EUのプラットフォーム就業者保護規則案@『労基旬報』2018年6月25日号

『労基旬報』2018年6月25日号に「EUのプラットフォーム就業者保護規則案」を寄稿しました。

 ここ数年、世界的にAIやIoT、プラットフォームやクラウドといった新技術による新たな産業構造の到来(第4次産業革命)がホットなテーマになっています。その中で、労働のあり方も激変するのではないか、それに対してどう対応すべきかということが、法学、経済学、社会学など分野横断的に熱っぽく議論されています。これに対して日本では、事態の進展もそれに関する議論の展開もやや遅れ気味の嫌いがありましたが、昨年来ようやく本格的な議論がなされるようになったようです。私も、総論的な解説をするとともに、とりわけEUレベルにおける政策対応の状況を解説してきました。
 その中でも、EUの行政府である欧州委員会が昨年末に提案した透明で予見可能な労働条件指令案については、『季刊労働法』2018年春号(260号)でかなり詳細に紹介しました。この指令案は主としてオンコール労働者の保護が狙いですが、指令案前文にはプラットフォーム労働者も適用対象に含まれると明記しており、いわば労働者性をプラットフォームを利用して働く人々にも広げる形で対応しようという方向性が窺われます。その後今年3月には自営業者も含めた社会保護アクセスに関する勧告案も提案され、その中には自営業者の失業保険という項目もあります。しかしここまでは労働社会政策、日本でいえば厚生労働省に当たる総局の政策イニシアティブです。
 しかし、こうした新たな就業形態は経済産業政策や競争政策の対象でもあります。日本でもここ数年間、経済産業省や公正取引委員会がこの問題に関する研究会を設け、報告書を公表してきています。同じような動きはEUでもあります。いや、日本の微温的な動きを遥かに超え、プラットフォームを利用して働く人々の保護を目指した立法提案が打ち出されるに至っているのです。今回はこの提案、「オンライン仲介サービスのビジネスユーザーのための公正性と透明性の促進に関する規則案」(Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council on promoting fairness and transparency for business users of online intermediation services)を紹介したいと思います。これは2018年4月26日に公表されたばかりのホットな話題です。
 その前にEU法について一言。私が主として紹介してきた労働法分野では、EUの立法手段としてはほとんどもっぱら「指令」が使われてきました。指令は加盟国にこういう内容の法律を作れと命ずるものですが、加盟国が立法化をサボっていれば民間企業の労働者が直接EU指令のみを根拠に訴えを起こすことはできません。それに対して「規則」は国内法に転換することを要せず、規則が施行されれば直ちにEU域内の全企業、全市民に適用されます。経済法分野では規則が用いられることが普通です。
 さて、今回の規則案の中身を見ていきましょう。いうまでもなく、本規則案には「労働者」という言葉は出てきません。オンライン仲介サービスを利用する両側の当事者のうち、消費者ではない方、つまり様々な材やサービスを提供する側のことを「ビジネスユーザー」とか「職業的ユーザー」と呼んでいます。あくまでも労働法とは別の、請負や委任といった民法や商法に基づく取引関係に入る人々について、その(「労働条件」ではない)「取引条件」の公正性、透明性を確保するための規制をかけようとしているのです。しかしその具体的な項目を見ていくと、まさに労働者の労働条件の保護のために労働契約にさまざまな規制をかけようとする労働法の発想と見事に対応していることがわかります。
 まず、透明性の向上として、オンライン仲介サービスのプロバイダーは、職業的ユーザーの就労条件が取引関係の全段階で(契約以前の段階も含め)容易に理解可能でアクセス可能なようにしなければなりません。これには事前に職業的ユーザーがプラットフォームから除名されたり資格停止される理由を設定することが含まれます。最近のプラットフォームの急拡大の中で、就業者からプラットフォームへの苦情として提起されているのがこの問題であることを考えれば、規則案の冒頭にこれが出てくるのも頷けます。プロバイダーはまた、就労条件の変更への合理的な最低告知期間を尊重しなければなりません。このあたり、労働法であれば解雇等の雇用終了や労働条件の不利益変更として議論される領域ですが、それを労働者ならざる「ビジネスユーザー」にいわば類推適用のように持ち込んでいるわけです。
 さらに、一般労働者の場合ではあまり見られない、プラットフォーム就業者特有のいくつかの問題にも本規則案は対応しようとしています。すなわち、オンライン仲介サービスのプロバイダーがビジネスユーザーの提供物の全部または一部を保留したり終了したりすれば、このプロバイダーはその理由を述べる必要があります。さらに、これらサービスのプロバイダーは(イ)そのサービスを通じて生み出されたいかなるデータが誰によっていかなる条件下でアクセスされるか、(ロ)職業ユーザーによって提供されたものと比べてプロバイダーの財やサービスをいかに取り扱うか、(ハ)職業ユーザーによって提供された生産物やサービスのもっとも望ましいレンジや価格を求める契約条項を用いるか、に関する一般方針を定式化し公表しなければなりません。最後に、オンライン仲介サービスとオンライン検索エンジンは検索結果において財やサービスがいかにランク付けされるかを決定する一般基準を設定しなければなりません。これらは直接労働者の場合に対応するものではないように見えますが、やや広く捉えれば、労働者の成果の評価や処遇の公正性といった諸問題に対応すると見ることもできます。近年急速に発達したアルゴリズムを用いた評価システムの問題はこれから労働者の評価や処遇にも大いに関わってくる可能性がありますが、プラットフォーム就業者はいわば一足先にその世界に入り込んでいるわけです。
 労働者についても紛争処理システムの整備が重要課題であるように、これらプラットフォーム就業者についても効果的な紛争解決が図られる必要があります。本規則案は、オンライン仲介サービスのプロバイダーが社内に苦情処理制度を設置しなければならないと定めるとともに、裁判外紛争解決を促進するため、すべてのオンライン仲介サービスのプロバイダーは、その就労条件において紛争解決に信義をもってあたろうとする独立かつ資格を有する仲裁人のリストを示さなければならないとしています。さらに話を広げ、業界としての対応策を求めています。すなわち、オンライン仲介サービスの業界にそのサービスから生じる紛争を取り扱う専門の独立仲裁人を設置することを求めているのです。最後に、EUレベルにこの問題を担当する機関を設置するとも述べています。
 確認しますが、これは労働政策としてではなく、経済産業政策として打ち出されたものです。しかしその問題意識は、弱い立場の労働者を保護するために労働法が試みてきた様々な手段と相似的な手法を、プラットフォーム就業者というこれまた経済的に弱い立場の人々を保護するために講じようとするものとなっており、今後世界的にますますプラットフォーム経済、シェアリング経済が発達していく中で、一つの参考資料として注目に値するものと思われます。

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建設業の労務下請と派遣請負基準

もちろん、もともと建設業の重層請負構造は労務下請であり、実のところは職安法施行規則4条や派遣請負基準告示で言うような厳密な意味でのご立派な請負とは言いかねるものであることは、関係者であれば重々承知の上での話だったのではあるのでしょうが、それを形式的にでも覆い隠す格好をしていたのすら、もうそんなことを気にかけている余裕はないということなのでしょうか。

国土交通省の中央建設業審議会・社会資本整備審議会産業分科会建設部会基本問題小委員会に、去る5月28日に出された資料の中に、

http://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/totikensangyo13_sg_000137.html

http://www.mlit.go.jp/common/001236202.pdf(資料3 現場技術者配置要件の合理化について)

今は重層請負のどんな孫請でもひ孫請でも主任技術者を置かなければいけないのですが、実際は労務下請なんだから、そんなの置かなくてもいいことにしようじゃないか、と。

【下請企業の技術者配置要件の合理化について】
○ 下請の重層化の中には技能者の不足分を賄うために行われているものがあるが、そうした場合も全ての建設業者は技術者の配置が必要。このうち一定の限られた工種の中で行われているものについては、施工の管理が限られた範囲にとどまるため、上位下請企業の主任技術者が行う施工管理の下で下位下請企業も含め適切に作業を進めていくことで適正な施工は確保できる場合があるのではないか。
⇒ こうした場合には下請企業の主任技術者の配置を不要とすることが可能ではないか。

Kensetu

建設業法には、

(主任技術者及び監理技術者の職務等)
第26条の3 .主任技術者及び監理技術者は、工事現場における建設工事を適正に実施するため、当該建設工事の施工計画の作成、工程管理、品質管理その他の技術上の管理及び当該建設工事の施工に従事する者の技術上の指導監督の職務を誠実に行わなければならない。
2.工事現場における建設工事の施工に従事する者は、主任技術者又は監理技術者がその職務として行う指導に従わなければならない

どうせ労務下請なんだから、自分のところで主任技術者なんか抱えさせないで、ちゃんとした1次下請の主任技術者の指導監督に委ねろ、と。

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『経営法曹』197号

『経営法曹』197号をお送りいただきました。ありがとうございます。

例年通り「年間重要判例」の検討がされていますが、必読の論説は丸尾拓養さんの「変わりゆく雇用システムと雇用法理の再評価-持続する最高裁判決」です。

50年前の秋北バス判決、40年前の三菱樹脂判決、30年前の日立メディコ判決と、日本型雇用システムを明示黙示に前提として構築された日本型労働判例が、いま「同一労働同一賃金」「働き方改革」という本来的にはそれと矛盾する政策との間できしみを立てている姿をさらりと描き出しています。

・・・「同一労働同一賃金」は「違う労働違う賃金」の世界である。これまでの正社員の職能給は「違う労働(ほぼ)同一賃金」であった。そこでの「職能」という緩衝装置はフィクションでありながら、高度成長、安定成長の時代に相応する賃金及び人事制度の基盤であった。最高裁はこのことをよく理解していた。・・・

と、秋北バス事件の判決を引用して、

・・・ここには、多数の労働契約関係を同じように扱うことが含意されている。「多様」に扱うのではない。「集合的・統一的」処理、「統一かつ画一的」決定の主たる対象は、「違う労働(ほぼ)同一賃金」の正社員である。・・・

そう、最高裁が確立した就業規則法理の根幹は、まさに「同一労働同一賃金」=「違う労働違う賃金」とは別世界の「違う労働(ほぼ)同一賃金」を大前提とするものであったのですね。

そして、正社員という身分に基づく「違う労働(ほぼ)同一賃金」の論理的対偶がやはり身分の違いに基づく「同一労働(であっても)違う賃金」である以上、今日の同一労働同一賃金論が職能給システムとその論理の最も深い次元で矛盾するものであることも確かなのでしょう。

本論文の最後はこう締めくくられています。

・・・長期雇用システム下の労働契約関係は家制度に代替するものであったのかも知れない。近代企業における集合的・統一的・画一的に扱われた正社員という「身分」は、経済的にも社会的にも受入れられた。何よりも日本の働く個人に、家族に受入れられた。・・・

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『情報労連REPORT』6月号

De7izynuwaaixni『情報労連REPORT』6月号をお送りいただきました.特集は「ハラスメントのない職場へ」です。

http://ictj-report.joho.or.jp/special/

男女平等参画社会の実現へ ハラスメントなき社会を実現しよう 野田 三七生情報労連中央執行委員長

相手は嫌でもにっこり笑っている セクハラの本質を知ろう 牟田 和恵大阪大学教授

[覆面座談会]職場のセクハラの実態は?「それセクハラですよ」と言えない女性社員のホンネ 

「いじり」が社員を苦しめる 背景にある職場の「モノカルチャー」 中野 円佳フリージャーナリスト

女性議員の比率が上がれば 多様な声が身近な暮らしに反映される 竹井 ようこ小平市議会議員

「#MeToo」から「#WeToo」へ ハラスメントのある社会の一員でいいですか? 大澤 祥子一般社団法人 ちゃぶ台返し女子アクション代表理事/#WeTooオーガナイザー

「男の絆」から生まれるセクハラ  「ホモソーシャル」を知っていますか 前川 直哉福島大学総合教育研究センター 特任准教授

セクハラ相談担当者が知っておきたい 相談対応のポイント 新村 響子弁護士

セクハラ対策の次の展開は? セクハラ禁止規定と行政救済機関の創設を 内藤 忍独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)労使関係部門 副主任研究員

ハラスメント法制大転換の千載一遇のチャンス 世論のうねりがカギに 井上 久美枝連合  総合男女・雇用平等局 総合局長

覆面座談会の冒頭にこういう経験談が語られます。

─セクハラを受けたことはありますか。

A あります。新入社員の時です。当時はよくわかっていませんでしたが、振り返ってみたらセクハラでした。男性上司が、若い女性だけを飲み会に誘っていました。当時はかわいがってもらっているという認識でした。でも、そのうち旅行に行こうという話になり、数人と一緒に行ったら、「一緒にお風呂に入ろう」とかいろいろ言われて。・・・

B 私もあります。20年くらい前ですが、会社の宴会の時です。若い女性にミニスカートを履かせ、お酌をさせてホステス状態。当時はセクハラという言葉が広がり始めて、その会社でも研修を受けていたのに。社長の食事会に、胸の大きい子だけが呼ばれるとか、あからさまなのもありました。・・・

最後の井上さんのインタビューでは、「ハラスメント法制大転換の千載一遇のチャンス」とまで言っているのは、先日ここでも書いたように、ちょうど今年と来年でILOで職場の暴力とハラスメントの条約が作られ、日本でも労政審で議論が進められる予定になっているからです。

・・・このように来年6月に向けて、ハラスメントに関する国内法と国際的な条約の議論が同時並行的に行われます。ハラスメント法制を大転換させるまさに千載一遇のチャンスです。来年6月のILO総会でハラスメントに関する条約が採択されれば、日本の法整備にも大きく影響します。条約採択に向けて、日本の政労使が前向きな投票行動を行うためには、世論の動向がカギとなります。連合としてはホームページでILO条約に関する特設ページをつくるなどして、情報発信を強化していきます。「#MeToo」運動などの国際的な潮流と連帯し、大きなうねりにしていきましょう。

で、特集とは別の連載で、常見陽平さんがしっかりと昔のハラスメントの話をしています。

http://ictj-report.joho.or.jp/201806/tsunemi.html(ハラスメントと組織 「昔はそれくらいあった」を超えて)

・・・さらりと昔話を書いてきたが、面白おかしく語っているつもりはまったくない。特に会社における宴会芸は、自分がする(させられる)側だったわけだが、その芸を見て傷付いた女性社員などがいるだけでなく、やっている自分もつらかった。猛烈に忙しく働きながら、業務の合間を縫って芸の練習をし、さらには職場の仲間に半裸をさらし熱演しなくてはならないのである。周りの先輩、上司からも同情の声があった。店も迷惑だっただろう。芸をさせられた私や同僚は、加害者にさせられた上、被害者でもあったのではないか。

ハラスメントについて個人の不祥事という文脈の報道が多いと感じるが、組織の問題としても捉えたい。誰もが面白くない思いをする連鎖を断ち切るにはどうすればいいかを考えたい。労働者の人権後進国からいかに脱するかを考えよう。

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『ブラック企業とのたたかい方』

370853佐々木亮・大久保修一著、重松延寿画『まんがでゼロからわかる ブラック企業とのたたかい方』(旬報社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.junposha.com/book/b370853.html

この本、こういうことを言うと佐々木亮さんがむっとするかも知れませんけど、マンガがすべてです。

重松さん描くストーリーマンガのインパクトがありすぎて、間に挟まれた解説が、ほとんど注釈になっている。

でも、おそらくだからこそ、解説中心の本では到底達し得ないくらいの説得力を一気に獲得しているのでしょう。

ちなみに、「おわりに」によると、

・・・萌え系か楳図かずお風か、絵柄をめぐる弁護士間の論争仲裁・・・

があったようですが、いやいやそんなマンガにならなくて良かった。

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骨太方針で外国人技能労働者受入れ決定

本日いわゆる骨太方針が閣議決定されたようです。

http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2018/0615/shiryo_02.pdf

すでに経済財政諮問会議に案が示されていたので、そうなるとわかっていましたが、改めて、「移民じゃない」という「呪文」を唱えながら、技能実習5年、その後の新在留資格で5年、合計10年もの長期間日本で労働者として就労しながらなおかつ「移民じゃない」外国人労働者と言い続けるのか、と思うと、海外でコミュニケートする人々がどういう言い方をするんだろうか、イミグレーションじゃないでは通用するはずもないし、まあ、国際社会で一般的に言われるイミグレーションではあるけれども、日本語の「イミン」じゃないというのでしょうか。

という入り口論をとりあえず横において中身を見ると、ちょっと気になったのがこの項目です。

④ 有為な外国人材の確保のための方策

有為な外国人材に我が国で活動してもらうため、今後、外国人材から保証金を徴収す るなどの悪質な紹介業者等の介在を防止するための方策を講じるとともに、国外におい て有為な外国人材の送り出しを確保するため、受入れ制度の周知や広報、外国における 日本語教育の充実、必要に応じ政府レベルでの申入れ等を実施するものとする

この「悪質な紹介業者等の介在を防止するための方策」って、具体的にどういうことを想定しているんでしょうか。本気でやろうとすると、登録制にして、悪質なことをやったのは登録取消というくらいにしないと、なかなか聞かないでしょうし。

も一つ、

また、入国・在留審査に当たり、他の就労目的の在留資格と同様、日本人との同 等以上の報酬の確保等を確認する。

てのも、どうやって実効性を担保するんだろう、と。

そのほか、労働政策にかかわりのある記述をいくつか拾うと、「高齢者雇用の促進」で、

こうした認識に基づき、65 歳以上への継続雇用年齢の引上げに向けて環境整備を進 める。その際、高齢者は健康面や意欲、能力などの面で個人差が存在するという高齢 者雇用の多様性を踏まえ、一律の処遇でなく、成果を重視する評価・報酬体系を構築 する。このため、高齢者に係る賃金制度や能力評価制度の構築に取り組む企業に対し、 その整備費用を補助する。

てのがさり気に入っています。これは先日人生100年なんたら会議の提言の文言と同じですが、いやしかし、60歳定年まで年功制をやっておいて、そのあと一律じゃなく成果主義だといわれても、年齢差別にしかならないんじゃないかと。つまり、これはもうそろそろ60歳定年を前提に継続雇用路線で先に行ける話なのかを考えるべき時期なのかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

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残業禁止は不当労働行為@2018年

世界の注目はもちろんトランプと金正恩の首脳会談に集まっている今日この頃ですが、本ブログの関心はピョンヤンの労働新聞よりも日本の業界紙の労働新聞の方にあります。

その6月18日号は、1面トップは例の雇用類似で「労働者性拡大を検討」と載っていますが、中身は労政審基本部会に出したたたき台の話です。大内伸哉さんの連載も含めて、今旬の領域ですね。

でも本日取り上げるのは、そういう近未来の話じゃなくて、この平成がもうすぐ終わろうというご時世に、昭和の香りが濃厚に漂う「ふざけるな!残業やらせろ、馬鹿野郎!」というトピックです。

大阪府労委がトライメディカルサービス社に対して、残業禁止は不当労働行為だとして救済命令を出したと言うんですね。

会社が組合員に対して早出を禁止し、業務が残っていても終業時刻には帰るよう指示したので、所定外労働ができなくなり、経済的に不利益を受けたとして府労委に救済を申し立てたという事案。

組合結成まで同社には、会社の指示なく労働をしても、黙示的に労働時間として承認してきた慣行があり、同社の一連の対応は「労使慣行に反する」というのです。

実はこの手の「てめえらには残業やらせないぞ」事案は、時間外労働をやるのが余りにも当たり前で、やらない方が異常という昭和の御代には、不当労働行為としてよくあったんですが、まさか働き方改革で残業をなくそうという声が高らかに響くこの平成末期になって見かけることになろうとは思いもよりませんでした。

いや、実のところ、この「本音」はかなりの人々の中にまだまだ濃厚に存在しているのかも知れません。

10年前のホワイトカラーエグゼンプションのときには、世の中「残業代ゼロ法案絶対反対!」というゼニカネ至上主義者でいっぱいでした。私はその頃、いやいや労働時間規制は健康のためであり、安全衛生であり、残業代じゃないんだと口を酸っぱくして論じたものです。

その甲斐あってか、最近は表向きは高プロは過労死促進だという批判を前面に出す戦術になってきたようですが、それでも裏に隠れた「残業代ぼったくり反対!」という本音がちらちらと垣間見えます。

それにしても、ここまで「ふざけるな!残業やらせろ、馬鹿野郎!」という本音をむき出しにした不当労働行為事案が出てくると、なかなか感動的ですらありますな。

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/post-41f3.html(あれからもう10年・・・・)

こういう今日の状況を見るにつけ、今から10年前の頃、残業代ゼロ法案ばかりが議論になり、それより何より物理的労働時間の規制こそが一番大事なことだと、孤独に主張していた頃のことが、なにやら懐かしく思い出されます。

そう、今では信じられないかも知れませんが、そのころ、残業代ゼロは別に問題じゃない、大事なのは物理的労働時間が青天井であることであり、それを規制することだという主張を正面切ってしていた人は、ほとんどいなかったのです。

なによりも、10年前には物理的労働時間規制はそっちのけで、もっぱら残業代ゼロがいいか悪いかというゼニカネ問題ばかりに焦点が当たっていたのが、10年後の今では本来の労働時間問題、すなわち労働者の健康とワークライフバランスの問題として議論されるのが当たり前になったということが、感慨深いものがあります。

・・・ところが、戦後60年にわたる労使の運用は、これをほとんどアメリカ型のカネ勘定の問題として捉えてきた。組合員に時間外労働をさせないのは不当労働行為だと労働組合が訴え、それを労働委員会や裁判所が認めるという奇妙な事態が常態化していたのである。そこには、時間外労働はないのが本来の姿という発想は見当たらない。・・・

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『賃金事情』6/20号のクラウドワーカー記事に登場

Chinginjijo_2018_06_20 産労総合研究所の『賃金事情』6月20日号に、溝上憲文さんが「クラウドワーカーの法的保護と救済はどうあるべきか」という記事を書いていて、その中に、北浦正行さん、浜村彰さんとともに私もちょびっと登場しています。

https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/chinginjijo/a20180620.html

『季刊労働法』260号に書いた透明で予見可能な労働条件指令案に加えて、先日本ブログでも紹介したオンライン仲介サービスのビジネスユーザーの公正と透明性規則案にも触れています。

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日経連の1955年意見 on 労働基準法

たまたま必要があって日経連の昔の文書を紐解いてみると、いろんな意味で面白い意見書が山のように出てきますね。

たとえば、1955年12月12日の「労働基準法改正に関する具体的意見」。その中にこんなのが:

11.時間外及び休日の労働

 第36条を「使用者は業務上その他の事情がある場合、従業員一人当たりの平均が1年について300時間を超えない限り、第32条の労働時間又は前条の休日に関する規定に関わらず、労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる」よう改める。

理由 労働基準を定むべき現行法は、時間外、休日労働については単に労使の協定に放任しており、組合の強弱によりその基準も異なる取扱いをなすのは適当でなく、また、組合により悪用される事例もあることに鑑み、国際的見地から労使の協定を要せずして最高時間によって制限することが妥当である。

え?経営側が時間外・休日労働の上限を1年300時間にしろと言ってるの?と目を剥く向きもあるかも知れませんが、これは当時の労働組合がすごく強くて、経営側からすれば「組合により悪用される事例」が結構あったからなんですね。どういう「悪用」かというと、1951年6月23日の「労働基準法の改正に関する要望」によると:

・・・組合との間に紛争があるような場合には交渉戦術に悪用されること

・・・のみならず緊急作業の必要があっても、組合との協定なくしては、労働時間の延長を行い得ないことは、企業活動を不当に拘束するものであって・・・

等と書かれており、なかなか今昔の感に堪えません。

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在宅ワークリテラシー@『Works』148号

Worksリクルートワークス研究所の『Works』148号をお送りいただきました.特集は「在宅ワークリテラシー」です。

http://www.works-i.com/pdf/w_148.pdf

はじめに:個人と組織双方にとって意味あるものにするために

●在宅ワークで仕事の質は本当に下がらないのか
・働き方改革の流れのなかで 増える在宅ワーク導入企業
・在宅ワーク導入時にこそ考えたい“組織の存在理由”
・見えてくる 在宅ワークの課題

●来るべき未来に備える在宅ワークリテラシー
・マネジャーのリテラシー
目の前にいないメンバーの仕事の進捗、成果物の質をいかに把握していくか

・ チームのリテラシー
コミュニケーションの質・量の低下による影響をいかに軽減させるか

・Column:在宅ワークにおける雑談の仕込み方

・在宅メンバーのリテラシー
職場とプライベートの線引きのあいまいさ、孤独や孤立を乗り越えるために何をすべきか

・Column:次世代移動通信5Gは何をもたらすのか

まとめ:在宅ワークが私たちに問いかけるもの/石原直子(本誌編集長)

最後の石原さんのまとめが、皮肉なような、大変まっとうなような、なんとも曰く言いがたい感想を残します。

在宅ワークがうまくいく企業とは。そもそも“自律的に働く”ことが浸透している企業、一人ひとりの業務責任が明確になっている企業、そしてプロセスではなく成果で評価されることが当たり前になっている企業。こうした“オトナ”の企業でなくては、在宅ワーク導入は生産性の低下を招くのではないか。少なくとも、在宅ワークでは“ちゃんと”仕事をできない人というのは存在するはずだ。
 当初抱いていたこの予想は、正しくもあり、そして間違いでもあった。本特集のために事前にヒアリングさせてもらった知人はこう断言する。「仕事をサボるかどうかは、在宅かどうかとは関係ない。サボる人は、オフィスでもサボっている」
 その通りなのだ。オフィスにいても仕事の手を抜く人は存在するし、そもそも、すべての人が一分の隙もなく集中して働いているという職場風景など、これまでに見たこともない。・・・

・・・ではなぜ、“集中して生産性高く仕事をしているかどうか”が在宅ワークのときにだけ、取り沙汰されるのか。それはマネジャーの、あるいは働く私たち一人ひとりの、さらには人事の自信のなさの表れなのだと思う。・・・

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ジョブ型採用への道@アクシア

Authorphoto アクシアというIT企業の社長さんのブログに、創業以来の採用方法の変遷が書かれていて、大変面白かったので少し紹介しておきます。

https://axia.co.jp/2018-06-06 (アクシアが採用を完全にストップするに至るまでの経緯)

この会社、創業当時はよくあるSEサービスの下請会社だったのが、自社開発になり、やがて残業ゼロで有名になっていくのですが、ここではそっちじゃなくて、それに応じて採用方法がどう変わってきたか。

一番初めはもちろん人脈だよりですが、求人媒体を利用し始めたころは、

・・・この時は会社の知名度も実績もたいしたことなかったということもあり、応募してくる人はプログラミング未経験の人ばかりでした。会社に何の特色もなく魅力もありませんでしたから仕方ありません。
しかもこの頃やっていた業務は現在私が猛烈に批判しているSESです。ちょうどこの頃にSESにおける偽装請負の違法性について当時の従業員から指摘されて、社内での受託開発にシフトしていくくらいの時期でした。
未経験の人を育てるためにはお金も時間もかかりますが仕方ありません。当時はそれしか方法がなかったので、未経験の人を採用して育てるやり方をしていました。・・・

と、未経験者を採用して育てるという日本型のやり方をせざるを得なかったのですが、
・・・SESに嫌気がさして辞めていく社員がポロポロ出つつも、社内での受託開発を始めたことで応募者の中身に変化が現れました。それまでは募集しても未経験者ばかりが応募してきていたのですが、経験者からの応募がかなり増えました。・・・

と、経験者採用が出来るようになる。ところが、当時は超ブラック企業状態で、

・・・毎日終電、毎週休日出勤が当たり前のひどい状況でしたので、採用しても次々と人は辞めていきました。ですので、年に何回も高いお金を払って求人媒体で募集をかけて、採用しては辞めて、採用しては辞めての繰り返しでした。・・・

と、むしろ採用政策は拙劣というべき状況だったようです。それが残業ゼロの会社になってからは、

・・・残業ゼロの会社になってからは採用の状況は大きく変わりました。まず求人を出した時の応募者の数がさらに飛躍的に増えました。1回求人掲載すれば応募者の数は100人以上は必ず来るようになりました。
そして応募者の内訳にも変化が現れました。目に見えて現れたわかりやすい変化としては、女性からの応募者が爆発的に増えました。応募者の女性の中には子育て中の主婦の方もたくさんいます。・・・

と、おのずからダイバーシティも出てきたようです。ついでに、こういう喜劇もあったようで、今日の残業代ゼロに激おこの議論のどれ程がそうなのかは、人によっていろいろ見方があるところでしょう。

・・・応募時には「残業ゼロの会社方針は素晴らしい」と絶賛してそれに共感して入社してきてくれたのに、残業ゼロの働き方にうまく適応できずに「残業させてください」「残業ゼロなんておかしい」と最後には会社の方針批判をして辞めていってしまった人もいます。・・・

が、ここまでは前説。

こうなってきて、それまでの未経験者歓迎方針を引っ込めるのですね。

・・・ありがたいことにたくさんの方からほぼ毎日ご応募いただけるようになり、その中にはプログラミング経験豊富な方からの応募も多く含まれるようになりました。そうなってくると会社としてはあえて未経験者の方を採用する理由がなくなってきます。
そこで2017年の9月に、プログラミング未経験の方からの応募を打ち切りました。
そしてこの時には結構色々な批判を受けたことを覚えています。
「それでもホワイト企業なのか」
「未経験者にも門戸を開け」
「若者の希望を奪うな」
見ず知らずの人達から様々な批判を受けました。でも会社はボランティア活動をしているわけではありません。会社がお金と時間をかけて育成しなくても、即戦力で貢献してくれる人達がたくさん応募してきてくれるのに、あえて未経験の人を採用する理由が企業にはありません。
もし未経験でも採用してほしいと思うなら、こちらが採用したいと思う何かしらの理由を携えて応募してきてほしいです。傲慢だと思われる方もいるかもしれませんが、企業活動は営利活動ですのでご理解いただければ幸いです。・・・

いやあ、ここで「それでもホワイト企業なのか」という批判が出てくるところが実に日本的です。まさにその通り、日本型雇用システムにおけるホワイト企業とは、(ジョブ型社会であれば好んで採用しないような)未経験者を採用してあげて、(ジョブ型社会であれば逃げ出すような)ブラックな労働条件ではあってもビシバシ鍛え上げてくれる企業のことなのであって、それを表層だけとらえて(ジョブ型社会の基準に従って)ブラック企業と批判するなら、採用方法についても同じ基準で評価しないと公平ではありませんね。いうまでもなくそれは(欧米の社会がそうであるように)「若者の希望を奪う」わけですが、それはどちらのメリットとデメリットの組み合わせを選択するかという問題。もちろん企業はボランティア活動しているのではないので、そういう日本型ホワイト企業に残業ゼロなどという離れ業をしろというわけにはいかないわけです。

この辺の雇用システムの違いによる論理的因果関係がなかなか理解できないと、どっちのブラックを責めてどちらのホワイトを求めているのか訳が分からないような議論になりがちです。

で、やがて、応募がふえすぎて、募集を打ち切りますと。

・・・書類選考を行い、面接の調整・実施を行うことが少しずつ負担となってきてしまっていたというのが正直なところであり、社内で慎重に協議をした結果、一度全ての採用をストップして、再び必要な人材が出てきた時に募集を再開するという結論に至りました。「優秀な人は無理してでも採用する」という方針もここで取り下げとさせていただくことになりました。・・・

ただしかし、話がそこで終わりであれば、わざわざ本ブログで紹介するだけの意味もなかったと思います。ジョブ型採用とは、この仕事ができるという人が欲しいからそれを求人という形で募集するのであり、それ以上でもそれ以下でもないというジョブ型社会ではあまりにも当たり前の話に過ぎません。

でも、この会社、「それでもホワイト企業なのか」「未経験者にも門戸を開け」「若者の希望を奪うな」といったいかにもメンバーシップ型の声には対応していませんが、それとは違う形で「ホワイト」な形で「門戸を開」き、「若者の希望」に答えているようです。

・・・また現在アクシアでは職業訓練校からの依頼を受けて、訓練生の実習受け入れを行っております。これは職業訓練校から実習料を払っていただき、アクシアで訓練生の実習を行うというものです。
実習では不足するスキルの習得はもちろんのこと、研修課題に取り組んでいただいたり、慣れてきたら弊社社員監修の元でOJTで簡単な社内システムの開発業務等に取り組んでもらっています。Slack等を使いながら、アジャイル開発で実習を行っています。
この職業訓練校の方が優秀であることもあり、未経験でありながら自分でスキルアップの努力をして、自分で何かシステムを構築してそのプログラムをGitHubに公開しているなど、将来性を感じさせてくれる方もいます。双方希望した場合は実習後に採用という道もあります。
このようにおかげさまで、有料の求人媒体以外の様々な経路で、優秀な人材を採用する経路が現在ではできてきています。採用なので時間はかかりますが、お金は本当にかからなくなりました。・・・

正直、ふーんという感じで読んでたこの社長さんのブログで、ちょっと背筋が伸びた感じがしたのはこの部分でした。いやいや、これこそジョブ型社会の典型的な雇用促進政策であり、社会統合政策であり、企業の社会貢献であるわけで、それ故にやる気のある未経験者をビシビシ鍛え上げるのが常道であるこの日本社会ではなかなかうまくいかない分野でもあるわけです。

いろんな読み方ができるのでしょうが、日本の労働社会の現実と可能性を垣間見せてくれる興味深いエントリであることは間違いありません。

 

 

 

 

 

 

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来年ILOで職場の暴力・ハラスメント条約へ

Wcms_630668_2 すでに日本のマスコミでも報じられていますが(とはいえ、セクハラ、セクハラばかり強調するのは何とかならんのか)、ILO総会で議論されていた職場の暴力とハラスメントが、来年条約・勧告化することを目指して、基準設定委員会の決議を採択したようです。

http://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/---ed_norm/---relconf/documents/meetingdocument/wcms_631807.pdf

これの123ページ、第1429項に、

Resolution
1429
. The Committee adopted the draft resolution to place an item entitled “Violence and harassment in the world of work” on the agenda of the next ordinary session for the second discussion with a view to the adoption of a Convention supplemented by a Recommendation.

本委員会は「労働の世界における暴力とハラスメント」と題されたアイテムを、勧告によって補完される条約の採択を視野に、次回の通常セッションにおける第二次討議のためのアジェンダとして設定する決議案を採択した。

ちょうど3月に、パワハラ検討会がいくつかの選択肢を提示した報告書をまとめたところですが、今後労政審のしかるべき分科会で議論をする際にも、1年後に採択されるであろうILO条約の中身は常に意識されることになると思われます。

 

 

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明治大学労働講座の動画

去る6月5日、2018年度明治大学労働講座企画委員会寄付講座で「労働社会の改革(1)日本の労働社会の成り立ち」を講義してきました。これももう長いこと、2010年度から毎年やってます。

http://www.kisc.meiji.ac.jp/~labored/kifukoza/rodokoza2018.html

その動画がアップされていますので、まあ、わざわざ見る人が居るかどうか知りませんが、せっかくなのでリンクしておきます。

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三柴丈典『労働者のメンタルヘルス情報と法』

81ftby7cqtl三柴丈典さんより『労働者のメンタルヘルス情報と法 情報取扱い前提条件整備義務の構想』(法律文化社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.hou-bun.com/cgi-bin/search/detail.cgi?c=ISBN978-4-589-03945-3

三柴さんは労働法学の世界の中で労働安全衛生を中核的に研究してきた第一人者ですが、近年はメンタルヘルス問題に取り組んできました。その三柴さんが、メンタルヘルスと個人情報保護という難問に正面から取り組んだのが本書です。

労働者のメンタルヘルス情報の取扱いをめぐる諸問題について関係法規および法理・学説を整理し、諸問題を理論的に解明。メンタルヘルス情報の取扱い適正化のための法理論構築へ向け、論証を試みる。

これがどれくらい難問かというと、2014年の安全衛生法改正をめぐって、そもそも自殺防止のために定期検診でメンタル不調をあぶり出そうという話が、それではプライバシーがダダ漏れになるじゃないかと研究会で方向が変わり、さらに審議会で修正され、法案化された後も精神医学者から猛烈な批判が出されたりと、なかなか一筋縄ではいかなかったことからも分かります。

この経緯に労働法学者として関わり続けていたのが三柴さんであり、たぶんほかの労働法学者にはなかなか手が出ない領域にまで踏み込んで議論を展開できる数少ない一人でしょう。

本書の副題ともなっている「情報取扱い前提条件整備義務」とは、「おわりに」の解説を引用すればこのようなものです。

使用者に自身のメンタルヘルス情報を提供する者に対し、「安心して情報を伝えられる条件」を整備する信義則上の義務を課し、その不履行から使用の情報を入手できず、所用の健康確保措置を実施できなかった場合、それに起因して生じた災害につき過失責任を推認する一方、それが履行されたにもかかわらず、労働者が情報提供を拒んだ場合、職場秩序への影響等が見込まれるか、使用者に安全配慮義務の一環として当該情報を踏まえた措置義務が生じる場合には懲戒処分の合理性を認めるとともに、同意のない情報の取扱いをその限りで正当化(ないし義務化)し、使用者が合理的な努力を尽くしても情報を採り得なかった場合、それに起因して発生した災害について免責ないし減責される、という法理である。

これ、私も今から10年以上も前に、ぼそっとこんなことを書いて考えたことがありますが、あまりじっくりと考えを突き詰めることなしに、それこそチコちゃんじゃないですが、「ボーッと生きてんじゃねえよ」状態だったので、あらためてきちんと考えなければと思った次第です。

過労死・過労自殺とプライバシー(『時の法令』(そのみちのコラム)2007年6月15日号)

 労働にかかわる問題でマスコミの注目を浴びるテーマの一つに過労死や過労自殺がある。過労死とは医学的には脳血管疾患や虚血性心疾患を指す。いずれも血管病変が長い生活の営みの中で徐々に進行し発症に至るものであって、生活習慣病とも呼ばれる。だから通常は労災補償や民事損害賠償の対象にはならない。ただ、業務が過重なためにその自然経過を超えて著しく増悪した場合には、因果関係が認められて労災補償や損害賠償の対象になりうる。これが大原則である。
 労災補償は使用者に過失がなくても業務と災害に因果関係があれば認められるが、民事損害賠償はそうではない。そこで、判例は「安全配慮義務」という概念を発達させ、使用者には労働者に対し、「業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」(電通事件最高裁判決)という規範を確立してきた。立法面でも、労働安全衛生法は労働者の健康診断を義務付け、それに基づいた健康管理を要求しているし、2005年改正では月100時間以上残業した者に対して医師の面接指導とそれに基づく措置をとるべきことを義務づけた。政府も裁判所も、使用者は労働者の健康状態をきめ細かく把握し、それに基づいて人事管理を行うよう求めていると言ってよいだろう。
 これは身体の健康だけの話ではない。過労自殺とは医学的には精神障害による自殺である。業務による強い心理的負荷により精神障害が発病し自殺に至った場合には、使用者は労災補償や民事損害賠償の責任を負う。上記電通事件は典型的な過労自殺事案である。使用者は労働者の精神の健康状態を常に把握し、悪化しないように配慮しなければならないのだ。
 ところが一方、身体やとりわけ精神の健康に関する情報というのは、個人情報の中でも特にセンシティブな情報である。使用者が労働者の健康情報を収集しこれに基づいて人事管理を行うというのは、労働者にとっては人に知られたくないプライバシーを暴かれるということでもある。この観点からは、労働安全衛生法が労働者に健康診断の受診義務を課していることもプライバシーの保護や自己決定権の観点から問題になりうる。法律にあるからと無理やり健康診断を受けさせられ、その結果心身の健康に問題があるからという理由でそれまでの高度な仕事から引きはがされ、レベルの低い仕事に回されたというような場合、そのことが人権侵害なのか、それとも過労死や過労自殺という人権侵害を避けるためのやむを得ない措置なのか、答えるのはかなり難しい。
 過労死や過労自殺が単に個人の問題ではなく使用者にも責任のある問題である限り、労働者側にも使用者を労災補償責任や民事損害賠償責任に追い込まない道義的責任、一定の健康情報を提供する義務があるのでなければバランスはとれない。私のプライバシーは明かしたくないが、その結果倒れて過労死したらお前の責任だから補償しろと言うのはフェアではなかろう。しかし逆に、プライバシーの方が重要だという立場に立てば、本人が受診を拒否して倒れたのであれば使用者に責任はないという考え方もあり得る。
 労働者のプライバシーは健康情報だけではない。例えば勤務先に黙って夜間のアルバイトをすることも、その疲労が蓄積して心身の健康に悪影響を与えることを考えれば、使用者としてはたまったものではない。しかし、労働契約で拘束されている時間以外にどこで何をしようが、そんなことを使用者に報告すべき義務があるはずはない。労働者と使用者の関係は対等の関係ではないのか、ということにもなる。
 こちらの立場に立った法改正提案が、労働者の兼業を禁止したり許可制にしたりすることを原則無効にすべきとの2005年9月の労働契約法制研究会報告だ。この提案は実現しなかったが、同年の労災保険法改正では、二重就職者がA社からB社に移動する際の事故も労災補償の対象とされた。
 ここに現れているのは、労働関係をお互いに配慮し合うべき長期的かつ密接な人間関係と見るのか、それとも労務と報酬の交換という独立した個人間の取引関係と見るのかという哲学的な問題である。現行法自体が両方の思想に立脚している以上、現実の場面でそれらがぶつかるのは不思議ではない。

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HRイブニングセッション

労務行政研究所のHRイブニングセッションの案内がアップされました。

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https://peatix.com/event/391060

 

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