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2024年6月11日 (火)

ベースアップの本格的復活?@WEB労政時報

WEB労政時報に「ベースアップの本格的復活?」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers/article/87281

 去る6月5日に連合が発表した「第6回回答集計」によると、平均賃金方式による賃上げ率は5.08%となったようです。もっともこれは定期昇給込みの数字なので、定期昇給といわゆるベースアップ(ベア)を明確に区分できる組合の場合、定期昇給込みの5.18%のうち、定期昇給分が1.64%、ベースアップ分が3.54%となります。純粋の賃上げ部分に当たるベースアップが定期昇給の2倍以上になったのは、1991年以来33年ぶりのことです。実は、昨年2023年の連合の最終集計では定期昇給分が1.57%、ベースアップ分が2.12%で、1992年以来31年ぶりにベースアップが定期昇給を上回ったのです。
 
 ということは、・・・・

2024年6月10日 (月)

中教審の議論の一番弱いところ

去る5月13日に、文部科学省の中央教育審議会が「審議のまとめ」というのを公表し、教師の職務は特殊だから給特法は合理性がある云々と述べて色々と批判を浴びています。

https://www.mext.go.jp/content/20240524-mxt_zaimu-000035904_1.pdf

https://www.mext.go.jp/content/20240524-mxt_zaimu-000035904_2.pdf

その批判で「定額働かせ放題」というのがけしかるとかけしからんとかいう話があり、文部科学省の国会答弁によると、立派な給特法を、こともあろうに極悪非道の高度プロフェッショナル制度を形容する「定額働かせ放題」と呼ぶのがけしからんとのことで、あれだけ高給の労働者を手厚い健康管理で守りながら、未だに適用労働者が600人あまりしかいないという情けない制度と一緒にされるのは、確かに不本意の極みでありましょうな。

いや、中教審のいっていることはあながち間違いだらけというわけではない。ある意味ではもっともな面もある。先入観なしに、部活だの生活指導だのといったことに煩わされないジョブ型社会のプロフェッショナル教師を想定すれば、以下の議論もそれなりにもっともな面があるのは確かです。

○ 教師の処遇の在り方を検討するに当たっては、まず、教師の職務の在り方等について検討する必要がある。
第2章1.で述べたとおり、教師は子供たちの人格の完成と我が国の未来を切り拓く人材を育成するという極めて複雑、困難な職務を担っており、専門的な知識や技能等が求められる高度専門職である。

○教職の性質は全人格的なものであり、教師は、一人一人がそれぞれ異なるとともに、成長過程にあり、日々変化する目の前の子供たちに臨機応変に対応しなければならない。このため、業務遂行の在り方として、どのような業務をどのようにどの程度まで行うかについて、一般行政職等のように逐一、管理職の職務命令によるのではなく、一人一人の子供たちへの教育的見地から、教師自身の自発性・創造性に委ねるべき部分が大きい。

○ また、教師の業務については、教師の自主的で自律的な判断に基づく業務と、校長等の管理職の指揮命令に基づく業務とが日常的に渾然一体となって行われており、これを正確に峻別することは極めて困難である。

○ さらに、必要となる知識や技能等も変化し続ける教師には、学び続けることが求められるが、例えば、授業準備や教材研究等の教師の業務が、どこまでが職務で、どこからが職務ではないのかを精緻に切り分けて考えることは困難である。

○ こうした一般の労働者や行政職とは異なる教師の職務の特殊性は、現在においても変わるものではないため、勤務時間外についてのみ、一般行政職等と同様の時間外勤務命令を前提とした勤務時間管理を行うことは適当ではないと考えられる。

○ また、教師の勤務時間には、学習指導や生徒指導等を行う子供たちが在校している時間と、長期休業期間等の子供たちが在校していない時間があるが、後者の時間は、どのような業務をどのようにどの程度まで行うかについて、個々の教師の裁量によって判断する余地がより大きいなど、その勤務態様が一般行政職等とは異なる特殊性がある点についても、現在においても変わるものではないと考えられる。

教師という職種が高度な専門職であり、自律性、裁量性が高いということは、中教審に言われなくてもみんなわかっていると思います。

ただ、だから、

○ 一方、時間外勤務手当を支給すべきとの指摘については、教師の職務等の特殊性を踏まえると、通常の時間外勤務命令に基づく勤務や労働管理、とりわけ時間外勤務手当制度には馴染まないものであり、教師の勤務は、正規の勤務時間の内外を問わず包括的に評価すべきであって、一般行政職等と同様な時間外勤務命令を前提とした勤務時間管理を行うことは適当ではない。

と断言してしまうと、教師という『職種』がそこまで特殊で時間外手当なんかになじまないというのであれば、職種とした全く変わるところのない国立学校の教師と私立学校の教師は労働基準法がフル適用であることとの整合性の説明がつかなくなってしまうでしょう。

いや、この「審議のまとめ」には、いちおうそこんとこの説明がこのように書かれているんですが、

○ 国立学校や私立学校では時間外勤務手当の支払いがなされており、公立学校も対象とすべきであるとの指摘もある。

この点については、職務の特殊性は、国立学校や私立学校の教師にも共通的な性質があるが、

・公立学校の教師は、地方公務員として給与等の勤務条件は条例によって定められているのに対し、国立・私立学校の教師は非公務員であり、給与等の勤務条件は私的契約によって決まるという勤務条件等の設定方法の違いは大きいこと

・公立の小・中学校等は、域内の子供たちを受け入れて教育の機会を保障しており 83、在籍する児童生徒等の抱える課題が多様であることなど、国立・私立学校に比して、公立の小中学校等においては相対的に多様性の高い児童生徒集団 84となり、より臨機応変に対応する必要性が高いこと

・公立学校の教師は、定期的に学校を跨いだ人事異動が存在することにより、特に社会的・経済的背景が異なる地域・学校への異動があった場合等においては、児童生徒への理解を深め、その地域・学校の状況に応じて、より良い指導を行うための準備を行う必要があるが、それをどのように、どの程度まで行うかについて個々の教師の裁量によるところが大きいことなど、職務の特殊性が実際の具体的な業務への対応として発現する際の有り様は、公立学校の教師と国立・私立学校の教師とで差異が存在する。

こんな説明にもなっていない説明で、等しく教師という崇高な専門職に就いていながら、公立学校の教師のような自律性、裁量性は乏しいので、労働基準監督官に臨検監督されても文句は言えないのだ、などと貶められてしまうのですから、国立学校や私立学校の教師は浮かばれませんね。

筋の通った議論を展開しようというのであれば、国立学校や私立学校の教師といえども、地方公務員という身分がないだけで教師という高度な職種であることに何の変わりもないのだから、給特法の適用対象に含めて、労働基準法の適用を除外すべきだと主張すべきでしょう。そうでないと、中教審は2割弱を占める私立学校・国立学校の教師たちから、「わたしたちを単純労働者扱いするんじゃない」という怒りの声がぶつけられるのではないでしょうか。わたしたちは「供たちの人格の完成と我が国の未来を切り拓く人材を育成するという極めて複雑、困難な職務を担って」いないのか、「専門的な知識や技能等が求められる高度専門職」じゃないのか、「どのような業務をどのようにどの程度まで行うかについて、一般(労働者)等のように逐一、管理職の職務命令によるのではなく、一人一人の子供たちへの教育的見地から、教師自身の自発性・創造性に委ねるべき部分が大きい」のではないのか、「教師の自主的で自律的な判断に基づく業務と、校長等の管理職の指揮命令に基づく業務とが日常的に渾然一体となって行われており、これを正確に峻別することは極めて困難」じゃないのか、等々と。

かつて、『季刊労働法』に書いたように、わたしは専門職としての教師にふさわしい労働法制の可能性というのはあり得ると考えています。

 さて、しかし、上でちらりと示唆したように、給特法制定時の人事院の意見の背景には、欧米ジョブ型社会のプロフェッショナルな教師たちと同様、授業だけがその遂行すべき職務であるような、それゆえ授業時間だけが勤務時間であるような、そのようなあるべき社会の姿が夢見られていました。ややもすると政治イデオロギー的な教師聖職論と紛らわしい目で見られることもあったとはいえ、この思想それ自体は真剣な検討に値します。
 そして、給特法制定当時は専門職としての大学教授にふさわしい労働時間制度など存在せず、事実上の裁量労働が放任されていたに過ぎなかったのに対し、その後労働基準法上に専門業務型裁量労働制が規定され、講義等の授業の時間が1週間の所定労働時間の半分以下の大学教授は専門業務型裁量労働制が適用されるようになっています。学科担任制や科目担任制の中学校や高校では、この制度を適用する余地のある教師は存在しうるのではないでしょうか。もちろん、現実に膨大な学校事務や生徒指導、部活動等々を強いられている教師たちにそのまま適用することはあり得ませんが、将来のあるべき学校の姿、教師の姿として、そうした専門職としての教師にふさわしい労働法制の可能性を探っていくことも、考えられていいのではないかと思われます。
 いうまでもなく、その際には、公務員であるかないかなどという職種の性質にはなんの関係もない雑事に煩わされることなく、言葉の正確な意味において「まじめ」に検討されなければなりません。

残念ながら、中教審は筋の通った「まじめ」な議論になり得る途を放棄し、見るからにインチキな屁理屈で乗り切ろうとしたようです。でも、この問題は「定額働かせ放題」などという表層的な罵詈雑言の是非だけで済ませていい問題ではないはずです。

 

 

 

 

 

 

 

2024年6月 6日 (木)

『季刊労働法』285号

 例によって、労働開発研究会のサイトに、『季刊労働法』2024年夏号(285号)の案内が出ています。

https://www.roudou-kk.co.jp/books/quarterly/12116/

今号では「労働市場法」を特集します。巻頭座談会では、多様化、複雑化する、労働市場の現状と今後の動向を確認しつつ、令和4年職安法改正の意義と課題を論じあいます。その他、雇用保険の近未来、職業紹介と雇用仲介事業の区分に迫る論稿を掲載しています。
 ●第2特集では、「2024年問題」を検討します。労働時間規制が猶予されていた建設業、運輸業、医業の「働き方改革」を概観し、産業それぞれにある課題を探ります。

285_h1

わたくしの「労働法の立法学」は、「EUのプラットフォーム労働指令」です。

2024年6月 5日 (水)

35-44歳層は何と呼ぶのか?

先日の「高齢者の定義は・・・55歳だった!?」という記事に対して、

高齢者の定義は・・・55歳だった!?

なんと日本国の実定法上、「高年齢者」というのは55歳以上の人のことをいうんですね。

これは、55歳定年が一般的であった1970年代に作られた規定が、そのまま半世紀にわたってそのまま維持され続けているために、こうなっているんですが、おそらく現代的な感覚からすれば違和感ありまくりでしょう。

ちなみに、同省令には続いて、

(中高年齢者の年齢)
第二条 法第二条第二項第一号の厚生労働省令で定める年齢は、四十五歳とする。

45歳になったら中高年という規定もあって、こちらはそうかなという気もしますが(若者だと思っている人もいるようですが)、でも45歳からたった10年で55歳になったら高齢者というのは可哀想すぎますね。

こういうブコメがつきましたが

44歳まではなんというのだろう。中高年でないなら青年?

実は、高年齢者雇用安定法と対になる法律として青少年雇用促進法というのがあるんですが、

青少年の雇用の促進等に関する法律

 (基本的理念)
第二条 全て青少年は、将来の経済及び社会を担う者であることに鑑み、青少年が、その意欲及び能力に応じて、充実した職業生活を営むとともに、有為な職業人として健やかに成育するように配慮されるものとする。
第三条 青少年である労働者は、将来の経済及び社会を担う者としての自覚を持ち、自ら進んで有為な職業人として成育するように努めなければならない。

残念ながら高齢法と違って、こちらには青少年の定義というのがありません。

省令レベルでは、

青少年の雇用の促進等に関する法律施行規則

第7条第1号ロにこんな規定がありますが、

 十五歳以上三十五歳未満の青少年(以下この条において「青少年」という。)であることを条件とした公共職業安定所、特定地方公共団体若しくは職業紹介事業者への求人の申込み又は青少年であることを条件とした労働者の募集を行っていること(通常の労働者として雇い入れることを目的とする場合であって、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律施行規則(昭和四十一年労働省令第二十三号)第一条の三第一項第三号イからニまでのいずれかに該当するときに限る。)。

でもこれは、青少年のうち15歳以上35歳未満の者を、この条において「青少年」と呼ぶといっているだけなので、そもそもの青少年の定義はこれより広いようにも見えます。

実は、大臣告示レベルまで来ると、定義じゃないけれども定義みたいな記述が出てきます。

青少年雇用対策基本方針

本方針において「青少年」とは、35 歳未満の者をいう。ただし、個々の施策・事業の運用状況等に応じて、おおむね「45 歳未満」の者についても、その対象とすることは妨げないものとする。

ここでは、青少年を35歳未満の者と定義していますが、45歳未満の者も妨げないと言っていて、ということは、35-44歳層も青少年なんでしょうか。厳密に言えば、青少年じゃないけれども青少年に準じる者みたいな地位でしょうかね。

これ、実は、例の就職氷河期問題がいつまでも尾を引いて、90年代末に正社員就職できなかった世代が21世紀になってからも、20代、30代、40代と年を経るに従って、最初に若者対策として始めた対策がだんだんと年長者にも及んでいくことになったために、こういう状況になってきたのですが、でも昔なら典型的なプライムエイジであった35-44歳層を青少年というのはおかしいし、とはいえこの高齢化社会で彼らを中高年と呼ぶのも変だというわけで、彼らは中高年と青少年の狭間の名無しの世代になってしまっているようです。

 

 

 

 

2024年6月 4日 (火)

社労士法改正の動き

A947d000d4fd3ebb92575f9c4c411811 連合のホームページに、「全国社会保険労務士会連合会との意見交換会を実施」が載っていて、読んでいくと、社会保険労務士法の第9次改正の動きが進んでいるようです。

https://www.jtuc-rengo.or.jp/news/news_detail.php?id=2123

意見交換では、社労士会から社会保険労務士法改正の動きについて説明があった後、連合としての考えを述べました。具体的には、(1)社労士の業務として「労務監査」を法文上明記することについては、労働法等に理解のない一部の不適切な社労士の行動にお墨付きを与えることのないように対応をはかるべきこと、(2)社労士の労働審判への補佐人出廷のための規定整備については、審判委員会が当事者から生の声を聞いて心証形成をはかる労働審判の原則が阻害されないよう対応すべきことなどを指摘しました。これに対し社労士会からは、連合の指摘を受け止め検討する旨の回答がありました。

この動きについては、全国社労士会連合会のホームページには出てこないのですが、検索すると岡山県社会保険労務士政治連盟のサイトに「「第 9 次社会保険労務士法改正」に関する要望事項」というのが見つかり、かなり広範な改正を要望しているようです。

https://www.okayama-sr.jp/save_lnk/lnk_mtLxRu.pdf

「第 9 次社会保険労務士法改正」に関する要望事項

Ⅰ.司法制度改革に関する事項

1.個別労働紛争に係る簡易裁判所における代理業務の追加(法第2 条)

2.労働審判における代理業務の追加(法第2 条)
上記1.(簡裁訴訟代理権)及び2.(労働審判代理権)については、平成21 年3 月31 日付け閣議決定規制改革推進のための3 か年計画(再改定)」において、その実現について明記されている。このことは紛争解決手続きのための代理業務であることから、特定社会保険労務士に限り行うことができることとするよう所要の改正を行う。

3.労働紛争解決センターにおける紛争目的価額上限の撤廃(法第2 条)
法第2条第1号の6中「個別労働関係紛争(紛争の目的の価額が120万円を超える場合には、弁護士が同一の依頼者から受任しているものに限る。)」のカッコ書きを削除する。
都道府県労働局紛争調整委員会及び都道府県労働委員会においては、単独で代理ができる紛争目的価額の制限はないが、社労士会労働紛争解決センターにおいては上限規制があるため、申立で最も多数を占める退職・解雇を巡る事件では、紛争目的価額が160 万円とみなされ、単独では代理ができない。行政型ADRとの取扱いを区分けする論理的な根拠があるとは考えにくい。

4.裁判所における補佐人規定の整備(法第2 条の2)
法第2 条の2中「訴訟代理人」を「代理人」に改める。
現行規定では、非訟事件である労働審判には訴訟代理人は存在せず、補佐人として労働審判への参画は認められないとする裁判所があるため。

Ⅱ.使命規定の新設と所要の整備に関する事項

1.使命規定の新設(法第1条)
法第1条の目的規定を使命規定に改める。
社会保険労務士の使命、責務を明確に規定し、もって社会全般に求められる期待にこたえられるようにするため。

2.労務監査規定の新設(法第2条)
社会保険労務士の業務に、いわゆる「労務監査」を追加する。
今後、事業主は、持続的な事業の発展のためにSDGsや労働CSRに対応すること、また労働力確保及び定着のために職場環境の整備等を行うことが急務とされており、それを社会保険労務士として全面的に支援することができるようにするため。

3.「社労士」を略称として使用することができる規定の整備(法第26条)
法律名「社会保険労務士法」及び国家資格名「社会保険労務士」との名称は変えずに、略称として「社労士」を使用することについて法律上の根拠規定を設けることとする。
したがって、登録、登記等の手続等法律関係上は、「社会保険労務士法」を従前どおり使用することとする。また、「社労士」の名称について、使用制限の規定を新設する。

4.登録申請の電子化による事務処理の合理化

5.都道府県社会保険労務士会の監督権の実行確保措置の強化

労働審判における代理の問題は従前からの懸案でしたが、労務監査の法定化という動きもあったのですね。これは役所の審議会ではなく、議員立法というルートでの法改正の動きなので、なかなか見えにくいのですが、かなり大きな影響を与えるものでもあるので、注視していきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

2024年6月 2日 (日)

日本の労働者は「守られすぎ」か@『VOICE』7月号

6199zeoxlpl_sl1000_  PHPの総合誌『VOICE』の7月号が、「日本企業の夜明け」という特集を組んでいまして、その中にわたくしも「日本の労働者は「守られすぎか」という小論を寄稿しています。

https://www.php.co.jp/magazine/detail.php?code=12559

特集1:日本企業の夜明け
「失われた三十年」という偽りの神話 ウリケ・シェーデ 34p
「日本的経営」という幻の先に 楠木 建 44p
歴史的円安のリスク軽減に向けて 木内登英 54p
日本製鉄から見るJTCの覚醒 上阪欣史 62p
経営には「言葉」が必要だ――経営現場の詩人たち 岩尾俊兵 70p
日本の労働者は「守られすぎ」か 濱口桂一郎 78p
「Z世代化する社会」と職場の戦略 舟津昌平 88p
特集2:なぜ中東は混乱するのか
イラン・イスラエル間の「影の戦争」の行方 坂梨 祥 128p
中東に横行する権威主義――民主化は進むのか 末近浩太 136p
一〇・七事件で問われる欧米の行き場 江﨑智絵 144p
イスラーム理解と宗教嫌悪 松山洋平 152p
巻頭インタビュー
MMTは「過激な思想」なのか ステファニー・ケルトン 16p
独占第二弾
頼清徳・新総統への信頼と直言 陳 水扁 162p
特別インタビュー
「共創」する文化外交 上川陽子 182p
連載ほか
「消滅可能性自治体」議論を消滅せよ 金井利之 96p
TSMC熊本工場は成功するか 湯之上 隆&林 宏文 106p
「生涯現役社会」実現への条件 今野浩一郎 118p
「中国嫌い」のための中国史〈10〉
孔子
安田峰俊 188p
日本史は「敗者」に学べ〈6〉
石田三成〈前編〉
呉座勇一 198p
離婚と子ども――民法改正を契機に 原田綾子 208p
再「小新聞」化するジャーナリズム 大澤 聡 218p
合理性のない規制の改良 大屋雄裕 226p
著者に聞く
仕事と趣味の両立に悩むすべての人へ
三宅香帆 234p
ニッポン新潮流〈現代社会〉
総選挙の試金石
西田亮介 26p
ニッポン新潮流〈都市文化〉
公園と身体性
藤村龍至 28p
地域から日本を動かす〈27〉
名勝地の逆転の発想・昔に戻せ
結城豊弘 30p
歴史家の書棚〈48〉
中原雅人『自衛隊と財界人の戦後史』松田小牧『定年自衛官再就職物語』
奈良岡聰智 238p
巻頭言〈5〉
スピーチの極意
冨田浩司 13p
文明之虚説〈79〉
アランの幸福論
渡辺利夫 244p
邂逅する中世と現代〈9〉
情報を照らす光
作・文/野口哲哉 1p
里山―未来へつなげたい日本の風景〈7〉
棚田の個性
写真・文/今森光彦 6p
令和の撫子〈62〉
カニササレアヤコ 
撮影/吉田和本 9p
Voiceブックス
編集者の読書日記
  240p
Voiceシネマ
編集者の映画三昧
  241p
Voiceレター
読者の感想&意見
  242p

 

2024年5月31日 (金)

『賃金とは何か』カバーと帯

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はじめに
 
序章 雇用システム論の基礎の基礎
 1 雇用契約のジョブ型、メンバーシップ型
 2 賃金制度のジョブ型、メンバーシップ型
 3 労使関係のジョブ型、メンバーシップ型
 
第Ⅰ部 賃金の決め方
第1章 戦前期の賃金制度
 1 明治時代の賃金制度
 2 大正時代の賃金制度
 3 生活給思想の登場
 4 職務給の提唱
第2章 戦時期の賃金制度
 1 賃金統制令
 2 戦時体制下の賃金思想
第3章 戦後期の賃金制度
 1 電産型賃金体系
 2 ジョブ型雇用社会からの批判
 3 公務員制度における職階制
 4 日経連の職務給指向
 5 労働組合側のスタンス
 6 政府の職務給推進政策
第4章 高度成長期の賃金制度
 1 日経連は職務給から職能給へ
  (1) 定期昇給政策との交錯
  (2) 職務給化への情熱
  (3) 能力主義への転換
 2 労働組合は職務給に悩んでいた
  (1) ナショナルセンターの温度差
  (2) それぞれに悩む産別
  (3) 単組の試み
 3 政府の職務給指向
  (1) 経済計画等における職務給唱道
  (2) 労働行政等における職務給推進
第5章 安定成長期の賃金制度
 1 賃金制度論の無風時代
 2 中高年・管理職問題と職能給
 3 定年延長と賃金制度改革
第6章 低成長期の賃金制度
 1 日経連(経団連)は能力から成果と職務へ
  (1) 『新時代の「日本的経営」』とその前後
  (2) 多立型賃金体系
  (3) 裁判になった職務給
 2 非正規労働問題から日本型「同一労働同一賃金」へ
  (1) 非正規労働者の均等待遇問題の潜行と復活
  (2) 二〇〇七年パート法改正から二〇一二年労働契約法改正へ
  (3) 同一(価値)労働同一賃金原則の復活
  (4) 働き方改革による日本型「同一労働同一賃金」
 3 岸田政権の「職務給」唱道
  (1) 「ジョブ型」と「職務給」の唱道
  (2) 男女賃金格差開示の含意
  (3) 職務分析・職務評価の推奨
 
第Ⅱ部 賃金の上げ方
第1章 船員という例外
第2章 「ベースアップ」の誕生
 1 戦時体制の遺産
 2 終戦直後の賃上げ要求
 3 公務員賃金抑制のための「賃金ベース」
 4 「ベースアップ」の誕生
 5 総評の賃金綱領と個別賃金要求方式
第3章 ベースアップに対抗する「定期昇給」の登場
 1 中労委調停案における「定期昇給」の登場
 2 日経連の定期昇給推進政策
 3 定期昇給のメリットとデメリット
第4章 春闘の展開と生産性基準原理
 1 春闘の始まり
 2 生産性基準原理の登場
 3 石油危機と経済整合性論
第5章 企業主義時代の賃金
 1 石油危機は労働政策の分水嶺
 2 雇用が第一、賃金は第二
 3 消費者目線のデフレ推進論
第6章 ベアゼロと定昇堅持の時代
 1 ベースアップの消滅
 2 定期昇給の見直し論と堅持
第7章 官製春闘の時代
 1 アベノミクスと官製春闘
 2 ベースアップの本格的復活?
 3 ベースアップ型賃上げの将来
 
第Ⅲ部 賃金の支え方
第1章 最低賃金制の確立
 1 業者間協定の試み
 2 賃金統制令
 3 労働基準法の最低賃金規定
 4 業者間協定方式の登場
 5 業者間協定方式の最低賃金法
 6 審議会方式の最低賃金法
第2章 最低賃金制の展開
 1 目安制度による地域別最低賃金制
 2 最低賃金の日額表示と時間額表示
 3 新産業別最低賃金制
 4 最低賃金制の在り方に関する研究会
 5 二〇〇七年改正法
 6 最低賃金の国政課題化
第3章 最低賃金類似の諸制度
 1 一般職種別賃金と公契約法案
 2 公契約条例
 3 派遣労働者の労使協定方式における平均賃金
 
終章 なぜ日本の賃金は上がらないのか
 1 上げなくても上がるから上げないので上がらない賃金
 2 ベースアップに代る個別賃金要求
 3 特定最低賃金、公契約条例、派遣労使協定方式の可能性
 
あとがき

 

「パワハラ」という用語への違和感は13年前から

例によって焦げすーもさんが、

未だに「職位が下の者から上の者に対する『パワハラ』もあり得る」とした理論構成が分からない。 職場の『いじめ・いやがらせ』という広範な概念で捉えればよかっただけなのでは?

とつぶやいていますが、いやそれ、まさに入口では「いじめ・嫌がらせ」といっていたものが、なぜか出口では「パワハラ」になってしまったかつての円卓会議での議論の推移を見ていて、まさにそのときにそう思っていた件なんですが。

職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告(案)

こちらは先週末ですが、職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループの報告(案)がアップされています。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001yzy9-att/2r9852000001yzzq.pdf

個人的には、職場のいじめ・嫌がらせを「パワーハラスメント」という言葉で集約することに、いささか違和感を感じています。

>パワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為6をいう。

「パワー」というと、企業組織における指揮命令関係を背景とした公式的な権力行使を主としてイメージさせますが、現実のいじめ・嫌がらせ事案には同僚や部下、顧客などさまざまないじめ主体がいるのです。

もちろん、この報告案には、

>「職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に」としているのは、パワーハラスメントには、上司から部下に対して行われるものに限らず、人間関係や専門知識など職場内の何らかの優位性を基にして同僚間や部下から上司に行われるものも含める趣旨である。また、顧客や取引先から従業員に対する行為は含まれないが、従業員の人格や尊厳が侵害されるおそれがあるものについては適正に対応すべきであることは言うまでもない

とありますが、もちろん、社会学的な「パワー」はフォーマルな組織上の権限行使に限らないのはよく分かるのですが、違和感が払拭されません。

一つには、以前本ブログでも取り上げた丸尾拓養弁護士の議論とも関わるのですが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/12/post-1c0d.html(パワハラは原則合法?)

>しかし、パワハラの“パワー”というのは、そもそも上司の権限です。上司として、その権限を行使していくのは責務です。それは、組織を維持していく上で、経営としては当然に必要なものであり、会社としては、現場の上司にむしろ行使してもらいたいものです。そして、上司というのは嫌なものであり、ハラスメントというのが「嫌がられる」という意味であるならば、パワハラは必然的であると思います。

パワハラが原則合法というのは言い過ぎですが、少なくともパワーの行使は本来職場にあるべきもので、それと、いじめ・嫌がらせ問題は絡み合いつつも、別のフェーズもあるわけで、その意味でも、「パワ」のみを看板に掲げるのはいかがなものか、という気がするのです。

この辺、もう少し丁寧な議論をした方がいいように思うのですが・・・。

とはいえ、その後厚生労働省はもっぱらパワハラという用語を使うようになっていってしまい、今日に至るわけです。

実は先日、某大学ビジネススクールの講義で、このテーマになったとき、受講生の方から、「職場では上司だけではなく、同僚や部下からもいじめがありうると思うんですが、なぜパワハラだけを取り上げて法規制するんですか?」という質問が出て、「いやいや、パワハラといっても、上司から部下へだけではなくって・・・」と説明せざるを得なくなり、やっぱりこの用語法は間違っているよな、と思いを新たにしたばかりです。

ちなみに、なぜ「いじめ・嫌がらせ」という言葉をあえて「パワハラ」に変えたのかについては、このワーキンググループの第5回議事概要(2011年12月22日)に載っています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000026wbe.html

・ なくすべき行為の名称として、「パワーハラスメント」で本当によいのか。これは新語で、裁判でも使われているとしても、新しい言葉をここで使うと、それが新たな概念定義になり、変な誤解をされるおそれがあるので、今回は使わないほうがいいのではないか。また、安易に外来語を使用するべきではなく、誰にとっても分かりやすい言葉を使用するべき。
・ 職場からなくすべき行為を表現した新しい概念を世の中に問う場合に、昔から日本語としてある「いじめ・嫌がらせ」という言葉を用いるか、比較的新しい「パワーハラスメント」という言葉を用いるか、どちらが世の中に浸透しやすいかを考えると後者ではないかと考え、案はパワーハラスメントとした。
・ また、いじめ・嫌がらせという言葉は、学校のいじめなどの印象から、悪意を前提に読み込む方が多いと思われる。辞書でも嫌がらせは悪意を前提とする説明がされていることが多い。
しかし、今回なくすべき行為として取り上げている行為は、悪意が前提とは限らない。その点でも、いじめ・嫌がらせよりパワーハラスメントの方が適当ではないかと考えた。
・ 「パワーハラスメント」という言葉のイメージとして、権力のある上司が部下に強要するようなことを思い浮かべるが、注6に記載しているとおり、同僚間のいじめ・嫌がらせもかなりあると思うので、それも含めた職場の問題を解決するという意味では、注6は大変重要。

 

 

 

 

”独立した人権機関設立”を潰したのは野党時代の民主党だったんだが・・・

国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会が公表した調査報告書の中で、日本には独立した人権機関がないことに懸念を示したうえで、救済に障害を生じさせないよう設立を求めたというニュースに対し、例によっていつもごとく、中国共産党と紙一重のネット右翼な方々があれこれ文句をつけておられるようですが、

“日本は独立した人権機関設立を” 国連人権理事会の作業部会

でもね、本ブログで百万回繰り返してきたように、今から22年前に、自公政権の小泉内閣のときに、まさにそういう法案-人権擁護法案が国会に提出されていたんですよ。ところがそれが潰された。誰が潰したのかというと、

アンチが騒ぐ前にリベラル派が騒いで潰した人権擁護法案

歴史的事実を正確に言うと、右派のアンチ人権派が騒ぐより前に、本来なら人権擁護を主張すべきリベラル派が報道の自由を侵すと騒いで潰したんですよ。

というわけで、国連とか人権が大っ嫌いな、中国共産党と寸分違わぬ感覚をお持ちのネット右翼な方々は、売国小泉政権が提案した憂うべき人権擁護法案を見事に潰してくれたといって、当時の民主党、今の立憲民主党あたりにおいでの方々に、心から感謝し、「人権擁護法案を潰してきてくれてありがとう」と感謝状を贈呈すべきではないでしょうかね。

 

 

 

2024年5月30日 (木)

ジョエル・コトキン『新しい封建制がやってくる』@『労働新聞』書評

91dczn8qspl_sl1500_277x400 例によって月1回の『労働新聞』書評ですが、今回はジョエル・コトキン『新しい封建制がやってくる』(東洋経済)です。

https://www.rodo.co.jp/column/177681/

 今年の正月、NHKの『欲望の資本主義2024「ニッポンのカイシャと生産性の謎」』に出演した。ジョエル・コトキンというアメリカの学者が「新しい封建制がやってくる」と論じていたのが印象に残った。今年2月5日号で取り上げたマイケル・リンドの『新しい階級闘争』をさらに増幅した感じだったからだ。

 読んでみてその印象はますます強化された。もはや資本主義創生期の階級闘争などという生易しいものではない。中世の貴族階級に相当するハイテク企業の大金持ち寡頭支配層(テック・オリガルヒ)と、中世の聖職者階級に相当する「有識者」層が、第1・第2身分として支配する社会で、中世のヨーマンに相当する中産階級と、中世の農奴に相当する労働者階級とが屈従を強いられているというのだから。

 その中でもとくにやり玉に挙げられているのは、ピケティが「バラモン左翼」と呼んだ「有識者」層だ。「有識者層と寡頭支配層の多くは、貧困の拡大、社会的格差の固定化、階級間の対立といった経済停滞の影響に対処しようとせず、幅広い人々の経済成長よりも持続可能性の理想を追求している。中世の聖職者が物質主義に異を唱えたように」。「今日、苦境に立たされている中産・労働者階級の多くは、富裕層は炭素クレジットやその他の『美徳シグナリング』と呼ばれる手段を通じて、いうなればグリーンの贖宥状(免罪符)を買う行為によって、自分たちがどれだけ環境保護に熱心かを誇示する姿を見せつけられている。だが、そうした“啓蒙的”政策は、経済的余裕のない人々に異常に高い燃料コストと住宅コストを押しつけるものとなっている」。グローバルとグリーンという「聖なる教え」こそが今日の第3身分の苦難の原因なのだ。

 歴史学的に言えば、中世封建制の特徴はその分権制にあり、「新しい封建制」との比喩は必ずしも成功していない。しかし、「バラモン左翼」と同様、今日の知的エリート層の有り様を中世の聖職者になぞらえるのは実にピタッとくる。ちなみに、「有識者」と訳されている原語は「clerisy」であって、聖職者(clergy)の現代版という意味だ。そして、「かつて自由な思想と探究の擁護者だと思われていた大学は、異端の考えが攻撃される場としての中世モデルに戻りつつある」という現状認識は、昨年5月15日号で取り上げた『「社会正義」はいつも正しい』の指摘とも響き合う。

 苦境に立つ現代のヨーマンたちを尻目に、左翼のジェントリ化が進む。「今日のインテリ左翼は、地球環境や国境を超えた移民については関心を持つが、同胞の労働者階級についてはあまり関心を払わない」からだ。そこに蓄積されつつあるのは中世的農民反乱のエネルギーだ。現代版農民反乱のほとんど全てがグローバリゼーションや移民の大量受入れに対する反発なのも当然だろう。

 本書の最後の章は「第3身分に告ぐ」と題され、その末尾には「社会的上昇を制限し、人々の依存心をより強めるような新しい封建制がやってくるのを何とか遅らせ、できれば押し戻さなければならない。それには、新しい封建制に抵抗しようとする第3身分の政治的意思を目覚めさせることが必要である」という檄文が書かれている。

(ジョエル・コトキン 著、寺下 滝郎 訳、東洋経済新報社 刊、税込2200円)

 

 

 

 

2024年5月29日 (水)

高齢者の定義は・・・55歳だった!?

政府の経済財政諮問会議で、民間議員が高齢者の定義を65歳から70歳にせよと主張したという話が駆け巡っています。大体みんな社会保障、年金関係の文脈で騒いでいるようですが、原資料を見ると、そういう風にならないように、わざと「社会保障の強靱化」の方ではなく、「女性活躍・子育て両立支援、全世代型リスキリング、予防・健康づくり」の方の、リスキリングの項目に書き込んでいたようですね。

誰もが活躍できるウェルビーイングの高い社会の実現に向けて① (女性活躍・子育て両立支援、全世代型リスキリング、予防・健康づくり)

〇全世代リスキリングの推進:高齢者の健康寿命が延びる中で、高齢者の定義を5歳延ばすことを検討すべき。その上で、いつでもチャレンジできるよう、DXや将来の人材ニーズを踏まえ、就業につながる教育・訓練の実施と、新たな給付等を活用した受講者の生活保障の充実を、利用状況を検証しつつ一体的に進める。その際、諸外国の例も参考にしながら、生産性向上の切り札であるリスキリング推進をめぐる現下の課題に対して関係省庁が連携の上、女性、高齢者、就職氷河期世代等を含む全世代を対象としたリスキリングについて官民一体による国民的議論を喚起すべき。

誰もが活躍できるウェルビーイングの高い社会の実現に向けて② (社会保障の強靱化)

とはいえ、高齢者の定義を5歳引き上げるといわれれば、みんな書いていない社会保障の方の話だと思ってしまうわけです。

わざわざそちらの方に書き込んだリスキリングの話だとは思ってくれないようです。

ちなみに、リスキリングによって長く働けるようにしようということでいえば、雇用に関しては既に60歳以上定年と65歳までの雇用確保が義務づけられているのに加えて、70歳までの就業確保が努力義務となっていることは周知の通りですが、それと高齢者の定義とがどう関わるのか、あんまり明確ではないですね。

というか、これはおそらく労働関係者でも必ずしもよく知られていないのではないのではないかと思われるのですが、実はこれら規定が置かれている高年齢者雇用安定法には、高年齢者の定義規定というのがあるんです。正確に言うと、法律ではなくてその施行規則(省令)ですが。

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律

(定義)
第二条 この法律において「高年齢者」とは、厚生労働省令で定める年齢以上の者をいう。

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律施行規則

(高年齢者の年齢)
第一条 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和四十六年法律第六十八号。以下「法」という。)第二条第一項の厚生労働省令で定める年齢は、五十五歳とする。

 なんと日本国の実定法上、「高年齢者」というのは55歳以上の人のことをいうんですね。

これは、55歳定年が一般的であった1970年代に作られた規定が、そのまま半世紀にわたってそのまま維持され続けているために、こうなっているんですが、おそらく現代的な感覚からすれば違和感ありまくりでしょう。

ちなみに、同省令には続いて、

(中高年齢者の年齢)
第二条 法第二条第二項第一号の厚生労働省令で定める年齢は、四十五歳とする。

45歳になったら中高年という規定もあって、こちらはそうかなという気もしますが(若者だと思っている人もいるようですが)、でも45歳からたった10年で55歳になったら高齢者というのは可哀想すぎますね。

高齢者の定義というのは、下手に踏み込むと得体の知れないものが出てくる魔界のようです。

 

 

 

労働者協同組合設立数87法人@『労務事情』6月1日号

B20240601 『労務事情』6月1日号に「労働者協同組合設立数87法人」を寄稿しました。

https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/romujijo/b20240601.html

去る4月1日、厚生労働省は労働者協同組合の設立状況を発表しました。それによると、施行後1年6か月で1都1道2府27県で計87法人が設立されています。設立された労働者協同組合では・・・・・

 

大森泰人『金融と経済と人間と』Ⅰ・Ⅱ

B_14173_1 先日、都内某所で講演したところ、そこで刊行された二冊の本をいただきました。大森泰人『金融と経済と人間と』Ⅰ・Ⅱ(金融財政事情研究会)です。

金融と経済と人間と I

金融と経済と人間と II

金融検査官を一刀両断した「サルにマシンガン」発言から14年ますます冴える大森節―

現役官僚時代、本質を突く発言でたびたび物議を醸した筆者が『週刊金融財政事情』で2016年4月から連載を続ける名物コラムを2巻45章に分けて集録。行政官として、金融のせいで人間が不幸になる不条理を目撃した経験から、古今東西の金融経済理論・事象はもとより、映画、小説、音楽、旅の記憶にまで素材を求め、より望ましい制度や運用の処方箋を、人間の心理や行動を含めて考え模索する旅。「努力しても報われない弱者を公平に扱ってこそ豊かな社会」との優しい目線が底流に流れる、時を経て読み返しても色あせない珠玉の286本!

ちなみに「サルにマシンガン」というのは金融界隈では伝説的なエピソードであるようですが、

https://toyokeizai.net/articles/-/2096

金融庁幹部が執筆したコラム記事が金融界で話題になったのは夏の盛りのこと。筆者は大森泰人総務企画局企画課長。日頃から型破りの官僚として知られる同氏は『旬刊 金融法務事情』誌上で、金融検査の実態を次のように表現してみせた。

「猿にマシンガンを持たせて野に放っているようなもんだな」

B_14174_1 その大森泰人さんが、森羅万象古今東西当たるを幸いことごとくなで切りにしているのが本書で、当然そのなで切られる対象には労働政策ってのもはいってきます。

第1章 手探り

第2章 イギリス小説から

第3章 古典派の経済思想

第4章 ケインズとピケティ

第5章 アメリカの観察

第6章 通念を疑う

第7章 進化論周辺の散策

第8章 労働政策

第9章 教育政策への接近

第10章 読み返して笑う

第11章 ドストエフスキー+1

第12章 社会保障政策と周辺

第13章 ライフステージ

第14章 佐川宣寿さん(元財務省理財局長)の連想

第15章 職業選択

第16章 福田淳一さん(元財務次官)の連想

第17章 弱者へのまなざし

第18章 ブロックチェーンの近未来

第19章 あまのじゃくな日々

第20章 ICOからグーグルへ

第21章 本音とギャグの混然一体

第22章 規制の諸相

第23章 無意識連想の連鎖

第24章 老後資金2000万円報告

第25章 リブラへの視点

第26章 MMT瞥見

第27章 脱線話集

第28章 浮世の出来事

第29章 目黒謙一さんの訃報

第30章 南インドの旅

第31章 コロナが対岸の火事だった頃

第32章 コロナ時代の幕開け

第33章 レジーム・チェンジの再現

第34章 コロナ時々外出

第35章 企業組織論

第36章 部門別資金過不足の変容から

第37章 旅の再開

第38章 医療制度の持続可能性

第39章 行政経験を思い出しながら

第40章 新境地?

第41章 見え隠れする大蔵省

第42章 実力、努力、運

第43章 不発の総括

第44章 甲斐なき政策検証

第45章 正解のない問題

付 録 ちょっと長めですが

この第8章の労働政策でも、同一労働同一賃金、時間外の上限、日本的経営、女性保護、ホワイトカラー、三者協議、規制運用が取り上げられ、金融政策を時々補助線に引きながら、まあなで切りしています。それだけではなく、下巻の第42章では、3回にわたって「45歳定年制の構図」を論じていますが、最後のほんの数行の記述は、多分労働界隈でもそれくらいちゃんとわかってものをいっている人は少ないんじゃないかな、と思うくらいです。

・・・長期雇用は別に日本の専売特許ではなく、むしろアメリカの短期雇用の方が国際的には珍しい。そして女性はヨーロッパの方が日本より長期雇用なのは無論、日本では出産を機に過半の女性が会社を辞めるからである。だから男性の処遇を年功序列にして、ライフステージに応じて家族が相応に暮らしていけるよう年々の報酬はもとより、退職金も企業年金も長く勤める方が有利に設計してきた。45歳定年制に新浪さんが指摘するマクロ経済の効率化の恩恵があっても、ミクロ経済で不利だから家族のために転職できない。

 転職を経済的に不利にしないためには、本気で「同一労働同一賃金」にしなければならないから、日本社会の深遠な変容を意味する。社内での先輩と後輩の関係、男性と女性の関係、正規と非正規の関係、そして家庭での家事や育児の夫婦の役割分担まで差が消えて公平にならない限り、議論が噛み合わない紛糾が続く。・・・

ちなみに、「ブリーフ裁判官」の項では、「これで懲戒なら、オレは何度懲戒されても不思議じゃなかったな」との感想をもらしています。

ちなみに、これが最後のちなみにですが、大森さんは大学(駒場)時代の同級生だったりします。お互いに変な奴だと思っていたようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2024年5月27日 (月)

『DIO』397号は「賃上げの更なる広がりに向けて」特集

Dio3971 『DIO』397号は「賃上げの更なる広がりに向けて」を特集しています。

https://www.rengo-soken.or.jp/dio/dio397.pdf

解題
賃上げの更なる広がりに向けて
連合総研主任研究員 鈴木 智之

寄稿1
どのような賃上げを望むのか?
――企業の枠を超える――
労働政策研究・研修機構(JILPT)研究員 鈴木 恭子

寄稿2
労使間の交渉力の変化と賃金停滞
明治学院大学経済学部教授 児玉 直美

寄稿3
男女賃金格差の是正に向けて
JETROアジア経済研究所主任研究員 牧野 百恵

寄稿4
「年収の壁」がもたらす諸問題
東京大学社会科学研究所教授 近藤 絢子 

このうち、JILPTの鈴木恭子さんの論文は、まず何を賃上げと呼ぶべきか?、具体的には定期昇給はそもそも賃上げなのか?という疑問を呈するところから始まり、労働組合は賃金を上げているのか?春闘は格差を再生産しているのではないか?、企業別組合であることの制約、そして労働組合は春闘を通じて何を目指すのか?という広範かつ深い問いを次々に問いかける内容になっています。

このうち最初の定期昇給とベースアップについては、たまたま『労務事情』5月1日号に小文を寄せていたので、そこに載せたベースアップと定期昇給の推移のグラフをここに載せておきます。これと、『令和4年版労働経済白書』に載っている各国の名目賃金の推移を見比べると、「定期昇給はそもそも賃上げなのか?」という問いの意味がよく見えてくるでしょう。

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P2
なお、この話のより詳しい歴史的な解説は、7月刊行予定の『賃金とは何か 職務給の蹉跌と所属給の呪縛』(朝日新書)で行っております。

 

労働政策フォーラム「時間帯に着目したワーク・ライフ・バランス─家族生活と健康─」@『ビジネス・レーバー・トレンド』2024年6月号

『ビジネス・レーバー・トレンド』2024年6月号では、メイン特集の「賃上げが当たり前の社会に向けて ――2024春闘の最新状況」につづいて、去る3月6日に開催した労働政策フォーラムの記録です。

https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2024/06/index.html

経済社会のサービス化の進展などから、働く時間帯が早朝・深夜や休日に及ぶ人もいる。そうしたなか、長時間労働の対策については近年、政府や企業を中心に進められてきたものの、unsocial(非典型的)な時間帯の就労実態やその生活や健康への影響については必ずしも十分に把握されてこなかった。3月に開いた労働政策フォーラムでは、「時間帯」に着目した研究成果や、非典型な時間帯に働く人を支援するNPOの取り組みを報告するとともに、時間帯の視点も加えた望ましいワーク・ライフ・バランスのあり方などについて議論した。(各報告およびパネルディスカッションの概要は調査部で再構成したものを掲載している。)

【基調報告】

時間帯の視点からみた労働者の生活と健康、子どもへの影響

大石 亜希子 千葉大学大学院 社会科学研究院 教授

【研究報告(1)】

就労世代の生活時間の貧困

浦川 邦夫 九州大学 経済学研究院 教授

【研究報告(2)】

生活時間と健康の確保に関わる働き方

高見 具広 労働政策研究・研修機構 主任研究員

【パネリストからの報告(1)】

両親の帰宅時間が子どもの成績や母親の両立葛藤に与える影響─「仕事と教育の両立」問題の実証的研究─

中野 円佳 東京大学 男女共同参画室 特任助教

【パネリストからの報告(2)】

フローレンスの活動紹介

桂山 奈緒子 認定NPO法人フローレンス みらいのソーシャルワーク事業部 マネージャー

【パネルディスカッション】

コーディネーター:濱口 桂一郎 労働政策研究・研修機構 労働政策研究所長

 

 

2024年5月24日 (金)

日本労働法学会誌137号『労働法と経済法(競争法)の関係の整序に向けて』

Isbn9784589043429 日本労働法学会誌137号『労働法と経済法(競争法)の関係の整序に向けて』が届きました。昨年10月28,29日に西南学院大学で開催された日本労働法学会第140回大会の記録です。

大シンポジウムでは、わたくしがこんな質問をしておりました。

①企業別組合中心で、企業を超えた交渉、協約がほとんどない日本において、事業者のみが談合し、低賃金カルテルではなく高賃金カルテルを締結することは、当然、独禁法違反でしょうか。それとも、労働条件ゆえに協同なのか。

②賃上げのために、事業者のみが、賃金そのものではなく、取引先との価格転嫁を協定するということはどうでしょうか。

③時短のために、事業者のみが営業時間、営業日を協定することはどうでしょうか。

 

 

 

『賃金とは何か』書影

Asahishinsho



2024年5月23日 (木)

ILOがプラットフォーム労働条約(勧告)に向けて動き出す?@『労基旬報』2024年5月25日号

『労基旬報』2024年5月25日号に「ILOがプラットフォーム労働条約(勧告)に向けて動き出す?」を寄稿しました。

 本誌3月25日号で紹介したように、今年3月11日にEUの閣僚理事会はプラットフォーム労働指令案に特定多数決で合意に達し、今年前半中にも正式に成立する見込みとなりました。これと併行して、より大きな国際レベルでもプラットフォーム労働への法規制の動きが始まっています。国際労働機関(ILO)も来年と再来年の2025年と2026年の2回の審議によって、プラットフォーム労働に関する新たな国際基準を設定する方向に向けて動き出しているのです。
 今年の1月31日に、ILOは「プラットフォーム経済におけるディーセントワークの実現(Realizing Decent Work in the Platform Economy)」という100ページを超える報告書を発表しましたが、この末尾には膨大な加盟国向けのアンケート票がついており、既に各国政府と労使団体はこれに対する回答に頭をひねっているところだと思われます。
 本報告書の「はじめに」によると、2019年の「仕事の未来に向けたILO100周年宣言」は、すべてのILO加盟国に対し、「適切なプライバシーと個人データ保護を確保し、プラットフォーム労働を含む仕事のデジタル変革に関連する仕事の世界における課題と機会に対応する政策と措置」を講ずるよう求めています。その後ILO理事会は2021年3月の第341回会合で、2022年中に「プラットフォーム経済におけるディーセント・ワーク」の問題に関する三者専門家会議を開催することを決めました。この専門家会議は2022年10月10日から14日までジュネーブで開催され、その結果が同年10月~11月の第346回理事会会合に報告されました。これを受けてILO理事会は、2025年6月の第113回ILO総会にプラットフォーム経済におけるディーセント・ワークに関する項目を議題とすることを決定したのです。さらに2023年3月の第347回理事会会合では、2025年6月の第113回ILO総会では二回討議手続をとることを決定しました。二回討議手続とは、1年目の第1次討議では一般的な原則を検討し、2年目の第2次討議で条約な勧告といった国際基準を採択するものです。ですから、2026年6月のILO総会でプラットフォーム労働に関する条約か勧告が採択されるという日程表がほぼ定まったわけです。
 報告書は全14章からなり、実に様々な問題を取り扱っていますので、ここでは目次を訳しておきます。
はじめに
第1章 プラットフォーム経済の登場と多様性
 1.1 ビジネスモデル、競争上の優位、市場における力
第2章 プラットフォーム労働の性質
 2.1 ビジネスと顧客を労働者につなげるプラットフォーム
  2.1.1 プラットフォームの数とプラットフォーム労働の広がり
  2.1.2 プラットフォームとプラットフォーム労働の場所
 2.2 プラットフォーム労働の主な特徴
  2.2.1 低い参入障壁と柔軟性
  2.2.2 プラットフォーム労働の業種と職種
  2.2.3 本業と副業
  2.2.4 労働のモニタリングと監視におけるアルゴリズムの役割
 2.3 プラットフォーム労働者の特徴
  2.3.1 年齢
  2.3.2 学歴
  2.3.3 性別
  2.3.4 移民・難民
 2.4 デジタルプラットフォーム労働とインフォーマル性
第3章 規制枠組み
 3.1 国際法とプラットフォーム労働
  結社の自由と団結権、強制労働、児童労働、機会と待遇の平等、労働安全衛生、雇用政策と促進、雇用関係、報酬、労働時間、アルゴリズム、個人データ保護、社会保障、移民労働者、紛争解決、雇用終了、労働監督、インフォーマル経済からフォーマル経済への移行、国際労働基準のプラットフォームへの関連性要約
 3.2 加盟国における規制介入の範囲
第4章 プラットフォーム労働者とプラットフォームの定義
第5章 デジタルプラットフォームのどの労働者が保護されるのか?
 5.1 文脈
 5.2 国と地域の取組み
  5.2.1 判例法
  5.2.2 立法
第6章 職場の基本原則と権利
 6.1 結社の自由と団体交渉権の有効な承認
 6.2 強制労働と児童労働の廃絶
 6.3 平等と非差別
 6.4 労働安全衛生
第7章 雇用政策と促進
第8章 労働保護
 8.1 報酬
 8.2 労働時間
 8.3 雇用終了と解除
 8.4 労働者の個人データ保護
 8.5 紛争解決
第9章 社会保障
第10章 労働者代表と労使対話
 10.1 文脈
 10.2 国と地域の取組み
  労働者代表、三者構成対話、団体交渉と二者構成対話
第11章 情報へのアクセス
第12章 法令遵守
 12.1 文脈
 12.2 国と地域の取組み
  12.2.1 執行、罰則及び関連する監督機構
  12.2.2 許可制と報告義務
第13章 ILOの作業と他の国際的な取組み
 13.1 グローバルな証拠へのILOの貢献
 13.2 加盟国を支援するILOの技術支援と調査
 13.3 より広範な国際的な取組み
第14章 プラットフォーム経済におけるディーセントワークに関する基準
 14.1 プラットフォーム経済の急速な登場とその規制に向けた歩み
 14.2 法と慣行からの教訓
 14.3 なぜ基準が必要なのか?
  将来の制度改正の手続の潜在的な簡素化と加速化、質問票
 この詳しい内容は、ILOのホームページに掲載されている本報告書を是非見ていただきたいと思います。
 ここでは、最後の「なぜ基準が必要なのか?」で列挙されている新たな基準に盛り込まれるべき内容を紹介しておきます。ILO事務局は、こういう方向で新基準を設定しようとしているのです。
(a) オンライン及び場所ベースのプラットフォームが、基準における共通の諸原則にふさわしい共通点を共有していることを認める、
(b) 雇用上の地位に関係なく労働者を対象としつつ、雇用上の地位が異なる労働者が権利を実現するための異なる経路が存在する可能性を認め、
(c) デジタルプラットフォームが、その地位が使用者であるか又は雇用関係以外の契約主体であるかにかかわらず、プラットフォーム労働者のディーセントワークを確保スル上で重要な役割を担っていることを認め、
(d) プラットフォーム経済におけるディーセントワークに対する新たな具体的な課題、とりわけプラットフォーム労働を編成し、監督し、評価するためのアルゴリズムの使用など、労働条件に影響を与える技術の使用に関連する課題に対処するための明確な枠組みを提供し、
(e) 労働関係の停止又は終了及びアカウントの無効化並びに労働者の個人データの保護に対処し、
(f) 紛争の国境を越えた性質を含め、プラットフォーム労働の国境を越えた性質に関連して生じる特定の問題に対処し、
(g) 法律及び慣行において国内条件及び国際労働基準に合致する保護を確立する上で、加盟国にある程度の柔軟性を提供し、
(h) プラットフォーム経済のダイナミックな性質を認識するとともに、急速な技術発展に対応するための将来的な基準の適応の可能性を確立し、
(i) 関係する労働者及びプラットフォームの有効な代表を確保しつつ、十分な法律及び規則を定義する際の三者構成社会対話の役割と、労働協約を締結する際の労使団体の役割を強調する。
 日本がプリーランス新法の制定と施行に専念していた時期に、世界はプラットフォーム労働という新たな就業形態に対する法的規制に向けた動きが着実に進みつつあったということは、政労使の何れの人々もきちんと認識して対応していく必要があると思われます。

 

2024年5月22日 (水)

EUがAI規則を採択

もう既に日本でも報道されていますが、昨日EUの閣僚理事会がAI規則案を正式に採択しました。

Artificial intelligence (AI) act: Council gives final green light to the first worldwide rules on AI

これについては、規則案提案の際に労働関係に重点を置いてごく簡単に紹介したことがあります。

JILPTリサーチアイ 第60回 EUの新AI規則案と雇用労働問題

去る4月21日、EUの行政府たる欧州委員会は新たな立法提案として「人工知能に関する規則案」(COM(2021)206)[注1]を提案した。同提案は早速世界中で大反響を巻き起こしているが、本稿では必ずしも日本のマスコミ報道で焦点が当てられていない雇用労働関係の問題について紹介し、政労使の関係者に注意を促したい。・・・・

ヨーロッパで検討進むAI規制案 労働法はAIとどうかかわるか

ボスがアルゴリズムだったら?

人工知能(AI)と労働を巡る議論は、これまでどちらかというとAIによってどれだけの仕事が奪われるかという、マクロ的ないし経済学的関心が主でした(フレイ&オズボーンの2013年論文やその日本版など)。しかし近年、AIが労働のあり方をいかに変えるかという、ミクロ的ないし社会学的関心が高まっています。採用から業務管理、業績評価、解雇に至るまでの人事労務管理の全般にわたって、AIがもたらしつつある変化が、これまでの労働法が前提にしていたものを突き崩しつつあるのではないかという問題意識です。オックスフォード大学法学部のアダムズ・プラスル教授の最近の論文「もしボスがアルゴリズムだったら?」(『比較労働法政策雑誌』41巻1号)というタイトルは問題を端的に示しています。

これまで採用を巡る問題の中心は不完全情報による「レモン」(職務能力の乏しい者をつかんでしまう)問題でした。しかし今や、ネット上に存在する応募者に関する情報を探索し、プロファイリングすることで、問題社員を事前にチェックすることも可能になりつつあります。それでどこが悪い?と考えるかもしれませんが、応募者のさまざまな属性や特徴から一定の傾向を抽出し、それに基づいて採用の判断をすることは、労働法が抑制しようと努めてきた統計的差別を公然と復活させることになりかねません。問題はそれが経営者の偏見などではなく、ビッグデータに基づく「科学的に正しい」予測だという点です。

入社後の日々の業務管理も、これまでは不可能であったような微細なモニタリングとデータ収集により、継続的な監視の下に置くことが可能です。飽きっぽい生身のボスではなく、アルゴリズムがリアル空間でもネット空間でもあなたを見張っているからです。これをアダムズ・プラスルは、百眼の怪物アルゴスになぞらえて「今日のパノプテス」と呼んでいます。会社は監視監獄パノプティコンになるのでしょうか。

EUの規制案とは?

こうして日々収集されたデータは日々分析され、労働者の業績評価に用いられます。繰り返しますが、恣意的で偏見に満ちた生身のボスではなく、ビッグデータに基づく科学的な判定です。しかしその判断過程は外から見えません。AIの中でどういうデータに基づいてどういう判断が下されたのか、生身のボスにもわからないのです。「なぜ私の評価はこんなに低いんですか?」「AIの判断だから私にもわからないけど確かだよ」。

これは解雇の判断でも同じです。「なぜ私はクビなんですか」「AIの判断だから私にもわからないけど確かだよ」。誰も説明できないのに、クビになる根拠があることだけは確かです。そう、AIは意思決定を限りなく集権化する一方で、その責任を限りなく拡散するのです。

こうした事態がすでに局部的に現実化しているのがウーバーやウーバーイーツなどのプラットフォーム労働の世界です。仕事の依頼に何秒以内に対応したか、仕事の依頼をいくつ断ったかで細かく評価され、客先の採点で低い評価が続けば、アプリにアクセスできなくなってしまう、というのは、他分野での労働の未来絵図を先取りしているのかもしれません。そこに着目して規制を試みているのがEUです。

2021年12月に欧州委員会が提案したプラットフォーム労働指令案は、(私も含めて)労働者性の法的推定規定の方に関心が集中していますが、実はもう一つの柱はアルゴリズム管理の規制です。そこでは、自動的なモニタリングと意思決定システムの透明性、人間によるモニタリングの原則、重大な意思決定の人間による再検討、労働者代表への情報提供と協議といった規定が設けられています。審議はこれからですが、これらはプラットフォーム労働に限った問題ではなく、労働の場におけるAI利用の全分野に関わる問題です。

欧州委員会のAI規則案

欧州委員会は2021年4月に人工知能規則案を提案しています。こちらは労働に限らず、全分野にわたるAI規制を試みたもので、AIをそのリスクによって4段階に分けています。最も上位にあるのが基本的人権を侵害する可能性の高い「許容できないリスク」で、潜在意識に働きかけるサブリミナル技術、政府が個人の信用力を格付けする「ソーシャルスコアリング」、そして法執行を目的とする公共空間での生体認証などが含まれます。これらは中国では政府が先頭に立って全面的に展開されているものですが、EUはその価値観からこれらを拒否する姿勢を明確にしています。規則案の公表以来、世界中のマスコミが注目しているのもこれら最上位のリスクを有するAIに対する禁止規定です。

しかしながら、その次の「ハイリスク」に区分されているAI技術の中には、雇用労働問題に深く関わるものが含まれています。ハイリスクのAIは利用が可能ですが、本規則案に列挙されているさまざまな規制がかかってくるのです。

4 雇用、労働者管理および自営へのアクセス

(a) 自然人の採用または選抜、とりわけ求人募集、応募のスクリーニングまたはフィルタリング、面接または試験の過程における応募者の評価、のために用いられるAIシステム

(b) 労働に関係した契約関係の昇進および終了に関する意思決定、課業の配分、かかる関係にある者の成果と行動の監視および評価に用いられるAIシステム

見ての通り、入口から出口まで人事労務管理の全局面にわたってAIを用いて何らかの意思決定をすることが本規則の適用対象に入ってきます。ただし、AI規則案はあくまでもAIに対する規制であって、利用者(企業)に課せられるのはリスクマネジメントシステムの設定、データガバナンスの確立、運用中の常時記録(ログ)、そして人間による監視といったことです。

日本や労働組合への示唆

このように、EUのAI規制への意気込みは大きいとはいえ、プラットフォーム労働という小領域向けの指令案と、全社会を対象とする規則案の間に、労働におけるAI利用に向けた中範囲の規制の動きはまだ存在しません。これに対し、欧州労連(ETUC)は2020年7月「人工知能とデータに関する決議」で、職場の不適切な監視を防ぎ、バイアスのあるアルゴリズムに基づく差別を禁止する法的枠組みを要求し、2021年6月には欧州議会議員への書簡で、採用・評価に限らず、職場で用いるすべてのAIシステムをハイリスクに分類し、リスクアセスメントは第三者が行うべきだと求めています。また、欧州労連のシンクタンクである欧州労研(ETUI)も2021年7月の政策ブリーフで、雇用におけるAIを対象とする指令を要求しています。

日本ではまだプラットフォーム労働への規制も緒に就いてすらいませんし、AIについても2021年7月に経済産業省が「AI原則実践のためのガバナンス・ガイドライン」を策定したにとどまり、そこでは法的拘束力ある横断的規制は否定されている状態です。しかし、職場の現実は世界とくつわを並べてどんどん進んでおり、本稿前半で述べたような世界の到来は決して遠い将来の夢物語ではありません。この問題意識を社会に喚起していく上で、労働組合の役割は極めて大きいものがあるはずです。

 

2024年5月21日 (火)

地方公務員(公立学校教員)は労働基準法原則適用だが労働組合法適用除外ゆえ

F9fmcqd_400x400_20240521135101 退職代行に関して、焦げすーもさんがこういうつぶやきに対してこのような疑念を呈しているのですが(わたしの名前が出てくるのでひっかかった)

公立学校は退職代行使えないそうです。退職代行モームリに電話してみました。理由は公務員には労働基準法が適用されないからだそうです。

二重におかしい説明である。 ・公立学校の教員には、一部規定を除き、労基法の適用がある。 ・労基法に退職の有効性に関する定めはない。 ※公務員特有の『任用』は、民法の『雇用』規定とは異なると一般に解されているため、 という説明であれば、一応は納得できる。

「一応は」と書いているのは、「公務員の労使関係も労働契約である」という濱口桂一郎説を無視できないからである。

とりあえずはその通りであって、国家公務員と異なり、地方公務員には労働基準法が(一部の規定を除いて)原則適用され、その中には第二章の労働契約も含まれます。労働基準法第二章の諸規定中、地方公務員法第58条第3項により適用除外されているのは、労働基準法第14条第2項第3項(いわゆる雇止め告示)だけです。以上は、労働法の世界の常識ながら、地方公務員の世界では非常識(常識になっていないという意味)であることは繰り返し述べ来たったとおり。

ただ、モームリさんが地方公務員の退職代行を断ったのは、労働基準法が適用されないからという間違った理由からではなく、労働組合法が適用されないからではないかと思われます。

退職代行業を非弁行為ではなく合法的に行うために労働組合としての行為として行うビジネスモデルからすると、地方公務員の退職代行を合法的に行うためには地方公務員法上の職員団体とならねばなりませんが、こちらは労働組合と異なり、地方公務員法第53条による登録が交渉をする上での必須条件なので、そういうことは出来ません、という趣旨であったのではないかと。

 

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