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2026年1月16日 (金)

山下ゆさんの拙著書評

Asahi2_20260116230401 ネット書評家として名高い山下ゆさんが、拙著『管理職の戦後史』(朝日新書)を取り上げてくださいました。

http://blog.livedoor.jp/yamasitayu/archives/52428053.html

「メンバーシップ型雇用」「ジョブ型雇用」などの用語を普及させ、日本の雇用システムについてその特徴を明らかにしてきた著者が日本の管理職の問題に迫った本。
 以前の著者の本でも書かれていたことですが、日本だと中途採用の面接で来た中高年が「部長ならできます」と言えばそれは笑い話として消費されてしまいますが、欧米では当たり前の受け答えになります。「管理職」という職務がしっかりと確立しており、ビジネススクールでマネジメントについて学んできた人が就くポジションだからです。

 本書は、そんな日本の管理職の特殊性を戦後の歴史を紐解きながら探り、アメリカの影響を受けた労働法と実際の日本の管理職のズレと、そこから生まれるさまざまな問題を論じています。
 著者は複数のレーベルから新書を出していますが、同じ朝日新書から出た『賃金とは何か』と同じく、この新書もやや硬めで決して読みやすいとは言えませんが、「なぜ管理職が罰ゲームになってしまったのか?」ということがよく分かる内容になっています。

少し前のXでの短評でも言われていたように、「この新書もやや硬めで決して読みやすいとは言えません」というのはやはり確かなようです。

書いているときは、話の中身が結構波乱万丈で自分で書きながら面白いので、ついつい原資料を長々と引用してしまいがちになるんですが、そうすると一般読者にとっては読みにくくなってしまうんですね。

 冒頭にも書きましたが、資料や法令などで管理職の実態を浮かび上がらせようとするスタイルは新書にしてはやや硬めかもしれません
 個人的には今までの新書との重複を恐れずに、例えば、最後のほうのパワハラの話などを紙幅をとって論じたほうが多くの人が手に取りやすかったのではないかと思いますが、その代わりに日本の労働法と実態のズレといった部分は印象に残りました。
 本書は、日本の管理職の困難を歴史と法制度の両面から教えてくれる内容になっています。

まあ、パワハラの話はそれだけで一冊の本にできるネタでもあるので、むしろ、資料部分をもっと削るべきだったかな、と今は思っています。

 

 

2026年1月15日 (木)

朝日新聞の取材考記@澤路記者

As20260115001893 本日の朝日新聞夕刊の取材考記に、澤路毅彦記者が例の裁量労働制の件で書いています。

https://www.asahi.com/articles/DA3S16382419.html

 厚生労働省が昨年10月上旬の自民党の会合で示した資料に、裁量労働制に労働時間の上限規制が「適用されない」とあったのを見て驚いた。「厚労省がそれを公言していいの?」と。・・・・ 

これ、私が本ブログで批判したあの記事の件だよな、と思って読んでいくと、

・・・実際の労働時間に規制がかからないから、厚労省の説明に理由がないというわけではない。実際、このことを記事にすると、「枝葉末節」との批判も頂いた。

ここまで読んで、思わず吹き出しました。これって、本ブログの

朝日新聞の枝葉末節症候群

本日の朝日新聞の1面トップは「裁量労働制は上限規制の「適用外」 厚労省が自民会合で不正確な説明」という記事ですが、正直言って、何がそんなにけしからんのかよく分からないというか、労働時間の一番大事な肝心要の話をそっちのけにして、法形式論の枝葉末節にばかりこだわっているかの如き印象を受けました。この記事を礼賛している「識者」諸氏に対しても以下同文です。・・・

澤路さんからすると、それはそのとおりだが、そういうのは「制度を批判する側の主張」であって、厚労省自らがそう認めてしまうのは「割り切れなさが残った」ということのようです。

なるほどね、気持ちはわからないではないですが、でも裁量労働制の本質が論ずる立場によって変わるわけでもないと思うのですがね。

過去30年の労働時間制度の焦点は、裁量労働制、ホワイトカラーエグゼンプション、高度プロフェッショナル、そしていま再び裁量労働制と、法制度上はみなし制と適用除外で違うように見えるけれども、やりたい側もやりたくない側も、同じようなものとして対してきたことは間違いないわけで。

そしてそれらに対する私の考えは、近著『管理職の戦後史』で詳細に論じたように、そもそも管理職が限りなくヒラ社員であり、ヒラ社員が限りなく管理職であるこの日本型雇用システムにおいては、これらはみな限りなく正しく、同時に限りなく間違っているとしか言いようがないのですね。そこのところを取り残した議論は全て本質を取り落とした空疎な議論になってしまうのだと思っています。

ただ、今回の記事(エッセイ)の主眼は、そっちよりもその後の

背景を取材すると浮かび上がった来たのは、「働き方改革」で導入された上限規制を必死で守ろうとする厚労省の苦しい立場だ。。

という点にあるようです。これも、本ブログで示唆してきたことですが、やはり上限規制自体の緩和は過労死を促進するのか!?という批判があまりにも明らかなので、管理職でなくてもそれなりに自律的に働いているというそれなりに正当性のある裁量労働制で何とか手を打ちたいという気持ちはとてもよくわかります。まあ、でもいよいよ衆議院が解散されて総選挙になるようでもあり、この先何がどうなることやら誰にとっても全く五里霧中というところなのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

労務屋さんが『外国人労働政策』にやや個人的な感慨を含めたコメント

Chukogaikoku_20260115160601 先日上梓した『外国人労働政策』(中央公論新社)(新書ではなくハードカバーの単行本です)について、労務屋さんが早速書評を書いてくれました。

https://roumuya.hatenablog.com/entry/2026/01/15/153412

このテーマは、私自身も、昨年の『管理職の戦後史』で取り上げられたホワイトカラー・エグゼンプション以上に深入りして関わりましたので、非常に感慨深く読ませていただきました。 

そう、こういう政策過程分析は、その政策過程に関わった方々にとっては、なかなかに感慨深いものになるのであろうな、と思います。

逆にわたくし自身は、旧労働省で近くの部局にはいたものの、外国人労働政策自体に関わることは全くなく、その意味ではやや醒めた目で見てしまうところがあるのかも知れません。

第二部については、私は主として経団連と総合規制改革会議(名称はこの間だけで2回くらい変わったと思う)のチャネルを通じて関与していたので、まあ今思い出してもいろいろと思うところはありますが、とりあえず本書で「外国人を正面から労働者として政策対象にすべしという労働政策の常識を…実現するに至らせたのは、記憶しておくに値します」と高い評価をいただいていることは非常にうれしく、深く感謝したいところです(規制関連改革会議繰り返し「労働政策関係では敵役」と評価されているのは若干ツラいですが)。

いや敵役と繰り返したのは、研修生の労働者性問題に関する限り、この敵役だけが正論を吐いていたということを強調するための文飾なので、ツラくならないでください。

 ということで何やらとりとめのない感想でいまひとつ収拾がついておりませんが、今現在の現実を見ればすでに外国人労働者の労働市場における存在感はかなり大きくなっていますし、生産年齢人口が減少に転じて以降も非常にがんばって労働力人口を増加ないし維持させてきているわけではありますが、しかし一昨年の労働経済白書でも示されているように労働時間ベースの労働投入量は減少し始めているのも事実なので、(先行した諸外国では難しい課題が明らかになっているわけではありますが)将来的に外国人労働者抜きで日本の労働市場が成り立つかというとなかなか難しいと考えるのが素直ではないでしょうか。本書を読むにつけ容易ではなさそうですが、建設的な議論を望みたいところです。

本書は基本的に昔の政策決定過程をほじくり返す歴史書ではありますが、最後のところでちょびっとではありますが、あるべき外国人労働政策について示唆してみたところもありますので、昨今の雰囲気のなかでも是非「建設的な議論」が望まれます。

 

 

 

 

業務上精神障害の支給決定件数1,055件@『労務事情』2026年1月1/15日号

C3db4f7d9a9145419265850a69e83e8e 『労務事情』2026年1月1/15日号に「業務上精神障害の支給決定件数1,055件」を寄稿しました。

https://www.sanro.co.jp/book/b10158657.html

 昨年6月に公表された2024年度の過労死等の労災補償状況によると、業務上の脳・心臓疾患(いわゆる過労死)の支給決定件数は241件、業務上の精神障害(いわゆる過労自殺)の支給決定件数は1,055件でした。・・・・・

 

 

2026年1月14日 (水)

日刊ゲンダイに拙著書評

Asahishinsho2_20260114124501 日刊ゲンダイに、拙著『管理職の戦後史』の短評が載ったようです。

https://www.nikkan-gendai.com/?p=news_detail&id=382789

 近年、働き方改革から取り残され、管理職として働くことが罰ゲーム化していると評されている。

 管理職の問題は今に始まったことではなく、1970年代にも人事労務管理上の大きな問題になっていた。不況の際に賃金カットや出向など真っ先に狙われ犠牲を受ける一方、この時代には管理職ポスト不足=管理職の過剰が企業人事にとって大きな課題になりつつあったのだ。さらにさかのぼり、1950年代には労働組合が管理職をつるし上げるような運動を展開した時期もあれば、終戦直後には管理職が労働組合運動の先頭に立って経営陣をつるし上げていた時期もあるという。

 戦後日本社会におけるそうした管理職の変遷をたどり、日本型管理職の特殊な姿を浮き彫りにする歴史テキスト。

 

2026年1月13日 (火)

『管理職の戦後史』への若干の書評

Asahishinsho2_20260113150501 昨年11月に上梓した『管理職の戦後史』に対して、書評サイトでさらにいくつかの短評がアップされました。

まず、アマゾンカスタマーさんから

https://www.amazon.co.jp/dp/4022953454

管理職の線引きの複雑性を分かりやすく説明しているところに本書の特徴がある。ただ、管理職がどういう意味合いを持つのかに対し、ドイツの参考事例による管理職員の事を取り上げていたが、参考事案として管理職の線引きが複雑な日本にはセメダイン事件があったが、①団体交渉にあたる会社の担当者を誰にするか②交渉事項に関する会社の機密事項が組合側に漏洩された場合の会社側の組合に対する団体交渉を断る立証責任についてもどの様な考えをもっているのか言及して欲しかった。それは、ドイツのように管理職が独立した権限をもっているのに対し日本は独立した権限を持つことに厳しい管理職に対し本書は現実の受難から栄光に向かう独立した権限を勝ち取るための受難だという事を伝えたいと読者は感じたがそれは如何に・・・。

また読書メーターでも、お抹茶さんとすのさんから、

https://bookmeter.com/books/22966813

お抹茶
出版物や報告書や試案や基発の引用が多く専門的。戦後すぐは管理職層まで労働組合が取り込んで経営側を圧迫したが,次第に使用者の利益代表者ではない係長以下の現場職制層までを敵に回して追いつめられた。管理職ポスト不足で設けられたスタッフ職は,管理監督者と同格ながら管理監督機能とは別の専門職という独特の解釈。エリートとノンエリートの差を極小化した戦後日本の企業社会では,上から下まで,自律的にも裁量性を有してないホワイトカラーが所定内労働時間では処理できない業務量を抱える。メンバーシップ型とジョブ型の齟齬が影響。

すのさん
かつて管理職は労働組合の先頭に立ち、使用者と対峙していたという。そのような時代があったと想像できないほどに今の管理職が置かれた立場は不安定で苦しい。それはそもそも日本のメンバーシップ型雇用社会に由来するものであるという。一般社員から管理職までが各々PDCAを回す。管理と事務が混在した仕事をするという日本の雇用制度が、管理職という存在を曖昧化させている。労働組合には入れず、労働時間規制の対象からも漏れ落ちる。そんな管理職の労働状況を改善するにはジョブの明確化、ジョブ型への移行が肝となるように思われる。 

さらに、X(旧twitter)でも、本べんさんから、

https://x.com/bookreadben/status/2009544139139113058

濱口桂一郎『管理職の戦後史』(朝日新書)を読了。特に後半は(新書としては)原資料の転載が多く、読むのが若干苦痛でした。前半の労働組合における管理職の位置付けの変遷は、大変興味深かった。上から下まで経営者であり、従業員でもある役割の曖昧さが、制度を混乱させているというお話でした。

確かに、新書本にしては原資料を大幅に引用して専門的な議論に入り込みすぎているところがあり、普通の読者の方々にはいささか読みにくい印象を与えてしまったという反省はあります。

ただ、議論の焦点が、日本のヒラ社員はなにがしか管理職であり、日本の管理職はなにがしかヒラ社員であるという日本の特色が、まさに裁量労働制やエグゼンプションの議論にこそ露呈するということなので、どうしてもそれらの議論の過程を詳細に追いかけていくことにならざるを得ず、結果的に「読むのが若干苦痛」になってしまったようです。

 

 

2026年1月 9日 (金)

なぜ労働者じゃないのに健康保険に入れるのか?又は健康保険法上の労働者概念

ここ数日、日本維新の会の一部議員による国民健康保険逃れの問題が新聞を賑わしていますが、政治スキャンダルとしての追及は政治部記者や政治学者にお任せするとして、労働社会政策に関わる人間であるならばまず何よりも、なんで労働者じゃないのに国民健康保険を逃れて健康保険に入れるのか?というそもそもの疑問に立ち向かわなければならないはずです。

いうまでもなく、日本の社会保険制度は、労働者向けの健康保険、厚生年金と非労働者向けの国民健康保険、国民年金からなっています。とはいえ、実態としては、労働者でありながら健康保険や厚生年金から排除されて国民健康保険や国民年金に追いやられている非正規労働者がかなりいるわけですが、その逆というのは本来あり得ないはずです。

263_hp ところがその本来あり得ないことが、戦後長らくずっと行われてきているのです。その経緯については、2018年に『季刊労働法』に寄稿した「健康保険の労働法政策」で、労働災害における谷間の現象に関係でかなり詳しく解説したことがあります。

法人代表者というのは、労働者じゃないにもかかわらず、「社員」の延長というメンバーシップ感覚に基づいて、不利な国民健康保険じゃなくて有利な健康保険に加入できるようにしてしまったことが、どういうおかしな事態を招き、そして健康保険法上だけで通用する特殊な労働者概念というおかしな代物を生み出してしまったことが、お分かりになると思います。

7 法人代表者の扱いと健康保険法と労災保険法の間隙
 
(1) 「間隙」の誕生
 
 さて、終戦直後に健康保険法から労災保険法が分離独立した時に時計の針を戻しましょう。これにより、健康保険法は「被保険者ノ業務外ノ事由ニ因ル疾病、負傷若ハ死亡又ハ分娩ニ関シ」保険給付をする制度であることが明記されました。被保険者とは被用者であり、その業務上の傷病は労災保険法に委ねられたのですから当然です。
 一方、国民健康保険法は引き続き業務上外の区別はありません。1938年国民健康保険法はこう規定していました。
第一条 国民健康保険ハ相扶共済ノ精神ニ則リ疾病、負傷、分娩又ハ死亡ニ関シ保険給付ヲ為スヲ目的トスルモノトス
 戦後1958年の新国民健康保険法もこう規定しています。
(国民健康保険)
第二条 国民健康保険は、被保険者の疾病、負傷、出産又は死亡に関して必要な保険給付を行うものとする。
 もっとも、上述のような経緯で、この段階でも、また現在においても、本来健康保険法の適用対象となるべき被用者のすべてが健康保険の被保険者になっているわけではなく、零細個人事業所の被用者や最近では(適用拡大されつつあるとはいえ)非正規労働者が国民健康保険に回されています。しかし彼らも労働法上はれっきとした労働者ですから、当然労働基準法の労災補償規定が、それゆえ(これまた戦後すぐには全面適用ではありませんでしたが、現在では完全に)労災保険法が適用されます。そこで、国民健康保険法が適用されている労働者の業務上の災害については、労災保険法が優先的に適用されるという調整規定が設けられています(第56条)。
 このように適用がダブる場合は調整規定で対処すればいいのですが、いずれの法律も適用されない間隙が生じてしまう場合には、そういうわけにはいきません。しかし、法律の条文を見る限り、そのような事態が起こる可能性は本来ないはずです。労働者の業務上の傷病は健康保険適用者であろうが国民健康保険適用者であろうが労災保険が面倒を見るのであり、労働者ではない自営業者などの業務上の傷病は国民健康保険が面倒を見るのですから、法律条文上に間隙が存在する余地はありません。しかし、法律の条文からは読めないような「解釈」を通達レベルでやってしまうと、法律制定時には想定されていなかったような間隙が生み出されてしまう可能性が生ずるのです。
 1949年7月、厚生省は、法人の代表者又は業務執行者の被保険者資格について」(昭和24年7月28日保発第74号)という局長通達を出しました。
 法人の理事、監事、取締役、代表社員及び無限責任社員等法人の代表者又は業務執行者であつて、他面その法人の業務の一部を担任している者は、その限度において使用関係にある者として、健康保険及び厚生年金保険の被保険者として取扱つて来たのであるが、今後これら法人の代表者又は業務執行者であつても、法人から、労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者の資格を取得させるよう致されたい。
 なお、法人に非ざる社団又は組合の総裁、会長及び組合及び組合長等その団体の理事者の地位にある者、又は地方公共団体の業務執行者についても同様な取扱と致されたい。
 このため法人代表者等は医療保険上は労働者として業務外の傷病について高い給付水準を享受できることとなった代わりに、労災保険上は労働者ではないためその給付を受けられず、かといって国民健康保険には加入していないのでその業務上傷病給付を受けることもできないという、いわば制度の谷間にこぼれ落ちてしまいました。これに対処する法政策は、長らく労災保険の特別加入制度しかありませんでした。
 
(2) 労災保険の特別加入
 
 労災保険は本来、労働基準法適用労働者の労働災害に対する保護を目的とした制度であり、労働者でない中小事業主や自営業者は対象としていません。しかし、これら非雇用労働者の中には業務の実態から見て労働者に準じて保護するにふさわしい者が存在することから、1965年労災保険法改正により一定範囲について特に労災保険への加入を認めることとされました。これが特別加入です。
 しかしながら、実はそれ以前から通達による擬制適用という形で特殊な取扱いが認められていました。まず1947年11月に、「土木建築労働者についての労働者災害補償保険法適用に関する件」(昭和22年11月12日基発第285号)が次のように指示していました。
 土木建築事業についての労働者災害補償保険法の適用に関しては、法第三条第一項第三号に規定するところであるが、土木建築事業の特殊性として、その労働者の一部には恒常的雇用関係を有するものでなく、時に労働者として他に使用される場合もあるが、他面所謂一人親方として営業者とみなされるべき場合の多いものがある。しかも、その実態は一般労働者と同様自ら労務に従事するものであるから、業務上災害を被る危険に曝されているものである。
 ついては、かかる土木建築事業に従事する特殊労働者の立場を考慮し、特に左記によりこれを取扱い本法による保護を受けしむるよう致したい。
一、自ら業者の立場に立つ労働者が保険法の適用を希望する場合には、それら労働者によって任意組合を組織せしめ、その組合をもって便宜保険法上の使用者として、保険加入の申込みをなさしめること。
 やがて、1963年10月の労災問題懇談会報告において「自営業主、家内労働者への適用を考慮すべき」との意見が出され、これを受けた労災保険審議会は1964年7月、「一人親方、小規模事業の事業主及びその家族従業者その他労働者に準ずる者であって、労働大臣の定める者については、原則として団体加入することを条件として、特別加入することを認める」と答申しました。労働省は翌1965年3月法案を提出、6月には成立に至りました。
 これにより、中小規模事業主とその家族従業者、一人親方とその家族従業者及び特定作業従事者について、特別加入制度が設けられました。中小事業主に特別加入を認めたのは、事業主が労働者とともに労働者と同様に働くことが多く、労働者に準じて保護するにふさわしいことに加えて、特別加入を通じて中小企業の労災保険への加入を促進しようという政策意図が働いていました。一人親方については、土木建築事業のほか、自動車運送(個人タクシーやトラック)、漁業が認められました。また特定作業従事者としては、危険な農機具を使用する自営農業者が指定されました。
 その後、1970年に家内労働法が制定され、危険性の高い作業を行う家内労働者等が特定作業従事者に指定されました。具体的には金属加工、研磨作業、履物製造加工、陶磁器製造、動力織機等です。また、1976年には一人親方に林業と配置薬販売業が加えられ、1980年には廃品回収業も加えられています。
 しかしながら、労災保険の特別加入はあくまでも任意の制度なので、強制適用保険としては依然として間隙が存在する状態のままでした。
 
(3) 2003年通達
 
 2002年6月7日の衆議院厚生労働委員会で、民主党の大島敦議員がこの問題を取り上げ、坂口力厚生労働大臣が「谷間があってはいけませんので、このほかにもそうした問題がないかどうかもあわせてちょっと検討させていただいて、そして、谷間を至急なくするようにしたいと思います」と答弁しました。
 これを受ける形で、2003年7月に保険局長名の通達「法人の代表者等に対する健康保険の適用について」(平成15年7月1日保発第0701002号)が発出されました。
 健康保険法(大正11年法律第70号。以下「法」という。)は、業務外の事由による疾病等に関して保険給付を行うこととされているため、業務遂行の過程において業務に起因して生じた傷病は、健康保険の給付対象とならない。
 一方、法人の代表者又は業務執行者(以下「代表者等」という。)は、原則として労働基準法(昭和22年法律第49号)上の労働者に該当しないため、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)に基づく保険給付も行われない。
 しかしながら、極めて小規模な事業所の法人の代表者等については、その事業の実態等を踏まえ、当面の措置として、下記のとおり取り扱うこととしたので、その実施に当たり遺憾のないよう取り扱われたい。
1 健康保険の給付対象とする代表者等について
 被保険者が5人未満である適用事業所に所属する法人の代表者等であって、一般の従業員と著しく異ならないような労務に従事している者については、その者の業務遂行の過程において業務に起因して生じた傷病に関しても、健康保険による保険給付の対象とすること。
2 労災保険との関係について
 法人の代表者等のうち、労働者災害補償保険法の特別加入をしている者及び労働基準法上の労働者の地位を併せ保有すると認められる者であって、これによりその者の業務遂行の過程において業務に起因して生じた傷病に関し労災保険による保険給付が行われてしかるべき者に対しては給付を行わないこと。
 このため、労働者災害補償保険法の特別加入をしている者及び法人の登記簿に代表者である旨の記載がない者の業務に起因して生じた傷病に関しては、労災保険による保険給付の請求をするよう指導すること。
3 傷病手当金について
業務遂行上の過程において業務に起因して生じた傷病については、法人の代表者等は、事業経営につき責任を負い、自らの報酬を決定すべき立場にあり、業務上の傷病について報酬の減額等を受けるべき立場にないことから、法第108条第1項の趣旨にかんがみ、傷病手当金を支給しないこと。
4 適用について
 本通知は、本日以降に発生した傷病について適用すること。
 これは、現に起きている問題に当面の措置として対応したものとしてはそれなりに評価し得ますが、そもそも健康保険法第1条の「業務外」という明文の規定に明らかに反する取扱いですし、被保険者5人未満という基準も、被用者保険としての強制適用基準をここに持ち出してくることに論理的因果関係は見当たらず、意味不明なところがあります。
 
(4) 2013年改正
 
 その後、2012年に健康保険法上の被扶養者であるシルバー人材センター会員の就業中の負傷が健康保険法の給付を受けられないことが社会問題となりました。厚生労働省は急遽健康保険と労災保険の適用関係の整理プロジェクトチームを設置して検討を行い、同年10月のとりまとめにおいて、健康保険に関しては次のように対応方針を整理しました。
○ 健康保険における業務上・外の区分を廃止し、請負の業務(シルバー人材センターの会員等)やインターンシップなど、労災保険の給付が受けられない場合には、健康保険の対象とする。
○ その上で、労使等関係者の負担に関わる変更であるため、変更の方法(法改正の要否)、遡及適用の要否、役員の業務上の負傷に対する給付の取扱いを含め、社会保障審議会医療保険部会で審議を行い、結論を得る。
 その後、社会保障審議会医療保険部会で審議され、翌2013年1月の「議論の整理」においては、「議論では、労災保険と健康保険のどちらの給付も受けられない者を救うことは必要であるなどの意見があった。その上で、労災保険の給付が受けられない場合には、健康保険の対象とすべきであり、請負などの働き方の形態にかかわらず、労働者性のある業務に起因する負傷等については、引き続き、労災保険が健康保険に優先して給付されるべきであるとした事務局の案については異論がなかった」とされる一方、「なお、労働者性のない役員の業務に起因する場合に、『被保険者が5人未満である適用事業所に所属する法人の代表者等であって、一般の従業員と著しく異ならないような労務に従事している者について、健康保険の給付の対象とすること』という現行の取扱いを継続することについても異論がなかった」とされています。これを受けて同年3月に健康保険法改正案が国会に提出され、同年5月に成立しました。
 この改正により、健康保険法の第1条が次のように改正され、「業務外」が「(労災保険法の)業務災害以外」になりました。業務上か業務外かと言われたら業務上だけれども、労災保険が面倒を見てくれる業務災害に当てはまらないものはこちらで面倒を見るというわけです。
(目的)
第一条 この法律は、労働者又はその被扶養者の業務災害(労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)第七条第一項第一号に規定する業務災害をいう。)以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。
 そして、新たに第53条の2が設けられました。
(法人の役員である被保険者又はその被扶養者に係る保険給付の特例)
第五十三条の二 被保険者又はその被扶養者が法人の役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいい、相談役、顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人に対し業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む。以下この条において同じ。)であるときは、当該被保険者又はその被扶養者のその法人の役員としての業務(被保険者の数が五人未満である適用事業所に使用される法人の役員としての業務であって厚生労働省令で定めるものを除く。)に起因する疾病、負傷又は死亡に関して保険給付は、行わない。
 これはしかし、2003年通達の扱いを維持しただけなのかも知れませんが、逆に法制的には大きな問題をもたらしたように思われます。
 
(5) 健康保険法上の労働者概念
 
 この2013年改正による第1条の文言を見て、何か違和感を感じなかったでしょうか?戦後労災保険が分離した時の第1条はこうでした。
第一条 健康保険ニ於テハ保険者ガ被保険者ノ業務外ノ事由ニ因ル疾病、負傷若ハ死亡又ハ分娩ニ関シ保険給付ヲ為シ併セテ被保険者ニ依リ生計ヲ維持スル者(以下被扶養者ト称ス)ノ疾病、負傷、死亡又ハ分娩ニ関シ保険給付ヲ為スモノトス
 ここに「労働者」という言葉は出てきません。それに相当するのは、第13条の「使用セラルル者」でした。そして、1949年通達は法人代表者等も「使用される者」として被保険者になるという言い方をしていました。
 ところが、2002年に健康保険法が文語カタカナ書きから口語ひらがな書きに改正された際、こうなったのです。
(目的)
第一条 この法律は、労働者の業務外の事由による疾病、負傷若しくは死亡又は出産及びその被扶養者の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。
 どういう理由かは分かりませんが、健康保険法の適用対象は「労働者」だと明記されたのです。ということは、1949年通達も法人代表者等を「労働者」であると解釈したものになります。もちろん以前からそうだったのですが、それが明白となったわけです。おそらくこれは、1954年改正厚生年金保険法が「労働者の老齢、廃失、死亡又は脱退について保険給付を行い、労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的と」していることに足並みをそろえたのでしょう。
 もちろん、これにより健康保険法と厚生年金保険法に共通し、労働法とは明確に異なって法人代表者を含む「労働者」概念が明確化されたわけですが、だとすると、上記改正による第53条の2はかえって説明がつきにくい代物になってしまったように思われます。
 改めて新第1条を素直に読めば、法人代表者も含む「労働者」の(労災保険法の)業務災害以外の傷病に保険給付を行うと書いてあります。労災保険が面倒を見てくれない「労働者」の業務上傷病はこれに当たりますから、当然健康保険で面倒を見てくれるはずです。それなのに、れっきとした健康保険法上の「労働者」であるはずの(従業員5人以上の)法人役員のそういう業務上傷病は面倒を見ないと規定しているのです。
 これまでは、健康保険法と労災保険法の間隙は現実には深刻な問題ではあっても、法令条文上には出てこない通達実務上のものでした。ところが2013年改正は皮肉にもその間隙を法令文言上に露呈させてしまったのです。

 

2026年1月 7日 (水)

労働局あっせんにおける解雇型雇用終了事案の最新の実態@WEB労政時報

WEB労政時報に「労働局あっせんにおける解雇型雇用終了事案の最新の実態」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers/article/90194

 去る2025年11月18日、労働政策審議会労働条件分科会に、解雇の金銭解決に関わる3件の調査結果が報告されました。いずれも労働政策研究・研修機構(JILPT)が厚生労働省からの要請を受けて実施したものです。
・資料No.2-1「労働局あっせんにおける解雇型雇用終了事案の分析」(概要)
・資料No.2-2「解雇等に関する労働者意識調査」(概要)
・資料No.2-3「諸外国における解雇の金銭救済制度に関する有識者に対するヒアリング調査」(概要)
 
 このうち、「労働局あっせんにおける解雇型雇用終了事案の分析」は私自身が調査を担当したものであり、昨2025年末に労働政策研究報告書として完成版がJILPTのホームページ上に掲載されているので、今回はその概要を紹介しておきたいと思います。
 
 今回の調査は、労働局あっせんに係る調査の3回目になります。・・・・・・

『外国人労働政策』既に書店に並び始めているようです

Chukogaikoku_20260107091301 公式には明日1月8日に書店に並ぶ予定の拙著『外国人労働政策』(中央公論新社)ですが、昨晩のジュンク堂池袋店のつぶやきでは、既に並び始めているようですね。

【新刊入荷】 『外国人労働政策』濱口桂一郎(著) 中央公論新社、入荷しました。 5階下りエスカレーター前新刊話題書のコーナー、および30番労働法の棚。

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2026年1月 4日 (日)

all4every1さんの拙著書評

Asahi2_20260104143701 all4every1さんが、拙著『管理職の戦後史』を微に入り細を穿って緻密に書評していただいております。

かつての栄光、今の罰ゲーム。濱口桂一郎『管理職の戦後史』が解明する「幸福な共犯関係」の崩壊

序論:なぜ日本の管理職は「つらい」のか ― 本書の核心的問いと本稿の視座
 かつてサラリーマン人生の「栄光」の象徴であった管理職は、なぜ今や「罰ゲーム」とまで揶揄されるようになったのか。濱口桂一郎氏の労作『管理職の戦後史』は、この問いを解き明かすため、戦後日本において管理職がいかにして「法的には労働者、現実には経営側」という矛盾を内包した存在となり、その役割と苦悩が変遷してきたかを鮮やかに描き出した。それは、日本型雇用システムの構造的矛盾が、一人のアクターの身に凝縮されてきた80年の記録である。
 本稿は、戦後史を「①原点の形成」「②日本的モデルの確立と矛盾の潜伏」「③矛盾の噴出」「④現代の三重苦」という4つの時代区分に整理し、日本の管理職をめぐる法制度と企業慣行の乖離が、いかにして生まれ、糊塗され、そして破綻に至ったかのメカニズムを深く掘り下げる。
 この分析を通じて、我々は単に管理職の「受難」を追体験するのではない。その歴史的軌跡から日本型雇用システムの構造的課題を浮き彫りにし、現代における「管理」という機能そのものの再定義に向けた重要な示唆を得ることを、本稿は目的とする。

ここから、第1部第1節・・・と、あたかも大論文の如く書評が書き進められていきます。

第1部 原点の形成:法と現実の乖離(1945年~1950年代)
第一節:労働基準法第41条の「建前」―厳格に限定された管理監督者
第二節:労使関係における「本音」―経営の尖兵への転換
第三節:原点における二重構造の確立
第2部 「日本的」管理職の確立と矛盾の潜伏(1960年代~1980年代)
第一節:「職能資格制度」という発明―ポストと処遇の分離
第二節:「部下なし管理職」の増殖と法的矛盾
第三節:なぜ矛盾は問題化しなかったのか
第3部 矛盾の噴出:成果主義と司法の鉄槌(1990年代~2000年代)
第一節:成果主義の導入と「プレイングマネージャー」化
第二節:「名ばかり管理職」訴訟の衝撃―日本マクドナルド事件
第三節:立法府の攻防―ホワイトカラー・エグゼンプションの挫折
第4部 「働き方改革」時代の新たな三重苦(2010年代~現在)
第一節:「働き方改革」の蚊帳の外で
第二節:現代管理職を苛む「三重苦」の構造
第三節:新たな政策潮流との相克―女性活躍と高度プロフェッショナル制度
総括:『管理職の戦後史』が示す歴史的含意と現代への問い
第一節:歴史的含意―日本型雇用システムの矛盾の凝縮点として
第二節:現代への政策的・実務的示唆
※所見
第三節:結論―「管理」の再定義に向けて

 濱口氏は、安易な「ジョブ型」礼賛に警鐘を鳴らしつつも、職務の明確化なくしてこの問題は解決しないことを強く示唆している。ここで著者が警告しているのは、欧米のジョブ型モデルを単純に「コピー&ペースト」しても失敗するということだ。目指すべきは、外国の制度を丸ごと輸入することではなく、その核心原理―すなわち、職務、権限、待遇の明確化―を適用し、日本の管理職を長年苦しめてきた「曖昧さ」を最終的に解消することである。
 『管理職の戦後史』が描く「受難」の歴史に終止符を打つために、我々は「管理職とは何か」という根源的な問いから逃げてはならない。それは、日本社会がこれまで自明としてきた働き方のOS、すなわち日本型雇用システムそのものの再設計に取り組むことを意味している。その覚悟が、今まさに問われているのである。

正直言って、拙著で書いたことを超える記述もいくつも見られ、むしろ拙著を出汁にして主張をされている面もありますが、いずれにしても拙著をここまで詳細に読み込んでご自分の意見を練り込みながらかくも長大な書評論文をものされていただいたことには感謝申し上げます。

510fduhbcl_20260104144201 なお、このall4every1さん、わたくしの旧著『働く女子の運命』についても同様に長大な書評論文を書かれていますね。

『働く女子の運命』――なぜ日本で女はこんなに疲れるのか

序章:本書の射程――なぜ日本の女性は「運命」を背負うのか

 濱口桂一郎による『働く女子の運命』は、単なる女性労働史の叙述に留まるものではない。本書の真価は、これまで文化論や精神論に回収されがちであった日本のジェンダー格差問題に対し、法制度的かつ経済的な分析のメスを入れ、その病根が日本社会の根幹をなす雇用システムそのものの構造的欠陥にあることを冷徹に論証した点にある。本書は、従来「女性問題」として扱われてきた論点を、実は「男性正社員の働き方の問題」であると再定義するパラダイムシフトを提示し、社会全体の設計思想に潜む病理を告発する、一級の社会科学的論考なのである。
 本書が刊行された2015年、世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数」において、日本は145カ国中101位という不名誉な地位にあった。女性の教育水準は世界最高レベルであるにもかかわらず、経済・政治分野における地位は著しく低い。この「高学歴・低地位」という深刻なパラドックスこそ、日本社会が長らく抱え込んできた構造的問題の表出に他ならない。
多くの論者は、この原因を「伝統的な性差別意識」といった文化論に求めてきた。しかし濱口は、そうした情緒的な言説を退け、真の病根は日本の企業社会を支配する独特の「日本型雇用システム」にあると喝破した。これこそが、本書の核心的な貢献である。
 本稿は、核心理論の提示から歴史的経緯の検証、法制度がもたらした意図せざる結果、そして現代における分断構造の分析を経て、最終的な処方箋に至るまで、濱口理論の射程を明らかにしていく。
 この分析を通じて、私たちは、なぜ日本の「女子」だけが、あたかも不可避であるかのような特有の“運命”を背負わされてきたのか、その構造的メカニズムを解き明かすことになるだろう。

 

第1章 核心理論:メンバーシップ型雇用という「見えざる檻」
雇用モデルの構造的対比
構造的女性排除のメカニズム:「無限定性」という本質
第2章 歴史的構造:日本型雇用の成立と女性の周縁化
産業革命期:「女工」という名の補助的労働力
戦時体制と「生活給」思想の誕生
「職能給」の確立と女性の制度的排除
高度成長期:「結婚退職制」と補助的役割の固定化
第3章 法政策の意図せざる結果:均等法が生んだ新たな分断
男女雇用機会均等法(1986年)が生んだ「コース別」という名の分断
育児・介護休業法が直面した「メンバーシップの壁」
第4章 カテゴリー別分断構造:連帯を阻む三つの階層
総合職女性:滅私奉公を強いられる「エリート」
一般職女性:役割を失いつつある「絶滅危惧種」
非正規女性(派遣・パート等):搾取されるアンダークラス
女性同士の分断という悲劇
第5章 現代的含意と政策的迷走
「活用」という功利的な視点
「二兎を追わせる政策」の過酷さ
すべての根源はメンバーシップ型雇用に繋がる
なぜ日本では「均等」が「分断」を生むのか
第6章 結論:「運命」を克服するための処方箋
問うべきは「男性の働き方」である
根本的処方箋:ジョブ型への移行と新たな標準モデル
結論:「制度的欠陥」との決別

 濱口桂一郎の『働く女子の運命』は、日本のジェンダー問題が、根拠の薄い感情論や文化論ではなく、明治以来の産業構造に根差した巨大な「制度的欠陥」であることを論理的に証明した。企業中心のメンバーシップ型の呪縛から脱却し、働く個人の人生設計に即した、公正で予見可能性の高い雇用慣行へ社会全体で転換すること。それこそが、日本の働く女性たちに長らく課せられてきた不条理な「運命」を克服する、唯一の道筋なのである。

こちらも、私の書いたことを超える表現が多々見られますが、むしろ、濱口が言わないことまでもはっきり言い切るぞという決意なのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2026年1月 1日 (木)

新年明けましておめでとうございます

Horse 昨年は労働政策研究・研修機構のプロジェクト研究としては、労働政策研究報告書『労働局あっせんにおける解雇型雇用終了事案の分析』を年末に刊行いたしました。また一般向けの本として、『管理職の戦後史‐栄光と受難の八〇年』(朝日新書)を刊行したところです。今年は『外国人労働政策-霞が関の権限争いと日本型雇用慣行が招いた混迷の三〇年史』(中央公論新社)を世に問う予定です。
 長引くロシアのウクライナ侵略やイスラエルのガザ侵攻など、世界情勢はますます混迷を深めていますが、今年こそは内外ともに良い年となり、皆様にとっても素晴らしい年となりますように心よりお祈り申し上げます
 
二〇二六年一月一日
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2025年12月31日 (水)

大晦日に『ジョブ型雇用社会とは何か』を読んでいただくということ

Fzmhfluacaaelep_20251231182201 1年で一番せわしない師走の大晦日、その日にわざわざ拙著『ジョブ型雇用社会とは何か』を読んでいただき、その感想をX(旧twitter)に書き込んでいただけるというのは、著者冥利に尽きる幸せです。ヘコマルさん、ぱぴこさんの勧めで読まれたそうですが、ピタリだったようですね。

濱口桂一郎『ジョブ型雇用社会とは何か -正社員体制の矛盾と転機』 ぱぴこさん @inucococo が激賞していたので読んでみました。 自分が日々職場で悶々として吠え散らかしていることが、あながち的外れでないことが確認できてよかったです。

ココっ!という一文を抜粋することが難しいぐらい、筆者がありとあらゆる言葉を駆使して全編キレ続けています。 が、敢えて挙げるとすれば「(メンバーシップ型では)何に熟達するかというと、我が社に熟達し、いわば我が社の専門家になるわけです」の一節でしょうか。嫌味が過ぎる。

あと、「管理職とは単なる役割であって、別に偉いわけではない」と自分は職場でよく言っているのですが、一定の年齢以上の方にはあまり理解されません。 その理由が分かった気がしました。

Asahi2_20251231182301 この最後の管理職の話を深堀して一冊にまとめた本『管理職の戦後史』もぜひどうぞ。

 

2025年12月30日 (火)

ココナツ・チャーリーさんの拙著書評

Asahi2_20251230150101 ココナツ・チャーリーさんが、noteの「2025 読書この一年」で、新書新刊の5冊のうちに拙著『管理職の戦後史』を入れて次のように評していただいています。

https://note.com/charlieinthefog/n/ndf940107e966

 『管理職の戦後史』は興味深いネタが多数。個人的に興味を引いた点を列挙しておきますと、①戦前はホワイトカラーとブルーカラーとで法的枠組みも所管省庁も違っていたこと、②戦後の生産管理闘争の時代には管理職が労働組合の運動をリードしていた時代があって、経営側が巻き返す過程で係長・職長レベルを含めた「職制」という概念につながっていったこと、③管理も監督もしないスタッフ職の「管理監督者」が認められる有名な通達の背景には、当局の「思い切り」があったこと、といったあたりです。(12月6日読了)

ちなみに他の4冊は、善教将大『民度』飯田一史『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか』小野圭司『太平洋戦争と銀行』内務省研究会編『内務省』でした。

 

 

 

エリートとノンエリートとジョブ型とメンバーシップ型

わたしが世界の労働の在り方の標準形(であるがゆえに特に名前はついてない)とまったく異なる日本独自の労働の在り方を「メンバーシップ型」と名付け、それに対する対義語としてわざわざ日本以外の国では同義反復でありリダンダントな形容でしかない「ジョブ型」という言葉をでっちあげてから20年近く経ちますが、依然として日本的なメンバーシップ型を基準としてしか物事を考えられず、それゆえ日本以外のどこでもわざわざ名前などついていないごくごく当たり前の労働の在り方である「ジョブ型」を、あたかも標準形に対する特異形であり、これまでには存在してこなかった新奇なものであり、そしてこれから目指すべき理想形である、というような、全く造語者の意図と完璧に反するイメージを脳内に溢れさせてしまい、世界中のごくごく普通ノンエリート労働者のごくごく普通の働き方でしかない「ジョブ型」を、世界中の国がこれから目指すべき理想なるべき働き方に描き出してしまう妄想が、これほどまでに日本中に瀰漫するとは、さすがに私でも全く想像していませんでした。

そうすると、当然ながらいやいや諸外国のジョブ型ってのはそんなに立派な代物じゃなくって硬直的で困ったものなんだよという、その点だけを取ればまともな批判が出てくる。いやそれは全くその通りだし、私は一番最初からそれを言ってるんだが、なぜかそういう批判をする人は、世間のジョブ型推進論者の議論ばかり耳に入れているものだから、およそ「ジョブ型」を論じている人はみんな、ジョブ型こそはこれから世界中が目指すべきあるべき働き方であるぞよと唱えているかのごとく思い込んでしまい、そしてそういう人の脳内もまた、客観的に諸国の雇用システムを価値中立的に比較するなどという退屈な学問にはあまり関心はなく、世の人々、とりわけ企業の人事担当者にいかにして新たな新商品を売りつけるかということにしか関心がないので、新商品の営業マンよろしく、「いやいやいこれからはジョブ型じゃなくって自営型であるぞよ」といった風な商売ネタにするばかりで、肝心の雇用システム論の議論を深めることには何ら役立たない人事コンサル用の「ジョブ型」という言葉ばかりがますます氾濫する一方という仕儀に相成り果てていますな。

いうまでもなく、世界標準のジョブ型社会では、下の方の労働者になればなるほどジョブディスクリプションに基づく典型的なジョブ型であるのに対して、スペシャリストやマネージャーといった上層労働者になれば、ジョブ自体が大まかで包括的になり、働き方も自律的になります。その両者の違いに注目すれば、ジョブ型社会の下層労働者が典型的なジョブ型であるのに対して、上層労働者はジョブ型の度合いが薄い、あるいは、雇用契約であっても自営業者とあまり変わらないような自律性を持って働いていると言えます。とはいえ、この雇われながら自律的に働いている労働者は、いかなる意味でも日本的なメンバーシップ型ではない。会社と契約関係で働く働き方に、下層労働者の典型的なジョブ型と上層労働者の自律的な働き方があるということ。

これに対して、日本では上層から下層までメンバーシップにどっぷり漬かってジョブがない。その地位に従って、末端のヒラから経営陣に近い上層管理職に至るまで、日本以外では下層労働者がやるような仕事から上層労働者がやるような仕事まで、少しずつその度合いを連続的に変化させつつも、切れ目なくつながっているところが日本の特色だ。それゆえ、末端労働者で比較すると、ジョブ型社会のジョブディスクリプションに縛られた下層労働者に比べると日本のヒラ社員はまことに自律的に働く。かつて40年前に日本の経済力が世界中に鳴り響いていた時に、日本に強みだと盛んに宣伝されていたのは、このヒラ社員の自律的なモウレツ労働であって、それを成り立たせていたのが「社員」という身分の安定器であり、それを私はメンバーシップ型と呼んだわけだ。

一方で、全く同じ「社員」という身分の安定器の上でヒラ社員と大して変わらないそこそこの自律性を発揮している日本の上層労働者たちを、ジョブ型社会のカウンターパートと比較すると、そんな日本のヒラ社員並みの自律性などとは隔絶したプロフェッシナルなスペシャリストやマネージャーに比べて見劣りするのは当然だろう。そして、そういうところばかりに注目する人々(私は彼らを「エリート視野狭窄症」と呼びたい)は、勘違いした「ジョブ型」をもてはやしてみたり、エリート専用の「自営型」を称揚してみたりする。それは人事コンサルの商売ネタとして大いにおやりになればいいけれども、客観的な雇用システム論を深める上ではあまり役に立たないでしょうな。

参考までに、『週刊東洋経済』編集部が、拙著『管理職の戦後史』に基づいて作ってくれたこの図が、わかりやすいと思います。

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2025年12月26日 (金)

解雇の金銭救済制度はさらにもう一遍有識者検討会で

労働政策審議会労働条件分科会の去る11月18日の議事録がアップされました。前半の労働時間法制の議論の後、解雇の金銭救済制度に係るJILPTの3つの調査結果が報告され、委員の意見が一通り開陳された後、山川分科会長から、話をもう一遍有識者検討会で引き取るという話になったようです。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_68076.html

○山川分科会長 ありがとうございます。
 ほかに御意見、御質問等ございますでしょうか。よろしいでしょうか。
 今の鈴木委員、その前の神吉委員の御発言に関しましては、資料No.2-1の8ページに、あっせんの場合と労働審判の場合と赤の裁判上の和解の3つに分かれて金額のデータが出てきて、これはそれぞれの制度の特性をある種反映したようなところがあるのかなというふうに思っております。失礼しました。13ページのほうでしたが、同じような感じになっておりますけれども、青とピンクと赤での分布状況の差異が出てきております。
 それで、様々な御意見ありがとうございました。それぞれの御意見をお伺いしておりますと、また、アンケートでも、解決水準・内容等が分からないと、そもそも判断がつかないというご感想がかなり出てきたということでございます。委員の皆様方から、さらに検討が必要な事項等についての御指摘もいただきました。そういうことを考えますと、今後の議論の素材ないし前提として、具体的な政策的検討を進めるためには、バックペイ等のお話もありましたけれども、解雇による不利益と解決金との関係、あるいは算定方法、上下限の設定可能性等について、より具体的な資料、データを用いて議論しておくことが必要ではないかというふうに感じた次第でございます。
 そうしますと、さらに有識者による議論、これも御指摘がありましたけれども、先だって行われました法技術検討会は相当に法技術的な分析に特化した性格のものでありますけれども、今日の、特に公益委員の先生方の御指摘を踏まえますと、より別個の観点から改めて、さらに有識者による議論を行うべきではないかというふうに感じた次第でございます。専門的な観点から、法学のみならず、経済学等の専門家も交えて、有識者による議論をまず行っておくということが必要かと考えた次第でございます。
 この点につきまして、御質問、御意見等ございますでしょうか。よろしいでしょうか。様々な課題が指摘されましたので、議論の素材ないし前提としての有識者による検討をさらに続けるということでございます。
 それでは、特段ございませんでしたら、皆様から様々御意見いただきましたので、それも留意しつつ、今後の対応をお考えいただきたいと事務局にお願いしたいと思いますが、事務局としては何かございますか。
 それでは、岸本基準局長、お願いします。
○労働基準局長 労働基準局長でございます。
 ただいま分科会長から御指摘いただいた点につきましては、有識者に検討いただく場を設ける方向で検討させていただきたいと思います。
○山川分科会長 それでは、御検討をお願いいたしたいと思います。よろしいでしょうか。

というわけで、この問題は再び三たび、有識者検討会で議論されることになりました。

当面は労働時間関係が大問題なので、実際に動き出すのはだいぶ先になりそうですが、なんだか永遠に回り続けるネタのようであります。

 

岩﨑仁弥『4訂版 社内諸規程作成・見直しマニュアル』

2473148001 岩﨑仁弥『4訂版 社内諸規程作成・見直しマニュアル』(日本法令)をお送りいただきました。

https://www.horei.co.jp/iec/products/view/3996.html

企業にとって必須というべき24のモデル規程と、その策定や見直しをするうえで必要となる視点やポイントを、根拠となる法律や指針等を示しながら解説します。
4訂版では、新たに「内部公益通報取扱規程」、「テレワーク勤務規程」、「テレワークにおけるセキュリティガイドライン」、「副業・兼業規程」、「定年後再雇用規程」を収録したほか、就業規則、育児・介護休業規程なども大幅に内容を見直しました。
また、“規程そのものの作り方”の解説もさらに充実したものとなり、見栄えよく・誤解のない規程を作成するためのノウハウが詰まったものとなっています。 

【序】 きちんとしたルールを整備するために
Ⅰ.規程整備が求められる社会的変化
Ⅱ.社内諸規程作成・見直しに必要な法律知識
Ⅲ.既存の社内諸規程の整備のポイント
Ⅳ.社内諸規程作成のポイント(条文構成等)
Ⅴ.社内諸規程作成のポイント(文章表現、用語の使い方)
Ⅵ.社内諸規程作成のポイント(作成手順)
Ⅶ.規程の実効性を高めるために
【1】就業規則
【2】規程管理規程
【3】文書管理規程
【4】社内諸規程及び業務文書に関する作成基準
【5】組織規程
【6】稟議規程
【7】営業秘密等管理規程
【8】個人情報取扱規程
【9】特定個人情報(マイナンバー)等取扱規程
【10】内部公益通報取扱規程
【11】自動車管理規程
【12】借上社宅管理規程
【13】労働時間管理規程
【14】時間外労働及び休日労働に関する労使協定書
【15】社内貸付規程
【16】テレワーク勤務規程
【17】テレワークにおけるセキュリティガイドライン
【18】通勤手当支給規程
【19】育児・介護休業規程
【20】副業・兼業規程
【21】定年後再雇用規程
【22】慶弔見舞金規程
【23】国内出張旅費規程
【24】国外出張旅費規程

 

 

 

 

2025年12月25日 (木)

労使コミュニケーション法制のこれまでとこれから@『労基旬報』2026年1月5日号

『労基旬報』2026年1月5日に「労使コミュニケーション法制のこれまでとこれから」を寄稿しました。

 昨年1月8日に労働基準関係法制研究会の報告書が公表され、その中のかなり大きな部分を「労使コミュニケーションの在り方について」という項目が占めていました。最も議論が白熱している労働時間法制や、別途労働基準法における「労働者」に関する研究会で突っ込んだ議論が行われている労働者性の問題と並んで、この労使コミュニケーションがこれからの労働法制の在り方を左右する大きな論点であることは間違いありません。今回は、新春号向けの拡大版のトピックとして、この問題のこれまでの経緯と現在行われている議論の概要を見ていき、これからのあるべき姿を考えてみたいと思います。
 
 戦後確立した日本の労働法制は、労働基準法等の労働保護法により労働条件の最低基準を設定し(個別的労働関係法)、最低基準を上回る労働条件については労働組合による団体交渉を通じた労働協約により設定する(集団的労使関係法)ことを予定しています。しかし、こうした伝統的労働法モデルは、労働組合組織率の低下や労働者の多様化によって十分に機能しなくなってきています。とりわけ、多くの労働組合が非正規労働者に加入資格を与えていないため、非正規労働者は使用者に対して発言する機会が乏しくなっています。
 世界的に見ると、集団的労使関係システムは、労働組合のみが労働者を代表しうるシングル・チャネルの国と、労働組合と常設的従業員代表機関の二本立てのデュアル・チャネルの国に分けられます。アメリカとスウェーデンは前者に該当し、ドイツ、オランダ、フランス、韓国等は後者に含まれます。イギリスは典型的なシングル・チャネルの国でしたが、EU指令の国内法化によって限られた場面でのみ労働組合以外のチャネルが設けられ、現在はシングル・チャネル・プラスと呼ばれています。
 この観点で見ると、日本の集団的労使関係法制(労働組合法、労働関係調整法)は純粋なシングル・チャネルで構築されています(もっとも、アメリカのシングル・チャネルが排他的交渉代表制によって単一のシングル・チャネルを確保しているのに対し、複数組合平等主義によって組合のマルチ・チャネルが保障されています。)が、個別的労働関係法における特定の場面において過半数代表に一定の役割が与えられています。より細かく見ると、労働基準法における就業規則の作成・変更時の意見聴取や時間外・休日労働協定の締結等の当事者は、過半数労働組合またはそれがない場合は過半数代表者とされており、制定経緯から見ても過半数労働組合を原則とするシングル・チャネル・プラスとみることができます。
 一方、現実の日本社会における集団的労使関係システムは、労働組合がほとんどもっぱら企業レベルで結成され、この企業別組合が労働組合法の予定する団体交渉を行うだけでなく、それよりむしろ積極的に労使協議を行ってきたことに特徴があります。デュアル・チャネルの国では、産業別労働組合が企業を超えた産業レベルで労働条件について団体交渉を行い、従業員代表機関は企業から情報を提供されて協議を行うという分担が成り立っていますが、それが主体においても内容においても重なり合っているのです。
 もっとも、シングル・チャネルのスウェーデンでも、極めて高い組織率を背景に、全国レベルから企業レベルまで労働組合が団体交渉から労使協議まで行っています。しかし、組織率が2割未満の日本では、これは多くの労働者が集団的発言チャネルから排除されていることを意味します。組合があっても非正規労働者が排除されていることが多いことは前述の通りです。上の分類でシングル・チャネルに追加された「プラス」に当たる過半数代表者についても、常設性や機関性がなく、意見集約やモニタリングの機能を果たしうるようになっていないなど、制度上の問題点が指摘されています。また、選出手続については省令に規定があるとはいえ、実態としては会社側指名など不適切な選出方法が多く見られます。
 従業員代表制については、既に数十年にわたって労働法学者の間でさまざまな議論が闘わされてきていますが、その意見を大きく分けると、まず、従業員代表制の立法化に積極的な意見の中にも、過半数組合があってもこれとは別に従業員代表制を設置するという併存的従業員代表制度論がある(西谷敏ら)一方、過半数組合がない事業所に限って従業員代表制を設置するという補完的従業員代表制度論があります(毛塚勝利ら)。前者が現在の労働組合の活動への低評価に基づいているのに対し、後者は実現可能性と労働組合への悪影響を懸念しているわけです。これに対し、従業員代表制の立法化に消極的な意見の中にも、過半数組合に一定の従業員代表機能を認めるとともに公正代表義務を課すという労働組合強化論がある(道幸哲也ら)一方、労働者の選択の自由を最重視して組合強化の介入をも否定する放任論があります(大内伸哉ら)。いずれも労働組合中心主義に立ちながら、それを法的介入によっても積極的に実現すべきと考えるか、団結権を行使しない方が悪いと突き放すかで対照的となっています。
 
 日本の労働法政策を概観すると、戦前期には内務省社会局や協調会から労働委員会法案が提起され、帝国議会に産業委員会法案が提出されたことがありますが、戦後は基本的に今日に至るまで、純粋シングル・チャネルの集団法と「プラス」に当たる過半数代表制という終戦直後に作られた仕組みを維持してきました。1998年労基法改正により(企画業務型裁量労働制の導入という限られた場面ですが)労使委員会という常設機関が登場しましたが、労使委員会の労働側委員は過半数代表または過半数代表者が指名するため、選出等の問題点はそのままです。
 この労使委員会の役割を大幅に拡大しようとする試みが、2007年労働契約法制定に向けた検討の中で行われました。2005年9月の今後の労働契約法制の在り方に関する研究会報告書は、就業規則による労働条件の不利益変更について、過半数組合または労使委員会の委員の5分の4以上の合意があれば原則として合理性が推定されるという仕組みを提起するとともに、解雇の金銭解決の要件として労働協約や労使委員会の決議を求めるなど、これを労働契約法制の中核に位置づけようとしたのです。
 ところが同年10月から労働政策審議会労働条件分科会で公労使三者構成の審議が始まると、労働側はこれに猛反発しました。労使委員会の制度設計が不十分なまま同委員会に労働条件決定・変更という重要な機能を担わせることに対して労働組合が反発するのは当然ですが、労働側は過半数組合に大きな権限を与えることにも反対しており、明確な集団的労使関係モデルの構想が欠けていたようにも見えます。
 この間、厚生労働省事務局からは労使委員会に代えて「事業所のすべての労働者を適正に代表する者(複数)」という提案が示されたりもしましたが、結局審議の中で消えてゆき、最終的に労働契約法10条において、不利益変更の合理性判断要素の例示として、4番目に「労働組合との交渉の状況」が並ぶだけに終わりました。
 次にこの問題が論じられたのは、2010年代前半期に非正規労働問題の解決の道筋として集団的労使関係システムに着目する議論が提起されたときです。2011年2月の今後のパートタイム労働対策に関する研究会報告書や2012年3月の非正規雇用のビジョンに関する懇談会報告書では、「ドイツの事業所委員会やフランスの従業員代表制度を参考に、事業主、通常の労働者及びパートタイム労働者を構成員とし、パートタイム労働者の待遇等について協議することを目的とする労使委員会を設置することが適当ではないか」と、かなり踏み込んだ提案をしていました。
 こうした流れを受けて、労働政策研究・研修機構(JILPT)は厚生労働省の要請を受けて、様々な雇用形態にある者を含む労働者全体の意見集約のための集団的労使関係法制に関する研究会を開催しました。同研究会は2013年7月に報告書を公表し、①現行の過半数代表制の枠組を維持しつつ、過半数労働組合や過半数代表者の機能の強化を図る方策、②新たな従業員代表制を整備し、法定基準の解除機能等を担わせる方策、を提示しました。しかしながら、その後の非正規労働者の均等・均衡処遇政策においては、この問題意識が顧みられることはなく、2018年の働き方改革においても、派遣労働者の労使協定方式という周辺的な制度が設けられただけで、課題はそのままになっています。
 
 今回の議論の口火を切ったのは、2023年10月の新しい時代の働き方に関する研究会報告で、「働き方の個別・多様化が進む、非正規雇用労働者が増加する、労働組合組織率が低下する等の状況を踏まえると、企業内等において、多様な働く人の声を吸い上げ、その希望を労働条件の決定に反映させるためには、現行の労働基準法制における過半数代表者や労使委員会の意義や制度の実効性を点検した上で、多様・複線的な集団的な労使コミュニケーションの在り方について検討することが必要である。その際、労働基準法制については、労使の選択を尊重し、その希望を反映できるような制度の在り方を検討する必要がある」と、従業員代表制の議論を提起しました。
 これを受けて、厚生労働省は2024年1月から労働基準関係法制研究会を開催し、幅広い議論を開始し、翌2025年1月に報告書をとりまとめました。そこでは「労使コミュニケーションの在り方」として、過半数代表者の適正選出を確保し、基盤を強化するために、①労働基準法における「過半数代表」、その下位概念である「過半数労働組合」、「過半数代表者」の定義、②過半数代表者の選出手続、③過半数代表、過半数労働組合、過半数代表者の担う役割及び使用者による情報提供や便宜供与、権利保護(不利益取扱いを受けないこと等)、④過半数代表として活動するに当たっての過半数代表者への行政機関等の相談支援、⑤過半数代表者の人数や任期の在り方等について、明確にしていくことが必要としています。同報告書は、同月直ちに労働政策審議会労働条件分科会に報告され、同分科会で審議が行われています。
 一方、2024年1月には、経団連が「労使自治を軸とした労働法制に関する提言」を公表し、労働時間規制の緩和を求めるとともに、それとの関係で集団的労使関係枠組みの見直しにも踏み込んでいました。すなわち、過半数労働組合がある企業については労働時間規制のデロゲーションの範囲を拡大する一方で、過半数労働組合がない企業を対象に労使協創協議制(選択制)を創設すべきと論じているのです。これは「過半数労働組合がない企業に限り、有期雇用等労働者も含め雇用している全ての労働者の中から民主的な手続きにより複数人の代表を選出、行政機関による認証を取得、必要十分な情報提供と定期的な協議を実施、活動に必要な範囲での便宜供与を行うなどを条件に、例えば、同一労働同一賃金法制対応のため有期雇用等労働者の労働条件を改善するなど、労働者代表者と会社代表者との間で個々の労働者を規律する契約を締結する権限を付与することが考えられる。また、より厳格な条件の下、就業規則の合理性推定や労働時間制度のデロゲーションを認めることも検討対象になりうる」というものです。
 これはなかなかにくせ球で、労働者の自発的結社である労働組合とそうでない過半数代表者を分けて、前者のみをデロゲーションに係らしめるという発想は、労働法の根本哲学からすると、労働者の意思を反映していない過半数代表者による規制緩和に否定的な労働組合に対し、自らの権限の範囲内については責任を持てよ、という話なのであり、筋論としては反対しづらいうまい球になっています。しかしこのままでは労働組合未組織の大部分の企業ではデロゲーションは不可能になり、中小企業からは苦情が出てきそうです。
 そこで経団連が投げ込んでくるのが労使協創協議制(選択制)の創設ですが、これが労働組合サイドから見て大変なくせ球である理由は、その導入要件にあります。上記「過半数労働組合がない企業に限り、有期雇用等労働者も含め雇用している全ての労働者の中から民主的な手続きにより複数人の代表を選出、行政機関による認証を取得、必要十分な情報提供と定期的な協議を実施、活動に必要な範囲での便宜供与を行う」という文言は、実は連合自身が四半世紀前から提起し続けてきている労働者代表委員会制度の考え方を明確に意識し、それに適合するように考えられたものだからです。「過半数労働組合がない企業に限り」という点が重要です。ほとんど全てが企業別組合である日本の労働組合にとって、同じレベルで従業員代表制が併存することはその存立に関わる脅威になります。それゆえ、連合の見解は、上記学者の議論の2番目の、あくまでも本来の姿である過半数組合が存在しない事業場においてのみ、補完的に労働者代表委員会を設置するという形になっているのです。
 経団連の提言は、「より厳格な条件の下、就業規則の合理性推定や労働時間制度のデロゲーションを認めることも検討対象になりうる」と慎重な言い方になっていますが、論理的筋道からすれば、現在の過半数代表者のようないい加減な仕組みではなく、連合も求めるようなちゃんとした従業員代表制であれば、過半数組合と同様にデロゲーションをやらせてもいいではないか、という結論に至るようになっていると言えましょう。
 
 労政審労働条件分科会では既に1年近く議論が行われていますが、未だ具体的な方向性は示されていません。ただ、9月30日の第203回に提示されたJILPTの調査結果は、過半数代表者の実態について興味深いデータを示しています。過半数代表者の選出方法を前回調査(2017年)と比較すると次の表のようになります。不適正な選出方法(太字)は、前回が
27.6%であったのに対して、今回は16.0%に減少しています。
  2017年 2025年
投票や挙手 30.9% 38.8%
信任 22.0% 20.6%
話合い 17.9% 21.6%
親睦会の代表者等、特定の者が自動的になる 6.2% 2.4%
使用者(事業主や会社)が指名 21.4% 13.6%
その他 0.3% 1.1%
無回答 1.3% 1.8%
 また事業所調査では、任期を決めて選出しているのは23.9%、複数代表者を選出したことがあるのは2.8%ですが、過半数代表者アンケートでは、任期付で選出されたのが50.8%、複数人が選出されたのは34.9%でした。
 各側からの意見で興味深いものを拾うと、労働側からは「選出手続に関する規定は法律に規定すべきであり、選出手続に問題があった場合には当該協定は無効になることを法律で明確に定めるべき」とか、「過半数代表者に関する不利益取扱いは許されないという趣旨を明確化した上で、法律に規定すべき」等と主張され、使用者側からは「過半数代表者に意見集約等の『義務』を課すことには賛成しかねる。仮に、『義務』となれば、意見集約が行われないと労使協定が無効になる事態が考えられ、会社側が何も関与できないまま労使協定が無効になることに強い懸念」とか、「選出方法について、投票や挙手だけでなく、信任や話合いなども含め、様々な方法を認めるべきであり、ガイドラインを設けてルールを明確化すべき」とか「意見集約、便宜供与等について画一的な基準を定めることで、企業風土等に合わせた多様な運用が阻害される懸念があり、法律では不利益取扱いの禁止等の最低限の規定に留めるべき」等と主張されています。
 今後の議論の方向はまだ見えませんが、労働時間法制についての労基法改正が行われることになれば、その際に上述の労働基準関係法制研究会報告で提起されたいくつかが労基法上に規定されることになる可能性がありそうです。ただ、連合のスタンスが、一方では過半数組合のない場合の労働者代表委員会制度を掲げながら、他方では自発的結社としての労働組合の存在意義を強調してその機能を損いかねない従業員代表制に対して極めて警戒的であるため、現行過半数代表者制度の充実強化を超えた新たな制度導入に踏み込んでいく可能性は、現段階では乏しいものといわざるを得ません。
 ちなみに、デュアル・チャネルのEU諸国では、多国籍企業を対象に1994年に欧州労使協議会指令が成立し、今日まで適用されてきていますが、昨年10月に閣僚理事会が欧州議会との間でその改正案に合意したと公表しました。その内容については改めて紹介したいと思いますが、日本はこの先当分の間、シングル・チャネル・プラスの「プラス」を若干いじる程度で進みそうです。

 

日本成長戦略会議における二つの労働時間規制緩和論

昨日、官邸で第2回日本成長戦略会議が開催されました。注目すべきは、大企業を代表する経団連と中小企業を代表する日本商工会議所から、それぞれ全くベクトルの異なる二つの労働時間規制緩和論が示されていることです。

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/kaigi/dai2/gijisidai.html

経団連の筒井会長は、従前繰り返し求めているように、裁量労働制のさらなる拡充を求めています。

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/kaigi/dai2/shiryou3-6.pdf

Kdr01Kdr02
一方、日本商工会議所の小林会頭は、働き方改革で導入された時間外休日労働の上限規制の緩和を求めています。

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/kaigi/dai2/shiryou3-3.pdf

(2) 【労働市場改革】と【家事等の負担軽減】 ~ 実態に即した柔軟な働き方、両立支援

・ 時間外労働の上限規制については、運輸、宿泊・飲食、建設等の特定業種で、特に人手不足を理由に対応困難な状況。業種毎の実情を踏まえ、実態にそぐわない上限規制の見直し、労働者の健康管理を前提としたより柔軟な働き方を可能とする法制度が必要

昨年5年の猶予が切れた運輸と建設に加え、宿泊・飲食も人手不足と上限規制の板挟みで大変なんだということのようです。

これに対して、連合の芳野会長は、次のように反論していますが、政治の勢いは規制緩和の方向に流れていきそうです。

○「働き方改革」から約 6 年が経過し、長時間労働是正にかかる労使の取り組みが進められてきたものの、依然として一般労働者の総労働時間は 2,000 時間前後で高止まりするとともに、過労死等による労災認定件数も過去最高を記録している。
こうした「働き方改革」の達成には程遠い現況を踏まえれば、時間外・休日労働に係る上限時間の段階的・計画的縮減などの方策こそが必要である。
○他方、一部では、「成長」の観点から上限規制の緩和や裁量労働制の安易な拡大などの労働時間規制の緩和を求める声があるが、これらは「働き方改革」に逆行するものと言わざるを得ない。そもそも現行の上限規制は過労死認定ラインと同水準であり、「心身の健康維持」の観点で最低限の基準である。また、労働時間法制が果たす役割は、「心身の健康維持」だけではなく、家庭・社会生活を営むための「生活時間の保障」という機能を持つ。この機能は育児や介護も含め、様々な事情を抱えながら働く者も含めた多様な労働参加を確保する観点でも極めて重要である。さらに、「従業者の選択」という点についても、労使の力関係の差が厳然と存在することを直視すべきである。
○なお、裁量労働に関しては、業務の内容・量が過大なものであった場合には、「みなし労働時間制」の下で長時間労働を助長しかねない。こうした課題の改善に向けて2024年に適正化に向けた制度改正が行われたばかりであることからすれば、今必要なことは新制度の下での適正運用であって安易な拡大や要件緩和ではない。
○今後の検討においては、上記の点を踏まえた議論が行われることを強く求める。

 

 

 

 

 

 

 

『労働局あっせんにおける解雇型雇用終了事案の分析』

Assenkaiko 本日、労働政策研究報告書No.237『労働局あっせんにおける解雇型雇用終了事案の分析』がJILPTのホームページにアップされました。

https://www.jil.go.jp/institute/reports/2025/0237.html

https://www.jil.go.jp/institute/reports/2025/documents/0237.pdf

去る11月18日に概要が労政審労働条件分科会に報告されたものの最終報告書版です。

研究の目的

解雇無効時の金銭救済制度について、令和4年4月より労働政策審議会労働条件分科会における審議が始まり、今日まで審議が続けられているところであるが、同分科会における審議に資するため、厚生労働省からの要請に基づき、労働局あっせん事案について調査を行った。

研究の方法

令和5年度内に4労働局で処理が完結したあっせん事案のうち、解雇型雇用終了事案に該当する485件を対象として、あっせん制度運営関係では申請人、あっせん終了区分、制度利用期間、解決期間及び弁護士・社会保険労務士の利用の状況について、労働者の属性では労働者の性別、年齢、雇用形態、賃金形態、勤続期間、賃金月額、賃金形態別賃金額、職種及び役職について、企業の属性では企業の業種、企業規模(従業員数)及び労働組合の有無について、事案の内容では雇用終了形態及び雇用終了事由について、請求関係では請求事項及び請求金額について、解決関係では解決内容、解決金額、月収表示の解決金額、勤続期間当たりの解決金額及び勤続期間当たりの月収表示の解決金額について、集計分析している。さらに、これら諸項目と解決金額とのクロス集計、月収表示の解決金額とのクロス集計、その他のクロス集計を行い、労働局あっせんにおける解雇型雇用終了事案の全体像を浮かび上がらせている。

主な事実発見

  1. あっせん制度運営関係

    (1) あっせん終了区分

    全485件中、合意成立は180件(37.1%)、被申請人の不参加は207件(42.7%)である。

    (2) 制度利用期間

    あっせん申請した日から終了した日までの期間は、合意成立事案180件中、2-3月未満が85件(47.2%)と最多で、1-2月未満は75件(41.7%)でこれに次ぐ。

    (3) 解決期間

    雇用終了日からあっせん終了日までの期間は、合意成立事案180件中、3-6月未満が74件(41.1%)と最多で、2-3月未満が44件(24.4%)でこれに次ぐ。

  2. 労働者の属性

    (1) 性別

    男性に係る案件が212件(45.4%)、女性に係る案件が255件(54.6%)であり、2008年度調査、2012年度調査では男性の方が多かったので逆転している。

    (2) 年齢

    年齢が判明した事案のうち、60代が35件(27.8%)、50代が29件(23.0%)と中高年齢層が多い。

    (3) 雇用形態

    直用非正規が254件(52.4%)と過半数を占め、正社員は159件(32.8%)、派遣が65件(13.4%)であり、2008年度調査、2012年度調査では正社員が過半数を超えていたので逆転している。

    (4) 賃金形態

    月給が218件(53.8%)と過半数を占め、時給は157件(38.8%)であり、日給は18件(4.4%)、年俸は8件(2.0%)に過ぎない。

    (5) 勤続期間

    1-6月未満が152件(31.4%)と3分の1近くを占め、1月未満の75件(15.5%)、6月-1年未満の69件(14.3%)と、1年未満の短期勤続者が6割強に及ぶ。2012年度よりほぼ半分に短縮している。

    (6) 賃金月額

    20-30万円未満が171件(42.2%)と最多で、10-20万円未満が77件(19.0%)とこれに次ぐ。2012年度は10-20万円未満が最多であったので上昇している。中央値は23.0万円である。

    (7) 職種

    事務従事者が115件(25.4%)と最多で、専門的・技術的職業従事者が80件(17.7%)、サービス職業従事者が79件(17.4%)、販売従事者が61件(13.5%)と続く。ブルーカラー系は2割以下である。

  3. 企業の属性

    (1) 企業の業種

    医療・福祉が74件(16.4%)、卸売・小売業が57件(12.7%)と多く、製造業は40件(8.9%)に過ぎない。

    (2) 企業規模(従業員数)

    10-50人未満が98件(22.1%)、100-300人未満が86件(19.4%)、10人未満が81件(18.2%)であり、中央値は70人である。

    (3) 労働組合の有無

    労働組合の存在する企業が59件(13.1%)、存在しない企業が390件(86.9%)である。

  4. 事案の内容

    (1) 雇用終了形態

    雇用終了の法形式的な分類で見ると、普通解雇が249件(51.3%)と過半数を占め、雇止めが163件(33.6%)と約3分の1で、整理解雇は25件(5.2%)、懲戒解雇は20件(4.1%)と少ない。

    (2) 雇用終了事由

    使用者が雇用終了するに至った理由を見ると、労働者の行為が263件(54.2%)と過半数を占め、労働者の能力・属性は122件(25.2%)であり、経営上の理由は66件(13.6%)に過ぎない。

  5. 請求事項と請求金額

    (1) 請求事項

    金銭のみを請求するものが401件(83.0%)で最も多く、次いで金銭又は復職を求めるものが58件(12.0%)で、復職のみ請求は12件(2.5%)、金銭及び復職を請求は11件(2.3%)と少ない。

    (2) 請求金額

    50-100万円未満が124件(27.3%)、50万円未満が109件(24.0%)、100-200万円未満が98件(21.5%)であり、中央値は90.3万円である。

  6. 解決内容と解決金額

    (1) 解決内容

    合意成立事案180件中、復職は2件(1.1%)に過ぎず、復職せずが178件(98.9%)と大部分である。

    (2) 解決金額

    10-20万円未満が40件(22.3%)、20-30万円未満が32件(17.9%)、30-40万円未満と50-100万円未満がいずれも24件(13.4%)であり、中央値は23.5万円である。

    図表1 労働局あっせんにおける解決金額

     

    件数

    5万円未満

    14

    7.8

    5-10万円未満

    16

    8.9

    10-20万円未満

    40

    22.3

    20-30万円未満

    32

    17.9

    30-40万円未満

    24

    13.4

    40-50万円未満

    11

    6.1

    50-100万円未満

    24

    13.4

    100-200万円未満

    10

    5.6

    200-300万円未満

    4

    2.2

    300-500万円未満

    2

    1.1

    500-1,000万円未満

    2

    1.1

    1,000-2,000万円未満

    -

    -

    2,000-3,000万円未満

    -

    -

    3,000-5,000万円未満

    -

    -

    5,000万円以上

    -

    -

    合計

    179

    100.0

    中央値(万円)

    23.5

    第1四分位(万円)

    10.0

    第3四分位(万円)

    45.7

    (3) 月収表示の解決金額

    解決金額を賃金月額で除した月収表示の解決金額を見ると、1月分未満が66件(38.8%)、1-2月分未満が54件(31.8%)で、この両者で7割を超える。中央値は1.03月分である。

    図表2 労働局あっせんにおける月収表示の解決金額

     

    件数

    1月分未満

    66

    38.8

    1-2月分未満

    54

    31.8

    2-3月分未満

    22

    12.9

    3-4月分未満

    8

    4.7

    4-5月分未満

    5

    2.9

    5-6月分未満

    3

    1.8

    6-9月分未満

    9

    5.3

    9-12月分未満

    -

    -

    12-18月分未満

    2

    1.2

    18-24月分未満

    -

    -

    24-36月分未満

    -

    -

    36月分以上

    1

    0.6

    合計

    170

    100.0

    中央値(月分)

    1.03

    第1四分位(月分)

    0.57

    第3四分位(月分)

    2.14

政策的インプリケーション

労働政策審議会労働条件分科会における審議の素材となる。

政策への貢献

第205回労働政策審議会労働条件分科会(令和7年11月18日)において厚生労働省事務局より概要を報告。

 

2025年12月24日 (水)

『外国人労働政策 霞が関の権限争いと日本型雇用慣行が招いた混迷の30年史』

本屋さんに並ぶのは来年早々の1月8日の予定ですが、拙著『外国人労働政策 霞が関の権限争いと日本型雇用慣行が招いた混迷の30年史』(中央公論新社)の見本がわたくしの手元に届きました。

Gaikokujin

https://www.chuko.co.jp/tanko/2026/01/005983.html

日本は外国人労働者に極めて差別的、技能実習制度は「現代版奴隷制度」など、国内外から批判されてきた日本の外国人労働政策。80年代には、「開国論」対「鎖国論」が論壇を賑わせたが、日本の制度が歪んだのは、排外主義的な政治家や狭量な国民のせいとは言い難い。本当の原因は、霞が関の権限争いと、日本型雇用慣行の特殊性にあった。労働政策研究の第一人者で、元労働省職員でもあった濱口桂一郎が、驚きの史実を解き明かす。

今までこの手の一般向けの本はだいたい新書の形で出しておりましたが、今回の本はハードカバーの単行本です。定価は2,400円+税とやや高めですが、これまでの外国人労働者モノ、移民モノとはかなり異なる角度からの史的分析になっているのではないかと思っております。この副題を見て、「どういう意味なんだ!?」と思われた方は、是非本屋さんの店頭でパラパラとめくっていただければと思います。

はじめに
序章 混迷の三〇年の原点
一 「開国論」対「鎖国論」の虚妄
二 外国人労働問題をめぐる労使の非対称性
三 日本の外国人労働政策のねじれた構造
 
【第一部】 ブルーカラー外国人労働政策――混迷の源泉
 
第一章 労働省と法務省の戦い
一 法務省は正面からの受入れを検討していた
二 労働省の労働ビザ構想
三 雇用許可制という特殊日本型モデルの提起
四 法務省の猛反発
五 在日韓国民団の批判と労働省の撤退
 
第二章 日本の雇用政策の紆余曲折
一 近代的労働市場を目指していた六〇年代
二 石油危機と企業主義の時代
 
第三章 日本の入管政策の紆余曲折
一 戦前の外国人政策
二 戦後の出入国管理法制と在日韓国・朝鮮人問題
 
第四章 「研修」というサイドドア政策の形成
一 法務省の完全勝利
二 「研修」は非就労活動という苦しい建前
三 労働者性を否定された「実務研修」の拡大
四 日系南米人という「血の論理」
五 ブローカーが暗躍する素地が生まれる
 
第五章 日本の教育訓練政策の紆余曲折
一 「見よう見まね」の教育訓練の否定
二 企業内訓練万能主義の時代
 
第六章 研修・技能実習制度の創設
一 労働者性を否定する「研修」と労働者性を前提とする「技能実習」
二 「研修」をめぐる省庁間のせめぎ合い
三 「研修」と「実務経験活動」の綱引き
四 研修・技能実習制度の創設
五 技能検定の紆余曲折
六 研修・技能実習制度の展開と矛盾の露呈
 
【第二部】 ブルーカラー外国人労働政策――混迷解消への長い道
 
第一章 「技能実習」の確立と技能実習法
一 規制改革関係会議による問題の指摘
二 ようやくできた「技能実習」在留資格
三 技能実習法の制定
 
第二章 フロントドア政策の再提起と部分的実現
一 正面から受け入れようとする機運
二 規制改革関係会議の正論
三 政治家サイドからの提起
四 ミニ版フロントドア創設の試み
 
第三章 「特定技能」というフロントドア
一 「単純労働者」とは何者か
二 官邸主導による大転換
三 特定技能一号と二号
四 対象分野の拡大と外国人労働者の生活支援
 
第四章 「国際貢献」という美辞麗句から「育成就労」へ
一 「国際貢献」という建前と実態の乖離
二 「技能実習」改め「育成就労」
三 定住者の拡大
 
【第三部】 ホワイトカラー外国人労働政策
第一章 増え続ける「技人国」
一 「技人国」はジョブ型の在留資格
二 教育と職業の密接な無関係
三 「技人国」在留資格の変遷
四 ホワイトカラー外国人にも日本的雑巾がけを求める
 
第二章 「高度専門職」の虚実
一 高度人材を求める声
二 高度人材ポイント制の創設
三 「高度専門職」在留資格の創設
四 日本に高度専門職なんているのか?
 
第三章 留学生のアルバイト就労
一 留学生のアルバイト就労の解禁
二 留学生・就学生のアルバイト拡大
三 「留学生」への統一
四 日本型雇用社会における学生アルバイト
 
終章 混迷の三〇年の教訓と将来像
 
あとがき

 

 

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