査(制度)
第3章職場を通じた「コミュニティ」を捉える:インタビューに基づく事例研究
第4章職場の内側から調査する:エスノグラフィー・参与観察
第5章仕事の実践を記述する:エスノメソドロジー
第6章仕事人生に耳を傾ける:ライフヒストリー
第7章労働の歴史を掘り起こす:オーラルヒストリー
第8章資料の中に人々の思いを探る:テキスト分析
第9章一緒に課題に取り組む:アクションリサーチ
第10章働く人の学びを捉える:質的データからのカテゴリー析出
[第2部数量的に把握する]
第11章制度の仕組みと機能を明らかにする:企業・従業員調査
第12章働く人々の価値観を捉える:社会意識調査
第13章働く人々の心理を捉える:心理統計・OB(Organizational Behavior)
第14章職業人生を描く:経歴・パネル調査
第15章働く人々の空間移動:人文地理学
第16章労働市場の姿を描く:マクロ労働統計の使い方
[第3部調査の道具を身につける]
文献の調べ方/歴史資料/調査倫理/職場見学(工場見学)/文化的コンテンツの利用法/白書・業界誌などの活用/海外調査/レポート・論文・報告書の作成/産学連携プロジェクトの運営/研究会を組織する/データ・アーカイブの活用法  

本ブログでよく紹介している研究の手法でいうと、南雲智映さんによる第7章のオーラルヒストリーが、何回も紹介しているゼンセンの二宮誠さんの話をまとめた経験を取り上げています。

あと、鈴木誠さんが書かれている「歴史資料」では、彼が大学院修士課程時代に、面識のない三菱電機労組の吉村俊夫氏に電話をかけて、内部の歴史資料を見せてほしいと何回も頼み込んで遂に見せてもらった話を披露しています。

1月8日の日経新聞社説

昨日(1月8日)の日経新聞の社説が「日本的な雇用管理を断ち切るとき」というタイトルで、私の名前を引き合いに出して論じています。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53950400X21C19A2SHF000/

・・・・労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎研究所長が日本の雇用契約を「空白の石版」と言うように、一般に企業は職務をはっきり定めずに人を雇ってきた。幅広く経験を積ませるためだが、高度な専門性を備えた人材は育ちにくい。職務を明確にした「ジョブ型雇用」を積極的に取り入れるべきだ。・・・・・

この引用部分は累次の拙著で繰り返し語ってきたことなのですが、実は、冒頭の文脈とは若干齟齬があるような気がします。

このままでは日本企業は、イノベーションや価値創造の担い手が先細りになる。人工知能(AI)やビッグデータ、ロボットなどが広がる第4次産業革命に、人材育成が適合していないからだ。・・・・ 

時系列的に言うと、1980年代の製造職場のデジタル化が進んだME時代には、日本的なメンバーシップ雇用の優位性が喧伝されたのに対して、1990年代末から2000年代の事務職場のデジタル化が進んだICT時代には、そのメンバーシップ型の不適合性が強調され、欧米型のジョブ型雇用が改めて見直された(けれども、企業の人事管理はあまり変わらなかった)わけですが、2010年代半ばから世界的に注目されている第4次産業革命といわれるAI時代には、専門職のデジタル化が進んでいき、そのジョブ型自体の基盤が揺らいでいくことになるので、この議論にはずれがあるのです。

もちろん、日本独自の文脈では(今さらながら)ジョブ型への移行を強調することに意義があるわけですが、世界的な文脈とはズレがあることは意識した方がいいと思います。

 

2020年1月 8日 (水)

労働政策レポート『年金保険の労働法政策』

Nenkin JILPTから労働政策レポートNo.13として『年金保険の労働法政策』を出しました。

https://www.jil.go.jp/institute/rodo/2020/013.html

研究の目的 年金制度改正の主たる論点である短時間労働者への適用拡大や受給開始時期の選択幅拡大等について、関連事項も含めて歴史的にその経緯の詳細を跡づけ、年金法政策と労働法政策との関連性を明らかにすること。 
主な事実発見 厳密な意味での新たな事実発見はない。厚生年金保険法には元々臨時日雇労働者の適用除外は存在したが、短時間労働者は適用除外されていなかった。1980年の課長内翰でこれが適用除外されたが、その背景には日経連の要望、雇用保険法の取扱い、健康保険法における被扶養者の扱い等があった。21世紀以降、非正規労働者の均等均衡処遇が労働政策の課題となる中で、短時間労働者への厚生年金の適用拡大が繰り返し試みられ、2012年改正で実現したがなお多くの中小企業が除外されており、その拡大が目指されている。

基本的に年金政策に関わる過去の文献の中から労働政策と関わりのある適用対象者の範囲の変遷とか受給開始年齢をめぐる経緯とかを取り出してきて記述したものですので、政策当局にとっては個別的には(おそらく)既知の事実の集積でしょうが、労働政策と社会保障政策の関係を歴史的にこうした形でまとめたものは私の知る限りほとんど存在しないので、政策論議の素材として政労使その他の研究者にとってはなにがしか有用なのではないかと思います。

まえがき
第1章 前史:健康保険法等
 1 健康保険法
 2 健康保険法の適用拡大と「被扶養者」の登場
 3 船員保険法
第2章 労働者年金保険法から厚生年金保険法へ
 1 労働者年金保険法
 2 厚生年金保険法
 3 1947年改正
 4 社会保障制度審議会の設置
第3章 現行厚生年金保険法と国民年金法
 1 1953年改正
 2 1954年厚生年金保険法
 3 国民年金法の制定
第4章 被用者保険における非正規労働者の取扱い
 1 被用者保険と臨時日雇労働者
 2 1980年内翰
 3 1980年内翰の背景
 4 被扶養者の範囲
 5 複数就業者への適用
 6 非雇用就業者への適用
第5章 厚生年金基金と企業年金諸法
 1 退職金から企業年金へ
 2 厚生年金基金
 3 企業年金制度の見直しへ
 4 確定拠出年金
 5 確定給付企業年金
 6 厚生年金基金の廃止
第6章 1985年改正
 1 被用者の妻に係る議論
 2 基礎年金導入への道
 3 第3号被保険者の導入
 4 学生の取扱い
 5 厚生年金保険の適用対象
 6 老齢厚生年金の支給開始年齢
第7章 年金制度と高齢者雇用との関係
 1 1954年厚生年金保険法と60歳定年延長
 2 65歳への支給開始年齢の引上げと継続雇用政策-1989年の失敗
 3 65歳への支給開始年齢の引上げと継続雇用政策-定額部分
 4 65歳への支給開始年齢の引上げと継続雇用政策-報酬比例部分
 5 支給の繰上げ、繰下げ
 6 在職老齢年金
 7 21世紀の年金政策の動き
第8章 第3号被保険者をめぐる問題
 1 年金審議会意見
 2 女性のライフスタイルの変化等に対応した年金の在り方に関する検討会
 3 男女共同参画政策からの提起
 4 2004年改正
 5 運用3号問題
 6 その後の検討
第9章 育児期間等の配慮措置
第10章 非典型労働者への適用拡大
 1 前史
 2 2004年改正時の検討
 3 2007年改正案
 4 2012年改正
 5 2016年改正
第11章 2020年改正に向けて
 1 働き方の多様化を踏まえた社会保険の対応に関する懇談会
 2 70歳までの雇用就業機会の確保
 3 社会保障審議会年金部会
年表 

ちょうどこれから召集される通常国会で年金法改正案が審議されるので、その際に、この問題はそもそもどういう経緯でこうなっているんだろうと思ったときに、参照していただければ幸いです。今回の改正事項に入っていませんが、いろいろと話題になる第3号被保険者についても、かなり詳しくその経緯を述べています。

 

 

権丈英子『ちょっと気になる「働き方」の話』

491627 権丈英子『ちょっと気になる「働き方」の話』(勁草書房)をおおくりいただきました。ありがとうございます。

http://www.keisoshobo.co.jp/book/b491627.html

少子高齢化の進行により改革が迫られる日本の労働問題。多くの人が労働市場に参加できる働きやすい環境づくりを進めるには、どのような壁があり、いかにすれば乗り越えられるのか。これからの働き方を考える上での課題を網羅、議論の全容を見渡す。働き方と社会保障を一体のシステムとして、根本からわかりやすく学び、教えるための入門書。  

「ちょっと気になる」シリーズの4冊目ですが、こちらは権丈(夫)ではなく権丈(妻)による、社会保障ではなく労働問題の本です。

上の書影を一見するとおなじみの「へのへのもへじ」ならぬ「へめへめしこじ」がとてもカラフルにほほえんでいます。なるほど。

本書は、第1章が働き方改革の概観、第2章以下がいくつかのトピックを取り上げて論じており、第2章が高齢者雇用、第3章が女性活躍、第4章がパートタイム、第5章がオランダですが、実は「ちょっと気になる」シリーズの一冊として、いちばんおいしいところは巻末の「知識補給」にたくさん詰め込まれています。25項目、約90ページ分。

【知識補給】
 同音異義語の同一労働同一賃金──本来の意味と日本での意味
 若年の雇用と政策
 最低賃金をめぐる議論の時代的推移
 障害者の就労と政策
 なぜだか2つもある生産性,どっちが正当?──物的生産性と付加価値生産性
 日本で高齢者,女性のWork Longerを実現するためには
 高齢者の就業率が高まった原因は?
 戦後日本の出生動向
 2つの出生率指標と出産タイミング
 出生率と学歴
 小さく産まれ大きく育った均等法と「間接差別」
 セクハラ,マタハラ,そしてブラック企業の年表
 雇用保険と積極的雇用政策
 保育所利用率の推移
 公的年金保険制度と被保険者数
 国民年金保険料の産前産後期間の免除制度にみる社会保険という助けあい制度の意味
 労使の交渉上の地歩(bargaining position)のアンバランス
 適用拡大は絶対正義!!?
 賃金を上げ,適用拡大を進めるのが成長戦略になるという話
 定年制はなぜ存在するのか?
 「くるみん」を取り巻く出来事
 Esping-Andersenの福祉国家の3つの類型と日本の家族政策
 ワーク・ライフ・バランス憲章のちょっとした進化
 日本のパートタイム労働者の特殊性
 パートタイム社会オランダの育児休業制度は日本とどこが違う? 

実は、この中で思わず引き込まれてしまったのが、p247からの「セクハラ,マタハラ,そしてブラック企業の年表」。

なんとこれ、1984年から2018年までの流行語大賞受賞語で働き方に関係しそうなものを表にしたものですが、見ていくと、ああ、これこの時代にはやったんだ、という思い出が噴きだしてきますよ。

 

2020年1月 7日 (火)

ギグワーカー@日経新聞でコメント

本日の日経新聞の13面のデジタル・トレンド「単発で仕事受けるギグワーカー」という記事でちょびっとコメントしています。こちらはほぼ私のいった趣旨が書かれています。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO54063150W0A100C2TJQ000/(柔軟な働き方、落とし穴も  単発で仕事受ける「ギグワーカー」)

スマートフォンのアプリなどを通じて、自分の都合のいい時間に単発の仕事を請け負う「ギグワーカー」と呼ばれる働き方が広がってきた。組織に縛られず柔軟に働ける一方で、トラブルや事故に巻き込まれた際の安全網が乏しいなど思わぬ落とし穴もある。働き方への意識が変わる中で今後もギグワーカーの増加が見込まれるが、自由には一定のリスクが伴うと認識しておくことが重要だ。・・・ 

私のコメントは地の文も含めて以下の通りです。

 もっとも新しい働き方は必ずしも良い面ばかりではない。忘れてはいけないのは、ギグワーカーは法律上「個人事業主」として扱われ、「労働者」とはみなされない点だ。「本来は『仕事』に結びついている労災補償や最低賃金といった保護が失われることが最大の問題」(労働政策研究・研修機構の浜口桂一郎氏)。労働者でなければ、団体交渉もままならない。業務中に事故を起こしてケガをしても自己負担で片付けられる。誤ってモノを壊してしまい多額の損害賠償を請求されるといった事態も考えられる。

 プラットフォームの運営企業から仕事の発注を突然止められたり、一方的に報酬の算定基準を引下げられたりして、泣き寝入りするのも珍しくない。・・・・

ちなみに、団体交渉について「ままならない」という表現にしているのは、「できない」というわけではないけれどもとても難しいというニュアンスを滲ませたかったからです。

なお、同じ面の記事には法的保護の動きにも触れています。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO54063190W0A100C2TJQ000/ (法的保護の動き活発に)

Nikkei

2020年1月 6日 (月)

2020年年金法改正の論点@『労基旬報』2020年1月5日号

『労基旬報』2020年1月5日号に新春特別寄稿として「2020年年金法改正の論点」を寄稿しました。

 今年の通常国会に提出される予定の年金法改正案は、短時間労働者への適用拡大を始めとして労働法政策と関連する論点が多く、年の初めに若干整理しておきたいと思います。
 直接に法改正に向けた審議は昨年8月27日から社会保障審議会年金部会で開始され、2019年財政検証結果を確認した上で、被用者保険の適用拡大、高齢期の就労と年金受給の在り方等について議論を重ねてきました。本稿執筆時点ではまだ部会報告に至っていませんが、今後改正法案を作成して今年の通常国会に提出される予定です。ただしこのうち最重要事項である適用拡大については、2018年12月から働き方の多様化を踏まえた社会保険の対応に関する懇談会が開催され、2019年9月に議論の取りまとめがされていました。一方、高齢期の就労と年金については、2019年6月に閣議決定された『成長戦略実行計画』において70歳までの就業機会確保という政策が打ち出され、こちらも今年の通常国会に高齢者雇用安定法の改正案が提出される予定になっています。

短時間労働者への適用拡大等

 まず、適用拡大の中でも最も重要な短時間労働者の取扱いですが、そもそもの出発点は1980年6月に出された3課長内翰で、所定労働時間が通常の労働者の4分の3未満のパートタイマーには健康保険と厚生年金保険は適用しないと指示したことです(条文上には根拠なし)。この扱いがその後パート労働者対策が進展する中で見直しが求められるようになり、2007年には法改正案が国会に提出されましたが審議されることなく廃案となり、ようやく2012年改正で一定の短時間労働者にも適用されるようになりました。その適用要件は、まず本則上、①週所定労働時間20時間以上、②賃金月額88,000円以上、③雇用見込み期間1年以上、④学生は適用除外というルールを明記し、附則で当分の間の経過措置として⑤従業員規模301人以上企業という要件を加えたのです。その後、2016年改正でこの⑤の要件について、500人以下企業でも労使合意により任意に適用拡大できるようになりました。
 2012年改正法の附則第2条には、2019年9月30日までに短時間労働者に対する厚生年金保険及び健康保険の適用範囲について検討を加え、必要な措置を講ずるという検討規定が盛り込まれていました。一方、2017年3月の『働き方改革実行計画』には、兼業・副業に関して社会保険の検討が求められ、また雇用類似の働き方についても触れられていました。これらを踏まえ、2018年12月から上記検討会が開催され、2019年9月に議論の取りまとめがされたのです。そこではまず基本的な考え方として、「男性が主に働き、女性は専業主婦という特定の世帯構成や、フルタイム労働者としての終身雇用といった特定の働き方を過度に前提としない制度へと転換していくべき」と、いわゆる標準世帯を基準にすべきでないという考え方を明確に打ち出し、「ライフスタイルの多様性を前提とした上で、働き方や生き方の選択によって不公平が生じず、広く働く者にふさわしい保障が提供されるような制度を目指していく必要がある」と、多様な働き方に中立的な制度を求めています。そして、それにとどまらず、「個人の働く意欲を阻害せず、むしろ更なる活躍を後押しするような社会保険制度としていくべきであり、特に、社会保険制度上の適用基準を理由として就業調整が行われるような構造は、早急に解消していかなければならない」と、単に中立的であるよりはむしろ就業促進的な制度にすべきとの考え方を打ち出しています。
 短時間労働者への適用拡大については、「被用者として働く者については被用者保険に加入するという基本的考え方」が示される一方、「具体的な適用拡大の進め方については、人手不足や社会保険料負担を通じた企業経営への影響等に留意しつつ、丁寧な検討を行う必要性」が示されています。
 具体的な各要件のうち、見直しに積極的な姿勢が示されているのが適用拡大の対象企業の範囲です。2012年改正法附則第17条の経過措置による対象企業の限定(従業員501人以上)に対して、「企業規模の違いによって社会保険の取扱いが異なることは不合理であり、経済的中立性、経過措置としての位置づけ等にも鑑みれば、最終的には撤廃すべき」、「企業規模要件が労働者の就業先選択に歪みをもたらしている、グループ企業内での人事異動の妨げとなっている」などの意見を列挙し、結論的に「企業規模要件については、被用者にふさわしい保障の確保や経済活動への中立性の維持、法律上経過措置としての規定となっていることなどの観点から、本来的な制度のあり方としては撤廃すべきものであるとの位置づけで対象を拡大していく必要性が示された」と述べた上で、「現実的な問題として、事業者負担の大きさを考慮した上で、負担が過重なものとならないよう、施行の時期・あり方等における配慮や支援措置の必要性について指摘された」と、一定の経過措置や中小企業向け支援措置を示唆しています。なお最近の新聞報道によれば、適用拡大は2段階で、2022年10月から従業員101人以上規模企業に、2014年10月から従業員51人以上規模企業に拡大する予定とのことです。
 もう一つ見直しに積極的な姿勢が示されているのが勤務期間要件(1年以上)です。取りまとめでは「フルタイム労働者に係る2か月の基準に統一してはどうかとの意見」、「現行の雇用保険の基準に合わせ、期間を短縮する方向で見直してはどうかとの意見」、「勤務期間要件への該当の有無は雇用契約当初の時点では判断困難であるとして、要件の必要性自体を疑問視する意見」などが列挙され、結論的に「勤務期間要件については、事業主負担が過重にならないようにするという趣旨や、実務上の取扱いの現状を踏まえて、要件の見直しの必要性が共有された」と述べています。
 これらに対し、労働時間要件(20時間以上)、賃金要件(8.8万円以上)、学生除外要件については、程度の差はあれ見直しに慎重な記述となっています。たとえば労働時間要件については、「基準を引き下げれば労働時間を減らす誘因になってしまう恐れがある」とか「20時間という数字は雇用保険も同様で、被用者性の基準として分かりやすい」といった意見が列挙され、「まずは週労働時間20時間以上の者への適用拡大の検討を優先的課題とする共通認識」が示されており、今回は取り上げない方向が窺われます。
 一方賃金要件については、「賃金要件が就業調整の基準として強く意識されている」ので見直すべきといった意見と、「国民年金第1号被保険者の負担及び給付とのバランスの観点」から現行基準を維持すべきとの意見が並列され、そもそも論としてはやや両論併記的ですが、「最低賃金の推移を見ると、近いうちに週 20 時間労働で当然 月額 8.8 万円を超えてくることも想定される」ので今次改正で賃金要件の見直しを行う必要性はないという意見を示すことで、見直しの緊要性の観点から今回は取り上げないという方向性がやや滲んでいるように思われます。
 学生除外要件についても、「将来社会人になって被用者保険の適用対象とされていくべき学生を、他のパート労働者と同じ枠組みで議論すべきではない」といったこれまでの常識的な意見の一方、「学生像・学生の就労も多様化しており、本格的就労につながるインターンシップや、就職氷河期世代など比較的高齢な非正規労働者の学び直しのケースもある」との指摘、さらには「学生が安価な労働力として濫用されることを防ぐためにも、基本的には学生を適用対象に含めていくべき」との意見も示され、両論併記的です。結論部分も「近時の学生の就労状況の多様化や労働市場の情勢等も踏まえ、見直しの可否について検討する必要性が示された」と、どちらに転んでもいいような書きぶりとなっています。
 もう一つの適用拡大問題が適用事業所の問題です。実は1985年改正により法人であれば5人未満事業所でも適用されるようになりましたが、個人事業所は依然として5人以上でなければ適用されませんし、さらに厚生年金保険法第6条第1項第1号は未だに適用事業を各号列記で規定しており、各号列記事業に当てはまらない事業は、第2号の「法人」ですくわれない限り、言い換えれば個人事業であるかぎり、5人以上事業所でも適用されないという状況が続いています。
 この点について取りまとめは、「現行要件は制定後相当程度の時間が経過しており、非適用事業所に勤務するフルタイム従業員のことも斟酌すれば 、労働者の保護や老後保障の観点から、現代に合った合理的な形に見直す必要がある」、具体的には「従業員数5人以上の個人事業所は、業種ごとの状況を踏まえつつ原則強制適用とすべき」と適用拡大に前向きで、特に「いわゆる士業等が非適用となっていることの合理性」には疑問を呈し、方向性としては「適用事業所の範囲については、本来、事業形態、業種、従業員数などにかかわらず被用者にふさわしい保障を確保するのが基本」と述べています。ただ、「非適用業種には小規模事業者も多く、事務負担や保険料負担が過重となる恐れがある」との指摘も付け加え、結論的には「非適用とされた制度創設時の考え方と現状、各業種それぞれの経営・雇用環境 などを個別に踏まえつつ見直しを検討すべき」とやや慎重な姿勢を見せています。
 一方、兼業・副業の関係では、現在の運用では適用の判断は事業所ごとに行い、週所定労働時間も1事業所で判断される一方、複数事業所でそれぞれ適用要件を満たす場合には報酬を合算して標準報酬月額を決定することとされています。複数事業所の労働時間を合算して適用判断することについては、「引き続き議論」とかなり慎重な姿勢です。さらに、雇用類似の働き方への対応についても、「引き続き議論」にとどめています。
 社会保障審議会年金部会では2019年9月27日に適用拡大について議論され、大勢は適用拡大に積極的な意見でした。ただこの問題はとりわけ非正規労働者を大量に活用するビジネスモデルが確立している流通・サービス系の中小企業にとっては大きな影響を与えるものであり、2007年改正案や2012年改正の際にもその強い反発が大幅な適用除外という形になった経緯があります。今回も、大企業を代表する経団連は適用拡大に積極的ですが、中小企業を代表する日本商工会議所は消極的な姿勢を示しており、適用拡大の幅についても、従業員50人とか100人といった数字が飛び交っており、最終的にどういう形で着地するのか、まだ見えてきません。

高齢期の就労と年金受給の在り方

 かつては、高齢期の就労と年金受給の在り方といえば、年金支給開始年齢の引上げが最大の論点でした。1994年に定額部分の支給開始年齢を段階的に60歳から65歳に引き上げていくという年金法改正がなされ、これを援護射撃するべく同年に65歳までの継続雇用を努力義務とする高年齢者雇用安定法の改正がされるとともに、高年齢雇用継続給付が雇用保険法に規定されました。また2000年に報酬比例部分の支給開始年齢をやはり60歳から65歳に引き上げていくという年金法改正がなされ、労働法サイドでは2004年に65歳継続雇用の原則義務化(労使協定による例外あり)、2012年には65歳継続雇用のほぼ完全義務化がなされています。
 しかし今回は、雇用就業サイドで70歳までの就業機会確保が打ち出されているものの、年金支給開始年齢を70歳に引き上げていくという政策は否定されています。それは動かさず、制度上年金を受給できる60歳代後半層の高齢者の就業を促進するという新たな手法をとることとしたわけです。もっとも、制度上年金を受給できるからといって、受給しなければならないわけではありません。むしろ2004年改正で導入された繰下げ規定によって、就業し続ける65歳以上の高齢者が受給年齢を繰下げることによって、その年金額を増額することができるようになっており、できるだけ多くの高齢者がそちらのルートに載っていくことを期待している政策体系になっているといえます。さらに、成長戦略実行計画では年金制度について次のように記述しています。
 他方、現在60歳から70歳まで自分で選択可能となっている年金受給開始の時期については、70歳以降も選択できるよう、その範囲を拡大する。加えて、在職老齢年金制度について、公平性に留意した上で、就労意欲を阻害しない観点から、将来的な制度の廃止も展望しつつ、社会保障審議会での議論を経て、速やかに制度の見直しを行う。
 このような取組を通じ、就労を阻害するあらゆる壁を撤廃し、働く意欲を削がない仕組みへと転換する。
 支給の繰下げを70歳以後も可能にする法改正や、在職老齢年金(高在労)の見直しも打ち出されています。これを受けて、社会保障審議会年金部会では、10月9日、18日に高齢期の就労と年金受給の在り方について審議が行われました。そこでは上記計画で言及されていた在職老齢年金の見直しと繰下げ制度の柔軟化が議論されています。在職老齢年金には60歳から65歳までの低在労(月収28万を超えると年金減額)と65歳から70歳までの高在労(月収47万を超えると年金減額)があり、主として議論されているのは高在労の方です。労働収入が高いと年金額を減らされるので就労意欲を削ぐという批判です。10月9日に提示された事務局の見直し案では、基準額を62万円に引き上げるという案と完全に撤廃するという2案が示されましたが、委員からは慎重な意見も呈されたようです。また、与党から金持ち優遇との批判の声が上がり、国会で野党からも批判されるなどしたため、11月13日に提示された修正案では基準額を47万円から51万円に僅かだけ引き上げるという案になり、さらに批判を受けて現状維持となりました。
 受給の繰上げ、繰下げ制度とは、原則の支給開始年齢である65歳より早く(最大60歳から)受給し始めれば、その分支給額が少なくなり、65歳より遅く(最大70歳から)受給し始めれば、その分支給額が多くなるという制度です。何歳から受給し始めても、トータルの受給額が変わらないように設計されています。今回の改正案は、この繰下げの上限年齢を70歳から75歳に引き上げようというものです。
 ただ、70歳就業機会確保政策との関係で言えば、現在でも可能な70歳までの繰下げを選択する人をもっと増やそうというのが現時点での政策目標ということになるでしょう。実は、ここで上述の在職老齢年金(高在労)が邪魔者として登場してくるのです。本来、繰下げ支給とは、受給開始を繰下げた分だけその後の受給額が増えるはずです。ところが、繰下げ支給制度と在職老齢年金制度を掛け合わせると、在労で減らされた分は(本来受給できた分ではないので)受給開始後戻ってこないことになってしまうのです。これでは、受給を繰下げようという意欲が大幅に減殺されてしまいます。今回の制度改正の大きな柱が、支給開始年齢の引上げではなく受給の繰下げで対応という点にある以上、それが大きな課題となることは理解できます。

その他

 社会保障審議会年金部会では、この二大論点以外にもいくつか細かい論点が議論されています。細かな業務運営改善事項は別にして、適用対象の範囲という点で注目に値するのは、10月30日に提示された短期労働者の適用拡大と11月13日に提示された適用事業所の拡大です。
 前者は、2ヵ月以内の期間を定めて使用される者について、雇用開始の時点では適用せず、「2か月を超えて引続き使用されるに至った場合」に適用するとしていますが、これを「2か月を超えて使用されることが見込まれる者」については最初から適用するというやり方に変えようというものです。具体的には、雇用契約上契約更新があることが明示されている場合や、同一事業所の同一契約で更新等により2か月を超えて雇用された実績がある場合が想定されています。雇用保険法では、基準は1か月ですが雇用見込み要件となっていますし、そもそも2012年改正で導入された短時間労働者の適用要件(上記③)は、1年以上の雇用見込みを要求しており、フルタイムとパートタイムで何重にもずれが生じています。
 後者については上述の通り、検討会の取りまとめでも見直すべきとの意見が示されていましたが、事務局案では非適用業種のうち、法律、会計等に係る行政手続等を扱ういわゆる「士業」を適用業種とすることとしています。

 

 

 

«焦げすーもさんの疑問に答えるトリビアシリーズ労災補償編