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2026年9月 8日 (火)

スウェーデンの労働組合はイーロン・マスクに敗れた!

Asahishinsho_20260908222101 一昨年刊行した拙著『賃金とは何か』の「おわりに」で、スウェーデンなど北欧諸国には最低賃金なんてものはないんだ、そんな国家権力で守ってもらうなんていう恥ずかしいことは拒否して、労働組合自らの力で勝ち取るんだ、それが北欧労働組合の誇りなんだ、と書いたことを覚えているでしょうか。

そしてその実例として、イーロン・マスク率いるテスラ社に対して、スウェーデンの労働組合が敢然と戦いを挑んでいるという話を書きました。

・・・その気概を示したのが、イーロン・マスク率いるテスラ社のスウェーデン工場で二〇二三年一一月、金属労組IFメタルが労働協約締結を拒否する同社に対して行ったストライキに、港湾労働者や郵便労働者などが同情スト(テスラ車だけ荷下ろし拒否、テスラ車のナンバープレートだけ配達拒否など)で協力したことです。この争議はまだ続いていますが、公共性とは国家権力への依存ではなく、産業横断的な連帯にあるという北欧労働者の心意気が示された事件です。・・・

このストライキ、なんと今年の8月19日まで1027日間も続きました。スウェーデン労使関係史上最長のストライキです。そして、勝ったのは・・・・・・・

テスラでした。弱弱しい労働組合を国家権力がわざわざしゃしゃり出て守ってくれる不当労働行為制度などという甘ったれた仕組みは断固拒否する誇り高いスウェーデンの労働組合は自らのあらゆる力を振り絞って戦ったのですが、テスラ社は機密保持条項付きの退職金付きで労働者を切り崩し、ついにストライキは成果を生むことなく中止に至ったようです。

ソーシャル・ヨーロッパが報じています。

https://www.socialeurope.eu/tesla-outlasted-the-worlds-strongest-union-movement

The historic Tesla strike ended on 19 August, after 1,027 days. On 27 October 2023, some 40 mechanics walked out of 10 workshops across Sweden. Nearly three years later, their union, IF Metall, has not achieved its goal: a collective agreement with Tesla’s Swedish subsidiary, TM Sweden.

The strike became the longest Swedish labour dispute in the past century and is the only strike ever called against Tesla anywhere in the world.

 

 

 

日本の管理職の構造@HRサミットオンライン2026

HRサミットオンライン2026で、わたくしは「日本の管理職の構造」について講演いたします。

https://www.hrpro.co.jp/event/session/event_session.php?smcd=89&scd=5422

常に「日本型雇用システム」の重要なアクターであり続けてきた管理職。
終戦直後は労働運動の先頭に立って経営者を追及し、
半世紀前には人員過剰・ポスト不足から企業の悩みの種ともなった。
さらに、名ばかり管理職、ホワイトカラーエグゼンプションの問題を経て今日、
働き方改革から取り残され、部下の仕事まで背負い込み、その言動がパワハラとされることに恐れおののいている。
戦後日本社会の変遷から浮かび上がる本質的課題を描き出す。

 

 

育成就労制度施行半年前になお残された課題@WEB労政時報

WEB労政時報に「育成就労制度施行半年前になお残された課題」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers/article/91378

 今年2月24日付の本欄で「技能実習制度から育成就労制度へ」を書き、2024年改正出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)で導入された育成就労制度の経緯と概要について紹介しましたが、その時に書き切れなかったこの制度の問題点、あるいはむしろ日本の外国人労働政策になお残された課題について、幾つか述べておきたいと思います。・・・・・・

 

2026年9月 7日 (月)

時間外労働規制とは何か@『道路建設』2026年9月号

Qqq 『道路建設』2026年9月号が「働き方改革」を特集しておりまして、そこにわたくしが「時間外労働規制とは何か」を寄稿しております。

中身はごく普通の解説です。

 

 

筒井美紀『生きるための労働教育』

9784787726049 筒井美紀『生きるための労働教育 道徳と新自由主義を原理とするキャリア教育の諸問題』(新泉社)をお送りいただきました。

https://www.shinsensha.com/books/8666/

日本のキャリア教育の問題とは何か? それはやりがい意識や勤労観だけを育むという労働の道徳化を推進し、経済社会の不平等や不公正や不正義を感じ取る力を養わないこと、これらに立ち向かうための方法を教えないこと、である。
日本では、人権教育が道徳教育と混同されているように、主流派のキャリア教育も勤労観と人間関係能力と職業スキルを高めることばかりに力点が置かれ、私たちにとって本当に必要な労働法、労働組合といった人権を実現する社会制度については寡黙である。それだけでなく、新自由主義的経済政策にどっぷりと加担してきた。だから、中学校から主流派のキャリア教育を受けてきた若者たちは、労働組合に疎隔感や反感を抱く一方で、賃金の不払いやパワハラ、セクハラにあっても我慢し、果ては「過労死」するまで働いてしまうのである。
労働は権利である。そのために労働者を護るための法律がある。ではどうすれば、みんなが安心して働ける社会を創ることができるのか。一緒に考えるための労働教育のあり方を考察する。

文部科学省主導の「キャリア教育」を、勤労道徳と市場主義に満ちたものとして批判し、それに代わってあるべき「労働教育」を訴える、というのが大筋ですが、そもそもキャリア教育の元になったキャリア発達心理学とは、みたいなところから順々に説き起こしておきます。

私個人についていうと、第7章の「なかなか広がらない労働教育の授業」で紹介されている厚生労働省の「今後の労働関係法制度を巡る教育の在り方に関する研究会」の立ち上げの段階で若干関わったこともあり、その後労働教育がなかなか広がらない姿に対するいらだたしい感覚はよく分ります。

序章
第1節 根本的問題は何か
第2節 本書の目的
第3節 経済社会に関する二つの問い
第4節 カギは労働教育:三つの理由
第5節 エシカルな問いを問う:創造に向けて
第6節 本書の構成
第7節 用語についての補足

第1章 「社会」「働くこと」「自己」というビッグワード/マジックワード
─込められた意味に注意を払う
第1節 本章の目的
第2節 「社会」に関する二つの問い
第3節 「働くこと」「職業」「仕事」「勤労」「労働」
第4節 「自己」「人間」「市民」「個人」
第5節 本章の結論

第2章 資本制社会の拡大と「労働者の権利」の発明と展開
─「権利は闘い取るもの」の意味
第1節 本章の目的
第2節 人権の発明と発展の概略史
第3節 資本制社会(産業化社会)の歴史展開─アメリカを対象に
第4節 本章の結論

第3章 スーパーがうち立てたキャリア発達心理学
─機能主義理論への依拠
第1節 本章の目的
第2節 スーパーのプロフィールと彼が揺さぶられた社会状況
第3節 キャリアガイダンスとキャリア発達心理学との関係
第4節 機能主義理論の社会像・人間像
第5節 スーパーのキャリア発達心理学の元─ビューラーの心理学的生活段階論
第6節 スーパーの労働の捉え方─アメリカ的理念の実現との関係
第7節 本章の結論

第4章 キャリア教育政策の展開
─生徒や学生の苦しい状況から出発してきたか
第1節 本章の目的
第2節 キャリア教育政策の歴史
第3節 主流派のキャリア教育の政治経済的背景と教育批判・教育改革の論理
第4節 キャリア教育政策と学校現場の関係
第5節 生徒や学生のおかれた苦しい状況
第6節 本章の結論

第5章 キャリア教育が言及していないこと
─批判理論の視点で迫る
第1節 本章の目的
第2節 批判理論とキャリア教育の分類
第3節 「ゆたかな社会」の反転にどう言及するか
第4節 労働者の権利行使と労働組合の役割
第5節 本章の結論

第6章 識者によるキャリア教育の代替カリキュラムの検討
─労働教育と呼ぼう
第1節 本章の目的
第2節 識者の代替カリキュラムの検討
第3節 文部科学省(2004)の「枠組み(例)」─いわゆる「4領域8能力」
第4節 本章の結論

第7章 なかなか広がらない労働教育の授業
─実態をつかむ7つの視点と政策動向
第1節 本章の目的
第2節 労働教育授業の実態─「出前授業」を含めて
第3節 労働教育推進の動向
第4節 本章のまとめ

第8章 労働教育に取り組む授業
─国内の事例と海外の事例
第1節 本章の目的
第2節 東京都立一橋高校定時制における現代社会の授業
第3節 神奈川県立追浜高校定時制における現代国語の授業
第4節 関西圏の公立A高校におけるロングホームルームでの出前授業
第5節 ニュージーランドのYWRCが出前授業で使っているワークブック
第6節 本章の結論

第9章 労働教育はアンペイドワーク(無償労働)も取り上げよう
─フェミニスト経済学の視点
第1節 本章の目的
第2節 アンペイドワークを凝視するフェミニスト経済学
第3節 アンペイドワークに関する学習─生徒が感じる居心地の悪さ
第4節 アンペイドワークの取り上げ方─久木田(2024)を事例に
第5節 本章の結論

第10章 労働教育は交換的正義の新たな展開も取り上げよう
─「抵抗」だけでなく創造も
第1節 本章の目的
第2節 「ビジネスと人権」
第3節 労働基準(労働規範)
第4節 本章の結論

終章
第1節 本書の内容のふり返り
第2節 学校現場では何を?
第3節 外国に繫がる生徒と労働教育という希望

あとがき
参考URL
参考文献・引用文献
索引 

ちなみに、言わずもがなですが、今の日本の教育現場では、「人権」という言葉はほぼ100%「思いやり」という意味でしか教え込まれていないので、ちゃんと「自分の権利」という概念を教えていかないといけないのではないかと思います。

 

2026年9月 6日 (日)

賀来才二郎について

203728 昨日紹介した仁田道夫『労使関係からみる戦後という時代』(日本評論社)の「列伝」中、もう一人取り上げておきたい人物がいます。昨日のエントリでもちらりと書きましたが、1947年労働省創設とともに初代労政局長に就任し、5年間の在職中に1949年と1952年の労働組合法改正を労政局長として担当した賀来才二郎です。

この人が面白いのは、その下で法改正を担当した松崎芳伸労働法規課長が、本書でも書かれておるように二度もクビになるといった波瀾万丈の人生とは言いながら、東京帝大法学部を卒業して内務省に入るというオーソドックスなコースをたどっており、それは中西実や富樫総一といった他の労働行政官たちも同じようなものであるのに、賀来才二郎はこの時代でなければ絶対にこのポストに座ることがなかったような人だからです。

彼は旧制三高から京都帝国大学文学部哲学科に入り、西田幾多郎教授から大学教授になれと言われたけれども、神戸市役所の社会課に書記として就職し、職業紹介所の御用聞きの仕事から始めています。その後秋田県社会事業主事、福岡県で内務省労務官となり、工場の労務統制の仕事をしていたら、終戦直後、新設の中央労働委員会の幹事に引っ張られたという経歴です。

これは、戦前の労働争議調停法時代に調停をしていたのは警視庁や府県警察部の警察官吏であり、特高警察はだめという占領軍の基準から、戦前労使関係に携わっていたのはつけられないからだったようですが、その意味では戦前と戦後は切れているのですね。

創設当時の中労委の梁山泊ぶりは、仁田著の「列伝」のあれこれに活写されていますが、そこで賀来は実質的な事務局トップとして、末弘厳太郎中労委会長とともに争議調整に駆けずり回り、2・1ストの裏側でも活躍しています。

仁田著では賀来の話は中労委時代までですが、その後1947年9月に厚生省から労働省が分離独立する際に、初代労政局長に就任し、上述のように労働組合法の大改正を局長として担当します。そして、これもまたその後の例に反して、労政局長で退官し、事務次官にはなりませんでした。

ちなみに、賀来の著書『ふていのやから』の巻頭に、彼がILO総会で演説しているときの写真が載っています。

Gghh

また、後年『昭和経済史への証言』(下)(1966年、毎日新聞社) でこの頃のことを回想していますが、そこに退官後10年以上経った賀来の近影が載っています。

Gggg


2026年9月 5日 (土)

仁田道夫『労使関係からみる戦後という時代』

09773 仁田道夫『労使関係からみる戦後という時代』(日本評論社)をお送りいただきました。今どき珍しい(戦前もちょっと入った)戦後日本労使関係史の大冊です。

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/9773.html

大小様々な戦後労働運動の実相をつぶさに描写する。歴史のはざまに揺れ動いた人びとに光をあて、記憶にとどめる労使関係史の新たな形。

目次は下にコピーしますが、大きく第1部の「戦後という時代の労使関係史をたどる」と第Ⅱ部の「列伝」にわかれ、司馬遷の史記のごとく、通史プラス事件史の「本紀」と労使関係に関わる人物伝の「列伝」からなる史書のスタイルとなっています。

両者はもちろん絡み合っており、例えば、第Ⅰ部第3章第5節の「「外組」の旗を掲げて——生命保険営業職員労働運動の出発」と、第Ⅱ部第3章第3節の「小林中」の「3 富国生命外務従業員組合役員解雇をめぐる労使紛争」とが響き合っています。

1214_21 ちなみに、この生保営業職員の話は、ちょうど先日読んだばかりの金井郁・申琪榮『「生保レディ」の現代史 保険大国の形成とジェンダー』(名古屋大学出版会)のテーマとも響き合っています。こちらも面白いのでどうぞ。

https://www.unp.or.jp/ISBN/ISBN978-4-8158-1214-0.html

さて、労使関係がすっかり人気がなくなり、まともな労使関係の歴史の本がほとんどなくなった現在、第1部の通史や事件史もとても貴重ではありますが、やはり本書の真骨頂、これぞ仁田先生の仁田節全開というべきは第Ⅱ部の列伝でしょう。

この人選が何とも渋い。おそらく、労働関係者でも、ここに出てくる計31人のうち、半分でも知っていれば上等ではないでしょうか。

労働運動家たち13人のうち、誰でも知ってるのはたぶん高野実くらいでしょう。滝田実や太田薫はいろんなところに顔を出すけれども、一節を充てて論じられてはいません。でも、そういう無名の労働運動家たちの活動の上に戦後労使関係が築かれていったということがわかります。

ちなみに、その労働運動家の中に、誰でも名前を知っているけれども、労働運動家としては全く認識されていないある女優の名前があります。第Ⅱ部第1章第6節「水の江瀧子と飛鳥明子」の水の江瀧子です。実は彼女は戦前松竹でストライキを先導してるんですね、

この松竹の「桃色争議」については、ちょうどNHKの朝の連続テレビ小説で「ブギウギ」をやっていたころに、本ブログでも取り上げたことがあります。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2023/10/post-120fc7.html

朝の連続テレビ小説「ブギウギ」は、いよいよ桃色争議が佳境に入っていくようですが、そういえば2年前に紹介した『日本人の働き方100年 定点観測者としての通信社』に、この桃色争議の写真があったのではないかと思い出しました。

テレビでは「梅丸少女歌劇団」となっていますが、もちろんこれは現実に存在した松竹少女歌劇団のことです。この少女たちが、1933年(昭和8年)に起こしたのが、有名な桃色争議です。

『日本人の働き方100年 定点観測者としての通信社』に載っているこの写真は、東京の水ノ江滝子を中心とする争議団で、大阪の三笠静子(テレビでは福来スズ子)らが参加したものではありませんが、でも当時の争議の雰囲気が良く伝わってきます。

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経営者たちも、前田一とか森田良雄とか実に興味深い人を取り上げてくるし、行政関係者でも松崎芳伸とか賀来才二郎とか、ほんとに興味をそそられる。実は、『労働法政策』を書くときに、賀来才二郎の『ふていのやから』を読んで、京大哲学科を出て神戸市役所でハロワ業務をやってた人が中労委事務局に入り込み、労政局長として1949年改正と1952年改正に携わるという、おそらく戦前にも戦後にもありえないような疾風怒濤時代ならではのキャリアに感心したことを思い出しました。

20240111131312908206_6b5b6f0c84a354a638e 最後の源氏鶏太がなぜ出てくるのか?今やこれも絶滅危惧種のサラリーマン小説の始祖たる源氏鶏太の出世作『三等重役』こそが、戦後日本のサラリーマンの出世の先の存在としての経営者が支配する戦後日本型コーポレートガバナンスをその出発点において描き出したものだからなんですね。

実は、かつて海老原嗣生さんの雑誌『HRmics』に連載していた「原典回帰」の、『働き方改革の世界史』にまとめた後に第36号に寄稿した「経済同友会企業民主化研究会編『企業民主化試案』」において、この源氏鶏太の『三等重役』をちょびっと引いたところがありました。

https://hamachan.on.coocan.jp/hrmics36.html

1 労働攻勢の中の三等重役たち
 さて、その新装開店の第1回目に取り上げるのは、終戦直後の1947年に刊行された経済同友会企業民主化研究会編『企業民主化試案』です。経済同友会という団体は今日も存在しており、経団連とは一味違った立場からいろいろと提言活動を行っていますが、もともとは、終戦直後の激動の中で、若手経営者たちの自発的な集まりとして出発した団体です。その背景事情からみていきましょう。
 敗戦とともに労働運動は解放、助成され、労働組合は燎原の火のように広がりました。しかしながら、その労働組合は産業別でもなければ職業別でもなく、企業ごとにホワイトカラー職員とブルーカラー労働者を包含した組織として誕生したのです。これらの特性は戦時中の産業報国会が持っていたものでした。戦後の企業別組合は、いわば産業報国会の主導権を労働運動が握る形で形成されたと言えます。
 この頃、労働争議戦術として生産管理闘争が注目されました。生産管理とは、労働組合が経営者に代わって生産を再開し、自主的に生産業務を管理するものです。思想的には戦前の自主的工場委員会に連なるものと言えますが、背景としては企業が生産サボタージュを行っているため、ストライキが有効な争議戦術とならなかったことがあります。経営者に代わって労働組合が戦後の生産復興に当たるのだという誇りもあったようです。なによりも、ごく少数の経営幹部を除き、経営実務に当たってきたホワイトカラー職員がこぞって労働組合に参加したため、生産管理が現実に可能となったことが重要でしょう。その意味で、これは過激な形態の経営参加の試みであったとも言えます。
 一方、恒常的な経営参加のメカニズムとして、多くの労働組合は労働協約により経営協議会を設立し、労働条件のみならず、人事、経理や経営方針まで協議の対象としていきました。1946年には政府の諮問により中労委が「経営協議会指針」を答申し、労働組合の半数近くが経営協議会を設置していました。
 これに対し、労働運動に肩入れしていたGHQは、戦争に協力してきた経営者には大変厳しい姿勢で、財閥解体で大企業を分割したうえに、財界人の公職追放で経営陣の相当数をその職からパージしたのです。その結果、どの会社でも社長以下重役連は追放され、代わって上級管理職、場合によっては中級管理職だったようなホワイトカラー職員たちが、空いた重役ポストにはめ込まれたのです。彼らを人呼んで三等重役と言いました。ちなみに、源氏鶏太のその名も『三等重役』(新潮文庫)という小説では、社長が公職追放されたため総務部長から社長になってしまった主人公の桑原が浦島人事課長とともに社内の事件を解決していきますが、似たような状況は当時の日本のあちこちに見られたのでしょう。
 まさにそういう三等重役たちが結成したのが、話は戻りますが経済同友会だったのです。その設立趣意書では、自分たちを「中堅経済人」と称しています。戦前来の資本家たる経営者とは異なり、経営管理という技能でもって企業に貢献する大学卒のホワイトカラー職員という自己イメージを持った人々が、敗戦という社会の激変の中で経営者という立場に置かれたときに、彼らがどういうイデオロギーを発信することになったのか、それが今回紹介するこの本を理解するうえで不可欠な歴史認識です。
 この敗戦直後の時期は、激しく対立しぶつかり合っている労働組合と経営側の両方ともにおいて、(ブルーカラー労働者と資本家という)戦前来の主力選手がやや後方に退き、どちらもホワイトカラー職員がその知識と能力を振り絞って活躍していた時代だったのです。・・・・・
 
6 企業民主化試案は戦後日本社会の設計図か?
 ここまで『企業民主化試案』と題された70年以上も前の本の中身を紹介してきました。前述したように、そのあまりの急進さゆえに、経済同友会の名で刊行することもできず、あくまで大塚万丈を始めとする経済同友会企業民主化研究会の意見として出すしかなかったものですし、大塚自身がその直後の1950年に死去したこともあり、その後はほとんど忘れ去られ、議論にのぼせられることもなく推移してきました。もし連綿と切れ間なく読み継がれてきた本を古典と呼ぶのであれば、本書はいかなる意味でも古典の名に値しません。大きな図書館の閉架書庫の奥の、誰もそこまで入ってこないような埃だらけの一角にひっそりと眠っている膨大なロングテールの一冊に過ぎません。
 しかしながら、刊行物としては長らく忘れられてきたものであっても、そこに書かれた思想という観点で見れば、ある意味で戦後日本社会の根本思想を打ち立てたものということもできるかもしれません。いや、本書が提起した法律面における会社のあり方については、明治時代に作られた民法や商法の基本構造は何ら変わりませんでした。戦後75年間、会社とはそのメンバーである株主の所有物であり、経営者とは株主の代理人として利潤の最大化に挺身すべきものであり、労働者とは会社の外部の第三者であって、雇用契約によって労働を提供し報酬を受け取る債権債務関係にあるに過ぎません。累次の労働法もこの基本構造を何ら変えるものでないということは、拙著『日本の雇用と労働法』(日経文庫)で口が酸っぱくなるほど説明したところです。
 でも、私が同書でなぜ口が酸っぱくなるほどそれを説明しなければならなかったのかといえば、世の中の圧倒的に多くの人々が、そういう実定法の建前を全く認識せず、労働者こそが会社のメンバーであり(私のいう「メンバーシップ型」)、株主こそ会社にとって外部の第三者だと思い込んでいたからでした。そう。『経営民主化試案』という本は忘れられても、そのイデオロギーはすべての日本人の頭の中を支配するミームとなったのです。
 会社法上は戦後一貫して株主総会こそが会社の最高意思決定機関でしたが、現実の日本社会においては、株主総会というのは余計な文句を言わせずにしゃんしゃんで済ませるべきものであり、そのためには総会屋という私的暴力装置を使ってうるさい株主を黙らせることが暗黙の規範となっていました。一方で、何ら法律上の根拠規定のないまま、労働者は「企業における主体としての地位を占めるに至」ります。株主には常に保障される基本配当などない一方で、労働者には利潤分配的性格のボーナスが拡大していきます。こういう姿を見て、1987年に経営学者の伊丹敬之が唱えたのが「人本主義企業」という概念でしたが、そのミームは実は終戦直後の大塚万丈に淵源していたのです。
 そして、前項で見た労働組合の位置づけこそが、大塚構想に近い形で企業のインサイダーになってしまった日本の企業別組合の置かれた苦衷を予言するものになっていることも見逃せません。現実の企業が資本家の支配するものであり、労働者の利益を重視しないものである限り、猛烈な闘争を繰り広げていた労働組合も、その企業が株主なんかよりも労働者の利益を重視するようになると、振り上げた拳の落としどころを失います。そう、理屈の上では逃げの議論に過ぎなかったとはいえ、「よくよくの場合でない限り、罷業権の行使迄には至らないであらう」とはその後の日本社会の姿そのものであり、憲法や労働組合法に労働争議の権利が明記されていても、それは「罷業権を認むるといふことも一応最後の安全弁を残して置くといふ趣旨のものに過ぎない」ものとなっているのです。
 ここまで見てくると、『企業民主化試案』こそ戦後日本社会の設計図であったといえるのではないでしょうか。   
というわけで、あまりにも膨大な本書のうちのごく一部しか紹介できませんが、今どきこんな600ページを超える労使関係史の大冊をじっくり読める機会はほとんどないでしょうから、是非興味を持ったところからでも読むことをお勧めします。

第Ⅰ部 戦後という時代の労使関係史をたどる

第1章 戦後の始まり

 第1節 改革と希望
 第2節 鉄鋼業における単位労働組合の成立
       ——戦前運動経験との関り


第2章 戦前の経験をふりかえる

 第1節 戦前期における労働運動の形成
 第2節 団体交渉権を求める——1921年の闘い
 第3節 ILO創設と労使の対応
 第4節 京浜小唄と『鶴鉄労働運動史』


第3章 戦後直後期——改革と動乱の中で

 第1節 「完全雇用」を求める――1946年の海員争議
 第2節 戦後直後期における労働運動の形成と展開
 第3節 中労委争議調整史談
 第4節 日本共産党が揺れうごく——団体交渉権をめぐって
 第5節 「外組」の旗を掲げて
       ——生命保険営業職員労働運動の出発


第4章 占領政策の転換

 第1節 占領政策転換と戦後直後型労働運動の解体
 第2節 昭和24年労組法改正過程
 第3節 昭和24年労組法改正と協約交渉
       ——日本油脂の事例


第5章 1950年代——模索とその帰結

 第1節 労働運動の再生と定着——1950年代の労働運動
 第2節 総評労働運動の旗手・炭労の光と影
 第3節 近江絹糸争議と争議調停
 第4節 生産性向上運動と中山伊知郎
 第5節 三池争議異聞
 第6節 職人の組織化


第Ⅱ部 列伝

第1章 戦前派労働運動家たち

 第1節 高野実
 第2節 辻井民之助
 第3節 井堀繁雄
 第4節 鶴五三
 第5節 津脇喜代男
 第6節 水の江瀧子と飛鳥明子


第2章 戦後派労働運動家たち

 第1節 原田鼎と磯田一吉
 第2節 蔀充
 第3節 桂あや子
 第4節 馬場大静
 第5節 森勝治


第3章 経営者たち

 第1節 前田一
 第2節 森田良雄
 第3節 小林中
 第4節 櫻田武


第4章 労働省と中労委事務局

 第1節 冨樫総一
 第2節 松崎芳伸
 第3節 賀来才二郎
 第4節 馬淵威雄
 第5節 中島徹三
 第6節 林田丁介
 第7節 北村久寿雄
 第8節 花井寔
 第9節 庵谷磐
 第10節 林芳郎
 第11節 渡会春枝


第5章 学者と小説家

 第1節 末弘厳太郎
 第2節 氏原正治郎
 第3節 源氏鶏太

 

 

 

2026年9月 4日 (金)

時間外休日労働削減の一律指導の見直し

去る8月19日に、厚生労働省が時間外休日労働について、1か月45時間以内への削減を求める一律の指導を見直すと発表したことについて、メディア上で批判が続いています。

時間外労働等に係る相談・支援及び監督指導を見直します

(社説)残業指導見直し 長時間労働 是正に逆行

連合も、翌日の記者会見で批判しています。

記者会見 2026年8月20日

ただね、労働組合は他人事みたいに批判して済ませられないんじゃないかという気もします。

釈迦に説法ですが、時間外休日労働協定を締結するのは過半数組合又は過半数代表者です。

労働組合じゃない過半数代表者の場合、その時に協定を結んで労基署に提出するだけで、そのあと特別条項に基づいて月45時間を超えるような長時間労働が本当に特別の例外的な状況でのみ行われることを担保するような権限がそもそもありません。協定と言いながら、締結当事者の一方にそれを守らせるような能力がそもそも法律上存在しないのですから、その代わりに労基署がややパターナリズム的にしゃしゃり出て、原則はここまでなんだから、と一律の指導をするのにも、それなりの理由があったのだと思います。

もちろん、使用者側から見れば法律上許されていることに四の五の文句をつけてきてうざいというのはよく理解できますが、とはいえ、恒常的に社内の時間外休日労働を見張ることができるはずの労働組合が存在せず、必要な時に協定にサインさせたらそれで好きにできるようなところには、原則と例外ということを外側から思い出させる仕組みが必要であるのも確かでしょう。

この問題は、労使協定を締結した瞬間に御用済みになってしまい、その協定の趣旨をちゃんと見張り続けることができない労働組合ではない過半数代表者という存在の問題点を露わにする問題でもあり、そこから従業員代表制の議論につながっていく話でもあるんですが、それはひとまず置いておいて。

で、問題は、自ら結んだ労使協定を、組織的に恒常的に見張り続けることができ、その趣旨に反した会社の運用に対してちゃんと文句をつけることができるはずの労働組合が、今回の一律指導をやめる話に対してあんまり人ごとみたいな批判をするのは、いかがなものか、いやそれをやるべきは、まずは労働組合でしょ、という話にならないの?ということなんですね。

なんだかそういう観点からの論評が見当たらないのは、そもそも労働組合がそんなことをやるなんて期待されていないからなのか、いずれにしても、なんだか割り切れない感が残ります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2026年9月 2日 (水)

労働者供給事業実施組合 116組合@『労務事情』9月1日号

F21fb4dacaf140299cc382bea368e9a4 『労務事情』9月1日号に「労働者供給事業実施組合 116組合」を寄稿しました。

https://www.sanro.co.jp/book/b10203639.html

◎数字から読む 日本の雇用 濱口桂一郎
 第49回 労働者供給事業実施組合 116組合

 

2026年9月 1日 (火)

『スキルとデキル』(角川新書)が届きました

奥付の発行日は9月10日ですが、既に刷り上がった拙著『スキルとデキル 「能力」から見る近現代労働史』(角川新書)が届きました。

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日本に蔓延する、デキル(潜在能力)重視の淵源

日本において近代的なスキル重視の発想がなかなか根付かず、
デキル重視の思想が依然として根強いのはなぜか。
“ジョブに対応したスキル”を唱導する政策がうまくいかないのはなぜか。
徒弟制から、技能者養成、公共職業訓練、企業内教育訓練、OJT、そしてリ・スキリング……
労働政策研究の第一人者が「能力」の歴史をたどり、日本に蔓延するデキル重視の淵源を探る。

はじめに

第1章 産業革命期の職業教育訓練――徒弟制から技能者養成へ
 1 徒弟制の展開
 2 徒弟制の法規制
 3 実業教育の展開
 4 技能者養成の展開
 5 職業補導の始まり
第2章 戦時・改革期の職業教育訓練――企業で技能者を養成せよ!
 1 技能者養成の法規制
 2 職業補導の展開
 3 実業教育から職業教育へ
 4 技能評価制度
第3章 近代主義の時代の職業教育訓練――技能は今や国政課題に
 1 職業訓練法による統一
 2 企業内技能教育訓練体制の確立
 3 職業教育の展開
 4 国政課題としての職業教育訓練
第4章 企業主義の時代の職業教育訓練――技能よりも「能力」が大事!
 1 政策の大転換
 2 企業中心の職業能力開発政策
 3 公共職業訓練と技能検定
 4 職業教育の低迷
第5章 市場主義の時代の職業教育訓練――自己啓発からリ・スキリングへ
 1 政策の再転換
 2 「自己啓発」の時代
 3 職業教育の復活
 4 公共職業訓練の諸相
 5 キャリア形成支援と教育訓練助成金
 6 職業能力評価制度の紆余曲折
 7 今さらながらのリ・スキリング
補 章 諸外国の職業教育訓練
 1 イギリス――ギルド徒弟制から現代徒弟制へ
 2 フランス――企業研修の光と影
 3 ドイツ――世界に冠たるデュアルシステム
 4 アメリカ――コミュニティカレッジとプロフェッショナルスクール
終 章 日本社会を支配する「能力」概念

おわりに

ちなみに、多分この本、新書で読める近代日本職業教育訓練史としては、恐らく唯一ではないかと思います。そういう読み方をしてくれる方がどれだけいらっしゃるかは分りませんが。

 

2026年8月27日 (木)

有斐閣Onlineロージャーナルに「解雇紛争の現状」を寄稿

有斐閣Online

有斐閣が紙媒体の『ジュリスト』等以外に、電子媒体の『Onlineロージャーナル』というのを発行していて、「特集/裁判外の労働紛争解決手続――労働審判20年を契機に」という特集を組んでいますが、そこにわたくしも「解雇紛争の現状」という小論を寄稿しております。

https://yuhikaku.com/list/lawjournal

 労働審判制度の運用開始から、今年で20年を迎える。そのことを契機に、本特集では、労働審判をはじめとする裁判外の労働紛争解決手続とともに、労働基準監督制度や企業内での調査といった広い意味での労働紛争解決システムを取り上げ、その運用状況を紹介し、現場における課題について検討を加える。あわせて、解雇紛争に対してどのような解決手続がとられているか、実情を分析し、労働紛争解決のあり方について広く展望する。

○山川隆一「特集にあたって」
○佐々木亮「労働審判――労働者側から」
○中山達夫「労働審判――使用者側から」
○國武英生「労働委員会の意義と課題」
○師子角允彬「労働局による紛争解決手続の運用実務、手続特性を踏まえた活用方法、現状の課題」
○森井博子「労働基準監督官と紛争の解決・予防」
○今津幸子「企業内調査」【後日公開予定】
○濱口桂一郎「解雇紛争の現状」

https://yuhikaku.com/articles/-/58413

 戦後裁判所の判決の積み重ねにより確立した解雇権濫用法理は現在労働契約法16条に書き込まれているが、立法過程で議論された解雇の金銭救済制度については、過去20年以上にわたって議論が続けられているが、なお結論が得られていない。
 本稿は筆者の所属するJILPT及び東京大学社会科学研究所においてこの間実施されてきた解雇や雇止め(解雇等)に関する紛争の実態に関する調査研究の概要を紹介するものである。具体的には、労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における労働者の属性、企業の属性、事案の内容、解決内容と解決金額等の調査に加えて、解雇無効判決後における復職状況や解雇等に対する労働者の意識も調査している。

はじめに
Ⅰ 解雇の金銭救済制度の検討
Ⅱ 解雇の金銭救済に関わる調査研究
Ⅲ 労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解の比較分析
 1 制度運営関係
 2 労働者の属性
 3 企業の属性
 4 事案の内容
 5 解決内容と解決金額
Ⅳ 解雇無効判決後における復職状況
Ⅴ 解雇等に対する労働者の意識
Ⅵ 今後の動向 

 

遠藤正敬『戸籍の日本史』@『労働新聞』書評

61zc1xru7zl245x400 月イチの『労働新聞』書評、今回は遠藤正敬『戸籍の日本史』(集英社インターナショナル新書)です。

https://www.rodo.co.jp/column/224749/

 去る7月17日に皇室典範が改正され、旧宮家の民間人が皇族の養子になることができることとされた。そうなるとその人は戸籍を失うことになる。天皇や皇族に戸籍はないからだ。とはいえ彼らは無戸籍者ではなく、皇統譜に記録される。
 我われ一般国民にとって、戸籍とはパスポートを作るときや婚姻届を出すときにかかわる程度だが、現住所とは関係がない。本籍を東京都千代田区千代田一番(皇居)にする人も多いそうだ。
 この戸籍とは一体何者なのか?歴史を遡り、あらゆる分野を駆け巡って戸籍の謎を解き明かすのが本書だ。
 戸籍は国籍の証明である。血統主義を採る日本では、両親のいずれかが日本人であれば日本人となる。日本人同士が結婚すると、新しい夫婦の戸籍が作られるが、国際結婚の場合は、日本人配偶者の新たな戸籍が作られるだけで、外国人と同じ夫婦の戸籍が作られるわけではない。
 かつて戸籍は「家」の証明であった。民法を起草した富井政章は「家ハ戸籍ノコトヲ云フ」と述べている。「家」は複数の夫婦を含む大家族であり、戸主はその意向に従わない家族を「離籍」させる権力を有していた。
 戸籍は徴兵の手段でもあった。しかし、「家」を重視する明治政府が戸主を徴兵の対象から外したため、他家の養子となったり分家をして戸主になる者が相次いだ。立憲政友会の総裁となる鈴木喜三郎も徴兵逃れのために檀那寺の和尚と養子縁組したという。
 また、北海道では徴兵が行われていなかったため、夏目漱石も本籍を北海道に移して徴兵を逃れている。そういうわけで、実際の居住実態を調べるために1920年に国勢調査が始まった。それでも戸籍に載ろうとせず、各地を転々と流浪するサンカと呼ばれる人々がいた。
 1872年に近代最初の戸籍として編製された壬申戸籍には、華族、士族、平民等々の身分や前科も記載されていた。被差別部落民は「新平民」と記載され、これがその後さまざまな差別の手段として用いられることになる。かつては戸籍は公開制であり、誰でも謄本、抄本を入手できたのだ。また、婚外子や庶子も明示されており、プライバシーは筒抜けであった。
 北海道や琉球は内地として戸籍が作成されたが、台湾と朝鮮では扱いが異なった。日本国民でありながら、日本人とは異なる戸籍制度が適用されたのである。その矛盾が露呈したのが終戦後の外国人登録令で、内地戸籍か外地戸籍かによって日本人と外国人の線引きが行われた。そのため、朝鮮人と結婚して朝鮮戸籍に入った内地人女性は日本国籍を否定されることとなったのである。
 『犬神家の一族』や『サザエさん』もフルに駆使して、日本独特の戸籍制度の問題点を摘出する本書の著者は、アニメやコンカフェ、地下アイドルをこよなく愛する自称「さすらいの非常勤講師」だそうだ。碌な業績のない教授が居並ぶ一方で、こういう有能な研究者が定職に就けない矛盾を感じさせる一冊でもある。

2026年8月25日 (火)

〈特集〉裁判外の労働紛争解決手続――労働審判20年を契機に@有斐閣Online

https://x.com/yuhikaku_online/status/2092160131094245381

【予告】有斐閣Onlineにて、
「〈特集〉裁判外の労働紛争解決手続――労働審判20年を契機に」が、8月27日(木)に公開予定です!

[特集掲載予定記事]
○山川隆一「特集にあたって」
○佐々木亮「労働審判――労働者側から」
○中山達夫「労働審判――使用者側から」
○國武英生「労働委員会の意義と課題」
○師子角允彬「労働局による紛争解決手続の運用実務、手続特性を踏まえた活用方法、現状の課題」
○森井博子「労働基準監督官と紛争の解決・予防」
○今津幸子「企業内調査」【後日公開予定】
○濱口桂一郎「解雇紛争の現状」
の計8本の特集です。

今年で労働審判制度は、運用開始から20年を迎えます。そこで、本特集では、労働審判をはじめとする裁判外の労働紛争解決手続や、労働基準監督制度といった広い意味での労働紛争解決システムを取り上げ、その運用状況や現場での課題、紛争解決の実情についてご検討いただきます。
労働紛争解決のあり方について広く展望する特集となっていますので、ぜひご期待ください!

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マシナリさんの拙著評

Chukogaikoku_20260825132801 以前から拙著を丁寧に書評してきていただいているマシナリさんが、ひさしぶりにブログを大幅に更新されています。

新たに4件エントリを書かれていて、うち3件は海老原嗣生さんの本ですが(『静かな退職』『就職氷河期世代論のウソ』『外国人急増、日本はどうなる』)、残りの1本は拙著『外国人労働政策』でした。

日本型雇用システムとの葛藤によって説明するという試み

まさしく拙著の狙いである「日本型雇用システムとの葛藤によって」外国人雇用政策の混迷の30年を「説明する」という試みを真正面から論じてくださっています。

そして、労働者本人ではなく労働者を雇用する企業への助成ばかり志向する考え方は今日においても厚労省では変わっていないのではないかという深刻な問いかけもされています。

私が東日本大震災後の雇用対策に奔走していた15年前の話ですが、某省から被災地の自治体に出向していた中央省庁(厚労省ではない)の官僚から「厚労省に被災者の雇用支援をお願いに行ったら、直接労働者に支援することはできないが雇用した企業への支援なら可能だと言われたので、ふざけるなとけんかしてきた」という話を聞いたことがあります。

が、マシナリさんが読みながら思わずニヤリとしたのは、一見枝葉末節に見えるこの一節だったようです。

官邸主導が確立して久しい今日の霞が関とは異なり、当時の霞が関は省庁間の権限争いが日常茶飯事でした。とりわけ、当時の通商産業省(現経済産業省)に典型的ですが、他省庁の所管分野に口出しをし、あわよくば権限を奪ってしまおうという行動様式が他の省庁にも広まりつつありました。長年入管行政に携わってきた法務省の官僚たちにとって、外国人労働問題が急に話題になったからといって、新参者の労働省がしゃしゃり出てきて権限を奪おうとしているように見えたのは当然のことかもしれません。
濱口『同』p.36

権限争いの筆頭格として突然の通産省disが繰り出されていて、それが「熱い風評被害」とか「なんでや!阪神関係ないやろ!」ではないところに微笑みを禁じ得ません。

ここは、20世紀の霞が関を経験した中高年齢者だけが分るニヤリの素が振りかけてありますので。

 

 

 

 

JILPT任期付研究員募集【労使関係・人的資源管理】【労働経済】

JILPTが労使関係・人的資源管理分野と労働経済分野の任期付研究員を募集しています。

本日からJILPTのホームページに募集要項が掲載されていますが、あまり目につかない可能性もあるので、こちらでもお知らせしておきます。

令和9(2027)年度 研究員【労使関係・人的資源管理】の採用について

応募資格

次の条件をすべて満たすこと。

  1. 募集分野に関連した研究業績を有すること。
  2. 国内及び海外の労使関係・労働事情、労働政策・制度等の実態把握およびその結果を踏まえた政策形成に関心をもち、その調査研究に継続して取り組む意欲と情熱があること。
  3. 募集分野に関連した研究領域(名称を問わず関連研究分野であるものを含む)の博士課程修了者(修了予定者、単位取得退学者を含む)または研究業績からみてこれと同等以上の能力と経験を有すると認められる者。
  4. アンケート調査又は自ら設計・実施したヒアリング調査に基づく研究業績を有すること。
  5. 日本語の報告書や論文を執筆・発表できる日本語能力を有すること。

令和9(2027)年度 研究員【労働経済】の採用について

応募資格

次の条件をすべて満たすこと。

  1. 募集分野に関連した研究業績を有すること。
  2. 労働分野の実態把握及びその結果を踏まえた政策形成に関心を持ち、労働市場や賃金の分析、企業の雇用管理や生産性の変化等に関する調査研究に継続して取り組む意欲と情熱があること。
  3. 募集分野に関連した研究領域(名称を問わず関連研究分野であるものを含む)の博士課程修了者(修了予定者、単位取得退学者を含む)または研究業績からみてこれと同等以上の能力と経験を有すると認められる者。
  4. 計量分析(計量経済学的手法による)に基づく研究業績を有すること。
  5. 日本語の報告書や論文を執筆・発表できる日本語能力を有すること。

詳しくはリンク先を。

 

2026年8月24日 (月)

いわゆる同一労働同一賃金指針の改定@『労基旬報』2026年8月25日

『労基旬報』2026年8月25日に「いわゆる同一労働同一賃金指針の改定」を寄稿しました。

 去る4月28日に、「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針の一部を改正する件」(令和8年厚生労働省告示第203号)が公布され、来る10月1日から適用されることになっています。これは、政府自ら「同一労働同一賃金」といういささかミスリーディングな名称で呼んでいるものですが、その実態はいうまでもなく短時間・有期労働者及び派遣労働者への不合理な待遇の禁止、かつての言い方で言えば「均衡処遇」のガイドラインであり、その改定版です。
 元のガイドラインができあがる経緯については、今まで著書や論文で繰り返し述べてきましたのでここでは省略しますが、今回の改定は、2018年の働き方改革関連法の附則第12条第3項に、法施行後5年を目途として「改正後の各法律の施行の状況等を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、 その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」と書かれていることに基づいて、2025年2月5日から労働政策審議会職業安定分科会・雇用環境・均等分科会同一労働同一賃金部会で審議され、同年12月25日に取りまとめられた報告に基づいて行われたものです。
 なお同日付けで、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行規則及び短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律施行規則の一部を改正する省令」(令和8年厚生労働省令第87号)と「事業主が講ずべき短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置等についての指針の一部を改正する件」(令和8年厚生労働省告示第202号)も公布されています。これらも同報告にもとづくものです。以下ではその内容のうち法政策上重要なものについて概観していきます。
 同報告には、労使間で意見が一致せず、結果的に実現しなかった項目がいくつか書かれています。そのうちいわゆる立証責任については、労働側委員が、待遇の相違を設ける使用者に相違の合理性の立証責任を課すことを法律上明確にする法改正を行うべきと主張しましたが、使用者側委員は、不合理性の立証責任は欧州の使用国と異なる日本企業の賃金制度を踏まえた仕組みであると主張し、結論としては、法的枠組を変更せず、説明義務の改善や、労使コミュニケーションの促進等を通じて、正規非正規間の不合理な待遇差の更なる是正を図ることとされました。これを受けて、上記省令改正により、パート・有期法及び派遣法に基づく雇入れ時の労働条件明示事項に、待遇の相違の内容及び理由について事業主に説明を求めることができる旨がそれぞれの法の施行規則に追加されました。さらに、雇用管理改善指針に、説明の求めがない場合であっても、労働契約の更新時等に、待遇の相違の内容と理由について容易に理解できる資料を交付するなどの対応が望ましいと書き込まれました。これも、労働側が法改正を求めていた事項ですが、部分的に指針で対応されたものです。
 今回の改定のうち、労働法政策の広い分野に関わって重要なのは、短時間・有期労働者の過半数代表者に係る規定が雇用管理改善指針に書き込まれたことです。これまでの同指針には、不利益取扱いの禁止の項に、短時間・有期労働者が過半数代表者であること、なろうとしたこと、正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしないことが書かれていただけですが、改定雇用管理改善指針では、「第三 事業主が講ずべき短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置等」に「一 短時間・有期雇用労働者の過半数を代表する者」を新設し、労基則第6条の2第1項の管理監督者でないことと投票・挙手等の方法で選出された者であって使用者の意向に基づき選出された者でないことが明記されるとともに、同条第4項の必要な配慮について、労基法の過半数代表では通達に書かれているような具体的なこと(労働者の意見集約等を行うに当たって必要となる事務スペースや事務機器の提供(イントラネットや社内メールを含む))まで指針に書き込んでいます。
 同一労働同一賃金指針の方ですが、いくつか注目すべき項目があります。まず、基本給については拙著『ジョブ型雇用社会とは何か』で論評したように、正社員と非正規労働者が同じ賃金制度の下にあることを前提としてこれはOK、これはダメと振り分けた数頁にわたる全く空疎な記述がそのまま維持されていますが、それに申し訳のように添付されていた(そこだけは内容豊富で意味のある)「注」が、前段の「通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間に賃金の決定基準・ルールの相違がある場合の取扱い」は本文の「第2 基本的な考え方」に移動され、後段の「定年に達した後に継続雇用された有期雇用労働者の取扱い」は「第3 短時間・有期雇用労働者」の基本給の前の「注」に移動されています。
 この新たな「注」は、一つ目がこれまでの通達から持ってきた「その他の事情」の取扱いで、二つ目がこの定年後継続雇用の取扱い、そして三つ目がこれは完全な新設ですが、「「通常の労働者としての職務を遂行しうる人材の確保及びその定着を図る」等の目的で待遇を行う場合の取扱い」です。これは、いわゆる「正社員人材確保論」のみをもって待遇さが不合理ではないと当然に認められるものではない旨を明確にするために書き込まれたもので、次のように述べています。
 通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間に基本給、賞与、各種手当等の待遇に相違がある場合において、その要因として当該待遇を行う目的に「通常の労働者としての職務を遂行しうる人材の確保及びその定着を図る」等の目的があったとしても、当該待遇の相違が不合理と認められるか否かは、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の他の性質及び当該待遇を行う他の目的にも照らして適切と認められるものの客観的及び具体的な実態に照らして判断されるものであり、「通常の労働者としての職務を遂行しうる人材の確保及びその定着を図る」等の目的があることのみをもって直ちに当該待遇の相違が不合理ではないと当然に認められるものではない。
 後半の賞与、各種手当、福利厚生等については、この間に出された最高裁判決(長沢運輸事件、メトロコマース事件、ハマキョウレックス事件、日本郵便(大阪)事件、日本郵便(東京)事件、日本郵便(佐賀)事件等を踏まえていろいろと書き加えられています。とはいえ、これらは本改定同一労働同一賃金指針に書こうが書くまいが、企業の人事担当者にとっては判例一覧表として既に「指針」の役割を果たしているはずです。
 一方現時点では、基本給については名古屋自動車学校事件について最高裁が高裁への差戻し判決を下してはいるものの、差戻し高裁判決はまた若干異なる議論を展開しているところであり、判例をもとに何かを書き込める段階には立ち至っていないので、「同一労働同一賃金指針」と言いながら、基本給の部分はほぼ空っぽのままという策定時の状態にはあまり変わりはないようです。その意味では、企業の人事実務者にとっては依然としてあまり役には立たない「指針」のままと言うべきかも知れません。
 この改定指針で興味深いのは、現行法では対象外である無期雇用フルタイム労働者について、「第六」を新設して一定の記述がなされていることです。これは、労働側委員から無期雇用フルタイム労働者についても、通常の労働者との間の合理的な理由のない待遇差の禁止規定を法制的に整備すべきとの意見が出されたことを受けたものです。これに対しては使用者側から、5年を超えて有期労働契約を更新することを控える作用が生じかねないとして反対意見が出され、結局同一労働同一賃金指針に「第六」を新設して対応することとされました。そこでは、「所定労働時間が通常の労働者と同一であり、かつ、事業主と期間の定めのない労働契約を締結している労働者」については、①労働契約法第3条第2項の規定により、労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとされていること。②均衡の考慮に当たっては、この指針の趣旨が考慮されるべきであること。③有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換後の労働条件の決定に当たっては、当該転換に係る有期雇用労働者と通常の労働者との間の不合理と認められる待遇の相違の有無についてあらかじめ点検し、そのような待遇の相違がある場合には 、確実に解消することが求められること等が示されています。
 なお、既に「事業主が通常の労働者と短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者との間の不合理と認められる待遇の相違の解消等を行うに当たっては、基本的に、労使で合意することなく通常の労働者の待遇を引き下げることは、望ましい対応とはいえないことに留意すべきである」との記述はありましたが、今回の改定指針では、労働側委員の強い要求を受けて、わざわざ項目を起こして、「短時間・有期雇用労働法及び労働者派遣法に基づく通常の労働者と短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者との間の不合理と認められる待遇の相違の解消等の目的は、短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者の待遇の改善であり、その目的に鑑みれば、当該待遇の相違の解消等に当たっては、通常の労働者の労働条件を不利益に変更することなく、短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者の労働条件の改善を図ることが求められる」と、かなり強めの記述がされていることが注目されます。この点は、下級審ではありますが、むしろ一定の不利益変更を容認する裁判例が出ていることを考えると、政治的メッセージ性が強い部分と言えるかも知れません。
 

 

2026年8月21日 (金)

ディスカッションペーパー26-08『過半数代表者を通じた労使コミュニケーションの成立条件に関する一考察―労働組合のない企業における労使の意見交換会の事例研究―』

Iwatuki JILPTの岩月真也さんが、ディスカッションペーパー26-08『過半数代表者を通じた労使コミュニケーションの成立条件に関する一考察―労働組合のない企業における労使の意見交換会の事例研究―』を公表しました。

https://www.jil.go.jp/institute/discussion/2026/26-08.html

これは、製造業のエイベックスという1企業の過半数代表者の活動を丹念にたどった調査研究で、1事例とはいいながら、無組合企業における過半数代表者とはどういうことをしているのか、会社側はどのように対応しているのかということを、実に詳しく教えてくれます。

従業員代表制については、2000年代に労働契約法制の関係で労使委員会が議論されたけれども不発に終わり、2010年代には主として非正規労働者の均衡処遇の問題意識でJILPT研究会報告なども出たけれど、結局働き方改革ではほとんど不発で、派遣についてだけ労使協定方式という妙なものができただけに終わってますが、2020年代には今度は労働時間法制の緩和とリンクした形で三度目の議論が盛り上がりつつあり、その先行きがどうなるかはともかく、改めて無組合企業の過半数代表者の在り方の議論が高まると思われ、その意味でも、こういう超ミクロに分け入った研究というのは、貴重だと思います。

・・・同社の意見交換会の成立条件を考察した。その結果、意見交換会は、① 過半数代表者になることによる不利益が生じないこと、② 労使がお互いの立場に立って考える姿勢を有していること、③ 協議結果を全従業員へ公開していること、④ 意見交換会を通じて従業員の処遇・労働条件等の向上が図られること、⑤過半数代表者の負担が軽減されていること、という5つの条件を満たすことによって成立することが示唆された。

本事例から得られた知見を既存研究の議論に位置づけた結果、第1に、労使がお互いの立場に立って考える姿勢の重要性は、労働政策研究・研修機構(2013)が経営資源性を生み出す労使コミュニケーションの要件として提示した、労使の「相互尊重」と一致する見解であった。

第2に、同社の意見交換会は「習熟効果」(日本労働研究雑誌編集委員会 2004)および「成熟」・「深化」(加藤 2004)と同様の傾向がみられたことに加え、この背後には「労使による長年の努力」もうかがえた。さらに、その労使の努力の中身とは、同社の意見交換会の成立条件の5つを満たすための、過半数代表者、社長・役員、安全総務グループ担当者の協働であるという解釈を提示した。

第3に、過半数代表者が従業員の意見集約を行っている理由として、一定の時間外労働が発生している(労働政策研究・研修機構 2025)というだけでなく、その他様々な要望が存在するためであること、および先の意見交換会成立のための5つの条件が満たされているためであるとの解釈を提示した。

第4に、過半数代表者の選出に関する議論については、過半数代表者の選出手続きを適正化したうえで、過半数代表者を通じた処遇・労働条件等の変更が可能となる労使コミュニケーションの確保を図るという方向だけではなく、過半数代表者を通じて処遇・労働条件等の変更が可能となる労使コミュニケーションを確保したうえで、過半数代表者の選出手続きの適正化を図るという方向もありうるとの示唆を提示した。

 

 

 

 

2026年8月20日 (木)

『スキルとデキル』(角川新書)は9月初めに刊行予定です

拙著『スキルとデキル 「能力」から見る近現代労働史』(角川新書)は9月初めに刊行予定です

https://www.kadokawa.co.jp/product/322511000924/

日本に蔓延する、デキル(潜在能力)重視の淵源

日本において近代的なスキル重視の発想がなかなか根付かず、
デキル重視の思想が依然として根強いのはなぜか。
“ジョブに対応したスキル”を唱導する政策がうまくいかないのはなぜか。
徒弟制から、技能者養成、公共職業訓練、企業内教育訓練、OJT、そしてリ・スキリング……
労働政策研究の第一人者が「能力」の歴史をたどり、日本に蔓延するデキル重視の淵源を探る。

322511000924322511000924_02
はじめに

第1章 産業革命期の職業教育訓練――徒弟制から技能者養成へ
 1 徒弟制の展開
 2 徒弟制の法規制
 3 実業教育の展開
 4 技能者養成の展開
 5 職業補導の始まり
第2章 戦時・改革期の職業教育訓練――企業で技能者を養成せよ!
 1 技能者養成の法規制
 2 職業補導の展開
 3 実業教育から職業教育へ
 4 技能評価制度
第3章 近代主義の時代の職業教育訓練――技能は今や国政課題に
 1 職業訓練法による統一
 2 企業内技能教育訓練体制の確立
 3 職業教育の展開
 4 国政課題としての職業教育訓練
第4章 企業主義の時代の職業教育訓練――技能よりも「能力」が大事!
 1 政策の大転換
 2 企業中心の職業能力開発政策
 3 公共職業訓練と技能検定
 4 職業教育の低迷
第5章 市場主義の時代の職業教育訓練――自己啓発からリ・スキリングへ
 1 政策の再転換
 2 「自己啓発」の時代
 3 職業教育の復活
 4 公共職業訓練の諸相
 5 キャリア形成支援と教育訓練助成金
 6 職業能力評価制度の紆余曲折
 7 今さらながらのリ・スキリング
補 章 諸外国の職業教育訓練
 1 イギリス――ギルド徒弟制から現代徒弟制へ
 2 フランス――企業研修の光と影
 3 ドイツ――世界に冠たるデュアルシステム
 4 アメリカ――コミュニティカレッジとプロフェッショナルスクール
終 章 日本社会を支配する「能力」概念

おわりに

 

 

 

2026年8月13日 (木)

人手不足の正体 雇用と労働から見えた日本のかたち【濱口桂一郎】【小熊英二】

20260716134000724x1024_20260813193901 雑誌『公研』7月号に、小熊英二さんとわたくしの対談が載ったということは、先月本ブログで告知いたしましたが、

小熊英二さんとの対話@『公研』7月号

その対談記事が、公研のホームページに全文掲載されました。

https://koken-publication.com/archives/4423

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人手不足その1:人口減少

 小熊 私は、いまの日本がどうしてこういうかたちになっているのかをいろいろなテーマで研究してきました。近年はその一つとして、雇用システムの研究を続けています。

 今回は人手不足に紐付けて、濱口先生とお話ができる機会を大変光栄に思っています。

 濱口 私は厚生労働省の外郭団体である労働政策研究・研修機構で研究をしています。以前は厚生労働省の役人でしたが、労働に関わる政策研究という観点で研究、執筆活動をするようになり、そのうち政策自体がいわゆる左右のイデオロギーとは違う観点で変化していると感じ、そこを掘り下げていくうちに雇用システムのあり方についての研究に行きつきました。もちろん今も政策研究という観点からもアプローチをしており、気がつくと20年ぐらい労働研究をしています。

 小熊 国によって雇用システムが違えば、労働問題の現れ方も違う。濱口先生は3年間ベルギーにいらして、ヨーロッパと日本の労働法を比べる視点から、日本の雇用システムの特徴をずっと考えてこられました。今日は日本の働き方の仕組みがどのようなものか、そこでどんな問題が現れているのかを、人手不足という問題を通じてお話ししていきたいと思っています。

 まず私の見解を述べたいと思います。現代日本の人手不足には、三つの現れ方があると思っています。

人手不足その2:専門職

人手不足その3:新卒者の流動化

日本型雇用の限界

なぜ日本がこうなったのか

日本型雇用の適用範囲

改革の方向性と可能性

職業教育への価値観

(追記)

さすがにネット上に載ると多くの方が読みに来られるようです。

https://b.hatena.ne.jp/entry/s/koken-publication.com/archives/4423

 

 

こんな本書いたっけ?

最近書いた覚えのない本のタイトルが私の著書として出てくることが少なくないのですが、

【未来予想シリーズ】「正社員」という幻想の終焉〜メンバーシップ型雇用の崩壊と個の未来を予想しよう〜

最後の「参考文献・主要出展(?)データ」というのを見ると、

6.濱口桂一郎 (2009), 『日本の「労働」をなにで測るか』岩波書店.
7.濱口桂一郎 (2013), 『若者と労働』中公新書.

ううむ、確かに2009年に岩波新書から『新しい労働社会』という本を出した覚えはありますが、『日本の「労働」をなにで測るか』なんて本は全く記憶にございませんが、どんな内容なんでしょうか?そもそも「労働」を測るってどういう意味なんだろう。自分が書いたことになっているだけに、やたらに興味をそそられますね。

なお、確かに2013年に中央公論社から『若者と労働』を出しておりますが、残念ながらあの深緑色の重厚な中公新書ではなく、薄い浅緑色の軽薄っぽい中公新書ラクレの方なんですね。まあ、これは誤差の範囲内かも知れませんが。

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