フォト
2023年2月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28        
無料ブログはココログ

2023年2月 2日 (木)

ミヒャエル・キットナー著・橋本陽子訳『ドイツ労働法判例50選 ― 裁判官が描く労働法の歴史』

Large_a9881ddf6cfc43d0aa53719fbdd3954e ミヒャエル・キットナー著・橋本陽子訳『ドイツ労働法判例50選 ― 裁判官が描く労働法の歴史』(信山社)をお送りいただきました。

https://www.shinzansha.co.jp/book/b10026938.html

重要50判例の歴史的背景とその後の判例・立法の展開を解説。各判例が現在と将来にもたらす先例的価値が分かり易く理解できる。

ドイツ版『労働判例百選』みたいなものかと思うかも知れませんが、全然違います。学者一人で編んだという点では大内伸哉さんの『最新重要判例200』と共通ですが、そもそも最新どころか、百年以上昔の判例も載っています。

まさに副題にもあるように、ドイツ第二帝国(ライヒ)時代から、ワイマール共和国時代の判例まで載っていて、「労働法の歴史」を判例という切口から叙述する歴史書の趣があります。

・序文
◆序 章
◆ライヒ時代
  1 争議行為の威嚇は脅迫である
  2 キールのパン屋のボイコット
  3 アルトナの木材労働者のストライキ:労働協約
◆ワイマール共和国
  4 キール路面鉄道事件:経営リスク
  5 鉄道員のストライキ:官吏のストの禁止
  6 「ルール鉱山ストライキ」
  7 労働者概念
  8 任意性の留保 

戦後の連邦共和国時代の判例には、私もEU労働法でお目にかかった懐かしいものがいくつも取り上げられています。男女均等指令の間接差別に関わるビルカ事件判決、事業移転の既得権指令に関わるシュミット事件判決、年齢差別に関わるでっち上げ事件のマンゴルド事件判決などです。

驚いたのは、企業活動の自由と労働組合活動の相克が問題となったいわゆるラヴァル・カルテットから、ラヴァル事件とバイキング事件と取り上げていることで、これらはそれぞれスウェーデンとフィンランドの事案で、ドイツに関わるのはリュッフェルト事件なんですが、ここではあえて有名な両事件の方を取り上げていますね。

◆連邦共和国
◆個別的労働法
  9  同一賃金
  10 独身条項
  11 労働者の責任
  12 客観的事由の不要な期間の定め
  13 償還条項
  14 事業所年金:期待権の不喪失
  15 現業労働者と職員
  16 継続就労請求権
  17 教会の労働者
  18 「ビルカ」事件:間接差別
  19 「企業決定」と解雇
  20 「代理商」事件:損なわれた契約対等性
  21 深夜労働の禁止
  22 「クリステル・シュミット」事件:事業移転
  23 「マンゴルド」事件:年齢差別
  24 「ハイニッシュ」事件:公益通報
◆共同決定
  25 効力要件としての共同決定権
  26 「鍋理論(Topftheorie)」
  27 共同決定法は合憲である
  28 「企業決定」と共同決定
  29 「技術者報告システム」事件:コンピュータによる監視
  30 操業短縮における提案権
  31 協約外給付への算入
  32 事業所委員会の差止請求権
  33 「ブルダ」事件:労働組合の差止請求権
  34 団結の自由と「中核領域」
  35 協約単一性
  36 労働組合の概念
  37 差異化条項
  38 算入禁止条項
  39 ドイツ労働総同盟の仲裁裁判所
◆争議行為
  40 新聞スト
  41 大法廷1955年判決
  42 シュレスヴィッヒホルシュタイン州のストライキ
  43 エアヴィッテのザイベル社における職場占拠
  44 ロックアウト
  45 「冷たいロックアウト」:争議行為リスクと共同決定
  46 警告スト
  47 「冷たいロックアウト」:雇用促進法116条
  48 機関士のストライキ
  49 「バイキング」事件/「ラヴァル」事件
  50 「フラッシュモブ」
◆エピローグ―法の継続形成(判例法理)の限界
    ―  ―  ―
◇ミヒャエル・キットナー教授インタビュー
◇訳者解説
・索 引 

日本でも誰か、戦前の判例から始めて、日本の労働法の歴史を判例を中心に描くというような本を書きませんかね。

エマニュエル・トッド『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』@労働新聞書評

81qdi3i0gul 817cpagxh3l 例によって、『労働新聞』連載の「書方箋 この本、効キマス」に、エマニュエル・トッド『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』(文藝春秋)を取り上げました。

https://www.rodo.co.jp/column/144730/

 専制主義は古臭く、民主主義は新しい、とみんな思い込んでいるけれども、それは間違いだ。大家族制は古臭く、核家族は新しいとの思い込み、それも間違いだ。実は一番原始的なのが民主主義であり、核家族なのだ。というのが、この上下併せて700ページ近い大著の主張だ。いうまでもなく、新しいから正しいとか、古臭いから間違っているとかの思い込みは捨ててもらわなければならない。これはまずは人類史の壮大な書き換えの試みなのだ。
 トッドといえば、英米の絶対核家族、フランスの平等主義核家族、ドイツや日本の直系家族、ロシアや中国の共同体家族という4類型で近代世界の政治経済をすべて説明して見せた『新ヨーロッパ大全』や『世界の多様性』で有名だが、その空間論を時間論に拡大したのが本書だ。その核心は柳田国男の方言周圏論と同じく、中心地域のものは新しく周辺地域のものは古いという単純なロジックだ。皇帝専制や共産党独裁を生み出したユーラシア中心地域の共同体家族とは、決して古いものではない。その周辺にポツポツ残っているイエや組織の維持を至上命題とする直系家族の方が古いが、それも人類の歴史では後から出てきたものだ。ユーラシアの西の果てのブリテン島に残存した絶対核家族と、それが生み出す素朴な民主主義こそが、人類誕生とともに古い家族と社会の在り方の原型なのである。おそらく圧倒的大部分の人々の常識と真正面からぶつかるこの歴史像を証明するために、トッドは人類史の時空間を片っ端から渉猟する。その腕前はぜひ本書をめくって堪能してほしい。
 その古臭い核家族に由来する素朴で野蛮なアングロサクソン型民主主義がなぜ世界を席巻し、古代オリエント以来の膨大な文明の積み重ねの上に構築された洗練の極みの君主・哲人独裁制を窮地に追い詰めたのか、という謎解きもスリリングだ。英米が先導してきたグローバリゼーションとは、ホモ・サピエンス誕生時の野蛮さをそのまま残してきたがゆえの普遍性であり、魅力なのだという説明は、逆説的だがとても納得感がある。我々がアメリカという国に感じる「とても先進的なはずなのに、たまらなく原始的な匂い」を本書ほど見事に説明してくれた本はない。
 本書はまた、最近の世界情勢のあれやこれやをすべて彼の家族構造論で説明しようというたいへん欲張りな本でもある。父系制直系家族(イエ社会)のドイツや日本、韓国が女性の社会進出の代償として出生率の低下に悩む理由、黒人というよそ者を排除することで成り立っていたアメリカの脆弱な平等主義が差別撤廃という正義で危機に瀕する理由、共産主義という建前が薄れることで女性を排除した父系制大家族原理がますます露骨に出てきた中国といった、その一つだけで新書の一冊ぐらい書けそうなネタがふんだんに盛り込まれている。なかでも興味深いのは、原著が出た2017年にはあまり関心を惹かなかったであろうウクライナの話だ。トッドによれば、ロシアは専制主義を生み出す共同体家族の中核だが、ウクライナはポーランドとともに東欧の核家族社会なのだ。ウクライナ戦争をめぐっては勃発以来の1年間に膨大な解説がなされたが、この説明が一番腑に落ちた。

 

 

 

2023年2月 1日 (水)

児童手当は何のために作られたか、誰も記憶していない

最近、政治方面で児童手当をめぐって騒がしいようですが、どうも出てくる登場人物の誰も、児童手当というものがどういう趣旨で作られたのかという歴史的経緯をさっぱりと忘れ去っているようなので、やや迂遠ではありますが、旧稿の関連部分をお蔵出ししておきたいと思います。

ただ、その前に、十数年前に当時の民主党政権が子ども手当を打ち出したときにも、肝心の彼ら自身がその意義を的確には理解していなかったことについて、当時『世界』の座談会で述べた一節を引用しておきます。

807 座談会 民主党政権の社会保障政策をどう見るか(宮本太郎・白波瀬佐和子・濱口桂一郎)(『世界』2010年8月号

濱口 私は昨年、政権交代のときに書いた文章の中で、子ども手当を非常に高く評価したんです。ただ、高く評価した理由は労働政策の観点からで、子ども対策という観点からではない。
 どういう趣旨か。いままでの日本の雇用システムでは、成人男子の正社員が奥さんと子どもを養うだけの賃金を会社が払う。その対極にある非正規労働者は、家族を養うどころか、自分自身が養われているんだから、生活保護以下の水準でも構わないという形で労働市場が二極化してきた。これを何とかしよう、同一労働・同一賃金にしなければ、という議論は繰り返しされるんですが、賃金で家族の生活まで全部面倒見るということがデフォルトルールになっているので、なかなか変えられない。その意味で、子ども手当というのは、実は子どものためというよりも、労働市場の構造を変えるための部品という面があるんです。
 それは歴史をさかのぼると明らかです。そもそも児童手当は一九七一年につくられたのですが、一九六〇年の国民所得倍増計画の中で、日本の労働市場をいままでの終身雇用、年功賃金型から、同一労働・同一賃金に基づいたものに変えていく必要がある、そのためにも児童手当は必要だという議論をして、ようやく七〇年代初頭にできたのです。ところがその後は、そんなことは会社が全部面倒見るんだというのが世の中の大勢で、小さく産まれた児童手当がますます小さくなってしまった。ですから労働政策、社会政策全体として見たときには、子ども手当には、児童手当の初心に返って、それをもう一遍大きく育てていこうというインプリケーションがあるはずです。そういうインプリケーションを意識していれば、その目的を達成するためにどう改善すべきかという対応があり得たと思うのですが、そこが切れてしまっている。なぜ子ども手当が必要なのかが十分理解できていないまま、部品を絶対視するので、混乱が生じているように思います。

ここでごくあらあら述べていることを、その後『季刊労働法』2020年夏号に書いた「家族手当・児童手当の労働法政策」でかなり詳しく解説していますので、やや長いですが、読んでいただければ大体のことが頭に入ると思います。

269_h1scaled_20200612171201_20230201122501 2 公的社会保障としての児童手当への道
(2) 経済・労働政策としての児童手当
 児童手当が再び政策課題に上ってくるのは1960年代からですが、その問題意識はまず経済政策、労働政策としてのものでした。その重要なエポックとして、1960年11月に閣議決定された「国民所得倍増計画」が挙げられます。同計画は拙著『日本の労働法政策』でも述べたように、年功序列から同一労働同一賃金原則への雇用の近代化を掲げていましたが、その関係で「年功序列型賃金制度の是正を促進し、これによって労働生産性を高めるためには、全ての世帯に一律に児童手当を支給する制度の確立を検討する要があろう」と示唆したのです。
 さらに1963年1月に経済審議会が行った「人的能力政策に関する答申」では、賃金体系の近代化や労働移動の円滑化が掲げられていますが、その文脈で「中高年齢者は家族をもっているのが通常であり、したがって扶養手当等の関係からその移動が妨げられるという事情もある。児童手当制度が設けられ賃金が児童の数に関係なく支払われるということになれば、この面から中高年齢者の移動が促進されるということにもなろう」と述べ、さらに、児童手当は「賃金体系の合理化により職務給への移行を促進する意味もあり、生活水準の実質的な均衡化、中高年労働力の流動化促進等人的能力政策の方向に沿った多くの役割を果たす」とその重要性を強調しています。
 もっとも、本来は「全児童に対し、その一切の費用を賄う」べきとしながらも、日本では「使用者から家族手当が支給される一方、税制上扶養控除がなされている」ため、「いきなり本来の姿に到達することは困難であるので、段階的に実施に移すことが肝要」と述べています。具体的には、①児童数による制限、②所得の制限、③手当の内容による制限(教育費、学校給食費等)あるいはその組合せを提起していますが、「余り制限を設けて児童手当の本旨を失うようなことがあってはならない」と釘を刺してもいます。また財源については、「児童の育成は家庭の責任であると同時に国家の責任でもあり、また使用者が扶養手当を支給しているといういきさつも考慮して扶養者、使用者及び国の三者による負担が妥当」としつつも、「三者同一の負担率ではなく、使用者の負担が中心」としているのは、企業の家族手当からの移行を中心に据えてみているからでしょう。
 国民所得倍増計画に続く1965年1月の「中期経済計画」では、児童手当を「わが国において残された唯一の社会保障部門」と呼び、「児童養育費の増大、中高年労働力の流動化などその緊急な実施を要請する社会経済的諸条件は急速に醸成されつつある」と切迫感をあおり、「計画期間中になるべく早く制度の発足を行う」ことを求めています。経済政策の観点からは、児童手当の機能は「年功序列型賃金体系から職務給体系への移行の円滑化、中高年労働力の流動化の促進、中高年層において著しい所得格差の是正」にあり、それゆえに「民間企業の家族給に肩代わりする面もあって、それだけ企業負担を軽減する点も忘れてはならない」と、使用者の費用負担を正当化しています。
 総理府の社会保障制度審議会も1962年8月の「社会保障制度の総合調整に関する基本方策についての答申及び社会保障制度の推進に関する勧告」の中で、児童手当について「まず被用者に対する社会保険として発足させ」るが、被用者以外でも一定所得以下の者は被用者と同時に実施すべきと述べています。このほか、1965年7月の社会開発懇談会中間報告書、1966年11月の国民生活審議会答申なども、児童手当の必要性を強調していました。・・・・

4 児童手当制度の有為転変
(1) 児童手当に対する批判
 児童手当は「小さく産んで大きく育てる」ということで、1972年の施行から数年間は支給対象の第3子以降の支給期間を5歳未満から中学校修了までに徐々に拡大していきましたが、1970年代という時代は日本型雇用システムに対する評価が急激に高まっていた時代であり、この制度自体に対する否定的な考え方が社会に広まった時代であったということができます。それを最もよく示しているのが、1979年12月の財政制度審議会第2特別部会の「歳出の合理化に関する報告」です。
(3)児童手当
①問題点
ハ 児童手当が創設されてかなりの期間を経過した現在においても、(イ)我が国の場合、児童養育費の負担の在り方に関し、ヨーロッパ諸国と比較して、親子の家庭における結びつきが強く、広く社会的に負担するというヨーロッパ諸国のような考え方になじみにくい状況にあること、(ロ)我が国の賃金体系は、ヨーロッパ諸国と異なり、多くの場合、家族手当を含む年功序列型となっており、生活給としての色彩を有していること、(ハ)児童養育費の負担軽減に資するものとして、一般的には、税制上の扶養控除制度が存在していること、(ニ)保育所その他の児童福祉施策との関連において、また、広く社会保障施策全体の中で、必ずしも優先度が高いとはいえないこと、(ホ)これらを反映して、51年に厚生省が実施した意識調査においても、児童手当の存在意義について積極、消極おおむね半ばしていること等から、その意義と目的についてなお疑問なしとしないところである。
ニ また、児童手当の費用負担について、現行制度では、被用者(サラリーマン)にかかる分については、事業主からの拠出を求めているのに対し、非被用者(自営業者、農業者等)にかかる分については、全額公費負担となっており、負担の公平化、適正化の観点から、現在の費用負担の方法には、基本的な問題があると考えられる。
②検討の方向
 児童手当については、以上のような問題があり、社会保障全般について従来にもまして公平、かつ、効率的な制度運営が求められなければならない状況にあるので、制度の存廃、費用負担の在り方を含め、制度を基本的に見直すべきである。
 「制度の存廃」まで踏み込んだこの報告には、当時の日本社会の常識的感覚が浮き彫りになっています。かつては、年功序列的な生活給、家族給こそが変わるべき悪しき日本的特徴であったはずであり、その変化を促進するためにこそ児童手当が唱道されていたはずですが、その舞台設定ががらりと変わってしまい、日本的な年功序列賃金こそが維持すべき望ましいものであり、にもかかわらずそれとバッティングするような児童手当などそもそも存在する値打ちもない、という意識が一般的になっていたのです。

2023年1月31日 (火)

解雇の金銭解決額 150万円と300万円@『労務事情』2023年2月1日号

B20230201 『労務事情』2023年2月1日号の連載「数字から読む日本の雇用」第10回として「解雇の金銭解決額150万円と300万円」を寄稿しました。

https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/romujijo/b20230201.html

 今回の数字は、筆者自身が調査した数字です。周知のように、過去20年以上にわたって解雇の金銭解決制度の立法化が試みられてきましたが、現時点でなお実現に至っていません。筆者はかつて『日本再興戦略改訂2014』の要請に基づき、実際に裁判所に通って労働審判や裁判上の和解における解雇の金銭解決額等を調査したことがあります。その結果は、2015年4月に報告書に取りまとめるとともに、厚生労働省の透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会に報告されました。その後議論は解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会に移り、その報告書が2022年4月に取りまとめられた後、労働政策審議会労働条件分科会に報告されました。その場で審議会委員から平成調査は古いので改めて調査したらどうかと提起があり、厚生労働省からJILPTに緊急調査依頼がなされ、再度筆者が調査に携わることとなったわけです。
 筆者は2022年5月から6月にかけて毎日裁判所に通い、2020、2021両年の労働審判と裁判上の和解の記録を閲覧して、持ち込んだパソコンの表計算ソフトの上に必要なデータを打ち込んでいきました。報告書は現在取りまとめ中ですが、調査結果の一部は既に2022年10月26日の労働条件分科会に報告されていますので、その範囲内でいくつか興味深い数字を示しておきましょう。
 まず解決金額についてみると、・・・・

「ジョブ型」か「メンバーシップ型」かの不毛な議論から脱却せよ——濱口桂一郎×髙木一史

D01472ecc53e159ced3cd32fc57ba36a2833f2db サイボウズの髙木一史さんは、著書『拝啓人事部長殿』刊行後、海老原嗣生、小熊英二、中野円佳さんらと次々に対談してきましたが、遂にそのおはちが私にも回ってきました。

実は、かなり早い段階で打診があったんですが、ちょうど毎日裁判所に通って訴訟や労働審判記録を調査するという仕事の真っ最中だったために、だいぶ後回しになったというわけです。

https://cybozushiki.cybozu.co.jp/articles/m006090.html(「ジョブ型」か「メンバーシップ型」かの不毛な議論から脱却せよ。その先にある「ギルド的メンバーシップ型」の可能性——濱口桂一郎×髙木一史)

サイボウズ人事部の髙木一史は、「社員が閉塞感を覚えず、幸せに働ける会社をつくりたい」という想いから、初の著書となる『拝啓 人事部長殿』を2022年6月17日に上梓しました。

書籍ではテクノロジーを活用し、会社との多様な距離感・自立的な選択・徹底的な情報共有といった風土をつくることで、個人の幸せと会社の理想実現を両立できるのではないか、という仮説を提示。これを「インターネット的な会社」と呼んでいます。

この仮説をもとに、髙木がこれからの働き方について、多様な分野の方々と議論を交わす企画「20代、人事と向き合う。」がスタート。

今回の対談相手は、労働政策研究・研修機構労働政策研究所長の濱口桂一郞さん。長年、労働法政策を専門に日本の雇用問題に向き合ってきた濱口さんは、「ジョブ型雇用」「メンバーシップ型雇用」という言葉の生みの親でもあります。これからの雇用のあり方について、議論した様子をお届けします。

ギルド的メンバーシップって、なんのこっちゃと思った人は、是非リンク先へ

 

 

 

2023年1月30日 (月)

EU最低所得勧告を採択

本日、EUの閣僚理事会は「積極的な包摂を確保する十分な最低所得に関する勧告」を採択しました。

https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2023/01/30/council-adopts-recommendation-on-adequate-minimum-income/

This Council recommendation aims to combat poverty and social exclusion, and to pursue high levels of employment by promoting adequate income support by means of minimum income, effective access to enabling and essential services for persons lacking sufficient resources and by fostering labour market integration of those who can work.

この理事会勧告は貧困と社会的排除と戦うことを目指し、最低所得による十分な所得の保障、十分なリソースが欠如する人々への効果的なエッセンシャルサービスへのアクセスと、労働可能な者の労働市場への統合を進めることによって、高水準の雇用を追求することを目指す。

最低所得(minimum income)とは、無条件の普遍的ベーシックインカムとは異なり資産調査と就労要請を伴うものです。本勧告は加盟国に対し最低所得制度を現代化し、より効果的に人々を貧困から脱却させると共に、働ける人には労働市場への統合を促進するよう求めています。具体的には、所得補助の十分性の改善、最低所得受給のカバレッジの拡大、包摂的な労働市場へのアクセス、社会生活に不可欠なエッセンシャルサービスへのアクセス、個別化された支援、社会的セーフティネットのガバナンスの改善、等が挙げられています。

日本における生活保護を始めとする社会扶助の議論にも示唆を与えるものと思います。

 

 

さすが老人雑誌の躍如としてめ面目ない

いまから30年前にエロ好きの中年おじさま御用達の週刊誌として売れていたのが、その読者層コーホートがそっくりそのまま高齢化して、もはやヘアヌードでは興奮できないおじいさま方の興奮剤は、古き良き神聖なる憎税同盟のスローガン宜しく「「子ども優遇」増税に怒り爆発! 」「高齢世代から非難囂々」「岸田よ、「少子化」と言えば何でも許されると思うなよ」で、それが老い先短い老人のエゴではないかという反省をさせないための麻酔薬が「令和の埋蔵金30兆円」という銭湯時計こと元内閣官房参与氏の使い古しの手品だというのが、たまらなくもの悲しさを感じさせますね。

2021_post_0210_eyc750x500

 

2023年1月29日 (日)

リスキリングとOJTと育児休業と

そもそも日本型雇用システムにおいては、リスキリングなどと称して会社のよそで一生懸命勉強しても会社は評価してくれず給料も上がらない(下手したら仕事をおろそかにして下らねえことしやがってと叱られる)。

それよりも会社の中で上司のみている前で、オンザジョブトレーニングよろしく、おぼつかなくても一生懸命仕事に取り組んでだんだんできるようになっていくのを評価してくれて給料も上がっていく。

日本の会社が評価するスキルアップというのは、会社のよそでやるリスキリングとやらではなく、会社の中でやる仕事そのものと二重に重ね合わされたOJTなのだ。

という構造の中で、育児休業なんぞをとってるというのは単に仕事をしていないというだけではなく(その分はノーワークノーペイでどこでも同じ)、OJTという形でスキルアップに一生懸命取り組むということをやっていないというマイナスにみられてしまう。

だから、と私は想像するのだが、だから、例のいま話題になっている問答のもとになった発想というのが生まれてきたのではないか。

OJTという形でのスキルアップをやらない育児休業中といえども、ちゃんと別の形でスキルアップをやっていますよ、と。

しかも、育児休業中でOJTがそもそもできない期間なのだから、いくら政府が笛を吹いても肝心の日本の会社の中堅層が全然その気になって踊ってくれないリスキリングという奴を売り込むのに最適ではないか、よしこれで行こう、と。

そこの根っこに構造的な問題があるのはいうまでもないが、そういう構造的な問題抜きのやや浅い論評ばかりが横行するのも哀しい見ものではある。

日本の労働学者の皆さんだって、このことは何10年も前から分かっていたはずなのに

ワークライフバランスの小室淑恵さんが、こんな風に言われているのですが、

https://m.facebook.com/story.php?story_fbid=pfbid02JB5yW9uXHz7kRGTBsHgfoF3y888iLBbXTBrNTkzoGR84aJPkJuo4mbD3wn2UxVbal&id=100002656918022

日本の労働学者の皆さんだって、このことは何10年も前から分かっていたはずなのに、いつの間にか空気を読んで口をつぐんだ現状が悔しくてなりません。・・・

いやまさにそういうことを言うてきたつもりなのですが、労働学者として見られていないのかもしれません。

 

 

 

 

2023年1月28日 (土)

「ジョブ型」という言葉を最初に使ったのは木下武男さんだが・・・

たまたまネット上で、濱口桂一郎が憎たらしい余りこういうことを口走っている御仁を見つけましたが、

https://blog.goo.ne.jp/21century-world/e/5bf9f0a960e5fef1b147b7b8f0b89375

木下武男『労働組合とはなにか』 岩波書店,2021年3月が発行されたとき,早速購入し読んでみた。しかし,巻末の参考文献には濱口桂一郎の本は挙げられていない,本文中でも「ジョブ型雇用」だとか「メンバーシップ雇用」といった,ちまたにおいては一定限度流通している新造語も相手にされていない。・・・

この御仁は、「ジョブ型」という用語はけしからぬ濱口が作り出した許しがたい用語であり、木下武男さんのようなまともな研究者は、そういうふざけ切った用語には見向きもしないのだ!と言いたくてこう書いているんでしょうな。

ところが,木下武男『労働組合とは何か』2021年3月は,この雇用形態論を提唱した識者の主著を,参考文献にさえとりあげていない。木下は,現状日本における雇用問題は「19世紀型の野蛮な労働市場」だ(250頁)と判断している。

 21世紀にもなおつづく日本の労働市場におけるその野蛮を,まるで・ともかく,前提要件として認容するほかない「ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用」といった疑似理念型的な発想は,社会科学論の見地から一度は徹底的に批判されつくす余地がある。

 以上のその判断がまっとうな知見(=問題意識の設定)だとすれば,いいかえれば,「ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用」という『単なる思考のための便宜的な枠組』が,いきなり日本の労働市場「問題状況」のなかにもちこみまれた状態のまま,いつまでもこの雇用問題のために利用されうると勘違いされている。このままだと,日本における労働組合論はまともに進展させえない。

木下さんの本は、謹呈いただいたときに若干の批判も含めて論及したことがありますが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2021/03/post-9c1e6b.html

しかし、本書については、「ありがとうございます」で済ますわけには生きません。

「労働組合論という今どきあまり関心を持たれない」(あとがき)テーマを一般向けの新書で取り上げたという意味では、昨年の『働き方改革の世界史』を書いた私としては、おざなりではなく、疑問点をいくつも提起しておくべきだと考えるからです。

ジョブ型雇用の希薄な日本でジョブ型労使関係をどう論ずるのかという問題意識がほぼ類似しているからこそ、そこをきちんと指摘しておかなければなりません。・・・

木下さんこそは、日本において「ジョブ型」という用語を労働問題の分析に本格的に導入した一人なのです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/07/post-7d5856.html

こたつさんと焦げすーもさんが「ジョブ型」って言葉を言い出したのは誰か?をめぐって論争(?)しているようですが、

https://twitter.com/ningensanka21/status/1287016917979394050

「ジョブ型」のフレーズを作ったのは木下武夫先生だと昔どっかで聞いたような。

https://twitter.com/yamachan_run/status/1287218971809214464

起源はよくわかりませんが、hamachan先生のネタ元は田中博秀氏という労働官僚のようですね。

https://twitter.com/ningensanka21/status/1287228009909379075

そういえばそういうのありましたね。木下先生のは「ジョブ型正社員」でしたかね。記憶が曖昧ですが、何かは木下先生だったと聞いた気がします。

まず、「木下武夫」→「木下武男」ね。人の名前は慎重に。

次に、私のネタ元は、これまでの日本の労働研究の総体です、キリッ。「就職型」と「就社型」とか、「職務型」と「所属型」とか、いろんな人がいろんな言い方をしてきたほぼ同じコンセプトに、「ジョブ型」と「メンバーシップ型」という新たなラベルをぺたりと貼り付けただけ。

田中博秀さんもその一人ですが、実はその中でも特にネタ元としての性格が強いのは、他の論者に比べて、新卒採用の局面に最も注目して、そこに日本型雇用の本質を見いだしているところでしょう。特に、労働法系の人はどうしても解雇の局面に一番本質を見いだそうとしがちですが、入口に一番着目した点が田中さんのポイントで、だから『若者と労働』では主として田中著を引用する形で論を進めたのです。

ですが、田中さんは「ジョブ型」なんて言葉は使っていません。

ciniiで「ジョブ型」を検索してみると、タイトルでは2010年2月の木下武男さんの「「年功賃金」は持続不可能 「ジョブ型賃金+福祉国家」で」(『エコノミスト』)が初出ですが、全文検索では(オペレーションズリサーチ系のものを別にすれば)2009年7月のやはり木下武男さんの「雇用をめぐる規制と規制緩和の対抗軸」(『季刊経済理論』)が最初のようです。ここでは既に「ジョブ型正社員」という言葉が登場しています。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/peq/46/2/46_KJ00009409281/_pdf/-char/ja

とすると、やはり「ジョブ型」という言葉を最初に用いたのは木下武男さんということになりそうですが、実はそれより前の2008年4月のリクルートの『Works』に「三種の神器を統べるもの」というインタビュー記事が載ってて、これはciniiの全文検索では引っかかってこないのですが、リクルートワークス研究所のサイトに全文アップされていて、

https://www.works-i.com/works/item/w_087.pdf

このなかで「ジョブ契約」「メンバーシップ契約」という言い方をしています。

ただ、「ジョブ型正社員」という言い方自体は、私の場合2010年2月に『労基旬報』に寄稿した「ジョブ型正社員の構想」が初出ですので、木下さんよりはあとになります。

41zgbjhq23l_sx290_bo1204203200_ まあでも、これってたかが言葉尻の話であって、そもそも木下さんは1999年に出した『日本人の賃金』(平凡社新書)の中で、職務型賃金への移行を強く主張していますし、遡れば高度成長期にはそういう議論は山のようにあったものなので、どっちが先とかあととかあんまり意味のない議論です。

というわけで、ciniiで検索できる限りの学術論文において、「ジョブ型」という用語を本邦で初めて用いたのは、木下武男さんであることは明らかです。この点については、私は堂々と世間に向かって申し述べたい。

も一ついうと、これは学術論文ではなく、『POSSE』という若者主体の労働運動誌の第4号(2009年)において、木下武男さん考案になる「格差論壇MAP」というのが載っていますが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/07/posse-fb68.html

Ef409dd006967b9a147c14ff5ab2eb82_4

そういう木下武男さんをつかまえて、こともあろうに「「ジョブ型雇用」だとか「メンバーシップ雇用」といった,ちまたにおいては一定限度流通している新造語も相手にされていない」などというのは、おそらくこの御仁は誉めているつもりかもしれませんが、これほどの侮辱はないのではないかと思われるくらいのとてつもない罵詈讒謗に等しい暴言というべきでしょう。

言ってみれば、マルクスさんをつかまえて、『資本論』を読んだけれども、どこにも社会主義やら共産主義なんていう馬鹿げたことを言ってないぞ、と褒め称えているようなものですからね。いやはや。

G112301500 この調子でいくと、今度はPOSSEの今野晴貴さんあたりをつかまえて、彼の書くものを全部読んでもどこにもジョブ型などという愚劣な言葉は出てこないぞと、居丈高に呼ばわるのでしょうか。

濱口桂一郎が憎くて憎くてしょうがないという思いのたけはひしひしと伝わってきますが、濱口憎けりゃジョブ型まで憎いとばかりにめったやたらにねじけた贔屓の引き倒しばかりやっていると、自らのひった糞が跳ね返ってこないとも限りませんので、ほどほどにしておいた方が宜しかろうと愚考する次第です。

 

 

 

 

 

 

「復職可能」の「職」とはザ・ジョブか、ア・ジョブか?

先日、某所の判例研究会でシャープNECディスプレイソリューションズ事件(横浜地判令和3・12・23)の議論に参加したのですが、改めて読み返してみて、出てくる医者がことごとくこの原告さんを「復職可能」と言っているのは何なんだろうか、と感じました。もちろん、判決文から間接的に事態を推測することしかできないとは言いながら、とてもまともに仕事ができそうにないこの人を「復職可能」とするのは、結局日本型雇用システムの故としか言いようがないなあ、と感じたところです。

日本以外のジョブ型社会であれば、傷病によって職務遂行不能に陥っていた人が「復職可能」かどうかを判断する基準は、その人の雇用契約に明記されている当該職務、ザ・ジョブ以外にはありえず、その当該職務を十全に遂行することができないのであれば、ほかの容易な単純労働がいかにできようがそんなことは何ら関係なく「復職不能」としか言いようがないはずです。

ところが日本のようなメンバーシップ型社会では、その人の雇用契約上限定されたザ・ジョブはなく、会社の中にやれそうな仕事(ア・ジョブ)を切り出してあてがうことが可能であれば、安易に「復職可能」と言ってしまいがちです。

そもそも、当該会社の中の具体的な仕事をよく知らない医者が安易に「復職可能」と言えてしまうのも、ア・ジョブならできますよ、という意味でしかありえないでしょう。

昨今、この手の事案が大変多くなってきていて、企業の人事部も苦労が絶えないようですが、そもそもそうなってしまっている根源は、やはり雇用システムに遡るのでしょうね。

2023年1月27日 (金)

毎勤の賃金上昇を決めているのはベア。定昇ではない@中井雅之

Nakai_m JILPTの緊急コラムに、中井雅之さんが「毎勤の賃金上昇を決めているのはベア。定昇ではない」を書いています。

https://www.jil.go.jp/tokusyu/covid-19/column/031.html

文字通り、タイトルが述べている通りの内容ですが、「そんなのあたりまえやろ」と言わずに読んでください。

もう長いこと、どれくらい賃上げしたのかを「定昇込み」で何%という風習が続いていますが、それでみると、定期昇給はずっとほぼ2%前後で変わっていない。それに対してかつてはそれなりの割合を占めていたベースアップは2000年前後からほぼゼロに張り付いていて、第2次安倍政権下での官製春闘の時期にほんの0.5%ほどに上がっていた程度。

031fig3

で、労働組合も定昇込みで賃上げ幾らというけれども、それって本当に賃上げなのかを、毎月勤労統計の数字と重ね合わせて確認しようというのが、この中井さんのコラムの眼目です。

031fig4

毎勤の所定内給与の増減という客観的な指標と照らしあわせて見れば一目瞭然、マクロ経済的に正味の賃上げといえるのは定昇抜きのベア部分だけであって、定昇込み何%という数字は、現実の賃上げラインの遥か上の方を空虚にたゆたっているだけなのですね。

もちろん、個々の労働者個人にとっては、去年の給料よりも今年の給料が幾ら上がったかというのは定昇込みの数字なので、それだけ賃上げしていると思えてしまうのでしょうが、いうまでもなくその定昇部分というのは、毎年、一番高い人々が抜けていって、一番低い人々が入ってくることで、会社にとってはチャラになっているわけであり、それを全部足し合わせたマクロ経済でも全部合算すればチャラになっている(年齢構成の変動部分は一応抜きにして)ので、個人の主観における賃上げは社会の客観的な賃上げではないということになるわけです。

 

 

 

 

 

第125回労働政策フォーラム「女性の就業について考える─環境変化と支援のあり方を中心に─」

第125回労働政策フォーラム「女性の就業について考える─環境変化と支援のあり方を中心に─」を開催しますので、ふるってご参加下さい。

https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20230220/20230220flyer.pdf

Jiljil

 

 

2023年1月26日 (木)

地方議員への立候補のために入営者職業保障法はいかが?

総務省及び三議長会から経団連に対して、勤労者が地方議会議員に立候補しやすい環境を整備するため、各企業の状況に応じた自主的な取組として、就業規則において、立候補に伴う休暇制度を設けることや、議員との副業・兼業を可能とすること等について要請があったそうです。

https://www.keidanren.or.jp/announce/2023/0126_shiryo1.pdf

1 地方議会議員選挙において、勤労者が容易に立候補をすることができるよう、各企業の状況に応じ、就業規則について必要な見直しを行い、立候補に伴う休暇制度を設けることや、立候補した勤労者に対し解雇や減給等の不利益な取扱いをしないこととしていただくこと。

2 企業に勤務しながら議員活動を行うことができるよう、各企業の状況に応じ、就業規則における副業・兼業に係る規定の見直しや明確化を行うことにより、議員との副業・兼業を可能としていただくこと

これは、市民としての公共的な活動に労働者の時間と能力を貢献してもらいたいという政治の問題と企業の事業活動のために労働者を雇っているんだから余計なことはやらずに働いてもらいたいという経済の問題の交錯する領域です。似たような話に裁判員としての活動との調整などもありますが、実はこの手の話の一番本丸に位置するのは、戦後はなくなりましたが戦前は成人男子の義務として存在していた兵役との調整です。

そして、おそらく戦後生まれの人々の知識の中にはほとんど存在していないと思われますが、戦前の日本では兵役と企業労働との調整のために入営者職業保障法という法律まで作っていました。

11021851_5bdc1e379a12a_20230126223001 拙著『日本の労働法政策』から関係個所を引用しておきます。

  兵役服務者の復員後の就職確保の問題はかねてから意識されていたが、昭和初期の不況の中で深刻な社会問題となった。そのため、1931年入営者職業保障法が制定され、除隊者の復職を保障しようとした。同法はまず第1条で「何人ト雖モ被傭者ヲ求メ又ハ求職者ノ採否ヲ決スル場合ニ於テ入営ヲ命セラレタル者又ハ入営ヲ命セラルルコトアルヘキ者ニ対シ其ノ故ヲ以テ不利益ナル取扱ヲ為スヘカラス」と均等待遇を求めた上で、第2条で「雇傭者ハ入営ヲ命セラレタル被傭者ヲ解雇シタルトキ又ハ被傭者ノ入営中雇傭期間ノ満了シタルトキハ、其ノ者カ退営シタル日ヨリ三月以内ニ更ニ之ヲ雇傭スルコトヲ要ス」と、雇入れの義務づけを行っている。もっとも、陸軍では2年、海軍では3年を超える期間の服役を志願して採用された場合などいくつかの例外が規定されている。この場合の労務及び給与は入営直前の労務及び給与と同等でなければならず、これは被傭者が解雇されずに復職する場合にも同じである。
 これはもとより徴兵制のあった時代の法制ではあるが、より広く国家社会の需要と企業の雇用行動とを調和させようとする法制の先駆的事例として、現代にも示唆するところは多いように思われる。

『島田陽一先生古稀記念論集 働く社会の変容と生活保障の法』

620202 菊池馨実・竹内(奥野)寿・細川良・大木正俊・鈴木俊晴 編著『島田陽一先生古稀記念論集 働く社会の変容と生活保障の法』(旬報社)をお送りいただきました。

https://www.junposha.com/book/b620202.html

雇用社会の変容期であるいま、「日本型雇用慣行」を前提とする働き方を変革しなければ解決できない課題が山積している。

これまでの法制度や税・社会保障・年金制度の変革が求められ、労働法学についても根本的な見直しが迫られるなか、どのような就業・雇用形態を選択しても、生活が保障されるセーフティネットの構築と、差別されない社会制度をめざすべきであり、「就業者の生活保障の法」を構築することが必要である。

現在の労働法・社会保障法の理論的または政策的課題を多面的に検討する論集。

というわけで、ベテランクラスから中堅、若手に至る総勢33名が、実にさまざまなトピックを論じています。

率直に言って、冒頭近くの大内さんや水町さんの総論的論文がいつもの感があるのに対して、中盤から後ろの方に収録されている割と若手の方々のかなり特定分野を掘り下げたような論文が、結構面白くて引き込まれます。

たとえば、浅野公貴さんの「治療と仕事の両立支援の観点からみた傷病手当金の意義と課題」とか、所浩代さんの「月経等による就労障害と日本法制の課題」とか、おそらく労働法のテキストでは数行で片づけられてしまいそうなトピックですが、深堀するといろんな課題が出てくるなあと思わせます。

刊行にあたって
序 章 生活保障法の理論課題 島田陽一
1 はじめに
2 生活保障法の基礎理論
3 現行法制と生活保障法
4 むすび―生活保障法の今後の理論課題

第I部 これからの労働法学・社会保障法学の課題

第1章 変化する労働と法の役割
―デジタル技術の影響と社会課題の解決という視座―   大内伸哉
1 問題の所在
(1)定まらないギグワークの評価 21
(2)労働法の原理的射程
(3)労働法の時代的制約
(4)メタ労働法論の必要性
2 労働の目的と企業と手段性
(1)労働の原点
(2)技術と企業の手段性
(3)企業の社会的責任
(4)社会的責任と法
3 デジタル技術と法
(1)デジタル技術が引き起こす社会課題
(2)デジタル技術の手段性
4 エピローグ―労働の死?

第2章 現代労働法の新たな理論動向と日本 水町勇一郎
1 労働法の歴史と変容
2 現代労働法の理論的潮流―三つの法理論
3 欧米諸国の労働法の政策的動向―三つの方向性
4 日本の労働法の政策的展開と課題
(1)広義の「就業促進」政策
(2)広義の「差別禁止」政策
(3)法政策を推進・実現するための「手法」
(4)考察と課題

第3章 有業の低賃金・低所得層をいかなる存在として把握すべきか 林 健太郎
1 はじめに
2 有業の低賃金・低所得層に対する社会保障制度の対応
3 有業の低賃金・低所得層の置かれた状況をいかに把握すべきか
4 むすびにかえて

第4章 生活保障・憲法・社会保障法―生活保障法コンセプトの可能性― 渡邊 賢
1 はじめに
2 島田教授の提唱する 「生活保障法」
(1)「生活保障法」の提唱
(2)「生活保障法」の理念と具体的内容
(3)まとめ
3 「生活保障法」コンセプトの特徴
(1)「生活保障」 ―従前の議論との異同
(2)キャリア権論との関係
(3)能力開発施策の重視
4 「生活保障法」 コンセプトの可能性
(1)「生活保障法」 コンセプトと憲法 25 条論
(2)「生活保障法」コンセプトと社会保障法 75
5 おわりに

第5章 新しい就業と労働権論の新たな展開 有田謙司
1 はじめに
2 新しい就業の進展とそれがもたらす諸問題
3 新しい就業と労働権論の意義
4 新しい就業に対する法的保護・規制の根拠としての労働権論
5 新しい就業の諸問題と労働権論
(1)労働権と報酬
(2)労働権と契約の成立と終了・仕事の喪失・所得保障等
(3)労働権とプライヴァシー
(4)労働権と権利救済・紛争解決
6 おわりに 95

第6章 「労働の中心性」と労働法の基礎理論―メダ=シュピオ論争の端緒―  本久洋一
1 はじめに
2 シュピオ「労働、分かち合われた自由」(1993 年)
(1)労働の分かち合い(労働時間の短縮)に対する批判
(2)労働法の未来としての労働の解放
3 メダ「労働と社会政策 アラン・シュピオ『労働、分かち合われた自由』に
ついて」(1994 年)
(1)労働概念の歴史性
(2)労働の他律性
(3)「労働の解放」批判
(4)労働の分かち合いの擁護
4 おわりに

第Ⅱ部 就業形態の多様化と就業者の権利

第1章 パート・有期の格差是正法理と組織的公正―判例法理の理論化をめぐる一考察― 大木正俊
1 はじめに
2 組織的公正研究
(1)組織的公正研究の潮流
(2)分配的公正の議論の進展
(3)(広義の)手続的公正の議論
3 労契法旧 20 条関連裁判例の動向
(1)労契法旧 20 条の制定
(2)労契法旧 20 条解釈の進展
1)最高裁の判断枠組み
2)判断枠組みの詳細 ―最高裁判決を中心に
3)裁判例の傾向
4 考察
(1)分配的公正と裁判例
1)考慮すべき要素の多様性
2)均衡以外の分配的構成
(2)手続的公正と裁判例

第2章 雇用領域における差別禁止法の理論的課題―形式的平等から実質的平等の保障へ―  黒岩容子
1 問題の所在
2 国際的にみた法理論の展開
(1)伝統的な形式的平等論の意義および限界
(2)実質的平等論の提起と議論の展開
3 日本における「平等」「差別」をめぐる議論
4 差別禁止法の現代的再構築に向けて

第3章 今後の派遣労働法制のあり方 勝亦啓文
1 はじめに
2 労働者派遣法の沿革
3 労働者派遣をめぐる論点
(1)職安法との関係
(2)派遣先の雇用責任
(3)派遣労働者の待遇改善
4 労働者派遣法制のあり方

第4章 自営的就業者の団体交渉 竹内(奥野)寿
1 はじめに
2 労組法上の労働者としての保護の可能性
(1)労組法上の労働者性についての判例等の状況
(2)プラットフォーム就業者をめぐる議論
(3)コンビニエンスストアのオーナーをめぐる議論
3 労組法上の労働者ではないとしたうえでの保護をめぐる議論
(1)中小企業等協同組合法の下での交渉
(2)憲法 28 条の勤労者としての保護の可能性
4 労働法と独禁法との関係をめぐる議論
5 むすび

第5章 ワーカーズ・コレクティブの法律問題 小山敬晴
1 はじめに
2 労働者協同組合法の概要
3 法的課題
(1)検討対象の確定
(2)検討目的
(3)労働契約締結義務の意義
(4)法における協同組合の労働の定義
(5)評価
4 結語 ―これからの研究課題

第6章 フランチャイジー(加盟者)の法的保護のあり方―労働法と競争法の交錯―   土田道夫
1 本稿の目的
2 ファミリーマート事件
(1)概説 ―フランチャイズ契約・労組法上の労働者
(2)東京都労委命令
1)フランチャイズ契約における加盟者の労組法上の労働者性判断
2)具体的判断
(3)中労委命令
1)フランチャイズ契約における加盟者の労組法上の労働者性判断
2)具体的判断
(4)分析
3 労組法・独禁法による法的保護の正当化根拠
(1)労組法(労働法)による法的保護の正当化根拠
(2)独禁法(競争法)による保護の正当化根拠
(3)加盟者の労働者性を肯定した場合の独禁法の適用
4 独禁法の規律
(1)ぎまん的顧客誘引
(2)優越的地位の濫用
1)優越的地位の濫用行為
2)優越的地位の認定
5 結語

第7章 フランチャイズ契約と労働法―フランスの最近の動向を中心に―  大山盛義
1 はじめに
(1)日本の状況
(2)本稿の目的
2 これまでの議論状況
(1)従属(subordantion)関係の存否
(2)独立労働に関する労働法上の特別な保護規定
(3)フランチャイズ契約と労働法に関する裁判例―先例としての 2002 年判決
(4)フランチャイジーに対し労働法規定の適用を認めた裁判二例
1)労働法典(旧)L.781-1 条 2 項の適用
2)労働法 L.7321-1 条適用の意義
3 2002 年以降の裁判例
(1)「使用従属」関係の存在を認めた判決 ―破毀院社会部 2012 年 1 月 18 日判
決(Soc. 18 Jan 2012, no 10-16.342.)
(2)労働法 L.7321-2 条の適用―破毀院社会部 2012年1月18日判決(Soc. 18 janv. 2012, no 10-23.921)
(3)労働法 L.7321-1 条以下に関する裁判動向
4 労使対話機関の創設(2016 年)と廃止(2018 年)
(1)労使対話機関の創設
(2)労使対話機関の廃止
5 結びに代えて

第8章 韓国の公共部門における正規職転換の取組みと日本への示唆
―公共部門における非正規労働者の雇用安定をいかに図るか― 徐 侖希
1 はじめに―本稿で扱おうとすること
2 韓国の公共部門で行われている正規職転換の取組みとその対象
3 韓国の国・地方自治体に使用される「公務員ではない勤労者」
4 期間制勤労者の使用期間の上限を規制する期間制法 4 条と国・地方自治体への適用
(1)正規職転換の対象となる公務員ではない期間制勤労者
(2)正規職転換の対象外である任期付の非正規公務員
5 終わりに―韓国での取組みと日本への示唆
(1)韓国の公共部門における正規職転換の取組み
(2)日本への示唆―公共部門における非正規労働者の雇用安定をいかに図るか

第9章 正規公務員と非正規公務員の待遇格差の違法性―会計年度任用職員を中心とした検討― 岡田俊宏
1 はじめに
2 民間労働法の議論状況と会計年度任用職員制度の概要
(1)民間労働法の議論状況
1)労契法 20 条制定以前の状況
2)労契法 20 条の制定とその後の立法および判例の状況
(2)会計年度任用職員制度の概要
1)改正地公法・改正地方自治法
2)総務省マニュアルの内容
3 不合理な待遇の相違が禁止されていること
(1)問題の所在
(2)従前の学説・裁判例
1)学説の状況
2)裁判例の状況
(3)不合理な待遇の相違を違法と解する法的根拠
1)平等取扱いの原則(地公法 13 条)
2)情勢適応の原則(地公法 14 条 1 項)
3)職務給の原則(地公法 24 条 1 項)
4)均衡の原則(地公法 24 条 2 項・4 項)
(4)小括
4 不合理な待遇の相違の救済方法
(1)問題の所在
(2)行政救済
(3)司法救済
5 おわりに

第Ⅲ部 新たな生活保障をめぐる課題

第1章 自営的就業者と労働法 細川 良
1 はじめに
2 独立自営業者およびプラットフォームワークに対する労働法の適用
(1)労働者保護法理(労働基準法令)による保護
1)労働基準法上の「労働者」の解釈について
2)立法を通じた労働者保護法理の適用
(2)労働契約法の適用
(3)労働組合法の適用
3 おわりに―独立自営業者およびプラットフォームワークの保護に関する政策の
あり方

第2章 就業者と教育訓練の権利 矢野昌浩
1 前提と視点
2 日本における職業訓練法の特徴・問題
3 フランスにおける職業訓練法の特徴・概要
(1)特徴
(2)現行法の主要な仕組み
1)継続的職業訓練の目的・種類
2)労働者の権利
3)使用者の義務・責任
(3)労働時間・賃金支払いとの関係
(4)財政・運営
1)財政
2)運営
(5)失業保障と職業訓練
1)失業保険と職業訓練
2)失業扶助
(6)職業訓練の実習生という法的地位
(7)小括
4 まとめ

第3章 就業者と所得保障の課題―就業の不安定化と曖昧化への対応― 西村 淳
1 はじめに
2 就業との関係における所得保障制度の体系と変化
3 所得保障における複合
(1)社会保険と税の複合
(2)就業と給付の複合
(3)給付と支援サービスの複合
4 就業できないことに伴う給付と就業に関係しないニーズへの給付の区分
5 おわりに

第4章 全世代型社会保障と生活保障法の課題 菊池馨実
1 はじめに
2 全世代型社会保障に向けた政策動向
(1)社会保障国民会議
(2)安心社会実現会議
(3)社会保障改革に関する有識者検討会
(4)社会保障制度改革国民会議
(5)社会保障制度改革推進会議
(6)全世代型社会保障検討会議
(7)全世代型社会保障構築会議
(8)小括
3 全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正
する法律
(1) 法律の概要
(2)医療保険部会での議論

 

 

2023年1月25日 (水)

欧州労連が職場のアルゴリズム指令を要求

欧州労連が昨日付で、職場のアルゴリズムを規制する指令を求める決議を公表しました。

https://www.etuc.org/en/document/etuc-resolution-calling-eu-directive-algorithmic-systems-work

Algorithmic systems, especially AI (Artificial Intelligence), have a great influence on the work of the future. To improve working conditions and avoid negative effects, the use of such systems in the workplace must be better and effective regulated;
The AI Act is not suitable for regulating use of AI in the workplace. An EU directive on algorithmic systems in the workplace, based on Article 153 TFEU, should define European minimum standards for the design and use of algorithmic systems in the employment context;
Key element of the new directive is the strengthening and enforcement of collective bargaining rights of trade unions as well as information, consultation and participation rights of workers' representatives;
Algorithmic systems at work need to be transparent and explainable. Workers and their representatives shall have the right to receive information about the used applications in plain and understandable language;
Trade unions and workers’ representatives shall have the right to gain external expertise;
An algorithmic impact assessment for changes in working conditions, including a fundamental rights and equality impact assessment, must be carried out by the employer, with the full involvement of trade unions and workers' representatives before any system is implemented and should be repeated regularly after implementation.
Intrusive applications should be banned in the context of work. Applications to monitor workers shall only be allowed if their use is negotiated and agreed with trade unions and/or workers’ representatives;
Algorithmic systems and AI should assist workers in the employment context. The human-in-command principle has to be defined and the rights of human decision makers have to be protected;
Workers shall have the right to check and revise algorithmic decisions.

欧州委員会は既にAI規則案を提案していますが、欧州労連によると、職場のAI利用については同規則案では不十分であり、雇用に関わる特定の指令の制定が必要だと言っています。

この中で最も重要なのは、職場にAIを実装する際には、人権や平等を含む労働条件に対する影響のアセスメントを労働組合や労働者代表を入れてやれという点でしょう。

 

「ぬるま湯的な状況だった」 春闘で労組幹部から相次ぐ反省の弁@毎日新聞

今朝の毎日新聞の2面に春闘関連のでかい記事が載っていますが、

https://mainichi.jp/articles/20230123/k00/00m/040/258000c(「ぬるま湯的な状況だった」 春闘で労組幹部から相次ぐ反省の弁)

9_20230125102801 主要企業の労使の代表者などが集まる経団連の労使フォーラムが24日、東京都内で開かれ、2023年春闘の労使交渉が本格化した。今年の春闘で1995年以来の高い要求を掲げる連合だが、その内部から「これまでの春闘はぬるま湯的な状況だった」(幹部)など、過去を反省する言葉が漏れ伝わってくる。連合内部でいったい何が起きているのだろうか――。・・・

記事の後ろの方には私もちらりと出てきます。喋っているのは、『世界』1月号に書いたようなことです。

 

 

2023年1月23日 (月)

日本型職務給とはスキル給?

本日の岸田首相の施政方針演説では、防衛力の強化や子供・子育て政策に比べるとやや注目が低いようですが、構造的な賃上げの中に「日本型の職務給」というのが出てきます。

https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2023/0123shiseihoshin.html

(三)構造的な賃上げ
 そして、企業が収益を上げて、労働者にその果実をしっかり分配し、消費が伸び、更なる経済成長が生まれる。この好循環の鍵を握るのが、「賃上げ」です。
 これまで着実に積み上げてきた経済成長の土台の上に、持続的に賃金が上がる「構造」を作り上げるため、労働市場改革を進めます。
 まずは、足下で、物価上昇を超える賃上げが必要です。
 政府は、経済成長のための投資と改革に、全力を挙げます。公的セクターや、政府調達に参加する企業で働く方の賃金を引き上げます。
 また、中小企業における賃上げ実現に向け、生産性向上、下請け取引の適正化、価格転嫁の促進、さらにはフリーランスの取引適正化といった対策も、一層強化します。
 そして、その先に、多様な人材、意欲ある個人が、その能力を最大限活かして働くことが、企業の生産性を向上させ、更なる賃上げにつながる社会を創り、持続的な賃上げを実現していきます。
 そのために、希望する非正規雇用の方の正規化に加え、リスキリングによる能力向上支援、日本型の職務給の確立、成長分野への円滑な労働移動を進めるという三位一体の労働市場改革を、働く人の立場に立って、加速します。
 リスキリングについては、GX、DX、スタートアップなどの成長分野に関するスキルを重点的に支援するとともに、企業経由が中心となっている在職者向け支援を、個人への直接支援中心に見直します。加えて、年齢や性別を問わず、リスキリングから転職まで一気通貫で支援する枠組みも作ります。より長期的な目線での学び直しも支援します。
 一方で、企業には、そうした個人を受け止める準備を進めていただきたい。
 人材の獲得競争が激化する中、従来の年功賃金から、職務に応じてスキルが適正に評価され、賃上げに反映される日本型の職務給へ移行することは、企業の成長のためにも急務です。
 本年六月までに、日本企業に合った職務給の導入方法を類型化し、モデルをお示しします

この「定義」からすると、岸田首相の目指す「日本型の職務給」というのは、ジョブ、つまり座る椅子に値札の付いているジョブ給ではなく、労働者がジョブを遂行するスキルに値札をつけるスキル給であるようです。つまり、椅子ではなく、人に値札をつけるという意味では厳密な意味での職務給ではないようですが、「従来の年功賃金から、職務に応じてスキルが適正に評価され」云々というところからすると、具体的なジョブのスキルから切り離された、年齢とともに上がっていく一方の人間力としか言いようのない特殊日本的「能力」ではない、という点に力点があるようです。

でも、ジョブでもなければ不可視の「能力」でもなく、きちんとジョブと対応した具体的なスキルに的確な値段をつけるというのは、本気でやろうとすると結構大変な作業になると思いますが、さてどのようにやるのでしょうか。

高度プロフェッショナル制度の適用労働者665人@『労務事情』2023年1月1/15日号

B202301 『労務事情』2023年1月1/15日号に、連載「数字から読む日本の雇用」の第9回として、「高度プロフェッショナル制度の適用労働者665人」を寄稿しました。

https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/romujijo/b20230101.html

今回の数字は、立法当時にあれだけ大騒ぎをし、これが導入されたりしたら労働者はみな死ぬまで働かされると言わんばかりの議論が横行していた高度プロフェッショナル制度が、4年たっても対象労働者の数はわずか665人にとどまっているというデータです。・・・

最後のパラグラフで、当時の野党議員や学者、評論家に対してかなり辛辣な批評をしていますが、それを読みたい方は是非現物を手にとって御覧下さい。

 

 

 

フリーランスに係る募集情報提供事業規制@『労基旬報』2023年1月25日号

『労基旬報』2023年1月25日号に「フリーランスに係る募集情報提供事業規制」を寄稿しました。

 昨年秋には、岸田内閣の目玉政策の一つとしてフリーランス新法が国会に提出されるという触れ込みでしたが、結局諸般の情勢から提出されずじまいとなりました。もっともその内容は、昨年9月13日から27日にかけて行われた「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」というパブリックコメント用のペーパーに示されています。その大部分は、一昨年(2021年)3月のフリーランス・ガイドラインの延長線上に、業務委託の際の条件明示義務、報酬の支払期日、事業者の禁止行為などを規定するもので、主として公正取引委員会が所管し、中小企業庁が実施に関わる領域になります。
 ところが、このペーパーの中には、募集情報の的確性やハラスメント。ワークライフバランスといった、これまで雇用労働者を対象に進められてきた政策をフリーランスにも拡大するような項目も盛り込まれています。この部分は、労働法の対象拡大という観点からも大変興味深いところであり、今後法案の形で国会に提出されたときには細かく分析する必要があります。今回はそのうち、職業安定法の2022年改正で大幅に拡充された募集情報等提供事業に対する規制のフリーランスへの拡大と位置づけられる「募集情報の的確性」の部分について、職業安定法の歴史と労働行政におけるフリーランス政策の展開の両面から概観してみたいと思います。
 職業安定法は有料職業紹介事業に対して極めて厳格な規制をする一方、求人情報を扱う事業に対しては何の規制もありませんでした。1980年代にリクルートをはじめとする求人情報誌が急速に発展すると、虚偽・誇大広告による被害が社会問題となり、求人情報誌規制が行政内部で検討されました。しかし、1985年改正職業安定法は、第42条第2項として緩やかな努力義務を規定するにとどまりました。その後、労働省の民間労働力需給制度研究会は、労働者募集広告事業者に対する様々な規制を提言しましたが、中央職業安定審議会民間労働力需給制度小委員会では労使間で意見がまとまらず、手がつけられないままとなりました。その後議論の焦点は有料職業紹介事業のネガティブリスト化や手数料の自由化など規制緩和にシフトし、1997年省令改正、1999年法改正、2003年法改正など、規制緩和の時代が続きました。
 この流れが変わり始めたのが2017年法改正です。引き続く規制改革の動きと並んで、特に若者を中心に問題化していた求人トラブルをめぐって、法規制の動きが急速に進展し始めたのです。雇用仲介事業あり方検討会や労政審労働力需給制度部会の議論を経て行われた同改正では、求人者も含めた労働条件明示義務の強化や求人申込みの拒否、さらには募集情報等提供事業に係る緩やかな努力義務が導入されました。
 その後、2019年にリクナビ事件が発生し、とりわけ個人情報の保護といった人権に関わる問題に関する募集情報等提供事業に対する規制の緩さが社会問題となり、労働市場における雇用仲介在り方研究会や労政審労働力需給制度部会の議論を経て、2022年法改正に流れ込んでいくことになります。これにより、募集情報等提供事業者に様々な義務が課せられるとともに、求職者情報を収集する特定募集情報等提供事業者には初めて届出義務を課しました。この改正については厚労省のサイトを始めネット上に多くの解説が載っているので詳細はそれらに譲りますが、その元になった労働市場における雇用仲介在り方研究会報告の最後のところには、「雇用以外の仲介について」という一項が付け加えられていました。
 業務委託等の受発注者等、雇用以外の仕事を仲介するようなサービスについては、現時点において、職業安定法の射程を超えるものも存在すると考えられる。
 他方、態様として雇用仲介サービスと類似しているサービスが提供されていることや、非雇用者とされている人でも労働者性のある人や交渉力の低い人が存在することを踏まえ、雇用以外の仕事を仲介するサービスについても、雇用仲介サービスを行う者が守るべきルールに倣うことができるよう、周知を図るべきである。
 また同法改正の国会審議においても、フリーランスの問題が取り上げられていました。これは2022年3月24日の参議院厚生労働委員会における質疑です。
○川田龍平君 ・・・最後にじゃないんですが、フリーランスの保護についても一点お願い申し上げておきます。
 職業安定法は、あくまで雇用契約に関する仲介事業を対象としており、フリーランスなど雇用類似の仕事の仲介は対象になっていません。しかし、フリーランスだからといって虚偽の表示をしていい理由にはなりませんし、労働法制によって保護されないフリーランスだからこそ、仕事の仲介にはより正確な表示が求められると考えます。
 改正職安法の運用によって得られる知見、そして厚労省が委託実施しているフリーランス・トラブル110番などの相談内容を踏まえ、今後、フリーランスの保護に向けた取組を進めていただきたいと思いますが、大臣の見解を伺います。
○国務大臣(後藤茂之君) フリーランスとして働く方が安心して働ける環境を整備するために、厚生労働省では、令和2年11月より、関係省庁と連携をいたしまして、フリーランスと発注事業者とのトラブルについてワンストップで相談できる窓口としてフリーランス・トラブル110番を設置し、丁寧な相談対応に取り組んできております。
 今後、事業者がフリーランスと取引する際の契約の明確化などについて、内閣官房を始め関係省庁で検討し、新たなフリーランス保護法制を含む所要の措置を講じていくこととしているところでございます。フリーランス・トラブル110番に寄せられた事例や傾向については、保護法制を検討していく中で関係省庁とも共有しつつ、実態を踏まえた対応を行ってまいります。
 最終的に、参議院における付帯決議の中に第17号としてフリーランスに係る仕事の仲介についても「必要な対策を検討すること」が求められました。
 雇用保険法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議
 政府は、本法の施行に当たり、次の事項について適切な措置を講ずるべきである。
十七、業務委託や請負など雇用形態以外の仕事を仲介するサービスを利用して仕事を探す者の適切な保護が図られるよう、改正後の職業安定法の運用によって得られた知見やフリーランス・トラブル110番に寄せられた相談内容等を踏まえて、必要な対策を検討すること。
 一方フリーランス政策としては、2017年3月の働き方改革実行計画で「雇用類似の働き方が拡大している現状に鑑み、その実態を把握し、政府は有識者会議を設置し法的保護の必要性を中長期的課題として検討する」とされたことを受け、厚生労働省は雇用類似の働き方に関する検討会や雇用類似の働き方論点整理検討会を開催し、具体的な検討を進めてきました。2020年12月にとりまとめられた「これまで(令和元年6月中間整理以降)の議論のご意見について」では、各論の「契約条件の明示、契約の締結・変更・終了に関するルールの明確化等」の中で、募集関係についても次のように触れています。
(1) 募集関係
<主な論点>
○雇用類似の仕事を行う者の募集の際のその条件の明示を促す方策を検討してはどうか。
?明示事項について、どのように考えるか。例えば、自営型テレワークガイドラインの記載事項等を参考とし、検討することが考えられるのではないか。
○その際、個人か企業かを問わずに業務委託の仕事を行う者を募集する場合について、どのように考えるか。
?雇用類似就業者となろうとする者へ保護の観点、委託者への負担の観点、契約時のルールとの関係性等を考慮した上で検討が必要ではないか。
○対象となる雇用類似就業者について、更なる要件を設ける必要があるか。
<主な御指摘>
・どの程度の作業を要する仕事なのかを明示すべき場合もあるのではないか
・募集と契約締結は分けて議論すべき
・募集条件の明示を促す方策は検討すべき。相手が企業か個人かを問わずに募集している場合でも、個人が対象となる以上は、明確化すべき部分は一定のルールを設けるべきではないか
・公正な競争を促す観点からは、募集段階での明示についても政策措置を考えることが必要ではないか
・条件の明示に関しては、実効性確保のために一定の情報を企業が開示すべきという問題と、具体的な契約内容をどのように明示して契約するかという問題のどちらで受け止めるかも考えて議論すべきではないか
・募集段階でどの程度の内容を明示させるかだけではなく、募集段階で一定以上の条件は切り下げられない要素として提示させるべきかについて、検討する必要があるのではないか
・募集条件については、実態に合った形で明示するのがよいのではないか
 2021年3月に内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の連名で策定された「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」は、もっぱら独占禁止法や下請法に基づき、フリーランスと取引を行う事業者が遵守すべき事項と仲介事業者が遵守すべき事項を記述するほか、既存の現行法上「雇用」に該当する場合の判断基準を示すだけで、募集の問題には踏み込んでいませんでした。
 その後同年10月に就任した岸田文雄首相は、就任直ちに「新しい資本主義実現会議」を立ち上げました。同会議が翌11月にまとめた緊急提言では「新たなフリーランス保護法制の立法」という項目が立てられ、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するため、事業者がフリーランスと契約する際の、契約の明確化や禁止行為の明定など、フリーランス保護のための新法を早期に国会に提出する。あわせて、公正取引委員会の執行体制を整備する」と、新法の提出を予告していました。翌2022年6月の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」でも、フリーランスの取引適正化のための法制度について検討し、早期に国会に提出すると述べていました。
 こうして同年9月13日から27日にかけて、内閣官房が「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」についてパブリックコメントを実施し、その結果も10月12日にまとめられています。この段階では、誰もがすぐに法案が国会に提出されると考えていましたが、そのままずるずると日が過ぎていき、結局提出されないままとなりました。その裏事情について、同年11月4日付の朝日新聞が「自民党内の議論で、多様な働き方があるフリーランスをまとめて保護することを疑問視する声などが相次ぎ、手続きが止まっている。岸田文雄首相の肝いりで、官邸が主導して法案作りを進めたことに対する反発もあるようだ。」と報じています。
 上述のパブリックコメントに付された「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」というペーパーには、フリーランスに業務を委託する事業者に対して、条件明示義務、解約・不更新の予告、報酬の支払期日、事業者の禁止行為等の具体的立法内容が示されていますが、その中には募集情報の的確性という項目もありました。
○事業者が、不特定多数の者に対して、業務を受託するフリーランスの募集に関する情報等を提供する場合には、その情報等を正確・最新の内容に保ち、虚偽の表示・誤解を生じさせる表示をしてはならない。
○募集に応じて業務を受託しようとするフリーランスに対しては、上記(条件明示義務)に準じた事項を明示しなければならない。
○事業者が上記により明示した事項と異なる内容で業務委託をする場合には、その旨を説明しなければならない。
 これは2021年のガイドラインには含まれておらず、2022年職業安定法改正時の国会附帯決議で求められていたことがこういう形で入ってきたものと思われます。
 現時点ではまだ具体的な法律案として提案されているわけではありませんが、情報社会立法としての新・職業安定法の時代の最先端に位置する立法政策として、このフリーランスに係る募集情報提供に関する規制の試みは注目するに値します。

 

«合意されたEU賃金透明性指令(文言整理前版)