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2026年2月11日 (水)

新書大賞で、小熊英二さんが拙著を挙げてくれました

61dmvvzbzvl_sy522_ 毎年恒例の『中央公論』新書大賞。今回は、鶴見太郎さんの『ユダヤ人の歴史』『シオニズム』をはじめ、凄い力作が目白押しだったので、拙著如きが割り込む余地はないだろうなと思っていましたら、その通り、30位以内にはランクインしませんでしたが、「目利き47人が選ぶ2025年私のオススメ新書」の中で、小熊英二さんが拙著『管理職の戦後史』を挙げていただいておりました。

Oguma26

ありがとうございます。

2026年2月10日 (火)

あなたもわたしもみんな高度人材

Phpthumbphp_400x400 拙著『外国人労働政策』(中央公論新社)を読まれた神行太保さんが、

高度人材のポイント計算、自分にはめてみると80点なんやけど合ってるのか不安になるし、同僚の中国人女子が65点はええんか?と思わなくもない 彼女、別にそこまで高度な人材ちゃうぞ

と呟いているのですが、いやまさにそれが狙い目。

ブルーカラー外国人労働者を「単純労働者」と見下して建前上受け入れないと言い続けてきたその一方で、単に大学や専門学校卒業レベルのホワイトカラー労働者を「専門・技術的労働者」と誇大広告して導入してきた結果、いまや「技人国」は技能実習よりも特定技能よりもいわんや定住者よりも多数を占めるに至っているわけですが、それ以上に超誇大広告な在留資格が、鳴り物入りで導入されてきた「高度専門職」であって、その中身がいかに怪しいものであるかをよく分かっていただくために、拙著252~253ページには、その高度人材のポイント計算表を載せて、自分だったら何点取れるかをその場ですぐに計算して頂けるようにしておいたのです。

これでいけば、あなたもわたしもみんな高度人材になっちゃうよ、という話です。

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 まず、ごく普通の大学を卒業していればそれで一〇点。大学卒業後五年以上経っていればそれで一〇点。年齢が二九歳以下で年収が四〇〇万円あればそれで一〇点。この年齢二九歳以下というのがそれだけで一五点。そして(これは日本人なので当たり前ですが)本邦の高等教育機関において学位を取得しているので一〇点。ここまででもう五五点になります。これに、日本人なので当然その能力があるはずの日本語能力試験N1合格者以上の一五点を加えると、それだけで合格点の七〇点に到達してしまいます。

 もちろん、外国人は最後の日本語能力のところにハードルがありますが、高度な専門能力を証明するはずの部分に関する限り、日本人であればそんじょそこらのごく普通の若手ホワイトカラー労働者でも「高度専門職」になれてしまうような要件設定になっていることは確かなようです。しかしながら、これは入管法の欠陥というよりは、入管法が作動する場としての日本の雇用社会そのものの性格がもたらしているというべきでしょう。つまり、日本社会においては、ホワイトカラー労働者はエリート層とノンエリート層に明確に区別されていないという特徴です。

 アメリカであればビジネススクールをはじめとした大学院レベルを卒業したエリート層ホワイトカラーがはじめから管理職や専門職として就職し、はじめから労働時間規制の適用除外(エグゼンプト)として高給で処遇されますし、フランスでもグランゼコールと呼ばれる高等専門教育機関の卒業生がはじめから高給の管理職、専門職(カードル)として、普通の大卒ホワイトカラーとは隔絶したキャリアを歩んでいきます。ところが日本では、戦前には民間分野でもホワイトカラーが大卒のエリート層と実業学校卒のノンエリート層の二層制でしたが、戦後その区分はなくなってしまい、ホワイトカラーはすべてトップに上り詰める可能性のあるエリート候補生として、しかし若いうちはみんなノンエリート的な雑巾がけの仕事をやらされるという平等主義的な社会になってしまいました。私はこれを「みんながエリートを夢見る社会」と呼んだことがありますが、その価値判断は措くとして、それが欧米の制度を見習って作られた「高度専門職」という在留資格との間に矛盾をはらんだものであることは間違いありません。

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2026年2月 7日 (土)

佐々木俊尚さんがvoicyで拙著『外国人労働政策』を紹介

Chukogaikoku_20260207091601 佐々木俊尚さんが、voicyの「毎朝の思考」で、外国人労働(移民)問題に関する二冊の本を取り上げて喋っていて、そのうちに拙著『外国人労働政策』(中央公論新社)も入っています。

https://voicy.jp/channel/2185/7527566

「外国人労働者問題の解像度を上げる2冊」とのことで、もう一冊は是川夕さんの『ニッポンの移民』(ちくま新書)です。

 

日経新聞書評欄で『管理職の戦後史』が紹介

Asahi2_20260207084701 本日の日経新聞の書評欄で、拙著『管理職の戦後史』(朝日新書)が1段ベタ記事ですが紹介されています。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO94256950W6A200C2MY6000/

 管理職は戦後から現在まで日本型雇用システムの重要な存在であり続けてきたが、その立ち位置は驚くほど変わった。働き方改革から取り残され、権限は乏しいのに残業代が出ない「名ばかり管理職」のイメージが強いが、終戦直後は労働運動の先頭に立って経営者を追及していた。最近では若者から「罰ゲーム」とさえ呼ばれるようになった管理職の波瀾万丈の歴史をたどり、その在り方を考える。

 

 

 

 

2026年2月 4日 (水)

八代充史他編『成果主義人事管理 オーラルヒストリー』

30860 八代充史・牛島利明・梅崎修・島西智輝・南雲智映・山下充編『戦後労働史研究 成果主義人事管理 オーラルヒストリー 90年代以降の富士通・NECの制度改革』(慶應義塾大学出版会)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766430868/

・90年代に導入された「成果主義」とは何だったか。
・大変革期の中、企業はいかにして制度改革を実行したのか。
・社員・管理職・経営陣・組合員は成果主義をどう捉えたのか。
90年代初頭、それまでの年功序列の評価に替わり、個人業績によって報酬等を決める「成果主義」を導入する制度改革が、リーディング・カンパニーである富士通とNEC で実施された。その背景や運用や試行錯誤の実態を、当時者へのインタビューによって明らかにする。今日の人事管理の諸問題の検討にも役立つ1冊。

『能力主義管理』『新時代の日本的経営』『日産・ルノー』ときたオーラルヒストリーの4冊目で、あの90年代の富士通の成果主義を推進した人々の生の証言が読めるというだけで、これはもう面白くないはずはないという一級史料です。

はじめに
解題 本書の概要とその意義(八代充史)
第1部 富士通の成果主義人事管理
第1章 成果主義導入の背景――三宅龍哉氏
第2章 メガコンペティションへの対応と成果主義――岡田恭彦氏
第3章 労働組合はいかに成果主義に対応したのか――山形進氏
第4章 富士通の人事改革――飯島健太郎氏
第2部 NEC の成果主義人事管理
第5章 成果主義導入の目的――佐藤秀明氏
第6章 報酬をめぐる制度改革――瓜生光裕氏
第7章 役割を基準とした等級制度――上南順生氏

90年代の富士通の成果主義を勤労部長、人事勤労部長として推進した岡田氏、その下で勤労部プロジェクト課長として切り込み隊長として活躍した三宅氏の二人の回想と、その時期に富士通労働組合の労働対策部長、中央書記長としてカウンターパートとして対応した山形氏の回想とが、見事に噛み合っていて、これが決して経営側が突っ走ったという分けではなくむしろ労働組合側の強い問題意識に引っ張られる面もあって進められたということが、浮かび上がってきます。

八代 労働組合は裁量労働制を適用することとか、あるいは世間一般でいう、社長が当時使われていた成果主義を導入するということに関しては、どうだったのでしょうか。

三宅 基本的にはスタンスは前向きですね。・・・当時の中央執行委員長の渡辺紀暢さんから直接伺った話です。

 今までの組合活動を通じた集団的な労使関係で、平均的な賃金水準はずいぶん高くなってきて、最低限の下支えはずいぶんできてきた。これから先の処遇の改善では、一律に配るのではなくて各人の貢献に見合って配分すべきではないかと。だから底上げはできたので、ここから先はやった人に配ろうではないかと。素晴らしい問題意識だと思います。 

 それで、さらにこれも渡辺委員長から何度も聞いているのですが、「成果主義は組合から社長に提案した」と。そういうことなので、あるべき論をめぐるは労使間ではなかったといっていいと思います。・・・

この背景の一つは、日本的な企業別組合であるわけですが、

八代 日本の企業別組合は、もともと会社以上に会社のことをよく知っているし、会社思いですからね。

岡田 いま、会社以上にとおっしゃいましたよね。まったくそのとおりで、会社以上に会社が勝ってほしいと思っている。同時に漏れそうな人を救済するのが組合の役割ですから、それもやってくれるわけです。それでも、富士通労組でいえば、会社以上に富士通がメガコンペティションで勝ち残ることを強く願っていると。むしろ、山本や関沢ですら感心するぐらいだったと思いますね。

組合側の山形氏の回想によれば、これは組合員のマジョリティを占めるようになった技術者たちの気持ちの反映でもあったようです。

八代 ・・・富士通の労働組合も、成果主義の定義にもよるのですが、どちらかというと成果主義に対してはそんなにネガティブではなく、むしろ経営側の問題意識に積極的に応えていったという理解でよろしいでしょうか。

山形 平等よりも、公平公正を求めるようになったわけです。さっき言った、SEの例が顕著ですけど、仕事の質が悪い人の収入が多くて、仕事の質がいい人が少ないというのは変でしょう。・・・

これを見て思いだしたのは、『管理職の戦後史』で、企画業務型裁量労働制の議論の元になったものの一つである松下電器産業労組研究所『よみがえホワイトカラー』です。これが労働側から大幅な裁量労働制の導入を訴え、これに反応する形で日経連が裁量労働制研究会で提起していくという流れになるわけですが(拙著186頁以下)、富士通にしろ、本書でもう一つ取り上げられているNECにしろ、あるいは極めて日本的な会社だと思われていた松下電器にしろ、当時の電機労連(現在の電機連合)に属するエレクトロニクス系の労働組合は、共通した問題意識を持っていたとこが窺われます。

 

 

 

2026年2月 2日 (月)

本日の日経に解雇金銭救済の記事

本日の日経新聞に、礒哲司さんが「解雇の金銭救済、3たび議論」というかなりの分量の記事を書かれています。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOTG0887C0Y6A100C2000000/

不当解雇された労働者に、復職するか、金銭の対価を受け取って退職するかを選ぶ権利を与える「解雇の金銭救済制度」について、厚生労働省は今年、新検討会で研究を再開する。直近では2015年以来3度目の議論となるが、11年たつ今も労働者の8割は制度の意図を理解していない。ジョブ型雇用で金銭救済が多い欧州と日本の雇用管理は異なる。救済額の算定式を編み出せるかが法制化の可否を占う。・・・・・

この記事の中に、JILPTの2024年の解雇無効判決後の復職状況調査や、2025年の労働者意識調査の結果がグラフ付で引用されております。それぞれのもとになった調査シリーズの全文はここから読めますので、ご参考までに

調査シリーズNo.244 解雇等無効判決後における復職状況等に関する調査

調査シリーズNo.260 解雇等に関する労働者意識調査

また、まだ報告書としてはまとまっていませんが、諸外国の実情調査を担当した山本陽大さんにかなり詳しく取材したようで、

同機構の山本陽大主任研究員は「ドイツでは産業別労働組合による権利保護サービスの充実などで労働者が容易に訴訟を起こせるため」と日独の差を説明する。・・・・・・

山本氏は「ドイツで金銭解決が機能する背景には、同一職種に転職した場合は基本給が変わらないジョブ型雇用の徳性がある」と話す。

などと書かれています。

Https___imgixproxyn8sjp_dskkzo9413623001

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2026年2月 1日 (日)

あまりにも面白いので・・・・著者冥利に尽きます

Lnpryph_400x400 拙著『外国人労働政策』(中央公論新社)を読まれた「大和モロー」という方が、こんなことを呟いておられて、

濱口桂一郎の労働本まじですごい。どこまでもついていこうという気持ちを起こさせる。

あまりにも面白いので、とにかくなんでもいいから濱口桂一郎を一冊、みんな、読もう。

いやぁ、ここまで言っていただけるというのは、ほんとに著者冥利に尽きます。

 

 

2026年1月30日 (金)

センター試験監督のジョブ型とメンバーシップ型

こんなまとめがありましたが、

センターの試験監督を大学教授や医師にやらせているって冷静に考えると正気の沙汰ではないのでは?「まじで苦行」「無償労働のことも」

センターの試験監督だけは二度とやりたくない。 大学の二次試験のよりはるかにきつい。台本通りに1秒も狂わずにロボットのように動かないといけない。なにか一つでも違うと、夕方の全国ニュースに出るという恐怖。しかも医者足りないって言いながら、医者に試験監督させてるの本当に頭おかしい。

・・・・・

これは、所属組織の仕事は全て潜在的には自分の仕事であり、組織に命じられたら専門も糞もなくその仕事を粛々とこなすのが所属するメンバーの務めであるというメンバーシップ型組織のロジックと、組織とは全て定義された職務の束であり、それぞれの職務にそれを的確にこなすために嵌め込まれた者は当該職務の的確な遂行以外に何ら義務を負わないというジョブ型組織のロジックとが、真正面からぶつかっている現場ですな。

日本の組織は官民問わず、圧倒的にメンバーシップ型でできているわけですが、例外的に法令で事細かにジョブとスキルが定められ、医学部を出て医師の資格を有する者だけが医師として採用され、看護学校を出て看護師の資格を有する者だけが看護師として採用され、そのやれるタスクまでもが事細かに法令で規定されているようなジョブ型が強制されている医療の世界において、なぜかセンター試験の監督というフェーズにおいては、純粋メンバーシップ型の行動規範が要求されることに対する、現場からの違和感の表出なのでしょう。

 

 

 

 

 

2026年1月29日 (木)

『新入社員に贈る言葉(2026年版)』

4395897653284ec20d9405338b5411f60e377f23 経団連出版編『新入社員に贈る言葉(2026年版)』をお送りいただきました。

https://www.keidanren-jigyoservice.or.jp/pub/cat8/42a26e7192984a1e8a3538947a5693ce635ac8b6.html

 本書は、日本の様々な分野の第一線で活躍されている有識者や著名人が、働くとはどういうことか、充実した人生を送るコツは何かなどを、新たに社会人となる方々に向けて贈る、励ましの言葉や職業人生へのアドバイスです。
 2026年刊行の最新版には、経団連会長の筒井義信さんをはじめ、ディー・エヌ・エー会長の南場智子さん、宇宙飛行士の野口聡一さん、東京大学名誉教授の上野千鶴子さん、料理人の笠原将弘さん、キャスターの大越健介さん、俳優のサヘル・ローズさん、作家の江上剛さん、パリ五輪女子レスリング金メダリストの藤波朱理さん、いけばな草月流家元の勅使河原茜さんなどの方々が、新社会人へのメッセージを寄せてくださいました。自身の新入社員の頃の思い出や人生経験を踏まえて語りかける厳しくもあたたかい言葉のひとつひとつは、これから始まる職場生活への貴重なヒントとなり、ひいては人生の指針となるでしょう。
 新入社員へのプレゼントとしてはもちろん、新入社員歓迎のスピーチ作成の参考書としてもご活用いただけます。

ということで、上野千鶴子さんは「今の会社はいつまであるか、そこで定年まで働くか」と題してこんなことを言ってます。

就活は婚活と同じく、お見合いです。

会社はあなたを選びますが、あなたも会社を選びます。

今は結婚が一生ものではないように、就職も一生ものではなくなりました。・・・

日本の文脈ではまさにその通りなんですが、でも、究極の親密圏を形成する神聖なる結婚と、ビジネスライクにジョブのスキルの賃貸借契約を締結する雇用とを、全く同列に見るこの発想は、ジョブ型社会の(少なくとも社会保守的な)人々にとっては目を剥くものでしょう。いや、ジョブ型社会のフェミニストにとっては、結婚の神話を脱神話化し、結婚なんて就職と同じくらい取引関係なのよ、というメッセージになるのでしょうけど、そして上野さんにはそういうインプリケーションもあるのでしょうけど、でも経団連出版のこの本を普通に読む普通の日本社会に生きる人々にとっては、そういうジョブ型社会の文脈ではなく、就職ってのは結婚と同じくらい「官能的」なものなのだというメンバーシップ型社会の文脈で受け取るのではないでしょうかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

労働局あっせんにおける解雇等解決金額23.5万円@『労務事情』2月1日号

9d051fe338494daa91a61f1c8fc59829『労務事情』2月1日号に「労働局あっせんにおける解雇等解決 金額23.5万円」を寄稿しました。

https://www.sanro.co.jp/book/b10159212.html

 今回の数字は、筆者自身が調査した数字です。周知のように、過去20年以上にわたって解雇の金銭解決制度の立法化が試みられてきましたが、現時点でなお実現に至っていません。筆者は厚生労働省の要請に基づき ・・・・・・

 

ジェラード・ラッセル『失われた宗教を生きる人々』@『労働新聞』書評

800sub1 『労働新聞』書評、今年の第一回目は、ジェラード・ラッセル『失われた宗教を生きる人々』(亜紀書房)です。

https://www.rodo.co.jp/column/212557/

 中東といえばイスラム教一色に塗りつぶされた世界、正確にはそこにユダヤ教のイスラエルが割り込んだ世界、というのが一般の印象だろう。だが現実の中東世界の端々には、古代から脈々と伝統を守り続ける少数派の宗教が生き残っている。本書は、最初はイギリスの外交官として彼らの相談や亡命にかかわり、退官後は一研究者として辺境を旅しながらまとめ上げた、「忘れられた王国の継承者」(原題の直訳)たちのルポルタージュである。

 湾岸戦争やイラク戦争で戦場となったイラク南部の湿地帯に、古代バビロニアの慣習を守って暮らしてきたマンダ教徒。イラク北部のクルド人自治区の片隅で古代異教の神を信仰し、周囲から悪魔崇拝者とみなされてきたヤズィード教徒。かつて古代ペルシャ帝国の国教として勢威を振るいながらも、アラブに敗れてイスラム化したイランでは異教徒として迫害されてきたゾロアスター教徒。やはりイスラム化とともに少数化し迫害されてきたエジプトのコプト教徒など、どれも興味深い。

 著者が彼らにアクセスする道程も波瀾万丈だ。長く国家権力の目の届かない所にいた彼らが、中東諸国の独立やうち続く戦争で、むき出しにされていく。とりわけサダム・フセイン政権の下で、マンダ教徒たちは深刻な破滅の危機に陥っており、外交官の彼に助力を求めてきた。クルド人自治区の成立で一息ついていた「悪魔崇拝」のヤズィード教徒に会うために、彼はトルコ経由でイラク辺境に向かったのだが、その後IS(イスラム国)の支配下に置かれ虐殺・強姦される予兆もにじみ出ている。

 とはいえ本書で一番興味を引きつけられたのは、周囲のイスラム教徒から迫害されていない超古代ヘブライ人 サマリア人の物語だった。彼らによれば、彼らは古代イスラエル王国の末裔だ。ダビデとソロモンの王国は南北に分かれ、北のイスラエル王国はアッシリアに滅ぼされ、住民は離散したといわれるが(失われた十支族)、実は少数残ってサマリアの地で古代ヘブライの宗教を守り伝えてきたという。その後南のユダ王国もバビロニアに滅ぼされ、バビロン捕囚の後、ペルシャに解放されてエルサレムに戻って古代ユダヤ教を確立した(ちなみに、本書には現存するネストリウス派のアッシリア人やカルデア人も登場する)。

 ユダヤ人はサマリア人を異教徒とみなし差別した。イエスの「良きサマリア人」にそれが表れている。やがてユダヤ王国はローマ帝国に敗れ、ユダヤ人は離散する(が多くは現地にも残った)。パレスチナの地はキリスト教化し、イスラム教化していく。

 その中で、サマリア人は伝統を守り続けた。旧約聖書のうち最初の5篇だけを聖典とし、イザヤだの何だの預言者は認めない。出エジプトを祝う過越の祭りでは、モーセの伝統どおり羊を生贄に捧げる。この儀式のスポンサーはパレスチナだ。そう、サマリア人はパレスチナ自治政府が認めるパレスチナ人であり、議席もあった。100人あまりと滅亡寸前でありながら、政治的に迫害されていない少数派教徒なのだ。

 

 

 

2026年1月27日 (火)

労災保険の遺族補償年金は夫にも@WEB労政時報

WEB労政時報に「労災保険の遺族補償年金は夫にも」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers/article/90337

去る1月14日、労働政策審議会は労働条件分科会労災保険部会で審議してきた労災保険の見直しについて厚生労働大臣に建議しました。その内容は多岐にわたっていますが、世間的に最も注目を集めてきたのは、本連載の昨年2025年8月12日付記事で詳しく解説していた遺族補償年金の男女格差の問題です。・・・・

 

上林千恵子編著『よくわかる産業社会学[第2版]』

670010 上林千恵子編著『よくわかる産業社会学[第2版]』(ミネルヴァ書房)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.minervashobo.co.jp/book/b670010.html

本書は、仕事、職場、キャリア、失業、階層の問題が歴史によって過去と、構造によって現在と関連していることを示した産業社会学の教科書である。初版刊行の2012年とくらべて労働環境や労働のあり方そのもの、そして関連する法律が変化したことを踏まえて内容をおおきく改訂。情報がアップデートされてますます「よくわかる」一冊に。

おおむね、章ごとに分担執筆されている感じです。すなわち、

Ⅰ 仕事とキャリア

は梅崎修さん、

Ⅱ 企業組織の性格

は藤本真さん、

Ⅲ 企業内キャリアと人事管理

は佐野嘉秀さん、

Ⅳ 職場の中での生活

は藤本真さん

Ⅴ 就業形態の多様化

は佐野嘉秀さん、

Ⅵ 社会的存在としての企業

は高橋康二さん、

Ⅶ 労働組合と労使関係

も高橋康二さん、

Ⅷ 働く場の女性

は柚木理子さん、

Ⅸ 高齢者の働き方

は上林千恵子さん

Ⅹ 日本で就労する移民・外国人労働者

はもちろん上林千恵子さん

XI 仕事と暮らしを支える社会保障

は上村泰裕さん、

XII 産業社会学の歴史

は天畠一郎さん、

という分担で、いかにもというのもあれば、え?この人がこのテーマというやや意外なのもあったりしました。

 

 

 

 

 

 

そして誰も彼もが神聖なる憎税同盟になった・・・

もはや与党も野党もゆ党も保守も革新も反動も右翼も左翼も中道も、およそ国会に議席を有する政党という政党はことごとく、神聖なる憎税同盟の一派に成り果ててしまったようです。

Oozjpqjm_400x400 島木さんのつぶやきから・・・

各党の討論会を見ていたが,左右与野党問わず消費減税大合唱の「憎税同盟」(濱口桂一郎)。 食料品0%にせよ一律5%にせよ,国の文教予算が吹っ飛ぶくらいの規模感だろうにどうするのかな。 税金はただただ取られるだけで《納税を通じた大きな政府・社民的政策の推進》という方向にはついに行かない…

井手英策か神野直彦が書いていたが,消費税はたしかに逆進的だが,人の往来も激しいグローバルな時代に,今・ここにいる人から簡素に広く薄く徴税できる税だから,一度取った上で逆進性を上回るくらいの徹底した再配分を行うという,《入りと出》のトータルで捉えよと言っていて,私は合点がいったが。

…そもそも,《社民的政策》と言ったときに,本邦だと反戦平和で「憎税」の三宅坂にあった政党になるのが何とも幾重にもねじれているような感じがする。

そうですね、日本の政党名は矛盾に満ちていて、唯一「リベラル」と名乗る自由民主党がなぜかリベラルを嫌悪し、唯一「ソーシャル」と名乗る社会民主党がソーシャルを否定したがる。

 

 

 

 

 

2026年1月26日 (月)

脊髄反射9割とはいえ、ちゃんと読んでくれる人もそれなりに

Chukogaikoku_20260126091901 拙著『外国人労働政策』(中央公論新社)のごく一部を切り取ってダイヤモンドオンライン上に載せたこの記事に、

https://president.jp/articles/-/107576

421件という大量のブックマークコメントがついたのですが、

https://b.hatena.ne.jp/entry/s/president.jp/articles/-/107576

なんというか、やはりというか、本文をちゃんと読まずに、このテーマだからこうというあらかじめ決め打ちのコメントばかりが連なっている様は壮観ではあります。とはいえ、よく見ていくと、ちゃんと読んでくれている方も結構それなりにいることが分かり、ほっとする面もあります。

まあ、昨年から急激に外国人問題が政治的イシューとして取り上げられるようになり、そういうのばかり見ている脳みそで、拙著自体からすると極めて限られた部分しか切り取っていないこの記事を流し読みして、ちゃんと読んでくれという方が無理筋で、既に脳内に確固としてある文脈で以てとりあえずこの記事の中身はともかくとして自分の言いたいことだけを書き殴るというのは、思考経済的には合理的な行動パターンなのでありましょう。

とはいえ、なかにはそういう趣旨のコメントもあったりして、層の深みも感じますね。

KKElichika さすがhamachan先生。(労働)政策の歴史的背景の整理にかけては右に出るものなし。にも関わらず、前提の話が難解すぎて内容に無関係な頓珍漢お気持ちブコメが只管並んでいる現実がこの問題の難しさを物語っている。

ちなみに、本書の「はじめに」において、わたくしはこう書いておりました。

・・・なぜ日本政府の外国人労働政策は、当初提起されていたフロントドアではなく、もっぱらサイドドアに頼る形になってしまったのでしょうか。外国人労働問題をめぐっては過去三〇年以上にわたって「ああすべきだ」「こうすべきだ」とさまざまな立場から熱っぽく議論が交わされてきたにもかかわらず、この「なぜ」という問いに対して実証的に論じた文献はほとんどありません。

 おそらく多くの方々は、外国人労働者を入れたがらない保守派の政治家におもんぱかってフロントドア政策を忌避したのだろうとか、外国人を労働者でないことにして働かせた方が搾取しやすいからわざとそういう悪辣な仕組みにしたのだろうと思っているのではないでしょうか。本書の編集者(中西恵子さん)もそう感じていたそうです。しかし、外国人労働をめぐる政策過程を緻密に見ていくと、そういう単純な話ではなかったことが分かってきます。三〇年間も続いたサイドドア型の外国人労働力導入政策は、必ずしもはじめから意図されて作られたものではなく、第一義的には法務省官僚と労働省官僚との権限争いの故に創り出されたものであり、第二義的には当時の労働政策を支配していた日本型雇用システム偏重イデオロギーの無意識的な副産物として生み出されたものであったのです。

 と言っても、多くの読者には何のことやらよく分からないでしょう。本書はその意図せざる政策形成のメカニズムを、新聞記事を中心とした当時の史料を駆使しつつできるだけ詳細に解き明かすことを目指しています。外国人労働政策として実施されたさまざまな制度については、本書は何ら新たな情報を提供するものではありません。またそうした政策によって振り回された外国人労働者たちの実態についても、既に山のようなルポルタージュが書かれています。本書が目指すのは、なぜそんなことになってしまったのか、なぜ日本の外国人労働政策は三〇年もの回り道をしなければならなかったのかについて、「そうだったのか!」という驚きを伴う答えを示すことにあります。

頭に血が上って「ああすべきだ」「こうすべきだ」と声高に論じ合っている人々からすると何を迂遠な話をしているのか、と思われるかも知れませんが、そういうときこそ心を静めて、「なぜそんなことになってしまったのか」という歴史的な謎解きをじっくりと試みる必要があるはずだ、と、私は信じております。

 

 

 

 

2026年1月25日 (日)

佐々木俊尚さんが拙著を読まれたようです

H676ufd7_400x400_20260125083601 現代日本の代表的なインフルエンサーである佐々木俊尚さんが、拙著『外国人労働政策』を読まれたようです。

濱口桂一郎さんのこの本、非常に面白く勉強になった。なぜ日本に統一的な外国人労働者政策ができてこなかったかといえば、それは省庁間の権益争いだったという明快な指摘。/なぜ「安く働く外国人」が許されてきたのか…日本の外国人労働政策の迷走を招いた霞が関官僚たちの争い

「非常に面白く勉強になった」という感想をいただきました。ありがとうございます。

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2026年1月23日 (金)

『2026年版経営労働政策特別委員会報告』

6e39111bd8d6393122d8da184856d8585d35ac8f 経団連の毎年出される春闘文書『2026年版経営労働政策特別委員会報告』を頂きました。

https://www.keidanren.or.jp/policy/2026/003.html

はじめに
Ⅰ.賃金引上げの力強いモメンタム「さらなる定着」が必要な理由
「デマンドプル型インフレ」への移行による「成長と分配の好循環」の実現
「名目賃金」の継続的引上げによる「実質賃金」の安定的なプラス化
日本経済や企業収益へのプラスの影響
Ⅱ.賃金引上げの力強いモメンタム「さらなる定着」に向けた基本的な考え方
2026年春季労使交渉・協議の前提となる経営環境
経営側の基本スタンス
Ⅲ.賃金引上げの力強いモメンタム「さらなる定着」の具体策
多様な方法による「賃金引上げ」の実施
地域経済を支える中小企業における構造的な賃金引上げ
「総合的な処遇改善」における具体策 

経営側の文書でありながら、もはや全編これ「賃金引上げ」という言葉が乱舞しております。

経団連タイムスの記事でその内容を見ると、

https://www.keidanren.or.jp/journal/times/2026/0122_01.html

Ⅰ.賃金引き上げの力強いモメンタム「さらなる定着」が必要な理由

わが国は「明らかにデフレではない」状況にあるが、デフレマインドは完全には払拭されていない。「資源を持たない島国」「人口減少」の二つの供給制約があるなかで「コストプッシュ型インフレ」に直面している。

今後、新たな価値を創造する「高付加価値創出型経済」の実現を図り、「デマンドプル型インフレ」へ移行する必要がある。企業には、「国内投資」の拡大、生産性の改善・向上等、賃金引き上げの力強いモメンタムのさらなる定着を通じた「働き手への公正・公平な分配」が肝要だ。

賃金引き上げの力強いモメンタムの「さらなる定着」を通じた名目賃金の上昇の継続と2%程度の適度な物価上昇の実現による実質賃金の安定的なプラス化が社会的に求められている。

Ⅱ.賃金引き上げの力強いモメンタム「さらなる定着」に向けた基本的な考え方

「付加価値の最大化」に注力しながら「労働投入の効率化」を図る「働き方改革」の深化を通じて労働生産性を改善・向上させ、賃金引き上げ原資を安定的に確保することが不可欠だ。

わが国全体の生産性向上には、成長産業・分野等への「労働移動の積極的な推進」が必要。

「構造的な賃金引き上げ」の実現には、「賃金は上がっていくもの」との考え方とともに、そのために必要な「適正な価格転嫁と販売価格アップの受け入れ」が社会的規範として浸透することが重要だ。

26年の春季労使交渉・協議では、経団連・企業の社会的責務として賃金引き上げのさらなる定着に取り組み、「分厚い中間層」の形成と「構造的な賃金引き上げ」の実現に貢献していく。各企業には、「賃金・処遇決定の大原則」にのっとり、「人への投資」と位置付けた積極的な検討と着実な実行が望まれる。

賃金引き上げの成果を個人消費の喚起・増大に結び付けるため、政府に対し、税・財政・社会保障の一体改革による持続可能性の確保と負担のあり方を含めた具体的な検討・実行の早期実現を求める。

Ⅲ.賃金引き上げの力強いモメンタム「さらなる定着」の具体策

多様な方法による賃金引き上げ(月例賃金引き上げ、諸手当、賞与一時金、最低賃金関連)のうち、月例賃金引き上げについては、ベースアップ実施の検討が賃金交渉のスタンダードであり、重点配分を基本に据えて自社にとって最適な方法を見いだす必要がある。

地域経済を支える中小企業の構造的な賃金引き上げには、原資を安定的に確保し、賃金引き上げの持続可能性を高めることが必要。中小企業自身による生産性の改善・向上に加え、サプライチェーン全体を通じた適正な価格転嫁の推進や政府・地方自治体等による取り組み、社会全体における環境整備が不可欠だ。

イノベーション創出と生産性の改善・向上には、賃金引き上げとともに「人への投資」の両輪である「総合的な処遇改善」を通じて、働き手の意欲と能力を最大限に引き出す職場環境の整備(制度面、設備面)と、自社の事業方針・計画の遂行を担う人材育成・能力開発(制度面、経済面)が必要だ。

ほんの6年前には「ジョブ型」という言葉が乱舞しておりましたが、今回はどうかとページをめくっていくと、後ろの方の90ページに「ジョブ型雇用の現状」というコラムがあり、やや素っ気ない記述が書かれています。

 

 

 

 

鶴光太郎『わかる人的資本経営』

9784296121120 慶應から大妻女子大学に移られた鶴光太郎さんの『わかる人的資本経営』(日経文庫)をお送りいただきました。日経文庫は私も昔一冊書いたことがありますが、新書版ではありますが、言いたいことを言いたいだけ書くと言うよりは小さなテキスト的な性格もあり、書かれるのに苦労されたのではないかと思います。

タイトルからすると、今類書が山のように出ている人的資本経営の解説書の一冊のように見え、確かにそういう工夫もされているのですが、読んでいくとそれこそありとあらゆる所に、ジョブ型とメンバーシップ型という対比が頻出し、それでもって人的資本経営を全て説明し尽くしてしまおうという野望すら感じるくらいです。リスキリングとかウェルビーイングはまだしも、「メンバーシップ型雇用からの決別宣言としてのパーパス経営」とまで言っちゃっていいのかなと、やや心配にもあります。

言うところの本書の特色と目次を掲げておきます。

<特色>
 本書は、類書にない視点を提供します。
①人的資本について経済学の立場から、その水準と稼働の向上のために何が必要か包括的に論じています。各章末に設けたコラムでは、人的資本について経済学でどのような研究が行われてきたか、その系譜についても解説。人間の能力・スキルと労働・企業経営とのかかわり合いについて、より筋道立った深い理解が得られます。

②従来の雇用システムとの対比を行い、人的資本経営への移行を雇用システムの転換として捉える視点を重視しています。新卒一括採用・定年までの在籍を前提に会社のメンバーになることが大きな意味を持ち、人事部が職務・勤務地・残業などで強い裁量権を持つメンバーシップ型雇用を温存するのであれば、人的資本経営の推進は困難を極めることになります。人的資本経営を推進するのであれば、雇用システムをジョブ型雇用に向けて変えるように舵を切る努力が必要になります。

③ただ、雇用システムの転換には難しさもあります。そこで本書では、システム移行を円滑に進めるためのアプローチも解説しています。高い目標ばかりみていると挫折してしまうので、一歩ずつ地歩を固めながら進めていくためにはどのような方法論を採用すればよいか、本書では言及しています。

目次

まえがき

第1章 人的資本経営のフレームワーク
  1 なぜ、人的資本経営なのか
  2 なぜ、人的資本経営はメンバーシップ型雇用ではうまくいかないのか
  3 人的資本経営のフレームワーク
 <コラム1> 人的資本研究の系譜①古典派・新古典派における人的資本概念の萌芽

第2章 人的資本経営と雇用システム
  1 メンバーシップ型雇用
  2 ジョブ型雇用を理解する3ステップ
  3 ジョブ型雇用をめぐる誤解
  4 「ステルスジョブ型」の勧め
 <コラム2> 人的資本研究の系譜②ベッカーの人的資本理論

第3章 キャリアの自律性の向上
  1 社内公募に向けた取り組み
  2 手挙げ文化の浸透
 <コラム3> 人的資本研究の系譜③シュルツらの経済発展の視点

第4章 新たなテクノロジーの活用
  1 新たなテクノロジーの特徴と比較
  2 ICT・デジタル化の人的資本経営の影響
  3 人的資本経営におけるAI活用
  <コラム4> 人的資本研究の系譜④ミンサーを嚆矢とする賃金の計量分析とジェンダー格差への応用

第5章 自ら選択できる学びの仕組みの導入
  1 日本企業の従来型の研修システム
  2 リスキリングとは何か
  3 「カフェテリア型」研修による「学びの自律性」の向上
 
 <コラム5> 人的資本研究の系譜⑤ヘックマンによる非認知能力への着目

第6章 ウェルビーイング経営
  1 ウェルビーイングの定義と歴史的由来・発展
  2 企業経営の視点からウェルビーイングへの注目とその意義
  3 ウェルビーイングの具体的な指標
  4 ウェルビーイングをどう向上させるか
  5 ウェルビーイングと企業業績の関係
  6 健康経営から始めよう
 <コラム6> 人的資本研究の系譜⑥カッツらによるスキル偏向的技術変化への着目

第7章 パーパス経営
  1 パーパス経営とは何か
  2 なぜ、パーパス経営が求められるのか
  3 パーパスの策定とその浸透の方策
  4 補い合うパーパス経営とウェルビーイング経営
 <コラム7> 人的資本研究の系譜⑦人的資本理論への批判としてのスペンスのシグナリング理論

第8章 人的資本情報開示の考え方・進め方
  1 人的資本情報の開示はなぜ必要とされたのか
  2 「攻め」の人的資本情報開示とは
  3 情報開示の質を高める
 <コラム8>人的資本経営の未来①AIとの協働のゆくえ

第9章 人材獲得競争時代の「良い企業」に向けて
  1 定年まで同じ会社で勤め上げることを前提としなくなった若者たち
  2 従業員と企業の成長循環こそ新たな「良い企業」の代名詞
  3 成長循環に向けた相乗効果の実現
 <コラム9>人的資本経営の未来②人口減少・人手不足社会を超えて

第10章  経営者と人事部の新たな役割
  1 求められる経営者の意識変革
  2 変わる人事部の役割
  3 人事部の仕事はどう変わるか①――採用と異動・転勤
  4 人事部の仕事はどう変わるか②――評価と賃金システム
 <コラム10>人的資本経営の未来③さらなる女性活躍をめざして

参考文献 (人的資本経営の下、キャリアの自律性、ウェルビーイング経営、パーパス経営などがすべて結び付いている企業こそ「良い企業」)

 

 

 

 

2026年1月22日 (木)

令和7年度労使関係セミナー(奈良県労働委員会セミナー)講演@youtube

令和7年度労使関係セミナー(奈良県労働委員会セミナー)講演(中央労働委員会・奈良県労働委員会共催)の動画「ジョブ型雇用と賃金制度」がyoutubeにアップされました。

https://www.youtube.com/watch?v=ToxCl5YB-gg

Youtubeoo

 

テレワークとつながらない権利に関するEU教育部門自律協約@『労基旬報』2026年1月25日号

『労基旬報』2026年1月25日号に「テレワークとつながらない権利に関するEU教育部門自律協約」を寄稿しました。

 EUにおけるテレワークとつながらない権利に関しては、本紙でもこれまで「欧州議会の『つながらない権利指令案』勧告案」(2020年10月25日号)、「テレワークとつながらない権利に関する第1次協議」(2024年6月25日号)、「テレワークとつながらない権利に関する第2次協議」(2025年9月25日号)と、3回にわたって詳しくその経緯を追いかけてきましたが、去る2025年12月2日、欧州教育労働組合委員会(European Trade Union Committee for Education (ETUCE))と欧州教育使用者連盟(European Federation of Education Employers (EFEE))の間で、「教育部門におけるテレワークとつながらない権利」に関する自律枠組協約が締結されました。
 改めてここまでの経緯を簡単に振り返っておきますと、EUの立法機関の一つである欧州議会は、2021年1月21日、「つながらない権利に関する欧州委員会への勧告に係る決議」を採択しました。この文書は実質的には欧州議会による指令案の提案ですが、形式的には欧州委員会に対する指令案の提案の勧告という形をとっています。これを受けて2024年4月30日、欧州委員会はテレワークとつながらない権利に関する労使団体への第1次協議を開始し、続いて7月25日には第2次協議を開始しました。通常、こうした協議の名宛て人として想定されるのは、欧州労連(ETUC)や欧州経団連(Business Europe)といった産業横断的労使団体ですが、今回この協議に反応して労使交渉を開始し、自律協約の締結に至ったのは、教育部門の労使団体でした。その背景には、2023年12月14日に採択された欧州教育部門労使対話委員会の2024-2026作業計画に、テレワークとつながらない権利に関する自律部門協約の交渉を行うと明記されていたことがあります。
 今回の自律協約は、EU指令等に転換されることなく、両労使団体の各国組織を通じて実施されるものになりますが、その規定ぶりは他部門の労使にとっても参考になる面が多く見られるように思われます。以下、協約の構造と、目的、適用範囲、定義の一部、「つながらない権利」に関する部分、実施とフォローアップの邦訳を掲げておきます。
 
1.目的
 欧州教育労働組合委員会(European Trade Union Committee for Education (ETUCE))と欧州教育使用者連盟(European Federation of Education Employers (EFEE))の間の本自律協約は、自発的な基礎の上にテレワークの発展を促進するとともに、この部門の全ての労働者がつながらない権利を行使することを可能にするものである。
 
2.適用範囲
 本自律協約は、欧州司法裁判所の判例法を考慮しつつ、各加盟国における法、労働協約又は慣行によって定義される雇用契約又は雇用関係を有する欧州連合内の教育部門における労働者に適用される。
 
3.定義
 本自律協約の文脈において、国内法、労働協約又は慣行に抵触しない限り、以下の定義が適用される。
「つながらない(disconnect)」:労働時間外において労働に関係する活動、とりわけ労働に関係するコミュニケーション回路のモニタリングに従事することを要求されたり期待されたりしないことを意味する。
「教育部門」:欧州共同体経済活動統計分類で定義される初等前、初等、中等、高等及び他の教育を含む。すなわち、NACEコード85.1初等前教育、85.2初等教育、85.3.1一般中等教育、85.3.2職業中等教育、85.3.3中等後非高等教育、85.4高等教育、85.51スポーツ及びレクリエーション教育、85.59他に分類されない教育、85.61課程及び講師のための仲介サービス活動、85.69教育支援活動
「生徒」:教育部門の機関により提供される教育プログラムに登録され、定期的に出席する全ての個人をいう。これには、初等前、初等、中等、職業教育訓練、中等後非高等、高等又はスポーツ、レクリエーション及び専門教育を含む他の認証された教育訓練水準の公式又は非公式の教育に関わる児童、青少年及び成人を含む。生徒はフルタイム又はパートタイムで登録され、その地位は公立及び私立の教育機関における学習者を含む。
「テレワーク」:主として情報通信技術(ICT)を用いて、雇用関係の文脈において、テレワークでなければ職場と定義された使用者の敷地又は他の場所で遂行されうる労働が、常時部分的又は全面的に、かかる職場から離れた場所で労働を編成し遂行する態様。
「労働時間」:国内法及び慣行に従い、EU労働時間指令第2条第1項及び関連する判例法で定義された、労働者が使用者の指揮下でその活動又は任務を遂行するいかなる期間をも意味する。
 
4.テレワーク
4.1 テレワークの自発的性質
4.2 均等待遇の原則
4.3 データ保護、プライバシー、コントロール及びモニタリング
4.4 設備、費用及び責任
4.5 安全衛生
4.6 訓練
4.7 集団的権利
 
5.つながらない権利
 つながらない権利は、すべての労働者に適用される。
 つながらない権利は、指令2003/88/EC(労働時間指令)および関連する判例法、ならびに国内法または労働協約に基づく、労働者が一定期間連絡可能であり、その結果として業務を遂行することを求め、客観的な根拠に基づいて正当化される労働時間、オンコール時間、待機時間に影響を与えるものではない。
 使用者および労働者の代表は、適切なレベルで、ワークライフバランス、労働者の幸福、および個人の時間の尊重に関する理事会勧告C/2023/1389で定義されている社会対話の一環として、適用されるEU法、国内法、労働協約、および慣行に従い、常時接続文化のリスクを定期的に評価し、その悪影響を防止または軽減しなければならない。
 つながらない権利は、教育分野の特殊性、役割と責任の多様性、様々な組織や機能にまたがる業務上のニーズ、そしてテレワークを含む職業上および個人的な状況の多様性を反映し、公正かつ透明な方法で行使されるべきである。
 労使団体は、つながらない権利の実施と健全なワークライフバランスの促進に関する労使対話を継続し、特に以下の活動を検討することに合意する。
1. つながらない権利とその公正かつ透明な行使に関する意識を高める。
2. 組織内部および組織外部との敬意あるコミュニケーション慣行を奨励する。
3. つながらないことを容易にするための技術的解決策を活用する。
4. 組織内方針、ガイドラインまたは行動規範などの明確な政策枠組みを策定する。
 労働者のつながらない権利を行使することは、労働者への不利益な結果や使用者による報復の根拠とはならない。
 
6.実施とフォローアップ
 本自律協約の規定の実施は、本自律協約が適用される部門において労働者に付与された一般的保護水準又は労働を監督し管理する使用者の権利を縮減する根拠とはならないものとする。
 各国の部門別労使団体は、適切なレベルで国内法及び慣行の定める条件に従い、労働者の一般的保護水準が確保されることを条件として、本自律協約に含まれる規則を適応させ又は補完する労働協約を確認し又は締結することができる。
 締結当事者たる労使団体及びその加盟組織は、その署名の5年後に、本自律協約の実施状況を欧州教育部門労使対話委員会(ESSDE)へ報告するものとする。
 締結当事者たる労使団体は、その一方からの依頼があれば、その署名日の5年後に、本自律協約を再検討するものとする。
 

 

«プレジデントオンラインに拙著『外国人労働政策』の一部が載ってます