日本ルーマニア化計画?
昨日一日の目まぐるしい動きは、日本がルーマニア化しつつあるということか?
ロシアのひそかな介入で、完全に無名だった親露右翼の大統領候補が突如急激に人気を伸ばして危うく当選しかかるというのは、遠い東欧の話だとみんな思ってたけど、実は我が日本の足元にもひたひたと押し寄せてきていたのかもしれない。
昨日一日の目まぐるしい動きは、日本がルーマニア化しつつあるということか?
ロシアのひそかな介入で、完全に無名だった親露右翼の大統領候補が突如急激に人気を伸ばして危うく当選しかかるというのは、遠い東欧の話だとみんな思ってたけど、実は我が日本の足元にもひたひたと押し寄せてきていたのかもしれない。
WEB労政時報に「スポットワークの留意事項」を寄稿しました。
https://www.rosei.jp/readers/article/89363
今年3月25付の本連載で、「スポットワークと日雇派遣」について今までの経緯を簡単にまとめておきましたが、去る7月4日に厚生労働省は「いわゆる『スポットワーク』における留意事項等をとりまとめたリーフレットを作成し、関係団体にその周知等を要請しました。」とプレス発表しました。・・・
日経ビジネスの「リストラは人的資本の配分ミスだ アイリスオーヤマのような受け皿登場に期待」という記事に、わたくしのコメントがちょびっとだけ使われています。
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00108/00340/
・・・・・労働政策研究・研修機構(JILPT)の濱口桂一郎研究所長は「日本のリストラと本来のリストラクチャリング(事業再構築)は相反する意味になってしまった」と指摘する。
ジョブ型雇用が根付く欧米では、産業構造の転換を図るリストラは会社都合であり、従業員に責任がないとの認識が定着している。そのため解雇通知を受けても後ろめたさは一切ない。中途採用市場が発達しており、従業員は競争力のない会社から離れ、新興産業で活躍するというサイクルが回る。
一方、日本ではメンバーシップ型の企業が多く、「リストラは会社というメンバーシップからの除名を意味する」(濱口氏)。本来は産業レベルの問題のはずが、労働者個人に問題があるように翻訳されていることが原因だと説く。転職が当たり前となり、自発的に会社を退職することへのハードルは下がった。だが、ムラ社会から一方的に排除されることは依然として重いのだ。・・・・
山川隆一、早川智津子、山脇康嗣、冨田さとこ『外国人労働者に関する重要労働判例と今後の展望』(第一法規)をお送りいただきました。ありがとうございます。
https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/105120.html
目次を下にコピペしておきますが、いやあ、いつの間にか外国人労働者に係る裁判例がこれほどにたくさん積み重なっていたんですね。
総論 外国人労働者受入れ制度の動向と労働判例(山川隆一)
1 これまでの外国人労働者受入れ政策
2 新たな法制度
3 外国人労働政策と労働判例
【1】 適用法規の決定及び管轄裁判所(山川隆一)
1 ◆ 適用法規の決定
判例1
絶対的強行法規の適用(インターナショナル・エア・サービス事件・東京地決昭和40・4・26労民集16巻2号308頁〔27621775〕)
判例2
準拠法の決定(国立研究開発法人理化学研究所事件・東京高判平成30・10・24労判1221号89頁〔28264952〕)
解説
1 外国人労働者に対する労働法の適用
2 管轄裁判所(国際裁判管轄)
●COLUMN● 賃金債務の性質と外国人労働者(冨田さとこ)
【2】 外国人労働者の人権(早川智津子)
1 ◆ 国籍差別の禁止(労基法3条)等
判例1
国籍による雇用期間の差異と労基法3条(東京国際学園事件・東京地判平成13・3・15労判818号55頁〔28070464〕)
判例2
日本語教育機会の有無と労基法3条(三菱電機事件・東京地判平成8・3・25労経速報1592号25頁〔28010346〕)
解説
1 国籍差別禁止-労基法3条
2 均衡・均等待遇-パート有期法
2 ◆ その他の人権保障
判例3
強制帰国(フルタフーズ・食品循環協同組合事件・富山地判平成25・7・17労旬1806号62頁〔28223586〕)
解説
1 技能実習生の人権保障
2 労基法等による人権保障
3 ◆ ヘイトスピーチ
判例4
ヘイトスピーチ、差別的言動と職場環境配慮義務(フジ住宅ほか事件・大阪高判令和3・11・18労判1281号58頁〔28293675〕(上告棄却・不受理(最決令和4・9・8)))
解説
1 差別的言動と職場環境配慮義務
2 差別的言動解消法(ヘイトスピーチ解消法)
4 ◆ 人格的利益の尊重等
解説
1 職場での日本語のみ使用ルール・日本語ハラスメント
2 プライバシーと人格的利益の尊重:職場での本名使用の強要問題
3 宗教差別・宗教への配慮(食習慣含む)
【3】 労働契約の意義と内容(早川智津子)
1 ◆ 入管法の規制と労働(雇用)契約
判例1
入管法の規制と私法上の権利(山口製糖事件・東京地決平成4・7・7判タ804号137頁〔27814290〕)
判例2
在留手続上の書類と雇用契約の内容(マハラジャ事件・東京地判平成12・12・22平成11年(ワ)8997号公刊物未登載〔28321847〕)
解説
1 入管法上の外国人就労の特徴
2 入管法上の規制と私法上の権利
2 ◆ 外国人労働者の労働契約
判例3
在留期間を雇用期間と認めるか―否定(ユニスコープ事件・東京地判平成6・3・11労判666号61頁〔28019232〕)
解説
1 労基法・労契法上の労働者性
2 労働契約の内容
●COLUMN●労働市場テスト(早川智津子)
【4】 労働契約の成立―採用内定・試用期間(冨田さとこ)
1 ◆ 採用内定
判例1
外国人留学生の採用に係る内定取消し(エスツー事件・東京地判令和3・9・29労判1261号70頁〔29066565〕)
解説
1 採用内定の法的性質(概説)
2 採用内定取消しが無効・不法行為になる場合
3 外国人と労働契約の成立・就労の開始
2 ◆ 試用期間
判例2
能力不足と判断した有期雇用契約の中途採用者を試用期間中に解雇した事例(リーディング証券事件・東京地判平成25・1・31労経速報2180号3頁〔28212569〕)
解説
1 試用期間の法的性質
2 本採用拒否の適法性の判断基準
3 職業紹介
●COLUMN●業務に必要な日本語能力(冨田さとこ)
【5】 労働条件(山脇康嗣)
1◆相殺合意や労使協定に基づく賃金からの控除、使用者による労働者のパスポート保管
判例1
航空運賃分等の相殺合意と労基法24条1項、パスポート保管の適法性(本譲事件・神戸地姫路支判平成9・12・3労判730号40頁〔28030497〕)
解説
1 相殺合意に基づく賃金からの控除
2 労使協定に基づく賃金からの控除
3 使用者による労働者のパスポート保管
2◆外国人労働者と日本人労働者の労働条件の差に関する労基法3条の均等待遇、パート有期法上の均等待遇・均衡待遇
判例2
技能実習生と日本人労働者の賃金や寮費の差と労基法3条(デーバー加工サービス事件・東京地判平成23・12・6判タ1375号113頁〔28181170〕)
解説
1 労基法3条の均等待遇の原則
2 報酬額等に係るパート有期法の適用関係
●COLUMN●入管法及び技能実習法上の同等報酬基準に係る審査厳正化の必要性(山脇康嗣)
●COLUMN●入管法制と労働法制が交錯する接点に係る理解の重要性(山脇康嗣)
【6】 人事・懲戒(冨田さとこ・山川隆一)
1 ◆ 人事
判例1
雇用契約上の予定とは異なる業務・就業場所への配転命令を拒否したことによる解雇が有効とされた事例(鳥井電器事件・東京地判平成13・5・14労判806号18頁〔28061727〕)
解説
1 人事制度
2 人事異動
2 ◆ 懲戒
判例2
国籍による差別・ハラスメント紛争の通報と懲戒処分(モルガン・スタンレー・グループ事件・東京地判令和6・6・27労判1326号14頁〔28330563〕)
解説
1 懲戒処分(概説)
2 懲戒事由該当性
3 懲戒権の濫用
●COLUMN●業務内容・求められる能力を明示することの重要性(冨田さとこ)
【7】 労災補償(早川智津子)
1 ◆ 安全配慮義務
判例1
安全配慮義務 ―外国人の母国語での表示、安全教育(矢崎部品ほか一社事件・静岡地判平成19・1・24労判939号50頁〔28131944〕)
判例2
安全対策を講じていた会社での事故の予見可能性を否定(アイシン機工事件・名古屋高判平成27・11・13労経速報2289号3頁〔28243865〕(上告棄却・不受理(最決平成28・7・5平成28年(オ)223号等公刊物未登載〔28260728〕))
判例3
不法就労者の安全配慮義務違反の逸失利益(改進社事件・最判平成9・1・28民集51巻1号78頁〔28020337〕)
判例4
監理団体の責務(フルタフーズ・食品循環協同組合事件・富山地判平成25・7・17労旬1806号62頁〔28223586〕)
解説
1 外国人労働者に対する労安法、労災保険法の適用
2 外国人労働者と安全配慮義務
3 外国人労働者の逸失利益
4 安全衛生の確保
【8】 労働契約の終了(1)―解雇等(山川隆一)
1 ◆ 期間の定めのない労働契約と解雇
判例1
解雇権濫用法理(適格性欠如・整理解雇)(さいたま地判平成19・11・16平成17年(ワ)2277号裁判所HP〔28140146〕)
判例2
解雇権濫用法理(能力不足)(ヒロセ電機事件・東京地判平成14・10・22労判838号15頁〔28080008〕)
解説1 解雇権濫用法理
2 ◆ 期間を定めた労働契約の途中解雇
判例3
「やむを得ない事由」による解雇(ネットジャパン事件・東京地判令和元・12・26判タ1493号176頁〔29058335〕)
解説
1 概要
2 「やむを得ない事由」
3 ◆ 辞職・合意解約
解説
1 概要
2 労働者の辞職の意思表示等の認定・効力
3 外国人労働者をめぐる事例
4 期間途中の辞職と「やむを得ない事由」
●COLUMN●外国人労働者と紛争解決方法(冨田さとこ)
【9】 労働契約の終了(2)―有期労働契約の雇止め(冨田さとこ)
1 ◆ 有期労働契約の終了とその制限
2 ◆ 労契法19条の要件(2012年改正による雇止め法理の法定化)
判例1
労契法19条2号による有期労働契約の更新(長崎大学事件・長崎地判令和5・1・30判時2602号72頁〔28310732〕)
判例2
労契法19条2号による有期労働契約の更新(慶応義塾大学事件・東京地判令和4・11・29令和2年(ワ)24649号公刊物未登載〔29073633〕)
解説
1 労契法19条2号
2 契約更新への合理的期待等の認定
3 雇止めの合理的理由(概説)
4 雇止めが許されない場合の効果
5 大学教員の無期転換権(任期法の特例)
【10】 監理団体、実習実施者及び技能実習生の権利義務(山脇康嗣)
1 ◆ 監理団体・実習実施者の義務と技能実習生の権利
判例1
技能実習生が適切な実習を受ける権利、労災発生時の監理団体の義務、帰国に当たっての意思確認、転籍措置(アーバンプランニング事件・福岡高判令和4・2・25令和3年(ネ)167号公刊物未登載〔28300748〕)
解説
1 技能実習生が技能実習計画審査基準の要件に沿った適切な実習を受ける権利
2 技能実習計画審査基準の解釈
3 労災発生時の監理団体の義務
4 帰国に当たって技能実習生として保護されるべき権利
5 監理団体の転籍措置義務
2 ◆ 技能実習生の資格外活動と実習実施機関・監理団体の責任
判例2
技能実習生に対する業務命令の限界、技能実習生が技能実習制度の実施について有する法的利益、実習実施機関及び監理団体が負う通報義務、監理団体の実習監理責任、損害に係る相当因果関係(千鳥ほか事件・広島高判令和3・3・26労判1248号5頁〔28293083〕)
解説
1 技能実習生に対する業務命令の限界
2 技能実習生が技能実習制度の実施について有する法的利益
3 実習実施機関及び監理団体が負う通報義務の性質
4 監理団体が負う実習監理責任の内容、性質
5 損害論(相当因果関係の有無・範囲)
3 ◆ 実習認定の取消しの処分性
解説
【11】 技能実習生の在留資格変更手続(山脇康嗣)
判例
実習実施者及び監理団体が技能実習生の在留資格変更手続について負う注意義務(佐山鉄筋工業ほか事件・大阪地判令和5・9・28労判1314号80頁〔28313426〕)
解説
1 実習実施者が技能実習生の在留資格変更手続について負う注意義務
2 監理団体が技能実習生の在留資格変更手続について負う義務
3 損害論
【12】 不法就労助長罪(山脇康嗣)
1◆不法就労助長罪(入管法73条の2第1項1号、2号、3号)の客観的構成要件
判例1
入管法73条の2第1項1号の不法就労助長罪の客観的構成要件(サパークラブ樹理事件(売春防止法違反、入管法違反(不法就労助長)被告事件)・東京高判平成5・9・22判タ837号297頁〔27818239〕)
解説
1 入管法73条の2第1項1号の不法就労助長罪
2 入管法73条の2第1項2号の不法就労助長罪
3 入管法73条の2第1項3号の不法就労助長罪(不法就労あっせん罪)
2 ◆ 不法就労助長罪の主観的構成要件
判例2
入管法73条の2第1項1号の不法就労助長罪の故意(ベトナム人派遣労働者事件(入管法違反(不法就労助長)被告事件)・名古屋地判令和2・10・14令和2年(わ)442号等公刊物未登載)
解説
1 入管法73条の2第1項1号の不法就労助長罪の主観的構成要件
2 入管法73条の2第2項の解釈
【13】 労働組合(山川隆一)
1 ◆ 労使関係の当事者
命令1
労組法上の「使用者」(Y₁社・Y₂協同組合事件・大阪府労委平成27・9・25平成26年(不)30号労働委員会 DB)
解説
1 労働組合・労働者
2 使用者
2 ◆ 団体交渉
団体交渉における使用言語(東京学芸大学事件・東京都労委平成28・7・19平成27年(不)17号労働委員会DB))
命令2
解説
1 団体交渉の当事者
2 団体交渉事項
3 団体交渉の開催条件
4 誠実交渉義務
3 ◆ 団体行動
解説
4 ◆ 不当労働行為
解説
1 意義・成立要件
2 救済手続
事項索引
判例索引
児美川孝一郎さんより『「教育改革」は何を改革してきたのか 学校と教育の現在(リアル)』(誠信書房)をお送りいただきました。ありがとうございます。
https://www.seishinshobo.co.jp/book/b10136243.html
1980年代半ばを起点とする間断なき教育改革について、「授業」「生徒指導」「学校制度」「教師」「公教育」という5つのトピックをもとに、その展開や帰結、現れた問題点や課題などを論じる。
教育改革によって何が改革され、何が改革されなかったのかを明らかにしていくことで、日本の教育に刻み込まれた特質や問題性をも浮き彫りにする。
教育改革を担う教師や教職をめざす学生はもちろん、今どきの学校教育が「どうなっているのか」、そして「なぜ、こうなっているのか」に興味がある読者にぜひとも一読を勧めたい本である。
参議院選挙戦のさなか、参政党の支持率が急増しているという報道を見つつ、17年前のこのエントリがそこはかとなく思い出されてきたので、再掲しておきます。多分なにも付け加える必要はないでしょう。
いや、こういうのが出てくるだろうな、とは前から思っていましたが、やはり出てきましたな、という感じです。
http://www.amazon.co.jp/dp/477551279X/
縦軸にリベとソシをとり、横軸にウヨとサヨをとると、計4つの象限が得られますが、そのうちこれまでの日本で一番論者が少なくて市場としてニッチが狙えるのはソシウヨですからね。
まあ、西部邁氏を取り巻く人々はある意味でその一角を占めていたといえるのですが、いささか高邁な議論になりすぎるところがあり、むくつけなまでに劣情を刺激するようなイデオロギー操作にはリラクタントな風情がありましたが、このムックはそこはスコッと抜けていて、何でもありの感じですな。
「21世紀大恐慌は資本主義の崩壊か」とか「金融大恐慌が証明した小泉=竹中路線の大罪」とかタイトルだけ見ると、『情況』かという感じですが、その後に控えるのは「経済ナショナリズムが日本を救う」ですからね。両方に文章を寄せているのが経済産業省の中野剛志氏ですが、気分は商工省の革新官僚ですか。
興味深いのは、「超格差社会と昭和維新」という昭和初期の話がでてきていることで、これは本ブログでも取り上げましたが、まさにソシウヨが勝利した典型的な事例であるわけで、この筆者は現代日本でもそれをやろうと思っているわけですが、それはいささか問題ではないかと思う人々にとっても、等しく学ぶべき歴史の教訓であることは間違いないと思いますよ。
宮本太郎編著『子どもが消えゆく国の転換』(勁草書房)をお送りいただきました。ありがとうございます。
https://www.keisoshobo.co.jp/book/b10135250.html
少子化にともなう人口の縮小、高齢化やジェンダー、就労構造の問題などから格差と分断が広がる社会の閉塞感を抜け出すためのビジョンをどう形づくっていくか。新たな生活保障のあり方はどうあるべきか。日本の未来をつくる方向を指し示す。
目次は次のとおりですが、
第1章 少子化社会の転換はなぜすすまないのか?
第2章 ケアリング・スキルの脱ジェンダー化戦略―ケア・ニーズを中心に据える社会に向けて
第3章 人口減少社会の雇用と賃金
第4章 日本の再分配政策の支持・選好
第5章 住宅保障における住宅セーフティネット法の役割―住宅確保における排除への法的な対応
第6章 少子化と苦悩する家族政策―フランスから考える家族と政治の関係
第7章 長期的社会変動と少子化
このうち、是非読む値打ちがあるのは、最後の第7章、筒井淳也さんによる「長期的社会変動と少子化」です。
これは、目の前の少子化対策であれこれ騒いでいる議論を、人類史的視座から見下ろすような感じです。そもそも、前近代社会では家族が最重要の経営・生産組織であり、結婚と生殖はその極めて重要な手段でした。近代企業が労働力確保のために労働者を採用するのと同じくらいの位置づけであったわけです。ところが近代化によって経営・生産組織が家族の外側の企業に移るとともに、結婚や生殖はビジネスライクに遂行すべきことではなくなってしまい、愛だの恋だのという不安定な情緒に委ねられるようになってしまいました。
それでも近代化後かなりの間は、社会的性別役割分業で、家族(=妻、母)は企業が担えない生殖機能を、企業活動を間接的に支えるために遂行する役割を担うことにより、間接的にビジネスライクでありえたのでしょうが(この時代に郷愁を覚えるのが近代的保守層と言うことになるのでしょう)、企業が彼女らを直接に企業の生産活動に活用するようになると、それすらも失われ、生殖活動に積極的関心を持つのは福祉国家だけと相成ったというわけです。
厚労省がスポットワークに関するリーフレットを公表したと思ったら、非正規労働者の権利実現全国会議編著『それって大丈夫? スキマバイトQ&A』(旬報社)が届きました。
https://www.junposha.com/book/b664429.html
スキマバイトとは何か? 違法な日雇い派遣の“復活”
こんなときどうする?
●仕事を“ドタキャン”された!
●“早上がり”で思っていたお金をもらえなかった!
●仕事の“評価”が不当に低かった!
●バイトアプリで“出禁”になった!
スキマバイトとは何か? 違法な日雇い派遣の“復活”
*
いま、スキマバイト(スポットワーク)が急激に増加しています。メディアでは、労働者のニーズに応じる新たな働き方であるとの宣伝が蔓延しており、とくに大手の「Timee(タイミー)」は、テレビCMも大々的に行い、知名度も高く、多くの人が利用しています。非正規全国会議では、労働相談を通じて明らかになった問題を指摘し、Q&A形式でスキマバイトの法的な疑問に答えます。
本書の「Q&A」は、そのまま実務で使えるQ&Aというよりは、本来こうあるべきという主張の記述になっているところが感じられました。
Q15の雇用保険のところでは、「条件を満たせば日雇労働被保険者として,特別な雇用保険に加入できます」と述べていますが、それはほとんど不可能に近いでしょう。「まず働く人自身がハローワークで手続をして、日雇手帳の交付を受ける必要があります」というところをクリアしたとしても、「この日雇手帳をはたらき先へ持参し、賃金を受けるたびに印紙を手帳に貼ってもらいます」というのは、「そんな印紙もってないよ」と言われてしまうでしょう。
日雇雇用保険は、1949年に日雇失業保険として設けられましたが、日雇労働者がみな山谷やあいりんといったドヤ街に居住し、はたらく先は日雇労働者を多く使う土木建築産業であった頃に、その物理的状況に対応して作られた制度なので、日雇労働者がみな携帯やスマホでつながり、職場はあらゆる場所のあらゆる業種に拡大している現在では、ほとんど使い物にならなくなっているのです。
実はここは、今日的状況下で日雇いのアブレをどう扱えるのかという結構深刻な問題が孕まれているんですが、そこの議論は残念ながら20年前に日雇派遣が問題になったとき以来あまり深められていません。
昨年来議論が高まってきていたスポットワーク(いわゆるスキマバイト)について、先週末に厚生労働省からリーフレットとそれを伝える要請書が出されたようです。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_59197.html
これ、要請書には発番がついていて、正規の行政文書なんですが、肝心の解釈を書いた文書がリーフレットというそれ自体はただの紙であって、行政解釈を示した発番のついた通達ではないというやや複雑な構造になっています。
ただ、その中身はまさに一定の解釈を示したものになっていて、スポットワーク協会も直ちにそれに従った運用をするようです。
■ 労働契約の成立時期について
個別の具体的な状況によるが、原則として、労働契約の成立をもって労働関係法令が適用されることになるので、労使双方で成立時期の認識を共有した上で、労働契約を締結することが求められること。
「スポットワーク」では、アプリを用いて、事業主が掲載した求人に労働者が応募し、面接等を経ることなく、短時間にその求人と応募がマッチングすることが一般的である。面接等を経ることなく先着順で就労が決定する求人では、別途特段の合意がなければ、事業主が掲載した求人に労働者が応募した時点で労使双方の合意があったものとして労働契約が成立するものと一般的には考えられること。
■ 休業手当について
労働契約成立後に事業主の都合で丸1日の休業又は仕事の早上がりをさせることになった場合は、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業」となるので、労働者に対し、所定支払日までに休業手当を支払う必要があること。
■ 賃金・労働時間について
労働者から予定していた労働時間と異なる実際の労働時間による修正の承認申請がなされた場合は、事業主は、賃金は労働者の生活の糧であることを踏まえ、予定された労働時間に基づき勤務した賃金は遅滞なく支払うとともに、予定の労働時間と異なる時間については、速やかに確認し、労働時間を確定させること。
昨年以来、内閣府の規制改革推進会議ではスタートアップ企業の労働時間規制の緩和が繰り返し求められてきていますが、先月閣議決定された「規制改革実施計画」では、スタートアップ企業で働く役職者について、これまでの厳格な管理監督者の解釈を緩める方向で検討せよということになったようにみえます。
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/publication/program/250613/01_program.pdf
スタートアップの柔軟な働き方の推進
a 厚生労働省は、スタートアップ関係団体等からの意見聴取や、スタートアップが裁量労働制の活用に当たって直面している課題、スタートアップで働く労働者の就労実態、業務内容、スタートアップで働く労働者が希望する働き方等を把握するための調査を行った上で、その結果を踏まえ、裁量労働制の適正な活用等、スタートアップにおける柔軟な働き方に資する検討を開始する。
b 厚生労働省は、スタートアップで働く役職者等の労働基準法(昭和 22 年法律第 49 号)第 41 条第2号に規定する「監督若しくは管理の地位にある者」(以下「管理監督者」という。)への該当性の判断の基本的考え方を「スタートアップ企業で働く者や新技術・新商品の研究開発に従事する労働者への労働基準法の適用に関する解釈について」(令和6年9月 30 日厚生労働省労働基準局長通達)において示しているが、スタートアップにおいては、分野によっては同一スタートアップ内に専門家が1名又はごく少数しかいないなど、経営や人事等に関する重要な決定権限を有する一方で部下を持たないケースが多く存在し、近年はAIの活用によって更に増加しているという実態である中、こうした場合に管理監督者に該当するか否かが不明確であり、スタートアップの現場で判断に悩む場合が多いとの声があることも踏まえ、スタートアップ関係団体等の意見を聴取すること等を通じて、スタートアップにおける役職者等の実態や課題等を把握した上で、スタートアップにおける役職者等(部下を持たない場合を含む。)の管理監督者への該当性の判断の考え方の更なる明確化について検討し、結論を得次第、必要な措置を講ずる。a,b:令和7年度検討開始、結論を得次第速やかに措置
うーむ、でもこれは法律論的にはなかなか筋がむずかしい話ではありますね。まあ、そもそも1977年にスタッフ職を管理監督者と認めてしまった段階で筋は外れているとはいえますが。
管理監督者該当性を別にすれば、スタートアップ企業の(事務作業員を除く)仲間たちというのは労働時間規制になじまない存在だという議論はそれとしてありうる話ではあるんですね。管理も監督もしていないけれども、そんじょそこらの管理職たちよりも遥かに、事実上「経営者と一体」みたいなものかもしれません。
Youtubeに倉持麟太郎さんの「このクソ素晴らしき世界」という動画シリーズがたくさんアップされていて、その最近のものに、「なぜ賃金は上がらないのか」という前編・後編のかなり長めの動画があるのですが、ほぼ拙著『賃金とは何か』の語り下ろしのような感じですね。すごく細かいところまできちんと解説していただいていると思いました。
https://www.youtube.com/watch?v=i4y0jvoXCTk
https://www.youtube.com/watch?v=xwhvt1Ov0gg&t=5s
参政党の神谷代表が「高齢女性は子供を産めない」と言ったとして炎上していますが、これはそこだけ揚げ足をとって騒げばいい話ではなく、そこで問題とされるべきことはそもそも何なのかをきちんと考えるべきことでしょう。
参政党の神谷代表「高齢女性は子ども産めない」 公示第一声で発言
参政党の神谷宗幣代表は3日、東京都内で行った参院選(20日投開票)の第一声となる街頭演説で、「子どもを産めるのも若い女性しかいない。高齢の女性は子どもは産めない」と発言した。・・・
神谷氏は演説で、国内で人口減が進んでいる現状に言及。「今まで間違えたんですよ。男女共同参画とか。もちろん女性の社会進出はいいことだ。どんどん働いてもらえば結構」とした上で、「これを言うと差別だという人がいるが違う。現実だ。申し訳ないけど、高齢の女性は子どもは産めない」と発言した。
そして「若い女性に子どもを産みたいとか、子どもを産んだ方が安心して暮らせる社会状況を作らないといけないのに、『働け働け』とやり過ぎてしまった」と主張。高校や大学卒業後に仕事に就かずに子育てに専念する選択がしやすくなるよう、子ども1人あたり月10万円を給付すると訴えた。「0歳から15歳で1人1800万円、2人いたら3600万円。これぐらいあればパートに出るよりも、事務でアルバイトするよりもいいじゃないか」とも語った。・・・
なぜ日本では、女子のキャリアが少子化につながってしまうのか、それは日本型雇用システムに根源があるのだということを、もう10年前に『働く女子の運命』(文春新書)でかなりしっかりと論じたつもりだったのですが、残念ながらそれがあまり認知されていないがゆえに、今回のようなすごく表層的な炎上騒ぎになってしまうのではないかと思います。
拙著の最後近く、240ページあたりからの議論を、改めて再掲しておきたいと思います。
マタニティという難題さてしかし、ここまでのワークライフバランスをめぐる議論は、フェミニズムの用語で言えばあくまでジェンダーの枠内に収まるものでした。つまり、男女の生物学的な差とは一応別次元で、社会的文化的に形作られた役割の違いから生ずる問題でした。それゆえ、その解決の方向性は基本的には、専業主婦やパート主婦がいることを前提に無限定に働ける男性正社員モデルを見直し、男女ともに仕事と家庭生活に時間を配分できるような働き方に変えていくということになるわけです。ところが、そういう男女の対称性が破れる領域があります。いうまでもなく、生物学的に女性しかやれない妊娠、出産をめぐる領域です。そして、ワークライフバランスの議論が一巡した最近になって、工場法時代からずっと女子労働問題の中心的課題の一つであり続けてきたこの問題が、再び脚光を浴びるようになりました。今度は今風にマタニティ・ハラスメント(マタハラ)と呼ばれていますが、要は女性が妊娠・出産したことに絡んで嫌がらせを含むさまざまな不利益な取扱いを受けるという伝統的な問題です。この問題が本書の一貫したテーマである日本型雇用と交差するのが、出産時期の問題です。これはちょっと入り組んでいます。『若者と労働』と『日本の雇用と中高年』で論じたことと密接につながっているのです。日本型雇用システムの下で得をしているのは誰かといえば、もちろんスキルなどなくてもすいすいと企業が採用してくれる若者ですし、誰が損しているかといえば、スキルや経験があっても採用されにくい中高年であるということは、繰り返し述べてきたとおりですが、それを前提に、できるだけ痛みを伴わない形で雇用システムの改革をしようとすれば、若者の入口はできるだけ今までどおりにし、中高年以降をジョブ型にシフトしていこうという議論になるはずです。実際、雇用問題の論客である海老原嗣生氏は、『雇用の常識 決着版』(ちくま文庫)、『日本で働くのは本当に損なのか』(PHPビジネス新書)、『いっしょうけんめい「働かない」社会をつくる』(PHP新書)など近著で繰り返し、入口は日本型のままで、35歳くらいからジョブ型に着地させるという雇用モデルを推奨しています。この解は、若者(男性)と中高年(男性)という二つの変数をもつ二元連立方程式の解としては現時点でもっともリアルな解と言えましょう。若者の入口まで一気にジョブ型にしてしまうと、現在の教育システムからスキルなんかない方がいいという前提で生み出されてくる若者たちは阿鼻叫喚の地獄絵図に放り込まれることになります。それを解決するために教育システムを職業的レリバンスのあるものに改革することは、膨大なアカデミック教育需要のお陰で生計を立てることができていたそれなりの数の人々を失業の淵に叩き込むことになります。そういう激変を回避したい穏健派にとっては、望ましい解なのです。高齢出産が「解」なのか?しかし、にもかかわらず、この問題を女性という第三の変数を含む三元連立方程式として解こうとすると、この解は女性に高齢出産を要求するというかなり問題含みの解になってしまうのです。海老原氏の『女子のキャリア』(ちくまプリマー新書)は、その最終章「「35歳」が女性を苦しめすぎている」で、「出産は20代ですべき」という論調に反発し、さまざまな医学的データまで駆使して、30代後半から40代前半で子供を生んでいいではないかと、高齢出産を余儀なくされる女性たちを擁護します。・・・だからこそ、事後追認でかまわないから、結婚は35歳まで、出産は40歳までとひとまず常識をアップデートしてほしいのです。これでようやく、クリスマスケーキやOLモデルといった1980年代の幻影から逃れることができるでしょう。この常識が広まれば、いよいよ女性も普通に、30代を楽しめるイメージを持てるようになるはずです。さらにいえば、もう5歳遅くとも、結婚も出産もできないことはない、という譲歩節を付け加えられないでしょうか。つまり、40歳までに結婚して45歳までに産むことだって、現実的な選択だ、と。働く女性を応援しようという海老原氏の意図はよく伝わってきます。しかし、それで正しい解になっているのか、正直、私には同意しきれないものがあります。マタハラ問題を世に広めた小林美希氏の『ルポ産ませない社会』(河出書房新社)は、「年々増える35歳以上の高年齢出産」という項で、こんな事例を紹介しています。「今、妊娠したら困る。この仕事が終わったら・・・・・・。」都内のコンサルティング会社で働く槌田寛美さん(仮名)は、子供が欲しいと思いながらも仕事に区切りをつけられず、40代に突入してしまった。・・・40歳の誕生日を区切りに、「そろそろ真面目に妊娠を考えよう」と、婦人科クリニックに足を運んだ。・・・医師からは「35歳から妊娠しにくくなり、流産の率が高まる。40歳ならなおさら。本当に妊娠したいなら、仕事をセーブしなければ」と忠告され、仕事か妊娠かを迫られている。マタニティという生物学的な要素にツケを回すような解が本当に正しい解なのか、ここは読者の皆さんに問いを投げかけておきたいと思います。
今朝の朝日新聞が、最低賃金についての全知事へのアンケート結果を載せていますが、
最低賃金の水準、知事の審議の関与への考え… 47人の知事の全回答
実は、ちょうど一昨日、中央大学ビジネススクールの講義で最低賃金について話した時に、学生さんから「今年の最賃はどうなるでしょう」と問われ、「わからないけれども去年よりさらに大幅に上昇するのではないか」「というのも、昨年の徳島県の後藤田ショックのせいで、どの県の知事さんも最賃に敏感になっていて、『隣の県よりも低いのは絶対にダメだ』とばかり、介入してくるだろうから」と答えたんですね。
参議院選挙が公示され、メディア上はもう派手だけどいかがわしいメディア芸人系ばっかりがもてはやされていますが、本ブログはそういう連中じゃなくって、地味だけどとてもまっとうな労働組合系の候補者の行方に注目しています。
過去3回の参議院選挙比例代表区の当落結果は次のようになっていましたが、
小林 正夫 268,317 電力総連
浜口 誠 265,756 自動車総連
矢田 稚子 213,323 電機連合
川合 孝典 193,945 UAゼンセン
難波 奨二 190,876 JP労組
江崎 孝 183,618 自治労
那谷屋 正義 175,756 日教組
石橋 通宏 170,338 情報労連(以上当選)田城 郁 113,182 JR総連
藤川 慎一 112,070 JAM
轟木 利治 107,780 基幹労連
森屋 隆 101,652 私鉄総連
田村麻美(国 UAゼンセン) 259,467票
礒崎哲史(国 自動車総連) 258,345票
浜野喜史(国 電力総連) 256,259票
石上俊雄(国 電機連合) 192,124票 落選
岸真紀子(立 自治労) 157,848票
水岡俊一(立 日教組) 148,309票
小沢雅仁(立 JP労組) 144,751票
吉川沙織(立 情報労連) 143,472票
田中久弥(国 JAM) 143,343票 落選
森屋隆(立 私鉄総連) 104,339票
竹詰仁(国民、電力総連)238,956 当選
浜口誠(国民、自動車総連)234,744 当選
川合孝典(国民、UAゼンセン)211,783 当選
鬼木誠(立憲、自治労)171,619 当選
矢田稚子(国民、電機連合)159,929 落選
古賀千景(立憲、日教組)144,344 当選
柴慎一 (立憲、JP労組)127,382 当選
村田享子(立憲、基幹労連)125,340 当選
石橋通宏(立憲、情報労連)111,703 当選
さて今回、立憲民主党と国民民主党から立候補している労働組合系の候補者は、次のようになっています。
立憲民主党:
小沢雅仁(JP労組)
岸真紀子(自治労)
郡山玲(JAM)
水岡俊一(日教組)
森屋隆(私鉄総連)
吉川沙織(情報労連)
国民民主党:
礒崎哲史(自動車総連)
田村麻美(UAゼンセン)
浜野喜史(電力総連)
平戸航太(電機連合)
ひさしぶりの『労働新聞』書評です。いろいろあって、4,5月に3本載ったので、6月はお休みで今回が7月分ということになります。
https://www.rodo.co.jp/column/202053/
インドといえば、我われ日本人には偉大なガンディーが作った国・・・というイメージが強い。「ガンディーが助走をつけて殴るレベル」というネットスラングも、非暴力主義でインドの独立を果たしたガンディーの高潔さを前提としている。そのガンディーを暗殺した右翼結社の民族奉仕団(RSS)で頭角を現し、グジャラート州知事として「実績」を挙げて、今日インドの首相として絶対的権力を振るっているのが、ナレンドラ・モディその人だ。ロシアや中国といった権威主義国家が近隣にある日本は、どうしても「世界最大の民主主義国家」という触れ込みのインドに点が甘くなりがちだ。だが、モディ政権の実態を細密な写実画のように描きだした本書を読み進んでいくと、ロシアや中国も顔負けの権威主義国家の姿が浮かび上がってくる。政権党であるインド人民党(BJP)は、RSSが母体となって作られたヒンドゥー至上主義の政党であり、少数派(といっても13億人中2億人弱だが)のイスラム教徒を目の敵にしている。貧家に生まれたモディはRSSで頭角を現し、グジャラート州の知事の座をつかむ。知事時代に同州で起こったのがグジャラート暴動といわれるイスラム教徒の虐殺事件だ。当時の英国政府の報告書から浮かび上がってくるのは、州政府が意図的にイスラム系住民の情報を流し、暴徒による虐殺を容易にしていたという疑惑だ。しかし、モディは制裁を受けるどころか「暴力の配当」としてその権力を強化する。そして、グジャラート経済を活性化した「モディノミクス」をひっさげて、2014年の総選挙で大勝し、インド首相の座についた。本書に溢れるモディのイスラム教徒に対するヘイトスピーチは、ヒンドゥー教徒の多数派によって支持されているのだ。もう一つ、我われが知らなかったモディの真実は、ロシアや中国並みの情報統制で、国民を知らしむべからず由らしむべしの状態に置いていることだ。膨大な予算をつぎ込んでモディを礼賛する映画や番組を流す一方で、マスメディアに対しては脅迫と妨害、時には権力による抑圧の限りが尽くされる。インド国内ではもはやモディ礼賛以外の報道は不可能だ。その力が及ばないBBCが23年、グジャラート暴動やイスラム教徒への差別・攻撃政策を描きだしたドキュメンタリーをイギリスで放送したとき、インド政府はBBCの現地支局に家宅捜査に入り携帯電話まで押収した。20年にインドを訪問したトランプ米大統領が「自由、解放、個人の権利、法の支配、そして、一人ひとりの尊厳を誇りを持って尊重する国、それがインドです」と褒め称えたとき、地元デリーでは与党系のヒンドゥー至上主義勢力がイスラム教徒を「国賊」と叫んで暴行を呼びかけ、暴動が起きていた。今年起こったカシミール州での事件も、イスラム教徒が多数を占める同州の自治権を19年に剥奪したことが原因だ。モディのインドは、我われが学んできたガンディーのインドとは正反対の存在になり果ててしまっているようだ。
『労務事情』2025年7月1日号に、連載「数字から読む日本の雇用」の第37回として、「男女間賃金格差(男性=100)75.8%」を寄稿しました。
https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/romujijo/b20250701.html
去る3月17日に厚生労働省が公表した「2024年賃金構造基本統計調査の概況」によれば、一般労働者(いわゆるフルタイム労働者)の月額賃金(賞与、残業代除く)は男性を100とした場合、女性は75.8となり、男女の賃金格差は比較可能な1976年以降で最少となりました。・・・
もう定期刊行物ですが、我が大日本国においては、
政府を大きくしたくて仕方がなくてそのための税金を死守するぞと叫ぶのがなぜか豊かな経営者の支持する右派政党で、
政府を小さくしたくて仕方がなくてそのために税金を極小化するぞと叫ぶのがなぜか貧しい労働者の支持する左派政党です、
と西欧人に説明する時のやりきれなさに、誰か名前をつけてほしい
本日の朝日新聞の「論壇時評」に、『Voice』7月号に載せた拙稿「日本の賃上げはなぜ難しいのか?」が、吉弘憲介さんによって取り上げられています。
https://www.asahi.com/articles/AST6T2S37T6TUCVL039M.html
吉弘憲介 経済・財政
▷濱口桂一郎「日本の賃上げはなぜ難しいのか」(Voice7月号)
〈評〉政府や経団連によると、日本の賃金は毎年約2%増とされてきた。しかし個々の労働者の賃金=ミクロは上がりながらも、全体の賃上げ=マクロにはつながっていない。これはミクロの数字が定期昇給を含んでいるからだ。定期昇給は、上の年代を退職させて途中を順々に引き上げる「ゼロサム的賃上げ」を意味する。個人の賃金が上がっても、企業の人件費に回す分はゼロサムとなり、1人あたりの賃金に直すと上昇していないというからくりである。今年の春闘では大企業を中心にベアアップに満額回答が相次いだ。しかし日本の給与決定メカニズムを踏まえると、この傾向が確定的なものではないことが分かる。
▷田中賢治「日本企業は資金をため込んでいるのか?」(経済セミナー6・7月号)
▷梶谷懐「米中対立はグローバルな自由貿易体制をどう変えるのか」(世界7月号)
ありがたやまでございます。
ちなみに、ベアというのはベースアップの略なので、ベアアップという言い方はしないと思います。
東洋経済オンラインの「80年目の戦争経済総決算」という特集シリーズの一環として、「みんなが出世競争する「日本型雇用システム」を生んだのは戦時・戦後の「社内平等革命」だった…差別をなくしたら非正規化が進むパラドクス」を寄稿しました。
https://toyokeizai.net/articles/-/885204
現代日本の労働問題といえば、安倍政権の「働き方改革」で二大課題とされた正社員と非正規労働者の格差の問題と長時間労働の問題が真っ先に挙げられる。
これらに加え、なかなか進まない男女格差の是正など、さまざまな労働問題の原因と指摘されるのが、かつては日本企業の競争力の源泉ともてはやされた日本型雇用システムだ。
だが、かつての礼賛派も今日の批判派も共通して見落としていることがある。
それは、いまや正社員と非正規労働者を堂々と差別する仕組みになってしまったこのシステムが、もともとはブルーカラーとホワイトカラーの間の、そしてホワイトカラーの中でもノンエリートとエリートの間の、差別をなくそうとする社内平等革命によって生み出されたものであったということだ。
平等を求めて作り出されたシステムが差別を生み出したというこの逆説こそ、80年目の総決算として改めて噛み締めるに値する。・・・・
『労基旬報』2025年6月25日号に「労災保険のメリット制」を寄稿しました。
労災保険制度には「メリット制」という仕組みがあり、その扱いをめぐって現在、厚生労働省労働基準局の「労災保険制度の在り方に関する研究会」(学識者9名、座長:小畑史子)で議論が行われています。同研究会の論点は広範に及びますが、そのうち近年あんしん財団事件をめぐって話題になったメリット制については、その歴史的経緯を改めてたどり直してみたいと思います。日本の労働者災害補償保険法は終戦直後の1947年4月7日に公布され、同年9月1日に労働基準法と同時に施行されました。その最初の段階から、保険料徴収におけるメリット制が規定されていました。第二十七条 常時三百人以上の労働者を使用する個々の事業についての過去五年間の災害率が、同種の事業について前条の規定による災害率に比し著しく高率又は低率であるときは、政府は、その事業について、同条の規定による保険料率と異なる保険料率を定めることができる。その趣旨について、制定当時の担当課長であった池辺道隆はその著書(『最新労災保険法釈義』三信書房、1953年)において、「メリツト制は保険的性格を損うことなく、しかも・・・公平の観念に合致し、且つ、災害の減少を期すことができるもの」と述べていました。もっとも、法律に「過去五年間」とあるように、この規定が動き出すには施行後5年の経過が必要のはずでした。ところが、労災保険財政は火の車で補償費すら満足に支払えない状態が続き、保険料率の改定だけでは不十分で、災害の発生率を減少させることが必要との判断から、急遽1951年3月にメリット制の実施時期を2年早める改正を行い、同年4月から施行されました。この時、メリット制の適用事業を労働者300人以上から100人以上に拡大しています。また、保険料率の増減の基準を収支率85%超えで引き上げ、収支率75%以下で引き下げとしました。次の改正は建設事業への適用拡大です。メリット制は前述のように過去3~5年間の収支率で保険料を上下するので、建設事業のような有期事業は適用除外されていました(労災保険則第23条の2第3項)。池辺によれば「有期事業は、元来一般に期間が短く、しかも、その作業環境が個々の作業と作業の進捗状況によつて異るものであり、また事業の性質上移動性に富み、メリツト制の対象とするには適応性と実益に乏しいから」です。しかし、建設事業における災害が年々増加する実情に鑑み、建設事業にもメリット制を適用して災害防止を行うべきとの考えが強くなってきました。こうして、1955年8月に法改正が行われました。有期事業としての特殊性から、その適用要件を労働者数ではなく確定保険料20万円以上とし、保険料は事業が終了してから精算するという仕組みになっているので、保険料率ではなくその精算するべき確定保険料の額を増減するという仕組みです。なお、1960年6月の法改正(給付の年金化や特別加入の創設で有名ですが)により、立木の伐採の事業及び一括有期事業にも適用拡大されました。その後、1971年12月に労働保険徴収法が成立し、適用徴収関係の規定は同法に移されました。その後も徴収法上でメリット制に係る改正は相次ぎ、中小規模事業場のうち災害度係数が高いものにも適用拡大するとか、メリット増減幅を30%から35%へ、さらに40%に拡大するといった改正が行われています。また1980年12月の改正では、日雇または短期間雇用で事業場を転々する労働者が遅発性の職業性疾病に罹患した場合には、当該疾病の発生の責任を最終事業場の事業主にのみ帰属させるのは不合理なので、これら特定疾病に係る給付額はメリット収支率の算定基礎から除外しました。この時点では林業の振動障害、建設事業のじん肺と振動障害、港湾運送業の非災害性腰痛です。その後2006年に石綿、2012年に騒音性難聴が追加されました。その他の改正は省略します。労災保険制度が複雑化するのにつれて規定ぶりも複雑になっていますが、大筋は変わっていません。このように展開してきたメリット制が思いがけない形で世間の注目を浴びたのは、一般財団法人あんしん財団事件によってです。同事件の東京地裁判決(令和4年4月15日)は、労災支給処分の取り消しによって回復すべき法律上の利益を有しないとして却下しつつ、保険料認定処分の取消訴訟でその違法性を取り消し事由として主張できると判示したのに対し、その控訴審である東京高裁判決(令和4年11月29日)は労災支給処分の取消訴訟の原告適格を認める考え方に立って事件を東京地裁に差し戻したのです。これに対して厚生労働省は2022年10月に「労働保険徴収法第12条第3項の適用事業主の不服の取扱いに関する検討会」(学識者5名、座長:荒木尚志)を設置し、同年12月に報告書を取りまとめ、労災支給処分の取消訴訟の原告適格は認めないが、保険料認定処分の取消訴訟で労災支給処分の違法性を主張することは認めることとし、翌2023年1月に通達「メリット制の対象となる特定事業主の労働保険料に関する訴訟における今後の対応について」(基発0131第2号)を発出しました。この考え方はその後最高裁により承認されましたが、こういう事態が起こるのもそもそもメリット制などというものがあるせいではないかという批判が沸き起こってきたのです。例えば、日本労働弁護団は2023年2月に出した幹事長声明で次のように述べています。・・・かかる判決が出た原因は、メリット制によって、直接、使用者の保険料が増大する可能性が生じることにある。そもそも、メリット制は、労災保険料徴収法12条3項に「できる」とある通り、任意的適用となっており、一部疾病等については、通達によってメリット制の対象外となっている。その上、労災事故の防止という観点からは、業務起因性のある傷病が発生したことと、保険料増大を直接結び付けるべき理由はない。これに加え、現在のメリット制の在り方によって前記のような判決が出て、種々の被災労働者・遺族に対する負の影響があるため、メリット制のあり方について議論を速やかに開始し、迅速な補償を行うことで安心して労働者を療養させるという労基法第8章及び労働者災害補償保険法の趣旨を真に達成できる制度とすべきである。また、過労死弁護団全国連絡協議会メリット制検討チームが2022年12月に出した意見書は次のように述べています。そもそも、メリット制は、無過失責任を前提とする労災保険制度の下で適切かどうかとの議論が従前より存在し、加えて、今日においては、メリット制の導入当時と比べて、明白な災害性事故ではない労災、すなわち過労性疾患のような形態の労災が増加している状況の下で現行のメリット制がそのまま維持されることについては疑問があり、厚労省内においては、メリット制の存続の可否、ないし内容の変更の可否を検討していくことが必要な情勢になっていると思料する。こういった状況を踏まえ、冒頭に述べた労災保険制度の在り方に関する研究会においても、メリット制について次のような論点が示され、議論されているのです。【論点①】メリットの趣旨目的に照らして、メリット制は今日でも意義・効果があるといえるか。?メリット制の適用対象は妥当か?メリット制が災害防止に効果があるのか。【論点②】メリットの算定対象は妥当か。?特定の疾病をメリット収支率の算定対象外とすることについてどのように考えるか。?高齢者や外国人をメリット収支率の算定対象外とすることについてどのように考えるか。議事録を見る限り、委員の間でも意見はさまざまでまだまとまる段階にはなさそうですが、今後どのような方向に議論が進んでいくことになるのか、注目して見ていきたいと思います。
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