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2020年1月24日 (金)

『Japan Labor Issues』2010年2月号

Jli_20200124161801 『Japan Labor Issues』2020年2月号がアップされました。

https://www.jil.go.jp/english/jli/documents/2020/021-00.pdf

Trends
Key Topic: Thirty Years since JTUC-Rengo's Foundation: Challenges and Prospects for Japan's Labor Movement (PDF:273KB)
OGINO Noboru

Judgments and Orders
Legal Liability Regarding "Power Harassment" and the Scope of That Liability: The Fukuda Denshi Nagano Hanbai Case (PDF:197KB)
TAKIHARA Hiromitsu

Japan’s Employment System and Public Policy 2017-2022
Fringe Benefits (PDF:726KB)
NAKAMURA Ryoji

Book Review
Akiomi Kitagawa, Souichi Ohta, and Hiroshi Teruyama, The Changing Japanese Labor Market: Theory and Evidence (PDF:234KB)
Arthur Sakamoto (Texas A&M University

JILPTの労働法系研究員が持ち回りで執筆している「Judgments and Orders」ですが、今回は滝原さんがもともとの持ちネタであるハラスメント事案を評釈しています。事案はフクダ電子長野販売事件(東京高裁2017年10月18日)ですが、外国人向けの雑誌論文として、いくつもの裁判例を紹介しています。タイトルに「Power Harassment」が入っていますが、当然これでは外国人には通じないので、この言葉の由来もちゃんと解説しています。

また、評釈の後半では、近年のハラスメントに関する立法の動向についても詳しく紹介しています。

ほほえましい光景

513gjbua3l__sl500_sx354_bo1204203200_ 今から30年以上も前に出た本に、こういう一節がありましたが、これのおかしさが分からない人、思わずにやりとしなかった人は、ジョブ型なんていう言葉をうかつに口にしてはいけませんぞよ。

・・・どこかで経営学を勉強してきた管理職が、「もっと責任と権限を明確にしなければならない」などと一席ぶった後、まだその舌の根も乾かぬうちに、部下に向かって「諸君は常に自分の職務より一段上の仕事をこなすように心がけなければならない」などと訓示を垂れるなどのほほえましい光景は、日常茶飯に遭遇するところである。・・・・

まことに日常茶飯ですなあ。

 

 

メンバーシップ型外国人労働政策を求める経済団体

これは、昨年5月に書いたこのエントリの延長線上の話ですが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/05/post-03bb33.html (ジョブ型入管政策の敗北)

これ、逆に今まではなぜ文科系大学卒業生には「技術・人文知識・国際業務」という在留資格を求めていたのかというと、そりゃ世界共通のジョブ型社会の常識から言って、大学まで行ってわざわざ何かを勉強するというのは、そこで学んだ知識や技能を活かして仕事をしたいからだろう、という日本型メンバーシップとは異なる世界の常識に合わせていたからなんですね。
ところが、残念ながら日本の企業の行動様式はそういうジョブ型社会の常識とは全く違っているので、なんとかしろと詰め寄られたら、まあこうするしかないわけです。現に日本の文科系大学の卒業生は、学んだジョブのスキルと違うなどというくだらないことは一切考えずに何でもいいから空白の石版で就職(就社)しているんだから、外国人留学生だって郷に入れば郷に従えというわけです。
ひとりジョブ型原理で孤軍奮闘していた入管政策の敗北と言いましょうか。

特定活動なんて生ぬるいものじゃだめだ、とっとと現場の単純作業を「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で認めろ!というのが、内閣府の規制改革推進会議雇用・人づくりワーキング・グループで、経済団体が訴えていることなんですね。その団体は経団連では無くて新経済連盟、世間的には今までの日本型システムを全否定するかの如き威勢のいい議論を展開している団体ですが、ここで言っているのは、その正反対、世界標準のジョブ型労働システムに即して作られた「技術・人文知識・国際業務」の在留資格は日本の現場感覚に合わないからさっさと変えろ!という主張になっています。

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/koyou/20200120/agenda.html

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/koyou/20200120/200120koyou05.pdf

Kisei01_20200124115001

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いやもちろん、日本型雇用システムを前提とすれば、正社員はみんなエリート候補生の総合職で、初めはみんな現場で単純作業から、というのはなんら不思議ではないわけですが、それをそうじゃない世界からやってきた外国人にも適用するから、制度もそっちに合わせろというのは、国内向けにはその日本型システムをさんざんに批判してきた団体が言うことなのかな、という疑問が湧いてきます。

ちなみに、同じようなトピックをテレビ報道をネタにして、川端望さんが書かれています。

https://riversidehope.blogspot.com/2020/01/blog-post_19.html (「この外国人をホワイトカラー職務に就かせる」と約束して肉体労働をさせる違法行為は,外国人労働者も日本人労働者も大学をも脅かす )

 

 

 

 

 

2020年1月23日 (木)

『月刊連合』1・2月号で神津会長がウーバーイーツユニオンにエール

Covernew_20200123211701 『月刊連合』1・2月号をお送りいただきました。巻頭で、神津会長がウーバーイーツユニオンの前葉委員長以下の組合員の方々と対談しています。

https://www.jtuc-rengo.or.jp/shuppan/teiki/gekkanrengo/backnumber/new.html

"自由な働き方"に何が起きているのか!?
ウーバーイーツ配達員の声
ウーバーイーツ ユニオン × 神津里季生 連合会長
「ウーバーイーツ(Uber-Eats)」は、マッチングプラットフォームを介した飲食宅配代行サービス。客がアプリから注文すると、登録している配達員が飲食店から品物を受け取って客に届ける仕組みだ。その配達員が2019年10月3日、労働組合・ウーバーイーツユニオンを結成し、注目を集めている。「自由な働き方」に今どんな問題が起きているのか。何を求めて行動しているのか。ウーバーイーツユニオン前葉富雄執行委員長と組合員が、神津会長と本音で語り合った 

20200102_p23

今話題の雇用類似の働き方のうち、実際に体を動かすフィールドタイプの労働としては、日本ではこのウーバーイーツが近年急激に拡大し、話題になっていますが、この段階でさっそくユニオンの声を月刊誌で取り上げるというのは、いいフットワークだと思います。

厚生労働省の雇用類似の論点整理検討会もそろそろ大詰めになりつつあるようですが、データのやり取りに終始するクラウドワークはなかなかとっかかりがないとしても、こういう事故の危険と隣り合わせの雇用類似の働き方は、何らかの対応が喫緊の課題であることは間違いありません。ただ、この検討会は担当局の権限の範囲からして、集団的労使関係の問題には踏み込めないので、こういう働き方にこそ労働組合が必要じゃないか、というメッセージは、それこそ連合が先頭に立って叫んでいく必要があるのでしょう。

 

 

郵便受けに本を突っ込まれても紹介はしません

51smrigfxzl_sx350_bo1204203200_ 私は原則として私宛にお送りいただいた書籍は本ブログで紹介することとしておりますが、それはあくまでも、労働研究者であるわたくしに読んでほしいというご要望に応じたいと思うからであって、見境なく郵便受けに本を突っ込まれても、そんな本は紹介しません。見もせずにそのままゴミ箱に突っ込みます。勝手に送りつけて100万部のうちに勘定しないでいただきたい。

長谷川和夫・猪熊律子『ボクはやっと認知症のことがわかった』

321906000708 長谷川和夫・猪熊律子『ボクはやっと認知症のことがわかった 自らも認知症になった専門医が、日本人に伝えたい遺言』(KADOKAWA)を、共著者である猪熊さんよりお送りいただきました。

https://www.kadokawa.co.jp/product/321906000708/

「この本は、これまで何百人、何千人もの患者さんを診てきた専門医であるボクが、また、『痴呆』から『認知症』への呼称変更に関する国の検討委員も務めたボクが、実際に認知症になって、当事者となってわかったことをお伝えしたいと思ってつくりました」――(「はじめに」より抜粋)
2017年、認知症の権威である長谷川さんは、自らも認知症であることを世間に公表しました。その理由はなぜでしょう? 研究者として接してきた「認知症」と、実際にご自身がなってわかった「認知症」とのギャップは、どこにあったのでしょうか? 
予防策、歴史的な変遷、超高齢化社会を迎える日本で医療が果たすべき役割までを網羅した、「認知症の生き字引」がどうしても日本人に遺していきたかった書。認知症のすべてが、ここにあります。 

認知症になった長谷川さんの映像は、先日NHKスペシャルで流れていましたが、その長谷川さんが読売新聞の猪熊さんの手助けを借りつつ、自らの認知症研究と自らの認知症の姿を絡ませながら描き出したのがこの本です。

第1章 認知症になったボク
第2章 認知症とは何か
第3章 認知症になってわかったこと
第4章 「長谷川式スケール」開発秘話
第5章 認知症の歴史
第6章 社会は、医療は何ができるか
第7章 日本人に伝えたい遺言 

 

『2020年版経営労働政策特別委員会報告』

4818519073 経団連より『2020年版経営労働政策特別委員会報告』をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

http://www.keidanren-jigyoservice.or.jp/public/book/index.php?mode=show&seq=569&fl=

 労働力人口の急速な減少、デジタル革新の進展など、企業を取り巻く経営環境が大きく変化する中、企業は、こうした変化をチャンスとして捉え、新たな価値創造を目指すことが必要です。企業は、働き手一人ひとりが自ら育つ環境を整備しながら、エンゲージメントを一層高めて、生産性向上を実現することで、その果実を様々な処遇改善につなげることができます。一方、世界経済の減速を受けて、足もとの企業業績はまばら模様であり、日本経済の先行きへの不透明感は高まっています。賃金については、様々な考慮要素を勘案しながら、適切な総額人件費管理の下で、自社の支払い能力を踏まえ、労働組合等との協議を経て賃金を決めるという「賃金決定の大原則」に則りながら、自社の状況に見合った賃金引上げ方法について、企業労使で徹底的に議論を行い、検討していくことが重要です。
 2020年版の「経営労働政策特別委員会報告」(経労委報告)は、今年の春季労使交渉・協議における賃金改定や総合的な処遇改善に関する経営側の基本スタンスを示すとともに、アウトプットの最大化に注力する「働き方改革フェーズⅡ」の考え方、働き手のエンゲージメントを高める施策のポイント、日本型雇用システムの課題と今後の方向性、Society 5.0時代に活躍する人材育成のあり方、直近の雇用・労働分野における法改正の内容と企業に求められる対応などについても言及しています。今次労使交渉・協議における経営側の指針書としてご活用ください。 

既にマスコミ等で大きく取り上げられていますが、今回の報告は、日本型雇用システムの見直しを正面から取り上げた点が注目されています。

戦後から長きにわたって我が国企業の発展を支えている「日本型雇用システム」は、①学校を新たに卒業した学生等の一括採用、②定年までの長期・終身雇用を前提に、企業に所属するメンバー(社員)として採用した後、職務を限定せず社内でさまざまな仕事を担当させながら成長を促す人材育成プロセス、③勤続年数や職務経験を重ねるに伴って職務遂行能力(職能)も向上するとの前提で毎年昇給する年功型賃金などを主な特徴としている。こうした雇用システムは「メンバーシップ型」と称される。特定のポストに空きが生じた際に、その職務(ジョブ)・訳医割を遂行できる能力や資格のある人材を社外から獲得あるいは社内での公募により対応する欧米型の「ジョブ型」と対比される。・・・

と、拙著でも繰り返してきた教科書的な説明の後、

そのメリットとデメリットを列挙し、今後の方向性として、「直ちに自社の制度全般や全社員を対象としてジョブ型への移行を検討することは現実的ではない」とした上で、「まずは、「メンバーシップ型社員」を中心に据えながら、「ジョブ型社員」が一層活躍できるような複線型の制度を構築・拡充していく」ことを示しています。

複線型というのは、つまり、

・・・各企業においては、自社の経営戦略にとって最適な「メンバーシップ型」と「ジョブ型」の雇用区分の組合せを検討することが基本となる。・・・

と、そういう言葉は出てきませんが、25年前の『新時代の「日本的経営」』の雇用ポートフィリオみたいなイメージですが、だとすると、25年前の「高度専門能力活用型」が不発に終わった失敗を繰り返さないように、どう手当てをしていくかという点が重要でしょう。こういう台詞は出てきますが、やや迂遠な感もあります。

・・・キャリア面では、メンバーシップ型とジョブ型社員の双方から、経営トップ層へ登用していく実績を作り、自社における複線型のキャリア発展空間を感じてもらうことで、定着率向上を図ることが考えられる。

一方で、経労委報告の半世紀近く前からの本題である春闘の賃上げ話については、「企業が社員を雇用する際に必要な費用の総額である「総額人件費」の観点が不可欠」と、メンバーシップ型を前提とした総額人件費主義に立っていて、連合の春闘方針の月例賃金引上げ偏重を批判していますが、このあたり、雇用システムの総論に対するスタンスと、具体的な賃金引上げの議論のスタンスが、ずれているように見えるのも興味深いところです。

本当にジョブ型になるんだったら、ほっといても定期昇給で上がっていくということはなくなるので、「定昇込みいくら」なんていうごまかしはきかなくなり、ガチンコの賃上げ交渉にならざるを得ないはずですが、そこまでの発想は労使双方ともないのでしょう。

 

 

 

 

 

 

残業代と有休の時効@『労基旬報』2020年1月25日号

『労基旬報』2020年1月25日号に「残業代と有休の時効」を寄稿しました。

 昨年(2019年)末の12月27日、労政審労働条件分科会はなんとか「賃金等請求権の時効の在り方について」建議にこぎ着けました。この経緯については周知のところですが、一応簡単に振り返っておきましょう。2017年5月に民法(債権法)の大改正が行われ、来る2020年4月から施行される予定ですが、その中に時効に関する規定の改正があります。これまでは原則は10年ですが、月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料にかかる債権は1年間行使しないときは消滅するという短期消滅時効の規定があったのですが、これが廃止され、債権者が権利を行使することができることを知ったとき(主観的起算点)から5年間行使しないとき又は権利を行使することができるとき(客観的起算点)から10年間行使しないときに時効で消滅することとなりました。
 一方、民法の特別法としての労働基準法では、短期消滅時効の1年を少し伸ばして、賃金、災害補償その他の請求権は2年間行使しないときは消滅するとされています(115条)。ところが民法改正で原則が5年に延びるのに、労働者保護のための労働基準法の保護水準が民法の一般原則よりも低くなってしまうのは問題ではないか、というのが、今回の見直しの出発点です。厚生労働省は2017年12月から「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」(学識者8名、座長:岩村正彦)を開催し、2019年6月に報告書を取りまとめたのですが、そこでは賃金等請求権の消滅時効について将来にわたり2年のまま維持する合理性は乏しく、労働者の権利を拡充する方向で一定の見直しが必要と述べていますが、具体的な数字は挙げていません。これは使用者側の反対が強かったためです。また、後に論じますが、年次有給休暇請求権については取得率向上という政策に逆行するとして延長に否定的な見解を示しています。
 これを受けて同年7月から労政審労働条件分科会で公労使による審議が始まり、冒頭述べたように年末の12月27日にようやく建議にこぎ着けたわけです。その内容は一言で言えばまさに妥協の産物で、原則は民法に合わせて5年とするとしながらも、「賃金請求権について直ちに長期間の消滅時効期間を定めることは、労使の権利関係を不安定化するおそれがあり、紛争の早期解決・未然防止という賃金請求権の消滅時効が果たす役割への影響等も踏まえて慎重に検討する必要がある」として、当分の間3年とするというものです。3年という数字の根拠としては、現行の労基法109条の記録の保存期間に合わせたという説明ですが、やや後付けの理屈という感があります。
 実を言えば、経営側が5年への延長に強く反発したのは、これがもっとも影響するのが不払い残業代請求、それも解雇や退職をめぐるトラブルでいわば事後的に出てくる残業代請求の事案だからでしょう。本来からいえば払うべきと分かっていて不当に支払っていなかった賃金債務を免れたいというのはあまり堂々と言える話ではないはずですが、不払い残業代事案の場合、管理監督者や固定残業代といった仕組みの下で、労働者も納得して不支給だったはずなのに、辞めた後に残業代不払いだといって遡って請求してくるのはおかしいじゃないか、という気持ちがあるのだと思われます。
 しかし、この問題に対してはもう一つ別の視点からの議論がありうるのではないかと思います。それは、賃金請求権以外の請求権については、現行の2年の消滅時効期間を維持すべきだとされていることとの関係です。とりわけ年次有給休暇請求権については、「労働者の健康確保及び心身の疲労回復」という制度趣旨から、年休権が発生した年のうちに確実に取得するべきもので、消滅時効期間を延長したら却って年休取得率向上という政策の方向性に逆行するとしています。この点については労働側も同じ意見であり、5年に延ばすべきではないと言っています。
 ここで、賃金問題と労働時間問題との間に線引きがされています。賃金問題はそもそも民法の雇用契約に基づく報酬請求権であり、そちらに従うのが原則であるのに対して、労働時間問題は労働者の健康確保という政策目的に資するかどうかで判断すべきだと。この線引きには私もまったく同意します。しかしだとすると、残業代問題は単純に賃金問題と言っていいのか、これこそまさに労働者の健康確保のための政策ではないのだろうか、という疑問が湧いてきます。
 労働基準法37条は、同法第3章(賃金)ではなく第4章(労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇)に置かれています。現実はともかく、少なくとも建前上は、同法37条による残業代・休日手当は、少ない基本給を補填するためではなく、本来あるべきでない残業や休日出勤を(使用者に対するコストを通じて)抑制するための政策手段であるということになっています。
 だとすると、賃金請求権のうち残業代・休日手当に係る部分(労基法37条によって創設された部分)については、民法の一般原則に従うのではなく、労働者の健康確保という政策立法の趣旨に従って、できるだけ早いうちに、退職後になってから遡って請求するのではなく、できれば在職中に残業や休日出勤をできるだけ抑制しうるように、5年に延長せず、短期のままにとどめるべきなのではないでしょうか。有休と同じように。
 いやもちろん、これは現実の労働者の感覚とは遥かにかけ離れた超建前論です。しかし、今回の改正の影響する最大領域である不払い残業代問題の根底には、こういう本質的な疑問を呼ぶ部分があるということは認識しておいていいのではないでしょうか。 

 

2020年1月19日 (日)

(フォーラム)「妖精さん」どう思う?@朝日新聞

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今朝の朝日新聞の7面が、一面全部充てて「(フォーラム)「妖精さん」どう思う?」という特集を組んでいます。

https://www.asahi.com/articles/DA3S14332432.html

26184472_1_20200119085401 最近バズっている「働かないおじさん」を、「妖精さん」と名付けた朝日新聞の昨年の記事の拡大版、というか、ネット上ではすでに公開されていたものが紙面に載ったものですが、立教大学の中原さんとわたくしのインタビュー記事がかなりの分量掲載されています。私のは、ご覧の通り、『日本の雇用と中高年』(ちくま新書)のエッセンスになっています。

記者は53歳。年功賃金制度の下で約30年勤めてきましたが、「働かないおじさん」に対する若者世代の冷たい視線におびえてしまいます。どう受け止めればいいのか、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)研究所長の濱口桂一郎さんに聞きました。(浜田陽太郎)
       ◇
 確かに年功賃金によって、貢献度に比べて報酬が高過ぎる中高年社員が生まれやすい状況はある。でも「既得権にしがみつき、けしからん」と、世代間の対立をあおるのは非生産的です。
 中高年の中には、そうして高い処遇を受ける「得な人」も、リストラされ再就職もままならない「損な人」もいる。若者の間にも新卒で正社員になれた「得な人」もいれば、非正規の仕事しかない「損な人」もいる。日本は「得」と「損」の差が大きいことが問題なのです。
 日本は年功序列や終身雇用を前提とした「メンバーシップ型社会」として発展してきました。1922年、呉海軍工廠(こうしょう)の技術将校が、年齢と家族数で賃金を決める生活給を提唱したのが出発点とされています。これが戦後、「電産型賃金体系」として確立しました。
 一方、欧米は「ジョブ型社会」。まず職務があり、それをこなせる人をその都度採用する。仕事がなくなれば整理解雇されます。
 私が提案するのは「ジョブ型正社員」。これまでの正社員のようにムチャクチャに働かされることなく、職務や職場、労働時間が「限定」された「無期雇用」の労働者です。欧米の普通の労働者と同じです。職務がある限りは解雇されません。非正規社員のように、たとえ職務があっても雇用契約の更新が保証されず、常に雇い止めのプレッシャーにさらされることはなくなります。更新拒否を恐れてパワハラ、セクハラ被害に泣き寝入りすることもありません。ただし、仕事がなくなれば整理解雇されるという点で、これまでの「正社員」とは違います。
 「60歳定年で非正規化し、70歳まで継続雇用」という、これまでの延長線上の対応では難しい。60歳の前後で働き方が途切れないよう一部のエリートを除き、40歳ごろからジョブ型正社員として専門性を高めるキャリア軌道に移しておくのです。
 日本の大卒が「社長を目指せ」とエリートの期待を背負って必死に働かされ、モチベーションを維持できるのは、30代くらいまででしょう。それ以降は出世にしばられない「ホワイトなノンエリートの働き方」を考えた方が幸せでしょう。
 欧州では公的な制度が支えている子育てや教育費、住宅費などは、日本では年功賃金でまかなわれています。ジョブ型正社員の普及を目指すなら、社会保障制度の強化が必要です。雇用の改革に向けて、社会保障を含めた「システム全とっかえ」の議論を、慎重かつ大胆に行うべきでしょう。 

ちなみに、紙面の下の方には、「まさに自分が妖精さんなので何も言えないですが」という50代男性、「若い頃は頑張ったものだ、と言われて10倍近い給与をもらっていきますが、本当にそれなら当時支払われるべきでは? 世代間のモヤモヤで転職を考えることもあります」という20代女性、「中高年社員を妖精と呼ぶ若い人に言っておく。貴君らの背後にはもっと若い連中が迫っていることを忘れるなよ」という80代男性、「昔は妖精じゃなくて妖怪と言った。若い時はああなりたくはないと思ったが、年をとったら自分がそうなってしまった」という60代男性など、いろんな人のコメントが載ってて、これがなかなか面白い。

 

 

2020年1月18日 (土)

受動喫煙対策の求人明示義務

今日は超トリビアどんですが、

例によって焦げすーもさんのつぶやきにこたえて、

https://twitter.com/yamachan_run/status/1218379419175145473

受動喫煙対策、求人に明示義務 厚労省:日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42972410X20C19A3EE8000/ …
→この前、電話質問を受けるまで知らんかったな。 

11021851_5bdc1e379a12a_20200118204701 これも、一昨年に出た拙著『日本の労働法政策』の労働安全衛生法政策の最後のところに時間切れ気味ながらこう記しておきました(p503)。

・・・また、今回の法律とは別に関係省令等により、従業員の募集を行う者に対しては、どのような受動喫煙対策を講じているかについて、募集や求人申し込みの際に明示する義務を課すことにしている。

その後、本書刊行以後の2019年5月に職業安定法施行規則が改正され、募集や求人申込みの際に明示すべき義務として、「就業の場所における受動喫煙を防止するための措置に関する事項」が追加されました。そして2019年7月、労働基準局長名で「職場における受動喫煙防止のためのガイドライン」(基発0701第1号)が発出され、労働安全衛生法の努力義務と健康増進法の措置義務等とを一体的に示しています。監督官の皆様は了知しているはずですよね。

 

 

 

 

2020年1月17日 (金)

借金肩代わりの就活サービスって・・・・

ちょっと気になる記事がビジネスインサイダーにありました。

https://www.businessinsider.jp/post-205808 (“奨学金を肩代わり”就活サービス「Crono Job」。大学生の2人に1人が「借金」している現状変える)

求職者の奨学金返済を肩代わりする求人プラットフォーム「Crono Job」は、同名の求人サイトの掲載企業に就職が決まると、借り入れ中の奨学金を企業が代わりに返済してくれるサービスだ。貸与型奨学金・民間教育ローンの利用者であれば誰でも登録でき、新卒・中途は問わない。
企業による返済は、入社後に一括で肩代わりするか勤続年数や評価に応じて段階的に行うかが、企業によって決められている。すでにDMM、ドリコム、CAMPFIRE‎など8社が契約しており、約100名の求職者が登録している。

いやちょっと待て、それって、労働契約と金銭消費貸借契約をリンクさせるって事だよね。

まえにも本ブログで紹介したことがありますが、2003年に職業安定法が改正されるまでは、こういう規定が存在していたのです。

(兼業の禁止)
第三十三条の四 料理店業、飲食店業、旅館業、古物商、質屋業、貸金業、両替業その他これらに類する営業を行う者は、職業紹介事業を行うことができない。

なぜこんな規定があったのか。

おらぁ、貸した金、利子付けて返せゃ。返せねえなら体で返してもらおうか・・・。 

という世界があったからですね。そんな野蛮な世界はもうなくなったから(ほんまかいな)という理由でこの規定は17年前に削除されたのですが、ほんまかいな。

今回のビジネスモデルはもちろんこれとは違い、この人材ビジネス自体が金貸しになるわけではありませんが、そのあっせんで当該借金を背負った学生さんを雇う会社は、単に「仕事してくれたから給料払うよ」というだけの立場ではなく、「貸した金返せや」と言える立場になるわけです。DMMとかが。

うん、確かに現行法上どこにも問題はないといえばないのですが、なんだかとても胸騒ぎがするのは心配のしすぎでしょうか。

 

飯塚健二『「職場のやっかいな人間関係」に負けない法』

51klb82a5tl 飯塚健二『「職場のやっかいな人間関係」に負けない法』(三笠書房)をお送りいただきました。

https://www.mikasashobo.co.jp/c/books/?id=100280100

こんなメソッドがあったのか! 
ベルギーで開発された、人の「行動特性」を知る画期的なツール――
「iWAM(アイワム)」をベースに提案する人間関係の戦略
“出しゃばり”人間には → 「お先にどうぞ戦略」
“猪突猛進”人間には → 「目標共有戦略」
“心配性”人間には → 「不安言語化戦略」
“頑固一徹”人間には → 「問答法戦略」
“優柔不断”人間には → 「偉い人がいっている戦略」
“歯に衣着せぬ”人間には → 「ビシッと対処する戦略」

かわす、受け流す、立ち向かう――職場の「あの人」にもう振り回されない法 

まあ、人間関係術ということでしょうか。

 

EU経団連が中国との関係見直しを提言

Unice 欧州委員会が協議を開始したEU最低賃金という案について、欧州労連はもちろん賛成してますが、経営側はどう言っているかなと思って、欧州経団連(ビジネス・ヨーロッパ)のサイトを見に行ったら、そちらへのコメントはまだ出ていませんが、昨日付で「EUは中国との関係を抜本的に見直すべき」という意見書をアップしていました。これがなかなか興味深い。

https://www.businesseurope.eu/publications/eu-should-fundamentally-rebalance-its-relationship-china

意見書本体は160ページに及ぶ大部の冊子ですが、

https://www.businesseurope.eu/sites/buseur/files/media/reports_and_studies/2020-01-16_the_eu_and_china_-_addressing_the_systemic_challenge_-_full_paper.pdf

要するに何を言っているかというと、

Systemic challenge and market-distorting practices must be addressed 

近年の中国の国家主導経済体制に対して、市場を歪めると批判しているんですね。

European business wants to build a stronger and fairer economic relationship, but systemic challenges prevent European companies from untapping this economic potential. The obstacles created by China’s state-led economy lead to market distortions in China, in the EU and in third countries. We call on the EU to reconsider how it engages with China, so that it can seize the opportunities and mitigate the distortions and challenges created by China’s state-led economy. 

近年、香港や台湾など、政治的自由の問題が話題になっていますが、中国の経済体制の問題がEUでここまで深刻になっているというのも、念頭に置いておくべきことなのでしょう。

Unicechina なお、親切なことに中国語のサマリーまで用意してあります。

https://www.businesseurope.eu/sites/buseur/files/media/reports_and_studies/2020-01-16_the_eu_and_china_-_executive_summary_chinese_translation.pdf

 

2020年1月16日 (木)

EUが最低賃金について労使団体に第一次協議

一昨日(1月14日)付けで、欧州委員会が最低賃金に関する労使団体に対する第一次協議を開始したようです。

https://ec.europa.eu/social/BlobServlet?docId=22219&langId=en (First phase consultation of Social Partners under Article 154 TFEU on a possible action addressing the challenges related to fair minimum wages)

これは、なまじEU労働法を知っている人にとっては却って驚くべき話です。なぜなら、EU運営条約は明文の規定で以て賃金をEUの権限から排除しているからです。

とはいえ、これは政治的な案件なのかも知れません。

ブレグジットで、何でも反対するイギリスはもう何も言わなくなるという状況もあるのかも。

もう少し情報を調べてみる必要がありそうです。

 

2020年1月15日 (水)

短時間勤務有期雇用教職員(最年少准教授)の懲戒解雇

例の最年少准教授(短時間勤務有期雇用教職員)に対し、雇用主である国立大学法人東京大学が懲戒解雇の処分を下したようです。

https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/z1304_00124.html

東京大学は、大学院情報学環 大澤昇平特任准教授(以下「大澤特任准教授」という。)について、以下の事実があったことを認定し、1月15日付けで、懲戒解雇の懲戒処分を行った。
<認定する事実>
 大澤特任准教授は、ツイッターの自らのアカウントにおいて、プロフィールに「東大最年少准教授」と記載し、以下の投稿を行った。
(1) 国籍又は民族を理由とする差別的な投稿
(2) 本学大学院情報学環に設置されたアジア情報社会コースが反日勢力に支配されているかのような印象を与え、社会的評価を低下させる投稿
(3) 本学東洋文化研究所が特定の国の支配下にあるかのような印象を与え、社会的評価を低下させる投稿
(4) 元本学特任教員を根拠なく誹謗・中傷する投稿
(5) 本学大学院情報学環に所属する教員の人格権を侵害する投稿
大澤特任准教授の行為は、東京大学短時間勤務有期雇用教職員就業規則第85条第1項第5号に定める「大学法人の名誉又は信用を著しく傷つけた場合」及び同項第8号に定める「その他この規則によって遵守すべき事項に違反し、又は前各号に準ずる不都合な行為があった場合」に該当することから、同規則第86条第6号に定める懲戒解雇の懲戒処分としたものである。 

その東京大学短時間勤務有期雇用教職員就業規則も添付されておりまして、

https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400130020.pdf

(懲戒の事由)
第85条 短時間勤務有期雇用教職員が次の各号の一に該当する場合には、懲戒に処する。
(5) 大学法人の名誉又は信用を著しく傷つけた場合 

(懲戒)
第86条 短時間勤務有期雇用教職員の懲戒は、戒告、減給、出勤停止、停職、諭旨解雇又 は懲戒解雇の区分によるものとする。
(6) 懲戒解雇 予告期間を設けないで即時に解雇する。  

というわけで、事業所内部における法的根拠は上記の通りですが、いうまでもなく大澤氏にはこれを不当解雇として訴える権利があります。

その場合の参照条文は労働契約法のこれですが、

(懲戒)
第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。 

懲戒処分としても解雇としても、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められるかどうかが問題になるわけですが、

実は、大澤氏はテニュアのある常勤准教授ではなく、短時間勤務有期雇用教職員ですので、今回の解雇は労働契約法16条の解雇ではなく、次の17条の方になります。

(契約期間中の解雇等)
第十七条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。 

おそらく圧倒的に多くの方々(労働法関係者を除く)の常識に反すると思われますが、有期契約労働者の期間途中解雇は無期契約労働者の解雇よりも(理屈の上では、上だけでは)難しいのです。後者は客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性があればいいのに、前者は「やむを得ない事由」が必要なんですから。それがそうなっていないのはなぜかというのは、雇用システム論を小一時間ばかり論ずる必要があるので、ここではパスしますが。

もひとつ、労働行政関係者であればここで思いだしておかなければならない規定がありますね。労働基準法20条1項但し書きです。

(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
2 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
3 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。 

今回の懲戒解雇は「「大学法人の名誉又は信用を著しく傷つけた場合」という「労働者の責に帰すべき事由に基いて」「予告期間を設けないで即時に解雇する」ものですから、本条3項により19条第2項が準用されます。

(解雇制限)
第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
2 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。 

つまり、今回の懲戒解雇は、それが即時解雇であるがゆえに労働基準監督署の認定を受ける必要があります。まあ、労働法学者が何人もいる東京大学ですから、そこは抜かりはないでしょうが。

ちなみに、なぜかブログが閉鎖されている労務屋さんが、ツイッターで本件にコメントしていますが、

https://twitter.com/roumuya/status/1217346484024168448

ということで懲戒処分を行うことは正当としても、解雇は重きに失するのではないかというのが私の印象です。あくまで過去の判例などをもとにした検討であり、私の価値観は一切含まれておりませんのでどうかそのようにお願いします。 

わたしは解雇相当と思いましたが、それは当初の民族差別的発言それ自体というよりも、いったん反省したような発言をしながら、その後東大の部局や教員を誹謗中傷するような発言を繰り返したことが悪質と判断されたものと思われます。

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