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2020年11月30日 (月)

労働政策フォーラム「アニメーターの職場から考えるフリーランサーの働き方」

今年の労働関係図書優秀賞は、既報の通り、労働経済、労働法、労働社会学の各分野から、酒井正 著『日本のセーフティーネット格差──労働市場の変容と社会保険』(慶應義塾大学出版会)、土岐将仁 著『法人格を越えた労働法規制の可能性と限界──個別的労働関係法を対象とした日独米比較法研究』(有斐閣)、松永伸太朗 著 『アニメーターはどう働いているのか──集まって働くフリーランサーたちの労働社会学』(ナカニシヤ出版) となりましたが、このうち松永さんの本の受賞を記念して、労働政策フォーラム「アニメーターの職場から考えるフリーランサーの働き方」を開催します。

https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20201215/index.html

Anime

お申し込みは上のリンク先からどうぞ。このメンツの組合せは、なかなか面白いと思いますよ。

 

 

 

 

2020年11月28日 (土)

日韓労働ウェビナー

去る11月18日、日本のJILPTと韓国のKLI(韓国労働研究院)がリモートによるセミナー、いわゆるウェビナーをやったのですが、それがKLIの英文ホームページには載っているので、紹介しておきます。

https://www.kli.re.kr/kli_eng/selectBbsNttView.do?bbsNo=30&key=228&nttNo=135206

KLI-JILPT Joint Webinar on the Impact of COVID-19 on the Labor Market and Policy Response

Opening Remarks (Greetings)
14:00~14:10 Dr. Kiu Sik Bae, the president of the KLI
Dr. Yoshio Higuchi, the president of the JILPT
Session 1: Presentations
14:10~14:25 About JILPT's initiatives: From the outline of the company survey
Dr. Masayuki Nakai (Director of General Affairs Department, JILPT)
14:25~14:40 The impact of COVID-19 on the labor market
Dr. Minki Hong (Director of Center for Labor Trends Analysis, KLI)
14:40~15:00 Discussion
15:00~15:15 New coronavirus and employment measures
Dr. Keiichiro Hamaguchi (Research Director General, JILPT)
15:15~15:30 Labor policy against COVID-19: Focusing on subsidies for job retention schemes
Dr. Sang-Bong Oh (Director of Center for Employment Safety Net Research, KLI)
15:30~15:50 Discussion
15:50~15:55 Break
Session 2: Discussion
15:55~16:55 Discussion
16:55~17:00 Closing 

わたくしも15分ばかり新型コロナと雇用政策について報告しました。

このページを見ていたら、4つの報告スライドも載っているのですが、それが(当然のことながら)全部ハングルで、私の報告資料も全く読めない。

https://www.kli.re.kr/downloadBbsFile.do?atchmnflNo=14694

Klijilpt

Jilptkli

いやもちろん、日本側は韓国側報告を和訳して見ていたので、お互い同じなんですが。

ウェビナーでは日韓同時通訳がとても優秀で、大変円滑でした。

 

2020年11月26日 (木)

『ビジネス・レーバー・トレンド』2020年12月号

202012 『ビジネス・レーバー・トレンド』2020年12月号は「仕事と介護の両立」が特集ですが、

https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2020/12/index.html

【研究報告】これからの介護と働き方―家族関係から考える―池田 心豪 JILPT 主任研究員
【事例報告1】ANA における「仕事と介護の両立支援」の取り組み―宇佐美 香苗 全日本空輸株式会社 D&I 推進部 部長
【事例報告2】仕事と介護の両立支援― 宮坂 知子 大成建設株式会社 管理本部 人事部 人材いきいき推進室 課長代理
【事例報告3】中小企業における介護と仕事の両立支援― 白川 亜弥 株式会社白川プロ 代表取締役 社長
【パネルディスカッション】 コーディネーター:池田 心豪 JILPT 主任研究員

今号で読むべきところは、海外の雇用調整助成金的な雇用維持スキームについての情報です。

https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2020/12/052-065.pdf

 新型コロナウイルス禍による未曾有の事態が続いている。以下に紹介するアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの4カ国は、コロナ危機下で雇用・労働市場を支えるため雇用維持スキームに取り組んでいる。 
 アメリカは、事業主が従業員を解雇せずに労働時間を短縮した場合、従業員がその短縮規模に応じた額の失業保険給付を受けられる仕組み(操業短縮補償)が主な州にあり、これを拡充した。さらに、コロナ禍の緊急事態に迅速に対応するため、中小企業での雇用維持を目的とした融資制度(給与保護プログラム)を設けた。
 イギリスは、これまで雇用維持スキームに類する制度は存在しなかった。そのため、新たに「コロナウイルス雇用維持スキーム」を導入して雇用維持に取り組んできた。当初、本制度は10月で終了し、11月から新たに短時間就業者の支援スキームである「雇用支援スキーム」を開始する予定だった。しかし、感染状況の悪化を受けて新たなスキームは中断。現行の「雇用維持スキーム」を2021年3月まで延長する方針である。
 ドイツとフランスは、従来から存在する従業員の雇用を維持する事業主に賃金の一部を補填する政策を活用している(操業短縮手当、部分的失業)。 
 こうした4カ国それぞれのコロナ禍における雇用維持スキームの概要を確認しつつ、その申請から給付までの政策的なプロセスについて紹介する。 

スキームの中身とともに、どの国も申請のオンライン化が進んでいることは、今後のデジタル政策で重点的に取り上げられることになるのでしょう。

 

 

2020年11月25日 (水)

『日本労働研究雑誌』2020年12月号

725_12 本日発行の『日本労働研究雑誌』2020年12月号は、「変化する管理職の役割と地位」が特集です。

https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2020/12/index.html

提言
管理職はどう決める? 八代充史(慶應義塾大学教授)

解題
変化する管理職の役割と地位 編集委員会

論文
管理職の役割の変化とその課題──文献レビューによる検討 坂爪洋美(法政大学教授)

日・米・中の管理職の働き方──ジョブ型雇用を目指す日本企業への示唆 久米功一(東洋大学准教授)・中村天江(リクルートワークス研究所主任研究員)

大学上級管理職の経営能力養成の現状と今後 両角亜希子(東京大学准教授)

管理職への昇進の変化──「遅い昇進」の変容とその影響 佐藤香織(国士舘大学講師)

管理職昇進をめぐる男女間不平等と国際比較──労働市場と福祉国家 竹ノ下弘久(慶應義塾大学教授)・田上皓大(慶應義塾大学大学院後期博士課程)

雇用環境の変化と管理監督者──スタッフ職の管理監督者性を中心に 沼田雅之(法政大学教授)

管理職の健康──他職種との比較,時代的変遷,今後の課題 田中宏和(エラスムス大学医療センター研究員)・小林廉毅(東京大学大学院教授) 

このうち、久米さんと中村さんの論文は、日本、アメリカ、中国の管理職の働き方を比較し、今世間でやたらに流行している「ジョブ型」の管理職というのがどういうものなのかを浮き彫りにしています。

本稿では,リクルートワークス研究所が実施した「五カ国マネジャー調査」「五カ国リレーション調査」を用いて,日本,アメリカ,中国の三カ国の管理職の働き方を比較分析した。日本では,管理職の役割は曖昧だが,業務の不確実性への対処力が高い。管理職と部下の働き方は似ており,管理職は経営よりも従業員の一員であると認識している。また,会社に対する忠誠心は低いが,離脱オプションはもっていない。ジョブ型雇用のアメリカでは,管理職の役割が明確で,突発的な仕事は少ないが,日本よりも仕事におけるリスクをとる傾向がある。ほとんどの項目で,日本とアメリカは正反対の結果であった。中国は管理職の職務は明確だが,項目により日本に近いものとアメリカに近いものがあった。また,アメリカや中国では職務内容が明確な管理職は,会社に対する忠誠心が高く,離職意向は低いのに対し,日本だけは離職意向が高かった。これらの結果から,ジョブ型雇用の導入では,職務記述書の整備はスタートでしかなく,その後にマネジメントを進化させることが不可欠といえる。その一方で,ジョブ型雇用は日本の労働市場において労働移動を活性化する可能性も示唆された。 

なかなか興味深い事実がいくつも指摘されていますが、例えば、こんな一節が・・

・・・つまり、日本では会社への忠誠心は低いにもかかわらず、辞めたいとは思わず、もしくは辞めたいとは思えず、会社に留まっているのである。かといって、会社と労働条件について交渉している割合も、日本は・・・低い。外部労働市場が発達しているアメリカや中国では、管理職と会社が相思相愛でなければ雇用契約関係が解消されるのに対して、日本では経営に不満があったとしても、転職できず、声も上げず、漫然と居続けるということが起こりうるのである。

ここで、ハーシュマンが出てきます。ハーシュマンのキーワードのこの見事な使われ方を堪能してください。

・・・しかし、日本で起きているのは、離脱できないまま忠誠心を失い、発言もしない事態である。離脱可能性の欠如により、日本ではハーシュマンが想定していた個人と組織のダイナミクスが機能していないのである。

あと、法律では沼田さんが管理監督者とスタッフ職について論じていますが、私はやはり、スタッフ職は管理監督者と並んでエグゼンプトされてしかるべき存在ではあるけれども、労基法が想定する本来の管理監督者ではなく、むしろ高度プロフェッショナルをきちんと拡充して正々堂々と対処すべきものだと思います。

なお、今号は毎年恒例の労働関係図書優秀賞の発表(といってももうすでに発表されていますが)があり、選考委員による授賞理由と受賞者による「受賞のことば」が載っています。

今年は労働経済、労働法、そして労働社会学の3分野から1冊ずつですが、

酒井正 著『日本のセーフティーネット格差──労働市場の変容と社会保険』(慶應義塾大学出版会)
土岐将仁 著『法人格を越えた労働法規制の可能性と限界──個別的労働関係法を対象とした日独米比較法研究』(有斐閣)
松永伸太朗 著 『アニメーターはどう働いているのか──集まって働くフリーランサーたちの労働社会学』(ナカニシヤ出版) 

51znbx28il_sx353_bo1204203200_ このうち注目は松永さんのアニメ労働論です。クールジャパンを支える日本アニメを支えるアニメーターたちの過酷な労働条件が議論されるようになって久しいですが、彼らの働く現場に密着して彼らの生きられた空間をここまで描き出したものはなかなかないと思います。

実は松永さんは少し前までJILPTでアシスタントフェローをされていましたが、見事に新分野を切り開いていっています。

ちょうど、7月に出た『POSSE』45号で、アニメがミニ特集になり、松永さんも登場していました。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/07/post-6ea081.html

◆ミニ企画「アニメ業界を変えるために」
アニメ業界の崩壊を止めるために何をすべきか
松永伸太朗(長野大学助教)×ブラック企業ユニオン組合員
アニメ制作現場の労働問題をいかに解決していくか――東映動画労組が40年がかりで勝ち取った成果と今後
河内正行(動画労組副委員長)×沼子哲也×佐々木憲世  

 

 

2020年11月24日 (火)

『ジュリスト』2021年1月号の予告

有斐閣の『ジュリスト』2020年12月号の発売と同時に、その次の2021年1月号の予告が有斐閣のHPにアップされたので、こちらでも紹介しておきます。

http://www.yuhikaku.co.jp/jurist/next

特集 新たな働き方と法の役割
特集にあたって/荒木尚志
〔座談会〕雇用システムの変化と法政策の課題――「ジョブ型雇用社会」の到来?/森戸英幸・濱口桂一郎・鶴 光太郎・田中恭代
雇用類似の働き方/本庄淳志
新たな働き方と労働時間管理――テレワーク,副業兼業を中心に/國武英生
副業・兼業と労災補償・雇用保険/小畑史子
高齢者雇用/櫻庭涼子 

ということで、わたくしも座談会に出ております。司会は森戸さんで、わたし、鶴さん、そして旭化成の田中恭代さんが、今はやりの(?)「ジョブ型」をめぐってあれこれ話しております。

 

 

2020年11月21日 (土)

誤解だらけのジョブ型雇用 名付け親が語る本当の意味@朝日新聞デジタル

朝日新聞デジタルに「誤解だらけのジョブ型雇用 名付け親が語る本当の意味」というインタビュー記事が載っています。インタビュワは榊原謙記者です。

https://www.asahi.com/articles/ASNCN3D9KNCHULFA00F.html

 「ジョブ型」と称した人事制度を採り入れる企業が増えています。日立製作所や資生堂などの大手も導入し、年功序列などの日本型雇用は、本格的に崩れるとの見方もあります。しかし、「ジョブ型」の名付け親として知られる労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎所長を訪ねると開口一番、「ジョブ型は『成果主義』の代替用語ではない」。一体、どういうことなのでしょうか。

――「ジョブ型」の人事制度を打ち出す企業が相次いでいます。
 「『ジョブ型雇用』は私が10年ほど前に言い出した言葉だが、今年に入って、字面は同じ『ジョブ型』でも、9割がた違う意味で使う企業が次々に出てきた。『人材を、労働時間ではなく成果で評価することがジョブ型』などというミスリーディングな言説もメディアをにぎわせている。議論の前提がグジャグジャになっており、さすがに捨ててはおけないという感じだ」

 ――ジョブ型とは本来、どのようなものなのですか。 
「会社と、そこで働く人をつな・・・・・

 

2020年11月20日 (金)

『働く女子の運命』のやや玄人向けの受けどころ

Img_97570b997d8a8e552471f85c5ce1af866631 JILPTから明治大学に移った山崎憲さんが、ゼミで『働く女子の運命』を使ったそうで、

https://twitter.com/ken_jil/status/1329029740171128832

『働く女子の運命』をゼミで使う。
「難しかった」との感想で、どれどれとみると、「小池知的熟練、宇野段階説」あたり。
この本は日本企業の働かせ方とそれを支えた学問的背景のくだりが白眉。
マル経が原点の知的熟練が日経図書賞というねじれは趣深いとしか言いようがない。

https://twitter.com/ken_jil/status/1329030754941034496

知的熟練についてはいつかきちんと書いてみたいと思っているけど、仕事表があったかなかったか、よりもマル経ルーツだったことが重鎮から支持されたのだろうなと思っている。
そしてそのことがほとんど話題になってこなかったが『働く女子の運命』はよくそこに突っ込んでいる。

うーーん、確かにそこは学生さんにはちょっと難しかったでしょうね。全体としては学生にもわかりやすい本にしたつもりですが、その小池批判のところは、意識的に(労働問題専門家の)玄人向けの受けどころになっています。

そこのところを全面展開したのはこちらですが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/01/post-af37.html(小池ファンは小池理論を全く逆に取り違えている件)

まあなんにせよ、拙著を使っていただいてありがとうございます。

 

 

 

 

 

2020年11月18日 (水)

EU最低賃金指令案@『労基旬報』2020年11月25日号

『労基旬報』2020年11月25日号に「EU最低賃金指令案」を寄稿しました。

 去る10月28日に、欧州委員会は「EUにおける十分な最低賃金に関する指令案」(COM(2020)682)を正式に提案しました。この問題については、本紙の今年3月25日号に「EU最低賃金がやってくる?」と題して、労使への第一次協議をめぐる動向を紹介しましたが、その後第二次協議を経て早くも指令案の提案に至ったわけです。
 前回も説明したように、EU最低賃金に対して猛烈に反発しているのは、経営側よりもむしろ北欧の労働組合です。法定最低賃金や一般的拘束力制度などという国家権力の助力などなくても、自分たちの団結の力だけで、団体交渉により高水準の賃金を勝ち取っていると自負している彼らにとって、弱体な他国の労働組合と一緒くたにされて、国家権力のお情けにすがる立場に追いやられることは我慢ならないことだからです。
 実際、今回の指令案の文言を見ると、ここかしこに北欧労組の団体交渉至上主義を褒めあげつつ、それには到底及ばない諸国のためのEU最低賃金なんだよと言い訳している風情が漂っています。
 まずもって第1条の「主題」ですが、第1項第1文は本来の法の趣旨を述べていますが、残りはすべて団体交渉による賃金決定を讃え、北欧労組の懸念をなだめるための言い訳条項です。
第1条 主題
1. EUにおける労働生活条件を改善する観点で、本指令は次の枠組を確立する。
(a) 十分な最低賃金の水準を設定し、
(b) 労働協約により設定される賃金の形式によるか又はそれが存在する場合は法定最低賃金の形式による労働者の最低賃金保護へのアクセス
 本指令は労使団体の自治を全面的に尊重するとともに、その団体交渉し労働協約を締結する権利を妨げない。
2. 本指令は加盟国が法定最低賃金を設定するか又は労働協約の規定する最低賃金保護へのアクセスを促進するかの選択を妨げない。
3. 本指令のいかなる部分も、賃金決定がもっぱら労働協約を通じて行われている加盟国に対して、法定最低賃金を導入したり労働協約の一般的拘束力を付与するよう義務づけるものと解されない。
 そして、本丸である法定最低賃金に関する規定(第5条)の前に、わざわざ第4条として団体交渉による賃金決定の促進を規定しています。
第4条 賃金決定に関する団体交渉の促進
1. 団体交渉の適用範囲を拡大する目的で、加盟国は労使団体と協議して、少なくとも次の措置をとるものとする。
(a) 産業別又は産業横断レベルにおいて、賃金決定に関する団体交渉に関与する労使団体の能力の構築及び強化を促進すること
(b) 労使団体間における賃金に関する建設的、有意味で情報に基づく交渉を奨励すること
2. 団体交渉の適用率が第2条に定義する労働者の70%未満である加盟国は、これに加えて、労使団体に協議して又はその合意により、団体交渉の条件を容易にする枠組を導入し、団体交渉を促進する行動計画を策定するものとする。この行動計画は公表され、欧州委員会に通知されるものとする。
 現に労働組合が強く、法定最低賃金なんかなくても団体交渉だけでやっていけている国だけを別建てにするのでは、いかにもそちらが例外であるかのように見えるので、そうではなく、本来北欧諸国のように団体交渉だけでやれている方が望ましいモデルなのであり、いまはそうでない国であっても、団体交渉を促進してできるだけそちらに近づけるべきなのだ、という思想を表明して見せている部分です。実際のところは空疎な政治的宣言以上のものではありませんが、法定最低賃金について規定する指令案で、本題に入る前にここまでリップサービスを繰り出さなければならないというところに、北欧労組とそれ以外との間の断絶が垣間見えるところです。
 ちなみに、ここまで団体交渉の重要性を一生懸命力説する規定に満ちていることから、第3条の定義規定も、5号中3号までが団体交渉がらみの規定になっています。これまで団結型集団的労使関係システムについては慎重に避けてきたEU労働法において、法定最低賃金へのカウンターバランスという意外な意義づけによって、団体交渉が正面から堂々と入ってきた感があります。
第3条 定義
 本指令においては次の定義が適用される。
(1) 「最低賃金」とは、使用者が、所与の期間中に、時間又は成果を基礎に算定された遂行された労働に対して、労働者に支払うよう求められる最低報酬を意味する。
(2) 「法定最低賃金」とは、法律又はその他の拘束力ある法的規定によって設定された最低賃金を意味する。
(3) 「団体交渉」とは、一方において使用者、使用者の集団又は一若しくはそれ以上の使用者団体、他方において一又はそれ以上の労働者団体との間で、労働条件及び雇用条件を決定し、使用者と労働者の関係を規律し、使用者又はその団体と労働者団体との間の関係を規律するために発生するすべての交渉を意味する。
(4) 「労働協約」とは、団体交渉の結果として労使団体によって締結される労働条件及び雇用条件に関する書面によるすべての合意を意味する。
(5) 「団体交渉の適用範囲」とは、国レベルの労働者に占める労働協約が適用される者の割合を意味する。
 ここまで見ていると、ほとんど団体交渉促進法かと見まがうような規定が並んでいますが、もちろんこれらは北欧労組向けのリップサービス規定であって、直接労働者の権利や使用者の義務に関わってくるのは、その次の第5条からです。ここでは、法定最低賃金についてその十分性(第5条)、変異と控除(第6条)、労使の関与(第7条)、アクセス(第8条)と4か条にわたって規定されています。これが「最低賃金指令案」の中核です。
第5条 十分性
1. 法定最低賃金を有する加盟国は、法定最低賃金の設定および改定がまっとうな労働生活条件、社会的結束、上方への収斂を達成する目的で十分性を促進するような基準に基づくよう確保する必要な措置をとるものとする。加盟国はこれらの基準を国内法によるか権限ある機関の決定によるか又は三者合意により定めるものとする。この基準は安定的かつ明確なやり方で定められるものとする。
2. 第1項にいう国内基準は少なくとも以下の要素を含むものとする。
(a) 生活費並びに租税及び社会保険料を考慮に入れて、法定最低賃金の購買力
(b) 賃金総額の一般水準及びその分布
(c) 賃金総額の成長率
(d) 労働生産性上昇率
3. 加盟国は賃金総額の一般水準との関係で法定最低賃金の十分性の評価を導くために、国際レベルで通常用いられるような指標となる基準値を用いるものとする。
4. 加盟国は法定最低賃金の十分性を維持するため、その定期的かつ時宜に適した改定を確保する必要な措置をとるものとする。
5. 加盟国は法定最低賃金に関する問題について権限ある機関に助言する諮問機関を設置するものとする。
第6条 変異及び控除
1. 加盟国は特定の労働者集団に対して異なる法定最低賃金率を認めることができる。加盟国はこれら変異を最低限度にとどめ、いかなる変異も非差別的、比例的、可能なら限時的で、合法的な目的により客観的かつ合理的に正当化されるものであるよう確保するものとする。
2. 加盟国は法律により、法定最低賃金を下回る水準にまで労働者に支払われる賃金を減少させる控除を認めることができる。加盟国はこれら法定最低賃金からの控除が必要で、客観的に正当化され、かつ比例的であるよう確保するものとする。
第7条 法定最低賃金の設定及び改定における労使団体の関与
 加盟国は、第5条第5項にいう諮問機関への参加を通じたものを含め、主として次の各号に関わって、法定最低賃金の設定及び改正において適時かつ効果的な方法で労使団体が関与することを確保する必要な措置をとるものとする。
(a) 法定最低賃金の水準の決定のための第5条第1項、第2項及び第3項にいう基準及び指標となる基準値の選択及び適用
(b) 第5条第4項にいう法定最低賃金の改定
(c) 第6条にいう法定最低賃金の変異及び控除の確立
(d) 法定最低賃金設定機関の情報のためのデータの収集及び調査の遂行
第8条 法定最低賃金への労働者の効果的なアクセス
 加盟国は労使団体と協力して、労働者が適切に法定最低賃金保護にアクセスすることを促進する次の措置をとるものとする。
(1) 労働基準監督機関又は法定最低賃金の施行に責任を有する機関によって行われる管理及び現地監督の強化。管理及び監督は比例的で非差別的であるものとする。
(2) 施行機関が法定最低賃金を遵守しない企業に狙いを定め追及するためのガイダンスの発展
(3) 法定最低賃金に関する情報が明確で、包括的かつ容易にアクセスしうる方法で公に入手可能にすることの確保
 前回も述べたように、このEU最低賃金指令案は昨年末に欧州委員会トップに就任したウルスラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長のイニシアティブによるもので、彼女は法定最低賃金と団体交渉との複雑微妙な関係についてあまりきちんと理解していなかった可能性があります。近年新自由主義的だと批判されているEUの政策方向を、もっと労働者寄りにシフトさせようという程度の考えで提起したのではないでしょうか。最低賃金は労働問題なんだから、経営側は反対でも労働側は全面的に賛成だろうと思っていたら、あに図らんや北欧諸国の労働組合は自力で団体交渉を通じて高い賃金水準を勝ち取ってきていることを誇りに思っており、法定最低賃金などという国家権力のお情けにすがるような仕組みは断固拒否するという態度だったわけです。その結果、法定最低賃金に関するあれこれの規定に加えて、団体交渉の促進に関するリップサービス的な規定がちりばめられた、いささか奇妙な指令案が出来上がったということです。
 この指令案はこれから欧州議会と閣僚理事会の審議に移ることになりますが、その行方が注目されます。

 

2020年11月17日 (火)

三柴丈典『職場のメンタルヘルスと法』

Isbn9784589041180 三柴丈典『職場のメンタルヘルスと法 比較法的・学際的アプローチ 』(法律文化社)をお送りいただきました。

https://www.hou-bun.com/cgi-bin/search/detail.cgi?c=ISBN978-4-589-04118-0

職場におけるメンタルヘルスの不調の予防策と、不調が生じた際に有効な処置および法制度について、6カ国の比較法制度調査をもとに解明する。予防策としての1次予防(問題の未然防止)、2次予防(早期発見・早期介入)、3次予防(事後的な介入と再発防止)という分類ごとに適切な措置と問題への対応手段や法整備を実証的に考察。

6カ国というのは、イギリス、デンマーク、オランダ、ドイツ、フランス、アメリカです。

 

 

2020年11月16日 (月)

これからのテレワークでの働き方に関する検討会で諸外国のテレワーク法制について報告

本日、厚生労働省のこれからのテレワークでの働き方に関する検討会で諸外国のテレワーク法制について報告しました。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14849.html

https://www.mhlw.go.jp/content/11911500/000694831.pdf

なお、その前に、三菱UFJリサーチコンサルティングの方から、テレワークの実態調査(企業調査と従業員調査)の結果が報告されています。

https://www.mhlw.go.jp/content/11911500/000694957.pdf

 

Telewoek

ジョブ型は能力主義の正反対

Profile_8a7bf201f456704014db653007502d2a 何回同じことを言っても、「ジョブ型」をメンバーシップ型全開の特殊日本的能力主義としか理解できない人々があまりにも多い昨今、言いたいことをやや極端な事例でよく示している文章を見つけました。佐々木俊尚さんの「日本でDXが進まないのは、普通の日本人が「優秀すぎる」から?」という文章です。

https://comemo.nikkei.com/n/n22fac2321376

佐々木さんは、日本でデジタル化が進まない理由の一つは「普通の日本人が「勤勉で優秀すぎる」からではないかと言い、その根拠として、やや特殊な事例ですが、伊藤祐靖さんの『邦人奪還 自衛隊特殊部隊が動くとき』(新潮社)を引っ張ってきます。そこで描かれるアメリカ特殊部隊の兵士たちはとても低レベルなのですが、それが米軍最強の秘密だというのです。

・・・米軍の特徴は、兵員の業務を分割し、個人の負担を小さくして、それをシステマティックに動かすことで、強大な力を作りだす仕組みにある。それは、個人の能力に頼っていないので、交代要員を幾らでも量産できるシステムでもある。(中略)これが、米軍が最強でありえる大きな理由だ。要は、そこらにいるゴロツキ連中をかき集めてきて、短期間に少しだけ教育し、簡易な業務を確実に実施させて組織として力を発揮するのである。

いやあ、まさにこれがアメリカ的な「ジョブ型」の神髄ですね。大事なのは、「人の能力に頼っていない」というところです。「交代要員を幾らでも量産できる」というところです。それこそがアメリカ自動車産業のブルーカラー労働者を最も典型例とするところの「ジョブ型」なんですがね。百万回いっても日本人が理解できないのはここでしょう。ジョブ型は特殊日本的な『能力主義』の正反対なんですよ。

始めに『ジョブ』ありき。そこに人をはめ込む。それがジョブ型です。

ジョブ型を論じている文章の中に妙に日本的な「能力」という言葉が出てきた瞬間に、そいつを直ちにゴミ箱に放り込むべきである理由はここにあります。

 

2020年11月15日 (日)

公立学校非常勤講師に対する労働基準法適用(再掲の再掲)

こういう記事が出るたびに、複雑怪奇なる公務員労働法制のわけわかめを解きほぐすエントリをアップしないといけないので、もう2年以上も前のエントリを今年の2月に再掲したのですが、再度お蔵出しします。状況はほぼ一緒なので、そのまま使えるのが幸いです。

https://www.fnn.jp/articles/-/107642(正規の教員には支給なく異例の決定…非常勤講師5人に未払いの残業代計130万円支払いへ 名古屋市教委)

 Nagoya 名古屋市教育員会は、市立中学校の非常勤講師5人に対し、未払いだった残業代合わせておよそ130万円の支払いを決めました。
 市教委によりますと、名古屋市立中学校の非常勤講師4人は去年11月、所定の勤務時間を超えて授業準備などをした分の給与の支払いを求めて労働基準監督署に申告し、市教委と各学校が是正勧告を受けていました。
 市教委は、校長に勤務時間の申告をした別の非常勤講師1人も加えて聞き取り調査などを行い、昨年度の残業代合わせておよそ130万円の支払いを決め、11月12日に労基署に報告しました。
 正規の教員は特別措置法で残業代が支給されず、同様に教壇に立つ非常勤講師に残業代を支払うのは異例だということです。
 市教委は5人の非常勤講師に対し、できるだけ速やかに支給するほか、他の非常勤講師からも申告があれば調査するとしています。
 また労基署からの指導を受け、各学校では現在勤務時間の実態を把握するための確認簿を作成しています。

2018年7月のエントリはこれですが、このときは東大阪市にある府立高校の男性非常勤講師でした。法制度の説明をしている部分を:

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/07/post-484e.html(公立学校非常勤講師に対する労働基準法適用)

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・・・これを見て、あれ?と思った方、そう、公立学校の先生にも労働基準法はちゃんと適用されているのです。しかし本題はそこではない。

ボーッと生きてんじゃねんよ!!地方公務員にも労働基準法が適用されているということすら知らない日本国民のなんと多いことか!!と慨嘆したいわけでもない。

ただ、公立病院のお医者さんセンセイの場合、単に労働基準法が適用されているだけではなく、それを行使する権限は労働基準監督署にあり、だから監督官が公立病院にやってきて、宿直と称して監視断続労働とは言えないようなことをやっているのを見つけては是正勧告をしたりするわけです。

ところが、同じセンセイと呼ばれる地方公務員である公立学校の先生の場合、労働基準法の規定は適用されているとは言いながら、それを監督するのは人事委員会、あるいは首長自身という、いささか奇妙な形になっていて、実質的に法律を適用する体制になっていないのですね。

学校の先生の労働時間問題のかなりの部分は、この法施行の権限のずれでもって説明できる面もあるのではないかとすら思っていますが、それはともかく、ここではじめの記事に戻ると、おや?労働基準監督署が是正勧告していますね。どうしてなんでしょうか。

ということで、ここから法制局的な説明に入ります。まず、労働基準法の大原則から。

(国及び公共団体についての適用)
第百十二条 この法律及びこの法律に基いて発する命令は、国、都道府県、市町村その他これに準ずべきものについても適用あるものとする。

この大原則をねじけさせている地方公務員法の規定です。

(他の法律の適用除外等)
第五十八条 ・・・
3 労働基準法第二条、第十四条第二項及び第三項、第二十四条第一項、第三十二条の三から第三十二条の五まで、第三十八条の二第二項及び第三項、第三十八条の三、第三十八条の四、第三十九条第六項、第七十五条から第九十三条まで並びに第百二条の規定、労働安全衛生法第九十二条の規定、船員法(昭和二十二年法律第百号)第六条中労働基準法第二条に関する部分、第三十条、第三十七条中勤務条件に関する部分、第五十三条第一項、第八十九条から第百条まで、第百二条及び第百八条中勤務条件に関する部分の規定並びに船員災害防止活動の促進に関する法律第六十二条の規定並びにこれらの規定に基づく命令の規定は、職員に関して適用しない。ただし、労働基準法第百二条の規定、労働安全衛生法第九十二条の規定、船員法第三十七条及び第百八条中勤務条件に関する部分の規定並びに船員災害防止活動の促進に関する法律第六十二条の規定並びにこれらの規定に基づく命令の規定は、地方公共団体の行う労働基準法別表第一第一号から第十号まで及び第十三号から第十五号までに掲げる事業に従事する職員に、同法第七十五条から第八十八条まで及び船員法第八十九条から第九十六条までの規定は、地方公務員災害補償法(昭和四十二年法律第百二十一号)第二条第一項に規定する者以外の職員に関しては適用する。

ごちゃごちゃしていますが、労働時間の原則を定めている労働基準法32条は「職員」にも適用されます。しかし、

5 労働基準法、労働安全衛生法、船員法及び船員災害防止活動の促進に関する法律の規定並びにこれらの規定に基づく命令の規定中第三項の規定により職員に関して適用されるものを適用する場合における職員の勤務条件に関する労働基準監督機関の職権は、地方公共団体の行う労働基準法別表第一第一号から第十号まで及び第十三号から第十五号までに掲げる事業に従事する職員の場合を除き、人事委員会又はその委任を受けた人事委員会の委員(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の長)が行うものとする。

というわけで、「病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業」は労働基準監督著の管轄なのに「教育、研究又は調査の事業」はその管轄外で、自分で自分を監督するという形になっているのです。

別表第一(第三十三条、第四十条、第四十一条、第五十六条、第六十一条関係)
一 物の製造、改造、加工、修理、洗浄、選別、包装、装飾、仕上げ、販売のためにする仕立て、破壊若しくは解体又は材料の変造の事業(電気、ガス又は各種動力の発生、変更若しくは伝導の事業及び水道の事業を含む。)
二 鉱業、石切り業その他土石又は鉱物採取の事業
三 土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体又はその準備の事業
四 道路、鉄道、軌道、索道、船舶又は航空機による旅客又は貨物の運送の事業
五 ドック、船舶、岸壁、波止場、停車場又は倉庫における貨物の取扱いの事業
六 土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業
七 動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産、養蚕又は水産の事業
八 物品の販売、配給、保管若しくは賃貸又は理容の事業
九 金融、保険、媒介、周旋、集金、案内又は広告の事業
十 映画の製作又は映写、演劇その他興行の事業
十一 郵便、信書便又は電気通信の事業
十二 教育、研究又は調査の事業
十三 病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業

十四 旅館、料理店、飲食店、接客業又は娯楽場の事業
十五 焼却、清掃又はと畜場の事業

ところが、もう一遍話がひっくり返って、学校の非常勤講師は労働基準監督署がやってくる、と。なぜかというと、地方公務員法の初めの方を見ていくと

(この法律の適用を受ける地方公務員)
第四条 この法律の規定は、一般職に属するすべての地方公務員(以下「職員」という。)に適用する。
2 この法律の規定は、法律に特別の定がある場合を除く外、特別職に属する地方公務員には適用しない。

第58条でごちゃごちゃ適用関係が複雑になっている「職員」というのは一般職だけだと。ではその一般職というのは何かというと、

(一般職に属する地方公務員及び特別職に属する地方公務員)
第三条 地方公務員(地方公共団体及び特定地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第二項に規定する特定地方独立行政法人をいう。以下同じ。)のすべての公務員をいう。以下同じ。)の職は、一般職と特別職とに分ける。
2 一般職は、特別職に属する職以外の一切の職とする。
3 特別職は、次に掲げる職とする。
一 就任について公選又は地方公共団体の議会の選挙、議決若しくは同意によることを必要とする職
一の二 地方公営企業の管理者及び企業団の企業長の職
二 法令又は条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程により設けられた委員及び委員会(審議会その他これに準ずるものを含む。)の構成員の職で臨時又は非常勤のもの
二の二 都道府県労働委員会の委員の職で常勤のもの
三 臨時又は非常勤の顧問、参与、調査員、嘱託員及びこれらの者に準ずる者の職
四 地方公共団体の長、議会の議長その他地方公共団体の機関の長の秘書の職で条例で指定するもの
五 非常勤の消防団員及び水防団員の職
六 特定地方独立行政法人の役員

ふむ、どうも公立学校の非常勤講師というのはこの第3号の「臨時又は非常勤の顧問、参与、調査員、嘱託員及びこれらの者に準ずる者の職」に相当し、それゆえ適用関係も労働基準法の大原則に素直に戻って、労働基準法がそのまま適用されるし、それを監督するのは人事委員会や首長さん自身ではなく、労働基準監督署がやってくるということになるというわけなんですね。

本日の法制執務中級編でした。

 

 

2020年11月14日 (土)

Assert Webの書評

9784480073310_600_20201114113301 Assert Webというブログで、福井の杉本達也さんという方が、『働き方改革の世界史』についてかなり長めの書評を書かれています。

https://assert.jp/archives/8607

「働き方改革」というよりも労働組合論、「世界史」というよりも、「世界史」の物差しから見た「日本史」といった方が正解かもしれない。本書では英米独仏の11の古典を取り上げ、・・・・・各国でどのように労働運動が展開し、どんな考え方が生まれたのか、「ジョブ型」とされる欧米の雇用システムがどのような経過をたどってきたかを要約している。 

しかし、本書の意図はこうした古典の単なる紹介にあるのではない。底流に流れるのは日本の労働組合の「ガラパゴス的な形態」への批判である。・・・

と、この方は労働組合論として本書を受け止めています。この長い書評の半分以上は、実は今日の労働組合運動に対する杉本さんの批判になっています。その思いがおそらく「わが意を得たり」とジャストミートしたのが、第12講の藤林敬三のところです。

・・・そして、著者の本音は第12講で思い切り炸裂する。「外につながらない労働組合が、社内だけで労働運動を続けるという片翼飛行は、どのような帰結を見せるのか。協調、なれあい、そして組合弱化。そうした将来は、なんと60年近くも前に、もう見えていた」とし、「今ではほぼ完全に忘れられた本」である藤林敬三の『労使関係と労使協議制』を紹介する。藤林は労使関係を第一次関係の経営対従業員関係と第二次関係の経営対組合関係」に分け、第一次関係は「元々が労使の親和、友好、協力の関係」であり、第二次関係は「賃金ならびに労働諸条件、すなわち団体交渉の中心的な事項を対象」とし、「労使は明らかにここで利害が対立している」、「この二つの関係は性格上まったく相異なる」とする。そして、日本の労働組合は「この二つの関係が明確に区別され分離されることなく、からみ合って不分離の状態で存在」し、「その労使関係は、非常に曖昧模糊たる状態にあり、また非常に矛盾した複雑微妙な関係を示す」と洞察した。さらに、かつての総評、現在の連合などの上部団体の意義について、「そのまま放置すれば労使関係の第一次関係に傾こうとする経営対企業内労組関係を、その企業内労組を外部から指導支援することによって、経営対組合関係としての第二次関係の方向に事態を押しやろうとする」ところに存在意義があり、そのために「必要以上の左翼理論」、「イデオロギー」で強引に第二次関係へ引き上げようとしたと述べている。しかし、60年後「イデオロギー」が皆無となった今日、日本の労働社会は「利害対立の第二次関係が限りなく希薄化し、労使協力の第一次関係に埋没」してしまった。

ここは、今日の日本の状況を60年前の本が予言していたという本書の一番コアなところであり、ここに着目していただいているのは著者として冥利に尽きます。

さらに杉本さんは、

・・・ところで、本書は第2章で「労使共同決定」を取り上げている。「1918年11月のドイツ革命では、前年に起きたロシア革命でボルシェビキ(共産党)が唱えた『すべての権力をソビエトへ』に倣って、『すべての権力をレーテへ』が唱えられました。ソビエトもレーテも労兵評議会という意味です」、・・・

本書に「レーテ」という懐かしい言葉が出てくるとは思わなかった。・・・・ 

と、「レーテ」という言葉に敏感に反応されています。この言葉に敏感に反応されるということは、この杉本さん、相当なご高齢とお見受けしました。私の年齢でも、もはやこの言葉を知っている知識人は数少ないはずです。

 

 

2020年11月12日 (木)

「司法より当事者間の交渉で」というけれど・・・

本日の日経に大内伸哉さんが「同一労働同一賃金どう進める 司法より当事者間の交渉で」を書いています。ここで言われていることは、昨日の休業手当の話とも共通する問題です。

https://www.nikkei.com/article/DGXKZO66084900R11C20A1KE8000/

大内さんの主張には実は相当程度賛成なのです。私もその旨を繰り返し述べてきたこともあります。

・・・法は企業に、不合理な格差を設けることを禁じているが、具体的にどうすれば法を守ったことになるかを明確に示していない。・・・

・・・こうした状況下では不合理性を軸としている限り、スムーズな労使交渉は期待できない。この問題の解決に必要なのは、企業が非正社員に対し納得できるような労働条件を提示した上で、非正社員の同意を得ている場合には、その結果を尊重する(不合理とは評価しない)という解釈を確立することだ。・・・

しかしながら最大の問題は、その非正社員の同意が個人個人ごとの同意であれば、そもそも労働の根本原則からいってそう簡単に認めるわけにはいかないということです。労働者の集団的合意こそがその帰結の合理性の担保となるというのは200年前からの大原則です。

そして、それがほとんど欠如していることこそが、この非正規問題を労使関係の基本原則に従って解決することが難しい最大の理由でもあるわけです。

昨日も言ったように、今のいい加減な過半数代表者をそのままにして、格差の合理性の判断を委ねるわけにはいかないでしょう。

そして、だからこそ、今のいい加減な過半数代表者のままではなく、ちゃんとした選挙制の従業員代表制を設けなければいけないんだ、という議論も、もうかれこれ20年以上もされていますが、なかなか話が進まないわけです。

そしてその結果、司法によるやたらに事細かなこれはヨシ、あれはダメという合理性判断の泥沼から脱却する道筋を見いだすことが難しくなっているわけですね。

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/02/215-3eed.html(同一労働同一賃金と集団的労使関係@『労働判例』2月15日号)

Roudouhanrei_2017_02_15 ・・・・ しかしながら、正社員には年功的な職能給、非正規労働者には市場決定の職務給が適用されている日本社会で、同一労働同一賃金原則をどのように適用するのかについての具体的なイメージは未だに明確ではない。筆者は、この問題を打開する道筋は集団的労使関係システムの活用にあると考えている。賃金に格差がある場合に、賃金に格差のある両者が双方とも参加し、その意見が吸い上げられた上で、その集団的意思決定として一定の格差を合理的と判断する、あるいは不合理とし、格差是正を求める、というプロセスを踏むことが、格差を合理的とする場合のもっとも普遍的な根拠になり、また、不合理な格差是正にもつながると考えるからである。しかし、そのためには、非正規労働者がきちんと労働組合に組織化され、彼ら彼女らの声がきちんと集団的な形で集約されることが必要不可欠である。とはいえ、自発的結社である労働組合に対し、非正規労働者の組織化を法的に強制することはできるはずがない。その意味では、いよいよ正面から従業員代表制について議論をしなければならない時期が到来しつつあるのではなかろうか。

 

 

 

電通の社員個人事業主化

日経が報じていますが、

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66103760R11C20A1916M00/

電通は一部の正社員を業務委託契約に切り替え、「個人事業主」として働いてもらう制度を始める。まずは2021年1月から全体の3%に相当する約230人を切り替える。電通では副業を禁止しているが、新制度の適用を受けると兼業や起業が可能になる。他社での仕事を通じて得られたアイデアなどを新規事業の創出に生かしてもらう考えだ。・・・

いやいや、別に雇用だと副業を禁止しなければならないわけじゃない。むしろ政府が雇用の副業を鉦や太鼓で奨励しているんだけど、電通はあくまで雇用なら副業は禁止で、「だから」個人事業主にするんだと。なんだか筋がねじれているような。

いやたぶん、副業奨励と言いながら、先日策定されたガイドラインでは、簡便なやり方だと言いながら、結局労働時間も残業代も通算しろというめんどくさいことになってしまったので、そんなめんどくさいコトするくらいならさっさと自営業化した方が簡単だ、ということなのかもしれません。王(雇用契約)よりも飛車(労働時間規制)をかわいがりすぎるとこういうことも起こるわけです。労働時間規制を守れないようなのは雇用契約に付随するメリットも取り上げてしまうというやり方は、労働者にとって却ってデメリットが多いという面もあるのです。が、それは政策論として議論するとして、今回の電通の方針にはやはりこれはいかがかというところがあります。

適用者は電通社内の複数部署の仕事をするほか、他社と業務委託契約を結ぶこともできる。ただ競合他社との業務は禁止する。・・・

うわぁ、これでは事実上の専属みたいなもので、独立自営業者とは言い難いですね。雇用契約の範囲内で兼業を認めるならよくある条項でしょうけど。

 

 

 

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