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2023年3月25日 (土)

サヨクとウヨクのウクライナジレンマ

我が国が東洋平和のためにこんなに一生懸命してやってるのに、鬼畜米英なんかとつるんで敵対しやがってふざけるな、暴支膺懲だ!

という実にいい実例があるにもかかわらず、誰もウクライナ戦争にそれを持ち出そうとしないのは何故か?

中国側の理由は簡単で、習近平がそれを許さないから。内心、プーチンの理屈は大日本帝国と同じやないかと思っている中国人は少なくないと思うが、習近平の世界戦略に反するので、そんなことを匂わせることも許されない。それはよく分かる。

では何故言論が自由な日本でそういう議論がほとんど出てこないのか、といえば、サヨクな人々にとってもウヨクな人々にとっても、それが都合が悪いからだろう。

アメリカ帝国主義がこの世の全ての悪の根源であり、それに抵抗する勢力は何をやらかそうが正義の側に位置するという信念を、かつての平和勢力であった共産圏がほぼ崩壊した後も心の奥底に守り続けてきたサヨクな人々にとっては、反米であるが故に絶対正義の側にあるプーチンを極悪非道であったはずの大日本帝国になぞらえるなどというのは許されない。

逆に、たとえ敗れたりと雖も大東亜共栄圏の理想は正しかったのであり、アメリカとつるんで正義の日本に敵対した支那が悪いんやとの信念を戦後民主主義の悪流の中ですっと守り続けてきたウヨクな人々にとっても、極悪非道のプーチンを絶対正義の大日本帝国になぞらえるなどというのは許されない。

どっちからしても許されないから、そういう誰もが思いつきそうな喩えは出てこなくなるということなんだろう。

2023年3月24日 (金)

カール・マルクス『一八世紀の秘密外交史』

621504_lrg カール・マルクス『一八世紀の秘密外交史 ロシア専制の起源』(白水社)をお送りいただきました。

https://www.hakusuisha.co.jp/book/b621504.html

と、書くと、えっ?と思われる方も多いかも知れません。

いや、正真正銘の、あのひげのおじさんのマルクスの本です。ただし、浩瀚なマルクス・エンゲルス全集には収録されていない稀覯論文です。

なぜ収録されていないか?それは、レーニンや、とりわけスターリンの逆鱗に触れるような中身だからです。

タタールの軛がもたらしたものは? なぜロシアは膨張したのか? クリミア戦争下構想され、数奇な運命を辿ったマルクスによるロシア通史。

「ロシアが欲しいのは水である」

資本主義の理論的解明に生涯を捧げたマルクス。彼はこの『資本論』に結実する探究の傍ら、一八五〇年代、資本の文明化作用を阻むアジア的社会の研究から、東洋的専制を発見する。
他方、クリミア戦争下に構想された本書で、マルクスはロシア的専制の起源に東洋的専制を見た。ロシア社会の専制化は、モンゴル来襲と諸公国の従属、いわゆる「タタールの軛」(一二三七―一四六二)によってもたらされたと分析したのである。
このため、マルクスの娘、エリノアの手になる本書は歴史の闇に葬られ、とりわけ社会主義圏では一切刊行されなかったという。
とはいえ、東洋的専制という問題意識は、その後、本書の序文を書いたウィットフォーゲルによって深められた。
フランクフルトの社会研究所で頭角を現した彼は、『オリエンタル・デスポティズム』(一九五七年)に収斂していく研究で、専制の基底に大規模灌漑を要する「水力世界」を見出し、さらに、ソ連・中国の社会主義を東洋的専制の復活を見た。
ウクライナ戦争が長期化する中、ロシアの強権体質への関心が高まっている。本書収録「近代ロシアの根源について」は今こそ読まれるべきだ。

そう、マルクスを崇拝していると称するロシアや中国といった諸国の正体が、まごうことなき東洋的専制主義であることを、その奉じているはずのマルクス本人が、完膚なきまでに暴露した本であるが故に、官許マルクス主義の下では読むことが許されない御禁制の書として秘められていた本というわけです。

そういうクリミア戦争を見ながら書かれた19世紀の本が、いま新た日本訳されて出版されるのは何故かと言えば、いうまでもなく、歴史は繰り返しているからです。今目の前で進行しつつあるウクライナ戦争を理解する上で最も役に立つのが、19世紀のマルクスの本だというのは何という皮肉でしょうか。

そして、本書のマルクスが書いたあんこの部分を包む皮の部分を書いているのが、70ページに及ぶ序文を書いているのが、あの東洋専制主義の大著を書いたカール・ウィットフォーゲルであり、40ページ近い解説を書いているのが、中国の専制主義を論じた福本勝清さんであり、その後の10ページ弱のあとがきを書いているのが本ブログでも何回も登場している石井知章さんという風に、いずれも中国の専制主義に強い関心を持っている人々である、というのも、まさに今日のアクチュアルな関心にぴたりと対応していると言えましょう。

序(ウィットフォーゲル)
 Ⅰ ロシア—どこへ? 人類—どこへ?
 Ⅱ マルクスのロシアに関する発見をめぐる深くかつ矛盾だらけの根源
 Ⅲ ピョートル大帝への再評価と世界史の新しい視点への切り口
 Ⅳ ロシア政治に関するある新しい歴史草案──大掴みで不安を煽るようなもの
 Ⅴ マルクスの『一八世紀の秘密外交史』を超えて──「アジア的復古」
 Ⅵ 「偶然」と「自由」──マルクスが残した最高の遺産
第一章 資料と批判 一七〇〇年代のイギリス外交とロシア
第二章 北方戦争とイギリス外交──『北方の危機』
第三章 イギリスのバルト貿易
第四章 資料と批判 イギリスとスウェーデンの防衛条約
第五章 近代ロシアの根源について 
第六章 ロシアの海洋進出と文明化の意味
 解説(福本勝清)
 あとがき(石井知章)
 人名索引/関連年表

 

2023年3月23日 (木)

人文科学と女子の職業的レリバンス(の欠如)

恵泉女学園大学の募集停止というニュースに対して、こういう感想を漏らされている方がいるのですが、

https://twitter.com/Medieval_Ragbag/status/1638418005146349568

長い間文学部系の女子大に勤めた者として、恵泉女子学園大の募集停止は非常につらく悲しいです。学長の大日向先生はよくテレビにも出ていた児童教育の権威者のようですが、立派な方とお見受けしました。閉学(と言って良いのでしょうか)の時に学長を務めるとは、辛い役割でしょう。

https://twitter.com/Medieval_Ragbag/status/1638418933257732097

かっての女子大の多くが文学や西欧語学を中心とした人文系で、これらの大学が日本の人文系学問のすそ野を支えてきたわけですが、社会にも政府にも、そして高校生や在学生にまでそっぽを向かれて滅びつつありますね。女子大の衰退は日本の人文学研究の衰退とかなり一致しているでしょう。

もしこの方の言われるとおり、女子大を中心とした人文系が「日本の人文系学問のすそ野を支えてきた」とするならば、それは卒業していく学生の職業的レリバンスを全く顧慮しなくて済むという優越的立場を利用したものであったということなのでしょう。

もう17年前のエントリですが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_722a.html(なおも職業レリバンス)

歴史的にいえば、かつて女子の大学進学率が急激に上昇したときに、その進学先は文学部系に集中したわけですが、おそらくその背景にあったのは、法学部だの経済学部だのといったぎすぎすしたとこにいって妙に勉強でもされたら縁談に差し支えるから、おしとやかに文学でも勉強しとけという意識だったと思われます。就職においてつぶしがきかない学部を選択することが、ずっと仕事をするつもりなんてないというシグナルとなり、そのことが(当時の意識を前提とすると)縁談においてプラスの効果を有すると考えられていたのでしょう。

一定の社会状況の中では、職業レリバンスの欠如それ自体が(永久就職への)職業レリバンスになるという皮肉ですが、それをもう一度裏返せば、あえて法学部や経済学部を選んだ女子学生には、職業人生において有用な(はずの)勉強をすることで、そのような思考を持った人間であることを示すというシグナリング効果があったはずだと思います。で、そういう立場からすると、「なによ、自分で文学部なんかいっといて、いまさら間接差別だなんて馬鹿じゃないの」といいたくもなる。それが、学部なんて関係ない、官能で決めるんだなんていわれた日には・・・。

こちらは12年前のエントリで、金子良事さんのツイートに反応しています。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/01/post-0ec2.html(花嫁修業の職業的レリバンス)

金子良事さんの大変面白いつぶやき

>戦後、短大で文学を勉強するなどが花嫁修業のように見做されたこともあったが、戦前であれば、そんなものは認められなかっただろう。元々の良妻賢母教育は徹底した実学であり、そういう意味では職業的レリバンスにあふれていたのである。

ということは、かつての家庭内労働力としての性能向上のための職業訓練としての花嫁修業が、戦後「人間力」「官能性」を高めるためのよく分からない何かに「進化」していったということなのでしょうね。

これももう8年前になりますが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/08/post-32e9.html(女子教育と職業レリバンス)

女性差別的な教育談義を批判するのに、職業教育批判を持ち出すような方がいるとすれば、それこそ「人文」系の知識人といわれる方々の社会認識の偏りを示しているのでしょう。

むしろ、職業レリバンスの乏しい教育を娘に受けさせることが、花嫁レリバンスの高さに繋がっていたことが、「人文」系大学教員の雇用機会の拡大の大きな理由であったわけですけど。

どうせ永久就職するのだから就職の心配などする必要のない「楽園」であればこそ花開いた人文科学のあれやこれやが、なまじ女子も男子に伍して活躍すべく職業的レリバンスという名の世俗のがらくたに巻き込まれてしまったために「衰退」していくのだとすれば、それをただひたすらに悲しむこと自体が一定のジェンダー的バイアスを有しているわけですが、まあ人文的「知」をお持ちの方々がそれにどこまで自覚的であるかは必ずしも定かではありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

2023年3月22日 (水)

雇用保険の給付制限期間@『労基旬報』2023年3月25日号

『労基旬報』2023年3月25日号に「雇用保険の給付制限期間」を寄稿しました。

 去る2月15日に開催された第14回新しい資本主義実現会議において、岸田文雄首相は突然、雇用保険の失業給付について自己都合離職者に課せられている給付制限期間を見直す意向を明らかにしました。議事概要によると、最後の締めくくり発言のところで「さらに、労働移動を円滑化するため、自己都合で離職した場合の失業給付の在り方の見直しを行う」と述べています。その趣旨について、後藤内閣府特命担当大臣が記者会見でこう説明しています。
 今、日本の労働政策であれば、自己都合で退職をした方と企業側で退職した方で給付の内容等が異なっています。本当に労働移動というものをしっかりと担保していこうということであれば、この辺の失業給付の在り方についても見直しもしていく必要があるだろうと思います。もちろん関係者にもいろんな御意見もあると思いますから、そうした皆さんの意見も聞きながらでありますが、労働移動の円滑化という点から、そういう労働法制についても制度的な見直し、検討の対象にしていく必要があると考えています。
 実際、同会議に提示された基礎資料の中には、「自己都合離職と会社都合離職」というタイトルのペーパーに、「労働者が、自らの希望に応じて会社内・会社間双方において労働移動していくシステムに移行するためには、自己都合離職者の場合、求職申込み後2か月ないし3か月は失業給付を受給できないといった要件の要否の必要性について、慎重に検討すべきではないか」と書かれていて、労働移動促進のための政策として打ち出されてきていることが分かります。
 ただ、議事概要を見る限り議員の関心はもっぱらジョブ型雇用やリスキリングといったことに集中し、雇用保険の給付制限に明示的に言及している人は見当たらないようです。しかしそれは特段反対する声がないと言うことなので、逆にその方向で今後政策が進められていく可能性が高いということでもあり得ます。
 本稿では、官邸の会議で急に飛び出してきたこの話題について、そもそもの制度の根源に遡って、どういう経緯で今日の制度が形成されてきたのかを見てきたいと思います。
 現在の雇用保険法は、1947年11月21日に失業保険法として制定されたものですが、その制定の過程では様々な意見が交わされていました。労働省職業安定局失業保険課編『失業保険十年史』(1960年)によると、まず前年の1946年3月29日、厚生省に社会保険制度調査会が設置され、そこでは賀川豊彦が失業保険組合方式を強く主張しましたが、厚生省当局の意向は国営保険方式にあり、その方向で制度設計が進められました。しかしそのいずれも自己都合離職を対象外とするものでした。すなわち賀川豊彦の失業保険組合法案要綱では、支給条件は「労働意思及労働能力あり、自己の意思によらず失業したこと」ですし、事務局の国営失業保険法案要綱でも、支給条件は「失業後定期的に勤労署に出頭し失業の認定を受けること、勤労署による就職斡旋を正常な理由なしに拒否したのでないこと、自己の不行跡により解雇せられたのでないこと」ですが、さらに「自己都合に基づく離職、又は争議による就業停止は失業と認めない」となっていました。つまり、自己都合離職はそもそも失業保険の対象にすべきではないと考えられていたのです。
 同年12月13日に同調査会から厚生大臣に答申された失業保険制度要綱案では、国営強制失業保険制度として次のような支給条件を明示していました。
・勤労暑による就職斡旋又は職業訓練に関する指示を正当な理由なしに拒否した者その他一定の事由に該当する者には保険給付を与えない。
・自己の不行跡により解雇せられた場合は、保険給付の全部又は一部を停止する。
・自己の便宜に基づき離職した場合には原則として保険給付を与えない。
・争議による就業休止は失業と認めない。
 なお労働組合の産別会議は、これに対して「厚生省原案の「自己の不行跡により解雇せられた場合」「自己の便宜のために離職した場合」は削除する。すべて労働組合失業委員会と市民失業委員会の自主的活動に一任する」という改正意見を提出していました。また、総同盟は「自己便宜の場合は保険料掛金の二分の一程度を返還すること」を要求していました。
 翌1947年には関係各庁及び民間有識者からなる「失業保険法案及び失業手当法案起草委員会」が設置され、同年7月に失業保険法要綱案が取りまとめられましたが、そこでも「重大な過失、自己の責に帰すべき事由で解雇され、理由がないのに自分で退職したとき、詐欺、不正行為によるときは支給しない」と、自己都合離職は完全対象外のままでした。
 ところが、同年8月28日に政府が第1回国会に提出した失業保険法案では、そこがこのように変わっていました。
(給付の制限)
第二十一条 受給資格者が、公共職業安定所の紹介する職業に就くこと又はその指示した職業の補導を受けることを拒んだときは、その拒んだ日から起算して一箇月間は、失業保険金を支給しない。但し左の各号の一に該当するときは、この限りでない。
 一 紹介された職業又は補導を受けることを指示された職業が、受給資格者の能力からみて不適当と認められるとき。
 二 就職するために、現在の住所又は居所を変更することを要する場合において、その変更が困難であると認められるとき。
 三 就職先の報酬が、同一地域における同種の業務及び技能について行われる一般の報酬水準に比べて、不当に低いとき。
 四 職業安定法第二十条の規定に違反して、労働争議の発生している事業所に受給資格者を紹介したとき。
 五 その他正当な理由のあるとき。
第二十二条 被保険者が、自己の責に帰すべき重大な事由によつて解雇され、又はやむを得ない事由がないと認められるにもかかわらず自己の都合によつて退職したときは、第十九条に規定する期間の満了後一箇月以上二箇月以内の間において公共職業安定所の定める期間は、失業保険金を支給しない。
第二十三条 受給資格者が、詐欺その他不正の行為によつて、失業保険金の支給を受け、又は受けようとしたときは、失業保険金を支給しない。
  前項の場合において、政府は、失業保険金の支給を受けた者又はその相続人に対し、当該支給金額に相当する金額の返還を命ずることができる。
 国会では、この第21条と第22条にそれぞれ第2項が追加されました。いずれも、それぞれの認定基準について、労働大臣が失業保険委員会の意見を聞いて定めた基準によるべしとするものです。
第21条② 公共職業安定所は、受給資格者について、前項各号の一に該当するかしないかを認定しようとするときは、労働大臣が失業保険委員会の意見を聞いて定めた基準によらなければならない。
第22条② 公共職業安定所は、被保険者の離職が前項に規定する事由によるかどうかを認定しようとするときは、労働大臣が失業保険委員会の意見を聞いて定めた基準によらなければならない。
 残された資料からは、自己都合離職の場合の給付制限期間が原則不支給から「1か月~2か月」とされた理由は判然としません。これによって、日本の失業保険制度はアメリカ型の会社都合離職のみを対象とするものから、ヨーロッパ型の自己都合離職も対象に含めるものに変わったわけですから、どこかにその説明があってしかるべきではないかと思われますが、残念ながらどこにも見つけることができませんでした。
 ただ、1949年改正後に刊行された亀井光『改正失業保険法の解説』(日本労働通信社、1949年)には、この条項についてかなり詳しい説明がされています。そこでは、「一箇月以上二箇月以内の間において公共職業安定所の定める期間」について、「やむを得ない事由」に関する認定基準に該当しない自己都合離職の場合には概ね一箇月と書かれています。こうして、自己都合離職者についてはほぼ一律に1か月の給付制限がかかるという制度設計で失業保険法は出発したわけです。
 失業保険法はその後給付日数の設計を中心に繰り返し様々な改正が行われてきましたが、1974年に雇用保険法に全面改正された後も、この自己都合離職者に係る給付制限の規定は制定時と変わらないまま維持されてきました。それが大きく変わったのは1984年改正によってです。法律の条文上は、給付制限の条項(第33条)の「一箇月以上二箇月以内」を「一箇月以上三箇月以内」に改めました。そして離職理由による給付制限期間は一律に3か月とされました。加藤孝『改正雇用保険の理論』財形福祉協会(1985年))には、その趣旨が次のように書かれています。
・・・正当な理由がなく自己の都合によって退職した者は、自発的に失業状態を作りだした者であり、当面一応労働の意思を欠くと推定することが妥当な者である。しかも、雇用保険における失業給付は、本来非任意的失業に対して給付を行うことをその趣旨としており、自発的失業というのは制度の本旨になじまないものである。しかしながら、労働の意思及び能力というものはときの経過とともに変化するものであり、当初は任意的失業であっても一定の期間の経過により非任意的失業と同様の状態に変化することがある。給付制限の対象となる受給資格者についても、給付制限期間の経過により非任意的失業に転化した者として類型的に処理することとしている。このように、給付制限を行うことによって受給資格者の就職意欲を喚起し反省を促すとともに、又一方受給資格者が基本手当の受給のみに依存して怠惰に陥ることを防止し、他方その就職の促進を図ろうとしているのである。
 この文章は、非自発的失業者は労働の意思を欠くと推定できるなどというまことに非論理的な議論を展開していて、どう評していいのかよく分からないところがあります。いうまでもなく、雇用保険法がいう「失業」自体の要件に労働の意思と能力が含まれるのであり、労働の意思を欠いているのであればそもそも自発的退職者ではあっても自発的失業者ではあり得ません。会社を辞めることが自発的であるということと、辞めた後に労働の意思を持って求職することとは、もちろん何ら矛盾するものではありません。「制度の本旨」云々というのは、上述のような失業保険法制定時のいきさつから、「労働の意思を有する失業者であっても自発的離職者は対象から除外する」という意味であればその通りですが、上の文章はそういう意味にはとれません。なぜこんな非論理的なことを言っているのかというと、給付制限が一定期間後には解除されて受給できるようになることを合理的に説明したかったからなのでしょう。だから、給付制限を受けている間は「労働の意思を欠く」から給付しないのだけれども、その期間が経過したら「労働の意思を有する」ようになったからという理由で給付を始めるわけです。
 しかしながら、同じ1984年改正で導入された再就職手当は、その「労働の意思を欠く」ことになっている給付制限期間中に、公共職業安定所の紹介により就職した場合にも支給されることになっており、はっきりいって論理的に破綻した制度設計になっています。いやもちろん、この名著における説明が破綻しているというだけであって、自発的に離職して労働を意思を持って求職している者が再就職することを促進することは、雇用保険受給者の再就職促進という当時の政策課題に対処する手段としてなんらおかしなものではなかったのです。
 いずれにしても、本音のレベルでいえば、この改正の元になった中央職業安定審議会雇用保険部会における使用者側の意見「現在ではむしろ再就職するよりも失業給付を受けて暮らした方が良いというような風潮が出てきている。このような風潮をなくすためにも、給付制度は厳しくすべきである」に対応するための給付制限期間の延長であったわけです。その厳格さを、後の2000年改正におけるように、解雇・倒産の場合と自己都合離職の場合とで給付日数で差をつけるというやり方ではなく(それなら制裁としての意味で一貫する)、おあずけ期間を長くするというやり方に頼ったために、こういう非論理極まる説明をでっち上げなければならなくなったものと思われます。
 逆に2000年改正では、雇用保険財政の逼迫を主な理由として離職理由による給付日数の大幅な格差の設定が行われましたが、給付制限期間の扱いについては変りがありませんでした。その後、自己都合離職者の給付日数については、とりわけ労働側から繰り返しその見直しが要求されてきましたが、国庫負担増につながるために財務省が反対し続けていることもあり、実現に至っていません。
 一方、ごく最近の2020年改正では、この自己都合離職者の給付制限期間が5年間のうち2回までは2回に短縮するという措置が導入されています。もっとも、法律上は「一箇月以上三箇月以内」で変わっていません。政省令にも出てこず、通達レベルの業務取扱要領で初めて出てきます。まさに運用レベルのものです。
 ですから、これをさらに1984年改正までのように1か月まで短縮するというのであれば、法改正の必要はなく、業務取扱要領だけで済ますことができます。しかし、自発的失業と非自発的失業の格差をなくすべきということになると、「一箇月以上」がネックになります。非自発的失業の方は7日間の待機期間が過ぎれば直ちに受給できるわけですから、それとイコールフッティングにするためには、そもそも法第33条第1項から「又は正当な理由がなく自己の都合によつて退職した場合」という部分を削除する必要が出てきます。
 岸田首相がどこまでの意図を持って、新しい資本主義実現会議において語っているのかは判然としませんが、労働移動の円滑化の他面という目的からすると非自発的離職者との格差解消を念頭に置いているようにも思われ、そうするとこれはやはり法改正事項ということになりそうです。

 

永田大輔・松永伸太朗・中村香住編著『消費と労働の文化社会学』

619166 永田大輔・松永伸太朗・中村香住編著『消費と労働の文化社会学 やりがい搾取以降の「批判」を考える』(ナカニシヤ出版)をお送りいただきました。

http://www.nakanishiya.co.jp/book/b619166.html

労働の変化を問い直しながら、様々な消費文化と関わる労働を描きだし、外在的な批判を超える多様な「批判」のあり方を考える

編著者の一人の松永さんについては本ブログや『労働新聞』の書評でも何回か取り上げてきたことがありますが

https://www.rodo.co.jp/column/99888/

他の方々のほとんどは、恐らくもっと若い世代の研究者です。キーワードは阿部真大から本田由紀が作り上げた「やりがい搾取」というキャッチーなコンセプトを、もう少し丁寧に現実に即してその実相を解き明かしていこうというところにあります。

一つ一つが独立した論考なのですが、一つだけ取り上げてみれば、第2章の林凌さんの「労働問題の源泉としての「新自由主義」? 」が、今日的な課題にかなり接近したところから「消費者主権」が労働者の権利にもたらすものを細かく論じています。

第2章 労働問題の源泉としての「新自由主義」?
労働者/消費者としての私たちをめぐって 林 凌
1 労働問題の社会学的記述と社会理論
2 批判的労働研究における問題のありか:「新自由主義」と「消費者主権」
3 繰り返される構図:「消費社会」批判と「新自由主義」批判の相同性
4 「消費者主権」のルーツとしての「国家問題」:労働者の権利と消費者の権利の対立
5 労働問題の源泉を探り出すために

あと、本ブログで裁判例をいくつか拾ってきたアイドルの労働については、上岡磨奈さんの「芸能という労働」が面白かったです。

第8章 芸能という労働
「アイドル・ワールド」において共有される情熱の価値 上岡磨奈
1 アイドルという仕事
2 アイドル研究で語られてきたもの,こなかったもの
3 研究の対象と方法
4 アイドルの世界における時間,報酬,感情
5 むすびにかえて

 

 

 

 

2023年3月17日 (金)

尾形强嗣『「非正規雇用」について考える』

Booklet05230314 JILPTの労働大学校長の尾形强嗣さんが『「非正規雇用」について考える』というブックレットを刊行しました。

https://www.jil.go.jp/publication/ippan/booklet/05.html

今次コロナ禍は非正規雇用で働く多くの人々を直撃し、その雇用不安や処遇・キャリア形成などに改めて関心が集まっています。「働き方改革」の中でも、この働き方を肯定・否定いずれに捉えるかを巡り重要な方向性が示されましたが、非正規雇用が増大し、働く人の4割近くになったことは、福祉国家体制を支えてきた伝統的雇用システムに対する大きな挑戦でもあるでしょう。改めて、「非正規雇用」について、その概念、生まれ育ってきた歴史と背景、問題点、対策の経緯、現状などを概観しつつ、読者とともに、一からこの問題を考えたいと思います。なお、本問題に関し、エポックとなる重要文書などを巻末資料として収録しました。

尾形さんは、私の後にEU日本政府代表部一等書記官として勤務した方です。

 序章 コロナ禍の直撃を受けた非正規雇用の人々
Ⅰ 「非正規雇用」とは何か
Ⅱ 非正規雇用活用の歴史と現在
(1)非正規雇用前史
(2)新しいタイプの非正規雇用の登場(非正規雇用激増の背景)
(3)近年における非正規雇用増加の特徴
①大企業における非正規雇用の増加
②アルバイトの急激な増加
(4)数字で辿る非正規雇用拡大の歴史(現在まで)
Ⅲ 非正規雇用を選択する理由・背景
(1)企業側ニーズの背景
(2)非正規雇用で働く理由
Ⅳ 非正規雇用の問題点
(1)働く者の実態とその問題点
(2)経済社会全体の視点からの問題点
(3)労使関係、「労使自治」に与える影響
Ⅴ 非正規雇用に関する国の対策(沿革)
(1)対策前史
(2)第二世代の登場と問題の本格化
①パート労働対策(パート法制定まで)
②派遣労働対策(派遣法制定まで)
(3)規制改革の政治潮流(派遣法等の規制緩和を巡る動向)
(4)若年者雇用問題からの政策展開(非正規雇用問題への気づき)
(5)格差問題の沸騰と眼差しの変化
①パート法改正(2007年)による均等・均衡処遇の明文化
②派遣労働者保護に向けた規制強化の動き(2008年改正法案まで)
(6)リーマン・ショックへの対応(2008~9年)
(7)民主党中心政権下での動き(本格的な非正規雇用対策の策定へ)(2009~12年)
①「望ましい働き方ビジョン」(2012年)
②非正規雇用労働者保護を目的とした法制的検討
(8)政権交替後の(現在に至る)非正規雇用対策(2013年~)
①前政権の流れの補完・修正
②働き方改革と「同一労働同一賃金」の再登場(2016年~)
Ⅵ 非正規雇用対策の現在
Ⅶ 非正規雇用にビジョンはあるか
あとがき
参考文献
関連年表
資料編

 

 

2023年3月16日 (木)

最低賃金全国加重平均1000円に!?

000124187 昨日久しぶりに開かれた政労使会議ですが、岸田首相のこの発言が注目を集めているようです。

https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202303/15seiroushi.html

・・・最低賃金について、昨年は過去最高の引上げ額となりましたが、今年は、全国加重平均1,000円を達成することを含めて、公労使三者構成の最低賃金審議会で、しっかりと議論いただきたいと思っております。
 また、地域間格差の是正を図るため、地域別最低賃金の最高額に対する最低額の比率を引き上げることも必要です。
 この夏以降は、1,000円達成後の最低賃金引上げの方針についても議論を行っていきたいと思っております。・・・

まずもって、今年全国加重平均1000円を達成するということは、現在の全国加重平均が961円ですから、約40円近く引き上げるということを意味します。

そして、ここ最近は、ランクにあまり関係なく東京から沖縄までほぼ同じくらい引き上げるというやり方になってきているので、今年もそうだとすると、東京や神奈川は今年1110円くらいになり、鹿児島や沖縄は890円を超えていくということになるはずです。

いやそれでも足りないかもしれません。その次のセンテンスからすると、この格差を縮小しようというわけなので、鹿児島、沖縄は一気に900円越えするかも知れません。

しかも、それで一服というわけではなく、その先の目標設定も考えているようです。

 

 

 

学校法人早稲田大学事件

Waseda_main1 本日届いた『労働新聞』は、私の書評が載っているわけではないのですが、判例解説のページに大変興味深い裁判例が載っていたので、ご紹介しておきたいと思います。労働新聞社のサイトに冒頭部分が載っています。

https://www.rodo.co.jp/precedent/146658/

学校法人早稲田大学事件(東京地判令4・5・12) 教員公募試験に不合格、公正でないと賠償請求 選考過程の開示義務負わず

公募された専任教員の選考過程の情報開示を求めたが、拒否された非常勤講師が損害賠償を求めた。書類選考で不合格だった。東京地裁は、職安法は根拠になり得ないなどとして請求を退けた。仮に開示が必要な個人情報としても、開示すれば採用の自由を損なうおそれがあるなどとしている。労働組合の団交要求も、義務的団交事項に当たらず応諾義務を否定した。

事案の概要

 原告Aは、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科が平成28年1月に行った専任教員の公募(本件公募)に応募したが、書類審査の段階で不合格となった者である。

 (1)原告Aが、被告には、本件公募の応募者に対して本件公募の採用選考過程や応募者がどのように評価されたかについて情報を開示し説明をする義務があるにもかかわらず、被告は、開示を拒否し続け、原告Aの透明・公正な採用選考に対する期待権および社会的名誉を侵害したと主張して、被告に対し、不法行為に基づき、慰謝料等を請求した。また、(2)原告Aの加入する原告組合が、被告に対し、本件公募の採用選考過程や原告Aの評価等に関する情報開示および説明を団体交渉事項とする団体交渉を申し入れたところ、被告が正当な理由なくこれを拒否したと主張して、団体交渉事項について団体交渉を求める地位にあることの確認を求めるとともに、被告の団体交渉拒否により団体交渉権を侵害され、労働組合としての社会的評価を毀損されたと主張して、不法行為に基づき、無形の財産的損害等を求めた事案である。

この事件の原告の方は、私は個人的によく知っている方なのですが、それは別にしても、募集とは何か、採用とは何か、という基本的なところで、大変いろんなことに関わるような重要な素材的意義のある判決だと思います。

とりわけ、採用の自由論との関係でこういうふうに論じているところは、

・・・被告は、採用の自由を有しており、どのような者を雇い入れるか、どのような条件でこれを雇用するかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるところ、大学教員の採用選考に係る審査方法や審査内容を後に開示しなければならないとなると、選考過程における自由な議論を委縮させ、被告の採用の自由を損ない、被告の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがあるからである。したがって、被告は、個人情報保護法28条2項2号により、これらの情報を開示しないことができる・・・

大学教授というのは、本来「その仕事ができる人がいますか?」というジョブ型採用の典型的なものだとすると(日本の裁判官は大学教授の整理解雇事件の判決なんかを見る限りそうは思っていないようですが)、本当にその仕事を最もよく遂行しうる人を選んだのか、そうじゃないのか、というのは重大な論点になるはずですが、全くそういう感覚はなさそうです。まあ、現実の大学教授の方々はメンバーシップ型雇用の中で生きているという実態があるからかも知れません。

本判決は、残念ながら判例雑誌では『労働判例ジャーナル』に概要が載っているだけですが、ぜひちゃんとした評釈で突っ込んで議論をしてみたいところです。

 

 

 

 

 

2023年3月15日 (水)

池田心豪『介護離職の構造』

Cover_no4 池田心豪さんの『介護離職の構造─育児・介護休業法と両立支援ニーズ』が、JILPT第4期プロジェクト研究シリーズNo.4として刊行されました。これは池田さんの単著です。

https://www.jil.go.jp/institute/project/series/2022/04/index.html

少子高齢化を背景に、政府は、家族介護による離職(介護離職)を社会保障と経済対策の双方に関わる重要な問題と位置づけ、「介護離職ゼロ」に向けた総合的な対策に取り組んでいます。労働政策においては、1995年制定の育児・介護休業法が3か月(93日)の介護休業を企業に義務づけています。しかし、その取得者は少なく、政府は法改正を通じて多様な両立支援の整備を進めています。

本書は、現行法が想定する仕事と介護の生活時間配分の問題から守備範囲を広げて、介護者の健康や人間関係の問題など、介護離職につながりうる多様な問題にも着目し、対応可能な両立支援制度の考え方を示しています。多様な両立支援ニーズに対応することによって「介護離職ゼロ」にも貢献しうる政策研究であるといえます。

池田さんは一昨年、中央経済社からシリーズダイバーシティ経営の一冊として『仕事と介護の両立』を出していますが、本書はそれと同じフィールドを、だいぶ異なる観点から検討した本です。

  • 章 介護離職問題と両立支援の現在地
  • 第1章 法制度と実態の乖離を問う─本研究のための「構造」概念の整理
  • 第2章 介護離職防止のための法政策─育児・介護休業法の枠組み
  • 第3章 長期介護休業の必要性─その理由の多様性に着目して
  • 第4章 日常的な介護と介護休業─介護休暇・短時間勤務との代替関係
  • 第5章 介護者の健康と両立支援ニーズ─生活時間配分と健康問題の接点
  • 第6章 介護サービスの供給制約と介護離職─介護の再家族化と両立支援ニーズ
  • 第7章 「望ましい介護」と仕事の両立─介護方針の多様化と介護離職
  • 第8章 介護離職と人間関係─職場、家族、友人との関係に着目して
  • 章 多様性に対応した両立支援に向けて

 

 

2023年3月11日 (土)

三吉勉『個別化する現代日本企業の雇用関係』

616614 三吉勉『個別化する現代日本企業の雇用関係-進化する企業と労働組合の対応』(ミネルヴァ書房)をお送りいただきました。

https://www.minervashobo.co.jp/book/b616614.html

日本の大企業セクターにおける個別化された雇用関係の現実とは――。労使関係論の方法である「どんな仕事をどれくらいやって、いくらもらうのか」という仕事に関する規則に着目、その規則を決定するために労使間でどのような合意形成のための取り組みがなされているのか、ある日本企業の企業別労働組合を事例に観察・分析、今後を展望する。

本書では一貫して「A社」といってますけど、2017年に大阪から東京に本社移転した日本の代表的電機企業といえばもちろんパナソニックです。

そして著者の三吉さんはパナソニックの労働組合にいた方なので(著者紹介には「民間電機メーカーにて技術者として勤務。労働組合の専従役員在任中に同志社大学大学院社会学博士課程修了」とあります)、実はご自分の関わった労使関係を描いた研究という面もあるのでしょうね。

第Ⅰ部 問題意識と分析枠組み

第1章 個別化された日本の雇用関係
 1.1 分権化・個別化に関する国際的な状況
 1.2 日本国内での労働条件の個別的決定
 1.3 労働条件決定の個別化に対する労働組合の対応
 1.4 課題の定義

第2章 個別化された雇用関係研究の方法
 2.1 労使関係論の方法の適用──実体的ルールと手続的ルール
 2.2 観察すべき個人単位の実体的ルール
 2.3 ルールの構造を記述するためのフレームワーク
 2.4 小  括

第3章 日本企業の組織モデルと労働者類型
 3.1 現代企業の組織モデル
 3.2 RE型への進化と労働者類型
 3.3 労働者類型ごとのニーズ
 3.4 小  括

 第Ⅱ部 事例研究

第4章 個人別の仕事決定(目標設定と進捗管理)の実態
 4.1 運営方針の伝達と個人業務目標の設定
 4.2 日常の仕事決定のしくみ
 4.3 上司部下の対話によるコミュニケーション(1on1)の取り組み
 4.4 仕事決定に関するルールの構造と運用課題
 4.5 小  括

第5章 労働時間決定への労働組合の関与
 5.1 労働時間規制の分析枠組み
 5.2 A社における労働時間管理の概要
 5.3 A社-A労組における労働時間規制の実態
 5.4 集団的な個人の労働時間規制
 5.5 個人的な個人の労働時間調整
 5.6 A労組組合員の労働時間に関する意識実態
 5.7 労働時間決定に関するルールの構造
 5.8 小  括

第6章 成果主義人事制度と労働組合
 6.1 成果主義人事制度とは
 6.2 A社-A労組の賃金制度改革の取り組み
 6.3 成果主義人事制度導入時における労働組合の役割
 6.4 個人別の評価の決定
 6.5 個人の賃金を決定するためのルールの構造
 6.6 小  括

第7章 持続可能な経営に向けた労使協議・経営参加
 7.1 労働組合の経営対策活動の変遷
 7.2 A労組の経営対策活動
 7.3 経営対策活動に関連するルールの構造
 7.4 経営対策活動のこれから
 7.5 小  括

第8章 近年の経営環境の変化と労働条件決定への影響
 8.1 労働時間決定の近年の変化
 8.2 評価制度と目標面接の変化
 8.3 企業文化・風土改革の取り組み
 8.4 小  括

第Ⅲ部 総括と展望および今後の課題

第9章 日本企業の雇用関係の展望
 9.1 RE型企業に向けて
 9.2 企業別労働組合の針路
 9.3 現代日本企業の雇用関係の研究課題

 

2023年3月10日 (金)

『季刊労働法』2023年春号

280_h1 『季刊労働法』2023年春号(280号)の案内が労働開発研究会のサイトに載ったので、こちらでもご紹介。

https://www.roudou-kk.co.jp/books/quarterly/10566/

特集:再検討・労働法の規制手法
 男女賃金格差情報開示や男性育休取得率の情報開示など、実体的ルールを定めずに、情報を公表させることを通して、事業主に社内の運用の点検を促し、社会の目によってチェックするという手法が注目を浴びています。また、公契約条例は、労働条件規制を、労働法以外の手法で実現しようとするものとみることができます。今号では、労働政策の実現手法をめぐる動向をチェックし、それについて議論します。 

 労働法の規制手法はどうあるべきか―政府規制の限界と非政府規制の可能性― 神戸大学教授 大内 伸哉

労働法規制手法としての情報開示 労働政策研究・研修機構労働政策研究所長 濱口 桂一郎

行政機関の定める指針の行政法上の位置づけ 神戸大学教授 興津 征雄

フードデリバリー配達員の就業環境整備に向けた取り組み― 一般社団法人日本フードデリバリーサービス協会による業界ガイドラインの策定 ― (一社)日本フードデリバリーサービス協会副事務局長 西村 健吾

フードデリバリー配達員の実態と求められる環境整備―業界初の大規模実態調査をふまえて― プロフェッショナル& パラレルキャリア・フリーランス協会 代表理事 平田 麻莉

労働法の実現手段としての業界自主ガイドライン―「フードデリバリー配達員の就業環境整備に関するガイドライン」を題材として 岡山大学准教授 土岐 将仁

公契約条例を通じた労働条件規制の法的意義に関する検討 金沢大学准教授 早津 裕貴

●第2特集では、山形大学事件最高裁判決を契機に、今後の誠実交渉義務のあり方について検討します。 

 誠実交渉義務に関する理論的一考察 南山大学教授 緒方 桂子

労働者側から考える今後の誠実交渉義務、労使コミュニケーション 運輸労連 中央副執行委員長 小畑 明

山形大学事件を契機に改めて誠実交渉義務、今後の労使コミュニケーションを考える―使用者側の視点から JFE東日本ジーエス㈱代表取締役社長・千葉県労働委員会使用者委員 平川 宏

今後の誠実交渉義務と労使コミュニケーションのあり方―山形大学事件を契機に 労働政策研究・研修機構統括研究員 呉 学殊

 ■論説■
歴史からみた労務供給契約に対する法規制―明治前期における「雇人」をめぐる労働紛争と裁判所 早稲田大学名誉教授 石田 眞

脳・心臓疾患等の労災認定基準と「労働時間」概念 東京大学社会科学研究所教授 水町 勇一郎

担保法制見直しに関する議論と労働債権 弁護士 竹村 和也 弁護士 山岡 遥平 弁護士 平井 康太

イギリス労災救済法制度の現状と課題 同志社大学教授 上田 達子

■要件事実で読む労働判例―主張立証のポイント 第3回■
割増賃金請求における固定残業代に関する要件事実―日本ケミカル事件・最一小判平成30・7・19労判1186号5頁を素材に 弁護士 小山 博章

■アジアの労働法と労働問題 第51回■
インドにおける企業別組合の系譜(2・完) 神戸大学名誉教授 香川 孝三

■判例研究■
管理職に対する降格・減給の有効性及び退職勧奨の適法性 日立製作所(降格)事件・東京地判令和3年12月21日労判1266号56頁 弁護士 庄子 浩平

雇用終了に関する責任を交渉事項とする団体交渉と労組法上の使用者性 国・中労委(国際基督教大学)事件・東京高判令和2年6月10日労判1227号72頁 岡山大学准教授 土岐 将仁

■重要労働判例解説■
タレントの労働基準法上の労働者性 Hプロジェクト事件・東京高判令和4・2・16(判例集未搭載、LEX/DB25593268)東洋大学名誉教授 鎌田 耕一

カスタマーハラスメント(カスハラ)と安全配慮義務に関する裁判例 こうかん会(日本鋼管病院)事件(東京地判平成25・2・19労判1073号26頁) 信州大学特任教授 弁護士/NY州弁護士 松井 博昭

 

2023年3月 9日 (木)

山本陽大『解雇の金銭解決制度に関する研究』に沖永賞

Dismissal_20230309234401 本日、労働問題リサーチセンターの沖永賞授賞式があり、山本陽大さんの『解雇の金銭解決制度に関する研究』(労働政策研究・研修機構)が受賞しました。

https://www.lrc.gr.jp/recognize

本書については、すでに日本労働法学会の奨励賞を受賞しており、本ブログでも紹介しているので改めて中身について申し上げませんが、沖永賞にもふさわしい立派な本です。

589600 で、山本さんの本と並んで受賞したのは、石田光男・上田眞士編著『パナソニックのグローバル経営』(ミネルヴァ書房)なのですが、実はこの本の中の1章(というか正確には補論)を書いているのが、同じJILPTの西村純さんだったんですね。迂闊なことに、今日まで気が付きませんでした。もち論、西村さんは石田さんのお弟子なので、それに不思議はないのですが。

2023年3月 8日 (水)

春闘を中心とした賃金交渉の経緯@荻野登

Ogino_n 『週刊東洋経済』にも登場しているJILPTの荻野登さんが、JILPTホームページに「春闘を中心とした賃金交渉の経緯―― 転換点にあたって労使はどう動いたのか」という緊急レポートを書いています。

https://www.jil.go.jp/kokunai/chingin/documents/e-report_01.pdf

 わが国における賃金決定にあたっては、企業レベルでの労使交渉が基本的な単位となるものの、春季に多くの産業別組合が参加する「春闘」が果たしてきた役割は極めて大きい。今春闘に向けては、岸田首相は新年会見で、「連合は 5%程度の賃上げを求めているが、インフレ率を超える賃上げの実現をお願いしたい」と大きな期待を寄せている。マクロ経済にも影響を与えてきた「春闘」を軸に、賃金決定にあたって労使および政府がどのようなアプローチで臨み、転換点にあたってどう動いたのかを振り返る。

1.ハイパーインフレに近かった終戦直後

2.春闘のはじまり ――産別統一闘争で「ヨーロッパなみ賃金実現」を目標に

3.高度成長期の春闘 ――賃上げ額の平準化に寄与

4.高度経済成長の破綻で春闘は転機に

5.バブル崩壊後に進んだ春闘の構造変化

6.21 世紀に入り停滞する賃金水準

7.「経済の好循環」に向けた政労使を設置 ――デフレ脱却で認識を共有

賃金問題について何か論じようとするときには、これくらいの基礎知識を頭に入れておいて論じてほしいところです。

 

大解剖! ニッポンの給料@『週刊東洋経済』2023年3月11日号

14109_ext_01_0 『週刊東洋経済』2023年3月11日号は「大解剖! ニッポンの給料」という特集を組んでいます。

https://str.toyokeizai.net/magazine/toyo/

昨年までと打って変わり、賃上げを表明する企業が相次いでいます。低迷する賃金が経済成長の阻害要因になっていることに経営者も気づき始めたのです。この賃上げを生産性上昇につなげて成長できるでしょうか。本特集では春闘に集まる異例の熱視線から賃上げラッシュの深層に迫り、若手エリートのコンサル転職やゲーム業界の賃上げレースなど日本企業の人事の新ルールと給与のリアルを大解剖しました。独自試算の主要1400社の40歳年収もランキングしています。

このうち、「[基礎から解説]賃金をめぐるきほんの「き」」では、「定期昇給とベア」「日本ではなぜ賃金が上がってこなかったのか」「生産性と賃金との関係」などについて、解説しています。

とりわけ、「形骸化していた賃上げ闘争 闘わない春闘が日本経済をダメにした 」では、JILPTの荻野登さんやこないだ日曜討論に出ていた首藤若菜さんも登場して、日本の賃金が上がってこなかった経緯を歴史的に解き明かしています。

あと面白かった記事としては、渡邊正裕さんの「報酬水準と勤続年数に注目 ほんとにいい会社とは何か? 」に出てくる各社のマッピング。ガチの成果主義企業、知的ブルーカラー企業、旧い戦後日本企業、プラチナ昭和企業、ボランティアワーカーの5種類に分けてます。

 

 

2023年3月 7日 (火)

事業成長担保制度と労働法@WEB労政時報

WEB労政時報に「事業成長担保制度と労働法」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers

さる2023年2月10日、金融庁に設置された金融審議会の事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ(学識者16名、座長:神田秀樹)が報告書を取りまとめました。その内容は、新たな担保制度として「事業成長担保権」というものを創設しようというものです。それがどうかしたのか、労働法になんの関係があるのかとお考えの方もいるでしょうが、実はこれが大ありなのです。・・・・

 

 

2023年3月 3日 (金)

『月刊連合』終刊号

202303_cover_l 『月刊連合』が終刊して『季刊RENGO』になるということで、今日届いたのは『月刊連合』の2013年3月号たる終刊号。特集は「月刊連合バックナンバーから あの時の「連合運動」をプレイバック!」なのですが、

https://www.jtuc-rengo.or.jp/shuppan/teiki/gekkanrengo/backnumber/new.html

読んでいくと、35年前の労働組合のおじさんたちの感覚はこうだったのか!というような話が飛び出してきます。

「証言 連合結成と育児休業法制定運動」を語っている松本惟子さん(元連合副事務局長)曰く:

・・・余談ですが、月刊誌で驚いたことがありました。連合結成へのカウントダウン表示と、毎号女性が着ているものを1枚ずつ脱いでいく写真が掲載されたコーナーです。セクハラとの抗議を受けて担当局はあたふた。聞きつけたNHKの取材申込みに、「表現の自由」などと主張する担当局と私とのやり取りが番組で流れたりして、月刊誌のそのコーナーは中断しました。女性たちが声を上げないと気付かない、変わらない。慣習を変えるためには、今でもそうではないでしょうか。

今ではほんまかいなという感じですが、35年前というのはまだそういう時代だったのです。

 


 

 

2023年3月 2日 (木)

ジョセフ・ヒース&アンドルー・ポター『反逆の神話』

61pollbop9l 『労働新聞』に毎月寄せている書評、今回はジョセフ・ヒース&アンドルー・ポター『反逆の神話』(ハヤカワノンフィクション文庫)です。

https://www.rodo.co.jp/column/145984/

 原題は「The Rebel Sell」。これを邦訳副題は「反体制はカネになる」と訳した。ターゲットはカウンターカルチャー。一言でいえば文化左翼で、反官僚、反学校、反科学、極端な環境主義などによって特徴付けられる。もともと左翼は社会派だった。悲惨な労働者の状況を改善するため、法律、政治、経済の各方面で改革をめざした。その主流は穏健な社会民主主義であり、20世紀中葉にかなりの実現を見た。

 ところが資本主義体制の転覆をめざした急進左翼にとって、これは労働者たちの裏切りであった。こいつら消費に溺れる大衆は間違っている! 我われは資本主義のオルタナティブを示さなければならない。そこで提起されるのが文化だ。マルクスに代わってフロイトが変革の偶像となり、心理こそが主戦場となる。その典型として本書が槍玉に挙げるのが、ナオミ・クラインの『ブランドなんかいらない』だ。大衆のブランド志向を痛烈に批判する彼女の鼻持ちならないエリート意識を一つひとつ摘出していく著者らの手際は見事だ。

 だが本書の真骨頂は、そういう反消費主義が生み出した「自分こそは愚かな大衆と違って資本が押しつけてくる画一的な主流文化から自由な左翼なんだ」という自己認識を体現するカウンターカルチャーのあれやこれやが、まさに裏返しのブランド志向として市場で売れる商品を作り出していく姿を描き出しているところだろう。そのねじれの象徴が、ロック歌手カート・コバーンの自殺だ。「パンクロックこそ自由」という己の信念と、チャート1位になる商業的成功との折り合いをつけられなかったゆえの自殺。売れたらオルタナティブでなくなるものを売るという矛盾。

 しかし、カウンターカルチャーの末裔は自殺するほど柔じゃない。むしろ大衆消費財より高価なオルタナ商品を、「意識の高い」オルタナ消費者向けに売りつけることで一層繁栄している。有機食品だの、物々交換だの、自分で服を作るだの、やたらにお金の掛かる「シンプルな生活」は、今や最も成功した消費主義のモデルだろう。日本にも、エコロジーな世田谷自然左翼というブルジョワ趣味の市場が成立しているようだ。

 彼ら文化左翼のバイブルの一つがイヴァン・イリイチの『脱学校の社会』だ。画一的な学校教育、画一的な制服を批判し、自由な教育を唱道したその教えに心酔する教徒は日本にも多い。それがもたらしたのは、経済的格差がストレートに子供たちの教育水準に反映されるネオリベ的自由であったわけだが、文化左翼はそこには無関心だ。

 本書を読んでいくと、過去数十年間に日本で流行った文化的キッチュのあれやこれやが全部アメリカのカウンターカルチャーの模造品だったと分かって哀しくなる。西洋的合理主義を脱却してアジアの神秘に身を浸して自己発見の旅に出るインド趣味のどれもこれも、伝統でも何でもなくアメリカのヒッピーたちの使い古しなのだ。その挙げ句がホメオパシーなど代替医療の蔓延による医療崩壊というのは洒落にならない。

 しかし日本はある面でアメリカの一歩先を行っているのかも知れない。反逆っぽい雰囲気の歌をアイドルに唱わせてミリオンセラーにする、究極の芸能資本主義を生み出したのだから。

Silentmajority

 

 

2023年3月 1日 (水)

労働組合の組織率16.5%@『労務事情』2023年3月1日号

B20230301 『労務事情』2023年3月1日号に「労働組合の組織率16.5%」を寄稿しました。

https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/romujijo/b20230301.html

昨年12月に発表された令和4年労働組合基礎調査では、コロナ禍の2年間若干上向いていたように見えた労働組合組織率がまたがくんと下落して16.5%になりました。戦後の組織率の推移を振り返ると・・・・・

公益財団法人政治経済研究所で講演します

公益財団法人政治経済研究所で3月13日に開かれる第4回公開研究会で、「日本の賃金が上がらない構造」について講演をします。

https://www.seikeiken.or.jp/news/view/415

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2023年2月25日 (土)

生理休暇 スペインと日本

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 日本では76年前の1947年に労働基準法に規定された生理休暇が、このたびスペインで法制化されたというニュースが一部で話題を呼んでいるようですが、まずはそのスペインの話を見ておきましょう。ソースはユーロニュース紙。

https://www.euronews.com/next/2023/02/16/spain-set-to-become-the-first-european-country-to-introduce-a-3-day-menstrual-leave-for-wo

Spain has just passed a law allowing those with especially painful periods to take paid "menstrual leave" from work, in a European first.
The bill approved by Parliament on Thursday is part of a broader package on sexual and reproductive rights that includes allowing anyone 16 and over to get an abortion or freely change the gender on their ID card.
The law gives the right to a three-day “menstrual” leave of absence - with the possibility of extending it to five days - for those with disabling periods, which can cause severe cramps, nausea, dizziness and even vomiting.
The leave requires a doctor's note, and the public social security system will foot the bill.
The law states that the new policy will help combat the stereotypes and myths that still surround periods and hinder women's lives. 

スペインはヨーロッパで初めて特に苦痛な期間に有給の「生理休暇」をとることを認める法律を制定した。

木曜日に可決された法案は、16歳以上の者に妊娠中絶とIDカードにおける性別を変更する権利を与える性と再生産に関する権利のより広いパッケージの一部である。

この法律は三日間の「生理」休暇の権利、深刻な痙攣、吐き気、眩暈及び嘔吐を引き起こすほどの場合には五日間に延長可能、を与える。

この休暇には医師の診断書が必要で、公的社会保障制度が休業手当を支払う。

この法律は、新たな政策が女性の生活をめぐるステレオタイプと神話と戦うことを助けるであろう。

しかし、この法律をめぐっては国内に異論があったようです。

But the road to Spain’s menstrual leave has been rocky. Politicians - including those within the ruling coalition - and trade unions have been divided over the policy, which some fear could backfire and stigmatise women in the workplace.
Worldwide, menstrual leave is currently offered only in a small number of countries including Japan, Taiwan, Indonesia, South Korea and Zambia. 

しかし、スペインの生理休暇への道は険しかった。連立与党を含む政治家や労働組合もこの政策をめぐって意見が割れたが、それはこれが職場における女性にとって逆噴射であり、烙印を押すことにならないかという危惧であった。

世界的には、生理休暇を規定する国はごくわずかで、日本、台湾、インドネシア、韓国及びザンビアである。

"It's such a lightning rod for feminists," Elizabeth Hill, an associate professor at the University of Sydney who has extensively studied menstrual leave policies worldwide, told Euronews Next.
The debates around menstrual are often intense, she said, with concern focused on whether such a policy can help or hinder women.
"Is it liberating? Are these policies that recognise the reality of our bodies at work and seek to support them? Or is this a policy that stigmatises, embarrasses, is a disincentive for employing women?" 

「これはフェミニストにとって避雷針だ」と世界の生理休暇政策を研究するシドニー大学のエリザベス・ヒル准教授は語った。

生理休暇をめぐる議論は、それが女性を助けるのかそれとも妨げるのかという点に関心が集中してしばしば激烈だと彼女は語る。

「これは解放か?我々の職場における身体の現実を認識しそれを支援する政策か?それとも女性に烙印を押し女性の雇用へのディスインセンティブとなる政策か?」

 Some Socialists have voiced concern a menstrual leave could backfire against women by discouraging employers from hiring them.
"In the long term, it may be one more handicap that women have in finding a job," Cristina Antoñanzas, deputy secretary of the UGT, a leading Spanish trade union, told Euronews Next when the draft bill was first unveiled.
"Because we all know that on many occasions we have been asked if we are going to be mothers, something that must not be asked and that men are not asked. Will the next step be to ask us if we have period pains?"

社会主義者の中には、生理休暇は使用者が女性を雇用する気を失わせることにより女性に対する逆噴射になるとの懸念を語る者もいる。

「長期的には、これは女性が就職する上でのさらなるハンディキャップとなりうる」と、スペイン最大の労働組合UGTのクリスチナ・アントニャンザス副事務局長は語った。

「我々はみんないつも母親になる気はあるのかと、本来聞いてはいけないし、男性は聞かれることのない質問を受けてきた。次に我々に聞かれるステップは、生理は苦痛ですか?だ」

少なくとも某国の某政党の地方議員さんが考えるほど、ただ素晴らしいだけの政策というわけではないし、そもそも我が日本国においても、76年前に生理休暇の規定が置かれて以来、その是非をめぐって様々な議論がいろんな立場から行われてきたものでもあるのです。

日本における生理休暇の歴史については、すでに様々な著書や論文が積み重ねられてきていますが、ここでは労働基準法施行直後に、当時の労働省婦人少年局が出したリーフレットを参考までに貼り付けておきます。

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(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2022/05/post-63a408.html

510fduhbcl_20230225095201 というのも、日本で1947年に労働基準法ができるときに、外国にその例がないのに生理休暇という制度が設けられたということはかなり有名で、『働く女子の運命』でも、p52にちらりとこう記述していました。

・・・このときに労働基準法が設けた生理休暇は、世界に類を見ない規定ですが、戦時中の女子挺身隊の受入時に実施されたことを背景に、戦後労働運動の高揚の中で生理休暇要求とその獲得が進み、行政内部でも谷野せつ氏が強く訴えたことから、実現に至ったといわれています(田口亜紗氏『生理休暇の誕生』青弓社)。

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