武石恵美子『キャリア開発論』

9784502198410_240武石恵美子さんから新著『キャリア開発論―自律性と多様性に向き合う』(中央経済社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.biz-book.jp/%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%AA%E3%82%A2%E9%96%8B%E7%99%BA%E8%AB%96%E2%80%95%E8%87%AA%E5%BE%8B%E6%80%A7%E3%81%A8%E5%A4%9A%E6%A7%98%E6%80%A7%E3%81%AB%E5%90%91%E3%81%8D%E5%90%88%E3%81%86/isbn/978-4-502-19841-0

キャリア開発についての体系的・実践的なテキスト。「自律性」と「多様性」をキーワードに、具体的トピックスやデータを織り込みながら個人・企業・社会の視点から解説。

目次は下の通りですが、まさにテキスト的な構成ではありますが、後ろの方を見ていくと、「ブラック企業問題」とか「非正規雇用とキャリア開発」といったトピックも取り扱われており、今日的な関心にも対応するものになっています。

第1部 全体像をつかむ(キャリア開発とは何か
キャリア開発の主体
経営環境とキャリア開発の変化
求められるキャリア自律)
第2部 テーマごとに考える(ダイバーシティ経営
正社員の多元化とキャリア開発
ワーク・ライフ・バランスと働き方改革
女性のキャリア開発
育児期のキャリア開発
介護責任とキャリア開発
再就職者のキャリア開発
ブラック企業問題
非正規雇用とキャリア開発
自律性と多様性に向き合う)

はじめの方の「キャリア開発の主体」のところでも、日本の雇用システムとキャリア開発といった論点が出てきますが、やはりここでは後ろの方の「ブラック企業問題」を取り上げた第12章を見ておきましょう。

「ブラック企業の背景」というところで拙著等も引用しつつ分析したあと、「ブラック的な働き方への対処行動」というところで、「退出か発言か」と、「発言」メカニズムにも関心を引っ張っていきます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

heartbeatさんの拙著書評

131039145988913400963_2heartbeatさんの「Just read it !」というブログが、安倍総理の働き方改革に引っかけて、拙著『新しい労働社会』を詳しく紹介、書評していただいています。

http://just-read-it.book-lovers.net/better-society/hatarakikata-01/

・・・最初にご紹介するのは、濱口桂一郎著、「新しい労働社会 ― 雇用システムの再構築へ」(岩波新書)です。この本を、まず始めに読んでいただきたい。一度読んだ方でも、ときどき原点を振り返る必要ができたとき、また、さまざまな論点の関係性を整理したいときなどに、リファレンスとして再度目を通していただくと、そのたびに理解を深めてくれる教科書のような本です。新書というボリュームも座右に置いて負担になりません。

・・・本書は、これらのさまざまな労働問題の論点を、読みやすい簡潔な文章ですっきりと整理しています。どのように整理するかというと、現在の日本型雇用システムについて、それができあがった歴史的な背景をひもとき、また、欧米型の雇用との国際比較を試みます。濱口氏は労働官僚ですが、日本型雇用システムの問題点に気づき、独自の労働政策論を掲げ、とにかくきまじめに課題解決に取り組んでこられた。そのような印象を行間から感じます。・・・

そして私の議論を丁寧に一つ一つ取り上げて紹介していくのですが、とりわけ有り難いと感じたのは、人によっては異端扱いされかねない第4章の議論を、正面から受け止めていただいていることです。

・・・濱口氏は、この正規・非正規という労働者間の利害調整と合意形成に向け、「さまざまな困難があるにしても、現在の企業別組合をベースに正社員も非正規労働者もすべての労働者が加入する代表組織を構築していくことが唯一の可能性である」とうったえます。濱口氏のこの方法論に対し、リアリティがないと一蹴することはかんたんですが、混迷する雇用論議に一石を投じていることは確かです。

いったいだれが濱口氏の主張を嗤うことができるでしょうか。安倍総理の呼びかけを本気で受け止められない与党政治家、ミクロの対立構図に埋没しがちな野党、総論賛成でも各論ではおよび腰の企業経営者、組織率の退潮著しい労働組合、体系的議論が苦手なマスメディア、そして最大の既得権者である正規社員ひとりひとり・・・。それぞれが、日本型雇用システムの問題点について、見て見ぬふりをし、議論から逃げているようにさえ見えます。

もう7年前の本ですが、集団的労使関係こそが問題解決への王道だという考えがいまほど重要になっている時期はないのではないかと思っています。

| | コメント (1) | トラックバック (0)
|

渡辺・平子・後藤・蓑輪編『資本主義を超えるマルクス理論入門』

28029430_1渡辺憲正,平子友長,後藤道夫,蓑輪明子編『資本主義を超えるマルクス理論入門』(大月書店)を、編集部の角田三佳さんよりお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.otsukishoten.co.jp/book/b244348.html

革命、経済、歴史に関する基礎理論を解説し、女性/家族、エコロジー、ナショナリズムなど現代の問題をマルクスの視点から考察。

大月書店と言えば、最近でこそ労働問題や貧困問題など社会派の本を手広くやっているという印象ですが、恐らく私より一回りか二回りくらい上の世代になれば、マルクス・エンゲルス全集の出版元というイメージが一番強いと思われます。

その大月書店が、満を持してか否かはともかく、マルクス理論の入門書を出すというのは、やっぱり世間で流行っているんでしょうね、マルクスが。

いまマルクスを学ぶ意味:渡辺憲正
第1部 マルクスを読む
第1章 社会を変える
[1]革命と将来社会:後藤道夫
[2]階級闘争の理論:後藤道夫
[3]私的利害と共同利害――国家と法律:後藤道夫
第2章  資本主義を批判する
[4]物象化された生産関係としての市場:平子友長
[5]剰余価値の生産と資本主義的生産様式:平子友長
コラム「『資本論』後のマルクス」:平子友長
[6]私的所有の特殊性と労働者の無所有:平子友長
[補論]ロックの問題
[7]資本蓄積と貧困:平子友長
 コラム フェミニズム世界システム論:平子友長
[8]恐慌:前畑憲子
[9]植民地化と世界市場:渡辺憲正
[補論]エンゲルス編『資本論』からマルクス自身の『資本論』へ
――新メガと研究の最前線:平子友長
第3章 唯物論的歴史観の創造
 「唯物論的歴史観の定式化」(資料)
[10]土台と上部構造:渡辺憲正
 コラム「カール・マルクス問題」:渡辺憲正
[11]支配の思想とイデオロギー:渡辺憲正
 コラム「『ドイツ・イデオロギー』編集問題」:渡辺憲正
[12]人類史の構想:渡辺憲正
[13]共同体/共同社会とその解体:渡辺憲正
[補論]マルクスの唯物論理解とエンゲルス:後藤道夫
コラム「ソ連マルクス主義の唯物論理解──「古い唯物論」の継承と共産党独裁」:後藤道夫

第2部 マルクス理論の射程
第4章 生と生活を問う
[1]女性/家族/資本主義:蓑輪明子
コラム マルクス、エンゲルスの理論と現代フェミニズム:蓑輪明子
[2]エコロジーと農業:渡辺憲正
[3]社会的疎外と宗教:亀山純生
[4]現代平等論とマルクス:竹内章郎
第5章 社会統合と危機
[5]ネイションとナショナリズム:渡辺憲正
[6]20世紀の大衆社会統合と社会主義:後藤道夫
コラム「グラムシ」:後藤道夫
[7]現代の経済危機:小西一雄
[8]物象化論が現代に示唆するもの――「再商品化」の矛盾と対抗:後藤道夫

しかしこの本、表紙に「入門」と唱っている割に、始めからずいぶんガチですね。

いやいやこれ、入門どころか、恐らく著者たちが内心想定して書いている読者層ってのは、マルクス研究者業界のあの人だったりこの人だったりするんじゃないかというのが、むしろ一読した感想。

とりわけそうですね、第2章[4]で、物象化(Versachlichung)と物化(Verdinglichung)は違うんだという議論を展開している所などは、本気で入門のつもりで読み始めた人にとっては、かなりのものではないかと。

あと、個人的には拙著『働く女子の運命』でマルクス経済学による生活給の正当化の議論を紹介したこともあり、第4章[1]は興味深いものでした。ここは、もっと突っ込んで議論を展開して欲しかった感があります。

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

安西愈・木村恵子『労働者派遣のトラブル防止と活用のポイント』

2472495001 弁護士の安西愈・木村恵子両氏の『実務の疑問に答える労働者派遣のトラブル防止と活用のポイント』(日本法令)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.horei.co.jp/item/cgi-bin/itemDetail.cgi?itemcd=2472495

労働者派遣は、労使二者間で結ぶ労働契約よりも当事者の契約関係が複雑なため、実務上迷うところが多いが、平成24年・27年改正法の施行でより理解が難しくなった労働者派遣法には、派遣労働者の受入れ・就業上の措置における法違反への罰則だけでなく、派遣先による「労働契約申込みみなし制度」も導入されているため、実務担当者には正しい理解が必須となる。

本書では、適正に実務を行うことができるよう、法令等に基づき解説するとともに、実際に著者に寄せられた疑問に応えるQ&Aも多数収録。

超詳細な目次がこちらにありますが、

http://www.horei.co.jp/ec/item/contents/2472495.html

447頁にもなんなんとする分厚い実務書です。

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

捨ててあった本・・・・

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5ツイートにこんなのが・・・。

https://twitter.com/by0AM/status/780183509914693632

会社の図書室に捨ててあった「働く女子の運命」という、上野千鶴子氏の写真が帯にあるアレな本を拾ってきたが、期待してなかった割に労働法制史としてはかなり面白い。

いやいや「捨ててあった本」ですか。しかも、「上野千鶴子氏の写真が帯にあるアレな本」と。でも、そこまで「期待してなかった」本を読んで、「労働法制史としてはかなり面白い」という感想を持っていただいたのですから、まずはよしとしませうか。

できれば捨てないで欲しいです。

も一つ、

https://twitter.com/Coro_Aube/status/780039002875236352

「働く女子の運命」も読了。タイトルは軽い感じだけれど,中身は非常にしっかりした内容だった。労働法は門外漢なのだけど,それでもとてもわかりやすかった。「第一次ワークライフバランスが空洞化しているところに,異様に完備された第二次ワークライフバランスを持ち込むと何が起こるか。」→

https://twitter.com/Coro_Aube/status/780039890759057410

→総合職女性が「育休世代のジレンマ」に悩み,その周辺の人々が「悶える職場」が生み出され続ける,というくだりはなるほどーと思った。「女子」というタイトルがちょっと気恥ずかしいのだけど,一読の価値ありと思った。

すみませんねえ、気恥ずかしいタイトルで。でもまあ、「一読の価値ありと思」っていただいたようなので、有り難いです。

| | コメント (1) | トラックバック (0)
|

鶴光太郎『人材覚醒経済』

357023鶴光太郎さんから新著『人材覚醒経済』(日本経済新聞出版社)をお送りいただきました。

http://www.nikkeibook.com/book_detail/35702/

「一億総活躍社会」は政権の人気取り政策ではないかと考える人々も多いかもしれないが、人口減対応・人材強化が日本経済の次なる成長にとって欠かせない条件だ。だが、アベノミクス第2ステージには旧目標と新目標が入り乱れ、混沌の様相を呈している。こうした状況を脱するには「一億総活躍社会」を目指して新3本の矢を束ねる横軸が必要だ。それは「ひと」にまつわる改革。眠れる人材を覚醒させる、教育を含む広い意味での人材改革と働き方改革だ。
本書は、働き方改革の根本は多様な働き方の実現ととらえ、そのためにどのような改革が必要か、どのような社会が生まれるのかを明らかにするもの。

第2次安倍内閣成立後、規制改革会議雇用ワーキンググループの座長として広汎な雇用制度改革の議論をリードしてこられた鶴さんが、その立場から外れて一息入れて思いを書き下ろした本というところでしょうか。

オビに書かれている文句が、鶴さんの思いを結構ストレートに表現していて、左側にでかく「働き方だけで日本は変われる」とありますし、真ん中あたりに小さい字で

「成長のアキレス腱となった無限定正社員システム。

その問題点を解決できるのはジョブ型正社員だけだ。

実力派経済学者が労働改革の具体策を提示。」

という3行が。

この文句からも分かるように、この本は

「元兇は日本の無限定正社員システム」

という原認識から、ジョブ型正社員への移行によって女性、労働時間、高齢者、若者、非正規、等々あらゆる雇用問題を解決に導こうとする意欲的な本になっています。

序 章 人材覚醒――アベノミクス第三ステージからの出発

第1章 問題の根源――無限定正社員システム

第2章 人材が覚醒する雇用システム

第3章 女性の活躍を阻む2つの壁

第4章 聖域なき労働時間改革――健康確保と働き方の柔軟化の両立

第5章 格差固定打破――多様な雇用形態と均衡処遇の実現

第6章 「入口」と「出口」の整備――よりよいマッチングを実現する

第7章 性格スキルの向上--職業人生成功の決め手

第8章 働き方の革新を生み出す公的インフラの整備

終 章 2050年働き方未来図――新たな機械化・人口知能の衝撃を超えて

というところからも窺えるように、その基本認識や政策方向において、私が過去数年来書いたり喋ったりしてきたことと、(若干の違いはあるものの)ほぼ同じスタンスに立っているといってよいように思われます。

実際、本書を読んでいくと、かなりの頻度で私の著書への言及があり、どのあたりで両者の認識がつながっているかが分かるでしょう。

もちろん、法律方面から攻める私と違い、理学部数学科卒業でオックスフォードで経済学の博士号を得た鶴さんですから、随所にそれは現れています。

たとえば、よくわかっていない軽薄な経済評論家ほど「硬直的な労働法が岩盤規制だ」などと言いたがるところで、「我々の心に潜む雇用システムの「岩盤」の打破」という見出しで、雇用システムをゲーム理論を駆使して比較制度分析し、

・・・したがって、雇用制度改革の岩盤は、個々の労働規制というよりは、むしろ我々の心の中にあると考えるべきである。

そうであるのならば、無限定正社員にまつわる諸問題を解決するためには、我々の頭=「岩盤」に「ドリル」を向けなければならないのだ。・・・

と明確に言ってのけます。ここで用いられる「ナッシュ均衡」「共有化された予想」「制度的補完性」といった概念は、私が法社会学的な言葉を使って何とか表現しようとしていたことを、軽々と見事に言い表していて、やっぱ経済学者さすが、という感想を抱かせます。この辺は、鶴さんが以前在籍していた経済産業研究所の故青木昌彦さんの影響もあるのでしょう。

上記目次をみて、1章だけやや他と異なる匂いを醸しているのが第7章の「性格スキルの向上--職業人生成功の決め手」というものです。いやこれ、正直言って、鶴さんがなぜ本書にこうして盛り込んだのかよくわからないのですが。

| | コメント (1) | トラックバック (0)
|

性別・年齢等の属性と日本の非典型労働政策@『JIL雑誌』7月号

Jil07刊行から3ヶ月経ったので、『JIL雑誌』7月号に私が寄稿した「性別・年齢等の属性と日本の非典型労働政策」が全文アップされました。

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2016/07/pdf/004-013.pdf

論文の要約と目次は次の通りです。

「典型雇用」と「非典型雇用」という雇用形態の軸と、性別・年齢といった労働者の属性に係る軸は本来別物であり、現実にも必ずしも重なっていた/いるわけでもない。たとえば、高度成長期以前に注目された「臨時工」は、「本工」と性別・年齢等の属性が大きく異ならないと考えられ、それゆえに深刻な政策課題とされていた。
 しかしながら、とりわけ高度成長期に確立し、1990年代半ばまで維持されてきた雇用-社会システムにおいては、この両軸がかなりの程度重なると考えられ、それを前提に様々な政策が講じられ/あるいはむしろ講じる必要はないとされた。たとえば、パートタイマーは自らをまず家庭の主婦と位置づけ、その役割の範囲内で家計補助的に就労するという意識が中心であったため、職場の差別が問題視されなくなった。また派遣労働者は結婚退職後のOL、嘱託は定年退職後の高齢者、アルバイトは学業が主の学生とみなされ、こうした社会的属性が労働問題としての意識化を妨げていた。
 1990年代以降、いわゆるフリーターの増大をきっかけとしてこの両軸の関連性は徐々に低下してきているが、なおかつて確立していた雇用-社会システムの影響力は強く、一方の軸に着目した政策を採ろうとする際に、他方の軸から来るイメージがそれを妨げる傾向も見られる。

Ⅰ はじめに
Ⅱ 臨時工
Ⅲ 主婦パート
Ⅳ 派遣労働者と嘱託・契約社員
Ⅴ フリーター
Ⅵ 非正規労働問題の復活

今日の議論に対して重要なポイントを指摘していると思っていますので、関心ある皆さんにお読み頂ければと思っています。

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

雇用仲介事業等の在り方に関する検討会報告書の一影響

例の「日本死ね」で有名になったいわゆる「増田」こと「はてな匿名ダイアリー」に、昨日夕方こういう一文が投稿されたところ、

http://anond.hatelabo.jp/20160925170021(転職ドラフト経由でY社の内定貰ったけど )

間髪を入れず早速その転職ドラフトのHPに

https://job-draft.jp/articles/92(転職ドラフト経由での選考における提示年収に関する問題について)

現在、当該問題における、今回の関連企業への対応方針、及び今後の改善案について、転職ドラフトチームで協議を進めております。
なお、改善案については別途ユーザーの皆様のご意見も頂戴したいと考えています。その際はご協力いただけたら嬉しく思います。

明日9/26(月)中に、転職ドラフトとしての見解、改善策を発表いたします。
どうあるべきかを考え、きちんと対応しますので、もうしばらくお待ちください。

という一文がアップされ、その反応の早さが話題になっているようです。

もちろん同社のフットワークの良さがその理由ではありましょうが、近い将来に予想される労働法政策の動きを念頭に置いた対応と見ることもできそうです。

というのも、既に本ブログでも紹介していますが、今年6月に公表された「雇用仲介事業等の在り方に関する検討会報告書」において、

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11601000-Shokugyouanteikyoku-Soumuka/0000126456.pdf

(1)求人に際して明示される労働条件等の適正化

労働条件等明示等のルールについて、固定残業代の明示等指針の充実、虚偽の条件を職業紹介事業者等に対し呈示した求人者に係る罰則の整備など、必要な強化を図ることが適当である。

という一句が入っており、これをもとに、既に今月15日から労働政策審議会労働力需給制度部会で審議が開始されているのです。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000136932.html

ですから、まじめに雇用仲介事業の将来を考えている会社であれば、この話をほったらかしにしていたら下手なことになるかも知れないと考えるのは当然であって、その意味では、法律が作られる前からその予告だけで一定の影響を与えているケースと云う事になるのかも知れません。

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

やや単純化しすぎでは?トッドさん

Img_2318d1e8a3438ef5699d8537f4eacce なぜか本国のフランスでよりも極東の日本での方が人気が高くなっているらしいエマニュエル・トッド氏。日本でやった最近の講演をまとめて日本語でとっとと出した本のタイトルが『問題は英国ではない、EUなのだ』。

http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166610938

実はやや看板とずれがあり、後半の全体の4分の3近くはトッド自身の半生記だったりして、それほどイギリス論でもなければEU論でもない。

そして、タイトルに対応する部分も、正直やや突っ込み不足の嫌いが。

この本でトッドが言っている反EUのイギリスというのは、典型的には今回労働党の党首に再選されたコービンみたいなスタンスに近い。

確かにそういう部分が重要であることは間違いない。

実際、国民投票のときに本ブログに書いたこの記事で指摘したように、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/06/post-e515.html (EUはリベラルかソーシャルか?)

近年極めてネオリベラル的色彩を強めているEUに対するナショナルなソーシャル勢力の反発という面は間違いなくあるし、それが今日のEU政治を解く一つの(あくまで一つの)軸であることも間違いない。

でもね、とりわけイギリスという複雑怪奇な相手には、そういう単純な軸だけでは行かない。トッドはやたらボリス・ジョンソンを褒めあげているけれども、彼のポピュリズムをポデモスやシリザと同列に置くことはできないだろう。

ネオリベラルなEUを嫌がるソーシャルなイギリスとソーシャルなEUを嫌うリベラルなイギリスのねじれながら結合した姿を、トッドは自分をイギリス通だと強調しているけれども、やや捕らえ損ねているんじゃなかろうか。

彼のいうグローバリゼーション・ファティーグ(グロバル疲れ)というのは確かにあるけれども、彼自身言うようにイギリスはアメリカと並んでその先頭を切って進んできた国であり、そしてまことに入り組んでいるけれども、イギリスの中の反EU論(少なくとも保守党内のそれ)のかなりの部分は、ナショナルな社会制度を壊しにかかるネオリベなEUに対する反発ではなく、市場志向の政策をやたらに拘束しにかかるEUの「レッドテープ」に対する反発というかたちで表現され、共感されているということもまた紛れもない事実なのだから。

正直言って、本書は余りにも「時論」として、よくわかっていない極東の一般大衆向けに単純簡明な筋道を示そうとするあまり、過度な単純化に陥ってしまったように見える。

| | コメント (3) | トラックバック (0)
|

EU最低賃金制?

Investment_plan_cash_euro_money_cr EurActivに、「Minimum wage debate in EU centres on social dumping, ‘fair pay’」(EUの中心でソーシャルダンピングに関して最低賃金の議論-“公正賃金”)という記事が載っています。

http://www.euractiv.com/section/social-europe-jobs/news/building-momentum-for-a-european-minimum-wage/

Germany’s adoption of a minimum wage in 2015 and the EU’s repeated talks over posted workers have paved the way for the adoption of a European minimum wage. But political resistance in some quarters is still strong. EurActiv France reports.

2015年のドイツの最低賃金導入と海外派遣労働者に関するEUの繰り返される議論とが、EU最低賃金の導入への道を舗装している。しかし一部の政治的抵抗はなお強い。

最近欧州議会でそういう動きがあったようです。

As a precursor to these discussions, the European Parliament’s rapporteur on social dumping, French Socialist Guillaume Balas (S&D), recommended the progressive enforcement of a European minimum wage.

This, Balas said, should be fixed at 60% of each country’s median national wage.

これら議論への先駆けとして、欧州議会のソーシャルダンピングに関する報告者であるフランス社会党のギヨーム・バラは、欧州最低賃金の段階的導入を勧告した。

バラによれば、それは各国の賃金中央値の60%に設定されるべきである。

欧州委員会のトップも興味を示しているとか。

The idea of advancing the question of fair pay was also recently supported by the President of the European Commission.

“Workers should get the same pay for the same work in the same place. It is a question of social justice,” Jean-Claude Juncker said in his State of the Union Speech last Wednesday (14 September).

公正賃金の問題を進めるという考えは欧州委員会の委員長も支持している。

「労働者は同じ場所での同じ仕事には同じ賃金を得るべきだ。これは社会的正義の問題だ」ジャン・クロード・ユンケルは先週水曜日(9月14日の施政方針演説でこう述べた。

しかし、これはそう簡単な話ではありません。

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

数少ない生き残り働くオバサンも納得の書

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5 拙著『働く女子の運命』に、長年女性差別を身に沁みて経験されてきた「均等法直前世代」の女性が、じわじわくるアマゾンレビューを書かれています。

https://www.amazon.co.jp/product-reviews/4166610627/ref=cm_cr_dp_synop?ie=UTF8&showViewpoints=0&sortBy=recent#R29CA42OUR8DV4

濱口先生のような東大卒・キャリア官僚も務められたエリート男性が、日本の働く女性が置かれている状況をかくも正確にとらえられ、わかりやすくフェアに著述されていることに非常に驚いた。私の偏見だが、この世代の男性は、「女は馬鹿でいい。家にいろ」が主流で、働く女を異物・色物としか見ていないオジサンがほとんどだからである。

というところから始まって、かつての経験をこれでもかこれでもかと書き連ねます。

私は、均等法直前世代である。

その頃の日本はひどかった(今もひどいが)。今のようにWEB経由ではなく、電話をかけて会社説明会に行き、面接、内定となるが、大手企業の求人票には堂々と「男子のみ」と記載されていた。

電話をかけ、某国立大の学生であるむねを告げると「はあ?国立大の女子?。うちはねっ、やる気のある女なんかいらないの!!!」と電話をたたききられたものである。

努力しても、女は報われないということを、私は22歳にして悟った。勉強にはなったが、頭にきた。

ブルース・スプリングスティーンのBorn in the USAではないが、はらわたが煮えくり返る思いで生きてきたのである。

・・・気が付くと、同期女性はほとんどいなくなってしまった。結婚、出産、育児。日本の会社は長時間「いる」ことを要求する。育児・家事をこなしながら、おっさん並みに会社にいろとは、土台無理な話である。

それでも頑張ったのは、

それでもやめなかったのは、周囲の男が、男というだけで優秀でもなんでもなく、ただ単に日本という男に甘い社会に守られて下駄をはかせてもらっているだけの存在だったからである。なにくそと思った。負けるものか。ここまで来たのは意地だけである。

ということです。

最後に、拙著に言及して、少しは恨みが晴れたと・・・。

いろいろぐちゃぐちゃ書いたが、濱口先生は、日本で女が真面目に働くことの困難さを豊富なデータを背景に見事に説明なさった。ありがとうございます。男性でも先生のような方がいるとわかって、長年の恨みつらみが少しは溶けました。

はい、ありがとうございます。コスタデルソルさんの恨みを晴らすのに少しでもお役に立てたとすれば嬉しいです。

もう一つ、愛知県豊田市で「自立を支援する社会保険労務士」をされている天野初音さんがそのブログで拙著を書評されています。

http://blog.livedoor.jp/hrconsultant/archives/65996648.html

 今では普通のことですが、私の同世代で大学に行った女子は、10パーセントもいないくらいだったのでは?当時は短大が全盛期で、女の子は就職したければ、短大に行くという考えが一般的でした。それに反して大卒女子の就職は厳しく天気予報の"どしゃ降り"に例えられていました。均等法の1年前で、女子の総合職もなく、結婚したら退職するのが慣例で、女性社員は結婚までの「腰掛け」と言われ、バラの花束をもらって「おめでとう」と祝福され"寿退社"していく先輩をたくさん見てきました。仕事がしたいから、働きたいから長く勤めるのではなく、結婚できないから長く勤めると思われていた時代です。労働基準法は女性労働者の保護規定があり、残業時間も制限され深夜労働はできませんでした。

   でも、そもそも女性の採用がなかったり、男性は定年が55なのに女性は30歳だったり、女性は結婚したら家事や育児があるから仕事がおろそかになると、大切な仕事は任されず、軽作業ばかりだったり、女性の賃金のピークが25歳でそれ以上長く働くと減給されたり、先輩達の苦しかった時代 から、徐々に働く環境が整ってきたのです。この本はそんな女性の労働の歴史が書かれています。・・・

こちらも「均等法直前世代」の女性の思いが伝わってきます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

欧州労連は会社役員会への労働者参加制を主張

Executive_committee_new_team_12下記「ドイツの労働者重役制はEU法違反!?」記事の冒頭で、欧州労連が「会社重役会における労働者代表が政治的アジェンダに戻りつつあるとき」と言っているのは、フランスやイギリスの政治的状況を指しているのですが,もう一つ、欧州労連自身が近年、再びEUレベルの指令で情報提供・協議だけでなく、それを確実にするために会社の重役会への労働者代表の参加を義務づけるべきだと主張していることが背景にあります。

今年6月の執行委員会で欧州労連は「情報提供、協議及び役員会レベルの代表権に関する新たなEU枠組みのための方向付け」というポジションペーパーを採択しています。

https://www.etuc.org/documents/etuc-position-paper-orientation-new-eu-framework-information-consultation-and-board-level#.V-Tac9Ff270

これによると、現行よりさらに強化した情報提供・協議の規定に加えて、この指令は役員会における労働者代表の制度を義務づけるべきとし、役員会の労働者代表は株主代表と権利義務に変わりのないフルメンバーとして参加し、労使協議会の委員と同様解雇や不利益取扱いから保護されます。機密事項に関しても株主代表と同等の権利と義務を有するべきであり、制限すべきではない。このポジションペーパーはエスカレーターアプローチと称して、企業規模に応じて労働者代表比率を変える仕組みを提案しています。具体的には、50-250人規模の小企業では2-3人の低比率で、250-1000人規模の中企業では役員会の3分の1とし、1000人以上規模の大企業では労使同数とするというものです。

世界全体が労働者志向、生産志向の資本主義から、投資家志向、金融志向の資本主義に滔滔と流れる中で、あえて一見古くさく見えかねない労働者の経営参加という政策を鮮明に打ち出してきており、どの程度影響力があるかどうかは分かりませんが、労働関係者としては注目していく必要があることは間違いないでしょう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

ドイツの労働者重役制はEU法違反!?

欧州労連のホームページに興味を惹く記事が載っています。9月21日付けで、「ECJ to declare composition of German company boards illegal? 」(欧州司法裁判所はドイツの会社重役会の構成を違法と宣言する?)というセンセーショナルなタイトルです。

https://www.etuc.org/press/ecj-declare-composition-german-company-boards-illegal#.V-SIVdFf270

PeterscherrerJust as the representation of workers on company boards is getting back on the political agenda*, an attempt is being made to get the German system of board-level worker representatives declared illegal!

会社重役会における労働者代表が政治的アジェンダに戻りつつあるとき、ドイツの重役レベル労働者代表制が違法とされるかも知れない企てがなされつつある。

A case is being brought to the European Court of Justice (ECJ) claiming that the German law is discriminatory for the subsidiaries of German companies in Europe and therefore incompatible with European law.   

ドイツの法律はドイツ会社の子会社に対して差別的であり、それゆえEU法に違反するという訴えが欧州司法裁判所に提起された。

To highlight this threat to the cooperation between companies and trade unions, an essential part of the German economic success story, the leaders of the European Trade Union Confederation (ETUC)  and German Trade Union Confederation (DGB) are taking part today in a legal conference in Luxembourg, the seat of the ECJ. 

ドイツの経済的成功の要因である会社と労働組合の間の協調に対するこの脅威を明らかにするため、欧州労連とドイツ労連は本日ルクセンブルクで法律会合を開いた。

“I am very alarmed that the German system of workers on company boards is being challenged in the European Court of Justice” said Peter Scherrer, Deputy General Secretary of the ETUC. “Workers’ rights have not always been sufficiently respected by the ECJ in recent judgements. We all have very bad memories of cases like Laval and Viking. We really do not need another set-back.” 

「私はドイツの労働社会者重役制が欧州司法裁判所で挑戦を受けていることに極めて危機感を持っている」「近年の判決において、労働者の権利は必ずしも充分に尊重されていない・・・」

“Instead of trying to strike down the German system the EU should be debating how to get workers on boards all over Europe.”   

「ドイツの制度をたたき落とすのではなく、EUはその全域にわたって労働者重役制に向けて議論すべきだ」

The conference, organised by the Hans Böckler Foundation and the Chambre Des Salaries Luxembourg, takes place today, with speakers Reiner Hoffman, President of the DGB  and Peter Scherrer, Deputy General Secretary of the ETUC.

詳しいことはよくわかりませんが、市場主義的な色彩が強まって久しいEUにおいて、かつてはドイツ型労働者参加システムをEU全域に広めようとしていろいろ摩擦が絶えなかったことを思い起こすと、世の中の流れの方向性が全く逆向きに動いているのだなあ、ということがよく窺えるニュースです。

| | コメント (0) | トラックバック (1)
|

日本型雇用の終わりの始まり@倉重公太朗

労働調査会のHPの労働あ・ら・かるとというコラムに、弁護士の倉重公太朗さんが「均衡処遇を巡る近時の動向から見る、日本型雇用の終わりの始まり」というエッセイを書かれています。

http://www.chosakai.co.jp/information/16679/

近年の労契法20条やパート労働法8条・9条の均衡処遇を巡る裁判をざっと概観した上で、ややマクロ的視点からこう省察されています。

・・・これらの裁判例の出現から導かれるのは、日本型雇用の「終わりの始まり」である。

  日本型雇用の3大特徴(終身雇用、年功序列、企業内労組)を背景に、正規社員はメンバーシップにおけるメンバーであり、非正規雇用はメンバーではないため待遇差があって当然という、これまで通用していた考え方が通用しなくなっているのである。

  方向性という意味では、今回の判決は、「正社員」という身分(メンバーシップ)の有無ではなく、従事する業務、責任、企業での位置付けから待遇を決すべきという職務給的な考え方に基づくものであると捉えられる。そうだとすれば、これは旧来型の日本型正社員像ではなく、いわゆるジョブ型正社員と親和性のある議論であり、筆者としては、今後の企業慣行が変わっていく可能性を示唆するものであると捉えている。

  つまり、転職市場の活性化、雇用流動化(労働調査会、『なぜ景気が回復しても給料が上がらないのか』参照)という方向性に向けた第一歩という意味では、日本型雇用の転換点として位置付けられるものなのである。

拙著で論じた議論の構図に沿ったかたちでメスを入れています。そして最後には、

・・・一つ言えることは、この均衡処遇問題を通じて問われていることは、非正規社員の存 在意義、言い換えれば、自社における「正社員」とは何なのか、という点にある。

  「なぜ、日本の正社員は非正規社員よりも給料が高いのでしょうか?」

  均衡処遇の裁判例から、日本型雇用の変遷が読み取れる、ということを改めて強調して、本稿の締めとしたい。

と述べて、企業人事担当者に重い問いを投げかけています。

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

「非正規雇用と社会保険」@『労基旬報』2016年9月25日号

『労基旬報』2016年9月25日号に「非正規雇用と社会保険」を寄稿しました。

 もうすぐ、今年の10月1日から、長年課題となってきたパートタイム労働者への社会保険の(一部)適用拡大が施行されます。2012年に成立した年金機能強化法(正式には「公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律」)のうち、この部分の施行は4年後の今年10月とされていたからです。

 この問題は非正規雇用と社会保険として論じられることが多いのですが、実は今回の法改正まで、法律の明文上に非正規労働者を全面的に適用除外するというような規定は存在しませんでした。日雇労働者については後述の特別の扱いがありますが、少なくともかつて臨時工といわれていたようなフルタイム有期契約労働者は一貫して適用対象でしたし、パートタイム労働者についても1980年のいわゆる「内翰」が出されるまでは適用除外する根拠などどこにもありませんでした。そして、その「内翰」に基づいて実務上適用除外されるようになっていた時期でも、少なくとも行政法理論上はその扱いは大変疑問のあるものでした。その経緯を遡って見ておきましょう

 日本の社会保険第1号は1922年に成立し1926年に施行された健康保険法ですが、その時の被保険者は工場・鉱山に「使用セラルル者」で、「臨時ニ使用セラルル者ニシテ勅令ヲ以テ指定スルモノ」を除外していましたが、その中身は①雇用期間60日以内の者、②期間の定めなく労務供給契約に基づき又は試用期間の者、③日々雇い入れられる者等であり、しかも①は60日を超えたら、③は30日を超えたら適用対象になります。直接雇用で反復継続されているような臨時工は、出発点から適用対象だったのです。同法は戦後1948年に改正され、労働基準法21条に倣って適用除外は①雇用期間2月以内の者(2月を超えたら適用)、②日々雇い入れられる者(1月を超えたら適用)、③季節的業務に雇い入れられる者(4月を超えたら適用)とされました。労務供給事業は職業安定法で禁止されたから削除されたのでしょう。

 一方1941年に成立した労働者年金保険法は男子労働者のみですが、やはり①雇用期間6月以内の者、②期間の定めなく労務供給契約に基づき又は試用期間の者、③日々雇い入れられる者、④季節的業務に使用される者等を適用除外としていました。1944年の厚生年金保険法で女子にも適用されるようになり、戦後1954年に全面改正された時の適用除外も健康保険法とほぼ同様でした。以上を一言でいうと、日雇型の極めて短期的な労働者を除き、ある程度の期間反復継続して就労する臨時工タイプの労働者は健康保険にも厚生年金にも加入するのが原則だったということです。

 さらに1953年には日雇労働者健康保険法が制定され、適用されていなかった日雇型の労働者にも被用者医療保険が適用拡大されました。適用されていなかったのは技術的に難しかったからですが、1949年に失業保険が日雇労働者に適用拡大され、その際に白手帳といわれるスタンプ方式を採用したことから、基本的に同じスタイルで制度が作られたのです。労働者である限り、健保か日雇健保かいずれかが適用されるという仕組みは、健康にかかわる問題としては当然だと考えられたのでしょう。年金の方は日雇は適用除外のままで、従って1959年国民年金法では第1号被保険者に含まれることになります。

 もっともこれはあくまでも法律上の規定であって、現実は必ずしもそうなっていなかったようです。1958年に刊行された労働省労働基準局監督課編『臨時工』(日刊労働通信社)によると、神奈川労働基準局の調査では、健康保険が70.7%、厚生年金保険が70.0%、日経連調査では健康保険が90.0%、厚生年金保険が79.3%となっています。同書は「賃金その他の労働条件が比較的低位で失業の危険度も高い臨時工のごとき者にこそ、その適用が図られるべき性質であることを考慮すべきではなかろうか」と問題を提起しています。

 この考え方は厚生省サイドでも同じで、1975年に刊行されたコンメンタールである厚生省保険局保険課・社会保険庁健康保険課『50年新版健康保険法の解釈と運用』(社会保険法規研究会)には、日々契約の2ヶ月契約で勤務時間は4時間のパートタイム制の電話交換手について、「実際的には2ヶ月間の雇用契約を更新して行くものと考えられるので、当初の2ヶ月間は日雇労働者健康保険法を適用し、その2ヶ月を超え引き続き使用されるときは被保険者とする。」(昭和31年7月10日保文発第5114号)という通達が示されています。

 ところがこういう流れをひっくり返したのが1980年6月6日厚生省保険局保険課長・社会保険庁医療保険部健康保険課長・社会保険庁年金保険部厚生年金課長名の通達(正確には課長レベルの「内翰」)です。これは具体的に「1日又は1週の所定労働時間及び1月の所定労働日数が当該事業所において同種の業務に従事する通常の就労者の所定労働時間及び所定労働日数のおおむね4分の3以上である就労者については、原則として健康保険及び厚生年金保険の被保険者として取り扱うべき」であるとし、4分の3未満の労働者を適用除外としたのです。

 通達とは何でしょうか。行政法学的にいえば、それはあくまでも行政内部の指示であって、直接国民の権利義務を創設することはできません。そんなこと言ったって、現実に山のような通達で行政が行われているではないかと思うかも知れませんが、それらはあくまでも権利義務を定めた法令を執行する上での解釈基準を示したものであって、何もないところで勝手に通達で権利義務を作ったり消したりできるわけではないのです。

 その意味からすると、この標題もなければ発出番号もない「内翰」はかなり怪しげなところがあります。この内翰が倣った雇用保険法上の扱いは通達によるものでしたが、それは法律上の「労働者」の解釈として示されていました。詳しくは拙稿「失業と生活保障の法政策」(『季刊労働法』221号)に書きましたが、1955年の局長通達(職発第49号)で、「臨時内職的に雇用される者、例へば家庭の婦女子、アルバイト学生等」は「法第六条第一項の「労働者」とは認めがたく」云々と述べています。1980年当時の業務取扱要領もこれを受け継いでいました。これ自体内容的には突っ込みどころがいっぱいありますが、少なくとも形式的には法令の解釈通達です。

 ところが1980年内翰は「拝啓 時下益々御清祥のこととお慶び申し上げます。」から始まり、「もとより、健康保険及び厚生年金保険が適用されるべきか否かは、健康保険法及び厚生年金保険法の趣旨から当該就労者が当該事業所と常用的使用関係にあるかどうかにより判断すべきものですが、短時間就労者が当該事業所と常用的使用関係にあるかどうかについては、今後の適用に当たり次の点に留意すべきであると考えます。」と綴られているお手紙という風情で、この法律のこの概念は行政としてこう解釈すべきものと上級行政庁が下級行政庁に指示しているのかどうかいささか頼りなげです。そもそも法律上に「常用的」などという根拠となる概念はありません。

 にもかかわらずこの時期にほとんど問題にならなかったのは、短時間労働者は家計補助的な主婦パートがほとんどなのだから、適用除外するのは当たり前という「常識」が世の中一般に広がっていたからでしょう。その常識は、かつての臨時工に対する眼差しとはまったく違っていたのです。この点については、非正規労働者の社会的ありようがどのように変わってきたかを論じた拙稿「性別・年齢等の属性と日本の非典型労働政策」(『日本労働研究雑誌』2016年7月号)で述べたとおりです。

 そしてその70年代から80年代の常識が90年代から2000年代に再び大きく激変します。主婦パートや学生アルバイトではない若者フリーターが出現し、やがて年とともに彼らが中高年化していって、膨大な若年・中高年非正規労働者が生み出されていったのです。その中でかつては当然視された非正規労働者への社会保険適用除外にも疑問の目が向けられるようになりました。2004年の国民年金法改正時には附則に検討規定が置かれ、2007年の被用者年金一元化法案には一定の適用拡大が盛り込まれましたが廃案となり、ようやく民主党政権下の2012年に紆余曲折を経て年金機能強化法が成立し、パートタイマーへの適用拡大が来月から施行されるところまできたわけです。

 とはいえ、その「拡大」の内容はかなりしょぼいものです。週所定労働時間20時間以上という要件と学生の適用除外は2010年改正雇用保険法と同じですが、同改正で廃止された1年以上雇用見込み要件がこっちでは逆に新たに入り込んできたのは違和感があります。そもそも雇用期間については健康保険法制定時から「臨時」という概念があり、その「臨時」に該当しないのに短期を抜いてしまうというのは整合性があるとは思えません。現在でも健康保険法には日雇健康保険の規定がありますから、ある種の短時間労働者は雇用期間2ヶ月未満だと日雇健保に入れるけれども、それを超えると入れなくなり、1年を超えてようやく再び入れるということになります。いかにも奇妙な制度設計です。

 また月額賃金8.8万円以上要件も、現に健康保険法40条では、報酬月額6.3万円未満の者の標準報酬月額を5.8万円と定めていることと整合性がありません。とはいえ、これらは何とか外形的要件で家計維持的な非正規に限ろうとしたためのものと理解できますが、従業員501人以上要件というのはもっぱら流通・サービス業の企業の猛烈なロビイングによるもので、政治的な決着としか説明のしようはないでしょう。いずれにせよ、これによってこれまで法的性格の疑わしい「内翰」で適用除外がされていたものが、法律上に適用されるか否かが明確に規定されるようになったという点は、大きな進歩と言うべきでしょう。

| | コメント (9) | トラックバック (0)
|

«自己都合退職者の雇用保険給付日数@WEB労政時報